JP3738645B2 - 電気めっき密着性および延性に優れた高張力冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力鋼板およびその製造方法に関する。具体的には、本発明は、例えば自動車車体用鋼板のように、プレス加工や曲げ加工等の成形加工を行われるとともに防錆性も必要とされる用途に供される、電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上を目的として、車体用鋼板の薄肉化による車体軽量化が強く要請されている。この一方で、自動車の衝突安全性を向上するために関係法令による車体強度の規制が強化される傾向にもある。このため、これまでの車体用鋼板を単純に薄肉化することによって車体軽量化を図ることはできない。そこで、近年では、車体用鋼板に高強度鋼板を多用することによって衝突安全性の向上と車体軽量化とがともに図られている。
【0003】
しかし、一般的に、高強度鋼板を車体用鋼板に適用すると、高強度化により成形加工性が低下し、例えばプレス成形の際には割れ等の成形不良が発生し易くなる。
【0004】
この問題を解決するために、特開昭61−157625号公報には、C:0.12〜0.55%(本明細書においては特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味するものとする。)、Si:0.4 〜1.8 %、Mn:0.2 〜2.5 %、必要に応じて適量のP、Ni、Cu、Cr、Ti、Nb、VおよびMoの1種または2種以上を含有する鋼板を、フェライトおよびオーステナイトの2相域に加熱した後、冷却途中に500 〜350 ℃の温度域で30秒間〜30分間保持することにより、フェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトを有する混合組織からなる高延性高張力鋼板を製造する発明が、また、特開昭60−43464 号公報には、C:0.30〜0.55%、Si:0.7 〜2.0 %、Mn:0.5 〜2.0 %を含有する熱延鋼板または冷延鋼板を、オーステナイト単相域に加熱した後、650 〜750 ℃の温度域に4〜15秒間保持した後、冷却過程で450 〜650 ℃の温度域に合計10〜50秒間保持することにより、マルテンサイトあるいはベイナイト中に体積率で10%以上のフェライトと残留オーステナイトとを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板を製造する発明が、それぞれ提案されている。
【0005】
しかし、これらの提案により得られる高延性高張力鋼板には、加工による変態誘起塑性が変形初期に発生してしまうため、局部延性すなわち穴拡げ性が劣化することや、590 N/mm2 級の高強度を得られないことといった問題がある。また、このような高強度の高延性高張力鋼板は、セメンタイトの析出を抑制して強度低下を抑制するためにSiを比較的多量に添加される。このため、この鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを行うことは難しく、合金化溶融亜鉛めっきによりその防錆性を向上することはできない。
【0006】
そこで、合金化溶融亜鉛めっき性に優れた高強度の高延性高張力鋼板を提供するために、特開平5−70886 号公報、同5−195056号公報さらに同6−145788号公報には、Al添加型残留オーステナイトまたは低Si型残留オーステナイト鋼を製造する発明が提案されている。これらの発明は、穴拡げ性等の局部延性が優れ、残留オーステナイトを含むとともに590N/mm2級の高強度の高張力鋼板を得るためには、確かに有効である。しかしながら、この高張力鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを行うと、合金化のための加熱時に残留オーステナイトが分解し、延性が低下してしまう。
【0007】
また、特開平5−247586号公報には、C:0.05〜0.30%、Si:0.5 %以下、Mn:0.8 〜3.0 %、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.5 〜1.5 %、N:0.008 %以下、残部Feおよび不可避的不純物からなるめっき密着性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。この高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板は、略述すれば、鋼板表層に酸化物として濃化し溶融亜鉛との濡れ性を劣化させるSiの含有量の上限を0.5 %と規制することにより、溶融亜鉛めっきの密着性を向上させる。しかしながら、Si含有量の上限を規制するだけでは溶融亜鉛めっきの密着性を充分に確保することができず、溶融めっきの濡れ性不足により不めっきが生じるおそれがある。このため、この発明によって、合金化溶融亜鉛めっき性に優れた高強度の高延性高張力鋼板を確実に製造することはできない。
【0008】
また、特開平11−131145号公報には、C:0.05〜0.30%、Si:2.0 %以下、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.01%、Si+Al:1.0 〜3.0 %を満足する鋼板に、所定の条件で、連続焼鈍、冷却、溶融めっきおよび合金化処理を行うことにより、高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板を製造する発明が提案されている。この発明は、略述すれば、(Si+Al)量を1.0 〜3.0 %と規制することにより、残留オーステナイトを体積率で3%以上含むことによって高強度と高延性とを兼ね備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。しかし、この発明によっても溶融亜鉛めっきの密着性を充分に確保することができず、溶融めっきの濡れ性不足によって不めっきや合金化処理不足さらには残留オーステナイトの消失による延性劣化のおそれを解消できない。
【0009】
