JP3734469B2 - 定着装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、加熱したローラ対のニップに、未定着トナー画像を担持した用紙を挿入して、未定着トナーを加熱、溶融し、用紙に定着する定着装置に関する。特に、誘電加熱方式により加熱する定着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子写真方式の画像形成装置においては、ニップを形成するローラ対の少なくとも一方のローラに熱源を内蔵し、この熱源によって加熱したローラ対のニップに未定着トナー画像を担持した用紙を挿通することによって用紙にトナーを定着する熱ローラ定着方式が広く用いられている。
【0003】
このような熱ローラ定着方式では、定着部材に内蔵されたハロゲンランプなどの熱源から、定着ローラ表面までの熱伝達の効率が低く、熱の損失が大きい。また、定着ローラ表面まで熱が伝達するのに長い時間が必要である。
【0004】
そのため、励磁コイルを使用した誘電加熱方式が提案され、定着ローラ自体を発熱させる定着装置が使用されるようになった。その結果、高い加熱効率で消費電力が少なく、定着ローラ表面が定着可能な温度に達するまでのウォームアップ時間の短縮が可能である。
【0005】
しかしながら、これらの加熱方式においては、定着装置に用紙を通紙した時に、定着ローラの軸方向の中央部分のみが用紙に熱を奪われ、これが繰り返されると中央部分の温度が両端部の温度よりも低下する。これにより、定着ローラ表面に軸方向の温度ムラが発生し、均一な定着が望めなくなるといった問題が発生する。
【0006】
これを改善するために、定着ローラの通紙域内と域外の2ヶ所にサーミスタを設け、この検知温度に基づいて、定着ローラ内に設けた励磁コイルの出力を変更して、定着ローラ表面の温度の均一化を図る定着装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−66543号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、励磁コイルを内蔵した定着ローラの内部は、加熱された定着ローラからの輻射熱と、励磁コイル自体の発熱により、非常に高温となる。また、磁界を強める働きを持ち、励磁コイルとともに広く用いられているフェライトは、温度による特性の変化があり、200°Cを超えると、フェライトが有する高い透磁性能を喪失してしまう。特許文献1記載の定着装置では、これらの問題が発生する。また、定着ローラ表面の軸方向の温度ムラに対する対策も十分であるとは言えない。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、誘電加熱方式により加熱する定着装置において、定着ローラの発熱によるフェライトなど高透磁部材への悪影響を回避する定着装置を提供することを目的とする。また、定着部材の用紙幅方向の加熱幅を容易に変更可能で、加熱ムラの低減が可能な定着装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明は、用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、用紙幅方向の長さが前記ニップに通紙可能な最大幅の用紙の幅よりも短い高透磁部材を配置した。
【0011】
この構成によれば、高透磁部材を定着部材の外側に配置しているので、定着部材の発熱による高透磁部材への悪影響を回避することができる。その結果、高透磁部材の性能が低下することがないので、高い加熱効率を得ることが可能である。さらに、励磁コイルから発生する磁束のほとんどが高透磁部材を通過するようになるので、磁界を強めることができるとともに、磁束の通る場所を把握し易くなり、定着部材の発熱箇所をコントロールすることが可能である。また、通常の定着装置では、用紙は定着部材の中央部分を通る構成になっている。用紙が、通紙可能な最大幅の用紙であることは少なく、それよりも幅の短い用紙である場合がほとんどである。したがって、定着部材の中央部分は両端部に比べ、通過する用紙によって熱を奪われ易い。上記構成によれば、熱を奪われ易い中央部分に熱を集めることができ、不必要な部分を加熱することがないので、定着部材に軸方向の温度ムラが発生することはない。このようにして、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率を得ることが可能である
【0012】
また、用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、用紙幅方向の質量分布が、中央部から両端部に向かうにつれて少なくなった高透磁部材を配置することとした。
【0013】
この構成によれば、用紙幅方向において、高透磁部材を通過する磁束の量を調節することができ、中央部から両端部に向かうにつれて磁束を少なくすることができる。その結果、定着部材の用紙幅方向の温度分布を調節することができ、熱を奪われ易い中央部分に熱を集めることが可能となる。したがって、定着部材の加熱ムラを防止することが可能となる
【0014】
