JP3727807B2 - 皮膚中成分および皮膚特性の測定方法および測定装置 - Google Patents

皮膚中成分および皮膚特性の測定方法および測定装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は皮膚中成分および皮膚特性の測定方法及び測定装置に関し、一層詳細には重回帰分析の手法を利用して皮膚の測色値から皮膚中の成分量および皮膚の特性を求める測定方法および測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
皮膚の色はそれを構成する色素成分によって決まるが、所謂「色白」にすることが一般に求められる美容上の観点、また不健康な状態を示す一つの指針とされる「目の下のクマ」が示すように健康状態を診断するという観点からも、人にとって重要な特性である。
【0003】
色白の肌を得るという美容上の美白の観点においては、皮膚の色は最終的な目標となるものであるが、具体的な達成方法としては、その存在量の多少が皮膚の色の濃色化と色白化に反映されるメラニン色素の生成を抑制することによるのが一般的である。このメラニン色素はシミ・ソバカスとして皮膚の表面に顕在化する。
【0004】
メラニンの生成を抑え、所謂色白の肌を得るため、化粧品の分野においては美白化粧品と一般に称される化粧品の開発が盛んに行なわれている。
そして、この美白化粧品の開発に際しては、美白効果の指針として、皮膚の色に加えて、メラニンの量を直接に測定したいとする要求が従来からある。また、皮膚の色を見るときにシミ・ソバカスの分布状態を測定したいとする要求もある。
【0005】
即ち、いわば、局所的な皮膚中のメラニンおよび広範な範囲の皮膚のシミ・ソバカスに対する効果をそれぞれ直接かつ独立して評価することで、美白化粧品の美白効果の一つを正確に評価することが求められている。
前者の皮膚中のメラニン量を評価しようとする場合、メラニン量を直接測定することは実際には困難であり、したがって、皮膚の色から評価はなされ、従来からある測色装置で皮膚の色を測り、L* a* b* 表色系における明度指数L* 値を評価して行なっている。つまり、美白化粧品を皮膚に適用し、L* 値が下がるとメラニンば増え、L* 値が上がるとメラニンは減少したと判断し、美白化粧品のメラニンに対する効果、即ち美白効果を評価していた。
【0006】
しかしながら、メラニンが増加すれば確かにL* 値は低下するが、L* 値が低いからといって必ずしもメラニンが多いとは言えないことが分かっている。即ち、皮膚に炎症(紅斑)が生じ、皮膚中の血液が増加して色素であるヘモグロビン(酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンを含む)が増加することによっても皮膚のL* 値は低下する。
【0007】
従って、皮膚のL* 値が低下する場合、メラニンの増加によるものなのか、炎症によるヘモグロビンの増大によるものなのか、区別して判断ができず、L* 値が増大しても美白化粧品の美白効果、特にメラニンの生成を抑える効果として正確に評価することはできなかった。
また、健康維持の必要などから、人の健康状態を測るという観点においては、例えば「目の下のクマ」等の鬱血した部分に対し、その色味を評価するのみでは足りず、これを構成する成分の特定と測定、特に特定のヘモグロビン種の特定と測定が求められつつある。しかしながら、それを簡便に評価する方法はない。
【0008】
つまり、例えば上記と同様の従来の測色を例えば「目の下のクマ」等の鬱血した部分に対し適用することが考えられるが、測色によりその色は明確になるものの、鬱血した部分がどのような皮膚の成分によりどのような比率で構成されているかは十分に判断できず、「目の下のクマ」等の鬱血した部分を評価することによっても、人の健康状態の正確な把握や維持のために十分に役立てることは出来ない。
【0009】
このような状況の中、従来の測色装置が物一般を評価対象とするのに対し、皮膚のメラニン量とヘモグロビン量を直接に評価することを目的とする測定器として、メキサメーター(Mexameter:C+K社製)が開発され、皮膚の評価に用いられるようになっている。
このメキサメーターは、評価対象である皮膚において568nm(Greenと称す。)、660nm(Redと称す。)および880nm(Infraredと称す。)の3点の波長の反射率測定を行なう反射率測定部と、得られたデータを解析してメラニン量とヘモグロビン量を算出・表示する制御部からなる装置である。
【0010】
このメキサメーターの測定原理は概略以下のとおりである。
