JP3737832B2 - イオントフォレシス用マトリックス - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、イオントフォレシス用の新規マトリックスに関する。
【0002】
【従来の技術】
イオントフォレシス (Iontophoresis) は外的刺激に電気を用いた経皮吸収促進システムで、その原理は主に通電により陰極および陽極間に生じた電界中を正にチャージした分子は陽極から出て陰極へ、負にチャージした分子は陰極から出て陽極へ移動する力に基づいて薬物分子の皮膚バリヤー透過を促進する〔ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release)18巻,1992年,213−220頁;アドバンスト・ドラッグ・デリバリー・レビユウ(Advanced Drug Delivery Review)9巻,1992年,119頁;ファルマシウチカル・リサーチ(Pharmaceutical Research)3巻,1986年,318−326頁参照〕。
最近の合成技術、遺伝子工学の進歩により天然に存在するペプチドあるいは蛋白質もしくはこれらのアミノ酸組成を変化させたものや化学的修飾を加えた誘導体が、純粋にかつ大量に生産されるようになり医薬品としての応用が期待されている。しかしその一方で微量で多様な生理活性を有するこれらのペプチドや蛋白質を限定された疾病で薬効を最大限に発揮させ副作用を最小限に抑えるためには厳密な投薬コントロールが要求される。例えば副甲状腺ホルモンやその活性フラグメントは骨に対して造骨作用と破骨作用という相反する作用を有しているが、間欠的に投与することで造骨作用が強く発現して、骨粗鬆症の治療薬に利用されている。
【0003】
ところが、一般にこのような生理活性ペプチドあるいは蛋白質は胃腸管内で消化液によって分解されたり、消化壁の分解酵素によって加水分解を受け、吸収が悪いことが知られている。従って充分な薬効を期待するためにはこれらの生理活性ペプチドあるいは蛋白質の投与方法は通常、経口投与ではなく注射による投与が行われているが、患者に与える苦痛は大きく、また自己投与が出来ないことも患者には大きな負担である。特に上記の副甲状腺ホルモンの活性フラグメントのような間欠的な連続投与を要求される場合はなおさらである。
製薬分野においてこうした生理活性ペプチドや蛋白質に対応できる新しい薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム)としてイオントフォレシスが精力的に研究されている。
特開平4−224770号公報には、一対の電極に薬物を配合し、双方の電極間に印加される電圧の正・負を各々交互に切り替えるための電圧調節手段を具備したイオントフォレシス用装置が記載されている。カナダ公開特許204994号公報には、陰陽両電極に薬物を含有し、陰極を高pHに陽極を低pHに保つことを特徴とするイオントフォレシス用装置が記載されている。米国特許第5042975号公報には、イオントフォレシスにおける、薬物の等電点と電極のpHとが薬物の吸収性に及ぼす影響について記載されている。特開昭63−102768号公報には、電極層と薬物含有層との間に水分分離補給層を配置し、さらに電極層の外側に密封内カバーを設けたイオントフォレシス用のプラスターが記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のイオントフォレシスの方法では、薬物の吸収が十分でなかったり、経時的に吸収が低下する欠点を有し、そのまま実用に供するには問題点があった。かかる現状に鑑み、本発明は、薬物の利用効率を著しく高めた実用的なイオントフォレシス用マトリックスを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究をすすめたところ、薬物を含有し厚さ0.05mm未満の薬物含有層を含んでなるイオントフォレシス用マトリックスを用いてイオントフォレシスを行うと、薬物の経皮吸収性が著しく増大するこを見いだし、さらに鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。即ち本発明は、
(1)薬物を含有し厚さ0.05mm未満の薬物含有層を含んでなるイオントフォレシス用マトリックスであって、薬物含有層がさらに水溶性のカルボン酸を含有しており、薬物のモル数とカルボン酸のモル当量数の比が1:20から1:400であるイオントフォレシス用マトリックス、
(2)薬物含有層が水溶性の高分子物質よりなる上記(1)記載のマトリックス、
(3)高分子物質がセルロース誘導体である上記(2)記載のマトリックス
(4)カルボン酸が炭素数2から6の脂肪族カルボン酸である上記(1)記載のマトリックス、
(5)薬物が分子内に少なくとも1個の塩基性官能基を有する生理活性ペプチドである上記(1)記載のマトリッス、
(6)ペプチドの分子量が約7000以下である上記(5)記載のマトリックス、
(7)ペプチドの等電点が約5.5以上である上記(5)記載のマトリックス、
(8)薬物がカルシウム調節ホルモンである上記(1)記載のマトリックス、
(9)カルシウム調節ホルモンが副甲状腺ホルモン、その誘導体またはそれらの塩である上記(8)記載のマトリックス、
(10)カルシウム調節ホルモンがカルシトニン、その誘導体またはそれらの塩である上記(8)記載のマトリックス、
(11)上記(1)記載のイオントフォレシス用マトリックスに通電/非通電のサイクルを繰り返すことを特徴とするイオントフォレシス、
(12)パルス直流電流を通電することを特徴とする上記(11)記載のイオントフォレシス、
(13)連続直流電流を通電することを特徴とする上記(11)記載のイオントフォレシス、
(14)直流電流を約0.01から約4mA/cm2の電流値で通電することを特徴とする上記(12)または(13)記載のイオントフォレシスに関する。
【0006】
本発明における薬物は、経皮吸収され得る薬物であればいかなる薬物でも用いることができる。好ましくは経皮吸収性を有し、カチオン化し得る薬物で、カチオン化した状態で水溶性である薬物が用いられる。
該薬物の好ましい具体例として、例えば分子内に少なくとも1個の塩基性官能基(例えばアミノ基等)を有する生理活性ペプチドまたは分子内に少なくとも1個の塩基性官能基を有する非ペプチド薬、より好ましくは分子内に少なくとも1個の塩基性官能基を有する生理活性ペプチドが挙げられる。該ペプチドの等電点は、約5.5以上であることが好ましく、さらに約5.5〜約13であることが好ましい。さらに約6〜約12であることが特に好ましい。
