JP3732269B2 - 金属材料の転位密度を評価する方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属材料、例えば構造材、の疲労,塑性変形等の劣化の指標となる転位密度を評価する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
結晶系における原子配列のずれによって生じる縁状の欠陥には転位が生じている。この転位は、結晶面において、滑りが生じた場合、滑った部分と滑らなかった部分の境界で原子の配列が著しくずれた部分を指し、この転位の先端部を連結したものを転位線と呼んでいる。結晶の塑性変形等の大部分は、この転位の運動によって説明でき、金属疲労や塑性変形の劣化は、この転位を伴う。従って、単位面積当りの転位線の数を示す転位密度(D)を指標として評価することにより、構造材の疲労や塑性変形等の劣化を診断することができる。
【0003】
従来、金属構造材の転位密度測定法としては、
▲1▼ 透過型電子顕微鏡(TEM)による断面の観察
▲2▼ 電磁誘導法により材料の初期磁化率及び抗磁力を測定して転位密度を評価する磁気的手法
が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、▲1▼は破壊試験であるため、実機構造材への適用が制限され、▲2▼は測定対象が強磁性体単結晶に限られていたため、多くの非磁性多結晶体からなる実用材料(例えばステンレス鋼材など)への適用が不可能であった。
【0005】
本発明は、非磁性多結晶体をはじめとする各種の金属材料の劣化度や歪を診断するための非破壊的な転位密度の評価方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本請求項1に記載された発明に係る金属材料の転位密度を評価する方法では、被検材に対応する材質からなり,互いに異なる既知の転位密度(D)をもつ複数の基準片を準備し、これら基準片を個々に既知の瞬時強度変化を伴う磁界中に位置せしめた状態における誘導磁界の強度を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により各々測定する工程と、
各々の前記基準片の転位密度(D)と、前記既知の瞬時強度変化を伴う磁界及び誘導磁界の強度との相関関係を求める工程と、
前記基準片と同一条件で、被検材を前記既知の瞬時強度変化を伴う磁界中に位置せしめた状態における誘導磁界の強度を前記超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により測定する工程と、
前記被検材について測定された誘導磁界強度を前記相関関係と照合して、被検材の転位密度(D)を求める工程と、を含み、
前記相関関係として、転位密度(D)の−1/2乗の値と、既知の瞬時強度変化を伴う磁界の瞬時強度(H)に対する前記基準片又は前記被検材を前記磁界内に位置せしめた状態における誘導磁界強度の瞬時値(H´)の比(θ=H´/H)との線形比例関係を用いるものである。
【0008】
本発明における被検材及び基準片の各試験片は、強磁性体に限らず、磁界中で微弱であれ誘導磁界を発生して磁界強度に変化を生じる常磁性体や反磁性体であればよく、鉄,ニッケル,ジルコニウム,クロム,銅,アルミニウムなどの単体金属をはじめ、各種の合金も単結晶又は多結晶を問わず利用可能である。
【0009】
本発明において、複数の基準片の各転位密度(D)を知るには、常法による測定を利用することができる。即ち、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察により、各基準片の切断面について、転位線数を計測し、転位密度(D)を求めておけばよい。
【0010】
従って、被検材に対応する材質に種々の荷重をかけて転位の度合を相違させた複数の基準片を準備し、これら基準片の各々について超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計による誘導磁界強度の測定を行った後に、切断し、顕微鏡観察によって転位線数を計測することで、互いに異なる既知の転位密度(D)をもつ複数の基準片を準備することができる。
【0011】
