JP3725523B2 - 光ファイバおよび光伝送システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は光ファイバおよびこれを用いた光伝送システムに関し、特に比較的容易な構造で、1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯における有効コア断面積を拡大し、非線形効果の抑制を可能とした光ファイバとこれを用いた光伝送システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
エルビウム添加光ファイバ増幅器が実用化されたことによって、波長1.53〜1.61μmにおいては、超長距離無再生中継などのシステムが既に商用化されている。また、通信容量の増大に伴い、波長多重伝送の開発が急速に進められ、既にいくつかの伝送路では商用化されている。今後は波長多重数の増加が急速に進むと考えられる。
【0003】
波長多重伝送においては、1本の光ファイバに波長の異なるいくつのも光信号を伝送させるため、光ファイバを伝搬する光パワーが急激に増加する。そのため、非線形効果を抑制して伝送特性の劣化を防ぐ技術が必須である。
非線形効果の大きさは、n/Aeffで表される。ここでnは、光ファイバ の非線形屈折率、Aeffは光ファイバの有効コア断面積であって、非線形効果を抑制するためには、nを小さくするかAeffを大きくする必要がある。
は材料に固有の値であるため、石英系の光ファイバにおいては大きく低減することが困難である。そのため、Aeffを拡大する必要があり、種々の複雑な屈折率分布形状を有するものが開発されているが、いずれも高コストである。
【0004】
一方、従来の通信システムには1.3μm用シングルモード光ファイバが多用されている。
しかしながら、1.3μm用シングルモード光ファイバは、使用波長帯を1.53〜1.61μmに設定すると曲げ損失が大きくなり、敷設時などに生じるわずかな曲がりなどによっても伝送損失が劣化するという問題があった。
そこで、1.3μm用シングルモード光ファイバを改良して曲げ損失を低減したカットオフシフト光ファイバ(CSF)が提案されている。
しかしながら、カットオフシフト光ファイバは非線形効果の低減を目的としていないため、そのAeffは非線形効果を抑制できるほど大きいものではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記事情に艦みてなされたもので、1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯において、Aeffの拡大を図ることができる光ファイバを提供することを課題とする。
さらには、比較的簡単な屈折率分布形状を有し、低コストで製造可能な光ファイバを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、以下のような解決手段を提案する。
第1の発明は、外径Aが100〜125μmである光ファイバ裸線の上に、ヤング率が1kg/mm 以下のプラスチックからなる1次被覆層と、1次被覆層の外周上に設けられたヤング率が50kg/mm 以上のプラスチックからなる2次被覆層が設けられてなる光ファイバ素線であって、
前記光ファイバ裸線は、中心コア部と、その外周上に設けられた該中心コア部よりも低屈折率の中間部と、該中間部の周囲に設けられた該中間部よりも高屈折率で、前記中心コア部よりも低屈折率なクラッドと、からなる屈折率分布形状を備え、前記中心コア部の半径をr、前記中間部の半径をrとし、前記クラッドの屈折率を基準としたときの中心コア部と中間部の比屈折率差をそれぞれΔ、Δとしたとき、
以下の(1)〜(5)を満足するとともに、さらに前記光ファイバ素線が下記(6)を満足することを特徴とする光ファイバである。
(1)3.0≦r/r≦5.0であり、
(2)Δが0.30%以下、Δが−0.05〜−0.15%であり、
(3)1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯において、有効コア断面積が120〜150μm であり、
(4)前記使用波長帯において、実質的にシングルモード伝搬可能なカットオフ波長を有し、