また、前記高透磁部材の用紙幅方向の質量分布が、用紙幅の規格に合わせて、中央部から両端部に向かうにつれて段階的に少なくなることとした
【0015】
この構成によれば、使用する用紙幅に合わせて、中央部から両端部に向かうにつれて段階的に磁束を少なくすることができる。その結果、用紙幅に応じた加熱制御を行うことができ、熱を奪われ易い中央部分に熱を集めることが可能となる。また、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる
【0016】
また、用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、用紙幅方向の位置が可変である高透磁部材を配置することとした
【0017】
この構成によれば、用紙幅が狭く、定着部材の用紙幅方向の一方の端部に寄せて用紙を通紙する時には、高透磁部材を用紙が通過する場所に移動することが可能である。その結果、用紙幅に応じた加熱制御を行うことが可能となり、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる
【0018】
また、用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、使用する用紙の幅に応じて配置間隔が可変である複数の高透磁部材を配置することとした
【0019】
この構成によれば、用紙幅が狭い時には高透磁部材を中央部に集中させ、用紙幅が広い時には高透磁部材を用紙幅方向に分散させることが可能である。その結果、用紙の幅及び通紙箇所に応じた加熱制御を行うことが可能となり、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる
【0020】
また、用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に配置した励磁コイルと、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて配置した高透磁部材とを備え、この高透磁部材と定着部材との距離を可変とした
【0021】
この構成によれば、用紙幅に応じて、高透磁部材を通過する磁束の量を調節することができる。その結果、高い加熱効率を得ることができ、加熱エネルギの浪費を防止することが可能となる。また、定着部材の加熱ムラを防止することも可能となる
【0022】
また、用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に配置した励磁コイルと、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて配置した高透磁部材とを備え、この高透磁部材と定着部材との間に、非磁性金属で構成した磁気遮蔽部材を配置することととした
【0023】
この構成によれば、高透磁部材を磁束が通過しないようにすることができる。その結果、定着部材を必要以上に加熱することを防止することが可能となる。したがって、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる
【0024】
また、前記磁気遮蔽部材の、前記高透磁部材へ向かう磁束を遮蔽する面積が可変であることととした
【0025】
この構成によれば、用紙幅に応じて、高透磁部材を通過する磁束の量を調節することができる。その結果、高い加熱効率を得ることができ、加熱エネルギの浪費を防止することが可能となる。また、定着部材の加熱ムラを防止することも可能となる
【0026】
また、前記定着部材の、最小用紙幅の端部近傍に第1の温度検出手段を備え、最大用紙幅の端部近傍に第2の温度検出手段を備え、この第1及び第2の温度検出手段の検出温度に基づいて、前記磁気遮蔽部材の移動量が変化することとした
【0027】
この構成によれば、定着部材の表面温度の状況が把握でき、この表面温度に基づいて、高透磁部材を通過する磁束の量を調節することができる。その結果、定着部材の表面温度に応じて加熱幅を決定することが可能となる。また、定着部材の表面温度を正確に把握できるので、加熱ムラを防止に関して迅速に対応することが可能となる
【0028】
また、前記磁気遮蔽部材の渦電流負荷が、3.0×10 -4 Ω以下であることとした
【0029】
ここで、渦電流負荷とは、材料固有の電気抵抗率を、電磁誘導により渦電流が発生する深さで割った値であり、R=ρ/zで表す(式中のRは渦電流負荷、ρは電気抵抗率、zは渦電流が発生する深さを示す)。通常、渦電流が発生する深さzは、磁界浸透深さδと同じであるので、z=δである。しかしながら、使用する金属層の厚さdが、この磁界浸透深さδよりも薄い場合には、z=dとなる。したがって、渦電流負荷RはR=ρ/dとなり、電気抵抗率ρと金属層の厚さdで決定される。また、逆に、渦電流負荷Rが決定されている場合には、この渦電流負荷Rと電気抵抗率ρから金属層の厚さdを導出することが可能である。
【0030】
一般的に、誘電加熱方式によって加熱する場合、非磁性金属は加熱が困難であるが、その厚さを薄くして、渦電流負荷を変えることによって加熱が容易になる。しかしながら、上記の構成によれば、磁気遮蔽部材が誘電加熱方式によって加熱されることはない。その結果、磁気遮蔽部材の近傍に設けられた高透磁部材に熱を伝えることがなく、高透磁部材の性能を維持することが可能である
