JP3729055B2 - 樹脂成形体への金属膜形成方法 - Google Patents

樹脂成形体への金属膜形成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂成形体の表面に金属膜を形成する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
立体回路基板やセンサー部品、反射板などは、樹脂組成物を射出成形等して樹脂成形体を作製し、この樹脂成形体の表面に回路や反射膜となる金属膜を形成することによって製造されている。そして液晶ポリマー(LCP)やシンジオタクチックポリスチレン(SPS)は、高周波特性に優れると共に耐熱性に優れるので、立体回路基板やセンサー部品、反射板などを形成する樹脂成形体の材料として特に適している。しかし、LCPやSPSはその分子に極性基がないために、LCPやSPSで作製した樹脂成形体の表面に金属膜を形成しても、樹脂成形体に対する金属膜の密着力は極めて小さい。
【0003】
そこで、樹脂成形体に対する金属膜の密着性を高めるために、樹脂成形体の表面をプラズマ処理することが行なわれている。
【0004】
すなわち、図12はプラズマ処理装置の一例を示すものであって、チャンバー15内に保持電極3及び対向電極4を配設し、保持電極3をRFの高周波電源8に接続すると共に対向電極4をチャンバー15に接続することによって接地するようにしてあり、ガス導入口16からチャンバー15内にプラズマ生成用の雰囲気ガスを導入できるようにしてある。そして、保持電極3に樹脂成形体1を接触させた状態で保持してチャンバー15内にセットし、チャンバー15内に窒素ガスなどの雰囲気ガスを導入して、保持電極3に高周波電圧を印加することによって、保持電極3と対向電極4の間での気体放電現象により窒素プラズマなどのプラズマPを生成させる。このようにプラズマPを生成させると、プラズマP中のN+などのイオンが樹脂成形体1の表面に作用し、樹脂成形体1の表面の汚染物を除去するクリーニングを行なうと共に、窒素極性基などの極性基を樹脂成形体1の表面の分子に付与する処理がなされる。このように樹脂成形体1の表面に極性基を付与した後に、蒸着やスパッタリングなどPVD法で樹脂成形体1の表面に銅などの金属膜を形成することによって、樹脂成形体1に対する金属膜の密着性を高めることができるものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしこのような窒素プラズマなどのプラズマによる処理だけでは、LCPやSPSで作製した樹脂成形体と金属膜との密着性を向上させる効果を高く得ることはできない。
【0006】
図13はポリフタルアミド(PPA)とLCPを上記のような窒素プラズマで処理した場合の、未処理に対する窒素プラズマ処理による金属膜のピール強度の向上の効果を示すものであり、PPAは窒素プラズマ処理によってピール強度が大きく向上しているが、LCPは窒素プラズマ処理によるピール強度の向上が小さく、必要とされる0.6N/mmのピール強度に達していない。これは、「化1」に示すように、PPAには化学構造式中に極性基が多く存在するが、LCPには化学構造式中に極性基が存在しないため、プラズマ処理によってLCPに高密度に極性基を付与することができないからであると考えられる。
【0007】
【化1】
Figure 0003729055
【0008】
また、プラズマ中のN+などのイオンを樹脂成形体の表面に作用させて窒素極性基などの極性基を付与する場合、このとき同時に、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体の表面がエッチングされ、樹脂成形体の表面に形成された極性基がこのエッチングによって取り除かれる現象が生じ、このことも、樹脂成形体と金属膜との密着性を向上させる効果が高く得られないことの原因であると考えられる。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、樹脂成形体の表面の樹脂分子に効率良く高密度に極性基を付与することができ、樹脂成形体に金属膜を密着性高く形成することができる樹脂成形体への金属膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なった後、プラズマをダウンストリーム法で樹脂成形体1の表面に導くことによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体1の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項2に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なった後、プラズマ中のイオンを電極に電気的に吸引して樹脂成形体1の表面に到達させないようにすることによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体1の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成することを特徴とするものである。
【0012】
また請求項3の発明は、上記請求項2において、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をするにあたって、樹脂成形体1を保持する保持電極3と樹脂成形体1と対向する対向電極4の間でプラズマを発生させ、プラズマ中のイオンを電気的に吸引する中間電極5で樹脂成形体1を囲うことによって、プラズマ中のイオンを樹脂成形体1の表面に到達させないようにすることを特徴とするものである。
【0013】
また請求項4の発明は、上記請求項2において、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をするにあたって、樹脂成形体1を保持する保持電極3と樹脂成形体1と対向する対向電極4の間でプラズマを発生させ、対向電極4に負のバイアスがかかった高周波電圧を印加することによって、プラズマ中のイオンを対向電極4に電気的に吸引させて、プラズマ中のイオンを樹脂成形体1の表面に到達させないようにすることを特徴とするものである。
【0014】
また請求項5の発明は、上記請求項1乃至4のいずれかにおいて、樹脂成形体1を保持する保持電極3と樹脂成形体1と対向する対向電極4の間でプラズマを発生させて、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なうにあたって、保持電極3に負のバイアスがかかった高周波電圧を印加すると共に、負のバイアス電圧を−100V〜−700Vの範囲に制御することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項6に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体1の表面にレーザーを照射して樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なった後、プラズマをダウンストリーム法で樹脂成形体1の表面に導くことによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体1の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項7に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体1の表面にレーザーを照射して樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なった後、プラズマ中のイオンを電極に電気的に吸引して樹脂成形体1の表面に到達させないようにすることによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体1の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成することを特徴とするものである。
【0017】
また請求項8の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をした後、プラズマ処理して樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させることを特徴とするものである。
【0018】
また請求項9の発明は、上記請求項8において、プラズマから発せられる紫外線は通過させるがプラズマ中のイオンは通過させないバリア9で樹脂成形体を囲った状態で、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させるプラズマ処理をすることを特徴とするものである。
【0019】
また請求項10の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をした後、紫外線照射処理をして樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させることを特徴とするものである。
【0020】
また請求項11の発明は、上記請求項10において、紫外線照射処理を紫外線レーザを用いて行なうことを特徴とするものである。