このように、これまで、残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板に溶融めっきもしくは合金化溶融めっきを安定して行うことは、めっき密着性の不足のため、実用化されていない。
【0010】
一方、溶融めっきおよび合金化溶融めっき以外に鋼板の防錆性を向上させる手段として、電気めっきがある。電気めっきでは、溶融めっきの場合に要求される濡れ性や合金化処理がいずれも不要であり、比較的容易に防錆性を確保することができる。しかしながら、前述した特開平5−247586号公報や同11−131145号公報等により提案された組成を有する高Si、高Al含有高延性高張力鋼板に通常の条件で電気めっきを行うと、電気めっきは溶融めっきとは異なり、母材である鋼板を連続焼鈍後に室温まで一旦冷却する必要があるために鋼板表面に多量の酸化物が形成され、連続焼鈍後の鋼板表面に酸化物が生成し易くなり、めっき密着性が劣化してしまう。
【0011】
そこで、特開平5−230689号公報にはSi、Al、Ti、Crのうち1種または2種以上を0.8 %以上含有する冷延鋼板を焼鈍した後に、めっき前処理として表面研磨を行い、引き続き10秒間以下の酸洗処理を行い、次いで電気めっきを行うことにより、めっき密着性の優れた電気めっき鋼板を製造する発明が、また、特開平7−126888号公報には、0.4 %以上のSiを含有する冷延鋼板を焼鈍した後に、めっき前処理として、濃度が20%以上の硫酸を含有する酸洗液、濃度が13%以上の塩酸を含有する酸洗液、または、濃度が3%以上のフッ酸を含有する酸洗液あるいはこれらの混酸液を用いて、3〜15秒間以下の酸洗を行い、次いで電気めっきを行う発明が、それぞれ提案されている。これらの発明は、いずれも、連続焼鈍後の鋼板表面に生成した酸化物を、表面研磨や酸洗によって除去することにより、電気めっきのめっき密着性を確保しようというものである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−230689号公報により提案された発明を実施するには、鋼板全面に表面研磨を行う必要が生じ、表面研磨のための特殊な設備を追加する必要がある。また、特開平7−126888号公報により提案された発明を実施するには、既存の酸洗工程で通常よりも高濃度の酸洗液を用いて酸洗を行う必要があるが、この酸洗液はこの酸洗工程により酸洗を行われる他の鋼板に対しては過剰な濃度であることから過酸洗となるため、酸洗液の酸濃度調整や入替えを行う必要が生じ、酸洗コストが上昇する。特に、処理する鋼板が高強度鋼板である場合、良好な密着性を得ることができる酸洗電解量は非常に大きくなり、長大な酸洗設備が必要となる。このため、既存の酸洗設備では対応できない。
【0013】
さらに、これらの提案にかかる鋼板の強度は、それぞれの明細書中には明記されていないものの、鋼板の組成に基づくと441N/mm2以下であると考えられる。本発明者らの検討によると、これらの公報により提案された発明は、441N/mm2以下の低強度鋼板のめっき密着性の改善には確かに有効であるものの、例えば490N/mm2を超える高強度鋼板では、低強度鋼板に比較して、プレス成形時にダイ肩部において鋼板表面に相当高い面圧が作用するためにめっき剥離が発生し易くなり、めっき密着性が不足する。このため、490N/mm2を超える高強度鋼板の場合には、これらの提案にかかる発明により得られる電気めっき鋼板のめっき密着性よりもいっそう優れためっき密着性が必要である。
【0014】
すなわち、490N/mm2を超える高強度を有するとともにSi、Alを多量に含む残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板に、高い電気めっき密着性を与えることができる発明は、これまで存在しなかった。
【0015】
このように、従来の技術では、強度および延性のバランスが優れた残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板に防錆性を付与しようとしても、合金化溶融亜鉛めっきを行うと残留オーステナイトの消失に起因して延性が低下し、一方、電気めっきを行うとめっき密着性の劣化に起因して例えばプレス成形時にめっき層が剥離し、いずれの場合にも、本来有すべき防錆性が得られなかった。
【0016】
ここに、本発明は、例えば自動車車体用鋼板のように、プレス加工や曲げ加工等の成形加工を行われるとともに防錆性も必要とされる用途に供される、電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力鋼板およびその製造方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下に列記する新規な知見(i) 〜知見(iii) を得て、本発明を完成した。
(i) SiやAlを多量に添加した残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板の表層における元素濃化状況を調査した結果、表層下5nmの深さにおける酸素濃度O(sur) は、同じ深さにおける鉄濃度Fe(sur) に比較して非常に高いことがわかった。すなわち、表層における鉄濃度Fe(sur) /酸素濃度O(sur) の値は、通常の軟鋼板では 3.3程度であるのに対し、残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板では0.125 〜0.25程度であり、残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板の表層には、軟鋼板に比較して、格段に多量の酸化物が形成されている。
(ii)残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板の表層における酸化物の生成を抑制し、鉄濃度Fe(sur) /酸素濃度O(sur) の値を0.4 以上とすることにより、電気めっきのめっき密着性が飛躍的に向上する。
(iii) 熱間圧延後の巻取温度を 560℃以下とすることにより、めっき前処理としての表面研磨や酸洗処理を行わなくとも、鉄濃度Fe(sur)/酸素濃度O(sur) の値を0.4 以上として、残留オーステナイトを含む混合組織からなる高延性高張力鋼板の表面近傍における酸化物の生成を抑制することができ、これにより、少量の酸洗量であっても電気めっき密着性を充分に確保できる。