【0031】
また、前記磁気遮蔽部材の渦電流負荷が、1.0×10 -4 Ω以下であることとした。
【0032】
このように、磁気遮蔽部材の非磁性金属層の渦電流負荷をさらに小さくすることによって、磁気遮蔽部材が誘電加熱方式によって加熱されないようにすることに対する安全性が増す。その結果、高透磁部材が加熱されず、さらに加熱効率が高い定着装置を提供することが可能である
【0033】
また、前記定着部材と前記高透磁部材との間に、断熱部材を配置することとした。
【0034】
この構成によれば、定着部材の放熱による影響を、高透磁部材が直接受けないようにすることができる。その結果、高透磁部材が輻射熱に晒されることがなく、性能が低下することがないので、高い加熱効率を得ることが可能である
【0035】
また、前記定着部材の非磁性金属層の渦電流負荷が、3.0×10 -4 Ωから2.0×10 -2 Ωの範囲であることとした
【0036】
一般的には、誘電加熱方式によって加熱する場合、発熱体として磁性金属を使用することが望ましいが、上記のように、定着部材の非磁性金属層の渦電流負荷を3.0×10 -4 Ωから2.0×10 -2 Ωの範囲とすることで、磁性金属を使用するよりも高い加熱効率を得ることができる。また、定着部材の表面を構成する非磁性金属がどのような金属であっても、高い加熱効率が得られる。その結果、それらの金属における適切な層の厚さを決定することが可能であり、実際に製作するのが容易である。また、これ以外の数値に基づいて製作されたものより加熱性能が良い
【0037】
また、前記高透磁部材が、フェライトであることとした。
【0038】
この構成によれば、高透磁部材として広く用いられているフェライトを採用し、簡単な構成で、加熱効率を高めることが可能である
【0041】
また、前記定着部材及び加圧部材の両方がローラで構成されることとした。
【0042】
この構成によれば、定着装置を構成する主な部品が、定着ローラ及び加圧ローラのみになるので、構造の簡素化を図ることができ、装置をよりコンパクトにすることが可能である。さらに、部品点数の削減によるコストダウンが可能である。
【0043】
また、前記定着部材及び加圧部材のうち、一方がローラ、他方がベルトで構成されることとした。
【0044】
この構成によれば、定着部材及び加圧部材の両方がローラである場合と比較して、一方にベルトを使用することにより、低熱容量化を図ることができる。また、適切なニップ時間を設定することができる。その結果、定着部材表面が定着可能な温度に達するまでの時間を、より短くすることが可能である。また、安定した定着性を得ることが可能である。
【0045】
また、前記定着部材及び加圧部材の両方がベルトで構成されることとした。
【0046】
この構成によれば、定着部材及び加圧部材を、さらに低熱容量化させることができる。その結果、定着部材表面が定着可能な温度に達するまでの時間を、さらに短くすることが可能である。
【0047】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図に基づき説明する。
【0048】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る定着装置を示す模型的断面図である。図2は、図1に示す定着装置の電磁誘導部の概略部分斜視図である。定着装置1には、定着部10と加圧部20が備えられ、定着部10の定着部材である定着ローラ11の内側には電磁誘導部30が配置されている。定着部10の外側には、断熱部材41、磁気遮蔽部材42、フェライト43が備えられている。また、用紙が進入してくる箇所には、用紙進入ガイド51が備えられている。
【0049】
定着部10は、定着部材である定着ローラ11で構成される。定着ローラ11は直径が40mm、軸方向長さが328mmで、耐熱樹脂等の芯材12の表面に非磁性金属層13が設けられている。非磁性金属層13が、例えばSUS304(日本工業規格によるステンレスの品種)である場合、その厚さは250μmとする。非磁性金属層13の外側には、厚さ20μmの離型層14を設け、トナーの離型性を高める。離型層14は、PFA(テトラフルオロエチレン−パー−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素系樹脂が用いられ、吹き付けによるコーティングやチューブを被せることによって設けられる。また、弾性層として、シリコンゴム層を芯材12と非磁性金属層13との間に設けてもよい。
【0050】
加圧部20は、加圧部材である加圧ベルト21と、主ローラ22と、副ローラ23で構成される。定着ローラ11と当接する加圧ベルト21は、厚さ50μmのニッケルが磁性金属層24として電鋳成型によって設けられ、その外側に、厚さ100μmのシリコンゴム層が弾性層25として設けられている。そのさらに外側には、厚さ50μmのPFAチューブが離型層26として被せられている。この加圧ベルト21に、主ローラ22及び副ローラ23によって所定の張力が与えられ、加圧ベルト21が定着ローラ11と当接することで用紙を挿通させるニップを形成する。
【0051】