(5)前記使用波長帯において、曲げ直径(2R)が20mmの条件で測定される曲げ損失が0.7〜100dB/mである。
(6)光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下である。
第2の発明は、前記(6)において、光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.15dB/km以下であることを特徴とする第1の発明の光ファイバである。
第3の発明は、前記(5)において、曲げ損失が0.7〜20dB/mであることを特徴とする前記第1または2の発明の光ファイバである。
第4の発明は、前記(3)において、有効コア断面積が140μm以上であることを特徴とする前記第1〜3のいずれかの発明の光ファイバである。
第5の発明は、前記第1〜4のいずれかの発明の光ファイバを製造する方法であって、前記(1)〜(2)に記載の数値範囲を満足する様に構造パラメータを選択し、前記(3)〜(6)に記載の特性を満足する光ファイバを製造することを特徴とする光ファイバの製造方法である。
第6の発明は、前記第1〜4のいずれかの発明の光ファイバの光信号の出射側に、この光ファイバの波長分散値と分散スロープのどちらか一方、あるいは両方を補償する分散補償光ファイバを配置したことを特徴とする光伝送システムである。
第7の発明は、前記第6の発明の光伝送システムにおいて、光ファイバと、分散補償光ファイバとを合成したときの平均波長分散値が−6〜+6ps/nm/kmであることを特徴とする光伝送システムである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の光ファイバの使用波長帯は1.53〜1.61μmの範囲から選択される。例えば、通信システムを構築するエルビウム添加光ファイバ増幅器の増幅波長帯によって、1.53〜1.57μm、あるいは1.57〜1.61μmなどが適宜選択される。
【0008】
Aeffは以下の式から求められるものである。
【0009】
【数1】
Figure 0003725523
【0010】
Aeffは非線形効果の抑制のためには出来るだけ大きい方が望ましい。
本発明者らの検討結果では、Aeffが120μm未満であると、非線形効果の抑制が不十分である。よって、本発明の光ファイバにおいては、Aeffは120μm以上、好ましくは140μm以上とされる。
一方、Aeffが大きくなりすぎると以下のような理由により伝送損失の劣化が大きくなる場合があるため、Aeffは実質的には250μm以下とされる。
すなわち、Aeffが大きくなると、例えばマイクロベンド損失によって伝送損失が劣化し、製造過程での検査が困難となるなどの不都合を生じる場合がある。また、ケーブル構造によっても劣化の程度が異なるが、ケーブル化したり、余長を収納したりする通常の使用状態においても伝送損失の劣化が生じやすくなる。このように使用状態で伝送損失が大きくなると、入力パワーを増大する必要が生じる。その結果、非線形効果は入力パワーの増大に伴って発生しやすくなるため、Aeffの拡大による非線形抑制の効果が小さくなる。
【0011】
曲げ損失は、使用波長において曲げ直径(2R)が20mmの条件の値をいうものとする。
曲げ損失特性は、光ファイバをケーブル化したり、光ファイバケーブルを使用する環境によって決定されるべきである。例えばテープ型の光ファイバをタイトな構造体の中に埋め込むような場合には、望ましくは20dB/m以下の範囲が選択されるが、いわゆるルーズチューブ型の光ケーブルの場合は、それ程大きな力は印加されないので、100dB/m以下程度であれば許容される。
【0012】
曲げ損失を低減するためには、カットオフ波長をできるだけ長波長側にシフトさせると好ましい。
また、本発明の光ファイバはシングルモード光ファイバであるため、使用波長帯において、実質的にシングルモード伝搬を保証するカットオフ波長を有する必要がある。
通常のカットオフ波長は、IECやCCITTの2m法(以下2m法と記す)による値によって規定されている。しかし、実際の長尺の使用状態においては、この値が使用波長帯の下限値よりも長波長側であってもシングルモード伝搬が可能である。