薬物の水溶性は、水とn−オクタノールとの油水分配率で定義され、n−オクタノール/水溶解度の比が1以下の薬物への適用が好ましく、0.1以下の薬物への適用がより好ましい。
【0007】
油水分配率の測定は、「物理化学実験法」鮫島実三郎著、裳華房刊、昭和36年に記載された方法に従えばよい。すなわち、まず試験管中にn−オクタノールおよびpH5.5の緩衝液(1対1の等量混合物)を入れる。該緩衝液としては例えばゼーレンゼン(Sφerenzen)緩衝液〔エルジェブニッセ・デア・フィジオロジー(Ergeb. Physiol.) 12, 393(1912)〕、クラークルブス(Clark-Lubs)緩衝液〔ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bact.) 2(1), 109, 191(1917)〕、マクイルベイン(MacIlvaine)緩衝液〔ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.) 49, 183(1921)〕、ミカエリス(Michaelis)緩衝液〔ディ・バッサー−シュトッフイオネンコンツエントラチオン(Die Wasser-stoffionenkonzentration.) p. 186(1914)〕、コルソフ(Kolthoff)緩衝液〔バイオヘミシェ・ツアイトシュリフト(Biochem. Z.) 179, 410(1926)〕などが挙げられる。これらの薬物を適宜量投入し、さらに栓をして恒温槽(25℃)に浸し、しばしば強く振盪する。そして薬物が両液層間に溶け、平衡に達したと思われる頃、液を静置あるいは遠心分離し、上下各層より別々にピペットにて一定量の液をとり出し、これを分析して各層の中における薬物の濃度を決定し、n−オクタノール層中の薬物の濃度/水層中の薬物の濃度の比をとれば、油水分配率となる。
【0008】
なお本明細書において、アミノ酸,ペプチド等に関し、略号で表示する場合、IUPAC−IUB コミッション・オン・バイオケミカル・ノーメンクレーチャー(Commission on Biochemical Nomenclature)による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものとし、また、アミノ酸に光学異性体があり得る場合、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0009】
上記生理活性ペプチドの好ましい具体例として、例えば黄体形成ホルモン放出ホルモン(以下、LH−RHと略記)、LH−RHと同様な作用を有する誘導体、例えば式(I)
(Pyr) Glu-R1-Trp-Ser-R2-R3-R4-Arg-Pro-R5 (I)
〔式中、R1 は His、Tyr、Trp または p-NH2-Phe、R2は Tyr または Phe、R3 は Gly または D型のアミノ酸残基、R4は Leu、Ile または Nle、R5 は Gly-NH-R6(R6 は H または水酸基を有していてもよい低級アルキル基)または NH-R6(R6は前記と同意義)を示す〕で表されるポリペプチドまたはそれらの塩〔米国特許第3853837号、同第4008209号、同第3972859号、英国特許第1423083号、プロシーデイングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス (Proceedings of the National Academy of Science)第78巻、6509〜6512頁(1981年)参照〕;LH−RH拮抗物質、例えば式(II)
Figure 0003737832
〔式中、X1 は D-Ser または D-Trp を示す〕で表されるポリペプチドまたはそれらの塩(米国特許第4086219号、同第4124577号、同第4253997号、同第4317815号参照);インスリン;ソマトスタチン,ソマトスタチン誘導体、例えば式(III)
【化1】
Figure 0003737832
〔式中、Y は D-Ala,D-Ser または D-Val、Z は Asn または Ala を示す〕で表されるポリペプチドまたはそれらの塩(米国特許第4087390号、同第4093574号、同第4100117号、同第4253998号参照);副腎皮質刺激ホルモン(ACTH);メラノサイト刺激ホルモン(MSH);甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(以下、TRHと略記)、その誘導体、例えば式(IV)
【化2】
Figure 0003737832
〔式中、X' は4,5または6員複素環基を、Y' はイミダゾール−4−イルまたは4−ヒドロキシフェニルを、Z' は CH2 または S を、R1'、R2' は同一または異なって水素もしくは低級アルキル基を、R3' は水素または置換基を有していてもよいアラルキル基を示す〕で表される化合物またはそれらの塩(特開昭50−121273号、特開昭52−116465号公報参照);副甲状腺ホルモン(以下、PTHと略記)、その誘導体、例えば式(V)
Figure 0003737832
〔式中、R1" は Ser または Aib、R2" は Met または天然型の脂溶性アミノ酸、R3" は Leu、Ser、Lys または芳香族アミノ酸、R4" は Gly またはD-アミノ酸、R5" は Lys または Leu、R6" は Met または天然型の脂溶性アミノ酸、R7" は Glu または塩基性アミノ酸、R8" は Val または塩基性アミノ酸、R9" は Trp または 2-(1,3-ジチオラン-2-イル)Trp、R10" は Arg または His、R11" は Lys または His、R12" は Lys,Gln または Leu、R13" は Phe または Phe-NH2 を示す〕で表されるペプチドまたはそれらの塩(特開平5−32696号、同第4−247034号、ヨーロッパ特許公開第510662号、同第477885号、同第539491号公報参照)、ヒト型PTHのN末端(1→34位)のペプチドフラグメント〔以下、hPTH(1→34)と略記〕など〔G.W.Tregearら、エンドクリノロジー(Endocrinology)、93、1349−1353(1973)〕;バソプレシン、バソプレシン誘導体{デスモプレシン〔日本内分泌学会雑誌、第54巻、第5号、第676〜691頁(1978)〕参照};オキシトシン;カルシトニン、カルシトニンと同様な作用を有する誘導体、例えば式(VI)