本発明において、既知の瞬時強度変化を伴う磁界とは、好ましくは交流磁界(交番磁界)を用いるが、経時的に強度が変化する磁界であれば、交流磁界に限定されない。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、被検材に対応する材質からなり,互いに異なる既知の転位密度(D)をもつ複数の基準片を準備し、これら基準片を個々に既知の瞬時強度変化を伴う磁界中に位置せしめた状態における誘導磁界の強度を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により各々測定する工程と、
各々の前記基準片の転位密度(D)と、前記既知の瞬時強度変化を伴う磁界及び誘導磁界の強度との相関関係を求める工程と、
前記基準片と同一条件で、被検材を前記既知の瞬時強度変化を伴う磁界中に位置せしめた状態における誘導磁界の強度を前記超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により測定する工程と、
前記被検材について測定された誘導磁界強度を前記相関関係と照合して、被検材の転位密度(D)を求める工程と、が行われる。
【0013】
本発明において評価する金属材料の転位密度(D)とは、結晶断面の単位面積あたりの転位線の数のことである。この転位線とは、金属結晶面において滑り等が生じた場合に、滑った部分と滑らなかった部分との境界での原子の配列が著しくずれた転位の先端部を連結したものである。この転位線は、前述の通り、通常は透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察によって計測されており、本発明においても、基準片については顕微鏡観察による計測を採用できる。
【0014】
一方、被検材については、特に実際の構造体の一部を非破壊的に診断するために、本発明では超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計による測定結果を利用する。
【0015】
即ち、本発明者らは、転位は結晶の不連続であるとの見地から、結晶系材料においては微弱であれ磁性を有していれば、転位と磁界中における誘導磁場との間に転位の量に応じた相関があるとの知見に基づき、転位密度と各種材料の誘導磁界強度との相関関係を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により検証した。
【0016】
その結果、得られた相関関係は、既知の瞬時強度変化を伴う磁界の瞬時強度(H)と、この磁界中に試験片を位置せしめた時の誘導磁界強度の瞬時値(H´)との比θ(θ=H´/H)が、転位密度(D)の−1/2乗と有為な直線関係を示した。
【0017】
尚、対象被検材が非磁性金属の場合、非磁性金属と言えども微弱な磁性を有しているので、磁界中におかれると僅かではあるが誘導磁界の強度が変化する。誘導磁界の微小な強度を測定するために、本発明では前記誘導磁界強度の測定を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により行う。
【0018】
本発明による好ましい操作としては、次の通りである。
(1) 被検材に対応する材質からなり,互いに異なる既知の転位密度(D)をもつ複数の基準片を準備し、これら複数の基準片を既知の瞬時強度(H)変化を伴う交流磁界中に位置せしめると共に、超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により、これら基準片を個々に前記磁界中に位置せしめた状態における誘導磁界強度(H’)を各々測定する工程、
(2) 各々の前記基準片の転位密度(D)と、前記既知の瞬時強度(H)変化を伴う交流磁界中に位置せしめた試験片の誘導磁界強度の瞬時値(H´)との比θ(θ=H´/H)とにより、線形比例関係を求める工程、
(3) 前記基準材と同一条件で、被検材を前記既知の瞬時強度変化を伴う磁界中に位置せしめると共に、この被検材を位置せしめた状態の誘導磁界強度(H’)を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により測定する工程、
(4) 前記被検材について測定された誘導磁界強度(H’)を前記線形比例関係と照合して、被検材の転位密度(D)を求める工程。
