JP3722708B2 - 防縮性に優れた獣毛繊維およびその製造方法 - Google Patents

防縮性に優れた獣毛繊維およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防縮性と抗ピリング性を付与した獣毛繊維およびその製造方法に関する。特に獣毛本来の優れた撥水性を損なうことなく防縮性と抗ピリング性を付与した獣毛繊維およびその製造方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
獣毛繊維は、その羊種によって特有の風合いを有し、生分解性機能があり、吸湿性、放湿性、保温性、難燃性、染色性に優れ、更に撥水性を備えた特異な繊維である。繊維物性の面からも、着用に耐える適度な繊維強・伸度があり、摩擦強度も高く古来より珍重されてきた特有の繊維である。しかし、獣毛繊維の表皮組織構造に由来する洗濯時におけるフェルト性や、着用時におけるピリング性は、衣料用繊維としては好ましくない性質である。そのため表面の改質研究が、防縮加工を中心として古くから行われ、それに付随して抗ピリング加工も行われてきた。しかし、そのようにして得られた獣毛繊維はいずれも、獣毛繊維の本来の性質である撥水性を犠牲にしたものであった。獣毛繊維の撥水性膜は、吸湿性や放湿性に影響を与え、水の吸着や脱着に伴う熱移動の制御機関であり、保温性や快適性にも影響を及ぼすものである。換言すれば従来の防縮加工製品は、洗濯による縮みは防止できるが、保温性や快適性に欠けるものであった。
【0003】
従来の代表的な防縮性加工方法としては、塩素剤を用いる防縮加工方法があり、獣毛繊維の表皮組織を親水化して、その組織をソフト化或いは除去して防縮性を付与し、更に耐洗濯性を高めるためにポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(ディック・ハーキュレス社製、ハーコセット樹脂)で表皮組織を被覆する、いわゆるクロリン・ハーコセット防縮加工方法がある。この方法が現在世界中に普及し、一応羊毛の防縮加工方法として完成されたものとなっている。
【0004】
しかし、近年世界的に広がった環境保全問題から、塩素剤や塩素含有樹脂を用いる防縮加工は、吸着性有機ハロゲン化合物(Adsorbable Organic Halides;AOX)の排出量が問題となり、現在塩素化剤を使用しない新しい獣毛繊維の防縮加工方法の研究が行われている。しかし今だクロリン・ハーコセット防縮加工方法に代わる満足すべき方法は、開発されていない。
【0005】
特開昭50−126997号公報は、羊毛スライバーに酸類または酸性塩類の水溶液を浸漬して圧搾ロールで脱液し、予めオゾン濃度35.5mL/Lのオゾン含有ガスを充填させた密閉室に入れ、更に新しいオゾン含有ガスを送入しながら、50℃にて10分間処理する方法により、羊毛の風合いおよび強度を悪化させることなく、羊毛の染色性および防縮性、羊毛−合繊混毛品の抗ピリング性を向上させる方法を開示している。しかしこの方法では、羊毛の防縮加工の主役を演じるシスチン架橋結合(−S−S−)への酸化のみで、還元処理は行われていない。羊毛の場合この還元処理によって、はじめて−S−S−結合は切断され、羊毛に満足すべき防縮性を付与することができるのであるが、開示された方法では、十分な防縮性、抗ピリング性は得られない。又、オゾンガス雰囲気中での処理のため密閉系であり、オゾンガスの分子運動による暴露であるため、羊毛処理量が大量になった場合、オゾンガスの暴露斑は避けられず、これが直接処理斑となり均一な羊毛の防縮、染色は得られない。且つ、密閉系の処理のため生産性が低く、処理装置から直接オゾンガスが漏れた場合、作業環境の悪化、環境負荷が大きいため工業化が難しい方法である。
【0006】
特開昭55−142759号公報は、繊維をオゾン・スチーム混合体で処理する方法と装置が開示されている。この方法は、排気装置を備えた特殊処理装置内に巡回するベルト・コンベアに蛋白質の動物繊維からなる梳毛ニッテッド・ファブリックをつるし、その装置内にスチームを導入して79℃に上げ、ファンを始動させオゾン・空気混合体(オゾン導入量:3.4g/分)を導入して、8.25分滞留させて防縮性を付与する方法である。この方法も、オゾン酸化のみで還元処理を施していない。従って、付与された防縮性も満足すべきものではなく、又、装置的にもオゾンガス漏れし易く、作業環境の悪化を招く。
【0007】
特開平3−19961号公報では、酸化剤としてオゾンを用いる獣毛の防縮加工方法を開示している。水浴中でオゾンガスをガラスフィルターを通して微細気泡にし、その気泡を獣毛に接触させることを記載しているが、繊維集団の細部までオゾンガスの気泡を到達させるには、ガラスフィルター程度の気泡では、気泡が大きすぎるため、繊維集団の表面のみを処理する程度である。防縮された羊毛繊維90%、未防縮羊毛繊維10%程度混入した羊毛製品を洗濯すると、未防縮羊毛製品と同程度フェルト収縮することが経験的によく知られているが、この方法では羊毛へのオゾンガスの暴露斑が処理斑となり、この斑が原因で十分な防縮性は得られない。
【0008】