【0013】
したがって、本発明の光ファイバにおいて、2m法で規定されるカットオフ波長は、光ファイバの使用長さと使用波長帯によってシングルモード伝搬可能であるように、かつできるだけ曲げ損失を低減できるように長波長側に設定する。具体的には、例えば2m法におけるカットオフ波長が1.7μm以下であれば、5000m程度以上の長尺の状態で、1.53〜1.61μmの使用波長帯におけるシングルモード伝搬を実現することができる。
【0014】
また、本発明の光ファイバにおいては、光ファイバを光ファイバ素線としたときのサンドペーパー張力巻きロス増が10dB/km以下であると好ましい。
サンドペーパー張力巻きロス増は以下のような方法で測定する値である。
胴径380mmのボビンの胴部分に、サンドペーパー(平均粒径50μmのSiC(例えば型番#360)を巻き付け、その周囲に100gfで、後述する様な構成の光ファイバ素線を1層巻きした状態で伝送損失を測定する。
その後、この光ファイバ素線をボビンから繰り出し、張力をほとんどかけない状態で(このような状態は無張力の束と呼ばれている)伝送損失を測定する。
そして、これらの伝送損失の差を求め、サンドペーパー張力巻きロス増(Δα)とする。
【0015】
図1は光ファイバ素線の一例を示した断面図であって、コア12aとその外周上に設けられたクラッド12bからなる光ファイバ裸線12の上に比較的軟質のプラスチックからなる1次被覆層13と、1次被覆層13よりも硬質のプラスチックからなる2次被覆層14が設けられている。
光ファイバ裸線12は通常石英ガラス系の材料からなり、1次被覆層13には、通常ヤング率が1kg/mm以下の紫外線硬化性樹脂などが用いられる。2次被覆層14には、通常ヤング率が50kg/mm以上の紫外線硬化性樹脂が用いられる。これら1次被覆層13、2次被覆層14に用いられる紫外線硬化性樹脂は、例えばウレタンアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、エポキシアクリレート系、シリコンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系などから選択することができる。
【0016】
また、通常の光ファイバ裸線12の外径Aは100〜125μmであり、1次被覆層13の外径Bは130〜250μm、2次被覆層14の外径Cは160〜400μmである。さらに具体的には、例えば一般的な250μm素線においては、外径Aが125μm、外径Bが200μm前後、外径Cが250μm前後とされる。また、一般的な400μm素線においては、外径Aが125μm、外径Bが240μm前後、外径Cが400μm前後とされる。
【0017】
サンドペーパー張力巻きロス増は、ケーブル構造がいわゆるタイト構造である場合には、望ましくは1dB/km以下の範囲が選択されるが、いわゆるルーズチューブ型の光ケーブルの場合は、側圧などが小さいため、10dB/km以下程度であれば許容される。サンドペーパー張力巻きロス増が大きくなると、ケーブル化した際などに伝送損失の劣化が大きくなり、不都合である。
このサンドペーパー張力巻きロス増は、Aeffの値に依存するが、光ファイバ素線の被覆外径、被覆樹脂によっても異なる。具体的には、Aeffが120μm 以上で、かつサンドペーパー張力巻きロス増が10dB/km以下であると好ましい。さらにはAeffが120μm 以上で、かつサンドペーパー張力巻きロス増が1dB/km以下であると好ましい。さらにはAeffが120〜150μm の範囲であり、かつサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下であると好ましい。
【0018】
図2は、Aeffとサンドペーパー張力巻きロス増の関係の一例を示したグラフである。このときの測定波長は1550nmである。また、この例の光ファイバ素線は250μm素線と400μm素線である。
このグラフからわかるように、サンドペーパー張力巻きロス増はAeffの拡大に伴って増加する。そして、Aeffが150μm 以下のとき、250μm素線のサンドペーパー張力巻きロス増は10dB/km以下、400μm素線のサンドペーパー張力巻きロス増は1dB/km以下であり、十分に小さいものを提供することができる。
