JP3739114B2 - 蓄熱材及び蓄熱材分散液 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本願は、物質を冷やしたり、暖めたりするために用いられる蓄熱材、こういった蓄熱材を水等の分散媒中に分散させてなる蓄熱材分散液に関するものである。
このような蓄熱材は容器等に封入して保温剤として利用できる。また、こういった蓄熱材を分散媒中に分散保持した蓄熱材分散液も、容器等に封入して保温剤として利用できるとともに、空調システム用の冷熱搬送媒体等としても利用できる。
【0002】
【従来の技術】
従来から、潜熱を利用した蓄熱材として、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸、エステル化合物等の有機化合物を利用する技術が知られている。
また、これら有機化合物蓄熱材の熱交換率を高めるため、上記蓄熱材を微小カプセルに封入し、熱伝導性の良い液体中に入れて用いる方法や、乳化剤を用い有機化合物蓄熱材と水の水中油滴型エマルジョンを調整して使用する方法が提案されている。この様にすると、有機化合物蓄熱材の固化時においても、熱搬送媒体となる蓄熱材分散液の流動性を保持させて蓄熱材の潜熱を負荷側に効率よく供給することができる(例えば、特開昭56−110869、特開昭55−40524、特開昭63−217196、特開平5−163486、特開平6−9950)。
ここで、後者のエマルジョン形態のものは、以下の実施例に示すように、カプセルに封入される場合に比べ、調整が非常に簡単であり、コストの大幅な増大もない等のメリットを有しているため、提案されている使用応用例も多い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
相変化を伴う有機化合物を内包する水中油滴型エマルジョンを調整し、蓄熱操作を試みたところ、次のような問題が生じることが判った。
つまり、相変化を伴う有機化合物を内包するエマルジョンは、加熱/冷却を施すことにより、吸熱/放熱をそれぞれ繰り返されて各用途に使用されるが、その際、エマルジョンに内包された相変化を伴う有機化合物の融点と凝固点が異なる現象、即ち、著しい過冷却現象が生じることが判明した。このような過冷却現象が発生すると、例えば、このエマルジョンを冷熱搬送媒体として使用する場合に、分散物(本願でいう蓄熱材)の凝固が所定の温度域で完全に起こらず、相転移に多大なエネルギーを必要とし、例えば冷房装置の動作効率が低下しやすい等の問題を発生することとなる。
一方、蓄熱材を水等の分散媒内に分散する手法として、マイクロカプセルを使用することが知られている。この形態の技術にあっては、特開平5−237368に示されるように、マイクロカプセル内に内包される化合物ととともに、高融点化合物(カルボン酸類、アルコール類、アマイド類)をカプセル内に内包する。しかしながら、この技術においても、明細書に記載の表1に示すように過冷却現象が発生している。この原因は、マイクロカプセル内に内包される化合物と、高融点化合物との間で、その融点差が比較的大きく、物質的に直接的な繋がりが無いために、なお過冷却現象が解消し難いためと推測される。
従って、本発明の目的は、相変化を伴う有機化合物を内包した蓄熱材或いは蓄熱材分散液において、過冷却現象を防止し、加熱と冷却を施した場合の融点と凝固点の差が極めて小さい蓄熱材、あるいはこれを含む蓄熱材分散液を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するための本発明による請求項1に係わる相変化を伴う有機化合物を含んでなる蓄熱材の第1の特徴構成は、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上からなる核発生剤を前記有機化合物とともに備えたことにある。
さらに、前記第1の特徴構成を備えた蓄熱材において、前記有機化合物が脂肪族炭化水素であることが好ましい。これが、請求項2に係わる本願発明の第2の特徴構成である。
さらに、上記第1もしくは第2の特徴構成を備えたものにおいて、前記有機化合物に対する前記核発生剤の割合が、30〜0.5重量%であることが好ましい。これが、請求項3に係わる本願発明の第3の特徴構成である。