【0021】
また請求項12の発明は、上記請求項10において、紫外線照射処理をエキシマランプを用いて行なうことを特徴とするものである。
【0022】
また請求項13の発明は、上記請求項1乃至12のいずれかにおいて、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なうに先だって、樹脂成形体1の表面を粗化するプラズマ処理をすることを特徴とするものである。
【0023】
また請求項14の発明は、上記請求項13において、酸素あるいはオゾンを雰囲気ガスとするプラズマで、樹脂成形体1の表面を粗化するプラズマ処理をすることを特徴とするものである。
【0024】
また請求項15の発明は、上記請求項1乃至14のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理を、樹脂成形体1を加熱しながら行なうことを特徴とするものである。
【0025】
また請求項16の発明は、上記請求項15において、樹脂成形体1を、樹脂成形体1の樹脂のガラス転移温度±30℃の温度で加熱することを特徴とするものである。
【0026】
また請求項17の発明は、請求項15又は16において、樹脂成形体1の表層部のみを加熱することを特徴とするものである。
【0027】
また請求項18の発明は、請求項17において、熱線を樹脂成形体1の表面に照射して、樹脂成形体1の表層部のみを加熱することを特徴とするものである。
【0028】
また請求項19の発明は、請求項1乃至18のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理を、雰囲気ガスとしてNH3,SO2,NO2,COから選ばれるガスを用いたプラズマで行なうことを特徴とするものである。
【0029】
また請求項20の発明は、請求項1乃至19のいずれかにおいて、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するに先だって、樹脂成形体1に対する密着性が金属膜2よりも高い金属を樹脂成形体1の表面にプレコートし、このプレコート金属膜6の上に上記の金属膜2を形成することを特徴とするものである。
【0030】
また請求項21の発明は、上記請求項20において、樹脂成形体1を、樹脂成形体1の樹脂のガラス転移温度±30℃の温度で加熱して金属のプレコートを行なうことを特徴とするものである。
【0031】
また請求項22の発明は、上記請求項20又は21において、金属酸化物でプレコート金属膜6を形成することを特徴とするものである。
【0032】
また請求項23の発明は、上記請求項1乃至19のいずれかにおいて、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するに先だって、金属膜2との密着性が樹脂成形体1の樹脂よりも高い樹脂を樹脂成形体1の表面にプレコートし、このプレコート樹脂膜7の上に上記の金属膜2を形成することを特徴とするものである。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0034】
本発明おいて樹脂成形体1としては、LCPやSPSを主成分とする樹脂組成物を成形したものが用いられるものであり、まずこの樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂する第1段の処理を行ない、次に樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理を行ない、この後に、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するものである。
【0035】
図1(a)は樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂する第1段の処理を行なうために、請求項1〜2の発明において用いるプラズマ処理装置の一例を示すものであり、チャンバー15内に保持電極3及び対向電極4を相互に対向させて配置して設けてある。保持電極3はトレーとして形成してあって、ブロッキングコンデンサ18を介してRFの高周波電源8に接続してあり、対向電極4はチャンバー15に接続することによって接地するようにしてある。またチャンバー15にはガス導入口16が設けてあり、ガス導入口16からチャンバー15内にプラズマ生成用の雰囲気ガスを導入できるようにしてある。
【0036】
そして、保持電極3の上に樹脂成形体1を保持してチャンバー15内にセットし、ガス導入口16からチャンバー15内にアルゴンなどの雰囲気ガスを導入して、保持電極3に高周波電源8から高周波電圧(RF:13.56MHz)を印加することによって、保持電極3と対向電極4の間での高周波グロー放電による気体放電現象によってプラズマPを生成させる。このときの雰囲気ガスとしてはアルゴンガスなどの不活性ガスを用いるものであり、ガス圧は1〜15Pa程度に設定するのが好ましい。このようにArプラズマPを生成させることによって、プラズマP中のAr+などのイオンが樹脂成形体1の表面に作用し、表面の樹脂の分子結合が開裂されるものである。この樹脂成形体1の表面の樹脂の分子結合を開裂させる処理の時間は、20〜50秒程度が好ましい。
【0037】
図1(b)は樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理を行なうために、請求項1の発明において用いるプラズマ処理装置の一例を示すものであり、プラズマ発生チャンバー20と処理チャンバー21とから形成してある。プラズマ発生チャンバー20は、磁界とマイクロ波によって電子サイクロトロン共鳴を起こさせてプラズマを発生させるECRプラズマ発生器で形成されるものであり、プラズマ発生チャンバー20には雰囲気ガスを導入するガス導入路22と、生成されたプラズマPのプラズマ流を処理チャンバー21に導くプラズマ導入路23とが接続してある。このプラズマ導入路23は処理チャンバー21の上部に接続してある。
【0038】
そして、上記のように表面の樹脂の分子の結合を開裂させる第1段の処理をした樹脂成形体1を、プラズマ導入路23の先端部の下方位置において処理チャンバー21内にセットし、ガス導入路22から雰囲気ガスとして酸素又は窒素をプラズマ発生チャンバー20に導入し、プラズマ発生チャンバー20内に酸素プラズマあるいは窒素プラズマを生成させる。このようにプラズマ発生チャンバー20内で生成されるプラズマPには電離されたO+あるいはN+のようなイオンと電子が存在するが、プラズマP中にはさらに酸素ラジカルあるいは窒素ラジカルのようなラジカルが活性分子(原子)として存在している。プラズマ発生チャンバー20で上記のように生成されたプラズマPは、雰囲気ガスがキャリアガスとなってこのガス流によりガス導入路22を通して、ダウンストリームとして処理チャンバー21に導入され、処理チャンバー21内の樹脂成形体1がこのダウンストリームによって処理される。
【0039】
ここで、プラズマP中のイオンとラジカルは寿命の長さが異なり、イオンは寿命が短く、ラジカルは寿命が長い。従って、樹脂成形体1をセットした処理チャンバー21から離れたプラズマ発生チャンバー20でプラズマPを生成させ、このプラズマPをダウンストリームとして処理チャンバー21内の樹脂成形体1に導く間に、プラズマP中のイオンは電子と結合して中性化し、通常の原子や分子の状態になるが、ラジカルはそのままダウンストリームで運ばれて樹脂成形体1の表面に到達する。このようにプラズマPをダウンストリーム法で樹脂成形体1の表面に導くことによって、プラズマP中のラジカルを主として樹脂成形体1の表面に到達させ、イオンは到達させないようにすることができるものであり、樹脂成形体1の表面を主としてラジカルの作用で処理し、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に酸素極性基や窒素極性基のような極性基を付与することができる。樹脂成形体1の表面の樹脂の分子は、上記のように第1段の処理で開裂されているので、極性基を付与する処理を効率高く行なうことができるものである。また、この極性基を付与する処理は主としてプラズマP中のラジカルで行なわれ、イオンは樹脂成形体1の表面に殆ど作用しないので、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体1の表面がエッチングされることがなくなり、樹脂成形体1の表面に形成された極性基がこのエッチングによって取り除かれるようなことがなくなるものであって、樹脂成形体1の表面に極性基を高密度で形成することができるものである。この樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理の時間は、5〜40秒程度が好ましい。尚、このラジカルによって極性基を付与する第2段の処理は、ラジカルの発生量が多いECRプラズマで行なうのが好ましいが、図1(a)の場合のような高周波グロー放電によるプラズマであってもよい。
【0040】
