JP3724445B2 - スローアウェイ式ドリル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ドリル本体の先端部外周に一対のスローアウェイチップ(以下、チップと称する。)が着脱可能に取り付けられたスローアウェイ式ドリル(以下、ドリルと称する。)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種のドリルにおいては、上記一対のチップのうち、一方のチップの切刃をドリル本体先端の外周側に偏って配設するとともに、他方のチップの切刃はドリル本体先端の内周側に偏って配設し、かつドリル本体の軸線回りにおけるこれらの切刃の回転軌跡を互いにオーバーラップさせて該軸線から径方向に連続するように配設することにより、上記一方のチップの切刃によって加工穴の外周側を、他方のチップの切刃によって加工穴の内周側をそれぞれ切削して穴加工を行うようにしたものが、種々提案されている。従って、このようなドリルによれば、各チップの切刃によって生成される切屑が加工穴の内半径の略1/2程度の幅に分断されるので、良好な切屑排出性を得ることができるなどといった効果を奏することが可能となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このようなドリルに取り付けられる上記一対のチップは、その管理上の問題などから通常は互いに同形同大のものが用いられており、従ってドリル本体先端部の外周側には上記一方のチップのみがその切刃の外周端を突出させるようにして取り付けられていて、この切刃の外周端が上記軸線回りになす円の直径が当該ドリルの切刃径となるようにされていた。ところが、このようなドリルでは、この一方のチップの上記切刃の外周端に連なる側面部分のみが加工穴の内周に当たってドリル本体が案内され、この外周端と軸線を挟んで反対側ではドリル本体の外周面と加工穴内周との間に間隔があけられることとなるので、ドリル本体の先端部が片当たりとなって不安定となる。その一方で、このように切刃が内外周に偏って配設されたドリルでは、穴明け加工時にドリル本体に作用する負荷もその大きさや方向が異なるものとなって、切刃が対称に配設されたドリルのように相殺されることがないため、この穴明け加工時の負荷等によってドリル本体にビビリ等が生じ易く、加工精度の劣化を招いたりするおそれがあった。
【0004】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のような一対のチップの切刃がドリル本体先端部の内外周に偏って配設されたドリルにおいても、穴明け加工時にドリル本体を安定して加工穴内に案内することができて、高い加工精度を得ることが可能なドリルを提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部に一対のチップを、その切刃を先端側に突出させて上記軸線を挟んで互いに反対側に着脱可能に取り付け、一方のチップの上記切刃を上記ドリル本体先端の外周側に偏って配設するとともに、他方のチップの上記切刃はドリル本体先端の内周側に偏って配設し、かつこれらの切刃の上記軸線回りの回転軌跡を互いにオーバーラップさせて該軸線から径方向に連続するようにし、このうち上記一方のチップには、その上記切刃の外周端から上記軸線方向後端側に延びる外周側面を上記ドリル本体の先端部外周に突出するように形成するとともに、上記他方のチップには、その上記切刃の外周側に、上記一方のチップの切刃の回転軌跡に対して上記軸線方向に後退する凹部と、この凹部の外周端から上記軸線方向後端側に延びて記ドリル本体の先端部外周に突出し、かつ上記一方のチップの上記外周側面と上記軸線からの外径が等しくされた外周側面とを形成したことを特徴とする。
【0006】
しかして、このようなドリルでは、上記一方のチップにおいてはその切刃が外周側に偏って配設されるとともに、他方のチップにおいては、切刃は内周側に偏って配設され、かつその外周側の凹部は一方のチップの切刃に対して後退しているので切刃として作用することはなく、従って従来と同様に内外周に偏った切刃によって切屑を分断して生成することができる。そして、その一方で、この他方のチップの最外周には、上記一方のチップの外周側面と軸線からの外径が等しく、すなわち当該ドリルの切刃の外径と等しい外径を有する外周側面が、上記凹部の外周端から後端側に延びるように形成されていて、これら両チップの外周側面が加工穴の内周に当たることにより、ドリル本体先端部は軸線を挟んで両側から支持された状態で案内されることになるので、ビビリ等を生じることなく安定した穴明け加工を行うことができる。