特開平10−72762号公報では、オゾンと酸素もしくは空気とからなるオゾン含有気体を水に直径0.08mm以下の気泡の形で分散させたオゾン水に、繊維をトウや糸、織物、編物等の形態で浸漬する方法を開示している。オゾン含有気体を水に導入して気泡を形成させ、この気泡をラインミキサーを通過する際に内部の突起に衝突させて砕き、直径0.08mm以下の微細な気泡にして水に対する溶解度を高め、高濃度のオゾン水にする方法が記載されている。これは、あくまで、オゾン水を用いたレーヨンその他の繊維の処理方法である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、撥水性を損なうことなく高度の防縮性と抗ピリング性とが同時に付与された獣毛繊維を提供するものである。また、本発明は、有害な塩素を含有しない薬剤を使用する環境に配慮した上記獣毛繊維の製造方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、防縮性および抗ピリング性に優れ且つ獣毛繊維本来の撥水性を保持している獣毛繊維に関する。
詳しくは、本発明は、防縮性がWM TM31法(Wool Mark Test Method 31)に準拠して測定したフェルト収縮率として3時間値で面積収縮率が8%以下である上記の獣毛繊維に関する。
また、詳しくは、本発明は、JIS L‐1015法によるスケールの方向に対して逆方向(μ)および順方向(μ)の差(μ−μ)で表した値が、静摩擦係数値または動摩擦係数値において、未処理の獣毛の(μ−μ)よりも30%以上減少しており、且つμの値が未処理の値と同程度でμの値が未処理の値よりも30%以上増加している上記獣毛繊維に関する。
更に詳しくは、本発明は、抗ピリング性がJIS L‐1076.6.1A法による3級以上である上記の獣毛繊維に関する。
更にまた詳しくは、本発明は、獣毛繊維の表皮細胞中の−S−S−結合(シスチン結合)の酸化の程度が、反射FT-IR測定法でアミドIに相当する吸収バンドの吸光度を1とした場合に−SOH基(スルホン酸基)吸収バンドの相対吸光度が0.1以上および/または−S−SONa基(ブンテ塩)吸収バンドの相対吸光度が0.08以上である上記の獣毛繊維に関する。
【0011】
更に、本発明は、a)獣毛表皮細胞中の−S−S−結合(シスチン結合)を低次の酸化状態へ一次酸化処理する第1の工程、
b)一次酸化された−S−S−結合を、ジ-、トリ-またはテトラ-酸化状態のいずれか1種または2種以上の高次酸化状態へ酸化処理する第2の工程、および
c)上記ジ-、トリ-またはテトラ-酸化状態の−S−S−結合を、還元切断処理する第3の工程、を含む上記いずれかに記載の獣毛繊維の製造方法に関する。
更にまた、本発明は、a)獣毛繊維のシスチン−S−S−結合を酸化する能力のある酸化剤により、獣毛表皮細胞中の−S−S−結合を一次酸化処理する第1の工程、
b)一次酸化された−S−S−結合をオゾンにより、ジ-、トリ-またはテトラ-酸化状態のいずれか1種または2種以上の高次酸化状態へ酸化処理する第2の工程、および
c)上記高次酸化状態の−S−S−結合を還元切断処理する第3の工程、を含む上記いずれかに記載の獣毛繊維の製造方法に関する。
加えて、本発明は、上記いずれかの方法によって得られる防縮性および抗ピリング性に優れた獣毛繊維に関する。
【0012】
なお、上記の「−S−S−結合(シスチン結合)の酸化の程度が、反射FT-IR測定法でアミドIに相当する吸収バンドの吸光度を1とした場合に−SOH基(スルホン酸基)吸収バンドの相対吸光度が0.1以上および/または−S−SONa基(ブンテ塩)吸収バンドの相対吸光度が0.08以上である」の記載において、「−SOH基(スルホン酸基)吸収バンドの相対吸光度」とは、詳しくは、反射FT-IR測定法(ATR法)で測定した−SOH基(スルホン酸基)に相当する1040cm−1の吸収バンドのアミドIに相当する1650cm−1の吸収バンドを1とした場合の相対吸光度を意味し、また「−S−SONa基(ブンテ塩)吸収バンドの相対吸光度」とは、詳しくは、反射FT-IR測定法(ATR法)で測定した−S−SONa基(ブンテ塩)に相当する1024cm−1の吸収バンドのアミドIに相当する1650cm−1の吸収バンドを1とした場合の相対吸光度を意味する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の獣毛繊維は、特に獣毛繊維本来の優れた撥水性を保持しつつ、更に優れた防縮性および抗ピリング性を有するところに特徴がある。
本発明の獣毛繊維の防縮性は、フェルト収縮率または単繊維摩擦係数差をひとつの尺度として表すことができる。
フェルト収縮率で表した場合、本発明の獣毛繊維の防縮性は3時間値で、面積収縮率8%以下である。特に5%以下である。
単繊維摩擦係数値で表した場合、スケールの方向に対して逆方向(μ)および順方向(μ)の差(μ−μ)が、静摩擦係数値または動摩擦係数値において、未処理よりも30%以上低いものである。特に40%以上低いものである。且つ、μの値が未処理の値と同程度でμの値が未処理の値よりも30%以上増加している。
【0014】
なお、本発明においてフェルト収縮率とは、WM TM31法(Wool Mark Test Method 31)に準拠して測定するものであり、14ゲージ1本取りで、カバー・ファクターC.F. 0.41に編み立てた編地を試験体とするものである。ここで「WM TM31法に準拠」とは、ISO 6330法に基づいて設定されたWM TM31法の試験手順に従い、洗濯試験機をキュウベックス(Cubex)収縮試験機に代替して測定したことを意味する。