上記のようにプラズマで樹脂成形体1の表面に第1段及び第2段の処理を行なった後、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成する。図2は樹脂成形体1に金属膜2を形成するまでの各工程を示すものであり、樹脂成形体1の表面に第1段及び第2段の処理を行なって、図2(b)のように極性基10を形成した後に、図2(c)のように樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するものである。金属膜2の形成はスパッタリングや蒸着など任意のPVD法を用いて行なうことができるものであり、銅やアルミニウムなどの任意の種類の金属膜2を形成することができる。樹脂成形体1の表面には上記のように効率高くまた密度高く極性基10が形成されているので、樹脂成形体1がLCPやSPSのような極性基を分子中に有しない樹脂で形成されていても、樹脂成形体1の表面に金属膜2を密着性高く形成することができるものである。
【0041】
ここで、上記の請求項1の発明について、具体例を挙げて効果を実証する。
【0042】
樹脂成形体1としてLCPを射出成形して作製したものを用いた。そして図1(a)の装置において、雰囲気ガスとしてアルゴンガスを用い、ガス圧10Pa、RFパワー500Wの条件でプラズマPを発生させ、このプラズマP中で30秒間、樹脂成形体1の表面の分子を開裂させる処理を行なった。次に、図1(b)の装置において、雰囲気ガスとして窒素ガスを用い、ガス流量50ml/min、ECRパワー500Wの条件でプラズマ発生チャンバー20にプラズマPを発生させ、このプラズマPのダウンストリームを処理チャンバー21に導いて30秒間、樹脂成形体1の表面の分子に極性基を付与する処理を行なった。この後、DCマグネトロンスパッタリングを行い、樹脂成形体1の表面に厚み0.3μmの銅の金属膜2を形成した。この金属膜2のピール強度を測定したところ、0.70N/mmであった。
【0043】
比較のために、図1(a)の装置において、雰囲気ガスとして窒素ガスを用い、ガス圧10Pa、RFパワー500Wの条件でプラズマPを発生させ、このプラズマP中で30秒間、樹脂成形体1の表面の分子に極性基を付与する処理を行なった。そしてこの後に、上記と同様にして樹脂成形体1の表面にスパッタリングを行ない、厚み0.3μmの銅の金属膜2を形成した。この金属膜2のピール強度を測定したところ、0.18N/mmであった。
【0044】
図3は請求項2及び3の発明において、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理を行なうためのプラズマ処理装置の一例を示すものであり、チャンバー25内に保持電極3及び対向電極4を相互に対向させて配置して設けてある。保持電極3はトレーとして形成してあって、マッチングボックス26を介してRFの高周波電源8に接続してあり、対向電極4はチャンバー25に接続することによって接地するようにしてある。またチャンバー25にはガス導入口27が設けてあり、ガス導入口27からチャンバー25内にプラズマ生成用の雰囲気ガスを導入できるようにしてある。さらに、保持電極3に接触させた状態で保持される樹脂成形体1を囲むように、保持電極3と対向電極4の間に第三の中間電極5が配置してあり、中間電極5は保持電極3に電気的に接続してある。この中間電極5としては金属メッシュなどで形成したものを用いるのが好ましく、孔が5mm以下のピッチ(好ましくは1mm以下のピッチ)で形成されているものがよい。またこの実施の形態では、高周波電源8から保持電極3に負のバイアスがかかった高周波電圧を印加するようにしてある。
【0045】
そして、既述の図1(a)のようにして樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を開裂させる第1段の処理した後、樹脂成形体1をチャンバー25内の保持電極3の上にセットすると共に中間電極5で囲み、ガス導入口27からチャンバー25内に雰囲気ガスとして酸素ガスあるいは窒素ガスを導入して、保持電極3に高周波電源8から負のバイアスがかかった高周波電圧(RF:13.56MHz)を印加することによって、保持電極3と対向電極4の間での高周波グロー放電による気体放電現象によってプラズマPを生成させる。このように生成されるプラズマP中には、既述のように、電離されたO+あるいはN+のようなイオンと電子が存在すると共に酸素あるいは窒素のラジカルが存在するが、樹脂成形体1を囲む中間電極5は負のバイアスがかかった高周波電圧が印加されているので、中間電極5は電気的に負の状態になっている。従って、プラズマP中のO+あるいはN+のようなイオンは中間電極5に引き寄せられて吸引されるので、プラズマP中のイオンは中間電極5を通過することができない。これに対して、プラズマP中の電気的に中性のラジカルは中間電極5に吸引されることがないので、中間電極5を通過することができる。
【0046】
このようにプラズマP中のイオンは中間電極5に吸引されるので、ラジカルを主として樹脂成形体1の表面に到達させ、イオンは到達させないようにすることができるものであり、樹脂成形体1の表面を主としてラジカルの作用で処理し、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に酸素極性基や窒素極性基のような極性基を付与することができるものである。樹脂成形体1の表面の樹脂の分子は、上記のように第1段の処理で開裂されているので、極性基を付与する処理を効率高く行なうことができるものであり、またこの極性基を付与する処理は主としてプラズマP中のラジカルで行なわれ、イオンは樹脂成形体1の表面に殆ど作用しないので、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体1の表面がエッチングされることがなくなり、樹脂成形体1の表面に形成された極性基がこのエッチングによって取り除かれるようなことがなくなるものであって、樹脂成形体1の表面に極性基を高密度で形成することができるものである。尚、図3の実施の形態では、中間電極5を負にバイアスすることによって、プラズマP中のイオンを中間電極5に吸引させるようにしたが、中間電極5をアースすることによっても、プラズマP中のイオンを中間電極5に吸引させるようにすることが可能である。
【0047】
上記のようにプラズマで樹脂成形体1の表面に第1段及び第2段の処理を行なった後、既述のように樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するものである。樹脂成形体1の表面には上記のように効率高くまた密度高く極性基が形成されているので、樹脂成形体1がLCPやSPSのような極性基を分子中に有しない樹脂で形成されていても、樹脂成形体1の表面に金属膜2を密着性高く形成することができるものである。またこのものでは、第2段の処理を行なうにあたって、請求項1の発明の図1(b)のように二つのチャンバーを必要とせず、設備を小型化することができるものである。
【0048】
ここで、上記の請求項2及び3の発明について、具体例を挙げて効果を実証する。
【0049】
樹脂成形体1としてLCPを射出成形して作製したものを用いた。そして図1(a)の装置において、既述と同じ条件で樹脂成形体1の表面の分子を開裂させる処理を行なった。次に、1mmピッチで孔を設けたメッシュ状の中間電極5を設けた図3の装置において、雰囲気ガスとして窒素ガスを用い、ガス圧10Pa、バイアス電圧−200V、RFパワー500Wの条件でプラズマPを発生させ、このプラズマPで30秒間、樹脂成形体1の表面の分子に極性基を付与する処理を行なった。この後、DCマグネトロンスパッタリングを行い、樹脂成形体1の表面に厚み0.3μmの銅の金属膜2を形成した。この金属膜2のピール強度を測定したところ、0.70N/mmであった。
【0050】
図4は請求項2及び4の発明において、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理を行なうためのプラズマ処理装置の一例を示すものであり、チャンバー29内に保持電極3及び対向電極4を相互に対向させて配置して設けてある。保持電極3はトレーとして形成してあって、接地するようにしてあり、対向電極4はマッチングボックス26を介してRFの高周波電源8に接続してある。またチャンバー29にはガス導入口30が設けてあり、ガス導入口30からチャンバー29内にプラズマ生成用の雰囲気ガスを導入できるようにしてある。
【0051】
そして、既述の図1(a)のようにして樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を開裂させる第1段の処理した後、樹脂成形体1をチャンバー29内の保持電極3の上にセットし、ガス導入口30からチャンバー29内に雰囲気ガスとして酸素ガスあるいは窒素ガスを導入して、対向電極4に高周波電源8から負のバイアスがかかった高周波電圧(RF:13.56MHz)を印加することによって、保持電極3と対向電極4の間での高周波グロー放電による気体放電現象によってプラズマPを生成させる。このように生成されるプラズマP中には、既述のように、電離されたO+あるいはN+のようなイオンと電子が存在すると共に酸素あるいは窒素のラジカルが存在するが、対向電極4には負のバイアスがかかった高周波電圧が印加されているので、プラズマP中のO+あるいはN+のようなイオンは対向電極4に引き寄せられて吸引され、プラズマP中のイオンは保持電極3上の樹脂成形体1の側へ向かい難くなっている。これに対して、プラズマP中の電気的に中性のラジカルは対向電極4に吸引されることがないので、保持電極3上の樹脂成形体1の側へ支障なく向かうことができる。