【0007】
ここで、上記一方のチップの切刃の回転軌跡に対する上記他方のチップの凹部の後退量は、上記ドリル本体の1回転当たりの送り量よりも大きく設定され、具体的には0.3〜1.0mmの範囲に設定されるのが望ましい。すなわち、この後退量が0.3mmを下回るほど小さいと、一方のチップの切刃によって切削された加工穴の穴底に上記凹部が当たってしまうおそれがあり、逆に後退量が1.0mmよりも大きいと、一方のチップの外周側面が加工穴内周に当たってから、この他方のチップの凹部に連なる外周側面が加工穴内周に当たるまでの距離が長くなって、その間にドリル本体が不安定となるおそれがある。
【0008】
また、内周側に配設される上記他方のチップの切刃を、上記ドリル本体先端部の内周側から外周側に向かうに従い先端側に向けて延びた後に頂点を介して後端側に向かう山形をなすように形成すれば、この他方のチップの切刃を一方のチップの切刃よりも先端側に突出させて加工物に食い付かせた際に、この頂点を挟んだ切刃の両側の切刃部に作用する切削負荷が互いに相殺されるので、食い付き時の安定性を確保することができる。ただし、この場合には、この切刃がなす山形の上記頂点は、上記軸線からの径方向において、上記一方のスローアウェイチップの切刃の外径Dに対し0.05〜0.25×Dの範囲に位置させられるのが望ましく、この範囲よりも頂点が内周側にあると、該頂点に大きなスラスト荷重が作用してこの頂点が潰れてしまうおそれが生じる一方、上記範囲よりも外周側にあると、この他方のチップにより生成される切屑の量が多くなりすぎて、上記一方のチップとの間で切削量のアンバランスを生じてしまうおそれがある。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1ないし図13は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態においてドリル本体1は軸線Oを中心とした概略多段円柱状をなし、その後端部は、円柱の外周に軸線Oに平行な平坦面2Aを有するシャンク部2とされるとともに、このシャンク部2から先端側(図1において左側)には先端側に向けて順に、シャンク部2よりも一段拡径した円板状の鍔部3Aと、先端側に向けて漸次縮径する円錐台状部3Bと、小径の円柱状部3Cとが軸線Oに同軸に形成されて、切刃部3とされている。そして、この切刃部3の外周には、上記円柱状部3Cの先端から円錐台状部3Bの途中にかけて、一対の切屑排出溝4,4が軸線Oを挟んで互いに反対側に設けられており、これらの切屑排出溝4,4の先端のドリル回転方向T側を向く壁面に形成されたチップ取付座5,5に、それぞれチップ6,7がクランプネジ8によって着脱可能に取り付けられている。なお、ドリル本体1には、その後端のシャンク部2から先端側に向けて切削油剤の供給孔1Aが軸線Oに沿って穿設されており、この供給孔1Aは切刃部3において2つに分岐して、該切刃部3の先端面(ドリル本体1の先端面)の上記チップ取付座5,5のドリル回転方向T後方側にそれぞれ開口させられている。
【0010】
上記チップ6,7のうち、チップ6は、本実施形態における一方のチップとされるもので、超硬合金等の硬質材料により図3ないし図7に示すように概略台形の平板状に形成され、この台形をなす上面がすくい面6Aとされるとともに、このすくい面6Aがなす台形の斜辺に連なる1の側面が逃げ面6Bとされ、従って上記すくい面6Aの斜辺が切刃9とされており、この逃げ面6Bがチップ6の下面側に向かうに従い漸次後退するように傾斜させられることによって逃げ角が付されたポジティブチップとされている。なお、上記すくい面6Aには、その中央部に上記クランプネジ8が挿通される取付孔6Cが貫設されるとともに、上記切刃9側の縁部には該切刃9に沿って図6に示すように凹溝状のブレーカ6Dが形成されており、さらに切刃9にはホーニングが施されている。また、上記切刃9の一端部(図3において上側の端部)9Aは、該一端部9Aが連なる上記すくい面6Aの長辺部分に直交するように曲折される一方、切刃9の他端部(図3において下側の端部)9Bは凸円弧状に形成されて、上記長辺部分に平行なすくい面6Aの短辺部分に連なるようにされている。
