JP3727564B2 - 人工漁礁部材、人工漁礁ユニット、漁礁ユニットの施工方法及び人工漁場 - Google Patents
人工漁礁部材、人工漁礁ユニット、漁礁ユニットの施工方法及び人工漁場 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、海岸近傍の浅海域の海底に設置する人工漁礁部材及び人工漁礁のユニット、人工漁礁の施工方法及び人工漁礁による人工漁場の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
自然の状態が保たれている海岸近傍の浅海域では、海底に多種多様な海藻が茂り、多くの魚類や貝類、サンゴ類等が棲息している。ところが海岸の護岸工事、埋め立て、海砂採取など、浅海域における様々な工事によって海藻の生育が阻害され、海藻が次第に減少してついには消滅してしまう現象である「磯焼け」(藻場を形成する大型海藻のホンダワラ類、コンブ類、その他多くの海藻が枯死して不毛の状態となり、サンゴモ類(石灰藻)と呼ばれる藻体に炭酸カルシウムが沈着したピンク色の硬い海藻が海底を覆う状態をいう)が各地の浅海域で増えつつある。海藻と魚類や貝類とは共生関係にあるので、磯焼けが起こると魚類や貝類は棲息できなくなる。磯焼けを防ぐためには、海底に海藻が成育しやすく、かつ魚類が棲息しやすい人工漁礁(以下、単に漁礁という)を設置するのが有効とされ、様々な材質、形状のものが開発されている。以下、漁礁の代表的な従来例について簡単に説明する。
第1の従来例の特開2000−300109号公報に示されるものでは、海藻を繁茂させる海藻着床部となるコンクリートブロックの側面に、貝類、サンゴ類の棲息に適した窪みとくさび状の横溝を設けている。コンクリートの骨材の1部として、使用済みの鋳物砂や鉄粉などの鉄分の多いものを混入している。これにより海藻の付着や生育に効果のある藻礁兼用の漁礁が得られるというものである。
【0003】
第2の従来例の特開2000−316414号公報には、コンクリートの底板の上に複数のコンクリート製又は鋼製の柱を立て、柱の上に前記底板と同形状の上板を設けた漁礁が示されている。前記上板又は底板は、コンクリート板、又は廃プラスチック類に石炭灰を加えて溶融固化したブロック板を用いる。またコンクリート製の上板の上面に前記のブロック板を張ったものも示されている。
第3の従来例の特開2000−188996号公報には、廃プラスチックを主原料として再生した合成樹脂に、木材チップ、鋸屑、籾殻等を混入して比重0.95以下の樹脂混合物を作り、これを液状の段階で古タイヤの中に充填して固化させて形成した漁礁が示されている。漁礁の比重を0.95以下に減らすために、木材チップ、鋸屑等と共に各種の発泡材を混入して発泡させるというものである。
第4の従来例の特開平8−131016号公報には、プラスチック、ガラス、金属、鉱津等の廃棄物を、合成樹脂のバインダーを用いて成形・硬化した漁礁成形物が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
第1及び第2の従来例の漁礁では、いずれもコンクリート製の漁礁の構成部材が直接海水に触れる。コンクリートが海水に触れると、コンクリート中のアルカリ成分が海水中に溶け出す。そのため漁礁の表面近傍の海水がアルカリ性となり、海藻の配偶体の付着が阻害される。そのため漁礁を海底に設置してから、海藻類およびサンゴ類が付着生育し、魚類が棲息し漁礁としての機能を生じるまでに相当長期間を要する。
第3の従来技術の漁礁は、比重が海水より小さくなされた浮漁礁である。浮漁礁は、海中又は海の水面に浮いた状態で設置されるので、設置できる海域が、波の静かな内海や湾内などに限定される。また船舶の航行に障害を与えるような海域には設置できない。従って漁礁として使用範囲が極めて狭い。その合成樹脂と木材チップ、鋸屑等の混合体は古タイヤの中に充填されているので海中で露出しておらず、混合体の表面が海水に触れることはない。
【0005】