ここで、上記定着部10及び加圧部20の構成は、定着ローラ11をベルトに代え、加圧部20をローラのみにするといった構成でも良い。また、両方ともローラ、或いは両方ともベルトであるといった構成でも良い。いずれの場合においても、後述する励磁コイル31を、定着部材内の、定着部材と加圧部材とが当接する箇所の近傍に配置する。定着ローラ11をベルトに代える場合は、ポリイミドフィルムに非磁性金属層をメッキ、或いは圧延処理にて設け、その外側にPFA等のフッ素系樹脂のコーティングを施す。
【0052】
電磁誘電部30は、励磁コイル31、支持部材32で構成される。励磁コイル31は、直径0.1mmのエナメル線300本を寄り合わせたリッツ線が、定着ローラ11の軸線に沿う方向に巻かれたものである。支持部材32は、耐熱性樹脂で構成され、定着ローラ11の曲率に基づいて形成された湾曲部32aが設けられている。励磁コイル31は、この湾曲部32aに沿うように巻かれている。励磁コイル31には、定格電力1500W、周波数20〜50kHzの高周波電源33が接続されている。
【0053】
この電磁誘電部30は、定着ローラ11と加圧ベルト21が当接する箇所に磁束が通るように、その当接箇所に励磁コイル31を近づけて定着ローラ11内に配置されている。
【0054】
また、定着ローラ11内の、定着ローラ11と加圧ベルト21が当接する箇所の近傍で、定着ローラ11内壁と電磁誘電部30の間にはサーミスタ15が備えられている。このサーミスタ15により加熱部の温度を検知し、高周波電源33の出力を制御して温度制御を行う。
【0055】
定着ローラ11の外側で、用紙進入ガイド51の上方には、定着ローラ11に近いほうから、断熱部材41、磁気遮蔽部材42、フェライト43が備えられている。断熱部材41は、厚さ2mmのフェルト状の断熱性繊維で構成されている。磁気遮蔽部材42は、非磁性金属であるアルミニウムで構成され、厚さ2mm、高さ30mm、定着ローラ11の軸方向長さ120mmの寸法を有する直方体である。磁気遮蔽部材42は、加圧部20との距離が可変である。フェライト43は、厚さ5mm、高さ25mm、定着ローラ11の軸方向長さ100mmの寸法を有する直方体である。断熱部材41、磁気遮蔽部材42、フェライト43は、定着ローラ11の軸方向の中央部分に配置されている。なお、フェライト43は、高い抵抗、高い透磁率を有する部材であれば、フェライト以外の部材で代替することが可能である。
【0056】
励磁コイル31を内蔵した定着ローラ11の内部は、加熱された定着ローラ11からの輻射熱と、励磁コイル31自体の発熱により、非常に高温となる。上記の構成によれば、フェライト43は定着ローラ11の外部に配置されるので、フェライト43が高温に晒されることがなく、フェライト43が有する高い透磁性能を喪失してしまうことはない。また、断熱部材41は、フェライト43が、定着ローラ11の外側への放熱の影響を受けないようにするために備えられている。
【0057】
なお、これまでに登場した寸法等の数値は、一つの好適例の例示であり、発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
図3は、図1に示す定着装置の加熱状態を示す模型的断面図である。図4は、図3に示す加熱状態の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフである。定着装置1は、次のように加熱動作を行う。
【0059】
励磁コイル31に高周波電流を流すと磁界が発生する。発生した磁界の磁束Maは、その多くが、定着ローラ11と加圧ベルト21とが当接する領域Aを通過する。発生した磁束Maが、定着ローラ11の非磁性金属層13及び加圧ベルト21の磁性金属層24を通過する時に、通過領域Aにおいて金属に渦電流が流れ、金属の負荷率により発熱する。この磁束Maは、加圧ベルト21と定着ローラ11を同時に通過するので、両方の部材で発熱する。このとき、図4に示すように、定着ローラ11の発熱量は、軸方向において変化がなく、一定である。
【0060】
次に、定着ローラ11とフェライト43の間に設けられた磁気遮蔽部材42を、定着装置1の上方に移動した時の加熱状態を示す。図5は、磁気遮蔽部材を移動した時の定着装置の加熱状態を示す模型的断面図である。図6は、図5に示す加熱状態の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフである。定着装置1は、次のように加熱動作を行う。
【0061】
励磁コイル31に高周波電流を流すと磁界が発生する。磁気遮蔽部材42を移動したことにより、発生した磁界の磁束の多くが高透磁部材であるフェライト43を通過する。発生した磁束Ma及びMbcが、定着ローラ11の非磁性金属層13及び加圧ベルト21の磁性金属層24を通過する時に、通過領域A、B、Cにおいて金属に渦電流が流れ、金属の負荷率により発熱する。
【0062】
このとき、フェライト43を通過する磁束Mbcのほうが、フェライト43を通過しない磁束Maよりも密度が高い。つまり、磁束Mbcが通過する領域B及びCのほうが、磁束Maが通過する領域Aよりも発熱量が多くなる。図6のグラフによると、領域Aでは定着ローラ11の軸方向の全域にわたって発熱し、領域B及びCではフェライト43の長さに相当する部分のみが発熱する。したがって、定着ローラ11の軸方向、つまり用紙幅方向の中央部分のみ発熱量が多くなる。