【0011】
そして、このすくい面6Aの短辺部分に連なるチップ6の側面6Eには、上記切刃9の他端部9B側に、この一方のチップ6における外周側面10が、すくい面6Aに対向する平面視に図3に示すように上記ブレーカ6Dと略等しい幅で形成されている。ここで、上記側面6Eは、チップ6の下面側の部分が全体的に上記逃げ面6Bと同様にこの下面側に向かうに従い漸次後退するように傾斜させられるとともに、上面のすくい面6A側の部分は、外周側面10以外の部分がすくい面6Aに略垂直に面取りされている一方、外周側面10はすくい面6Aに対して図7に示すように垂直よりは小さく、かつ上記側面6Eの下面側の部分よりは大きな角度で交差するように面取りされており、これによって該外周側面10は側面6Eの他の部分よりも図3に示すように一段突出するように形成されることとなる。なお、この外周側面10には、切刃9側から離間するに従い漸次後退するように極小さな傾斜が与えられている。
【0012】
これに対して上記チップ7は、本実施形態における他方のチップとされるもので、やはり超硬合金等の硬質材料により図8ないし図12に示すように方形の1辺が「へ」字状に突出させられた概略5角形の平板状に形成され、この5角形をなす上面がすくい面7Aとされるとともに、上記「へ」字状の1辺に連なる1の側面には逃げ面7Bが形成され、従ってこの「へ」字状の1辺に切刃11が形成されている。なお、この他方のチップ7も、逃げ面7Bが形成される側面がチップ7の下面側に向かうに従い漸次後退するように傾斜させられて該逃げ面7Bに逃げ角が付されたポジティブチップとされ、またすくい面7Aの中央部には上記クランプネジ8が挿通される取付孔7Cが貫設されている。
【0013】
ここで、この他方のチップ7においては、上記「へ」字状に突出させられたすくい面7Aの1辺のうち、その一端部(図8において上側の端部)から突端を経て他端部(図8において下側の端部)に至る途中までの部分が上記切刃11とされており、従って該切刃11は上記突端を頂点11Aとする山形を呈することとなる。なお、上記1辺の一端部と一致するこの切刃11の一端部11Bから上記頂点11Aに至る切刃部11Cと、この頂点11Aから該切刃11の他端部11Dに至る切刃部11Eとは、それぞれ直線状とされて頂点11Aを介して鈍角に交差するとともに、互いの傾斜角θが等しく、しかもこの傾斜角θは上記一方のチップ6のすくい面6Aの斜辺に形成された上記切刃9の傾斜角θとも等しくされている。また、すくい面7Aの切刃11側の縁部には、上記切刃部11Cに平行にやはり凹溝状のブレーカ7Dが図11に示すように形成され、さらに切刃9にはホーニングが施されている。なお、このようなブレーカ7Dが形成されることにより、上記切刃部11Eは、図9に示すように頂点11Aから他端部11Dに向かうに従いチップ7の下面側に傾斜するように形成される。
【0014】
さらに、この切刃11の他端部11Dから、すくい面7Aの上記「へ」字状をなす1辺の他端部にかけての部分は、逃げ面7Bが形成される上記側面が、すくい面7Aに略垂直に、かつ該すくい面7Aに対向する平面視に図8に示すように上記切刃部11Dの延長線に対して平行となるように切り欠かれており、これによってこの部分には、この切刃部11Dの延長線に対して一段後退した凹部12が形成されている。そして、上記1辺の他端部においてこの凹部12とすくい面7Aとの交差稜線は、凸円弧状をなしてすくい面7Aとチップ7の他の側面7Eとの交差稜線に連なるようにされており、この側面7Eには、その上記凹部12側(上記1辺の他端部側)かつすくい面7A側に、この他方のチップ7における外周側面13が形成されている。ここで、一方のチップ6の上記側面6Eと同様に、上記側面7Eは、そのチップ7の下面側の部分が全体的にこの下面側に向かうに従い漸次後退するように傾斜させられるとともに、上面のすくい面7A側の部分は、外周側面13以外の部分がすくい面7Aに略垂直に面取りされている一方、外周側面13はすくい面7Aに対して図12に示すように垂直よりは小さく、かつ上記側面7Eの下面側の部分よりは大きな角度で交差するように面取りされており、これによって該外周側面13は側面7Eの他の部分よりも図8に示すように一段突出するように形成されることとなる。また、この外周側面13には、凹部12側から離間するに従い漸次後退するように極小さな傾斜が与えられている。