さらに上記の目的を達成するための請求項4に係わる蓄熱材分散液の特徴構成は、これが、相変化を伴う有機化合物と、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上からなる核発生剤とを、共に、乳化剤により分散媒中にエマルジョンとして分散してなることにある。
さらに、上記の目的を達成するための請求項5に係わる蓄熱材分散液の特徴構成は、相変化を伴う有機化合物と、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上からなる核発生剤とを、共に、マイクロカプセル中に内包し、前記マイクロカプセルを分散媒中に分散してなることにある。
〔作用〕
一般的に、相変化材の過冷却現象を防止するために、核発生剤の添加が行われる。最も、効果のある核発生剤は言うまでもなく相変化材そのものの結晶である。しかし、例えば、エマルジョン形態のものでは相変化材は完全に融解するので、相変化材の一部をいかなる温度状態においても結晶のまま保持させなければ過冷却現象は防止できず、そのような技術は不可能と考えられる。
そのため、本願においては、相変化材と結晶構造の良く似た、他の核発生剤を添加する。このとき、核発生剤は相変化材より高い融点を有し、固化が早い段階から起こることが望ましい。
本願第1の特徴構成の蓄熱材においては、相変化材が有機化合物で、この相変化材のアミン誘導体またはアルコール誘導体の一種以上が、所謂、核発生剤となっている。ここで、核発生剤は、相変化材より早い段階で固化を始めることとなるが、この核発生剤は相変化材である有機化合物と近い結晶構造を有しているため、核発生剤の結晶が形成された段階で、これを核として相変化材の相変化を促進する。即ち、誘導体であるため、基本的な結晶構造は非常に近似しており、結果的に、これを核として相変化材の固化が非常にスムーズに進行する。結果、後述する表1に示すように、過冷却現象を効果的に防止できる。
さらに本願第2の特徴構成の蓄熱材にあっては、冷熱搬送媒体としての実用性に富む脂肪族炭化水素を主な蓄熱材として使用することにより、比較的入手しやすい材料を使用して、比較的高い蓄熱効果を発揮しながら、融点と凝固点の差を実質上無いに等しい1℃以下まで低下することができる。
さらに、本願第3の特徴構成の蓄熱材にあっては、相変化材に対する核発生剤の量を適切に選択することにより、その過冷却現象を抑えることができる。
ここで、核発生剤の添加量が30重量%より多いと過冷却防止効果はあるが、逆に単位質量あたりの蓄熱材の量が少なくなり、その結果蓄熱量が減少してしまうため、蓄熱効率が低下してしまい、核発生剤の添加量が0.5重量%より少ないと、過冷却防止効果を期待し難い。
請求項4に係わる蓄熱材分散液にあっては、上記のような相変化材と核発生剤とを組み合わせたものを、分散媒中に分散させることとなるが、この分散の手法として、乳化剤によるエマルジョン手法を採用することにより、調整が非常に簡単であり、コストの増大なく、良好な特性の蓄熱材分散液を得ることができる。
ここで、この蓄熱材分散液にあっても、先に説明した過冷却の防止効果を、相変化材と核発生剤との本願独特の組み合わせにより得られる。
請求項5に係わる蓄熱材分散液にあっては、上記のような相変化材と核発生剤とを組み合わせたものを、分散媒中に分散させることとなるが、この分散の手法として、マイクロカプセル手法を採用することにより、耐熱性や外部からの圧力や応力等に対して耐久性の高い蓄熱材分散液を得ることができる。
ここで、この蓄熱材分散液にあっても、先に説明した過冷却の防止効果を、相変化材と核発生剤との本願独特の組み合わせにより得られる。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下に、発明の実施の形態を、蓄熱材、この蓄熱材を分散媒中の分散して構成される蓄熱材分散液の順に説明する。
1 蓄熱材
蓄熱材は、相変化を起こす相変化材としての有機化合物と、核発生剤としての前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上とを共に含有してなっている。前記有機化合物に対する前記核発生剤の割合は、30〜0.5重量%(さらに好ましくは1〜0.5重量%)に設定されている。
2 エマルジョン形態の蓄熱材分散液
