JP3728740B2 - 内燃機関用ピストンリング - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は内燃機関用ピストンリングの表面処理に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、内燃機関の高性能化に伴い、各機能部品に対し益々苛酷な条件が課せられると共に、内燃機関の寿命の延長が強く要求されている。ピストンリングも従来にも増して高回転、高温、高面圧等の厳しい環境にさらされ、その耐久性の向上が要求されている。更に、エンジン性能向上やコンパクト化の要求から、圧力リング3本とオイルリング2本の組合せや、圧力リング3本とオイルリング1本の組合せ、圧力リング2本とオイルリング1本の組合せ、圧力リング1本とオイルリング1本の組合せ等、種々の内燃機関用ピストンリングの組合せがディーゼルエンジンやガソリンエンジンに採用されている。そしてピストンリングの耐久性を改善する手段として摺動面に硬質クロムメッキ処理や窒化処理等の耐摩耗性処理が実施されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のクロムメッキ層を有するピストンリングでは、耐摩耗性が十分でなくなってきており、窒化処理は優れた耐摩耗性を有することから苛酷な運転条件の下で使用される第1圧力リング(トップリング)の表面処理として注目され、最近多く使用される傾向である。しかしながら、従来のピストンリングに採用された窒化処理においてもいまだ耐摩耗性、耐スカッフィング性、耐相手攻撃性、耐析損性の点で十分とは言えなかった。
【0004】
そこで、本発明は、耐摩耗性、耐スカッフィング性、耐折損性が良好であり、又、相手攻撃性も可及的に減少可能な(耐相手攻撃性が良好な)内燃機関用ピストンリングを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明が採用する手段は、内燃機関用ピストンリングの圧力リング又はオイルリングの外周摺動面に、PVD法によりCrN型窒化クロムとCr2N型窒化クロムの混合物からなるイオンプレーティング皮膜を形成し、そのCrN型窒化クロム及びCr2N型窒化クロムの結晶方位比率、すなわちゴニオメータ回析図形の各結晶の反射強度比により決定されるOrientation Indexが次の範囲に在るようにしたことにある。
【0006】
CrN(111) :0.85〜0.15
CrN(200) :0.75〜0.05
Cr2N(002) :0.20以下
Cr2N(112) :0.08以下
【0007】
【作用】
PVD法により製作された各々の単一イオンプレーティング皮膜を単独で用いた場合には、研削・研磨時における加工性の悪さ等から欠け、剥離が多く発生し、良品率が著しく低下する。又、その完成品を内燃機関にて使用した場合、発生する動的衝撃、及び熱的衝撃に対して、極めて弱く、折損等を引き起こし易くなり、その優れた耐摩耗性、耐スカッフ性を充分に活用することが出来ない。
【0008】
しかしながら、摺動面に対し同じ立方晶系であっても異なる結晶方位CrN(111)、CrN(200)各々と、異なる晶系=六方晶系のCr2N(002)の結晶方位を配位することにより、複雑に絡み合った結晶からイオンプレーティング皮膜を構成させ、耐摩耗性、耐スカッフ性を損なうことなく、すしろこれら諸特性の向上を計りながら、耐衝撃性、耐クラック性をも向上することが出来る。
【0009】
又、上記の異なる晶系=六方晶系のであるところのCr2N(002)に、異なる結晶方位Cr2N(112)を配位する事で、上記効果のより一層の向上を計ることが出来る。
X線結晶学で言うところの集合組織における結晶方位を定量的に示すOrientation Indexが、
CrN(111) :0.85〜0.15
CrN(200) :0.75〜0.05
Cr2N(002) :0.20以下
Cr2N(112) :0.08以下
の範囲に存在すれば、耐摩耗性、耐スカッフ性はより一層の向上が得られ、耐衝撃性、耐クラック性も向上する。しかしこれらの何れかがこの範囲以外にあると、例えば、CrN(111)、CrN(200)の何れかが大きい場合には、構成する結晶方位は単結晶方位に近づき、その特性は低下する。又、Cr2N(002)が上記範囲内にあれば、構成するCrN各結晶面は、より一層複雑に絡み合うが、この範囲を超えるとむしろCrNの特性を減少させる。