【0019】
図1は既知の瞬時強度変化を伴う磁界を発生させると共に誘導磁界強度を測定する装置(以下、単に「測定装置」と称する。)を模式的に示す説明図である。図に示す通り、この測定装置1は、液体ヘリウムが充填されたデュワー2内にSQUID磁束計3と既知の瞬時強度変化を伴う交流磁界励起用の超伝導コイル4とを備えたものである。
【0020】
コイル4に流す電流は、SQUID磁束計3の検出コイル3aと試験片5との距離dの大きさにもよるが、1A以下程度であり、励起される交流磁界の周波数は0.5Hzである。また、SQUID磁束計3のサンプリングレートは100Hz(毎秒100回測定する。)である。
【0021】
図2は、測定装置1のコイル4により発生される交流磁界の強度と、SQUID磁束計3の出力(コイルにより発生される磁界内に試験片が置かれている場合の磁界強度)とを模式的に示す線図であり、縦軸は磁界強度を示し、横軸は経過時間を示す。図において、実線は交流磁界の強度(H)(即ち、試験片が置かれていないときのSQUID磁束計3の出力),破線はSQUID磁束計の出力(H’)を示す。更に、図3は図2の交流磁界の強度(H)とSQUID磁束計の出力(H’)との関係を模式的に示す線図であり、縦軸はSQUID磁束計の出力(H’)、横軸は交流磁界の強度(H)を示す。
【0022】
測定装置1のコイル4により発生される交流磁界強度の瞬時値をH、該交流磁界内に試験片5を位置せしめた場合の磁界強度の瞬時値をH’とすると、図2に示すように、交流磁界の強度(H)と磁界強度(SQUID磁束計の出力)(H’)とは同様の位相の変化を示し、更に図3に示すように、そのHに対するH’の比θ(θ=H’/H)は、明らかな一定の値をとることが見出された。
【0023】
この図1に示す測定装置1を用いて転位密度(D)を評価した。先ず、被検材に対応する材質の試験片を複数用意して、各々予め定められた引張り荷重又は曲げ荷重を加えることにより、互いに異なる転位密度をもつ複数の基準片5を準備した。
【0024】
初めに、コイル4に一定振幅値の交流電流を流し、コイル4の内孔部における交流磁界の強度(H)をSQUID磁束計3によって測定した。このとき、基準片5は磁界中に配置しない。次に同一励磁状態下にてコイル4の直下に一つの基準片5を置き、交流磁界を基準片5に鎖交させた状態でSQUID磁束計3により誘導磁界の強度(H’)を測定した。
【0025】
このような測定を複数の基準片5について各々行い、各々について、交流磁界の瞬時強度(H)に対する基準片の誘導磁界強度の瞬時値(H´)の比θ(θ=H´/H)を求めた。
【0026】
各基準片は、上述のように測定装置1によってパラメータθを各々測定した後に、透過型電子顕微鏡(TEM)により、基準片の任意の切断面について、転位線数を計測し、各々の転位密度(D)を求めた。これにより、各基準片のパラメータθに対する転位密度(D)の相関が得られた。
【0027】
図4は転位密度(D)の−1/2乗とパラメータ(θ)との関係を模式的に示す線図である。図4に示されるように、これら磁界の瞬時強度(H)に対する基準片の誘導磁界強度の瞬時値(H’)の比θ(θ=H’/H)と、転位密度(D)との相関を検討した結果、転位密度(D)の−1/2乗とパラメータθとが有為な線形比例関係を有することが見出された。
【0028】
従って、種々の材料に対して図4に示す線形比例関係を予め求めておけば、実機における任意の測定部位のSQUID出力パラメータθに対応する転位密度が図4に示された関係により得られることが判る。
【0029】
尚、実機の測定部位へは図1に示した測定装置の測定系をマニュピレーター等に搭載して接近させてパラメータθを測定しても良い。その際、図1の距離dを基準片に対する測定時の値と同じ値に一定に保つようにすることは言うまでもない。
【0030】
また、本実施の形態では、液体Heを使用するSQUID磁束計を用いたが、図1に示したSQUID磁束計に代えて、液体N2 を使用する高温SQUID磁束計を用いてもよい。
【0031】
尚、これらのSQUID磁束計では、測定用交流磁界の発生に、超伝導コイルを用いているため、励磁電源は通常の商用電源を利用することができる。
【0032】
【実施例】