【0063】
これにより、磁気遮蔽部材42の移動量を調節することによって、フェライト43を通過する磁束Mbcを変化させることができ、定着ローラ11の用紙幅方向の発熱量の分布を調節することが可能である。
【0064】
例えば、A3サイズの用紙を長手方向に通紙する場合(用紙幅297mm)は、前記図3のように、磁気遮蔽部材42を、フェライト43を通る磁気を遮断できる位置に置き、図4のように定着ローラ11を軸方向の全域にわたって発熱させる。A5サイズの用紙を長手方向に通紙する場合(用紙幅148mm)は、図5のように、磁気遮蔽部材42を、フェライト43を通る磁気を全く遮らない位置に置き、図6のように定着ローラ11の軸方向の中央部分の発熱量を多くさせる。A4サイズの用紙を長手方向に通紙する場合(用紙幅210mm)には、これらの磁気遮蔽部材42の位置の中間に、磁気遮蔽部材42を置くことによって、定着ローラ11を用紙幅に対応した部分で発熱させる。
【0065】
このように、用紙幅が短い場合には、必要な部分のみ発熱量を多くすることができ、定着ローラ11の用紙幅方向の加熱幅を容易に変更可能となる。また、不必要な部分を加熱することがないので、加熱ムラの低減が可能となる。したがって、加熱エネルギの浪費が少なく、高い加熱効率が得られる。
【0066】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフである。フェライト43は、定着ローラ11の中央部から両端部に向かうにつれて、その質量が少なくなるような質量分布を成す形状で構成されている。これにより、フェライト43を移動することなく、定着ローラ11の中央部から両端部にかけて徐々に発熱量を少なくすることが可能となる。したがって、定着ローラ11の用紙幅方向の両端部が高温になるのを防止することができる。
【0067】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフである。フェライト43は、定着ローラ11の中央部から両端部に向かうにつれて、段階的にその質量が少なくなるような質量分布を成す形状で構成されている。これにより、フェライト43を移動することなく、用紙幅に応じて定着ローラ11を段階的に発熱させることが可能となる。したがって、用紙幅に応じた加熱制御を行うことが可能となり、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる。
【0068】
図9は、本発明の第4の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフである。フェライト43は、定着ローラ11の用紙幅方向の位置が可変である。用紙幅が狭く、定着ローラ11の用紙幅方向の一方の端部に寄せて用紙を通紙する時には、フェライト43を用紙が通過する場所に移動する。これにより、用紙が定着ローラ11の中央部を通過する時には、領域B’及びC’を加熱して、定着ローラ11の中央部分が発熱し、用紙が定着ローラ11の端部を通過する時には、領域B及びCを加熱して、定着ローラ11の片側が発熱する。したがって、用紙の幅及び通紙箇所に応じた加熱制御を行うことが可能となり、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる。
【0069】
図10は、本発明の第5の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフである。フェライトは、43a、43b、43cの複数で構成される。用紙幅が狭い時にはフェライト43aと43b及び43cが重なるように位置し、用紙幅が広い時にはフェライト43b及び43cが定着ローラ11の両端方向に広がるように移動する。これにより、用紙幅が狭い時には、領域B’及びC’を加熱して、定着ローラ11の中央部分が発熱し、用紙幅が広い時には、領域B及びCを加熱して、定着ローラ11のほぼ全域にわたって発熱する。したがって、用紙幅に応じた加熱制御を行うことが可能となり、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる。
【0070】
図11は、本発明の第6の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフである。フェライト43は、定着ローラ11との距離が可変である。用紙幅が狭い時には、フェライト43を定着ローラ11に近づけて磁束の密度を増し、用紙幅が広い時には、フェライト43を定着ローラ11から遠ざけて磁束の密度を減らす。これにより、用紙幅が狭い時には、領域B’及びC’を加熱して、定着ローラ11の中央部分が発熱し、用紙幅が広い時には、領域B及びCを加熱して、定着ローラ11のほぼ全域にわたって発熱する。したがって、用紙幅に応じた加熱制御を行うことが可能となり、加熱エネルギの浪費を防止し、高い加熱効率が得られる。
【0071】
