JP3734093B2 - Fe−Cr−Co系磁石合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、主として熱処理の際の表面酸化を抑制したFe−Cr−Co系磁石合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、Fe−Cr−Co系合金は、スピノーダル分解型永久磁石合金であることが古くから知られていたが、その熱処理の複雑さや温度管理の厳しさ等のために量産する上での困難性があった。このFe−Cr−Co系磁石合金は、近年小型リレー用として好ましい磁気特性を有していることが着目され、種々の改良が加えられている。
【0003】
一般的なFe−Cr−Co系磁石合金の場合、重量比でCrが20〜40%、Coが5〜30%含有し、残部がFeから成る合金であって、高温で溶体化熱処理した後、等温磁界中で熱処理及び時効熱処理を施し、これらの3種類の熱処理を経てスピノーダル分解を生じるものである。こうした処理の結果、非磁性マトリックス相中に強磁性の単磁区微粒子を形状異方性をもって析出させて磁気異方性を付与すれば、良好な磁石特性が得られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した3種類の熱処理は、Fe−Cr−Co系合金に磁石特性を得るためにそれぞれ必要不可欠であるが、磁石部品の小型化や高精度化が要求される場合には3種類の熱処理のうち、特に高温での溶体化熱処理が問題となっている。溶体化熱処理は、所定の形状に加工された部品を通常1200℃以上の温度で1時間〜3時間程度加熱保持した後、水又は氷水中へ投入して急激に冷却する処理(以下、焼入れと呼ぶ)である。高温で加熱保持する際は非酸化性雰囲気中、好ましくは還元性雰囲気である水素ガス中で行うが、この後の焼入れに際して製品が高温状態で空気や水と接触し、このため製品表面が酸化されてしまう。ここで形成された酸化皮膜は、主としてTi,V,Hf,Nb,Zrの酸化皮膜であり、最終工程でバレル処理をすれば或る程度除去できるが、基本的に密着性が良くて強固な皮膜であるために完全に除去できるまでには至らない。
【0005】
又、Fe−Cr−Co系磁石合金は各種用途に使用される際、何らかの表面処理をするのが一般的であるが、係る表面処理に際して上述した酸化皮膜が残っていると、様々な問題を生じてしまう。即ち、例えば、めっき性が悪くなったり、樹脂のコーティングをする際の付着性が悪くなったりすることがある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、合金表面に特定元素の酸化皮膜が形成されるのを有効に防止し得るFe−Cr−Co系磁石合金を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、重量比でCrを20〜40%、Coを5〜30%、Tiを必須とし、且つZr,Vのうちの選択された少なくとも1種以上(選択されずにTiのみとなる場合を含む)を合計で0.1〜3%、及びBを0.0005〜0.1(但し、0.1は含まず)%含有し、残部Feから成るFe−Cr−Co系磁石合金が得られる。
【0008】
【実施例】
最初に、本発明のFe−Cr−Co系磁石合金についての技術的概要を簡単に説明する。一般にTi,V,Hf,Nb,Zrは非常に活性であり、これらの元素を添加しないことが合金表面に特定元素の酸化皮膜が形成されるのを防止する上での最も簡単な解決策であるが、その反面、これらの元素はFe−Cr−Co系磁石合金を製造し易くし、上述した3種類の熱処理を容易にする観点から添加せざるを得ない。
【0009】
そこで、本発明者は、Fe−Cr−Co合金にTi,V,Zrが添加されて成る合金に微量の添加元素を加えることで表面酸化を抑制することができれば、上記の不具合が解消される点に着眼し、この仮定に基づいて種々元素について検討した結果、0.0005〜0.1(但し、0.1は含まず)%のB(ほう素)をFeと置換して添加することが最も効果的であることを見い出した。又、0.1%を越えてBを添加すると熱間加工性が悪くなることも見い出した。
【0010】
ここで、Fe−Cr−Co合金の基本成分は重量比でCrを20〜40%、Coを5〜30%とし、残部をFeとするものである。因みに、現在工業化されているものはCrを25〜35%、Coを10〜20%、残部をFeとする組成のものが殆どである。更に、これにTiを必須とし、且つZr,Vのうちの選択された少なくとも1種以上(選択されずにTiのみとなる場合を含む)を合計で0.1〜3%を残存有効成分として添加すれば、熱間圧延性が向上し、各種熱処理も容易になる上、磁石特性が向上することを見い出した。