【0018】
本発明は、C:0.05〜0.25%、Si:0〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0〜1.0%、N:0.008%以下、必要に応じて、Ti:0〜0.1%、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.1%、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Cr:0〜1%、Mo:0〜1%、およびB:0〜0.003%からなる群から選ばれた1種または2種以上、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、下記(1)式およびめっき前の酸洗を施す前の状態で(2)式の関係をいずれも満足することを特徴とする電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力冷延鋼板である。
【0019】
Si+Al≧0.6% ・・・ (1)
Fe(sur)/O(sur) ≧0.4 ・・・ (2)
ただし、(2)式において、Fe(sur)は上記高張力冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける鉄濃度(原子%)を意味し、O(sur)は上記高張力冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける酸素濃度(原子%)を意味する。
【0020】
鉄濃度Fe(sur) および酸素濃度O(sur) それぞれの測定手段は、周知慣用の手段により行えばよい。以降の説明では、例えば、X線源としてMg-kα(8kV、30mA) を利用するESCAを用い、5mm角のサンプルに対してスパッタリングを行うことにより、求めている。なお、この際、SiO2をスパッタリングしたときのエッチング速度が85nm/minであり、一方、鉄をスパッタリングしたときのエッチング速度が30nm/minであったことから、鉄濃度Fe(sur) および酸素濃度O(sur) は、このESCAにより10秒間エッチングを行ったときの分析値として、求められる。
【0021】
別の面からは、本発明は、C:0.05〜0.25%、Si:0〜3.0 %、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0〜1.0 %、N:0.008 %以下、Ti:0〜0.1 %、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.1 %、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Cr:0〜1%、Mo:0〜1%、およびB:0〜0.003 %からなる群から選ばれた1種または2種以上、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有するとともに上記 (1)式の関係を満足する鋼に、熱間圧延を行った後に560 ℃以下の温度域で巻き取り、酸洗および冷間圧延を行った後に、例えば、750 〜900 ℃の温度域に10秒間以上均熱し、3℃/秒以上の冷却速度で300 〜500 ℃の温度域に冷却し、該温度域に30秒間以上保持した後、室温まで冷却することにより、行われる連続焼鈍および冷却を行うことによってフェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトを有する混合組織からなるとともに上記 (2)式の関係を満足する鋼板を製造することを特徴とする電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力鋼板の製造方法である。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力鋼板およびその製造方法の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明にかかる高張力鋼板の組成を限定する理由を説明する。
(C:0.05〜0.25%)
Cは、強力なオーステナイト安定化元素であり、2相域およびベイナイト変態温度域において、オーステナイト中に濃縮し、オーステナイトを安定化させ、室温までオーステナイトを残留させる効果を奏する。C含有量が0.05%未満であるとかかる効果が不十分であり、一方、C含有量が0.25%を越えると溶接性が劣化する。そこで、本発明では、C含有量は0.05%以上0.25%以下と限定する。同様の観点から、C含有量の下限は0.08%であることが望ましく、上限は0.20%であることが望ましい。
【0024】
(Si:0〜3.0 %)
本発明にかかる高張力鋼板では、Siは含有しなくともよい。しかし、Siを含有すると、Siはセメンタイトに固溶しないためセメンタイトの析出を遅延させ、その間にオーステナイト中へのC濃化が促進されるためにオーステナイトを安定化させることができる。Siのこのような効果は、後述するAlによっても奏される。このため、Siを含有する場合には、その含有量の下限はAlとの総量として規定される。一方、Si含有量が3.0 %を越えると、熱間圧延時に生成するスケールにより表面品質が劣化する。そこで、本発明では、Si含有量は0%以上3.0 %以下と限定する。
【0025】
(Mn:0.5 〜3.0 %)
Mnは、オーステナイト安定化元素であるとともに冷却時にオーステナイトがパーライトへ分解することを防ぐ作用を奏する。Mn含有量が0.5 %未満であるとパーライトへの分解を抑制することが困難であり、一方、Mn含有量が3.0 %を超えると鋼板の焼入れ性を過剰に高めるために強度上昇および延性劣化を招く。そこで、本発明では、Mn含有量は0.5 %以上3.0 %以下と限定する。
【0026】
(P:0.05%以下)
Pは、不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、その含有量はできるだけ低いほうが望ましい。特に、P含有量が0.05%を超えると連続焼鈍後に表面酸化物が増加し、また、延性も劣化する。そこで、本発明では、P含有量は0.05%以下と限定する。