【化3】
Figure 0003737832
〔式中、X” は2−アミノスベリン酸〕で表される化合物またはそれらの塩〔エンドクリノロジー(Endocrinology)1992、131/6(2885−2890)〕;グルカゴン;ガストリン;セクレチン;コレシストキニン;アンジオテンシン(I、II);エンケファリン、エンケファリン誘導体、例えば式(VII)
【化4】
Figure 0003737832
〔式中、R1'''と R3'''は水素または炭素数1から6のアルキル基、R2''' は水素または D-α-アミノ酸、R4''' は水素または炭素数1から8の置換されていてもよい脂肪族アシル基を示す〕で表されるペプチドまたはそれらの塩(米国特許第4277394号、ヨーロッパ特許出願公開第31567号公報参照)等のオリゴペプチドおよびエンドルフィン;キョウトルフィン;インターロイキン(IからXI);タフトシン;サイモポイエチン;胸腺液性因子(THF);血中胸腺因子(FTS)およびその誘導体、例えば式(VIII)
Figure 0003737832
〔式中、X'''は L- または D-Ala、Y'''及び Z'''は各々 Gly または炭素数3から9の D-アミノ酸を示す〕で表されるペプチドまたはそれらの塩(米国特許第4229438号参照);およびその他の胸腺ホルモン〔サイモシン α1およびβ4、サイミックファクター X等、医学のあゆみ、第125巻、第10号、835−843頁(1983年)〕;モチリン;デイノルフィン;ボムベシン;ニュウロテンシン;セルレイン;ブラディキニン;ウロキナーゼ;サブスタンスP;ポリミキシンB;コリスチン;グラミシジン;バシトラシン;タンパク合成刺激ペプチド(英国特許第8232082号);胃酸分泌抑制ポリペプチド(GIP);バソアクティブ・インティスティナル・ポリペプチド〔vasoactive intestinal polypeptide(VIP)〕;プレートレット−ディライブド・グロース・ファクター〔platelet-derived growth factor(PDGF)〕;成長ホルモン分泌因子(GRF,ソマトクリニン);インターフェロン(α、β、γ);スーパーオキシドジスムターゼ;シクロスポリン、その誘導体またはそれらの塩などが好ましい。
【0010】
これらの生理活性ペプチドはヒト型でも他の動物、たとえばウシ、ブタ、ニワトリ、サケ、ウナギ由来のものでもよく、さらにはヒトとそれら動物由来のもののキメラ体でもよい。さらに一部構造を変化させた活性誘導体でもよい。例えば、ブタ由来のインスリンや、カルシトニンではブタ、ニワトリ、サケ、ウナギ由来のものあるいはヒトとサケのキメラ体であって、例えば式(IX)
Figure 0003737832
で表されるペプチド〔エンドクリノロジー(Endocrinology)1992,131/6(2885−2890)〕などが挙げられる。
上記生理活性ペプチドの中では、TRH、LH−RH、エンケファリン、バソプレシン、インスリン、hPTH(1→34)、PTH、カルシトニンが更に好ましく、hPTH(1→34)、PTH、カルシトニンが特に好ましい。
【0011】
非ペプチド薬の好ましい具体例として、例えばモルヒネあるいはブプレノルフィンなどの麻薬性鎮痛剤、硝酸イソソルバイトあるいはプロプラノロールなどの狭心症治療薬、フェンタニル、スコポラミン、リドカイン、ピロカルピンなどが挙げられる。
薬物含有層に含有される薬物は薬物含有層に部分あるいは完全溶解していてもよく、また固体状態で分散していてもよい。
薬物の薬物含有層への配合量は、使用する薬物の種類、投与対象動物(例、マウス,ラット,ウシ,ウマ,サル,人等の温血哺乳動物)、投与部位(例、腕,腹部,背部等)により種々異なるが、薬物の有効量であればよい。例えば、ヒト副甲状腺ホルモン,その誘導体またはそれらの塩を成人(体重50kg)へ投与するための薬物含有層は、薬物含有層に該薬物を好ましくは約0.01から約20重量%、さらに好ましくは約0.03から約16重量%、特に好ましくは約0.05から約14重量%含有させる。該マトリックスを一回の使用において、好ましくは約0.02から約1g、特に好ましくは約0.05から約0.5g用いる。
【0012】
本発明のイオントフォレシス用マトリックスの薬物含有層の厚さは自己保形性を維持できる程度であれば薄いほど好ましい。具体的には、例えば0.05mm未満が好ましい。さらに約0.005から0.05mm未満がより好ましく、約0.01から約0.03mmが特に好ましい。
薬物含有層の重量は、好ましくは約0.02から約2g、特に好ましくは約0.05から約0.5gである。
本発明のイオントフォレシス用マトリックスの薬物含有層の形状は皮膚に適合して期待する吸収が得られる形状であればどのようなものでもよい。例えば円や長円や正方形あるいは長方形のフィルム状ないしシート状の形状などが挙げられる。また好ましい断面積は約0.5cm2から約150cm2 で、より好ましくは約1cm2から約50cm2である。
【0013】
本発明のイオントフォレシス用マトリックスの薬物含有層を製造するための好ましい基剤としては、例えば水に対する溶解度が、約20±5℃で約10%(w/v)以上のフィルム形成能を有する水溶性の高分子物質が用いられる。該水溶性の高分子物質としては、例えばファーム・テク・ジャパン(Pharm Tech Japan)、7巻、第51〜79頁(1991年)に記載された一般に錠剤などのフィルムコーティングに用いられる高分子で水溶性のフィルム基剤が挙げられる。さらに具体的には、例えば水溶性のセルロース誘導体(例、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、水溶性多糖類(例、デキストリン、プルラン、アルギン酸ナトリウム等)、水溶性のタンパク質(例、ゼラチン等)などが挙げられる。水溶性のセルロース誘導体が特に好ましい。
上記フイルム基剤は単独あるいは複数を適宜の割合で組み合わせてもよい。
【0014】
また上記薬物含有層用の基剤の他にそれ自身では薬物含有層を形成しないが添加剤として用いれば薬物含有層の特性を改善したり、水分との反応速度や反応後の粘性を変えることにより薬物の放出を調整できる物質を配合してもよい。該物質としては、各種分子量のポリエチレングリコール(例、PEG-6000)、ポリビニールアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニールポリマー、アルブミン、コラーゲン、カンテン、グリセリン、各種アミノ酸、しょ糖、ぶどう糖、マニトールなどの糖類やTween80やHCO60などの界面活性剤などが挙げられる。