【0015】
本発明において単繊維摩擦係数とは、JIS L 1015に準拠して測定するものであり、次の条件で行う:
試験機:レーダー式摩擦係数試験機
掛け糸荷重:200mg
円筒周速度:90cm/min。
またμはスケールの方向に対して逆方向の摩擦係数
μはスケールの方向に対して順方向の摩擦係数
を意味する。
【0016】
本発明の獣毛繊維の抗ピリング性は、JIS L 1076.6.1Aに準拠したピリング試験法によって定量的に表すことができ、ピリングが3級以上である。
上記基準によるピリング試験は次の条件によって行う:
試験機:ICI型試験機
編地:1P18Gで編み立てた編地を使用。
【0017】
撥水性は、該当獣毛繊維から仕上げた編地上に水滴を滴下し、編地への水滴の浸透性によって評価する。評価の基準は次の通りである:
○:30分後も水滴が編地上に残存している(天然獣毛同等)
△:2〜30分でほぼ水滴全量が編地に浸透する
×:2分未満でほぼ水滴全量が編地に浸透する。
なお、撥水性の評価は、スライバーの状態で水上に置き、スライバーが水を吸って水中に沈む速さによって評価してもよい。本発明の獣毛繊維は、天然獣毛同様、30分後も水滴が編地上に残存している。
また、獣毛繊維に撥水性を与えているエピクチクルの表層の存在は、飽和塩素水または飽和臭素水中に獣毛を浸漬させるアルベルデン反応(Wool Science Review, Vol.63(1986)、に記載)により、表面に気泡が生成することによって確認することもできる。
【0018】
本発明の獣毛繊維の優れた特性は、その高次構造に変化を与えたことによりもたらされるものであると考えられ、羊毛の構造を例にとって、本発明者らが考えている優れた防縮性および抗ピリング性の機構を以下に説明する。
図1(Wool Science Review Vol.63(1986)から引用)は羊毛繊維の表面部分の模式的縦断面図である。スケールと呼ばれている表皮組織(クチクル)部分は、外側からエピクチクル層(21)、エキソクチクルa層(22)、エキソクチクルb層(23)および最内層がエンドクチクル層(24)の順に積層されている。更にエピクチクル層の外表面は、エピクチクル層中のポリペプチド鎖の−SH残基との間でチオエステル結合によって結合している高級脂肪酸(主としてエイコサン酸)の約0.9nm厚さの層によって被覆されており、このエイコサン酸のアルキル基が獣毛繊維に優れた撥水性を付与している。
【0019】
更に詳しくは、繊維の最表面を構成している撥水性を帯びた高級脂肪酸類、特にエイコサン酸が、エピクチクル層(シスチン含量12%)とチオエステル結合で結ばれ、エピクチクル層は、その下部に隣接したエキソクチクルa層(シスチン含量35%)と一体的な構造をなし、表皮(クチクル)全体の厚さに対して約20%の厚さを占め、この組織内に、表皮(クチクル)全体のシスチン含有量に対して約70%にも及ぶシスチン結合が集中して分布している。その残りの約30%は、エキソクチクルb層(シスチン含量15%)とエンドクチクル層(シスチン含量3%)とであることが知られている。
【0020】
表皮組織の大半は、エキソクチクルa層、b層とエンドクチクル層とであるがエキソクチクルa層は、エピクチクル層と一体的な組織構造をしており、フェルト化現象は、実質的には、エキソクチクルb層とエンドクチクル層に依存する。
羊毛繊維が水中に浸漬されると、各層は多かれ少なかれ水を吸収して膨潤するが、当然シスチン架橋が発達しているほど水による膨潤の程度は少ない。そのため水に浸漬すると最内層のシスチン架橋密度の低いエンドクチクル層は水膨潤して伸長するが、一方シスチン架橋密度の低いより外側のエキソクチクル層は水膨潤の程度がより少ないため伸長の程度は少ない。このような膨潤伸長の差によりスケールの先端が立ち上がり、繊維と繊維が絡み合う結果となって、フェルト化する。
詳しく言うと、繊維と繊維が絡み合い、絡み合った部分に更に、洗濯時における布帛に加わる外力によって、他の繊維がからみつくことになり、繊維全体は絡み合った部分に引き込まれ、繊維塊全体の長さが収縮し、フェルト化するものであり、フェルト化することが収縮を伴っている。
【0021】
本発明の防縮性および抗ピリング性に優れた獣毛繊維は、主に表皮組織の化学的改質によるものであり、最表面のエイコサン酸による撥水性を保持した状態で、エキソクチクルb層とエンドクチクル層の膨潤性をほぼ等しくすることによって、水に浸漬したときのスケールの立ち上がりを実質的になくしたものである。
即ち、組織構造的に硬い構造のエピクチクル・エキソクチクルa層の一体的な構造体を温存した状態、したがって撥水性を帯びたエイコサン酸も温存した状態で、主としてエキソクチクルb層だけを選択的に攻撃してそのシスチン結合、したがって架橋構造を崩壊したものである。繊維の表層の、しかも膨潤収縮に関係する部分のみが改質を受けており繊維内部は保護されているため、繊維全体の撥水性が保たれているだけでなく、繊維強度も保持されているという特徴がある。
【0022】