【0019】
このような特性を有するためには、図3あるいは図5に示したような屈折率分布形状(屈折率プロファイル)を有することが必要である。
図3に示した第1の例の屈折率分布形状は、中心コア部1と、その外周上に設けられたこの中心コア部1よりも低屈折率の中間部2と、その外周上に設けられた、この中間部2よりも高屈折率で、前記中心コア部1よりも低屈折率のクラッド4とを有するものである。
【0020】
この光ファイバにおいて、例えば中心コア部1は屈折率を上昇させる作用を有するゲルマニウムを添加した石英ガラスあるいは純粋石英ガラス、中間部2は屈折率を低下させる作用を有するフッ素を添加した石英ガラスあるいは純石英ガラス、クラッド4は純石英ガラス、フッ素添加ガラス、あるいは屈折率を上昇させる作用を有する塩素を添加した石英ガラスから構成されている。
この光ファイバは、例えばVAD法などによって製造することができる。
【0021】
また、中心コア部1の半径をr、中間部2の半径(コア半径)をr とした とき、3.0≦r/r≦5.0であると好ましい。r/r が3.0未満の 場合は、光の電磁界が中間部2をこえてクラッド4に到達しやすくなるので曲げ損失が増加する傾向がある。また、r/r が5.0をこえる場合は中間部2 を設けた効果が低減し、コアへの光の電磁界の閉じこめが強くなりすぎるので、Aeff拡大の効果が減少する傾向がある。
また、カットオフ波長はr の値を拡大することによって長波長側にシフトさせることができる。上述のようにカットオフ波長は光ファイバの使用長さと使用波長帯によって設定されるため、一概にr の数値範囲を示すことはできないが、通常r は5〜20μmの範囲から選択される。
また、クラッド4の外径は通常約125μmとされる。
【0022】
また、クラッドの屈折率を基準としたときの中心コア部と中間部の比屈折率差をそれぞれΔ 、Δ としたとき、Δ が0.30%以下、好ましくは0.26%以下、Δが−0.05〜 −0.15%であると好ましい。
Δ が0.30%をこえると、Aeffを拡大することが困難となる。また、Δが−0.05よりも大きくなると(Δの絶対値が小さくなると)曲げ損失が大きくなり、−0.15%よりも小さくなると(Δの絶対値が大きくなると) Aeffが小さくなる傾向がある。
【0023】
図4は、Δを−0.05%、r /rを4.0に固定し、2m法によるカットオフ波長を1.3〜1.7μmの範囲で0.1μmきざみで変化させたときの使用波長1.55μmにおけるAeffおよび曲げ損失の変化を示したグラフである。
の値が小さく、カットオフ波長が短波長にシフトする程、Aeffが小さく、曲げ損失が大きくなる傾向がある。一方、r の値が大きく、カットオフ波長が長波長にシフトする程、Aeffが大きく、曲げ損失が小さくなる傾向がある。
グラフに示された直線は、Δの値ごとにまとめられている。Δ は0.18 〜0.30%の範囲において、0.02%間隔で設定されている。
そして、Aeffにおいては、Δ が大きくなる程小さくなる傾向がある。
曲げ損失においては、Δ が大きくなる程小さくなる傾向がある。
【0024】
このように、Δ、r /r 、使用波長の値を設定し、r の値を変化させ たグラフより、本発明におけるAeff、曲げ損失、カットオフ波長の条件を満足する各構造パラメータを選択することによって、図3に示した屈折率分布形状を有し、かつ本発明の条件を満足する光ファイバを設計することができる。また、同時にサンドペーパー張力巻きロス増の条件を考慮して設計すると好ましい。
したがって、図3に示した屈折率分布形状を有し、かつ、上述のr/r、Δ 、Δ の好ましい数値範囲を満足していたとしても、必ずしも上述のようなAeff、曲げ損失、カットオフ波長、サンドペーパー張力巻きロス増の特性を満足するものが得られるわけではなく、本発明の光ファイバの特性は、これらの構造パラメータの適切な組み合わせによって実現されるものである。
そのため、本発明においては、これらの構造パラメータの数値範囲から発明を特定することが困難であり、屈折率分布形状と、光ファイバの特性値によって発明を特定する。このようなものは従来実現できなかったことは言うまでもない。
【0025】