図12は、本発明の第7の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的上面図及び斜視図である。定着ローラ11内には、最小サイズ用紙Paの用紙幅端部に相当する箇所と、最大サイズ用紙Pbの用紙幅端部に相当する箇所の2ヶ所にサーミスタ15a及び15bが備えられる。このサーミスタ15a及び15bで検出した定着ローラ11の表面温度に基づいて、図12(b)のように、磁気遮蔽部材42を移動し、フェライト43を通る磁束を調節する。これにより、定着ローラ11の表面温度に基づいた加熱制御を行うことが可能となる。また、定着部材の表面温度を正確に把握できるので、加熱ムラを防止に関して迅速に対応することが可能となる。なお、サーミスタ15a及び15bは、定着ローラ11の外側に備えられていても構わない。
【0072】
図13は、定着部材、加圧部材、磁気遮蔽部材を構成する金属の厚さと渦電流負荷の関係を示すグラフである。グラフの横軸は金属の厚さを示し、縦軸はその金属の渦電流負荷を示す。金属の種類としては、非磁性金属である銅、アルミニウム、SUS304と、磁性金属である鉄、ニッケルを挙げている。
【0073】
図中、領域Dは、誘電加熱方式によって容易に加熱可能な金属の渦電流負荷の範囲を示している。すなわち、定着部材と加圧部材を構成する金属の渦電流負荷が、3.0×10-4Ωから2.0×10-2Ωの範囲であれば、誘電加熱方式によって容易に加熱可能である。例えば、アルミニウムの場合、渦電流負荷が3.0×10-4Ω以上、つまり、その厚さを88μmより薄くすると加熱可能となるので、前記第1から第7の実施形態における定着ローラ11の非磁性金属層として使用することができる。
【0074】
また、アルミニウムの渦電流負荷が3.0×10-4Ω以下、つまり、厚さを88μmより厚くすると加熱困難になる。さらに、この渦電流負荷を1.0×10-4Ω以下に小さくする、つまり、厚さを265μm以上に厚くすることによって、前記第1から第7の実施形態における磁気遮蔽部材42が誘電加熱方式で加熱されないようにすることに対する安全性が増す。その結果、さらに加熱効率が高い定着装置を提供することが可能である。したがって、前記第1から第7の実施形態においては、厚さ2mmのアルミニウムで構成した磁気遮蔽部材42を使用している。
【0075】
上記のように本発明の実施形態を示したが、この他、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0076】
【発明の効果】
本発明の上記構成によれば、高透磁部材を定着部材の外側に配置しているので、定着部材の発熱による高透磁部材への悪影響を回避することができる。さらに、この高透磁部材の構成を工夫することで、用紙幅方向において、高透磁部材を通過する磁束の量を調節することができる。その結果、高透磁部材の性能が低下することがないので、高い加熱効率を得ることが可能である。また、定着部材の用紙幅方向の温度分布を調節することが可能となり、定着部材の用紙幅方向の両端部が高温になるのを防止することが可能となる。したがって、定着部材の加熱ムラを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施形態に係る定着装置を示す模型的断面図
【図2】 図1に示す定着装置の電磁誘導部の概略部分斜視図
【図3】 図1に示す定着装置の加熱状態を示す模型的断面図
【図4】 図3に示す加熱状態の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフ
【図5】 磁気遮蔽部材を移動した時の加熱状態を示す模型的断面図
【図6】 図5に示す加熱状態の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフ
【図7】 本発明の第2の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフ
【図8】 本発明の第3の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフ
【図9】 本発明の第4の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフ
【図10】 本発明の第5の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフ
【図11】 本発明の第6の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的底面図及び定着ローラの発熱量を示すグラフ
【図12】 本発明の第7の実施形態に係る定着装置の定着ローラを示す模型的上面図及び斜視図
【図13】 金属の厚さと渦電流負荷の関係を示すグラフ
【符号の説明】
1 定着装置
10 定着部
11 定着ローラ
13 非磁性金属層
20 加圧部
21 加圧ベルト
22 主ローラ
24 磁性金属層
30 電磁誘導部
31 励磁コイル
41 断熱部材
42 磁気遮蔽部材
43、43a、43b、43c フェライト

Claims (17)

  1. 用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、