本発明の処理による上記構造変化は反射FT-IR測定(ATR法)によって確認された。反射FT-IR測定では表面から1μm以内の構造が反映されるがこれは獣毛繊維の表層組織の厚さが1μm前後であることに匹敵する。改質処理された獣毛繊維のFT-IR吸光度は、−SOH基(スルホン酸基)に相当する1040cm−1の吸収バンドおよび−S−SONa基(ブンテ塩)に相当する1024cm−1の吸収バンドのいずれも、アミドI(1650cm−1)に相当する吸収バンドを1とした相対吸光度が未処理の獣毛繊維の相対吸光度に較べて増加しており、エキソクチクルb層の架橋結合が切断されていることを示している。
【0023】
これに対して、従来の代表的な防縮処理である塩素処理法またはクロリン・ハーコセット法等により得られた獣毛繊維では、エピクチクル・エキソクチクルa層の一体的な構造体が直接攻撃され、特に、エピクチクル層の損傷が激しく、撥水層が破壊されて、獣毛繊維の本来の特徴である撥水性が失われてしまっている。加えて繊維全体に酸化作用が及んでいるために強度低下を引き起こしている。更に、従来の防縮性獣毛繊維ではスケール表面はより平滑になっており、スケールを温存する本発明の獣毛繊維と較べて単繊維引き抜き摩擦抵抗が低くなり、十分なピリング抵抗を有しない。
【0024】
本発明の獣毛繊維と従来の防縮加工獣毛繊維および天然の未処理獣毛繊維の電子顕微鏡による表面観察結果を図2に示した。図2中、(a)は未処理羊毛繊維、(b)は塩素処理羊毛繊維、(c)はクロリン-ハーコセット処理羊毛繊維および(d)は本発明の羊毛繊維である。従来の防縮性加工獣毛繊維ではスケールがほとんど認められずかなり滑らかな表面となっているのに較べて、本発明の獣毛繊維はほとんど天然の表面状態を保持していることが見られる。
【0025】
なお、本発明における獣毛繊維には、羊毛、モヘア、アルパカ、カシミヤ、ラマ、ビキューナ、キャメル、アンゴラが含まれる。
【0026】
上記のような特徴を有する本発明の防縮性に優れた獣毛繊維は、以下の本発明の製造方法によって製造することができる。
即ち、本発明の獣毛繊維の製造方法は、獣毛繊維からなるスライバーを、塩素剤や塩素含有樹脂を使用することなく、先ず、獣毛繊維のシスチン−S−S−結合を酸化する能力のある酸化剤で一次酸化させ、次いでラインミキサーを用いてオゾン・酸素混合気体を水中で5ミクロン以下の超微細気泡にした状態で、この気泡を前もって一次酸化した獣毛繊維に一定時間衝突させて、液中で気相酸化反応させることにより、羊毛のシスチン結合を高次酸化状態に酸化するものであり、次いで高次酸化された獣毛繊維に還元処理を施すことによって、シスチン架橋結合(−S−S−)を切断するものである。
また、本発明の方法は、獣毛繊維のスライバーに防縮加工と抗ピリング加工を連続工程により付与できるという特徴をも有する。
【0027】
本発明において、シスチン結合(−S−S−)の一次酸化状態、即ち低次の酸化状態とは、モノ酸化(−SO−S−)、ジ-酸化(−SO−S−)またはこれらの混合された状態をいう。中でも特にモノ酸化状態に富んだ状態を言う。また高次酸化状態とは、ジ-酸化、トリ-酸化(−SO−SO−)、テトラ-酸化(−SO−SO−)またはこれらの混合した状態を言う。
モノ酸化状態では還元剤による−S−S−結合の切断は容易でなく、時間を要するが、ジ-、トリ-またはテトラ-酸化状態では比較的容易に切断されることが知られている。
【0028】
本発明は、獣毛繊維の表皮部分のみのシスチン結合を効率よく、即ち斑なくかつ短時間で切断するために、獣毛繊維を獣毛繊維のシスチン−S−S−結合を酸化する能力のある酸化剤によりパッド・スチーム処理して一次酸化処理する第1の工程と、水性処理液中で5ミクロン以下の超微細気泡としてのオゾンを含む水性処理液を吹き付けて高次酸化を行う第2の工程を含む2段階酸化を行うことを特徴とする。
【0029】
次いで、オゾン発生装置から製造されたオゾン・酸素の混合ガスを液循環ポンプに吹き込み、更にラインミキサーを通してオゾンを5ミクロン以下の超微細気泡として含有する水性オゾン処理液を調製し、この液を一次酸化された獣毛繊維に水中で吹き付けて衝突させ、前もってシスチン−S−S−結合が酸化されたエキソクチクルb層部分を優先的に、迅速にオゾン酸化して高次酸化状態にする。
【0030】
次に、還元剤例えば、亜硫酸塩で還元処理して、シスチン(−S−S−)結合を切断して、エキソクチクルb層のシスチン架橋密度を低下させ、水に対する膨潤化、流動化、可溶化を促進させ、一部の蛋白質を該繊維外に流出させる。
【0031】
本発明の方法により、このエキソクチクルb層のシスチン架橋密度を、前酸化(一次酸化)、オゾン酸化(高次酸化)、亜硫酸塩による還元処理を施すことによって低下させ、エンドクチクルの水膨潤と同程度にして、エキソクチクルb層とエンドクチクル層とのバイメタル的機能を失わせているため、得られた獣毛繊維は水に浸漬してもスケールの先端が立ち上がらず、縮みが発生しない。且つ、エピクチクル層とその表面を覆うエイコサン酸チオエステル層が依然として温存されているため、撥水性を損なうことなく、高度の防縮性を付与される。更に、繊維にスケールが温存されていることから、スケールを剥離した防縮加工方法やスケール表面を樹脂で被覆した防縮加工方法よりも、繊維の単繊維引き抜き摩擦抵抗が高く、繊維どうしの移動が抑制され、それだけピリングしにくい結果となる。
【0032】
本発明の獣毛繊維の製造方法は、獣毛繊維を一次酸化する第1の工程とこれを高次酸化する第2の工程を含む2段階酸化すること、およびそれに続く高次酸化されたシスチン結合を切断する還元工程を含むところに特徴がある。