【0027】
(S:0.01%以下)
Sは、不純物として鋼中に不可避的に含有されて鋼板の加工性を損ねる元素であるため、その含有量はできるだけ低いほうが望ましい。しかし、極端な低下には相応のコスト上昇を伴う。そこで、本発明では、S含有量は0.01%以下と限定する。
【0028】
(sol.Al:0〜1.0 %)
本発明にかかる高張力鋼板では、sol.Alは含有しなくともよい。しかし、sol.Alを含有すると、sol.Alは、Siと同様に、室温で安定な残留オーステナイトを生成する。また、sol.Alもセメンタイトに固溶せず、300 〜500 ℃に等温保持してベイナイト変態させる際にセメンタイトの析出を抑制し、変態を遅らせる。このため、sol.Alを含有する場合には、その含有量の下限はSiとの総量として規定される。一方、sol.Alを 1.0%超含有してもその効果が飽和してコスト上昇を伴うだけとなるうえ、成形加工性がむしろ低下する。そこで、本発明では、sol.Al含有量は0%以上1.0 %以下と限定する。
【0029】
(N:0.008 %以下)
Nは、不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、その含有量は低いほど望ましい。特に、N含有量が0.008 %を超えると延性の劣化が目立つようになる。そこで、本発明では、N含有量は0.008 %以下と限定する。
【0030】
本発明では、強度および延性を向上するために、Ti、Nb、V、Cu、Ni、Cr、MoおよびBからなる群から選ばれた1種または2種以上の元素を、任意添加元素として必要に応じて添加してもよい。以下、これらの任意添加元素についても説明する。
【0031】
(Ti:0〜0.1 %、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.1 %)
Ti、NbおよびVは、いずれも、炭窒化物を形成することにより、強度上昇に寄与するとともに細粒化に効果がある元素である。かかる効果を奏させるために、Ti、NbおよびVのうちの少なくとも1種を含有させてもよい。しかし、過度に含有すると、再結晶温度を上昇させ、また過剰な析出物により延性が劣化する。そこで、Ti、NbおよびVの少なくとも1種を添加する場合には、Ti:0〜0.1 %、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.1 %と限定することが望ましい。
【0032】
(Cu:0〜1%、Ni:0〜1%)
CuおよびNiは、ともに、オーステナイト安定化元素であり、オーステナイトを残留させるとともに強度上昇にも効果がある。かかる効果を奏させるために、CuおよびNiの少なくとも1種を含有させてもよい。しかし、CuおよびNiそれぞれの含有量が1%を超えると、鋼板の延性が低下する。そこで、CuおよびNiの少なくとも1種を添加する場合には、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%と限定することが望ましい。
【0033】
(Cr:0〜1%、Mo:0〜1%)
CrおよびMoは、ともに、フェライト安定化元素であるが、焼入れ性を向上させてオーステナイトを残留させる効果がある。かかる効果を奏させるために、CrおよびMoの少なくとも1種を含有させてもよい。しかし、CrおよびMoそれぞれの含有量が1%を超えると、安定炭化物が生成し、逆に残留オーステナイトが減少する。そこで、CrおよびMOの少なくとも1種を添加する場合には、Cr:0〜1%、Mo:0〜1%と限定することが望ましい。
【0034】
(B:0〜0.003 %)
Bは、フェライトの生成を抑制することによりオーステナイトを残留させる効果がある元素である。かかる効果を奏させるために、Bを含有させてもよい。しかし、B含有量が0.003 %を超えると炭化物が生成し、逆に残留オーステナイトが減少する。そこで、Bを添加する場合には、その含有量は0〜0.003 %と限定することが望ましい。
【0035】
(Si+Al≧0.6)
前述したように、SiおよびAlは、いずれも、セメンタイトに固溶しないためセメンタイトの析出を遅延させ、その間にオーステナイト中へのC濃化が促進されるためにオーステナイトを安定化させることができる作用を奏する。このため、 (Si+Al) 量は、室温で安定な残留オーステナイトの生成に影響する。 (Si+Al) 量が0.6 %未満であると、かかる効果が得られない。そこで、本発明では、 (Si+Al) 量は0.6 %以上と限定する。同様の観点から、 (Si+Al) 量は、0.9 %以上であることが望ましい。
【0036】
(Fe(sur) /O(sur) ≧0.4)
本発明が対象とする高張力高延性鋼板は、SiおよびAlをいずれも多量に含有する。しかしながら、SiやAlは、いずれも非常に酸化され易い元素であるため、連続焼鈍時に鋼板表面に酸化物を形成し易い。本発明者らの知見によれば、このような高Si、高Al含有高張力高延性鋼板の表面から5nmの深さにおける鉄濃度Fe(sur) と、表面から深さ5nmの深さにおける酸素濃度O(sur) との比である(Fe(sur)/O(sur))の値が0.4 未満であると、電気めっき密着性が著しく劣化する。そこで、本発明では、(Fe(sur)/O(sur))の値を0.4 以上と限定する。同様の観点から、(Fe(sur)/O(sur))の値は、0.6 %以上であることが望ましい。
【0037】
なお、後述するように、Fe(sur) /O(sur) の値は、熱間圧延後の巻取り温度を制御することにより、0.4 以上に調整される。
上記以外は、Feおよび不可避的不純物である。
【0038】
次に、本発明にかかる高張力鋼板の製造方法を説明する。
(熱間圧延)
まず、上記の組成を有する鋼、すなわち、C:0.05〜0.25%、Si:0〜3.0 %、Mn:0.5 〜3.0 %、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0〜1.0 %、N:0.008 %以下、必要に応じて、Ti:0〜0.1 %、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.1 %、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Cr:0〜1%、Mo:0〜1%、およびB:0〜0.003 %からなる群から選ばれた1種または2種以上、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有するとともに、前述した(1) 式の関係を満足する鋼に、熱間圧延を行う。