またそれぞれの薬物がその皮膚から吸収されるための溶解補助剤(例、αCD、βCD、γCDなどのシクロデキストリン類など)、抗酸化剤(例、ビタミンCおよびビタミンEなど)、薬物吸収促進剤(例、エイゾンや脂肪酸など)などをさらに添加し得る。さらに薬物が生理活性ペプチドである場合、薬物のマトリックス内での分解を防ぐためのアプロチニン(aprotinin)、カモスタット(camostat mesilate)、キモスタチン(chymostatin)などの酵素阻害剤を配合してもよい。
また皮膚に保水性を持たせることにより高い吸収性を得る目的で、尿素、ヒアルロン酸、レシチン、セラミドまたは合成の脂質などを用いて調製されたリポソームなどを配合することもできる。
【0015】
また薬物の放出性を制御する目的で、上記添加物以外に、必ずしも水溶性ではないフイルム基剤あるいは特定のpH範囲で溶解するフィルム基剤(ファーム・テク・ジャパン, 7巻: 51−79頁,1991年)が適当量配合されてもよい。そのようなフィルム基剤としてメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタール酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルファー化デンプン、アミノアクリルメタアクリレートコポリマー(オイトラギットE、オイトラギットRS)、メタアクリル酸コポリマー(オイトラギットL、オイトラギットS)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(キミロイド)、精製セラック、白色セラックなどが挙げられる。
上記フィルム基剤以外の添加物の配合濃度は、フィルム特性を維持できる範囲内であれば特に規定しない。
【0016】
本発明のイオントフォレシス用マトリックスの薬物含有層は、さらに水溶性カルボン酸を含有させてもよい。この場合、水溶性カルボン酸の配合量は、具体的には、例えば薬物のモル数とカルボン酸のモル当量数(カルボン酸のモル数×カルボン酸の電荷数)の比が約1:20から約1:400、好ましくは約1:40から約1:400となるように配合することが好ましい。
上記水溶性カルボン酸の好ましい例として、例えば水溶性脂肪族カルボン酸が挙げられる。より好ましくは、炭素数2から6の水溶性脂肪族カルボン酸が挙げられる。特に好ましくは、1から5個の水酸基を有していてもよい炭素数2から6の脂肪族モノ、ジおよびトリカルボン酸である。該水溶性カルボン酸の具体例としては、例えば酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、乳酸、グルコン酸、グルクロン酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フタル酸、マレイン酸等が挙げられる。これらの中で、酢酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、乳酸、グルコン酸、グルクロン酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸が更に好ましい。特に、クエン酸、酒石酸、コハク酸が好ましい。
これら水溶性カルボン酸は、薬理効果を示さない水溶性カルボン酸が好ましい。
上記水溶性カルボン酸は、その塩として用いてもよく、例えばアルカリ金属(例、ナトリウム,カリウム等),アンモニア,有機アミン類〔例、アルキルアミン類(例、ジエチルアミン,トリエチルアミン等),芳香族アミン類(例、ピリジン,ルチジン等)等〕等の塩基と上記ジまたはトリカルボン酸との塩が挙げられる。具体例を挙げれば、クエン酸モノナトリウム塩,酒石酸モノナトリウム塩,コハク酸モノカリウム塩等である。
【0017】
水溶性カルボン酸における水溶性は、該カルボン酸1gまたは1mlを20±5℃において溶かすに要する水の量により示される。本発明には該水量が好ましくは約10ml未満、さらに好ましくは約5ml未満、特に好ましくは約1ml未満のカルボン酸が用いられる。
本発明のイオントフォレシス用マトリックスの薬物含有層は、例えば次のようにして製造される。薬物含有層用の基剤を溶媒に溶解し、この溶液に薬物を溶解あるいは分散させ、必要であれば上記各種添加剤を加え均一とした後、鋳型に流し込み、冷蔵庫内あるいは乾燥剤の入ったデシケーター内あるいは約20±5℃で自然乾燥させるかあるいは減圧(例、約0.01〜約0.1気圧)加温(例、約30〜約60℃)下で乾燥させるかあるいは凍結乾燥することにより製造する。
上記溶媒としては、水、ケトン類(例、アセトン,エチルメチルケトン等)、アルコール類(例、エタノール,メタノール等)などが用いられる。
その際、柔軟可塑剤として、水,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール,グリセリンなどが、また、誘電性を付与するための電解質としては塩化ナトリウム,炭酸ナトリウム,リン酸,クエン酸ナトリウムなどが適宜配合される。
【0018】
基剤の使用量は、基剤の種類、薬物含有層の形状(例、フイルム状,シート状等)などにより異なるが、薬物含有層の自己保形性を維持し得る程度に用いる。例えば、水溶液とした場合の濃度が、好ましくは約0.1から約30重量%、より好ましくは約0.5から約20重量%、特に好ましくは約1から約15重量%となる量を用いる。
各原料の配合量は、最終製品における各原料の量が、前述の範囲を満たすように適宜選択される。
本発明のイオントフォレシス用マトリックスは、薬物含有層のみからなるマトリックスとしても、または薬物含有層と電極用マトリックスとの組み合わせからなるマトリックスとしても用いられる。
薬物含有層のみからなるマトリックスとして用いる場合、例えば予め湿らせておいた皮膚に接着させて用いることができる。
薬物含有層と電極用マトリックスとの組み合わせからなるマトリックスとして用いる場合、本イオントフォレシス用マトリックスが投与部位に確実に投与できるためには、薬物含有層の投与前の好ましい形態として、例えば薬物含有層の一方の面がそれとは別の支持膜に緩く接着していて、電極用マトリックスに接触させると支持膜から容易に剥離して、その投与面に正確に接着するような形態をとることが好ましい。このような支持膜の材質としては、表面をワックス、シリコン、ラテクッスあるいはフッ素樹脂などで被覆された紙やプラスチック等が挙げられる。