メラニン量の評価においては、RedからInfraredの間には血液の吸収はほとんど無いため、Redでの測定で得られた反射率より求めた吸光度から、Infraredでの測定で得られた反射率より求めた吸光度を差し引くことにより、メラニンの量が求められる。同様に血液の評価においては、血液がGreen近辺に吸光度のピークを有し、Redでの吸収はほとんど無いため、Greenでの測定で得られた反射率から求めた吸光度から、Redでの測定で得られた反射率より求めた吸光度を差し引くことにより、血液の量、ひいてはヘモグロビン(酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを両方含んでいる)量が求められる。
【0011】
一方、後者の皮膚のシミ・ソバカスを評価する点に関して、紫外線写真を使用した方法(新井精一他 JOURNAL OF SCCJ 23,31(1989))や、ビデオマイクロスコープを使用した方法(渋江ゆう子他 JOURNAL OF SCCJ 26,120(1992))等が提案されている。また、本出願人は、通常のTVカメラを使用して顔の任意の部位を任意の形で選択し、その部位のシミ・ソバカスを抽出・測定化するシステムを既に開発している。(舛田勇二他 JOURNAL OF SCCJ 28,147(1994))。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前者の局所的な皮膚中のメラニン量を評価するために用いられるメキサメーターはその測定原理において、Greenから求めた吸光度から、Redから求めた吸光度を差し引くことにより、確かにヘモグロビン量は求められるが、メラニンの吸光度もそれらの波長域で差があり、そのまま差し引くことによりメラニン量が算出されるヘモグロビン量に過剰に足されて測定精度に影響する不具合がある。
【0013】
本発明の第1の目的は、構造および操作がともに簡易でかつ安価な測色装置を用いてメラニン等の皮膚中の成分量を高い精度で測定することができる測定方法および測定装置を提供することにある。
一方、後者の広範な範囲の皮膚のシミ・ソバカスを評価するために本出願人が開発したTVカメラを使用して顔の任意の部位のシミ・ソバカスを抽出・測定化するシステムは、撮影時に緊張等して皮膚が赤みを帯びた場合、それがシミ・ソバカスの測定精度に影響を与えることがわかっている。
【0014】
したがって、本発明の第2の目的は、皮膚のシミ・ソバカスをより高精度に測定することができる測定方法および測定装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る皮膚中成分の測定方法は、皮膚の測色値と皮膚中の成分量のデータを重回帰分析して重回帰式を予め求め、該重回帰式を用いて皮膚の測色値から皮膚中の成分であるメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンからなる群より選択された少なくとも一つの物質の量を求めることを特徴とする。
【0016】
これにより、従来の測色装置に比べて、高い精度で皮膚中の成分を測定することができる。
この場合、前記測色値は、XYZ表色系三刺激値であると、上記の本発明の効果を好適に奏することができ、また、特に、以下に述べる皮膚の特性を測定する方法と組み合わせて、皮膚特性の測定精度を向上することができる。
【0017】
また、この場合、測定される前記皮膚中の成分のうちのメラニンについて、メラニンと酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンとの偽相関によるメラニン測定値への寄与分を補正して誤差を除く構成とすると、より高い精度で皮膚中の成分を測定することができ、また、皮膚特性の測定精度をより向上することができる。
【0018】
また、本発明に係る皮膚中成分の測定装置は、皮膚の反射光を得る照明・受光光学系部と、測色値を求め、該測色部により得られる測色値から皮膚中の成分であるメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンからなる群より選択された少なくとも一つの物質の量を求める測色値演算制御部と、を有することを特徴とする。
【0019】
これにより、構造および操作がともに簡易でかつ安価な測色装置を用いて、高い精度で皮膚中成分を測定することができる。
また、本発明に係る皮膚特性の測定方法は、皮膚の状態を撮像して得た画像をディジタル画像処理してRGB表色系RGB値の画像を作成し、該RGB表色系RGB値の画像の各画素ごとにRGB値からXYZ表色系XYZ値を求め、さらに、請求項1〜3のうちのいずれか1 項に記載の皮膚中の成分の測定方法を用いて皮膚中の成分量の画像を作成することを特徴とする。
【0020】