【0039】
用いる鋼は、連続鋳造スラブや分塊スラブ等の公知の鋼片を用いればよく、特定の鋼片には限定されない。また、熱間圧延も周知慣用の圧延条件で行えばよく、特定の圧延条件には限定されない。
【0040】
このようにして、上記鋼組成を有し、上述した (1)式の関係を満足するとともに、例えば板厚が 3.5mm程度の熱延鋼板が製造される。
(巻取り)
本実施形態では、このようにして熱間圧延を行った後に、この熱延鋼板を560 ℃以下の温度域で巻き取る。巻取り温度が560 ℃以下であると、本発明により最終的に得られる高張力鋼板の表層における酸化物の生成が抑制されるため、通常条件で酸洗を行っても、(Fe(sur)/O(sur))の値を確実に0.4 以上とすることができる。一方、巻取り温度が560 ℃を超えると、強酸洗を行う必要が生じ、多量の電解酸洗を行わないと、(Fe(sur)/O(sur))の値が0.4 未満となってしまう。そこで、本発明では、熱延鋼板の巻取り温度は560 ℃以下と限定する。
【0041】
熱延鋼板の巻取り温度を560 ℃以下に限定することにより、高張力鋼板の表層における酸化物を、(Fe(sur)/O(sur))の値が0.4 以上となる程度に、減少することができる理由は、以下のように推定される。
【0042】
図1は、巻取り温度が560 ℃超の高温巻取りを行った場合におけるSiおよびAlをいずれも多量に含有する高張力高延性鋼板1の表層における酸化物2の生成機構を模式的に示す説明図であり、図1(a) は熱延鋼板3の表面性状を示し、図1(b) は酸洗後の熱延鋼板3の表面性状を示し、図1(c) は冷延鋼板4の表面性状を示し、図1(d) は焼鈍後の高張力高延性鋼板1の表面性状を示す。なお、図1(a) における符号8は、熱延鋼板3の表面に形成されるスケールを示す。
【0043】
また、図2は、巻取り温度が560 ℃以下の低温巻取りを行った場合におけるSiおよびAlをいずれも多量に含有する高張力高延性鋼板11の表層における表面酸化物12の生成機構を模式的に示す説明図であり、図2(a) は熱延鋼板13の表面性状を示し、図1(b) は酸洗後の熱延鋼板13の表面性状を示し、図1(c) は冷延鋼板14の表面性状を示し、図1(d) は焼鈍後の高張力高延性鋼板11の表面性状を示す。なお、図2(a) における符号18は、熱延鋼板13の表面に形成されるスケールを示す。
【0044】
巻取り温度が560 ℃を超えると、図1(a) に示すように熱延鋼板3の表層の粒界5が酸化され、図1(b) に示すようにその後の酸洗時に粒界選択エッチングが発生し、粒界選択エッチング部6が形成される。その後、冷間圧延を行うと、図1(c) に示すようにこの粒界選択エッチング部6が展伸されて鋼板表面がかぶれ状となり、かぶれ状部7が形成される。これにより、冷延鋼板4の表面積が増加する。このようにして、冷延鋼板4の表面積が増加した分だけ、図1(d) に示すように焼鈍後の高張力高延性鋼板1の表面に酸化物2が多量に生成するものと推定される。
【0045】
一方、巻取り温度が560 ℃以下であると、図2(a) に示すように熱延鋼板13の表面近傍の粒界15の酸化が大幅に抑制されるため、図2(b) に示すようにその後の酸洗時に粒界選択エッチングの発生程度は軽微となり、粒界選択エッチング部16の発生程度も極めて軽微となる。このため、その後に冷間圧延を行っても、図2(c) に示すようにこの粒界選択エッチング部16が展伸されても、鋼板表面には極めて軽微なかぶれ状部17が形成されるだけで、冷延鋼板14の表面は略平滑なままとなる。このため、図2(d) に示すように焼鈍後の高張力高延性鋼板11の表面における酸化物12の生成が抑制されるものと推定される。
【0046】
このようにして、熱延鋼板はコイルに巻き取られる。
(冷間圧延)
このようにして、熱間圧延および巻取りを終了した熱延鋼板を、一旦巻き戻して酸洗を行うことにより表面のスケールの除去を行い、その後に所定の板厚への冷間圧延を行う。
【0047】
酸洗および冷間圧延それぞれの条件は、周知慣用の条件で行えばよく、特定の条件には限定されない。
(連続焼鈍、冷却)
このようにして、冷間圧延を終了した冷延鋼板に対して連続焼鈍および冷却を行うことにより、フェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトを有する混合組織からなる高延性高張力鋼板とする。残留オーステナイトの体積率は、3〜30%程度である。
【0048】
本発明では、この混合組織を得ることができる連続焼鈍および冷却であれば、如何なる条件であってもよい。例えば、冷延鋼板を、750 〜900 ℃の温度域に10秒間以上均熱し、3℃/秒以上の冷却速度で300 〜500 ℃の温度域に冷却し、この温度域に30秒間以上保持した後、室温まで冷却することが、例示される。
【0049】
このようにして、本発明にかかる高張力鋼板が製造される。この本発明にかかる高張力鋼板は、この後に電気めっきを行われて、例えば自動車車体用鋼板とされる。電気めっきの種類は特定の種類には限定されない。例えば、Zn電気めっき、Zn−Ni合金電気めっきさらにはFe−Zn合金電気めっき等の各種電気めっきを適用することができる。
【0050】
この本発明にかかる高張力鋼板は、フェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトを有する混合組織を有する。このため、490 N/mm2 を超える高強度を有する。具体的には、YP:300 〜582(MPa)、TS:490 〜818(MPa)の強度を有する。
【0051】
また、この本発明にかかる高張力鋼板は、残留オーステナイトを体積率で3〜30%程度有するため、優れた延性を有する。このため、充分なプレス成形性や曲げ加工性等の成形加工性を有する。具体的には、El:30.1〜44.5 (%) の延性を有する。
【0052】