蓄熱材分散液は、先に説明した蓄熱材を分散媒中に分散させて得られるものであり、相変化を伴う有機化合物と、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上からなる核発生剤とを、共に、乳化剤により分散媒中にエマルジョンとして分散して構成される。前記有機化合物に対する前記核発生剤の割合は、30〜0.5重量%(さらに好ましくは1〜0.5重量%)、に設定されている。さらに、分散媒に対する前記有機化合物の割合は、50〜5重量%(さらに好ましくは40〜10重量%)に設定されている。ここで、蓄熱材分散液中の有機化合物の割合は高い程潜熱量が増し好ましいが、良好な流動性を維持するには、上記の割合が好ましい。
この割合が50重量%より高いと、流動性良く長期間安定した分散した状態が得られない。一方5重量%以下であると、蓄熱効果の乏しいものとなる。
3 マイクロカプセル形態の蓄熱材分散液
蓄熱材分散液は、先に説明した蓄熱材を分散媒中に分散させて得られるものであり、相変化を伴う有機化合物と、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上からなる核発生剤とを、共に、マイクロカプセル中に内包し、前記マイクロカプセルを分散媒中に分散して構成される。ここで、前記有機化合物は脂肪族炭化水素である。前記有機化合物に対する前記核発生剤の割合は、30〜0.5重量%(さらに好ましくは1〜0.5重量%)に設定されている。分散媒に対する前記有機化合物の割合は、50〜5重量%(さらに好ましくは40〜10重量%)に設定されている。ここで、この割合が50重量%より高いと、流動性良く長期間安定した分散した状態が得られない。一方重量5%以下であると、蓄熱効果の乏しいものとなる。
【0006】
以上説明したように、本願においては、相変化材と核発生剤とが一定の関係とされ、さらにはこれらを含む蓄熱材が分散媒中に分散されて構成されるが、具体的には以下のような物質で構成されることとなる。
イ 相変化材としては、融点あるいは凝固点を有する有機化合物であれば使用可能であるが、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸、エステル化合物等が好ましい。さらに、ペンタデカン、テトラデカン、エイコサン、ドコサン等の炭素数が10以上の直鎖の脂肪族炭化水素化合物が好ましい有機化合物となる。
これらの炭素数が10以上の脂肪族炭化水素化合物は、炭素数の増加とともに、融点が上昇するため、目的に応じた融点を有する化合物を選択したり、また2種以上を混合することも可能である。
ロ 相変化材にペンタデカンを使用する場合にはペンタデシルアミンまたはペンタデシルアルコールの一種以上を核発生剤として添加する。
ハ 相変化材にテトラデカンを使用する場合にはテトラデシルアミンまたはテトラデシルアルコールの一種以上を核発生剤として添加する。
ニ 分散媒としては、蓄熱材分散液が使用される温度域が0℃以上ならば水および防腐剤や防錆材等が添加された水が採用され、0℃以下の場合はエチレングリコール水溶液、シリコン液やアルコール水溶液などの不凍液が採用される。
ホ 乳化剤としては、ポリオキシエチレナルキルアルコール系界面活性剤であるエマルゲン709(K社製乳化剤)等が好ましいが、任意のエマルジョン化手法が使用できる。
へ マイクロカプセル構成材としては、メタクリル酸メチルと重合開始剤との組み合わせを使用することが好ましいが、この場合もまた、任意のマイクロカプセル化手法を使用できる。
マイクロカプセル化手法としては、コアセルベーション法、界面重合法、in−situ法、酵母菌を用いた手法等を用いることが可能である。
【0007】
【実施例】
本願の実施例として、以下に示す実施例1〜5に示すもの、比較例として比較例1〜3を調製した。ここで、実施例1〜4はエマルジョン形態のものであり、実施例5、比較例3はマイクロカプセル形態のものである。
【0008】
以下、各例の詳細について説明する。
1 エマルジョン形態のもの
〔実施例1〕
ペンタデカン40gにペンタデシルアミンを0.4g添加する(ペンタデシルアミン/ペンタデカン=1重量%)これを1重量%のエマルゲン709(K社製乳化剤)水溶液160ccに加え、バイオミキサーを用い、8000rpmで5分間攪拌することにより、蓄熱材エマルジョンを得た。