これにより、皮膚特性を高い精度で測定することができ、特に、皮膚が赤みを帯びた場合等、皮膚中の酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの量が変化した場合においても、皮膚特性を高い精度で測定することができる。
また、この場合、前記皮膚中の成分量の画像を平滑化処理して皮膚中の成分量の平滑化画像を作成し、該皮膚中の成分量の画像および該皮膚中の成分量の平滑化画像それぞれの各画素における皮膚中の成分量の差を算出して皮膚中の成分量の差分画像を作成し、シミ・ソバカスの指標とすると、一層好適に皮膚特性を測定することができる。
【0021】
また、本発明に係る皮膚特性の測定装置は、皮膚の状態を撮像する撮像部と、該撮像部により撮像して得た画像をディジタル画像化処理してRGB表色系RGB値の画像を作成し、該RGB表色系RGB値の画像の各画素ごとにRGB値からXYZ表色系XYZ値を求め、さらに該XYZ表色系XYZ値から皮膚中の成分量を求めて該皮膚中の成分量の画像を作成し、さらに該皮膚中の成分量の画像を平滑化処理して皮膚中の成分量の平滑化画像を作成し、該皮膚中の成分量の画像および該皮膚中の成分量の平滑化画像それぞれの各画素における皮膚中の成分量の差を算出して皮膚中の成分量の差分画像を作成し、シミ・ソバカスの指標とする画像処理制御部とを備えることを特徴とする。
【0022】
これにより、高い精度で皮膚特性を測定することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る皮膚中成分および皮膚特性の測定方法および測定装置の好適な実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、図面や関係式を参照して説明する。
本実施の形態の第1 の例として、皮膚中の成分であるメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの量を皮膚の局所的部分について本発明の方法によって測定する方法および装置について説明する。なお、ここでは、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンをまとめてヘモグロビンとして取り扱ったが、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの量をそれぞれ独立して取り扱うことができることはいうまでもない。
【0024】
まず、使用する測定装置の測色部および演算制御部について説明する。
この場合、測定装置としては、例えば、市販の測色装置である分光測色計(ミノルタ社製CM−2002)10を用いることができ、この分光測色計10は図1に示すように、照明・受光光学系部12と測色値演算制御部14とから構成される。照明・受光光学系部12は、光源の光が積分球の内壁面で拡散反射し測定試料16を均一に照明し、測定試料面で反射した光のうち所定の角度で反射する光が受光光学系に入射し、測色値演算制御部14で処理される。すなわち、C光源、2度視野で測定される局所的な皮膚の測色データは、反射率スペクトルからXYZ表色系へ変換される。
【0025】
一方、対照データを取るためにこの分光測色計10とは別の測色装置、例えば、前記したメキサメーターを用いる。このメキサメーターを用いて測定される局所的な皮膚中のメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの各含有量は、一定の信頼性のある値と認められる。なお、このメキサメーターに限ることなく、メラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの測定装置としてより信頼性のある装置を対照データを取るために用いることにより、本発明において一層好適な効果を奏することができる。
【0026】
このような局所的な皮膚中のメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンをより高い測定精度で測定するための方法として、本出願人は、皮膚の反射スペクトルを用いる方法を既に検討している。
この皮膚の反射スペクトルを用いる方法は、皮膚の反射スペクトルからランベルト−ベールの法則に基づく吸光度モデルを置くことにより、皮膚の構成成分の量を求めるものである。すなわち、メラニン、酸化ヘモグロビン等の各成分の反射スペクトルを合成したものと皮膚の反射スペクトルのカーブとを重回帰分析の手法を用いてフィッティングすることにより各成分の寄与分を定めるものである。この場合、反射スペクトルの波長領域として500〜700nmの範囲内に限って適用することにより、メラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンを高精度に測定可能であることを見出している。