【0019】
電極用マトリックスの基剤としては、皮膚に悪影響(刺激,腐食等)を及ぼさず、皮膚密着性に富み、且つ導電性を示す基剤であればいかなるものも用いることができる。該基剤の好ましい例としては、例えば親水性樹脂または高分子化合物が用いられる。親水性樹脂としては、たとえばポリアクリルアミド,ポリアクリル酸またはそのアルカリ金属塩またはそのエステル等のアクリル系樹脂,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリビニルエチルエーテルおよびそのコーポリマー等のビニル系樹脂,トラガントガム,カラヤガム等の天然多糖類などが、また、高分子化合物としては、メチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒアルロン酸またはそのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0020】
電極用マトリックスとしては、綿,濾紙,メンブランフィルターなどの素材に導電性を付与したものを用いることもできる。
電極用マトリックスは、自己保形性を維持しうる程度に調製し、フィルム状ないしシート状に展延する。
電極用マトリックスは、例えば上記電極用マトリックスの基剤を水に溶解、成形し製造することができる。
電極用マトリックスは、さらに水溶性カルボン酸を含有させてもよい。該水溶性カルボン酸としては、上記の水溶性カルボン酸が用いられる。
電極用マトリックスは、薬物含有層を支持するだけでなく、水分または上記の水溶性カルボン酸を供給することもできる。
【0021】
本発明のイオントフォレシス用マトリックスを、自体公知の方法により適当な電源と組み合わせてイオントフォレシスを行うことにより、薬物を例えば温血哺乳動物(例、マウス,ラット,ウシ,ウマ,サル,人等)に安全に経皮投与することができる。該電源としては、本発明のイオントフォレシス用マトリックスより薬物を効率よく生体内に移動させ得るものであれば、いかなる電源でもよい。
本発明のイオントフォレシス用マトリックスは、陽極または陰極のいずれにも用いることができる。陽極に用いることが特に好ましい。
上記電源の好ましい例として、例えば本発明のイオントフォレシス用マトリックスに連続直流電流またはパルス直流電流を印加しうる電源が挙げられる。さらに、パルス直流電流を印加し得る電源が好ましい。特に方形型パルス直流電流を印加し得る電源が好ましい。
【0022】
連続直流電流の電流値は、約0.01から約4mA/cm2が好ましい。より好ましくは約0.1から約4mA/cm2である。
パルス直流電流の周波数は、好ましくは約0.1から約200kHz、より好ましくは約1から約100kHz、特に好ましくは約5から約80kHzの範囲より適宜選択される。
パルス直流電流のオン/オフ(on/off)の比は、好ましくは約1/100から約20/1、より好ましくは約1/50から約15/1、特に好ましくは約1/30から約10/1の範囲より適宜選択される。
パルス直流電流の電流値は、好ましくは約0.1から約4mA/cm2、より好ましくは約0.3から約3.5mA/cm2、特に好ましくは約0.5から約3mA/cm2の範囲より適宜選択される。
通電時間は、連続通電で約24時間以下、さらに約12時間以下、特に約6時間以下が好ましい。
【0023】
好ましい通電方法は、例えば約1分から約6時間、より好ましく約1分から約2時間、特に好ましくは約10分から約1.5時間の連続通電期間とその後に続く約1分から約6時間、より好ましくは約10分から約4時間、特に好ましくは約30分から約2時間の非通電期間を合わせて1サイクルとしたとき、少なくとも2回該サイクルを繰り返すことが好ましい。通電/非通電のサイクルは3回以上繰り返すことが特に好ましい。
通電/非通電のサイクルを繰り返す場合において、通電期間の総和は約10分から約24時間となることが好ましい。より好ましくは約30分から約2時間である。
上記の通電/非通電のサイクルを繰り返すイオントフォレシスには、例えばパルス直流電流、連続直流電流、好ましくはパルス直流電流が用いられる。このパルス直流電流の周波数は、約1から約100kHzが好ましい、より好ましくは約20から約60kHzである。このパルス直流電流のオン/オフ(ON/OFF)比は、約10/1から約1/10が好ましい。より好ましくは約3/1から約1/3である。パルス直流電流の電流値は、約0.01から約4mA/cm2が好ましく、約0.5から約3mA/cm2がより好ましい。特に好ましくは約0.8から約1.8mA/cm2である。
連続直流電流の電流値は、約0.01から約4mA/cm2が好ましく、約0.01から約1mA/cm2がより好ましい。特に好ましくは約0.05から約0.3mA/cm2である。
本発明のイオントフォレシス用マトリックスは、例えば図1から図4に示すような形態で用いることができる。
【0024】
【実施例】
以下に、参考例、実施例、実験例により、本発明を具体的に例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
特にことわりのない限り、参考例中の%は容量%を、実施例,実験例中の%は重量/容量%を示す。
参考例1 ヒト副甲状腺ホルモン(以下、hPTHと略記)のアミノ基末端から34番目までのアミノ酸からなる活性フラグメントの酢酸塩〔以下、hPTH(1→34)酢酸塩と略記する〕の合成と精製
ペプチドであるhPTH(1→34)酢酸塩の合成はメリフィールドらにより開発されたペプチドの固相合成法〔アール・ビー・メリフィールド(R. B. Merrifield) アドバンシズ イン エンザイモロジー(Adv. Enzymol.)32巻、221−296頁 1969年)の変法に準じて行われ、自動ペプチド合成機430A(アプライドバイオシステムズ社、米国)を用いた。保護ペプチド−樹脂の合成はアプライドバイオシステムズ社指定のプロトコールを用いた。縮合時に各アミノ酸のα−アミノ基を保護するため、三級ブチルオキシカルボニル(BOC)基を用いた。側官能基保護は次のように行った。セリンとスレオニンのヒドロキシル基はo−ベンジルエーテルとして、グルタミン酸及びアスパラギン酸のカルボキシル基はベンジルエステルとして、ヒスチジンのイミダゾール窒素はベンジルオキシメチルによって、リジンの側鎖アミノ基は2−クロルベンジルオキシカルボキシルで、アルギニンのグアニジン官能基はp−トルエンスルホニル基で、トリプトファンのインドールイミンはホルミル基で保護した。すべてのアミノ酸は、アプライド・バイオシステムズジャパン社又はバチェム・ケミカルズから入手した。