【0052】
このようにプラズマP中のイオンは対向電極4に吸引されるので、電気的に中性なラジカルが主として樹脂成形体1の表面に到達し、イオンは樹脂成形体1に到達し難くなっているものであり、樹脂成形体1の表面を主としてラジカルの作用で処理し、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に酸素極性基や窒素極性基のような極性基を付与することができるものである。樹脂成形体1の表面の樹脂の分子は、上記のように第1段の処理で開裂されているので、極性基を付与する処理を効率高く行なうことができるものであり、またこの極性基を付与する処理は主としてプラズマP中のラジカルで行なわれ、イオンは樹脂成形体1の表面に殆ど作用せず、またイオンが樹脂成形体1に作用しても衝突エネルギーは非常に小さいので、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体1の表面がエッチングされることがなくなり、樹脂成形体1の表面に形成された極性基がこのエッチングによって取り除かれるようなことがなくなるものであって、樹脂成形体1の表面に極性基を高密度で形成することができるものである。尚、保持電極3と対向電極4の間に金属メッシュなどで形成される第三の中間電極5を配置し、中間電極5を負にバイアスするようにしてもよく、この場合は、中間電極5にイオンが吸引されることによって、イオンが樹脂成形体1に作用することをさらに防ぐことができるものである。
【0053】
上記のようにプラズマで樹脂成形体1の表面に第1段及び第2段の処理を行なった後、既述のように樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するものである。樹脂成形体1の表面には上記のように効率高くまた密度高く極性基が形成されているので、樹脂成形体1がLCPやSPSのような極性基を分子中に有しない樹脂で形成されていても、樹脂成形体1の表面に金属膜2を密着性高く形成することができるものである。またこのものでは、第2段の処理を行なうにあたって、請求項1の発明の図1(b)のように二つのチャンバーを必要とせず、設備を小型化することができるものである。
【0054】
ここで、上記の請求項2及び4の発明について、具体例を挙げて効果を実証する。
【0055】
樹脂成形体1としてLCPを射出成形して作製したものを用いた。そして図1(a)の装置において、既述と同じ条件で樹脂成形体1の表面の分子を開裂させる処理を行なった。次に、図4の装置において、雰囲気ガスとして窒素ガスを用い、ガス圧10Pa、バイアス電圧−200V、RFパワー500Wの条件でプラズマPを発生させ、このプラズマPで30秒間、樹脂成形体1の表面の分子に極性基を付与する処理を行なった。この後、DCマグネトロンスパッタリングを行い、樹脂成形体1の表面に厚み0.3μmの銅の金属膜2を形成した。この金属膜2のピール強度を測定したところ、0.72N/mmであった。
【0056】
次に請求項5の発明について説明する。
【0057】
既述の図1(a)の実施の形態では、保持電極3に高周波電源8から高周波電圧(RF:13.56MHz)を印加することによって、樹脂成形体1を保持する保持電極3と対向電極4の間でArプラズマなどのプラズマPを発生させ、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なうにしているが、このとき、樹脂成形体1を保持する保持電極3に高周波電源8から負のバイアスがかかった高周波電圧を印加してプラズマPを発生させることによって、樹脂成形体1を保持する保持電極3を電気的に負の状態にし、プラズマP中のAr+などのイオンが電気的に吸引されて樹脂成形体1の表面に衝突し易くなるようにして、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子結合を開裂する処理が促進されるようにしてある。しかし、Ar+などのイオンが樹脂成形体1の表面に衝突するエネルギーが過大であると、樹脂成形体1の樹脂の表面層がダメージ劣化を起こして、樹脂の表面層に脆弱層が形成されるおそれがある。脆弱層は特開平8−3338号公報等に紹介されているようにWBL(Weak Boundary Layer)と呼ばれるものであり、脆弱層の上に極性基を形成しても、脆弱層の強度が弱いので金属膜2のピール強度を向上させることはできない。
【0058】
そこで請求項5の発明では、図5に示すように、高周波電源8にバイアス電圧制御装置32が接続してあり、高周波電源8から保持電極3に印加される負の直流バイアス電圧値(VDC)をこのバイアス電圧制御装置32で制御するようにしてある。そして保持電極3に印加されるVDCを−100V〜−700Vの範囲に制御することによって、Ar+などプラズマP中のイオンが樹脂成形体1の表面に衝突する際の衝突エネルギーを最適なものにすることができるものである。VDCが−700Vよりも負の電圧であると、Ar+などイオンの衝突エネルギーが過大になって、樹脂成形体1の樹脂の表面に脆弱層が形成されるおそれがあり、逆にVDCが−100Vよりも正の側の電圧であると、樹脂成形体1の表面に対するAr+などイオンの衝突エネルギーが過小になって、樹脂の分子を開裂させる作用が不十分になるおそれがある。
【0059】
上記の各発明では、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂する第1段の処理をプラズマによって行なうようにしたが、請求項6や請求項7の発明では、この第1段の処理をレーザーの照射によって行なうようにしてある。すなわち、図6に示すように、レーザー発振器34から出力されたエキシマレーザー、アルゴンレーザー、He−Cdレーザー等のレーザーLを、X,Y,Z方向に姿勢を変化させることができる姿勢制御テーブル35の上にセットされた樹脂成形体1の表面に照射することによって、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂させることができるものである。
【0060】
ここで、樹脂成形体1の表面が三次元立体形状である場合、立ち面や斜面等が存在するが、プラズマ処理をする際には平面と立ち面や斜面等との間に処理効果に差ができ易い。これに対して、レーザーによる処理の場合には、大気中での処理が可能であるため、姿勢制御テーブル35を用いてレーザー照射処理をすることができ、樹脂成形体1の平面や、立ち面等をそれぞれレーザーに対して同じ角度にした状態で処理をすることが容易になり、三次元立体形状の樹脂成形体1の表面に均等な処理をすることが容易になるものである。
【0061】
上記の請求項6の発明について、具体例を挙げて効果を実証する。
【0062】
樹脂成形体1としてLCPを射出成形して作製したものを用いた。そして図6の装置において、エキシマレーザーLをエネルギー密度0.5J/cm2、ショット数100ショットの条件で照射することによって、樹脂成形体1の表面の分子を開裂させる処理を行なった。次に、図1(b)の装置において、既述した条件で樹脂成形体1の表面の分子に極性基を付与する処理を行なった。この後、DCマグネトロンスパッタリングを行い、樹脂成形体1の表面に厚み0.3μmの銅の金属膜2を形成した。この金属膜2のピール強度を測定したところ、0.73N/mmであった。
【0063】
請求項8の発明は、上記の各発明のように、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理をした後、樹脂成形体1の表面をさらにプラズマ処理し、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子、特に脆弱層の分子を架橋させるようにしたものである。このプラズマ処理は、例えば、雰囲気ガスとしてアルゴンなどの不活性ガスを用い、例えばガス圧15Pa、RFパワー100W、処理時間60〜120秒の条件で行なうことができる。そしてこのようにプラズマ処理をすることによって、図7のようにプラズマPから発生する紫外線UVが樹脂成形体1の表面に照射され、表面の樹脂の分子が紫外線の作用で架橋反応し、樹脂の表面に上記の第1段や第2段の処理で脆弱層が形成されていても、この樹脂表面の分子の架橋によって脆弱層を強化することができるものである。従って、脆弱層の強度が弱いことによる金属膜2のピール強度の向上効果を得ることができないようなことがなくなり、金属膜2のピール強度の向上効果を有効に得ることができるものである。
【0064】