【0027】
したがって、対照データを取るための測色装置として上記の反射スペクトル測定原理を用いた装置を適用することにより、本発明において一層好適な効果を奏することができる。
つぎに、分光測色計10によって測定される皮膚の測色値と例えば上記の反射スペクトル測定原理を用いた装置によって測定される皮膚中の成分の各データを用いて重回帰分析して皮膚の測色値と皮膚中の成分の重回帰式を求める手順を説明する。
【0028】
被験者として老若60人の女性を対象として、分光測色計を用いて各人の頬の測色値としてのXYZ三刺激値を求めた。このXYZ三刺激値の意義は、およそX刺激値が赤の強さを、Y刺激値が緑の強さを、Z刺激値が青の強さを、それぞれ示すものとみることができる。一方、同じ老若60人の女性を対象として、反射スペクトル測定原理を用いた装置を用いて各人の頬の皮膚中のメラニン、ヘモグロビン量を求めた。
【0029】
皮膚中のメラニン、ヘモグロビン量は、以下の重回帰式で算出されるものと仮定した。
Figure 0003727807
そして、上記のデータを用いて重回帰分析して、Mx〜Mz、Hx〜Hzおよびnm、nhを算出して、以下の重回帰式を得た。
【0030】
Figure 0003727807
上記の重回帰式から算出した、すなわち測色値から求めた60人の各人のメラニン、ヘモグロビン量(横軸)と反射スペクトル測定原理を用いた装置を用いて測定した60人の各人のメラニン、ヘモグロビン量(縦軸)の相関図を図2に示す。ここで、メラニン量、ヘモグロビン量の単位は、mol・cmである。メラニン量について、R=0.945、ヘモグロビン量について、R=0.990と、それぞれ高い相関係数が得られており、本発明の分光測色計による測色値から精度良く皮膚中のメラニン量およびヘモグロビン量を測定できることがわかる。
【0031】
上記の重回帰式は分光測色計10の測色値演算制御部14に組み込まれ、XYZ値からメラニン量およびヘモグロビン量が求められる。
ここで、本実施の形態の第1の例に係る皮膚中の成分の測定方法および測定装置の有用性を検証するために、比較例として従来のL*a*b*表色系におけるL*値とa*値を用いる測色機を使用して、それぞれ、47℃の温浴に3分間皮膚(手)を浸漬し、その後、皮膚を温浴から引き上げたときを開始時点としてその後60分間にわたって皮膚中の成分量の変化を調べた。図3(a)は本実施の形態の第1の例による結果であり、図3(b)は従来の測色機を用いて測定したL*値とa*値の結果である。横軸は、いずれも温浴から引き上げた以降の経過時間(単位 min)を示し、縦軸は、図3(a)については皮膚中の成分量(単位 mol・cm)を示し、図3(b)については、L*値とa*値(単位 無次元)を示す。ここで、L*値はメラニン量を示す指標とされ、a*値はヘモグロビン量を示す指標とされる。なお、それぞれ図中最左端のデータは温浴に浸漬する前の値を示す。
【0032】
図3(a)の本実施の形態の第1の例の場合、ヘモグロビン量は温浴に浸漬した直後に急激に増加し、その後は漸次減少しているが、60分経過後においても高いレベルに止まっている。一方、メラニン量についてもヘモグロビン量と同様の傾向を示すがその増加の程度は小さくヘモグロビン量の増加率の1/5程度に過ぎない。これに対して比較例の場合、ヘモグロビン量の指標とされるa*値については、本実施の形態の第1の例の場合とほぼ同様の傾向を示すが、メラニン量の指標とされるL*値については本実施の形態の第1の例の場合とは異なりヘモグロビン量の指標とされるa*値の場合と同様に温浴に浸漬した直後にかなり増加する傾向を示している。
【0033】
このように皮膚を温浴に浸漬した場合、実際には、ヘモグロビン量が増加し、一方、メラニン量については変化がないことが一般的に知られている。したがって、メラニン量の測定値が変化した本実施の形態の第1の例の場合および比較例の場合の結果はいずれも妥当ではない。しかしながら、変化率(図3(a)における浸漬直後のメラニン量の最大値/浸漬前のメラニン量の値、図3(b)における浸漬直後のL*値の最小値/浸漬前のL*値)の観点からみると、本実施の形態の第1の例の方が比較例に比べて変化率が小さいことから、本実施の形態の第1の例の方が比較例に比べて相対的に良好な測定方法および測定装置であるということができる。
【0034】
なお、上記の各測定方法において実際には変化しないはずのメラニン量の測定値が変化する理由として、本実施の形態の第1の例の場合、測定原理上はメラニン量がほぼ直接的に測定されているにもかかわらず重回帰分析式のもつ誤差や測定装置の測定誤差等が蓄積されたものと考えることができ、一方、比較例の場合、ヘモグロビンの吸収スペクトルとメラニンの吸収スペクトルが重なることによる測定原理上の原因によるものと考えられる。