図5は、本発明の光ファイバの屈折率分布形状の第2の例を示したものである。
この屈折率分布形状が図3に示した第1の例の屈折率分布形状と異なるところは、中間部2とクラッド4との間にリングコア部3が設けられている点である。このような屈折率分布形状を一般にリング付プロファイルという場合がある。
このリングコア部3の屈折率は、中間部2とクラッド4よりも高屈折率で、かつ中心コア部1よりも低屈折率である。
【0026】
この光ファイバにおいて、例えば中心コア部1とリングコア部3はゲルマニウム添加石英ガラス、中間部2はフッ素添加石英ガラスあるいは純石英ガラス、クラッド4は純石英ガラスあるいは塩素添加石英ガラスから構成されている。
この光ファイバも、第1の例と同様に、例えばVAD法などによって製造することができる。
【0027】
この例において、リングコア部3の半径(コア半径)をr としたとき、3.0≦r/r≦4.0、かつ4.0≦r/r≦5.0であると好ましい。r /r が3.0未満の場合は、光の電磁界分布が中間部2を越えて容易にリングコア部3に到達するため、曲げ損失が増加する傾向がある。また、r/r が 4.0をこえる場合はコア内の光の閉じこめが強くなりすぎて、中間部2を設けた効果が低減し、Aeffの拡大効果が低減する傾向がある。また、r/rが4.0未満であると、リングコア部3を設けた効果が低減し、Aeffの拡大効果が低減する傾向がある。また、r/rが5.0をこえる場合は曲げ損失が増加する傾向がある。
また、上述のように、カットオフ波長はr の値を拡大することによって長波長側にシフトさせることができ、この例において、通常r は5〜20μmの範囲から選択される。
また、クラッド4の外径は通常約125μmとされる。
【0028】
また、この例において、クラッドの屈折率を基準としたときのリングコア部の比屈折率差をΔとしたとき、Δ が0.35%以下、Δが0〜−0.2%、Δ が+0.05〜+0.2%であると好ましい。
Δ が0.35%をこえると、Aeffを拡大することが困難となる。また、Δが−0.2%よりも小さくなると(Δの絶対値が大きくなると)Aeffが小さくなる傾向がある。Δ が+0.05未満であると、リングコア部3を設けた効果が低減し、Aeffの拡大効果が低減する傾向がある。Δ が+0.2%をこえると、曲げ損失が増加する傾向がある。
【0029】
しかしながら、第1の例と同様に、図5に示した屈折率分布形状を有し、かつ、上述のr/r、r/r、Δ 、Δ 、Δ の好ましい数値範囲を満足していたとしても、必ずしも上述のようなAeff、曲げ損失、カットオフ波長、サンドペーパー張力巻きロス増の特性を満足するものが得られるわけではなく、本発明の光ファイバの特性は、これらの構造パラメータの適切な組み合わせによって実現されるものである。
【0030】
本発明においては、図3、図5に示したような比較的簡単な構造の屈折率分布形状を有する光ファイバにおいて、その構造パラメータを適切に調整することによって、Aeffを拡大し、かつ曲げ損失を低減し、かつ1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯においてシングルモード伝搬可能となるカットオフ波長を有する光ファイバを、低コストで提供することができる。さらにサンドペーパー張力巻きロス増を低減することも可能となる。
その結果、1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯において、非線形効果を抑制して伝送損失の劣化を防ぐことができるとともに、敷設時などに光ファイバに付与されるマイクロベンドによっても伝送損失が劣化しにくく、かつシングルモード伝搬を保証できる光ファイバを提供することができる。
【0031】
また、本発明の光ファイバは、いわゆる分散補償光ファイバと組み合わせて光伝送システムを構築することができる。この光伝送システムの使用波長帯は、上述した本発明の光ファイバの使用波長帯と同様である。
分散補償光ファイバは、伝送路の大部分を構成する光ファイバの波長分散値に対して、異なる符号であって、かつ絶対値が大きな波長分散値を有するものである。また、分散スロープも同様に、伝送路の大部分を構成する光ファイバの分散スロープに対して、異なる符号であって、かつ絶対値が大きな値を有するものもある。