第4の従来例の漁礁はコンクリートを用いていないのでアルカリ成分の溶出はないものの、プラスチックとガラス等の無機物の混合体で構成されているので、海藻の配偶体の付着と生育にあまり適しているとはいえない。漁礁を海中に設置してから海藻が生育するまでの期間は、前記のコンクリート製の漁礁よりは短いもののやはり相当長い期間を要する。
本発明は、コンクリートのアルカリ成分が海水中に溶出せず、海藻の生育及び魚類貝類の棲息に好適な人工漁礁を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の人工漁礁部材は、合成樹脂をバインダーとして、大きさが5μmから5mmの範囲にある木材の小片を所定の形状に成形した比重が海水の比重より大きい成形体であって、前記成形体を表面が海水にさらされるように海中に設置することを特徴とする。
本発明の人工漁礁部材では、前記の大きさの木材の小片と合成樹脂を混合したものを成形型にて成形し、少なくとも1面の表面に溝を設けることにより凸部を構成しているので角部が形成され、海水中の海藻の配偶体など微生物はこの角部近郊に付着しやすく、付着後角部を根の定着部として固定するため定着率が高くなる。その後は加速度的に海藻の定着と成長が進み、やがて全体が海藻に被われて、貝類、サンゴ類や魚類なども住みつき魚礁としての機能を果たすようになる。
本発明の他の構成の人工漁礁部材では、前記の大きさの木材の小片と合成樹脂を混合したものを成形型に注入して成形するので、成形後の漁礁部材の表面には部分的に木材の小片が露出している。この漁礁部材を海中に設置すると、漁礁部材の表面に露出している木材の小片に海水が染み込む。また、0.5mm以下の薄い合成樹脂皮膜の下にある木材の小片にも合成樹脂皮膜に存在するピンホール等を通って徐々に海水が染み込む。このようにして木材の小片に海水が染み込むと、木材の小片は膨張して生物の成育に好適な多孔質の有機材になる。海水中の海藻の配偶体など微生物はこのような多孔質有機部材に付着しやすく、付着後の生育も早い。漁礁部材の表面に部分的に海藻が生育し始めると、後は加速度的に海藻の成長が進み、やがて全体が海藻に被われて、貝類、サンゴ類や魚類も住みつき漁礁としての機能を果たすようになる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施例を図1から図19を参照して説明する。
《第1実施例》
本発明の第1実施例の人工漁礁部材(以下、単に漁礁部材という)について図1から図4を参照して説明する。図1は漁礁部材1の斜視図である。漁礁部材1は廃棄物のプラスチックと木材の小片(チップ)の混合物から作られる。プラスチックとしては、家電製品の部品やペットボトル等の使用済みの廃棄プラスチックを用いるのが工業材料のリサイクルの点から望ましい。例えば熱可塑性プラスチックの、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリル、ポリプロピレン、ポリカーボネイトなどが用いられる。廃棄プラスチックを分別収集して再生した単一材質のプラスチックが望ましいが、多種の材質のものを混合したものでも使用可能である。このような再生プラスチックは、ペレットの状態で市販されているものを購入してもよい。
【0009】
木材チップは、建設資材の残材、森林の間伐材、鋸屑などを用いるのがコストと森林資源のリサイクルの点で望ましい。また、建物の取壊し後大量に発生する建築廃材を粉砕して使用することも産業廃棄物の廃棄などによる環境問題解決の一翼を担うものである。
木材の種類(杉、松、ラワン等)については特に問題にしない。これらの廃木材を破砕・粉砕して、大きさが5μmから5mm程度好ましくは10μmから1mm程度の木材チップにすることにより量産性の優れた成形加工時の流れのよい材料となり、表面状態の良好な成形品を得ることができる。これは、高速射出成形や、高速押出し成形に際してシリンダ−内での流動抵抗を下げるのに貢献するとともに、金型内への流入に際して粒径が小さいほど流動抵抗が低くなることによるものである。
【0010】
前記のプラスチックのペレットと木材チップを混合して図1に示す形状の漁礁部材1に成形する。成形方法として、前記混合物を所定の温度に加熱して金型に注入する射出成形法が一般的である。樹脂成形法としては射出成形法に限定されるものではなく、押出成形法、圧縮成形法、注形法等、特に成形加工の種類は問わない。また、プラスチックのペレットについてもペレットに限定されることなく粉末やフレ−ク状の粉砕もしくは破砕したままでもよい。