請求項9の発明は、上記のようにプラズマ処理して樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させるにあたって、図8に示すように、樹脂成形体1をプラズマPから発光する紫外線UVは通過させるがプラズマP中のイオンは通過させないバリア9で囲うようにしてある。すなわち、チャンバー37内に保持電極3及び対向電極4を相互に対向させて配置して設けてあり、保持電極3の上にセットされる樹脂成形体1と対向電極4の間に第三の電極としてバリア9が配置してある。このバリア9は金属メッシュなどで形成したものが用いられるものであり、負の電圧にバイアスしてある。そしてチャンバー37内に雰囲気ガスとしてアルゴンガスを導入すると共に保持電極3に高周波電圧を印加し、保持電極3と対向電極4の間での高周波グロー放電による気体放電現象によってプラズマPを生成させ、プラズマPから発光する紫外線を樹脂成形体1の表面に照射して、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させるものである。このとき、樹脂成形体1を囲むバリア9には負のバイアスがかかっているので、プラズマP中のAr+のようなイオンはバリア9に引き寄せられて吸引され、プラズマP中のイオンはバリア9を通過することができない。従って、プラズマP中のイオンが樹脂成形体1の表面に衝突して表面をエッチングしたりするようなことなく、プラズマPから発光される紫外線UVを樹脂成形体1の表面に照射することができるものである。尚、上記の実施の形態では、バリア9として負の電圧にバイアスした電極を用いるようにしたが、紫外線は通過させるがプラズマP中のイオンは通過させないものであれば何でも良く、例えば石英ガラスの板をバリア9として用いることもできる。
【0065】
請求項10の発明は、上記の樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させる処理を、紫外線照射によって行なうようにしたものである。プラズマ処理で樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させる場合には、プラズマ中のイオンのエッチング作用で分子が開裂されるおそれがあり、架橋による表面強化の効果が低減されることがあるが、紫外線照射をして分子を架橋させるようにすれば、イオンエッチングのような問題なく、樹脂成形体1の表面を強化することができるものである。
【0066】
請求項11の発明は、上記の紫外線照射を、紫外線レーザーを用いて行なうようにしたものである。紫外線レーザーとしてはエキシマレーザーを用いることができる。例えば、波長248nmのKrFエキシマレーザーを用い、エネルギー密度10mj/cm2、ショット数10ショットの条件で照射することによって、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を紫外線架橋させて表面強化をすることができる。
【0067】
請求項12の発明は、上記の紫外線照射を、エキシマランプを用いて行なうようにしたものである。エキシマランプは誘電体バリア放電を利用して希ガスあるいは希ガスハライドのエキシマを形成させ、このエキシマからの自然放出光を取り出すようにしたものであり、紫外線領域の波長の光を発光させることができる。エキシマランプは紫外線レーザーを照射する装置よりも装置を簡単・小型化して廉価にすることができるものである。
【0068】
また、請求項13の発明は、上記の各発明において、樹脂成形体1の表面の樹脂の分子の結合を開裂する第1段の処理を行なうに先だって、予備段階の処理として、樹脂成形体1の表面をエッチングして粗化するプラズマ処理をするようにしたものである。このプラズマ処理は、例えば、雰囲気ガスとして酸素ガスを用い、ガス圧10Pa、RFパワー500W、処理時間2〜5分の条件で行なうことができる。このようにプラズマ処理をすることによって、樹脂成形体1の樹脂を構成している元素の炭素や水素が酸素の活性種と反応して一酸化炭素や二酸化炭素、水などとして樹脂成形体1の表面から離脱し、樹脂成形体1の表面に微細な凹凸を形成して表面粗化することができるものである。そしてこのように樹脂成形体1の表面を粗化しておくことによって、樹脂成形体1の表面に形成した金属膜2の密着性を、粗化の凹凸によるアンカー効果で向上させることができるものである。
【0069】
請求項14の発明は、上記のようにして樹脂成形体1の表面を粗化する予備段階のプラズマ処理を、雰囲気ガスとして酸素ガスあるいはオゾンガスを用いて行なうようにしたものである。このように酸素プラズマあるいはオゾンプラズマで処理すると、酸素あるいはオゾンは樹脂表面の分子の炭素と結合し易いので、エッチング速度が速くなり、表面粗化の処理時間を短縮することができるものである。
【0070】
次に請求項15の発明は、上記の各発明のように、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理をするにあたって、この処理を樹脂成形体1を加熱しながら行なうようにしたものである。樹脂成形体1を加熱することによって、樹脂成形体1の樹脂の分子の活性が高くなり、樹脂の分子への極性基の付与が促進され、極性基の形成を効率高くまた密度高く行なうことができるものである。
【0071】
請求項16の発明は、上記のように樹脂成形体1を加熱するにあたって、樹脂成形体1の加熱温度を、樹脂成形体1を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)±30℃の範囲に設定するようにしたものである。樹脂成形体1をTg±30℃の範囲、特に好ましくはTg±10℃の範囲で加熱しながら、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理をすることによって、樹脂の分子への極性基の付与を促進することができ、極性基の形成を効率高くまた密度高く行なうことができるものである。加熱温度がTg−30℃よりも低いと、極性基の付与を促進する効果が不十分になり、また逆に加熱温度がTg+30℃よりも高いと、樹脂成形体1が熱変形したり、熱劣化したりするおそれがある。
【0072】
請求項17の発明は、上記のように樹脂成形体1を加熱するにあたって、樹脂成形体1の表層部のみを加熱するようにしたものである。樹脂成形体1をTg±30℃の温度で加熱するようにしても、樹脂成形体1の全体がこの温度にまで加熱されると、樹脂成形体1が変形するおそれがある。そこで請求項17の発明は樹脂成形体1の表層部のみを加熱して、樹脂成形体1の表層部のみがTg±30℃の温度に上昇させるようにしてある。このとき、樹脂成形体1の表面から10〜50μmまでの範囲がTg±30℃の温度になるように加熱を行なうのが好ましい。
【0073】
請求項18の発明は、上記のように樹脂成形体1の表層部のみを加熱するにあたって、樹脂成形体1の表面に熱線を照射することによって、加熱を行なうようにしたものである。熱線は樹脂成形体1の内部にまで浸透しないので、熱線を樹脂成形体1の表面に沿って走査させることによって、樹脂成形体1の表層部のみを均一に加熱することができるものである。熱線としては、CO2レーザ、赤外線ビームなどを用いることができ、また熱線の熱源としてハロゲンランプなどを用いることもできる。例えば、熱線としてCO2レーザを用いる場合、エネルギー密度1J/cm2で照射して加熱を行なうことができる。
【0074】
請求項19の発明は、上記の各発明のように、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理をするにあたって、ラジカルを生成させる雰囲気ガスとして、NH3,SO2,NO2,COなどから選ばれるガスを用いるようにしたものである。これらのガスを雰囲気ガスとして生成したプラズマを用いることによって、窒素ガスを雰囲気ガスとして生成したプラズマを用いる場合よりも、電子親和力の大きい極性基を樹脂の分子に付与することができるのである。例えば、SO2の電子親和力は1.1eV、NO2の電子親和力は2.4eVであり、上記のNH3,SO2,NO2,COなどのガスを雰囲気ガスとして用いることによって、例えばアミノ基(−NH2)、スルホニル基(−SO2)、カルボニル基(−CO−)などの電子親和力の大きい極性基を樹脂の分子に付与することができる。ここで、樹脂と金属の結合において、配位結合することが両者の密着力の観点から望ましいが、樹脂の電子親和力が大きく、一方金属の電気陰性度が小さい程、配位結合し易くなる。そして金属は電気陰性度が小さいので、上記のようにNH3,SO2,NO2,COなどから選ばれるガスのプラズマを用いて電子親和力の大きい極性基を付与することによって、金属と極性基の結合力が大きくなる。従って、樹脂成形体1とその表面に極性基を付与した後に形成される金属膜2との密着力が高くなり、樹脂成形体1と金属膜2との密着性を高く得ることができるものである。
【0075】
請求項20の発明は、上記の各発明のように、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理をした後、さらに必要に応じて樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させる処理をした後、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するに先だって、樹脂成形体1に対する密着性が金属膜2よりも高い金属を樹脂成形体1の表面にプレコートするようにしたものである。
【0076】