【0025】
Boc−L−フェニルアラニン−p−オキシメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂(ポリスチレン−1%ジビニルベンゼン)を出発原料とし、これに逐次保護アミノ酸を縮合させた。樹脂上に全てのアミノ酸を縮合した後、保護ペプチド樹脂を合成機から取り出し、乾燥した。ペプチド樹脂(1g)と、p−クレゾール(1ml)、1,2−エタンジチオール(1ml)及び2−メルカプトピリジン(100mg)を含んだ無水フッ化水素(8ml)とを0℃で2時間反応させた。反応終了後、フッ化水素を留去、残留物をジエチルエーテルで洗浄して大部分の混合試薬を除去した。生成したペプチドを3%酢酸(10ml)で抽出し、濾過により樹脂を除いた。濾液をセファデックスG−25(ファルマシア社製,スエーデン)を用いるゲル濾過により精製した。ゲル濾過の条件は、カラムサイズ2.8×60cm、検出波長230もしくは280nm;溶媒、3%酢酸;流速40ml/時間であった。ペプチドを含むフラクションを集めて凍結乾燥し、得られた粉末標品をさらに逆相高速液体クロマトグラフィーで精製した。カラムYMC−パック、A−324 ODS(10×250mm)溶出溶媒A,0.1%トリフルオロ酢酸−99.9%水;溶出溶媒B,0.1%トリフルオロ酢酸−99.9%アセトニトリル;溶出濃度勾配プログラム、0分(90%A+10%B)、30分(60%A+40%B)溶出速度1.6ml/分、検出波長230または280nm。純粋な目的物を含むピーク画分を集めてバイオラッドAGI×8(酢酸型、1.8×5cm)のカラムに通し、洗液も集めアセトニトリルを留去した後、凍結乾燥した。hPTH(1→34)の収量105mg。4%チオグリコール酸存在下、6規定塩酸で減圧封管中、110℃、24時間加水分解後のアミノ酸分析値は次のとおりであった。カッコ内は理論値。Asp 4.00(4); Ser 2.54(3); Glu 4.92(5); Gly 0.91(1); Val 2.61(3); Met 1.97(2); Ile 0.83(1); Len 4.90(5); Phe 0.91(1); Lys 2.82(3); His 2.48(3); Trp 0.76(1); Arg 1.74(2)。
【0026】
実施例1
参考例1で製造したhPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液1mlにヒドロキシプロピルセルロース〔HPC−L(日本曹達製)〕の6.25%エチルアルコール溶液4mlを加え均一溶液とした。この溶液0.5gをシリコン・ゴム製の底面積8cm2、厚み約1mmの円筒状のくぼみの中に流し込み、常温(25℃)常圧(1気圧)下でアルコールを蒸発させ、hPTH(1→34)酢酸塩を1mg含有する断面積8cm2,重量27mg、厚さ0.024mmの円筒状薬物含層を製造した。
【0027】
実施例2
実施例1と同様にして製造したhPTH(1→34)酢酸塩およびHPC−Lの溶液1.0gをシリコン・ゴム製の底面積16cm2、厚み約1mmの円筒状のくぼみの中に流し込み、常温(25℃)常圧(1気圧)下でアルコールを蒸発させ、hPTH(1→34)酢酸塩を2mg含有する断面積16cm2、重量54mg、厚さ0.024mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0028】
実施例3
実施例1と同様にして製造したhPTH(1→34)酢酸塩およびHPC−Lの溶液0.2gをシリコン・ゴム製の底面積3.2cm2および厚み約1mmの円筒状のくぼみの中に流し込み、常温(25℃)常圧(1気圧)下でアルコールを蒸発させ、hPTH(1→34)酢酸塩を0.4mg含有する断面積3.2cm2、重量10mg、厚さ0.022mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0029】
実施例4
HPC−Lの6.25%エチルアルコール溶液の代わりにHPC−Lの3.125%エチルアルコール溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、hPTH(1→34)酢酸塩を1mg含有する断面積8cm2、重量14.5mg、厚さ0.013mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0030】
実施例5
HPC−Lの6.25%エチルアルコール溶液の代わりにHPC−Lの12.5%エチルアルコール溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、hPTH(1→34)酢酸塩1mgを含有する断面積8cm2、重量52mg、厚さ0.046mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0031】
実施例6
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、hPTH(1→34)酢酸塩を0.2%を含有する50mMクエン酸水溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、hPTH(1→34)酢酸塩を0.2mg含有する断面積8cm2、重量26.2mg、厚さ0.023mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0032】
実施例7
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、hPTH(1→34)酢酸塩を2%を含有する50mMクエン酸水溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、hPTH(1→34)酢酸塩を2mg含有する断面積8cm2、重量28mg、厚さ0.025mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0033】
実施例8
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、hPTH(1→34)酢酸塩を4%を含有する50mMクエン酸水溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、hPTH(1→34)酢酸塩を4mg含有する断面積8cm2、重量30mg、厚さ0.027mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0034】