プラスチックが熱可塑性の場合は、加熱のみにより成形できるが、熱可塑性でないときはバインダーとして熱可塑性プラスチック又は熱硬化性プラスチックの硬化前の材料を適宜添加する。図1に示す漁礁部材1は、例えば長さ3m、幅1m、厚さ0.3mである。漁礁部材1のプラスチックと木材の配合率としては、木材が20%から90%含まれるのが望ましい。
尚、木材の配合量について成形工法により左右される場合があるが押出成形や射出成形にて製作する場合には、30%から80%の中から選択して決定することにより木材により近い性状をうることができる。圧縮成形や注入成形の場合は、木材のチップや粉末の接合に際して最低限のプラスチック量を配合することにより成形が可能であり、最大配合量において木材90%プラスチック10%配合にての成形ができた。
また、漁礁部材1の比重は1以上で海水中で沈むことにより底などに固定する方が海中や海面などで浮遊するより海藻類やサンゴ類の繁殖に良好な環境を提供することができる。本発明の人工漁礁部材について、海藻類で説明したが、サンゴ類は、水温が18度から30度くらいまでの暖かい海がもっとも棲息に適しており、これらの海域ではサンゴ類が付着し、上記海藻類と同等の成果が上がることも確認した。
尚、大きさや形状については設置場所の広さや使用環境により選択して設定することが望ましい。また、本実施例の漁礁部材は海中に設ける海藻用に限られるものではなく、河川における護岸工事にも同様に用いて効果がある。
【0011】
図1に示すように、漁礁部材1には護岸壁、海底の岩等に漁礁部材1を固定するための取付け孔3が設けられている。また表面には少なくとも1本以上の(図1で2本)溝5が設けられている。側面にも溝6を設けてもよい。図2は、漁礁部材1を海底の岩8にねじ9によって取付けた状態を示す断面図である。ねじ9は、例えばステンレス等の海水に対して耐食性のある金属や、グラスファイバ等を混入した強化プラスチックで作った、アンカーボルトが適している。岩8に穴を開けて前記アンカーボルトをねじ込むことで、漁礁部材1を固定する。ねじ9が強化プラスチックの場合、材料のプラスチックにも廃棄プラスチックを用いるとコストが安くなると共にリサイクルの点で好ましい。また強化プラスチックの混入物に、金属廃棄物、例えば金属加工工場切削屑等の廃棄物や缶ジュースの空き缶、自動車の部品等を線状もしくは粉末状またはフレーク状に破砕して用いてもよい。
【0012】
図1に示す漁礁部材1では、複数の溝5及び6を設けているが、これらの溝5及び6の角部に海水中に放出された藻の配偶体の付着や生育が旺盛になり、藻場が再生されることが実験で判明した。
尚、本発明者は複数の溝5等の大きさにおいて幅が0.5mmから50mm、前記溝の深さが1mmから10mmで海藻の着床実験を実施したところ良好な結果が得られた。中でも、溝5等の幅が3mmから10mm、前記溝の深さが2mmから5mmのものにおいては海藻の着床においてより好結果が得られた。これは、海中林を構成するアラメやカジメ等の根が溝の角部付近に固着し、角部を囲むように発達し、固着力が益々強固なものとなるからである。溝の中では平面部などに固着したものに比べ流出から免れやすいことによる効果である。
尚、本発明の溝5は上記寸法に限定されるものでなく、海藻の種類や設置場所の海底の条件により、選定して製作すると各種海域や河川等への展開応用が可能となる。
【0013】
図3は本実施例の他の例の漁礁部材1Aの斜視図である。漁礁部材1Aでは、海底への取付け面10にスリット11を形成している。これにより漁礁部材1Aを海底に設置すると、海底との間にトンネルができる。このトンネル内では海水の流れが特にゆるやかになるので海藻の配隅体が付着しやすい。この漁礁部材1Aは、トンネル内が稚魚の隠れ家となるので、魚の繁殖に適しており漁礁としての機能が高い。漁礁部材1Aの材質や製法は実質的に漁礁部材1と同じであるが、構造がやや複雑であるため製造コストは若干高くなる。図4は本実施例の更に他の例の漁礁部材1Bの斜視図である。この漁礁部材1Bでは、長手方向に完全なトンネル12が形成されている。トンネル12の作用と効果は、前記の漁礁部材1Aと同様である。漁礁部材1Bは前記の漁礁部材1に比べて構造がやや複雑である。