すなわち、図9(b)のように樹脂成形体1の表面に極性基10を付与し、この樹脂成形体1の表面に金属をスパッタリング等のPVD法でコートして図9(c)のようにプレコート金属膜6を形成する。このプレコート金属膜6は上記のように樹脂成形体1に対する密着性が金属膜2よりも高い金属で形成されるものであり、例えばLCPやSPSで作製される樹脂成形体1の表面にCuの金属膜2を形成する場合には、Ti,Cr,Ni等から選ばれる金属を用いてプレコート金属膜6を形成するものである。そしてプレコート金属膜6を形成した後に、図9(d)のようにこのプレコート金属膜6の上にCu等の金属膜2を形成するものである。金属同士の密着性は金属と樹脂との密着性よりもはるかに高いので、このように樹脂成形体1と金属膜2の間に、樹脂成形体1に対する密着性が金属膜2よりも高いプレコート金属膜6が存在することによって、樹脂成形体1に対する金属膜2の密着性を高く得ることができるものである。このプレコート金属膜6は0.01〜0.1μmの厚みで形成するのが好ましい。
【0077】
請求項21の発明は、上記のように樹脂成形体1の表面にプレコート金属膜6を形成するにあたって、樹脂成形体1を、樹脂成形体1を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)±30℃の範囲で加熱しながら金属のコーティングを行なうようにしたものである。樹脂成形体1をTg±30℃の範囲、特に好ましくはTg±10℃の範囲で加熱しながら、金属をコーティングして成膜することによって、樹脂成形体1とプレコート金属膜6の密着性を高く得ることができるものである。加熱温度がTg−30℃よりも低いと、樹脂成形体1に対するプレコート金属膜6の密着性を向上する効果が不十分になり、また逆に加熱温度がTg+30℃よりも高いと、樹脂成形体1が熱変形したり、熱劣化したりするおそれがある。樹脂成形体1の加熱は、既述したと同様に、表層部のみに行なうのが好ましい。
【0078】
請求項22の発明は、上記のように樹脂成形体1の表面にプレコート金属膜6を形成するにあたって、金属酸化物でプレコート金属膜6を形成するようにしたものである。この金属酸化物としては、樹脂成形体1に対する密着性が金属膜2よりも高い金属の酸化物が用いられるものであり、例えばLCPやSPSで作製される樹脂成形体1の表面にCuの金属膜2を形成する場合には、Ti,Cr,Ni等から選ばれる金属の酸化物が用いられるものである。またこの場合、金属酸化物として酸化銅を用いることもできる。このように金属酸化物でプレコート金属膜6を形成することによって、樹脂成形体1に対する金属膜2の密着性を一層高く得ることができるものである。
【0079】
ここで、樹脂成形体1の表面に金属酸化物のプレコート金属膜6を形成するにあたっては、反応性スパッタリングによる方法で行なうことができる。図10はスパッタリング装置の一例を示すものであり、チャンバー37内に樹脂成形体1を保持するホルダー38と、上記のTi,Cr,Ni等から選ばれる金属のターゲット39を配置し、酸素ガスのプラズマPあるいはアルゴンなどの不活性ガスと酸素との混合ガスのプラズマPを起こしてスパッタリングを行なうことによって、ターゲット39の金属を酸素と反応させて金属酸化物にした状態で樹脂成形体1の表面に堆積させ、樹脂成形体1の表面に金属酸化物のプレコート金属膜6を形成することができるものである。
【0080】
また請求項23の発明は、上記の各発明のように、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体1の表面の樹脂の分子に極性基を付与する第2段の処理をした後、さらに必要に応じて樹脂成形体1の表面の樹脂の分子を架橋させる処理をした後、樹脂成形体1の表面に金属膜2を形成するに先だって、金属膜2との密着性が樹脂成形体1の樹脂よりも高い樹脂を樹脂成形体1の表面にプレコートするようにしたものである。
【0081】
すなわち、図11(b)のように樹脂成形体1の表面に極性基10を付与し、この樹脂成形体1の表面に樹脂を蒸着重合やプラズマ重合など気相重合して図11(c)のようにプレコート樹脂膜7を形成する。このプレコート樹脂膜7は上記のように金属膜2との密着性が樹脂成形体1の樹脂よりも高い樹脂で形成されるものであり、例えばLCPやSPSで作製される樹脂成形体1の表面にCuの金属膜2を形成する場合には、ポリイミドやポリアミド等を用いてプレコート樹脂膜7を形成するものである。そしてプレコート樹脂膜7を形成した後に、図11(d)のようにこのプレコート樹脂膜7の上にCu等の金属膜2を形成するものである。樹脂同士の密着性は樹脂と金属との密着性よりもはるかに高いので、このように樹脂成形体1と金属膜2の間に、金属膜2との密着性が樹脂成形体1の樹脂よりも高いプレコート樹脂膜7が存在することによって、樹脂成形体1に対する金属膜2の密着性を高く得ることができるものである。このプレコート樹脂膜7は0.05〜0.1μmの厚みで形成するのが好ましい。例えば、ポリイミドのプレコート樹脂膜7を形成する場合、無水ピロメリット酸(PMDA)とジフェニルアミン(ODA)の温度約200℃、チャンバー温度300℃、樹脂成形体1の温度200℃の条件で蒸着重合することによって、膜厚0.1μm以下のプレコート樹脂膜7を形成することができる。
【0082】
【発明の効果】
上記のように本発明の請求項1に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なった後、プラズマをダウンストリーム法で樹脂成形体の表面に導くことによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するようにしたので、樹脂成形体の表面の樹脂の分子を開裂した状態で極性基を付与することができ、極性基の付与を効率高く行なうことができると共に、この極性基を付与する処理は主としてプラズマ中のラジカルで行なわれ、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体の表面がエッチングされることがなくなって、極性基を高密度で形成することができるものであり、樹脂成形体に金属膜を密着性高く形成することができるものである。
【0083】
本発明の請求項2に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なった後、プラズマ中のイオンを電極に電気的に吸引して樹脂成形体の表面に到達させないようにすることによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するようにしたので、樹脂成形体の表面の樹脂の分子を開裂した状態で極性基を付与することができ、極性基の付与を効率高く行なうことができると共に、この極性基を付与する処理は主としてプラズマ中のラジカルで行なわれ、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体の表面がエッチングされることがなくなって、極性基を高密度で形成することができるものであり、樹脂成形体に金属膜を密着性高く形成することができるものである。
【0084】
また請求項3の発明は、上記請求項2において、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をするにあたって、樹脂成形体を保持する保持電極と樹脂成形体と対向する対向電極の間でプラズマを発生させ、プラズマ中のイオンを電気的に吸引する中間電極で樹脂成形体を囲うことによって、プラズマ中のイオンを樹脂成形体の表面に到達させないようにしたので、プラズマ中のイオンを中間電極に電気的に吸引させて樹脂成形体の表面に確実に到達させないようにすることができるものである。
【0085】
また請求項4の発明は、上記請求項2において、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をするにあたって、樹脂成形体を保持する保持電極と樹脂成形体と対向する対向電極の間でプラズマを発生させ、対向電極に負のバイアスがかかった高周波電圧を印加することによって、プラズマ中のイオンを対向電極に電気的に吸引させて、プラズマ中のイオンを樹脂成形体の表面に到達させないようにしたので、プラズマ中のイオンを対向電極の側に電気的に吸引させて樹脂成形体の表面に確実に到達させないようにすることができるものである。
【0086】
また請求項5の発明は、上記請求項1乃至4のいずれかにおいて、樹脂成形体を保持する保持電極と樹脂成形体と対向する対向電極の間でプラズマを発生させて、樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なうにあたって、保持電極に負のバイアスがかかった高周波電圧を印加すると共に、負のバイアス電圧を−100V〜−700Vの範囲に制御するようにしたので、プラズマ中のイオンの樹脂成形体の表面への衝突エネルギーを最適なものにすることができ、樹脂成形体の樹脂の表面に脆弱層が形成されるようなことなく、樹脂の分子を開裂させる処理を行なうことができるものである。
【0087】
本発明の請求項6に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体の表面にレーザーを照射して樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なった後、プラズマをダウンストリーム法で樹脂成形体の表面に導くことによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するようにしたので、樹脂成形体の表面の樹脂の分子を開裂した状態で極性基を付与することができ、極性基の付与を効率高く行なうことができると共に、この極性基を付与する処理は主としてプラズマ中のラジカルで行なわれ、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体の表面がエッチングされることがなくなって、極性基を高密度で形成することができるものであり、樹脂成形体に金属膜を密着性高く形成することができるものである。