【0035】
ここで、本実施の形態の第1の例の測定方法および測定装置を用い、皮膚が紫外線照射を受けて日焼けし、赤みを帯びた状態を想定し、腕部に2MEDの紫外線を人工的に照射して日焼けを起こさせたときの皮膚中の成分量の経時変化について、紫外線照射直後から16日間にわたって測定した結果を図4に示す。図4中、横軸は紫外線照射後の経過日数(単位 day)を示し、縦軸は成分量の変化(単位 mol・cm)を示す。
【0036】
メラニン量については、紫外線照射直後に急増し、その後漸次減少する傾向を示す。この傾向は一応妥当であるものの、紫外線照射直後短期日で急上昇している点は他の知見からみて必ずしも合理的ではない。これに対して、ヘモグロビン量については、紫外線照射直後に急増し、その後再び急激に減少して短期日でほぼ紫外線照射前のレベルまで回復する傾向を示すが、これは、臨床的に見て妥当な結果であると思われる。
【0037】
このため、皮膚を温浴に浸漬した場合の上記の結果に基づいて、メラニン量の値をヘモグロビン量の値によって補正することを検討する。
すなわち、皮膚を温浴に浸漬したときの各経過時間におけるメラニン量の値は上記の測定結果ではメラニン量とヘモグロビン量との間に偽相関の関係があるため、見掛け上増加しているが、これを各経過時間におけるメラニン量の値が変化しないで一定値とする補正式を求めた。具体的には、上記のデータを用いてメラニン量の変化とヘモグロビン量との関係式を求め、これをメラニン量の補正項とした。
【0038】
得られたメラニン量の変化とヘモグロビン量との関係式は、
メラニン量の変化=0.219×ヘモグロビン量+0.008 (2−1)
であり、この式(2−1)の相関係数Rは0.946であった。
したがって、補正後のメラニン量は、
Figure 0003727807
で求められる。ここで、式(2−2)中,右辺のメラニン量およびヘモグロビン量は補正前の値である。なお、このメラニン量の補正方法は一例であり、これに限らず、他の測定条件によってより高い相関をもつメラニン量の変化とヘモグロビン量との関係式が得られれば、その式を適用することができる。
【0039】
上記のメラニン量の補正式(2−2)の妥当性を検証するために、本実施の形態の第1の例の測定方法および測定装置を用い、皮膚を温浴に浸漬したときのメラニン量および紫外線を照射したときのメラニン量を上記のメラニン量の補正式(2−2)を用いて補正した結果について、図5に示した。図5中、(a)は皮膚を温浴に浸漬した場合の結果であり、(b)は紫外線を照射した場合の結果である。
【0040】
(a)の皮膚を温浴に浸漬した場合、補正後のメラニン量は時間の経過にかかわらずほぼ一定の値を示し、これは、(a)の原データ(補正前の値)に基づいて補正式(2−2)を作成した関係上およそ当然の結果ということもできるが、一方、(b)の紫外線を照射した場合については、補正後のメラニン量は日数が経過するにつれて漸次増加する傾向を示しており、補正前のメラニン量が短期日で増加する不自然な傾向が解消され、したがって、本補正式が妥当であることがわかった。
【0041】
つぎに、本実施の形態の第2の例として、皮膚特性としてのメラニン量の分布すなわち顔面の広い範囲におけるシミ・ソバカスの分布状態を測定する皮膚特性の測定方法および測定装置ついて説明する。
図6に本実施の形態の第2の例に係る皮膚特性の測定装置の構成の概略を示す。
【0042】
測定装置100は、照明ボックス102と、撮像・測色部としてのテレビカメラ104と、画像処理制御部としての画像解析プロセッサー106とホストコンピュータ108とから構成される。
ここで、照明ボックス012は、顔面画像を同一条件で取り込むためのものであり、テレビカメラ(SONY XC−007)104は、顔面画像を取り込むためのものであり、画像解析プロセッサー(NEXUS 6800)106およびホストコンピュータ(SUN Space station 2)108は、取りこんだ画像のデジタル化と画像からの演算処理を行うためのものである。
【0043】
皮膚特性の測定装置100を用いた皮膚特性としての顔面のシミ・ソバカスの測定方法について説明する。
測定手順は、図7に示すように、概略以下のとおりである。
(1)まず、照明ボックス102内で被験者の顔面を撮像する(S1)。
(2)撮像されたRGB表色系RGB値の画像の各画素(ピクセル)ごとにRGB表色系からXYZ表色系へ変換する。さらにこのXYZ表色系XYZ値から前記式(1−1)によりメラニン量に変換して、メラニン量の画像を作成する(S2−1)。これをメラニン量原画像とよぶ。なお、この場合、前記式(1−2)によりヘモグロビン量に変換するとヘモグロビン量画像を併せて示すことができる。