【0014】
図7は、漁礁部材1の溝5の形成方法を示すプレス型20と漁礁部材1の断面図である。プラスチックと木材チップの混合物の硬化前にプレス型20を矢印20Bの方向に動かして、断面三角形の刃20Aを漁礁部材1の上面に押し込む。その結果、漁礁部材1の上面に溝5が形成されるとともに、溝5に沿って隆起部5Aが生じる。この溝5と隆起部5Aによって漁礁部材1の上面の凸部の角部がより多くなりかつ表面積が大きくなり、海藻の配偶体の特徴である角部への着床性により海藻の配偶体が付着しやすくなる。
図8は上部にくし歯状部25Aを形成した漁礁部材25の部分斜視図であり、図9は上部にくし歯状部26Aを形成し、下部に凹部26Bを形成した漁礁部材26の部分斜視図である。これらの漁礁部材25、26の表面積は図1の漁礁部材1のものより大きい。また、くし歯状部25A、26Aの間の溝及び凹部26Bが稚魚の生育に好適であるので、漁礁としての機能が優れている。漁礁部材26の凹部26Bの深さは1mmから10cmの範囲であり、好適には3cmから5cmであると稚魚の活動の妨げることなく、かつ大物魚などの外敵からの攻撃を受け難く、より住み易い漁場環境を提供することができる。
【0015】
《第2実施例》
本発明の第2実施例の漁礁ユニットを図10から図14を参照して説明する。漁礁ユニットは、第1実施例の漁礁部材をコンクリート製の台に取付けたものであり、浅海域の海底に置くことにより海藻場が形成され人工漁礁を作ることができる。
図10は、図1の漁礁部材1をコンクリート製の台30に、ねじ9により取付けた漁礁ユニット31の斜視図である。この漁礁ユニット31を、漁礁部材1を上にして海底にすきまなく並べる。すきまなく並べることにより、漁礁ユニット31の側面は隣の漁礁ユニット31の側面にほぼ密着しコンクリートからのアルカリ成分の流出を最小限にする。
尚、図10ではコンクリート製の台30を方塊状にて図示したが、中空状の多角柱形状や多角錘等を選択しても同様の効果がある。方塊状の場合は、質量が必要な外洋などの波対策として設置に有効であり、中空状の多角柱形状では、内部を魚類や貝類等の住処として用いる場合に対応出来る。また、多角錘形状の場合は、傾斜の角度を変える場合に用いると有効である。
図11は、図3の漁礁部材1Aを台30に取付けた漁礁ユニット32の斜視図である。台30と漁礁部材1Aのスリット11との間のすき間は稚魚の隠れ家となり魚類の繁殖に適した漁礁となる。
尚、本図ではねじ9等の固定部材を魚礁部材1側から固定しているが、ねじ9等の固定部材をコンクリート製等の台30にあらかじめ固定しておき、魚礁部材1を装着することにより固定すると位置決めが出来ることにより工事が簡単になる。これは、陸上での工事のみでなく、海中でのメンテナンス工事等に効果がある。また、ねじ9での固定方法について説明したが、これはワンタッチ方式(例えば、ばね式による固定機具やスライド式の固定機具等)の固定手段でも同等の効果がある。
【0016】
図12は、図3に示す漁礁部材1Aを上下反転して台30に取付けた漁礁ユニット33の斜視図である。漁礁ユニット33は、漁礁ユニット32と同様の効果に加えて、スリット11内では海水の流れがゆるやかになることから海藻の配偶体が付着しやすく、海中に設置してから漁礁として機能するまでの期間が短かい。
図13の漁礁ユニット34は、台30の上に所定の間隔でコンクリート製のスペーサ35を設け、スペーサ35の上にスペーサ35にほぼ直角に図1の漁礁部材1を配置し、ねじ9により固定している。スペーサ35により、台30と漁礁部材1との間に生じるすき間は稚魚の生育に好適であり、魚類の繁殖に適した漁礁である。
【0017】
前記図10から図13の漁礁ユニットは台30の上に漁礁ユニット1をねじ9により固定しているが、図14に示す漁礁ユニット37は、台30の上に漁礁部材1を載せてその上から金網39を矢印で示すようにかぶせて漁礁部材1を固定している。大きな金網を用いて複数の漁礁ユニット37を覆うことにより、ねじ9にて取付ける工程が省けて作業が簡単になる。