【0088】
本発明の請求項7に係る樹脂成形体への金属膜形成方法は、樹脂成形体の表面にレーザーを照射して樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なった後、プラズマ中のイオンを電極に電気的に吸引して樹脂成形体の表面に到達させないようにすることによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するようにしたので、樹脂成形体の表面の樹脂の分子を開裂した状態で極性基を付与することができ、極性基の付与を効率高く行なうことができると共に、この極性基を付与する処理は主としてプラズマ中のラジカルで行なわれ、高いエネルギーを持つイオンによって樹脂成形体の表面がエッチングされることがなくなって、極性基を高密度で形成することができるものであり、樹脂成形体に金属膜を密着性高く形成することができるものである。
【0089】
また請求項8の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をした後、プラズマ処理して樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させるようにしたので、分子の架橋で樹脂成形体の表面を強化することができ、樹脂成形体の表面に対する金属膜の密着性を一層高くすることができるものである。
【0090】
また請求項9の発明は、上記請求項8において、プラズマから発せられる紫外線は通過させるがプラズマ中のイオンは通過させないバリアで樹脂成形体を囲った状態で、樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させるプラズマ処理をするようにしたので、プラズマからの紫外線で樹脂の分子を架橋させる際に、プラズマ中のイオンが樹脂成形体の表面に衝突することを防止することができ、架橋がイオンの作用で開裂されたりすることを防ぐことができるものである。
【0091】
また請求項10の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルで樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をした後、紫外線照射処理をして樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させるようにしたので、分子の架橋で樹脂成形体の表面を強化することができ、樹脂成形体の表面に対する金属膜の密着性を一層高めることができるものである。
【0092】
また請求項11の発明は、上記請求項10において、紫外線照射処理を紫外線レーザを用いて行なうようにしたので、紫外線レーザを照射することによって樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させ、分子の架橋で樹脂成形体の表面を強化することができるものである。
【0093】
また請求項12の発明は、上記請求項10において、紫外線照射処理をエキシマランプを用いて行なうようにしたので、エキシマランプから放射される紫外線を照射することによって樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させ、分子の架橋で樹脂成形体の表面を強化することができるものである。
【0094】
また請求項13の発明は、上記請求項1乃至12のいずれかにおいて、樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なうに先だって、樹脂成形体の表面を粗化するプラズマ処理を行なうようにしたので、樹脂成形体に対する金属膜の密着性を、粗化の凹凸によるアンカー効果で高めることができるものである。
【0095】
また請求項14の発明は、上記請求項13において、酸素あるいはオゾンを雰囲気ガスとするプラズマで、樹脂成形体の表面を粗化するプラズマ処理をするようにしたので、酸素あるいはオゾンのプラズマはエッチング速度が速く、表面粗化の処理時間を短縮することができるものである。
【0096】
また請求項15の発明は、上記請求項1乃至14のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理を、樹脂成形体を加熱しながら行なうようにしたので、樹脂成形体の樹脂の分子の活性が高くなって、樹脂の分子への極性基の付与が促進され、極性基の形成を効率高く高密度で行なうことができるものである。
【0097】
また請求項16の発明は、上記請求項15において、樹脂成形体を、樹脂成形体の樹脂のガラス転移温度±30℃の温度で加熱するようにしたので、樹脂成形体に熱変形や熱劣化が生じるようなことなく、樹脂の分子への極性基の付与を促進することができるものである。
【0098】
また請求項17の発明は、上記請求項15又は16において、樹脂成形体の表層部のみを加熱するようにしたので、樹脂成形体の全体が加熱される場合のような樹脂成形体の変形のおそれがなくなるものである。
【0099】
また請求項18の発明は、上記請求項17において、熱線を樹脂成形体の表面に照射して、樹脂成形体の表層部のみを加熱するようにしたので、熱線は樹脂成形体の内部に浸透し難く、表層部のみの加熱を容易に行なうことができるものである。
【0100】
また請求項19の発明は、上記請求項1乃至18のいずれかにおいて、プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理を、雰囲気ガスとしてNH3,SO2,NO2,COから選ばれるガスを用いたプラズマで行なうようにしたので、樹脂成形体の樹脂の分子に電子親和力が大きい極性基を付与することができ、樹脂成形体の表面に対する金属膜の密着性を一層高めることができるものである。
【0101】
また請求項20の発明は、上記請求項1乃至19のいずれかにおいて、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するに先だって、樹脂成形体に対する密着性が金属膜よりも高い金属を樹脂成形体の表面にプレコートし、このプレコート金属膜の上に上記の金属膜を形成するようにしたので、樹脂成形体と金属膜の間に、樹脂成形体に対する密着性が金属膜よりも高いプレコート金属膜が存在し、樹脂成形体に対する金属膜の密着性を一層高めることができるものである。
【0102】
また請求項21の発明は、上記請求項20において、樹脂成形体を、樹脂成形体の樹脂のガラス転移温度±30℃の温度で加熱して金属のプレコートを行なうようにしたので、樹脂成形体に熱変形や熱劣化が生じるようなことなく、樹脂成形体に対する密着性を高めてプレコート金属膜の形成ができるものである。
【0103】
また請求項22の発明は、請求項20又は21において、金属酸化物でプレコート金属膜を形成するようにしたので、樹脂成形体に対する金属膜の密着性を一層高く得ることができるものである。
【0104】
また請求項23の発明は、樹脂成形体の表面に金属膜を形成するに先だって、金属膜との密着性が樹脂成形体の樹脂よりも高い樹脂を樹脂成形体の表面にプレコートし、このプレコート樹脂膜の上に上記の金属膜を形成するようにしたので、樹脂成形体と金属膜の間に、金属膜との密着性が樹脂成形体の樹脂よりも高いプレコート金属膜が存在し、樹脂成形体に対する金属膜の密着性を一層高めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)は樹脂成形体の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を示す概略図、(b)は樹脂成形体の樹脂の分子に極性基を付与するプラズマ処理を示す概略図である。
【図2】同上の樹脂成形体の処理の状態を示すものであり、(a),(b),(c)はそれぞれ断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、樹脂成形体の樹脂の分子に極性基を付与するプラズマ処理を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、樹脂成形体の樹脂の分子に極性基を付与するプラズマ処理を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、樹脂成形体の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、樹脂成形体の樹脂の分子の結合を開裂するレーザー処理を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、樹脂成形体の樹脂の分子を架橋させるプラズマ処理を示す概略図である。