【0010】
又、Cr2N(112)が、0.08以下の範囲に在れば、更なる効果が得られるが、これ以上の存在はCr2Nの結晶方位の弱い方位を摺動面に向けることになる。
【0011】
【実施例】
本発明の内燃機関用ピストンリングを図1ないし図5に基づいて説明する。
図1は本発明実施例の内燃機関用ピストンリングを示す。ピストン1には3個の環状溝1a、1b、1cが刻設され、燃焼室に近い順に第1圧力リング2(トップリング)、第2圧力リング3、オイルリング4が装着されている。オイルリング4は組合せオイルリングであり、サイドレール4aとスペーサエキスパンダ4bとから構成されている。
【0012】
圧力リング2、3の母材はステンレス鋼(17Crステンレス鋼)製であり、オイルリング4のサイドレール4aの母材もステンレス鋼(13Crステンレス鋼)である。又、リング2、3、4の外周摺動面は、シリンダライナ5に摺接している。第1圧力リング2とオイルリング4の外周摺動面にはイオンプレーティング皮膜2A、4Aがそれぞれ形成されている。第1圧力リング2は、摩耗が最も顕著であるため、耐摩耗性、耐スカッフィング性、耐相手攻撃性の向上を目的として、外周摺動面にイオンプレーティング皮膜2Aが形成される。又、オイルリング4についても、それが摩耗すると油掻き作用が失われ、オイル上がりが増すので、潤滑油の消費が増え、また燃焼室に潤滑油が流入して燃焼状態に悪影響を与える。よって、オイルリング4の外周摺動面にも、イオンプレーティング皮膜4Aが形成される。
【0013】
上述した実施例のイオンプレーティング皮膜2A、4Aは、公知のPVD法により形成される。この方法は、窒素等の反応ガス中にCrを蒸発させ、気相状態でイオン化して、マイナスにバイアスされた母材表面に反応ガスと蒸発物質イオンとの反応生成物、すなわちCrNとCr2Nの混合を、又はCrNとCr2NとCrの混合を形成させる表面処理方法である。
【0014】
次に、本発明による内燃機関用ピストンリングのリング単体での優秀性を確認するために、イオンプレーティング皮膜中のCrN(111)、CrN(200)、Cr2N(002)、Cr2N(112)の結晶方位比率が異なる8種類のテスト片試料1〜8を作成し、各種実験を行った。テスト片の母材はステンレス鋼であり、試料1〜試料8は表1に示す結晶方位比率を有する厚さ50μmのイオンプレーティング層が形成されている。従来のものとしてクロムメッキを厚さ50μm施した試料9を用いた。
【0015】
【表1】
【0016】
実験結果から、表1において、試料4〜6が実施例、試料1〜3、試料7〜9が比較例となった。
結晶方位比率:ゴニオメータ回析図形の各結晶の反射強度比により決定
規格化強度 :極点計測図形の各結晶の強度測定値
耐摩耗性試験
摩耗試験機:アムスラー型摩耗試験機
回転片(外径:40mm、内径:16mm、厚さ:10mm):FC(ライナー相当材
固定片(18mm×15mm×5mm):当り面側に各種皮膜材
(厚さ=50μm)
周速:1m/sec、潤滑油:10W30、油温:80℃、
荷重:150kg、時間:7時間
上記試験条件において耐摩耗性試験を行った。回転片の材料はシリンダライナ用鋳鉄(C:3.2重量%、Si:2.1重量%、Mn:0.8重量%、P:0.3重量%、Cu:0.4重量%、Mo:0.2重量%、B:0.1重量%、Fe:残部を用いた。結果は試料9の摩耗量を指数100として図2に図示した。
【0017】
図2から明らかなように、従来のクロムメッキを100とした場合、実施例試料4〜6は30〜50であり、耐摩耗性に優れていること、及び相手材(回転片)の摩耗が20〜40と少なく耐相手攻撃性を具備していることが判る。比較例試料1〜3、7、8は摩耗が120以上であり、試料9のクロムめっきよりも不良であった。
【0018】
耐スカッフ性試験
摩耗試験機:アムスラー型摩耗試験機
回転片(外径:40mm、内径:16mm、厚さ:10mm)
固定片(18mm×15mm×5mm):当り面側に各種皮膜材(厚さ=50μm)