図15は、コンクリート製の台と漁礁部材を一体に構成した漁礁ユニット41を製作するときの工程を示す斜視図であり、図16は、図15の漁礁ユニット41を面42で切った断面図の一部である。図15において、製造治具の底板45の上にコの字形の型枠46を置く。型枠46の開放側面46Aに、図3に示す漁礁部材1Aと類似の形状の漁礁部材43を縦に並べて置く。この状態で型枠46の中にコンクリートを流し込むと、コンクリートは、図16に示すように、漁礁部材43のスリット11内にも入り込む。コンクリートの固化後、型枠46と底板45を取り除くと、台42と漁礁部材43が一体になった漁礁ユニット41が得られる。本実施例の漁礁ユニット41では、コンクリート製の台に漁礁部材1Aをねじ9で止める工程が省けると共に型枠材の部品削減になるので製造コストが大幅に低減されるとともに資源保護に役立つ。
【0018】
《第3実施例》
本発明の第3実施例の人工漁礁部材を図5及び図6の斜視図に示す。
本実施例の漁礁部材1は、木材チップとプラスチックを混合したものを成形型に注入して成形するので、成形後の漁礁部材1の表面には部分的に木材チップが露出している。この漁礁部材1を海中に設置すると、漁礁部材1の表面に露出している木材チップに海水が染み込む。また木材チップの表面を覆っているプラスチック皮膜でも0.5mm以下の薄いプラスチック皮膜の下にある木材チップにはプラスチック皮膜に存在するピンホール等を通って徐々に海水が染み込む。このようにして木材チップに海水が染み込むと、木材チップは膨張して生物の成育に好適な多孔質の有機材になる。海水中の海藻の配偶体など微生物はこのような多孔質有機部材に付着しやすく、付着後の生育も早い。漁礁部材1の表面に部分的に海藻が生育し始めると、後は加速度的に海藻の成長が進み、やがて全体が海藻に被われて、魚類や貝類も住みつき漁礁としての機能を果たすようになる。本実施例の漁礁部材1は海中に設置してから漁礁として機能するまでの期間が短く、発明者等の種々の実験によると、約1年で完全な漁礁になることが確認された。本発明の人工漁礁部材について、海藻類で説明したが、サンゴ類は、水温が18度から30度くらいまでの暖かい海がもっとも棲息に適しており、これらの海域ではサンゴ類が付着し、上記海藻類と同等の成果が上がることも確認した。
【0019】
図5に示す例では漁礁部材1の材料の木材チップ14の大きさを5mmから50mmと大きくするとともに、プラスチックに対する木材チップの配合率を高くしたものの斜視図である。木材チップ14を大きくすると、前記木材チップ14が表面に突出し角部等が非常に多くなり、前記海藻の配偶体などが付着しやすい。また、外面に露出する多孔質有機材の面積が増えて漁礁として好適である。しかし漁礁部材の機械的強度が若干低下するので、強い波により破損するおそれがあるが、湾内などの内海に施工することによりそれらの欠点を補うことが可能である。
図6に示すのは、前記の5mmから50mmの大きさの木材チップを用い、漁礁部材の成形時に箱状の型に、液状のプラスチックと木材チップの混合材を流し込んで作った漁礁部材15の斜視図である。硬化後の漁礁部材15の上面15Aには多数の木材チップ14が針山のように突き出ている。この突き出た木材チップ14により、木材チップ14の角部が大幅に増加するとともに表面積が図5の例より大幅に増加し、海藻の配偶体の付着がさらに促進される。
【0020】
《第4実施例》
本発明の第4実施例の漁礁ユニット32Aを図17の斜視図に示す。本実施例では、図11に示す漁礁ユニット32のスリット11の中に金属加工工場切削屑等の廃棄物や廃棄自動車の金属廃棄物及び鉄製の缶ジュースの空き缶などの廃棄物や鉱滓等から選ばれた少なくとも1種類を廃プラスチックのバインダーで板状もしくは棒状またはブロック形状等に固めた固化物49を挿入する。固化物49から海水中に放出される鉄イオン等の金属イオンはプランクトンや海藻の生育を促進し、プランクトンや海藻の豊富な海中は魚類や貝類の生育にも適しており、本実施例の漁礁ユニット32は漁礁としての機能がさらに優れている。