【0015】
このように構成されたチップ6,7は、それぞれそのすくい面6A,6Bをドリル回転方向Tに向けるとともに、逃げ面6B,7Bを先端側に、側面6E,7Eを外周側に向けて、上記切刃9,11をドリル本体1の先端に突出させるように、上記チップ取付座5,5に取り付けられる。ここで、この取付状態において、上記一方のチップ6は、チップ6自体がドリル本体1の外周側に偏って配置され、これによって切刃9もドリル本体1の外周側に偏って配設される一方、上記他方のチップ7においては、チップ7自体はドリル本体1内周の上記軸線O近傍から外周側に亙って配置されるものの、その切刃11はドリル本体1の内周側に偏って配設され、これらの切刃9,11が図13に示すように軸線O回りの回転軌跡において互いにオーバーラップして、ドリル本体1の軸線Oから径方向に連続するようにされている。
【0016】
さらに、この取付状態において上記他方のチップ7の切刃11は、その上記一端部11Bが軸線Oを越えてオーバーセンターとなるように配置されるとともに、この一端部11Bから上記頂点11Aに延びる切刃部11Cが外周側に向かうに従い先端側に向かうように延びて、頂点11Aが最も先端側に突出するようにされ、さらにこの頂点11Aを介して他端部11Dに延びる切刃部11Eが外周側に向かうに従い後端側に後退するように配設されて、先端側に凸となる山形をなし、軸線Oに直交する平面に対して切刃部11C,11Eがなす角度が上記傾斜角θとなるようにされている。これに対して、上記一方のチップ6の切刃9は、その上記一端部9Aが該切刃9で最も先端に突出させられるとともに、この一端部9Aから上記斜辺に沿って斜めに延びる部分が、上記回転軌跡において他方のチップ7の切刃11の上記切刃部11Eの延長線と一致するようにされており、従ってこの切刃9が軸線Oに直交する平面に対してなす角度も上記傾斜角θとされるとともに、該切刃9の先端となる上記一端部9Aは切刃11の先端となる頂点11Aよりも軸線O方向後端側に僅かに後退した位置に配置され、さらに該切刃9の外周側に配置されることとなる上記他端部9Bが軸線O回りになす円の直径が、この一方のチップ6の切刃9の外径Dとなり、かつ本実施形態のドリルによる切刃9,11の外径Dとされる。
【0017】
そして、さらにこの切刃9の他端部9Bに連なる一方のチップ6の上記外周側面10と他方のチップ7の上記外周側面13とは、その軸線Oからの外径(半径)が互いに等しくされて、いずれもドリル本体1先端の切刃部3の上記円柱状部3Cの外周に突出するようにされており、ただし上記凹部12が切刃部11Eの延長線よりも後退させられた分だけ外周側面13が外周側面10よりも軸線O方向後方側に位置するように配設されていて、こうして軸線O方向にずらされた状態で軸線O回りの回転軌跡において図13に示すように互いにオーバーラップするように配設されている。なお、これらの外周側面10,13は、該外周側面10,13を含めて側面6E,7Eがチップ6,7の下面側に向けて後退するように傾斜させられていることから、加工穴の内周に対して回転方向Tの後方側に向かうに従い漸次離間するように径方向に逃げが与えられるとともに、これら外周側面10,13が切刃9や凹部12から離間するに従いやはり後退するように僅かに傾斜させられていることにより、軸線O方向にも後端側に向かうに従い加工穴内周から漸次離間するように逃げが与えられることになる。また、上記一方のチップ6の切刃9の回転軌跡に対する他方のチップ7の凹部12の後退量(本実施形態では、他方のチップ7の切刃部11Eの延長線に対する凹部12の後退量)Eは、軸線O方向において穴明け加工時のドリル本体1の1回転当たりの送り量よりも大きく、0.3〜1.0mmの範囲に設定されている。さらに、上述のように山形とされた上記他方のチップ7の切刃11における頂点11Aは、上記軸線Oからの径方向において上記外径Dに対し0.05〜0.25×Dの範囲の半径Rに位置させられている。
【0018】