周速:5m/sec、
潤滑油:SAE30+白灯油(1:1)、油温:50℃、油量:0.2L/m、
荷重:スカッフ発生まで
上記試験条件において耐スカッフィング試験を行った。この試験は摩耗試験と同じ材質の回転片、同じ各種皮膜材質の固定片を用いた。初めにテスト片の摺動面に馴染みを持たせる為に、テスト片を固定し、荷重25kg/cm2 にて20分間潤滑油を供給しながら回転・片固定片各々を互いに面接し回転させた。次の面圧を30kg/cm2に上げ、2分毎に面圧を5kg/cm2づつ上昇させスカッフィングが生じた時の荷重を限界面圧として測定した。結果は、試料9のクロムめっきのスカッフィング発生面圧を指数100として図3に図示した。
【0019】
図3から明かなように、従来のクロムめっきの耐スカッフィング性を100とした場合、実施例試料4〜6は300〜400であり、耐スカッフィング性に優れていることが明かである。比較例試料1〜3、7、8は耐スカッフィング性が120〜150であり実施例の半分以下であった。
最後に、イオンプレーティグ皮膜の母材に対する密着性について評価試験を行った。表1の試料1〜9として、直径90mmのピストンリングを9本作製し、それらの外周面にそれぞれ耐摩耗性、耐スカッフ性の試験と同じ被覆を設けた。皮膜の厚さはすべて50μmとした。密着性の評価試験は図5に示されるようなツイスト試験機にて行った。
【0020】
ツイスト試験機においては、ピストンリング2の合口21aの相対向する合口端部を掴持具32a、32bで掴持し、掴持具32aを固定しておいて掴持具32bをピストンリング2の直径方向で合口の反対側21bを軸として一点鎖線で示されるように回転させてピストンリング2を所定の捻り角度にて捻る。捻り後に、このピストンリング2の合口反対側21bを切断し、切断面(破面)における皮膜層のリング母材からの剥離の有無を目視で観察した。結果はクロムめっきの比較例試料9の剥離角度を指数100として図4に図示した。
【0021】
図4から明かなように、従来のクロムめっき試料9の密着性を100とした場合、実施例試料4〜6は100〜150であり、密着性はクロムめっきと同等かあるいはクロムめっきより優れている。しかし、比較例試料1〜3、7、8は65以下であり、クロムめっきより密着性が劣る。
【0022】
【発明の効果】
上記のとおり、本発明の内燃機関用ピストンリングは、その外周摺動面にPVD法により形成したCrN型窒化クロムとCr2N型窒化クロムの混合イオンプレーティング皮膜を具備し、その皮膜は結晶方位比率を示すOrientation Indexによるものが次の範囲にあるから、
CrN(111) :0.85〜0.15
CrN(200) :0.75〜0.05
Cr2N(002) :0.20以下
Cr2N(112) :0.08以下
耐摩耗性、耐スカッフィング性、耐相手攻撃性、密着性が良好であるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】は本発明による内燃機関用ピストンリングの実施例を示す断面図、
【図2】は実施例と比較例のテスト片と相手材の耐摩耗性を示すグラフ、
【図3】は実施例と比較例のテスト片の耐スカッフィング性を示すグラフ、
【図4】は実施例と比較例のテスト片の密着性を示すグラフ、
【図5】は密着性を測定するツイスト試験装置を示す模式図、
【符号の説明】
2、3:圧力リング、
4:オイルリング、
5:シリンダライナ、
2A、4A:イオンプレーティング皮膜
Claims (1)
- 外周摺動面にCrN型の窒化クロムと、Cr2N型の窒化クロムとの混合物からなるイオンプレーティング皮膜がPVD法により形成されたピストンリングであって、前記CrN型窒化クロム及びCr2N型窒化クロムのゴニオメータ回析図形の各結晶の反射強度比により決定される結晶方位比率を示すOrientation Indexに基づくものが、
CrN(111) :0.85〜0.15
CrN(200) :0.75〜0.05
Cr2N(002) :0.20以下
Cr2N(112) :0.08以下
の範囲に在ることを特徴とする内燃機関用ピストンリング。
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