(3)上記と並行して、メラニン量原画像を平滑化処理して、シミ・ソバカスのない画像を作成する(S2−2)。これをメラニン量平滑化画像とよぶ。
(4)メラニン量原画像とメラニン量平滑化画像の対応する各画素ごとにメラニン量・ヘモグロビン量の差分を算出し、その画像を作成する(S3)。これをメラニン量差分画像とよぶ。計測範囲内におけるこの差分の値が0.2mol・cm以上の画素の総和を求めてシミ・ソバカスの指標とする(S4)。
【0044】
なお、本出願人は、従来、上記のステップS2−1、S2−2において、XYZ表色系XYZ値からL* a* b* 表色系Lab値を求め、Lab値の色差画像を作成して皮膚特性の評価を行なってきた(前出、舛田勇二他 JOURNALOF SCCJ 28,147(1994))。
上記した測定手順について、さらに具体的に説明する。
(1)照明ボックス102の作成
照明ボックス102内で顔面を均一に照明するために2×2×2mの大きさの照明ボックス102の前面の左右上下に10個、側面部に2個のハロゲン電球を配置した。照明ボックス102内は2枚の色温度変換フィルタを配置することでC光源を作成した(電球:FUJI JCV 100V 75WF、フィルタ:RDSリュークロームフィルターII RB4,RB6)。なお、本光源の平均演色性評価数(基準光源IC)は95.67である。
(2)メラニン量原画像の作成
各画素におけるRGB表色系からXYZ表色系への変換は、RGB撮像管特性からXYZ三刺激値にあてはまる一次変換式の係数を、最小2乗法を使用して算出し、以下の変換式を求めた。
【0045】
X=0.59R+0.23G+0.18B (3−1)
Y=0.31R+0.60G+0.09B (0≦Y≦100) (3−2)
Z=1.00B (3−3)
つぎに、前記式(1−1)を用いてXYZ三刺激値(XYZ値)をメラニン量に変換し、メラニン量原画像を作成した。
(3)メラニン量平滑化画像の作成
本測定では顔面全体を512×480画素のサイズ内に取りこんでいるため、1画素が約0.5mmの大きさに相当する。平滑化には移動平均法を使用したが、移動距離が小さいときは老人性色素斑等の大きなシミでは中央部の中抜けが生じ、また移動距離が大きいときは顔面の皺を拾いやすくなり測定には不適当であったため(図示せず。)、平滑化マトリクスは25×25(約7.5×7.5mm2)画素を採用した。以上の手順でメラニン量平滑化画像を作成した(図示せず。)。
(4)シミ・ソバカスの指標の算出と解析
メラニン量原画像とメラニン量平滑化画像の対応する各画素ごとにメラニン量の差分を算出し、メラニン量差分画像を作成した。メラニン量差分を基準にして、シミ・ソバカスを濃度別に分類し、視覚化と定量化を行なった。解析例を図8に示す。
【0046】
この場合、メラニン量差分が0.2mol・cm未満の範囲では画像のノイズの影響を受けやすく視感ではほとんど判別できない色レベルのムラであるため、メラニン量差分が0.2mol・cm以上の範囲を0.2mol・cm刻みで分割し、0.2mol・cm以上0.4mol・cm未満の範囲を薄いシミ・ソバカス、0.4mol・cm以上0.6mol・cm未満の範囲を中程度のシミ・ソバカス、0.6mol・cm以上を濃いシミ・ソバカスとした。
【0047】
図8中(a)の撮像したRGB表色系RGB値の画像では大きな1つの色素斑として現われていたものが、(b)のメラニン量差分画像では色の濃淡によって区分され、シミ・ソバカスの濃さおよびその顔面分布状態が把握できた。
つぎに、上記の測定方法にさらに前記の本発明のヘモグロビン量を算出する前記式(1−2)およびヘモグロビンがメラニンの測定に与える誤差を補正、除去する前記補正式(2−2)を適用してヘモグロビンの影響を一層確実に除く手順について説明する。
【0048】
照明ボックス内で被験者の顔面を撮像し(S1)、撮像された原画像の各画素ごとにRGB表色系からXYZ表色系へ変換する(S2の途中)までは、従来の測定方法と同様である。
XYZ表色系へ変換した時点で、本実施の形態の第1の例に係る皮膚中の成分の測定方法における式(1−1)、(1−2)を各画素ごとに適用してXYZ値からメラニン量およびヘモグロビン量を求め、さらに補正式(2−2)を各画素ごとに適用してヘモグロビン量の影響を補正、除去されたメラニン量を求める。
【0049】
この結果、ヘモグロビン量の影響が一層確実に除かれたメラニン量(シミ。ソバカス)が求められる。
メラニン量を求めた以降の手順は、先に述べた方法と同様であり、すなわち、メラニン量原画像を平滑化処理してメラニン量平滑化画像を作成し、メラニン量原画像とメラニン量平滑化画像との各画素ごとにメラニン量の差分を求めメラニン量差分画像を作成する。