従って、このように構成されたドリルにおいては、加工穴の穴底の外周側が上記一方のチップ6の切刃9により、また内周側が他方のチップ7の切刃11により、それぞれ切削されることとなるので、この穴加工の際に生成される切屑も、加工穴の内半径の1/2程度の幅となり、切屑排出溝4,4を通してその確実かつ円滑な排出を図ることが可能となる。そして、その一方で、上記構成のドリルでは、両チップ6,7の上記外周側面10,13が、軸線Oからの外径が互いに等しく、かつ外周側面10に対して外周側面13が上記後退量E分だけ僅かに後退させられてオーバーラップするように配設されており、従って一方のチップ6における切刃9外周の他端部9Bが加工穴に食い付いて外周側面10が加工穴内周に当たってから、この後退量E分だけドリル本体1が送り出されたところで、他方のチップ7の外周側面13が加工穴に挿入されてその内周に当たり、これらの外周側面10,13がマージンとして作用して、ドリル本体1先端の切刃部3が軸線Oを挟んで両側から支持された状態となる。このため、上記構成のドリルによれば、切刃9,11がドリル本体1の内外周に偏って配設されているにも拘わらず、穴明け加工時のビビリ等を防いで切刃部3を確実に軸線Oに沿って真っ直ぐ案内することができ、これにより直進度や真円度の高い高精度の穴明け加工を行うことが可能となる。
【0019】
ところで、本実施形態では、上記一方のチップ6の切刃9が、山形とされた他方のチップ7における切刃11の切刃部11Eの延長線に回転軌跡において一致するように配設されており、従ってこの切刃11が加工物に食い付いてから切刃9が食い付いて一対の切刃9,11で穴明けが行われるまでを短くすることができるとともに、例えば止まり穴を形成する場合に穴底に大きな段差が残されるのを防ぐことができるという利点を得ているが、このように切刃9を切刃11の切刃部11Eの延長線と一致させることなく、回転軌跡において切刃9を切刃11の上記延長線よりも軸線O方向後方に、例えば平行に後退するように配設してもよい。しかして、この場合には、チップ6の上記外周側面10からチップ7の外周側面13までの上記後退量Eも小さくなるので、先行する外周側面10が加工穴内周に当たってから後続の外周側面13が当たるまでを短縮することができ、従って速やかにドリル本体1を安定的に支持して一層高精度の穴加工を促すことが可能となる。
【0020】
ただし、こうして後退量Eを小さくするにしても、該後退量Eは当該ドリルによる穴明け加工時のドリル本体1の1回転当たりの送り量よりは大きく、具体的には上述のように0.3mm以上とされるのが望ましい。すなわち、上記他方のチップ7において切刃11の上記他端部11Dよりも外周側に位置させられる上記凹部12は、これよりの先端側に位置する一方のチップ6の切刃9が加工穴の穴底を切削した後にこの穴底と間隔をあけて前進するようにされていて、それ自体は切削を行うことがないようにされているのに対し、この後退量Eがドリル本体1の送り量よりも小さかったり、0.3mmよりも小さかったりすると、この凹部12が切刃11によって切削された加工穴の穴底に当たってしまうこととなり、ドリル本体1の送りに大きな抵抗を生じたり、場合によっては送り自体が不可能となるおそれが生じる。しかし、その一方で、この後退量Eが大きすぎると、チップ6,7の上記外周側面10,13間の後退量も大きくなり、これにより先行する外周側面10が加工穴内周に当たってから、後続の外周側面13が当たって切刃部3が支持されるまでが長くなり、この間はドリル本体1も不安定な状態となるので、この後退量Eは上述のように1.0mm以下とされるのが望ましい。
【0021】
一方、本実施形態の上記他方のチップ7では、その切刃11が山形に形成されており、この切刃11の頂点11Aが一方のチップ6の切刃9先端の一端部9Aよりも先端側に位置しているので、当該ドリルの切刃9,11においては、まずこの頂点11Aから切刃11が加工物に食い付くこととなり、この頂点11Aの両側の上記切刃部11C,11Eの傾斜角θが互いに等しくされていることから、これらの切刃部11C,11Eに作用する切削負荷は互いに相殺されることとなって、この食い付き時にドリル本体1に振れが生じたりするのを防ぎ、さらに高精度の加工を図ることができるという利点も得られる。ただし、この頂点11Aの位置が外周側に位置しすぎていると、その内周側の上記切刃部11Cの長さが長くなる分、外周側の切刃部11Eも長くしなければ上述のように両切刃部11C,11E間で切削負荷を確実に相殺することができず、その結果一方のチップ6の切刃9の長さが短くなって、両チップ6,7で切削量のバランスがとれなくなるおそれが生じる。