本発明の製造方法を、以下に更に詳しく説明する。
本発明の処理方法における第1の工程は、オゾンによるシスチン結合の酸化のための前処理工程であって、獣毛繊維の−S−S−結合を酸化する能力のある酸化剤により、該繊維表皮組織中のシスチン結合を一次酸化して、実質的にモノ酸化状態とする段階である。
一次酸化するために好適な酸化剤の例としては、過硫酸、過酢酸、過蟻酸、これらの過酸の中性塩、酸性塩、過マンガン酸カリウム、過酸化水素が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することもできる。特に好ましい酸化剤は、過硫酸水素カリウムである。
【0033】
一次酸化は、一般にパッド(含蓄)・スチーム(反応)方法、場合によっては、パッド・ストアー(室温放置反応)で前酸化する。通常、過硫酸水素カリウムを使用する場合、浸漬方法が採られるが、その場合は処理剤が繊維内部まで浸透し該繊維または繊維全体が酸化され、加水分解されてシスチン結合は切断され、強度および伸度等の物性の低下をもたらす。それにもかかわらず、防縮効果も得られない。また、過硫酸水素カリウムをパッド(含蓄)・ストアー(室温放置)する方法では、反応温度が室温以上(実質では32℃)でないと該繊維と反応せず、表皮は十分酸化されない。本発明は、使用する酸化剤の種類およびその該繊維との反応性によって、処理条件を設定する必要があるが、過硫酸水素カリウムを使用する場合では、パッド(含蓄)・スチーム(熱を加えて反応する)方法が、該繊維の内部の酸化を防止しつつ、表皮部分のシスチン結合だけを酸化し、それによって後続するオゾンによる表皮部分の高次酸化を容易にしたものである。
【0034】
この一次酸化工程ではエキソクチクルb層をまず一次酸化する(第1工程)。エキソクチクルb層に較べてエピクチクル層およびそれに接するエキソクチクルa層部分の組織はシスチン−S−S−架橋密度が非常に高く、それゆえ組織が非常に硬く、耐薬品性、耐摩耗性を示す(6N-塩酸により酸加水分解しても最後に分解される組織は、このエピクチクル部分である。それ故に、エピクチクルは抵抗膜として組織学では取り扱われている)。そのためエピクチクル層およびエキソクチクルa層に較べてエキソクチクルb層は相対的により酸化を受け易い。
【0035】
即ち、本発明の第1の工程では、酸化剤水溶液を入れた浴中に、浸透剤を入れ、浴温度をできるだけ室温以下の温度に調整し、獣毛繊維との液接触時間を数秒(2〜3秒程度)になるようにパッド(含蓄)し、酸化剤水溶液が該繊維内部まで到達せず、しかも表皮に十分浸透した段階でパッド浴から取り出し、直ちに、マングルにかけて酸化剤水溶液の付着量を一定範囲となるように絞る。このように一定の酸化剤水溶液を含んだ該繊維を、次に繊維の乾燥を避けつつ一次酸化反応を促進するために、水蒸気中で95℃前後の温度で処理を行うものである。
【0036】
ここで「パッドする」とは、単に繊維を浴中に入れて繊維中に液を浸漬することとは異なり、使用する酸化剤の獣毛繊維との化学反応性を考慮して、浸漬浴中では反応させないように含蓄させることである。反応し難い条件、即ち、浴中の酸化剤によって酸化分解しない浸透性の高い浸透剤を選択すること、浴中温度をできるだけ低温にして繊維との反応を抑制すること、数秒という短時間内に浸漬して絞ることを意味する。
【0037】
本発明の処理方法における第2の工程は、酸化剤によって一次酸化された獣毛繊維をオゾンにより高次酸化する段階である。通常、オゾンによる酸化では長時間を要し、シスチン結合を切断するに十分な酸化状態に持っていくことは困難であった。即ち、獣毛繊維をオゾン酸化する場合、高濃度のオゾンガスやオゾン水を用いて、10分ないし30分間処理する必要があり、そのような条件では、連続処理は不可能であった。これに対して本発明では、前処理方法として第1工程で一次酸化しておく、およびオゾンを特定の状態にするとともに、繊維への接触方法を工夫することによってオゾンによる高次酸化を容易に、且つ短時間で可能にしたものであり、それによって連続処理工程が可能となった。
【0038】
即ち、本発明は、オゾンを5ミクロン以下の超微細気泡として高濃度で水中に分散させるものであり、更にこのような状態でオゾンを含有するこの水性処理液を獣毛繊維に吹き付けて、気相オゾンによる気固反応させることを特徴とするものである。
ラインミキサーから出た5ミクロン以下の超微細気泡を多孔性のサクション・ドラム面に収集させる超微細気泡飛散防止装置を開発して、超微細気泡を繊維に衝突させる回数を増やしたことも本発明を完成させることに貢献した。
【0039】
水中に分散された気泡状態のオゾンによって酸化処理するに当たっては、一般に気泡が水中に存在すると、繊維への液の濡れを妨害し液の浸透に悪影響を及ぼすものである。本発明ではこの障害を解決する手段として、先ず、獣毛繊維のスライバーをロータリー・ギルで十分開繊して薄い帯状にし、多孔性のサクション・ドラム面上に巻き付け、オゾン・酸素混合ガスをラインミキサーを用いて5ミクロン以下の超微細気泡とし、繊維と繊維との間にこの超微細気泡を貫通させるために、液をサクションして繊維への衝突回数を増加させ、もってオゾン酸化を促進する手段を採用している。
【0040】