また、この本発明にかかる高張力鋼板は、特に、熱延鋼板の巻取り温度を560 ℃以下に限定することにより、連続焼鈍後の表面酸化物が、(Fe(sur)/O(sur))の値が0.4 以上となる程度に、減少する。このため、本発明にかかる高張力鋼板は、連続焼鈍後に室温まで冷却された後に、特開平5−230689号公報により提案されためっき前処理として表面研磨や、特開平7−126888号公報により提案されためっき前処理としての酸洗処理を行わなくとも、表層における酸化物の形成が著しく抑制される。このため、連続焼鈍後に電気めっきを行っても、めっき密着性をこれまでよりも顕著に向上することができる。これにより、前述したように本発明にかかる高張力鋼板は、490 N/mm2 を超える高強度を有するために電気めっきを行った後に行われるプレス成形時にダイ肩部から鋼板表面に極めて高い面圧が作用するにもかかわらず、めっき剥離が殆ど発生しない。
【0053】
このように、本実施形態の高張力鋼板は、490 N/mm2 を超える高強度を有するとともに、延性および電気めっき性に優れるため、高強度と、優れた成形加工性と、優れた耐食性とをいずれも要求される自動車車体用鋼板として、極めて好適である。
【0054】
【実施例】
本発明の範囲を満足する鋼組成を有する18種類の鋼 (鋼種No. A1 〜鋼種No. A18) と、本発明の範囲を満足しない鋼組成を有する9種類の鋼 (鋼種No. A19〜鋼種No. A27) とをそれぞれ溶製し、スラブとした。表1にこれらのスラブの化学組成を示す。
【0055】
(実施例1)
表1中のA1 、2 、7 、8 、9 、11、12、13、14、16、17のスラブを加熱炉で1240℃まで加熱し、仕上げ温度920 ℃で熱間圧延を終了して、板厚が3.5mm の熱延鋼板とした。この熱延鋼板を650 ℃でコイルに巻き取った。この熱延コイルを巻き戻して酸洗を行った後、冷間圧延を行って板厚が1.6mm の冷延鋼帯とし、引き続いて連続焼鈍炉を用いて820 ℃の60秒間均熱した後に50℃/sの冷却速度で400 ℃まで冷却し、この温度に200 秒間保持した後、室温まで冷却した。
【0056】
このようにして得られた冷延鋼板に対し、50℃の10%硫酸を用いて種々の条件で電解酸洗を行い、ESCAにより表層における鉄濃度Fe(sur) および酸素濃度O(sur)をそれぞれ測定し、Fe(sur)/O(sur)を求めた。
【0057】
次に、電解酸洗を行われたこの冷延鋼板に対し、Zn系電気めっきを行った。このZn系電気めっきにはZn−11%Niを用い、表面および裏面の両面について、付着量を30g/ m2 に制御した。
【0058】
このようにして得られた試料No. 1 〜試料No. 56の電気めっき鋼板について、めっき密着性を評価した。このめっき密着性は、直径90mmのブランクに対し絞り比1.8 で円筒絞り加工を行った後、外周部にテープを貼り付けた後に剥がし、成形前後における重量差を測定することにより、めっき剥離量を求めて評価した。なお、表2にはめっき密着性の評価基準を示す。
【0059】
また試料No. 1 〜試料No. 56の電気めっき鋼板について、YP、TS、E1をそれぞれ測定した。これらの測定結果を、電解酸洗量、酸洗時間、Fe(sur)/O(sur)の測定値とともに表3および表4にまとめて示す。
【0060】
表3および表4における試料No. 6 、7 、8 、15、16、19、20、23、24、27、28、31、32、35、36、40、42、43、44、47、48、51、52、55および56は、いずれも、本発明の条件を満たす本発明例である。表3および表4から明らかなように、これらの本発明例はいずれもFe(sur)/O(sur)の値が0.4 以上となり、これにより電気めっき皮膜のめっき密着性が良好である。また、これらの本発明例は、良好なYP、TSおよびE1を有している。このことから、本発明例はいずれも490 N/mm2を超える鋼強度を有するとともに、延性および電気めっき性に優れるため、高強度と優れた成形加工性と優れた耐食性とをいずれも要求される自動車車体用鋼板として、きわめて好適であることがわかる。
【0061】
これに対し、他の例は本発明の条件を満足しない比較例である。これらの比較例はいずれも良好なYP、TSおよびE1を有しているもののFe(sur)/O(sur)の値が0.4 未満となり、電気めっき皮膜のめっき密着性が不芳であった。このことから比較例はいずれも高強度および優れた成形加工性のみならず、優れた耐食性も要求される自動車車体用鋼板として適当でないことがわかる。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
(実施例2)
表1中のA1 、A2のスラブを用いて、熱延鋼帯の巻取温度を種々変更させること以外は、実施例1と同一の条件で試料No. 1〜試料No. 16の電気めっき鋼板を製造し、これらについて実施例1と同一の確認を行った。なお、本実施例では、電解酸洗後のみならず電解酸洗めっき前についてもFe(sur) /O(sur) の値を測定した。また、酸洗時間は2秒間とした。これらの測定結果を、表5にまとめて示す。
【0066】
試料No.4〜試料No.8、試料No.12 〜試料No.16 は、いずれも、本発明の条件をすべて満足する本発明例である。表4および表5から明らかなように、これらの本発明例は、いずれも、熱延鋼板の巻取り温度が本発明の範囲内の560 ℃以下であるためにFe(sur) /O(sur) の値が0.4 以上となり、これにより、電気めっき皮膜のめっき密着性が良好である。また、これらの本発明例は、良好なYP、TSおよびElを有している。このことから、本発明例は、いずれも、490 N/mm2 を超える高強度を有するとともに、延性および電気めっき性に優れるため、高強度と、優れた成形加工性と、優れた耐食性とをいずれも要求される自動車車体用鋼板として、極めて好適であることがわかる。
【0067】
特に、巻取温度の低下に伴ってFe(sur)/O(sur)の値が上昇し、40c/dm2 という少量の酸洗量であっても、電気めっき密着性が確実に向上することがわかる。