    前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、用紙幅方向の長さが前記ニップに通紙可能な最大幅の用紙の幅よりも短い高透磁部材を配置したことを特徴とする定着装置。
  2. 用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、
    前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、用紙幅方向の質量分布が、中央部から両端部に向かうにつれて少なくなった高透磁部材を配置したことを特徴とする定着装置
  3. 前記高透磁部材の用紙幅方向の質量分布が、用紙幅の規格に合わせて、中央部から両端部に向かうにつれて段階的に少なくなることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
  4. 用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、
    前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、用紙幅方向の位置が可変である高透磁部材を配置したことを特徴とする定着装置
  5. 用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、
    前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に励磁コイルを配置し、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて、使用する用紙の幅に応じて配置間隔が可変である複数の高透磁部材を配置したことを特徴とする定着装置
  6. 用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、
    前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に配置した励磁コイルと、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて配置した高透磁部材とを備え、この高透磁部材と定着部材との距離を可変としたことを特徴とする定着装置
  7. 用紙上の未定着トナーを定着する定着部材と、この定着部材に当接して用紙を挿通させるニップを形成する加圧部材と、を備えた定着装置において、
    前記定着部材の材質を非磁性金属で構成し、前記加圧部材の材質を磁性金属で構成するとともに、定着部材内の、定着部材と加圧部材が当接する箇所の近傍に配置した励磁コイルと、この励磁コイルの近傍であって、定着部材の外側に、定着部材と間隙を設けて配置した高透磁部材とを備え、この高透磁部材と定着部材との間に、非磁性金属で構成した磁気 遮蔽部材を配置したことを特徴とする定着装置
  8. 前記磁気遮蔽部材の、前記高透磁部材へ向かう磁束を遮蔽する面積が可変であることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
  9. 前記定着部材の、最小用紙幅の端部近傍に第1の温度検出手段を備え、最大用紙幅の端部近傍に第2の温度検出手段を備え、この第1及び第2の温度検出手段の検出温度に基づいて、前記磁気遮蔽部材の移動量が変化することを特徴とする請求項に記載の定着装置。
  10. 前記磁気遮蔽部材の渦電流負荷が、3.0×10−4Ω以下であることを特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の定着装置。
  11. 前記磁気遮蔽部材の渦電流負荷が、1.0×10−4Ω以下であることを特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の定着装置。
  12. 前記定着部材と前記高透磁部材との間に、断熱部材を配置したことを特徴とする請求項ないし請求項11のいずれかに記載の定着装置。
  13. 前記定着部材の非磁性金属層の渦電流負荷が、3.0×10-4Ωから2.0×10-2Ωの範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の定着装置。
  14. 前記高透磁部材が、フェライトであることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の定着装置。
  15. 前記定着部材及び加圧部材の両方がローラで構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれかに記載の定着装置。
  16. 前記定着部材及び加圧部材のうち、一方がローラ、他方がベルトで構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれかに記載の定着装置。
  17. 前記定着部材及び加圧部材の両方がベルトで構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれかに記載の定着装置。
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