非磁性多結晶材である市販のステンレス鋼片(SUS316)を複数用意し、各々に種々の引張り荷重を加え、転位密度が互いに異なる複数の基準片を製作した。これらの基準片について0.5Hzの交流磁界中におけるSQUID出力パラメータθの値を測定し、合わせて、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により転位密度Dを測定した。
【0033】
図5はこのステンレス鋼片の転位密度(D)の−1/2乗とパラメータ(θ)との関係を示す線図である。x軸にパラメータθの値を、y軸に転位密度Dの−1/2乗の値を取り、測定結果をプロットした。この図5により、θとD-1/2の間には、直線関係があることが判る。
【0034】
次に、同じステンレス鋼(SUS316)からなる原子力発電所構造体の測定部位にSQUID磁束計をマニピュレータで接近配置し、同一条件で、誘導磁界強度(H’)を測定し、その時のパラメータθ(θ=H’/H)を求めた。得られたパラメータθの値を図5に当てはめ、対応する転位密度(D)を求めることにより測定部位の診断に供した。
【0035】
以上のように、破壊試験であるため実機構造材への適用が制限されていた透過型電子顕微鏡(TEM)による断面の観察による転位密度測定や、多くの非磁性多結晶体からなる実用材料への適用が不可能であった電磁誘導法による磁気的手法と比べて、本発明に示す金属材料の転位密度を評価する方法は、非破壊的に非磁性多結晶体を含めた種々の金属材料の転位密度を評価する方法として有効であることが確認された。
【0036】
特に、構造材は疲労、塑性変形に伴い転位密度が一般に変化するが、本発明を適用することにより、構造材の劣化の程度や歪を随時非破壊的に診断できることが確認された。
【0037】
【発明の効果】
本発明は以上説明したとおり、非磁性多結晶体をはじめとする各種の金属材料の劣化度や歪を診断するための非破壊的な転位密度の評価を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施に利用される測定装置を模式的に示す説明図である。
【図2】測定装置のコイルにより発生される交流磁界と、SQUID磁束計による試験片の誘導磁界の変化を示す線図であり、縦軸は磁界強度、横軸は時間を示す。図において、実線は交流磁界の強度(H),破線はSQUID磁束計の出力(H’)を示す。
【図3】図2の交流磁界の強度(H)とSQUID磁束計の出力(H’)との関係を示す線図であり、縦軸はSQUID磁束計の出力(H’)、横軸は交流磁界の強度(H)を示す。
【図4】転位密度(D)の−1/2乗とパラメータ(θ)との関係を示す線図である。
【図5】SUS316鋼の転位密度(D)の−1/2乗とパラメータ(θ)との関係を示す線図である。
【符号の説明】
1 :測定装置,
2 :液体ヘリウムが充填されたデュワー,
3 :SQUID磁束計,
3a:検出コイル,
4 :交流磁界励起用の超伝導コイル,
5 :試験片(基準片)

Claims (1)

  1. 被検材に対応する材質からなり,互いに異なる既知の転位密度(D)をもつ複数の基準片を準備し、これら基準片を個々に既知の瞬時強度変化を伴う磁界中に位置せしめた状態における誘導磁界の強度を超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により各々測定する工程と、
    各々の前記基準片の転位密度(D)と、前記既知の瞬時強度変化を伴う磁界及び誘導磁界の強度との相関関係を求める工程と、
    前記基準片と同一条件で、被検材を前記既知の瞬時強度変化を伴う磁界中に位置せしめた状態における誘導磁界の強度を前記超伝導量子干渉素子(SQUID)磁束計により測定する工程と、
    前記被検材について測定された誘導磁界強度を前記相関関係と照合して、被検材の転位密度(D)を求める工程と、を含み、
    前記相関関係として、転位密度(D)の−1/2乗の値と、既知の瞬時強度変化を伴う磁界の瞬時強度(H)に対する前記基準片又は前記被検材を前記磁界内に位置せしめた状態における誘導磁界強度の瞬時値(H´)の比(θ=H´/H)との線形比例関係を用いることを特徴とする金属材料の転位密度を評価する方法。
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