分散スロープは、横軸に波長、縦軸に波長分散値をとって波長分散値をプロットして得られた曲線の勾配であって波長分散値の波長依存性を表す指標である。分散スロープが大きいと、波長多重伝送のように複数の異なる波長の光信号を伝送する場合は、各波長間での伝送状態がばらつき、伝送劣化の原因となる。そのため、波長多重伝送に適用する場合は、波長分散値と分散スロープを同時に補償できるものを用いると好ましい。また、用途によっては分散スロープのみを補償するものを用いることもできる。
【0032】
そして、光信号の入射側に本発明の光ファイバを配置し、その光信号の出射側に分散補償光ファイバを配置することにより、入射側の光ファイバを伝送することによって蓄積された波長分散値、あるいは分散スロープが、出射側の比較的短い長さの分散補償光ファイバにて打ち消されて補償される。その結果、これらの光ファイバを合成した状態(光ファイバと分散補償光ファイバとを組み合わせた状態)での平均波長分散値と分散スロープの一方、あるいは両方が小さくなり、波長分散に起因する伝送劣化を抑制することができる。
また、本発明の光ファイバは、Aeffが大きく、非線形効果に起因する伝送劣化が抑制できるので、結果として伝送特性が非常に良好な光伝送システムが構築できる。
【0033】
分散補償光ファイバは、本発明の光ファイバの波長分散値と分散スロープのどちらか一方、あるいは両方を補償できるものであれば特に限定しないが、本発明者らが特願平11−147301号にて提案したものなどを例示することができる。
この分散補償光ファイバは、図3に示したものと同様の屈折率分布形状を有し、その構造パラメータを調整して分散補償光ファイバとしての特性を付与したものである。構造パラメータは、補償対象とする光ファイバの波長分散値、あるいは分散スロープによって適宜調整される。
この分散補償光ファイバも、本発明の光ファイバと同様に、VAD法などによって製造することができる。また、各層の構成材料も、本発明の光ファイバと同様のものを用いることができる。
【0034】
また、伝送路の大部分を構成する光ファイバの波長分散を補償したときに、その補償される側の光ファイバの分散スロープを完全に補償するために必要な分散スロープに対する、分散補償光ファイバの分散スロープの値の割合を分散スロープの補償率という。
なお、単位長さ当たりの分散スロープに使用長さを掛け合わせると、使用長さにおける分散スロープが算出できる。
この光伝送システムにおいては、この分散スロープの補償率が80%以上であるように、光ファイバの使用長さと、分散補償光ファイバの特性および使用長さを設定すると好ましい。
このように分散補償光ファイバで波長分散を補償するような光伝送システムの平均波長分散値は、小さい程好ましく、本発明の光ファイバを用いたシステムにおいては、適切な分散補償光ファイバと、その使用長さを選択して組み合わせることによって、−6〜+6ps/km/nmの範囲のものが得られる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を実施例を示して詳しく説明する。
(実施例1)
VAD法により、図3に示した屈折率分布形状を有する光ファイバを製造した。中心コアはゲルマニウム添加石英ガラスから構成し、中間部はフッ素添加石英ガラス、クラッドは純粋石英ガラスから構成した。
この光ファイバにおいて、Δ、Δはそれぞれ0.24%、−0.05%であった。また、r、rはそれぞれ6.6μm、26.5μm、クラッド外径は125μmであった。表1にこの光ファイバの特性を示した。各特性値は1.55μmにおける測定値である。また、カットオフ波長は2m法における測定値である。
【0036】
【表1】
Figure 0003725523
【0037】
(実施例2)
中心コアを純粋石英ガラス、クラッドをフッ素添加石英ガラスから形成した以外は、実施例1と同様にして光ファイバを製造した。
この光ファイバの光学特性は、伝送損失が実施例1の光ファイバより0.01dB/km程度低く、0.178dB/kmであった以外は、表1に示した実施例1の光ファイバと同等であった。
【0038】
(実施例3)