これに対し、試料No.1〜試料No.3、試料No.9〜試料No.11 は、巻取温度が高いため少量の電解酸洗ではFe(sur)/O(sur)の値が0.4 未満となり電気めっき皮膜のめっき密着性が不芳であった。このことから比較例はいずれも高強度および優れた成形加工性のみならず、優れた耐食性も要求される自動車車体用鋼板として適当でないことがわかる。
【0068】
【表5】
(実施例3)
表1の化学組成が本発明で規定する範囲内の18種類の鋼のスラブを、1240℃まで加熱し、920 ℃で圧延を完了させた後、520 ℃で巻取り、板厚3.5mm の熱延鋼板を得た。これらの熱延鋼板を酸洗した後、1.6mm まで冷間圧延を行い、次いで、連続焼鈍炉を用いて、820 ℃で60秒間均熱した後、50℃/ 秒で420 ℃まで冷却し、この温度で200 秒間保持した後、室温まで冷却した。
【0069】
このようにして得られた27種の冷延鋼板に対し、50℃の10%硫酸を用いて電解酸洗(40c/dm2を行い、ESCAにより酸洗前後における鉄濃度Fe(sur)/酸素濃度O(sur)の値を測定した。
【0070】
そして、この電解酸洗を行われたこの冷延鋼板に対し、Zn系電気めっきを行った。このZn系電気めっきにはZn−11%Niを用い、表面および裏面の両面について、付着量を30g/ m2 に制御した。
【0071】
このようにして、試料No.1〜試料No.27 の電気めっき鋼板を製造し、これらについて実施例2と同一の確認を行った。これらの測定結果を、表6および表7にまとめて示す。
【0072】
試料No.1〜試料No.18 は、本発明の条件を全て満足する本発明例である。表5から明らかなように、これらの本発明例は、いずれも、Fe(sur)/O(sur)値が0.4以上となり、これにより、電気めっき皮膜のめっき密着性が良好である。また、これらの本発明例は、良好なYP、TSおよびElを有している。このことから、本発明例は、いずれも、490 N/mm2 を超える高強度を有するとともに、延性および電気めっき性に優れるため、高強度と、優れた成形加工性と、優れた耐食性とをいずれも要求される自動車車体用鋼板として、極めて好適であることがわかる。
【0073】
これに対し、試料No.19 および試料No.20 は、いずれも、良好なYP、TSおよびめっき密着性を有するものの、 (Si+Al) 量が本発明の範囲の下限を下回り、試料No.21 はMn含有量が本発明の範囲の上限を上回り、試料No.22 はP含有量が本発明の範囲の上限を上回り、試料No.23 はS含有量が本発明の範囲の上限を上回り、試料No.24 はTi含有量が本発明の範囲の上限を上回り、試料No.25 はNb含有量が本発明の範囲の上限を上回り、試料No.26 はCu含有量が本発明の範囲の上限を上回り、さらに、試料No.27 はCr含有量が本発明の範囲の上限を上回るため、Elが低下しており、不芳であった。このことから、比較例は、いずれも、高強度および優れた耐食性のみならず、優れた成形加工性も要求される自動車車体用鋼板としては、適当でないことがわかる。
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
(実施例4)
表1で示した本発明の範囲を満足する鋼A1 〜鋼A18からなるスラブを1240℃まで加熱し、920 ℃で圧延を完了させた後、表8に示す種々の温度で巻き取り、板厚3.5 mmの熱延鋼板を得た。これらの熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延を行って板厚が1.6 mmの冷間圧延とし、次いで、連続焼鈍炉を用いて、820 ℃で60秒間均熱した後に50℃/秒の冷却速度で400 ℃まで冷却し、この温度に 200秒間保持した後、室温まで冷却した。
【0076】
得られた32種の冷延鋼板に対し、表8に示すように、10%硫酸を用いて酸浸漬時間3秒の条件で電解酸洗を行ってから、Zn系電気めっきを行った。Zn系電気めっきとして、Zn−11%Ni を用い、表面および裏面の両面の付着量を30g/m2に制御した。
【0077】
このようにして、試料No.1〜試料No.32 の電気めっき鋼板を製造し、これらについて実施例2と同一の確認を行った。これらの測定結果を、表8にまとめて示す。
【0078】
【表8】
試料No. 4〜試料No. 8、試料No.12 〜試料No.16 は、いずれも、本発明の条件を全て満足する本発明例である。表8から明らかなように、これらの本発明例は、いずれも、熱延鋼板の巻取り温度が本発明の範囲内の560 ℃以下であるためにFe(sur)/O(sur)の値が0.4 以上となり、これにより、電気めっき皮膜のめっき密着性が良好である。また、これらの本発明例は、良好なYP、TSおよびElを有している。このことから、本発明例は、いずれも、490 N/mm2 を超える高強度を有するとともに、延性および電気めっき性に優れるため、高強度と、優れた成形加工性と、優れた耐食性とをいずれも要求される自動車車体用鋼板として、極めて好適であることがわかる。
【0079】
これに対し、試料No.1〜試料No.3、試料No.9〜試料No.11 、試料No.17 〜試料No.32 は、本発明の条件のうちの巻取り温度を満足しない比較例である。これらの比較例は、いずれも、良好なYP、TSおよびElを有しているものの、熱延鋼板の巻取り温度が本発明の範囲外であるために電解酸洗後のFe(sur)/O(sur)の値が0.4 未満となり、電気めっき皮膜のめっき密着性が不芳であった。このことから、比較例は、いずれも、高強度および優れた成形加工性のみならず、優れた耐食性も要求される自動車車体用鋼板としては、適当でないことがわかる。
【0080】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明により、電気めっき密着性および延性に優れ、例えば自動車車体用鋼板のように、プレス加工や曲げ加工等の成形加工を行われるとともに防錆性も必要とされる用途に供される、引張強さが490N/mm2以上である高張力鋼板およびその製造方法を提供することができた。
【0081】
かかる効果を有する本発明の意義は、極めて著しい。
【図面の簡単な説明】
【図1】巻取り温度が560 ℃超の高温巻取りを行った場合におけるSiおよびAlをいずれも多量に含有する高張力高延性鋼板の表層における酸化物の生成機構を模式的に示す説明図であり、図1(a) は熱延鋼板の表面性状を示し、図1(b) は酸洗後の熱延鋼板の表面性状を示し、図1(c) は冷延鋼板の表面性状を示し、図1(d) は焼鈍後の高張力高延性鋼板の表面性状を示す。