実施例9
HPC−Lの6.25%エチルアルコール溶液の代わりにヒドロキシプロピルメチルセルロース〔TC−5(信越化学社製)〕の6.25%エチルアルコール分散液を用いること以外、実施例1と同様にして、hPTH(1→34)酢酸塩を1mg含有する断面積8cm2、重量27mg、厚さ0.024mmの円筒状薬物含有層を製造した。なお、TC−5は100%エチルアルコール中ではコロイド分散して存在するが、hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸溶液を混和後TC−5のコロイドは溶解した。
【0035】
実施例10
HPC−Lの6.25%エチルアルコール溶液の代わりにHPC−Lを3.125%およびメチルセルロース〔メトロースSM(信越化学社製)〕を3.125%含有するHPC−Lおよびメチルセルロースのエチルアルコール溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、hPTH(1→34)酢酸塩を1mg含有する断面積8cm2、重量27mg、厚さ0.024mmの薬物含有層を製造した。
【0036】
実施例11
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、サケカルシトニン(以下、sCTと略する。シグマ社製、米国)を0.2%を含有する50mMクエン酸水溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、sCTを0.2mg含有する断面積8cm2、重量26.2mg、厚さ0.023mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0037】
実施例12
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、sCTを0.02%含有する50mMクエン酸水溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、sCTを0.02mg含有する断面積8cm2、重量26mg、厚さ0.023mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0038】
実施例13
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、牛膵臓インスリン(和光純薬製)を1%を含有する50mMクエン酸水溶液を用いた外、実施例1と同様にして、牛膵臓インスリンを1mg含有する断面積8cm2、重量27mg、厚さ0.023mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0039】
実施例14
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、TRH〔インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファルマシウチクス(International Journal of Pharmaceutics)第69巻、第69〜75頁(1991年)記載の方法により製造したものを用いた〕を1%を含有する50mMクエン酸水溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、TRHを1mg含有する断面積8cm2、重量27mg、厚さ0.023mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0040】
実施例15
hPTH(1→34)酢酸塩を1%含有する50mMクエン酸水溶液の代わりに、リュープロライド(武田薬品工業製)を0.2%を含有する50mMクエン酸水溶液を用いること以外、実施例1と同様にして、リュープロライドを0.2mg含有する断面積8cm2、重量26.2mg、厚さ0.023mmの円筒状薬物含有層を製造した。
【0041】
実験例1
8%ポリビニールアルコール水溶液をゲル化・成形して得られる断面積8cm2、厚さ1mmの円筒状の電極用マトリックスの表面に実施例1から15で作製した薬物含有層を貼付した。該薬物含有層は貼付後1分以内に溶解した。
また実施例1と同様な方法でhPTH(1→34)酢酸塩を含有しない薬物含有層を製造し、予め水分で湿らせた上腕部の皮膚に接触させた。該薬物含有層は貼付後1分以内に溶解した。
【0042】
実験例2
ポリビニルアルコールを8%含有する33mMクエン酸水溶液(0.8ml)をゲル化・成形して得られる断面積8cm2、厚さ1mmの円筒状の電極用マトリックスの表面に、実施例1の薬物含有層を、ピンセットを使ってシリコン製鋳型から剥離した後貼付し、陽極側イオントフォレシス用マトリックスとした。また、ポリビニルアルコールを8%含有する33mMクエン酸水溶液(0.8ml)をゲル化・成形して得られる断面積8cm2、厚さ1mmの円筒状の電極用マトリックスを陰極側イオントフォレシス用マトリックスとした。これらのイオントフォレシス用マトリックスにカーボンコーティングチタン電極を装着して、それらを雄性SD系ラット(体重約250g)のあらかじめ除毛した腹部に接触させた。特に陽極側イオントフォレシス用マトリックスは、実施例1の薬物含有層を貼付した面が腹部に接触するようにした。
ラットへの陽極側および陰極側イオントフォレシス用マトリックスの接触に際しては、ラットをエーテルで麻酔した後、接触直前に実施例1の薬物含有層を貼付した陽極側イオントフォレシス用マトリックスおよび陰極側イオントフォレシス用マトリックスをラット腹部に接触し伸縮性包帯で固定した後、さらにラットをボルマンケージで保定した。
【0043】
電気供給装置には、ADIS4030〔アドバンス(ADVANCE)社製,日本〕を用いた。通電は、直流パルス電流(40kHz;ON/OFF=3/7;電流値、1.5mA/cm2)を1時間通電した。
血清中hPTH(1→34)濃度はラジオイムノアッセイ法〔ラット・ピー・ティー・エイチ・キット(Rat PTH Kit)イムトピックス・インコーポレーテッド(Immutopics, Inc)製〕により測定した。
投与後の血清中hPTH(1→34)濃度は、通電後1時間で最大血中濃度(約840pg/ml)を示した。この結果は、実施例1の薬物含有層を電極用マトリックスに貼付したイオントフォレシス用マトリックスを用いることにより迅速な吸収および高いバイオアベイラビリーが得られることを示す。