VAD法により、図5に示した屈折率分布形状を有する光ファイバを製造した。中心コア部とリングコア部はゲルマニウム添加石英ガラスから構成し、中間部はフッ素添加石英ガラス、クラッドは純石英ガラスから構成した。
この光ファイバにおいて、Δ、Δ、Δは、それぞれ0.28%、−0.0 5%、+0.13%であった。また、r 、r 、r はそれぞれ、7.75μm、26.35μm、31μm、クラッドの外径は約125μmであった。
表2にこの光ファイバの特性を示した。なお、各特性値は1.55μmにおける測定値である。また、カットオフ波長は2m法における測定値である。
【0039】
【表2】
Figure 0003725523
【0040】
(比較例1)
高屈折率のコアの周囲に低屈折率のクラッドが設けられたステップ型の屈折率分布形状を有する光ファイバを製造した。コアはゲルマニウム添加石英ガラスから構成し、クラッドは純石英ガラスから構成した。
この光ファイバにおいて、クラッドの屈折率を基準にしたときのコアの比屈折率差は0.34%、コア半径は4.8μm、クラッドの外径は約125μmであった。
この光ファイバの1.55μmにおけるAeffの測定値は約88μm 、曲げ損失は5dB/m、2m法におけるカットオフ波長は1.37μmであった。
【0041】
上述の結果より、本発明に係る実施例1〜3の光ファイバにおいては、Aeffを十分に拡大することができ、また、曲げ損失とサンドペーパー張力巻きロス増が小さく、1.55μmにおいてシングルモード伝搬可能なカットオフ波長を有していることが確認できた。
そして、比較例1の光ファイバよりもAeffを拡大することができ、非線形効果を抑制できることが明らかとなった。
【0042】
(実施例4)
実施例2の光ファイバと、この光ファイバの波長分散値と分散スロープを補償する分散補償光ファイバを作製し、前記光ファイバの光信号の出射側に分散補償光ファイバを接続して光伝送システムを構築した。このとき、実施例2の光ファイバは30.9km、分散補償光ファイバは5.0kmであり、伝送路の合計は35.9kmとした。
分散補償光ファイバは、図3に示したものと同様の屈折率分布形状を有し、その構造パラメータを調整することによって、実施例2の光ファイバと異なる符号の波長分散値と分散スロープを有するものを用いた。構成材料と製造方法は実施例2と同様とした。
分散補償光ファイバの構造パラメータと特性、および分散スロープの補償率を表3にあわせて示した。
【0043】
【表3】
Figure 0003725523
【0044】
実施例2の光ファイバと分散補償光ファイバとを合成した状態の伝送路の平均波長分散値は1.55μmにおいて、ほぼゼロであり、残存した分散スロープは、伝送路全長で+0.147ps/nm であり、長さ当たりに換算すると、+0.004ps/km/nmであり、非常に小さな分散スロープが得られた。
よって、光信号の入射側に本発明に係る実施例2の光ファイバが用いられており、この光ファイバはAeffが大きいため、非線形効果による伝送劣化がほとんどなく、かつ、出射側で波長分散値と分散スロープが補償されているため、分散特性に起因する伝送特性の劣化もなく、非常に良好な伝送特性を有する光伝送システムが得られた。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように本発明においては、比較的簡単な構造の屈折率分布形状を有する光ファイバにおいて、その構造パラメータを調整することによって、Aeffを拡大し、かつ1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯においてシングルモード伝搬可能となるカットオフ波長を有する光ファイバを、低コストで提供することができる。また、曲げ損失を用途に応じた値に低減することができる。
その結果、1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯において、非線形効果を抑制して伝送損失の劣化を防ぐことができるとともに、敷設時などに光ファイバに付与されるマイクロベンドによっても伝送損失が劣化しにくく、かつシングルモード伝搬を保証できる光ファイバを提供することができる。