【0011】
以下、本発明の実施例に係るFe−Cr−Co系磁石合金について、具体的に説明する。
【0012】
本実施例のFe−Cr−Co系磁石合金は、表1に示すような組成における試料番号1〜11の合金において、試料番号1〜3,8,9の合金であり、その他の試料番号4〜7,10,11の合金は比較例のものであるが、何れの合金についても真空溶解の後、鋳造したものである。
【0013】
【表1】
Figure 0003734093
【0014】
即ち、表1に示される組成における試料番号1〜11の合金は、それぞれ1100℃で鍛造した後、熱間圧延を行ってから厚さ5mmの板として得られたものである。参考までに、Bを0.15%添加した試料を溶解、鋳造するように試みたが、その後の鍛造で割れが発生し、その後の工程を進めることができなかったので、Bの添加量の多いデータは必然的に除去されている。更に、熱間圧延された板を、再度1100℃に加熱した後、焼入れを行ってから冷間圧延で板厚1mmとして仕上げた。ここでの焼入れは、冷間圧延性を良くすることを目的として行った。尚、ここでは素材表面にスケールが付着するが、これを除去するために、冷間圧延の工程中に酸洗及び砥石による研磨を行っており、仕上げ状態では、Ti,V,Hf,Nb,Zrの酸化皮膜が形成されていないことを確認できた。又、ここではCr,Coの重量比について、最も一般的なものについてのみ示すこととし、基本成分を30%Cr−15%Co−Feとした。
【0015】
熱処理については、溶体化熱処理を水素ガス中において温度1200℃で1時間保持した後、氷水中で焼入れするようにして行い、等温磁界中熱処理をアルゴンガス中において温度630℃で1時間保持した後に冷却するようにして行い、時効熱処理をアルゴンガス中において温度60〜500℃の領域を4℃/時間で冷却するようにして行った。表面酸化の有無はオージェ分析で特定元素(Ti,V,Hf,Nb,Zr)の酸化物が表面に観察されたか否かにより判定した。
【0016】
表1の試料番号1〜11の合金について、試料番号10,11の合金では特定元素の酸化物の形成が見られたのに対し、試料番号1〜9の合金では何れもこれは見られなかった。従って、Bを添加することにより特定元素の酸化物の形成が無くなることが判った。又、試料番号1〜9の合金では、試料番号10,11の合金の場合と同じように、高い最大エネルギー積(BHmax)を示した点からも明らかであるように、Bを添加しても磁気特性には殆ど変化がないことも確認された。尚、表1では試料番号1〜3のB及びTiを添加した合金、試料番号8のB及びTi,Vを添加した合金、並びに試料番号9のB及びTi,Zrを添加した合金を実施例の合金としたが、本発明のFe−Cr−Co系磁石合金は、更にTiに対してZr,Vの2種を合計0.1〜3%残存有効成分として添加する組成で得られる合金としてもほぼ同等な効果が得られるので、何れでも良いものである。
【0017】
【発明の効果】
以上に説明した通り、本発明のFe−Cr−Co系磁石合金によれば、基本成分が重量比でCr20〜40%、Co5〜30%、残部Feのものにあって、特定元素として、Tiを必須とし、且つZr,Vのうちの選択された少なくとも1種以上(選択されずにTiのみとなる場合を含む)が合計で0.1〜3%(重量比)添加されている合金のFeの一部をB0.0005〜0.1(但し、0.1は含まず)%(重量比)で置き換えたものとしているため、合金表面に特定元素の酸化皮膜が形成されるのを有効に防止することが可能である。従って、めっき性が悪くなったり、樹脂のコーティングをする際の付着性が悪くなったりする等、表面処理の際に酸化皮膜が残っていると生じる様々な問題を解消することもできるようになり、工業上極めて有益となる。

Claims (1)

  1. 重量比でCrを20〜40%、Coを5〜30%、Tiを必須とし、且つZr,Vのうちの選択された少なくとも1種以上(選択されずにTiのみとなる場合を含む)を合計で0.1〜3%、及びBを0.0005〜0.1(但し、0.1は含まず)%含有し、残部Feから成ることを特徴とするFe−Cr−Co系磁石合金。
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