本発明を図3に示す工程に従って詳細に説明する。使用した獣毛スライバーは、例えば、25g/m程度のトップであり、9本の該トップをギルを用いて開繊して帯状にし、ドラフト倍率は、羊毛の繊度によって異なるが、1.4倍から4倍程度であり、好ましくは、1.66である。羊毛トップの供給速度は、0.2m/minから4m/minであり、好ましくは、0.5m/minから2m/minである。
【0041】
帯状に整形された羊毛トップは、酸化剤と浸透剤を含む水溶液に浸漬し、絞りマングルで絞る。酸化剤としては、過硫酸、過硫酸水素カリウム、過硫酸水素ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムのような過硫酸塩または酸性過硫酸塩、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、過蟻酸またはその塩類、過酢酸またはその塩類等が例示できる。特に、好ましいのは、粒状であること、溶解し易いこと、溶解した水溶液が32℃以下の温度で貯蔵安定であることから過硫酸水素カリウム〔商品名「オキソン」(2KHSO・KHSO・KSO、活性組成としてKHSOで42.8%である);デュポン社製〕である。浸透剤としては、酸化剤に対して安定であることから、「アルコポール650」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)が好ましい。酸化剤の濃度としては、酸化剤の種類によって異なるが、過硫酸水素カリウム「オキソン」の場合、絞り率100%であれば、10g/L〜50g/L、好ましくは、20g/L〜40g/Lである。浸透剤は「アルコポール650」の場合、2g/L程度が適当である。パッド液の温度としては、液中で反応させないためにできるだけ低温が好ましい。特に好ましいのは、15℃から25℃である。液のpHとしては、酸性側が好ましい。より好ましくは、pH2.0である。
【0042】
絞りマングルで絞った後、酸化剤を羊毛スライバーに反応させるのであるが、酸化剤の種類によって処理条件は異なる。例えば過マンガン酸カリ、過酸化水素、過蟻酸、過酢酸の場合は、これらの水溶液をパッドした後、室温で放置させる方法がよい。放置時間は、酸化剤の種類と濃度によって異なるが、2分から10分程度でよい。また、例えば過硫酸水素カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの場合は、これらの水溶液をパッド後、常圧下のスチーミング処理して一次酸化反応を行わせるとよい。スチーミング条件としては、95℃で、5分から15分程度であり、好ましくは10分程度で十分、一次酸化は行われる。
【0043】
獣毛繊維のひとつの特質は、シスチン(−S−S−)含量が表皮や皮質を構成する各組織によって異なることである。本発明は、防縮性や、抗ピリング性を付与するために、特に表皮組織の改質を行うものである。シスチン結合−S−S−の酸化は、下記に示すように順々に進行し、加水分解や還元処理をして初めて−S−S−結合は切断され、最終的にスルホン酸(−SOH)となる。
【0044】
【化1】
Figure 0003722708
【0045】
本発明の特徴は、酸化剤、例えば、過硫酸水素カリウムによってパッド・スチーム方法で反応させ、−S−S−結合を、実質的にモノ酸化状態までに止めておき、後の工程でオゾンを使用して更に高次酸化する点にある。
この操作を踏むことによって、次式
【0046】
【化2】
Figure 0003722708
【0047】
で示すように、オゾン単独による酸化速度よりも、或いは、過硫酸水素カリウム単独よりも、前もって−S−S−結合を一次酸化しておき、次にオゾン酸化する方がオゾン酸化反応速度が著しく迅速になり、獣毛スライバーの連続処理が初めて可能になり、工業化に成功するに至った。
【0048】
本発明は、オゾン・酸素混合ガスを5ミクロン以下の超微細気泡として獣毛スライバーに水中で吹き付けて衝突させ、気相反応により高次酸化を行うことを特徴とするものである。オゾン発生装置としては、発生速度250g/hr程度の発生装置(例えば、クロリン・エンジニアリング(株)製)で十分、獣毛スライバーの連続処理が可能であり、例えば、酸素ガスを40L/minの速度で発生装置に送り込み発生したオゾンガスは、混合ガス中質量濃度で6.5wt%、体積濃度で0.1g/Lであり、一次酸化の程度その他によっても異なるが、ひとつの例では4g/minのオゾン・酸素混合ガスで処理する条件が最適であった。羊毛繊維に防縮性と抗ピリング性を付与するための供給量は、羊種にもよるが羊毛重量に対して、6%owf以下、好ましくは、1.5%owf〜5%owfが適当である。
【0049】
オゾンガスを効率よく羊毛に反応させるために、水中で出来るだけ微細な気泡にし、その気泡を羊毛に衝突させ、そこで酸化反応を起こさせることが本発明の特質の一つである。そのため、オゾンの水溶解度が非常に低いこともあいまって、羊毛の表皮組織のみを酸化させる結果となり、内部組織である皮質組織は保護され羊毛の表面改質効果は一段と高まる結果となる。オゾン・酸素混合ガスを5ミクロン以下の超微細な気泡にする方法としては、該混合ガスを水流ポンプに導入し、水圧を高めて円筒内の突起物にあてて泡を超微細気泡にする方法が好ましい。
【0050】