【0050】
図9に従来の測定方法によるシミ・ソバカスの測定結果と上記本発明の測定方法による測定結果を比較して示す。ここで、(a)は撮像したRGB値の原画像であり、(b)は従来本出願人が用いたL* a* b* 表色系Lab値の色差画像であり、(c)は本発明の測定方法によるメラニン量差分画像である。
撮像したRGB値の原画像に示されるにきびは、皮膚に炎症が生じ皮膚中の血液が増加してヘモグロビン量が増加する結果生じるものであり、これはメラニンから生じるシミ・ソバカスとは全く別異のものであるが、従来の測定方法によるL* a* b* 表色系Lab値の色差画像では濃いシミ・ソバカスのように表示される。これに対して本発明の測定方法によるメラニン量差分画像ではにきびの部分は消失しており、皮膚の赤みとしてのにきびが濃いシミ・ソバカスとして誤って判断される不具合が解消される。
【0051】
【発明の効果】
本発明に係る皮膚中成分の測定方法によれば、皮膚の測色値と皮膚中の成分量のデータを重回帰分析して重回帰式を予め求め、重回帰式を用いて皮膚の測色値から皮膚中の成分であるメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンからなる群より選択された少なくとも一つの物質の量を求めるため、従来の測色装置に比べて、高い精度で皮膚中の成分を測定することができる。
【0052】
この場合、測色値は、XYZ表色系三刺激値であると、上記の本発明の効果を好適に奏することができ、また、特に、以下に述べる皮膚の特性を測定する方法と組み合わせて、皮膚特性の測定精度を向上することができる。
また、この場合、測定される皮膚中の成分のうちのメラニンについて、メラニンと酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンとの偽相関によるメラニン測定値への寄与分を補正して誤差を除く構成とすると、より高い精度で皮膚中の成分を測定することができ、また、皮膚特性の測定精度をより向上することができる。
【0053】
また、本発明に係る皮膚中成分の測定装置によれば、皮膚の反射光を得る照明・受光光学系部と、測色値を求め、測色部により得られる測色値から皮膚中の成分であるメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンからなる群より選択された少なくとも一つの物質の量を求める測色値演算制御部と、を有するため、構造および操作がともに簡易でかつ安価な装置を用いて、高い精度で皮膚中成分を測定することができる。
【0054】
また、本発明に係る皮膚特性の測定方法によれば、皮膚の状態を撮像して得た画像をディジタル画像処理してRGB表色系RGB値の画像を作成し、RGB表色系RGB値の画像の各画素ごとにRGB値からXYZ表色系XYZ値を求め、さらに、上記の皮膚中の成分の測定方法を用いて皮膚中の成分量の画像を作成するため、皮膚特性を高い精度で測定することができ、特に、皮膚が赤みを帯びた場合等、皮膚中の酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンの量が変化した場合においても、皮膚特性を高い精度で測定することができる。
【0055】
また、この場合、皮膚中の成分量の画像を平滑化処理して皮膚中の成分量の平滑化画像を作成し、皮膚中の成分量の画像および皮膚中の成分量の平滑化画像それぞれの各画素における皮膚中の成分量の差を算出して皮膚中の成分量の差分画像を作成し、シミ・ソバカスの指標とすると、一層好適に皮膚特性を測定することができる。
【0056】
また、本発明に係る皮膚特性の測定装置は、皮膚の状態を撮像する撮像部と、撮像部により撮像して得た画像をディジタル画像化処理してRGB表色系RGB値の画像を作成し、RGB表色系RGB値の画像の各画素ごとにRGB値からXYZ表色系XYZ値を求め、さらにXYZ表色系XYZ値から皮膚中の成分量を求めて皮膚中の成分量の画像を作成し、さらに皮膚中の成分量の画像を平滑化処理して皮膚中の成分量の平滑化画像を作成し、皮膚中の成分量の画像および皮膚中の成分量の平滑化画像それぞれの各画素における皮膚中の成分量の差を算出して皮膚中の成分量の差分画像を作成し、シミ・ソバカスの指標とする画像処理制御部とを備えるため、高い精度で皮膚特性を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態の第1の例に係る皮膚中成分の測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施の形態の第1の例に係る皮膚中成分の測定方法によって測定される測色値から算出した成分量と別の測定方法により測定した性分量との相関図であり、(a)は成分量がメラニン量の場合を示し、(b)は成分量がヘモグロビン量の場合を示す。