〔実施例2〕
ペンタデカン40gにペンタデシルアルコールを0.4g添加する(ペンタデシルアミン/ペンタデカン=1重量%)。これを1重量%のエマルゲン709(K社製乳化剤)水溶液160ccに加え、バイオミキサーを用い、8000rpmで5分間攪拌することにより、蓄熱材エマルジョンを得た。
〔実施例
テトラデカン40gにテトラデシルアミンを0.4g添加する(テトラデシルアミン/テトラデカン=1重量%)。これを1重量%のエマルゲン709(K社製乳化剤)水溶液160ccに加え、バイオミキサーを用い、8000rpmで5分間攪拌することにより、蓄熱材エマルジョンを得た。
〔比較例1〕
実施例1でペンタデシルアミンを添加せず、ペンタデカンのみで同様に蓄熱材エマルジョンを調製した。
〔比較例2〕
実施例4でテトラデシルアミンを添加せず、テトラデカンのみで同様に蓄熱材エマルジョンを調製した。
表1に上記実施例1〜4および比較例1、2で得られたエマルジョンの過冷却の程度を示差走査熱量計(S製作所製、DSC−50)による測定で得られた融点と凝固点の差(ΔT)で示す。ΔTの値が小さいほど過冷却の程度も小さい。
【0009】
【表1】
相変化材 核発生剤 ΔT(℃)
実施例1 ペンタデカン ペンタデシルアミン 0.5
実施例2 ペンタデカン ペンタデシルアルコール 0.8
実施例 テトラデカン テトラデシルアミン 0.8
比較例1 ペンタデカン なし 13.2
比較例2 テトラデカン なし 10.5
【0010】
結果、温度差がほぼ0℃となり、過冷却現象をほぼ完全に抑制する効果が確認できた。
【0011】
2 マイクロカプセル形態のもの
〔実施例5〕
ペンタデカン20gにペンタデシルアミンを0.2g加え、40℃で10分間過熱してペンタデシルアミンをペンタデカンに溶解させる。これにメタクリル酸メチル4gと重合開始剤であるV65(和光純薬社製)を0.12g添加する。この混合液を1重量%ポリビリニアルコル(重合度500)水溶液150ミリリットルの入ったビーカーに加え、ホモジナイザーで8000rpm、5分間攪拌する。その後、70℃のオイルバス中で5時間、200rpmの速度で磁気攪拌させ、メタクリル酸メチルを重合させる。こうしてペンタデシルアミン含有ペンタデカンがポリメタクリル酸メチルの膜で覆われたマイクロカプセル(粒径3〜15μm)が調製された。これを示差走査熱量計の測定に呈したところ、ΔT=0.5℃であった。
〔比較例3〕
ペンタデカンにペンタデシルアミンを加えない以外は同じ条件でペンタデカン包含ポリメタクリル酸メチル膜マイクロカプセルを調製した。これを示差走査熱量計の測定に呈したところΔT=12.2℃であった。
結果、マイクロカプセル形態のものにおいても、同様に、過冷却現象の発生を良好に抑えることができた。
【0012】
【発明の効果】
以上説明したように、相変化を伴う有機化合物とともに、その相変化を伴う有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体を添加することにより、過冷却現象を防止し、加熱と冷却を施した場合の融点と凝固点の差が極めて小さい蓄熱材、蓄熱材分散液を得ることができた。

Claims (5)

  1. 相変化を伴う有機化合物を含んでなる蓄熱材であって、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上の核発生剤を前記有機化合物とともに含んでなる蓄熱材。
  2. 前記有機化合物が脂肪族炭化水素である請求項1記載の蓄熱材。
  3. 前記有機化合物に対する前記核発生剤の割合が、30〜0.5重量%である請求項1又は請求項2記載の蓄熱材。
  4. 相変化を伴う有機化合物と、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上からなる核発生剤とを、共に、乳化剤により分散媒中にエマルジョンとして分散してなる蓄熱材分散液。
  5. 相変化を伴う有機化合物と、前記有機化合物のアミン誘導体またはアルコール誘導体から選択される一種以上からなる核発生剤とを、共に、マイクロカプセル中に内包し、前記マイクロカプセルを分散媒中に分散してなる蓄熱材分散液。
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