ラインミキサーで製造された超微細気泡を集めて、帯状の羊毛スライバーに吹き付け衝突させるために、図4に示す特殊な装置を考案したことも本発明の特徴である。一次酸化処理された帯状の羊毛スライバー(2)をステンレス製のメッシュベルト(1)と(3)に挾み、サクション・ドラム(5)を備えたオゾン処理槽(9)に送り、ラインミキサー(13)から超微細気泡を帯状の羊毛スライバーに吹出口(6)を通して吹き付けるのであるが、この超微細気泡を帯状の羊毛スライバー上に集めるために、サクション・ドラムの外周に超微細気泡収集装置(4)を装填し、更に、サクション・ドラムの中心部(7)から超微細気泡を含む液をサクションして、帯状の羊毛スライバーに超微細気泡を衝突させる方法である。オゾン発生装置(11)から製造されたオゾン・酸素混合ガスは水流ポンプ(12)に導入して気液混合し、水圧を高めてラインミキサー(13)に送り超微細気泡を製造して、ステンレス製のメッシュベルトに挾まれた帯状の羊毛スライバーに吹き付ける。更に、サクション口(7)からサクションする装置を用いることより、羊毛繊維の表層酸化を完成する。
【0051】
オゾンは弗素に次ぐ強力な酸化剤であると言われているが、酸性側とアルカリ側では、その性質が異なる。即ち、酸性側では、
+ 2H + 2e = O + HO E =2.07V
であり、アルカリ側では、
+ HO + 2e = O + 2OH =1.24V
であり、酸性側の方が、酸化力は強く、またオゾンの水に対する溶解性は高く、半減期もはるかに長い。
(pH 10.5では半減期 1秒、pH2.0では半減期105秒)
【0052】
本発明は、pH 1.5からpH 2.5の酸性側で行い、好ましい条件としては、pH 1.7からpH 2.0がよい。オゾンは冷水中では溶解性は高いが、反応性は低い。反応性を高めるために処理温度を高める必要があるが、その温度範囲として、30℃から50℃がよいが、あまり温度が高いとオゾン・酸素の混合ガスの分子運動が高くなり、処理液槽から飛散することになる。特に好ましい温度は、40℃である。反応時間は、羊毛スライバーの供給速度、即ち、オゾン処理槽の液接触時間によって反応を制御することができる。スライバーの供給速度が0.5m/minの場合、接触時間は2分であり、速度2m/minの場合33秒となるが、反応時間の制御によって、防縮性の制御、抗ピリング性の制御が可能である。
【0053】
オゾン処理槽でオゾン酸化された羊毛スライバーを還元剤で処理し、そこではじめて次式で示すように−S−S−結合が切断される。
【化3】
Figure 0003722708
【0054】
この方法では、表皮組織の内、特に、エキソクチクルb層が攻撃され、シスチン−S−S−架橋密度が低下して水に対する膨潤性が増し、エンドクチクルと同程度の水膨潤性になるため、獣毛繊維のスケールのバイメタル特性は失われ、水中でのスケールの立ち上がりを防止することになる。このため羊毛の特質である撥水機能は失われることなく、撥水性を保持したままで、高度の防縮性と抗ピリング性を付与することができる。
還元剤としては特に限定されないが、亜硫酸塩が好適である。亜硫酸塩の中では酸性亜硫酸ナトリウムNaHSO(pH5.5)よりも亜硫酸ナトリウムNaSO(pH9.7)の方が好ましい。一次酸化およびオゾン酸化が酸性側で行われているため、還元処理をアルカリ側で処理することは中和処理の点からも好ましい。亜硫酸ナトリウムの濃度としては、10g/Lから40g/Lの範囲が好ましいが、特に、20g/L付近が好ましい。温度としては、35℃から45℃が好ましいが、特に40℃付近が好ましい。
【0055】
残留亜硫酸塩を除去するためにも、また、処理された羊毛から流出する蛋白質を除去するためにも、水洗をオーバー・フローしながら2工程で行うことが好ましい。温度は、40℃程度で行うことがよい。
【0056】
水洗後、羊毛スライバーの風合いや紡績性を考慮して、柔軟剤や紡績油剤を最終槽に添加してもよい。例えば、
1g/L アルカミン CA New
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、および
1g/L クロスルーベ GCL (クロスフィールズ/ミキ(株)社製)
を添加して40℃で処理することもできる。
【0057】
乾燥は、熱黄変性を避けるために、サクション式乾燥機で80℃前後の比較的低い温度で乾燥するのが好ましい。
【0058】
獣毛繊維への種々の酸化方法を比較考察すると、
A)オゾン処理のみで酸化する場合、
1)オゾンは水に対する溶解度は極めて低く、0℃で39.4mg/L、25℃で13.9mg/L、60℃で0mg/Lであり、獣毛スライバーの連続処理という観点からは、低濃度のため処理時間が長くなり連続処理には適さない。2)オゾンが溶解した大量の水溶液が必要である。3)高濃度のオゾン発生装置が必要になり、設備投資がかさむ。4)高濃度のオゾンガスを使用する場合、排ガスや現場での作業環境に細心の注意が必要になる。
【0059】
B)過硫酸水素カリウム等による酸化において浸漬方法とパッド・スチーム方法とを比較した場合、
1)獣毛繊維の高分子鎖の安定化に関与する側鎖結合のひとつに、イオン結合(−NH OOC−)があり、過硫酸水素カリウムのような薬剤は、浸漬方法では、温度と時間をかけて反応することから、カリウムイオン(+)、水素イオン(+)、あるいは過硫酸イオン(−)は、−NH OOC−によって引き寄せられ、イオン結合を崩壊させ、さらに−S−S−結合をも切断して、繊維強度、伸度等を低下し、防縮効果は得られない。