また一方、逆に頂点11Aが内周側に位置しすぎていると、このようなドリルの先端内周側の軸線O近傍では、ドリル本体1の回転による切削速度が小さくなるために加工物を押し潰すような切削形態となって大きなスラスト荷重が作用するので、山形の頂点11Aのように凸となる部分はこのスラスト荷重に追って潰されてしまうおそれが生じる。このため、上記頂点11Aの位置、すなわち軸線Oからこの頂点11Aまでの半径Rも、やはり上述のように切刃9の外径Dに対して0.05〜0.25×Dとなるように設定されるのが望ましい。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、切刃をドリル本体の内外周に偏って配設することにより良好な切屑排出性を奏しつつも、ドリル本体を安定的に支持して真っ直ぐ案内することが可能となり、これによりビビリ等の発生を防いで高精度の穴加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態を示す平面図である。
【図2】 図1に示す実施形態を軸線O方向先端側から見た正面図である。
【図3】 図1に示す実施形態における一方のチップ6の平面図である。
【図4】 図3に示すチップ6を逃げ面6B側から見た正面図である。
【図5】 図3に示すチップ6を側面6E側から見た側面図である。
【図6】 図3に示すチップ6の切刃9に直交する断面図である。
【図7】 図3における矢線X方向視の部分側面図である。
【図8】 図1に示す実施形態における他方のチップ7の平面図である。
【図9】 図8に示すチップ7を逃げ面7Bが形成される側面側から見た正面図である。
【図10】 図8における矢線Y方向視の部分側面図である。
【図11】 図8に示すチップ7の切刃11に直交する断面図である。
【図12】 図8における矢線Z方向視の部分側面図である。
【図13】 図1に示す実施形態においてチップ6,7の回転軌跡を示す図である。
【符号の説明】
1 ドリル本体
6 一方のチップ
7 他方のチップ
9,11 切刃
11A 切刃11の頂点
10,13 外周側面
12 凹部
O ドリル本体1の軸線
T ドリル回転方向
D 切刃9の外径
E 凹部12の切刃9からの後退量
R 頂部11Aの軸線Oからの半径
Claims (3)
- 軸線回りに回転されるドリル本体の先端部に一対のスローアウェイチップがその切刃を先端側に突出させて上記軸線を挟んで互いに反対側に着脱可能に取り付けられていて、一方のスローアウェイチップの上記切刃は上記ドリル本体先端の外周側に偏って配設されるとともに、他方のスローアウェイチップの上記切刃はドリル本体先端の内周側に偏って配設され、かつこれらの切刃の上記軸線回りの回転軌跡が互いにオーバーラップして該軸線から径方向に連続するようにされており、このうち上記一方のスローアウェイチップには、その上記切刃の外周端から上記軸線方向後端側に延びる外周側面が上記ドリル本体の先端部外周に突出するように形成されるとともに、上記他方のスローアウェイチップには、その上記切刃の外周側に、上記一方のスローアウェイチップの切刃の回転軌跡に対して上記軸線方向に後退する凹部と、この凹部の外周端から上記軸線方向後端側に延びて記ドリル本体の先端部外周に突出し、かつ上記一方のスローアウェイチップの上記外周側面と上記軸線からの外径が等しくされた外周側面とが形成されていることを特徴とするスローアウェイ式ドリル。
- 上記一方のスローアウェイチップの切刃の回転軌跡に対する上記他方のスローアウェイチップの凹部の後退量が0.3〜1.0mmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のスローアウェイ式ドリル。
- 上記他方のスローアウェイチップの切刃は、上記ドリル本体先端部の内周側から外周側に向かうに従い先端側に向けて延びた後に頂点を介して後端側に向かう山形をなしており、この切刃がなす山形の上記頂点が、上記軸線からの径方向において、上記一方のスローアウェイチップの切刃の外径Dに対し0.05〜0.25×Dの範囲に位置させられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスローアウェイ式ドリル。
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