さらに、本発明の光ファイバと分散補償光ファイバとを組み合わせることにより、非線形効果と分散特性に起因する伝送劣化を抑制し、伝送特性が良好な光伝送システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 光ファイバ素線の一例を示した断面図である。
【図2】 Aeffとサンドペーパー張力巻きロス増の関係の一例を示したグラフである。
【図3】 本発明の光ファイバの屈折率分布形状の第1の例を示したグラフである。
【図4】 図3に示した構造パラメータを変化させたときの、2m法によるカットオフ波長と、使用波長1.55μmにおけるAeffおよび曲げ損失との関係の一例を示したグラフである。
【図5】 本発明の光ファイバの屈折率分布形状の第2の例を示したグラフである。
【符号の説明】
1…中心コア部、2…中間部、3…リングコア部、4…クラッド
…中心コア部の半径、r …中間部の半径、r …リングコア部の半径、
Δ …中心コア部の屈折率、Δ …中間部の屈折率、Δ …リングコア部の屈折率。

Claims (7)

  1. 外径Aが100〜125μmである光ファイバ裸線の上に、ヤング率が1kg/mm 以下のプラスチックからなる1次被覆層と、1次被覆層の外周上に設けられたヤング率が50kg/mm 以上のプラスチックからなる2次被覆層が設けられてなる光ファイバ素線であって、
    前記光ファイバ裸線は、中心コア部と、その外周上に設けられた該中心コア部よりも低屈折率の中間部と、該中間部の周囲に設けられた該中間部よりも高屈折率で、前記中心コア部よりも低屈折率なクラッドと、からなる屈折率分布形状を備え、前記中心コア部の半径をr、前記中間部の半径をrとし、前記クラッドの屈折率を基準としたときの中心コア部と中間部の比屈折率差をそれぞれΔ、Δとしたとき、以下の(1)〜(5)を満足するとともに、さらに前記光ファイバ素線が下記(6)を満足することを特徴とする光ファイバ。
    (1)3.0≦r/r≦5.0であり、(2)Δが0.30%以下、Δが−0.05〜−0.15%であり、(3)1.53〜1.61μmから選択される使用波長帯において、有効コア断面積が120〜150μm であり、(4)前記使用波長帯において、実質的にシングルモード伝搬可能なカットオフ波長を有し、(5)前記使用波長帯において、曲げ直径(2R)が20mmの条件で測定される曲げ損失が0.7〜100dB/mである。
    (6)光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.3dB/km以下である。
  2. 前記(6)において、光ファイバ素線の、波長1550nmにおけるサンドペーパー張力巻きロス増が0.15dB/km以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
  3. 前記(5)において、曲げ損失が0.7〜20dB/mであることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
  4. 前記(3)において、有効コア断面積が140μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光ファイバ。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の光ファイバを製造する方法であって、前記(1)〜(2)に記載の数値範囲を満足する様に構造パラメータを選択し、前記(3)〜(6)に記載の特性を満足する光ファイバを製造することを特徴とする光ファイバの製造方法。
  6. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の光ファイバの光信号の出射側に、この光ファイバの波長分散値と分散スロープのどちらか一方、あるいは両方を補償する分散補償光ファイバを配置したことを特徴とする光伝送システム。
  7. 請求項6に記載の光伝送システムにおいて、光ファイバと、分散補償光ファイバとを合成したときの平均波長分散値が−6〜+6ps/nm/kmであることを特徴とする光伝送システム。
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