【図3】皮膚を温浴で暖めた後の皮膚中の成分量の推移を示すものであり、(a)は本実施の形態の第1の例に係る皮膚中成分の測定方法による測定結果を示し、(b)は従来の測色機を用いた測定結果を示す。
【図4】紫外線照射した後の皮膚中の成分量の推移について、本実施の形態の第1の例に係る皮膚中成分の測定方法により測定した結果を示す図である。
【図5】メラニンと酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンとの偽相関によるメラニン測定値への寄与分を補正して誤差を除いた結果を説明するためのものであり、(a)は皮膚を温浴で暖めた後の皮膚中の成分量の推移を示す図であり、(b)は紫外線照射した後の皮膚中の成分量の推移を示す図である。
【図6】本実施の形態の第2の例に係る皮膚特性の測定装置の概略構成を示す図である。
【図7】本実施の形態の第2の例に係る皮膚特性の測定方法の概略の手順を示すフローチャートである。
【図8】本実施の形態の第2の例に係る皮膚特性の測定方法により顔面のシミ・ソバカスの状態を測定したものであり、(a)は撮像した原画像を示し、(b)はメラニン量差分画像を示す。
【図9】メラニンとヘモグロビンとの偽相関によるメラニン測定値への寄与分を補正して誤差を除いた効果を説明するためのものであり、(a)は撮像した原画像であり、(b)は従来の測定方法であるLab値の色差画像であり、(c)は図9のメラニン量差分画像を補正したヘモグロビン補正した後のメラニン量差分画像である。
【符号の説明】
10 分光測色計
12 照明・受光光学系部
14 測色値演算制御部
100 皮膚特性の測定装置
102 照明ボックス
104 テレビカメラ
106 画像解析プロセッサー
108 ホストコンピュータ

Claims (7)

  1. 皮膚の測色値と皮膚中の成分量のデータを重回帰分析して重回帰式を予め求め、該重回帰式を用いて皮膚の測色値から皮膚中の成分であるメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンからなる群より選択された少なくとも一つの物質の量を求めることを特徴とする皮膚中の成分の測定方法。
  2. 前記測色値は、XYZ表色系三刺激値であることを特徴とする請求項1 記載の皮膚中の成分の測定方法。
  3. 測定される前記皮膚中の成分のうちのメラニンについて、メラニンと酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンとの偽相関によるメラニン測定値への寄与分を補正して誤差を除くことを特徴とする請求項1または2に記載の皮膚中の成分の測定方法。
  4. 皮膚の反射光を得る照明・受光光学系部と、測色値を求め、該測色部により得られる測色値から皮膚中の成分であるメラニン、酸化ヘモグロビンおよび還元ヘモグロビンからなる群より選択された少なくとも一つの物質の量を求める測色値演算制御部と、を有することを特徴とする皮膚中の成分の測定装置。
  5. 皮膚の状態を撮像して得た画像をディジタル画像処理してRGB表色系RGB値の画像を作成し、該RGB表色系RGB値の画像の各画素ごとにRGB値からXYZ表色系XYZ値を求め、さらに、請求項1〜3のうちのいずれか1 項に記載の皮膚中の成分の測定方法を用いて皮膚中の成分量の画像を作成することを特徴とする皮膚特性の測定方法。
  6. 前記皮膚中の成分量の画像を平滑化処理して皮膚中の成分量の平滑化画像を作成し、該皮膚中の成分量の画像および該皮膚中の成分量の平滑化画像それぞれの各画素における皮膚中の成分量の差を算出して皮膚中の成分量の差分画像を作成し、シミ・ソバカスの指標とすることを特徴とする請求項5記載の皮膚特性の測定方法。
  7. 皮膚の状態を撮像する撮像部と、該撮像部により撮像して得た画像をディジタル画像化処理してRGB表色系RGB値の画像を作成し、該RGB表色系RGB値の画像の各画素ごとにRGB値からXYZ表色系XYZ値を求め、さらに該XYZ表色系XYZ値から皮膚中の成分量を求めて該皮膚中の成分量の画像を作成し、さらに該皮膚中の成分量の画像を平滑化処理して皮膚中の成分量の平滑化画像を作成し、該皮膚中の成分量の画像および該皮膚中の成分量の平滑化画像それぞれの各画素における皮膚中の成分量の差を算出して皮膚中の成分量の差分画像を作成し、シミ・ソバカスの指標とする画像処理制御部とを備えることを特徴とする皮膚特性の測定装置。
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