【0044】
実験例3
実施例1の薬物含有層の代わりに実施例11の薬物含有層を用いること以外、実験例2と同様にしてsCTの経皮吸収性を評価した。sCTの経皮吸収性は、血清中カルシュウム濃度を経時的に測定することにより評価した。
血清中カルシュウム濃度は血中カルシュウム測定キット(カルシュウムE−テストワコー、和光純薬工業製)により測定した。
血清中カルシュウム濃度の時間推移を〔図5〕に示した。1時間後、2時間後のカルシュウム濃度はsCT投与前の正常レベルに対し、有意に低下し、迅速なsCTの吸収が示された。
【0045】
実験例4
イオントフォレシスを下記の通電条件で行うこと以外、実験例2と同様にしてhPTH(1→34)の経皮吸収促進性を評価した。
通電条件:
パルス直流電流(40kHz;ON/OFF=3/7;電流値、1.5A/cm2)を用い、通電期間1時間/非通電期間1時間のサイクルを4回繰り返した。
血清中hPTH(1→34)濃度の時間推移を〔図6〕に示した。通電に応答した3つのピークをもつ高い血中PTH(3−34)濃度パターンが示された。
【0046】
実験例5
イオントフォレシスを下記の通電条件で行うこと以外、実験例3と同様にしてsCTの経皮吸収性を評価した。
通電条件:
パルス直流電流(40kHz;ON/OFF=3/7;電流値、1.5A/cm2)を用い、通電期間1時間/非通電期間1時間のサイクルを4回繰り返した。
血清中カルシュウム濃度の時間推移を〔図7〕に示した。有意な血清中カルシュウム濃度の低下(投与前の正常値の約60から65%)が長期に持続することが示された。
【0047】
実験例6
予め糊(コクヨ社製)を薄く塗っておいた剥離紙(タカラ社製)に、実施例1の薬物含有層を貼付し、緩く接着させた。該薬物含有層に、8%ポリビニルアルコール水溶液をゲル化・成形し得られる断面積8cm2、厚さ1mmの円筒状電極用マトリックスを接触させ、適度に押さえたのち、剥離紙を剥すと該薬物含有層が円筒状のゲル断面に残存、付着した。
【0048】
実験例7
実施例11のsCTを含有する薬物含有層を室温(25℃)で1週間保存後、薬物含有層中のsCT含量低下を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で評価した。
HPLC条件:カラム:GL−PACK ジー・エルー・サイエンス・リミテッド(GL Sciences Ltd)社製;溶出方法:グラジエント法〔A液:0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸水溶液、B液:0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル,A液/B液比を80/20(v/v)から50/50(v/v)までの直線的グラジエント〕;検出、UV280nm
その結果、sCT含量の低下は0%で、実施例11の薬物含有層中のsCTは安定に存在することが示された。
【0049】
【発明の効果】
本発明のイオントフォレシス用マトリックスを用いてイオントフォレシスを行うことにより、薬物放出のコントロールが容易で、薬物が効率よく経皮吸収され、マトリックスに含有させる薬物量を通常の使用量より少なくし得る、しかも皮膚のただれ等の副作用もほとんどない。薬物がペプチドである場合、薄膜とすることで水分による分解を抑制し、安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のイオントフォレシス用マトリックスを用いる装置の模式的な例示。なお、図中1は陰極側マトリックス、2は陽極側薬物含有層、3は電源、4は角質層、5は表皮、6は電極を示す。
【図2】本発明のイオントフォレシス用マトリックスを用いる装置の模式的な例示。なお、図中1は陰極側マトリックス、2は陽極側薬物含有層、3は電源、4は角質層、5は表皮、6は電極、7は絶縁層を示す。
【図3】本発明のイオントフォレシス用マトリックスを用いる装置の模式的な例示。なお、図中1は陰極側マトリックス、2は陽極側マトリックス、3は電源、4は角質層、5は表皮、6は薬物含有層、7は電極を示す。
【図4】本発明のイオントフォレシス用マトリックスを用いる装置の模式的な例示。なお、図中1は陰極側マトリックス、2は陽極側マトリックス、3は電源、4は角質層、5は表皮、6は薬物含有層、7は電極、8は絶縁層を示す。
【図5】実験例3におけるカルシウムの血清中濃度の時間推移。
【図6】実験例4におけるhPTH(1→34)の血清中濃度の時間推移。
【図7】実験例5におけるカルシウムの血清中濃度の時間推移。
【符号の説明】
【化5】
Figure 0003737832

Claims (14)

  1. 薬物を含有し厚さ0.05mm未満の薬物含有層を含んでなるイオントフォレシス用マトリックスであって、前記薬物含有層が水溶性のカルボン酸を含有しており、薬物のモル数とカルボン酸のモル当量数の比が1:20から1:400であるイオントフォレシス用マトリックス
  2. 薬物含有層が水溶性の高分子物質よりなる請求項1記載のマトリックス。
  3. 高分子物質がセルロース誘導体である請求項2記載のマトリックス。
  4. カルボン酸が炭素数2から6の脂肪族カルボン酸である請求項1記載のマトリックス。
  5. 薬物が分子内に少なくとも1個の塩基性官能基を有する生理活性ペプチドである請求項1記載のマトリッス。
  6. ペプチドの分子量が約7000以下である請求項5記載のマトリックス。
  7. ペプチドの等電点が約5.5以上である請求項5記載のマトリックス。
  8. 薬物がカルシウム調節ホルモンである請求項1記載のマトリックス。
  9. カルシウム調節ホルモンが副甲状腺ホルモン、その誘導体またはそれらの塩である請求項8記載のマトリックス。
  10. カルシウム調節ホルモンがカルシトニン、その誘導体またはそれらの塩である請求項8記載のマトリックス。
  11. 請求項1記載のイオントフォレシス用マトリックスに通電/非通電のサイクルを繰り返すことを特徴とするイオントフォレシス。
  12. パルス直流電流を通電することを特徴とする請求項11記載のイオントフォレシス。
  13. 連続直流電流を通電することを特徴とする請求項11記載のイオントフォレシス。
  14. 直流電流を約0.01から約4mA/cm2の電流値で通電することを特徴とする請求項12または13記載のイオントフォレシス。
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