尚、固化物49について廃プラスチックのバインダーで固めることについて記載したが、金属の剛性を利用して金属廃棄物のみをプレスにて圧縮する等により固化物49を作製してもよい。
【0021】
図18は、図4に示す漁礁部材1Bのトンネル12内に、好ましくは鉄、又はその他の例としてマグネシウム等の金属粉、金属の小片及び金属塊等の内少なくとも1種を含む詰め物50を入れる。金属は複数の種類のものを含むのが好ましい。詰め物50は、金属粉、金属小片及び金属塊等の金属材料と、砂との混合物であり、体積比で、金属材料の10部に対して、砂を3から30部(好ましくは10部)混入したものが用いられる。トンネル12の両端には樹脂又は金属製の網状の蓋51を設けて詰め物50の流出を防ぐ。金属材料に砂を混入することによって、砂の遮蔽効果により、金属材料の流出を防ぐ効果がある。
又、金属材料と水の接触を調整することが出来るのでイオン化量の調節が可能となり不必要量の流出を防止できる。
詰め物50を入れた漁礁部材1Bを海中に設置すると、海水中に詰め物50の金属イオンが海水中にでる。鉄、マグネシウムなどの金属イオンは海藻の生育に有効であることが知られており、サンゴ類、貝類、蟹や魚類などの種々の生物の生育に有効であると共に集魚効果もあり、漁礁としての機能をさらに優れたものにする。
尚、蓋51については、ねじ等の取外し可能な固定手段にて固定するか、溝やガイド等を設けた差込方法などの固定方法にて固定すると金属材料が経年後の減量に対して金属材料を補給することが容易に出来る等、人工漁礁の長期活用に多大の効果がある。
【0022】
《第5実施例》
第5実施例は、本発明の前記各実施例の漁礁部材又は漁礁ユニットの海底への設置(施工)方法に関する。図19は、前記第1実施例の漁礁部材又は第2実施例の漁礁ユニットを海岸近傍の浅海域に設置する施工方法を示す。海岸及び浅海域の一般的な例の断面図である。図において、海底60に設けられた防波堤の基礎52の上に防波堤53が設けられている。防波堤53の海側もしくは陸側の少なくともいずれか一方の海底に、漁礁を設置するための傾斜底部56を設ける。傾斜底部56の上に前記第1又は第2実施例の漁礁部材又は漁礁ユニットを並べて漁礁底59を構成する。漁礁底59に漁礁部材と漁礁ユニットを混用してもよい。このような漁礁底59を設ける場所は海岸あるいは防波堤53の近傍の浅海域に限定されるものではなく、海中の所望の場所に設けることができる。漁礁底59に海藻が繁茂すると、魚類及び貝類も棲息するようになり、その海域は新たな漁場となる。すなわち、漁礁底59を設けることによって人工的に漁場を作り出すことができる。
尚、図面では海側の傾斜を、海側に向かって深くなるように記載したが、途中で一部浅瀬を構成するうねりなどを設けると潮の流れが緩やかになり、海藻類等の着床がよくなると共に、魚貝類の増加につながり、新たな漁場創生により効果がある。このような人工漁場は自然環境の保護に役立つと共に、海釣り公園等の海洋レジャー施設としても利用可能であるなど、資源の保護と利用に大きな役割を果たす。
【0023】
【発明の効果】
以上の各実施例で詳細に説明したように、本発明によれば、プラスチックと、大きさが5μmから5mmの範囲の木材チップを混合し固化して漁礁部材を作るので、コンクリート中のアルカリ性の成分の溶出を抑えつつ、天然素材である木材チップの中に海水の染み込みを行わせる。漁礁部材の成形体は比重が海水の比重より大きいので海水中で沈み、海藻の配偶体や胞子が付着、生育しやすい漁礁が得られる。また海中において海水の流れがゆるやかになる凹部やトンネルを設けたものでは、これら凹部やトンネルが稚魚の隠れ家となり魚類の繁殖に適している
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例の人工漁礁部材の斜視図
【図2】第1実施例の人工漁礁部材の取付け部を示す断面図
【図3】第1実施例の他の例の人工漁礁部材の斜視図
【図4】第1実施例の更に他の例の人工漁礁部材の斜視図
【図5】第3実施例の更に他の例の人工漁礁部材の斜視図
【図6】第3実施例の更に他の例の人工漁礁部材の斜視図
【図7】第1実施例の人工漁礁部材に溝を形成する工程を示す断面図
【図8】本実施例の更に他の例の人工漁礁部材の斜視図