【図8】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、樹脂成形体の樹脂の分子を架橋させるプラズマ処理を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態の他の一例における樹脂成形体の処理の状態を示すものであり、(a),(b),(c),(d)はそれぞれ断面図である。
【図10】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、樹脂成形体の表面にプレコート樹脂膜を形成する処理を示す概略図である。
【図11】本発明の実施の形態の他の一例における樹脂成形体の処理の状態を示すものであり、(a),(b),(c),(d)はそれぞれ断面図である。
【図12】従来のプラズマ処理を示す概略図である。
【図13】従来のプラズマ処理による処理前と処理後の金属膜のピール強度を示すグラフである。
【符号の説明】
1 樹脂成形体
2 金属膜
3 保持電極
4 対向電極
5 中間電極
6 プレコート金属膜
7 プレコート樹脂膜
8 高周波電源
9 バリア
10 極性基

Claims (23)

  1. 樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なった後、プラズマをダウンストリーム法で樹脂成形体の表面に導くことによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする樹脂成形体への金属膜形成方法。
  2. 樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なった後、プラズマ中のイオンを電極に電気的に吸引して樹脂成形体の表面に到達させないようにすることによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする樹脂成形体への金属膜形成方法。
  3. プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をするにあたって、樹脂成形体を保持する保持電極と樹脂成形体と対向する対向電極の間でプラズマを発生させ、プラズマ中のイオンを電気的に吸引する中間電極で樹脂成形体を囲うことによって、プラズマ中のイオンを樹脂成形体の表面に到達させないようにすることを特徴とする請求項2に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  4. プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をするにあたって、樹脂成形体を保持する保持電極と樹脂成形体と対向する対向電極の間でプラズマを発生させ、対向電極に負のバイアスがかかった高周波電圧を印加することによって、プラズマ中のイオンを対向電極に電気的に吸引させて、プラズマ中のイオンを樹脂成形体の表面に到達させないようにすることを特徴とする請求項2に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  5. 樹脂成形体を保持する保持電極と樹脂成形体と対向する対向電極の間でプラズマを発生させて、樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂するプラズマ処理を行なうにあたって、保持電極に負のバイアスがかかった高周波電圧を印加すると共に、負のバイアス電圧を−100V〜−700Vの範囲に制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  6. 樹脂成形体の表面にレーザーを照射して樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なった後、プラズマをダウンストリーム法で樹脂成形体の表面に導くことによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする樹脂成形体への金属膜形成方法。
  7. 樹脂成形体の表面にレーザーを照射して樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なった後、プラズマ中のイオンを電極に電気的に吸引して樹脂成形体の表面に到達させないようにすることによって、プラズマ中のラジカルを主として樹脂成形体の表面に到達させると共にこのラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をし、この後、樹脂成形体の表面に金属膜を形成することを特徴とする樹脂成形体への金属膜形成方法。
  8. プラズマ中のラジカルで樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をした後、プラズマ処理して樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  9. プラズマから発せられる紫外線は通過させるがプラズマ中のイオンは通過させないバリアで樹脂成形体を囲った状態で、樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させるプラズマ処理をすることを特徴とする請求項8に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  10. プラズマ中のラジカルで樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理をした後、紫外線照射処理をして樹脂成形体の表面の樹脂の分子を架橋させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  11. 紫外線照射処理を紫外線レーザを用いて行なうことを特徴とする請求項10に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  12. 紫外線照射処理をエキシマランプを用いて行なうことを特徴とする請求項10に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  13. 樹脂成形体の表面の樹脂の分子の結合を開裂する処理を行なうに先だって、樹脂成形体の表面を粗化するプラズマ処理を行なうことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  14. 酸素あるいはオゾンを雰囲気ガスとするプラズマで、樹脂成形体の表面を粗化するプラズマ処理をすることを特徴とする請求項13に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  15. プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理を、樹脂成形体を加熱しながら行なうことを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  16. 樹脂成形体を、樹脂成形体の樹脂のガラス転移温度±30℃の温度で加熱することを特徴とする請求項15に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  17. 樹脂成形体の表層部のみを加熱することを特徴とする請求項15又は16に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  18. 熱線を樹脂成形体の表面に照射して、樹脂成形体の表層部のみを加熱することを特徴とする請求項17に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  19. プラズマ中のラジカルの作用で樹脂成形体の表面の樹脂の分子に極性基を付与する処理を、雰囲気ガスとしてNH3,SO2,NO2,COから選ばれるガスを用いたプラズマで行なうことを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  20. 樹脂成形体の表面に金属膜を形成するに先だって、樹脂成形体に対する密着性が金属膜よりも高い金属を樹脂成形体の表面にプレコートし、このプレコート金属膜の上に上記の金属膜を形成することを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  21. 樹脂成形体を、樹脂成形体の樹脂のガラス転移温度±30℃の温度で加熱して金属のプレコートを行なうことを特徴とする請求項20に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  22. 金属酸化物でプレコート金属膜を形成することを特徴とする請求項20又は21に記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
  23. 樹脂成形体の表面に金属膜を形成するに先だって、金属膜との密着性が樹脂成形体の樹脂よりも高い樹脂を樹脂成形体の表面にプレコートし、このプレコート樹脂膜の上に上記の金属膜を形成することを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の樹脂成形体への金属膜形成方法。
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