【図2】巻取り温度が560 ℃以下の低温巻取りを行った場合におけるSiおよびAlをいずれも多量に含有する高張力高延性鋼板の表層における表面酸化物の生成機構を模式的に示す説明図であり、図2(a) は熱延鋼板の表面性状を示し、図1(b) は酸洗後の熱延鋼板の表面性状を示し、図1(c) は冷延鋼板の表面性状を示し、図1(d) は焼鈍後の高張力高延性鋼板の表面性状を示す。
【符号の説明】
11 高張力高延性鋼板
12 酸化物
13 熱延鋼板
14 冷延鋼板
15 粒界
16 粒界選択エッチング部
17 かぶれ状部
Claims (6)
- 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0〜1.0%、N:0.008%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、下記(1)式およびめっき前の酸洗を施す前の状態で(2)式の関係をいずれも満足することを特徴とする電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力冷延鋼板。
Si+Al≧0.6% ・・・ (1)
Fe(sur)/O(sur)≧0.4 ・・・ (2)
ただし、(2)式において、Fe(sur)は上記高張力冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける鉄濃度(原子%)を意味し、O(sur)は上記高張力冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける酸素濃度(原子%)を意味する。 - さらに、質量%で、Ti:0〜0.1、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.1%、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Cr:0〜1%、Mo:0〜1%、およびB:0〜0.003%からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載された電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力冷延鋼板。
- 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0〜1.0%、N:0.008%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有するとともに下記(1)式の関係を満足する鋼に、熱間圧延を行った後に560℃以下の温度域で巻き取り、酸洗および冷間圧延を行った後に、連続焼鈍および冷却を行うことによってフェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトを有する混合組織からなるとともにめっき前の酸洗を施す前の状態で下記(2)式の関係を満足する鋼板を製造することを特徴とする電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力冷延鋼板の製造方法。
Si+Al≧0.6% ・・・ (1)
Fe(sur)/O(sur)≧0.4 ・・・ (2)
ただし、(2)式において、Fe(sur)は上記高張力冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける鉄濃度(原子%)を意味し、O(sur)は上記高張力冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける酸素濃度(原子%)を意味する。 - 前記連続焼鈍および冷却は、750〜900℃の温度域に10秒間以上均熱し、3℃/秒以上の冷却速度で300〜500℃の温度域に冷却し、該温度域に30秒間以上保持した後、室温まで冷却することにより、行われる請求項3に記載された電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力冷延鋼板の製造方法。
- さらに、質量%で、Ti:0〜0.1%、Nb:0〜0.05%、V:0〜0.1%、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Cr:0〜1%、Mo:0〜1%、およびB:0〜0.003%からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載された電気めっき密着性および延性に優れた、引張強さが490N/mm2以上である高張力冷延鋼板の製造方法。
- 質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0〜1.0%、N:0.008%以下、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼組成を有するとともに下記(1)式の関係を満足する鋼に熱間圧延を行い、560℃以下の温度域で巻き取り、酸洗および冷間圧延を行った後に、連続焼鈍および冷却を行うことによってフェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトを有する混合組織からなるとともにめっき前の酸洗を施す前の状態で下記(2)式の関係を満足する鋼板を製造し、得られた残留オーステナイトを有する混合組織からなる冷延鋼板を母材とし、その上に電気めっきを施すことを特徴とする、引張強さが490N/mm2以上である高張力電気めっき鋼板の製造方法。
Si+Al≧0.6% ・・・ (1)
Fe(sur)/O(sur)≧0.4 ・・・ (2)
ただし、(2)式において、Fe(sur)は上記冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける鉄濃度(原子%)を意味し、O(sur)は上記冷延鋼板の表面から5nmの深さにおける酸素濃度(原子%)を意味する。
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