【図9】本発明の更に他の例の人工漁礁部材の斜視図
【図10】本発明の第2実施例の人工漁礁ユニットの斜視図
【図11】第2実施例の他の例の人工漁礁ユニットの斜視図
【図12】第2実施例の更に他の例の人工漁礁ユニットの斜視図
【図13】第2実施例の更に他の例の人工漁礁ユニットの斜視図
【図14】第2実施例の更に他の例の人工漁礁ユニットの斜視図
【図15】第2実施例の更に他の例の人工漁礁ユニットの製造方法を示す斜視図
【図16】前記製造方法で作られた人工漁礁ユニットの断面図
【図17】第4実施例の更に他の例の人工漁礁ユニットの斜視図
【図18】 トンネルに金属細片をつめた人工漁礁ユニット
【図19】本発明の第5実施例の、海底への人工漁礁ユニットの設置方法を示す断面図
【符号の説明】
1、15、25、26、43 漁礁部材
1A、1B 成形体
3 孔
5、6 溝
8 岩
9 ねじ
10 取付け面
11 凹部
12 中空部
14 木材チップ
15A 15の上面
25A くし歯状部
26A くし歯状部
26B 凹部
30、42 コンクリ−ト製の台
31、32、33、34、35、37、41 漁礁ユニット
35 スペ−サ
39 金網
45 製造治具の底板
46 コの字形の型枠
46A 開放側面
49 合成樹脂成形物
50 詰め物
51 網状の蓋
52 防波堤の基礎
53 防波堤
56 傾斜底部
59 漁礁底
60 海底
Claims (13)
- プラスチック(合成樹脂)をバインダーとして、大きさが5μmから5mmの範囲にある木材の小片を所定の形状に成形した比重が海水の比重より大きい成形体であって、前記成形体を表面が海水にさらされるように海中に設置することを特徴とする人工漁礁部材。
- 前記成形体の木材の小片の含有率が体積比で20%〜90%であることを特徴とする請求項1記載の人工漁礁部材。
- 前記合成樹脂は産業廃棄物の合成樹脂の再生品であり、前記木材は木くず、間伐材、鋸屑、建築廃材の内、少なくとも1種以上により構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の人工漁礁部材。
- 前記木材の小片の大きさは10μmから1mmの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 前記成形体の前記所定の形状は直方体であり、少なくとも1つの面に少なくとも1つの溝を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 前記溝の幅が0.5mmから50mm、及び前記溝の深さが1mmから10mmの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の人工漁礁部材。
- 前記成形体は、前記成形体を海底に固定するための取付け孔を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 前記成形体は、海底に設置したときトンネルを形成する凹部を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 前記成形体は中空部を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 前記成形体の少なくとも1つの面が複数のくし歯状の突起を有することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 前記成形体は、一方の面に凹部を有し、他方の面に突部を有することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 合成樹脂をバインダーとして木材の小片を所定の形状に成形した成形体において、表面に木材が突出していることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の人工漁礁部材。
- 前記突出している木材の小片の大きさは5mmから50mmであることを特徴とする請求項12に記載の人工漁礁部材。
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