2)一方、過硫酸水素カリウムをパッド・スチームのみで獣毛繊維を酸化する方法においては、パッディング操作段階は、常識的に獣毛繊維と過硫酸水素カリウムが反応しないような条件で浸漬することを意図している。そのために、過硫酸水素カリウム(水溶液の安定化温度、20℃以下)の水溶液の温度を下げ、冷温で浸透剤を用いて、短時間(2〜3秒)該水溶液に浸漬したのち、直ちにマングルで絞り、獣毛繊維に一定量の過硫酸水素カリウムを含蓄させた状態とする。次に、これをスチーミングして熱を加えることにより、該薬剤が獣毛繊維に含蓄した場所でのみ反応させることができる。この方法では、該繊維の内部まで侵されず、表層酸化のみに終わり、内部組織は保護され、本発明の目的である表皮組織の改質である防縮性、抗ピリング性付与に貢献することになる。
【0060】
C)過硫酸水素カリウム等の酸化剤による前処理後オゾン処理を行う場合、
1)ひとたび一次酸化された獣毛は、容易に迅速にオゾンで酸化され、短時間で獣毛への酸化は終了し連続処理が可能となる。2)前もって一次酸化しているため、低濃度のオゾンで十分酸化反応は促進され、そのため、低濃度のオゾン発生装置で十分、獣毛スライバーの連続処理が可能とる。3)低濃度のオゾン発生装置のため、作業環境を悪化させない。4)低濃度のオゾン発生装置のため、設備投資が少額ですむ。
以上のように、本発明の2段階酸化方法によれば、酸化剤またはオゾンの一方だけによる酸化処理では得られなかった予想されない効果的な酸化が可能となったのである。
【0061】
このように本発明の方法によれば、獣毛繊維の高次酸化とそれに続く還元処理を受けて均一にシスチン結合が切断され、その結果、均一に防縮および抗ピリング特性が付与された獣毛繊維を、連続工程によって得ることができる。こうして得られた処理獣毛繊維は、エキソクチクルb層が選択的に攻撃され、組織構造的に硬い構造のエピクチクル・エキソクチクルa層の一体的な構造体は温存される結果、撥水性を帯びたエイコサン酸も温存され、該繊維全体の撥水性が保たれ繊維強度も保持される。
【0062】
これに対して、獣毛繊維の塩素化反応では、シスチン(−S−S−)結合が酸化され、加水分解されてスルホン酸(−SOH)となるが、シスチン結合の切断だけでなく羊毛繊維を構成するポリペプチド鎖を切断するため、繊維の引張強伸度を低下する。羊毛繊維の最表膜にあるエイコサン酸と、ポリペプチド鎖中の-SH基との間で形成されたチオエステル結合組織をも破壊して、疎水性を親水性に変換する。そのため、羊毛本来の撥水機能が失われる。
【0063】
塩素化反応による反応機構を次に示す:
【化4】
Figure 0003722708
【0064】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものでなく、前述の趣旨に適合しうる範囲で適当に変更して実施することは、いずれも本発明の技術範囲に含まれる。
実施例
図3に記載した工程図に従って、羊毛スライバーを連続的に処理した。各工程、即ち、パッド処理槽、オゾン処理槽、還元処理槽、水洗処理槽、乾燥工程を通してのスライバーの走行速度は、2m/minであった。
【0065】
〔パッド処理工程〕
オーストラリア産20.7ミクロンのメリノ種羊毛からなるスライバー(25g/m)9本をロータリー・ギルに送り、1.66倍にドラフトして羊毛スライバーを帯状に開繊した。この帯状スライバーを下記の組成の水溶液にパッドし、マングルで絞った。
パッド水溶液組成:
40g/L濃度の過硫酸水素カリウム KHSO
(デュポン(株)社製「オキソン」)
2g/L濃度の湿潤剤「アルコポール650」
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)
処理条件:
接触時間; 2秒
温度; 常温
pH; 2.0
絞り率; 100%
マングル絞り後、スチーム処理工程に搬送した。
【0066】
〔スチ−ム処理工程〕
帯状に湿漬した羊毛スライバーをコンベアー・ネット上で、下記の条件でスチーム処理した。
95℃、10min
スチーム処理後、オゾン処理槽に搬送した。
【0067】
〔オゾン処理工程〕
スチーム処理したスライバーをサクション式オゾン処理槽に送り下記の条件でオゾン酸化を行った。
250g/hr オゾナイザー(クロリン・エンジニアリング(株)社製、「OZAT CFS−3」)を使用し、酸素源として酸素ボンベを用いた。
Figure 0003722708
【0068】
発生したオゾンガスを、揚水量80L/minからなる4つのポンプから各々4つのラインミキサーに送った。各々のラインミキサーのオゾン吹込量は、10L/minであり、合計、40L/minであった。図4に示す超微細気泡飛散防止装置を用いて、超微細気泡をサクション・ドラム上の羊毛スライバーに吹き付けて衝突させ、更に、その回数を増加させるためにドラムの内部から処理液をサクションしてドラムの外側に循環させて、下記の条件でオゾン処理を行った。
オゾンの気泡; 5ミクロン程度の超微細気泡
処理温度; 40℃
pH; 1.7 (硫酸調整)
接触時間; 33秒
オゾン処理後、還元槽に搬送した。
【0069】
〔還元処理工程〕
オゾン処理させた帯状のスライバーをサクション式還元処理槽で、下記の条件で処理した。
20g/L; 亜硫酸ソーダ NaSO
pH; 9.7
温度; 40℃
接触時間; 33秒
還元処理後、水洗槽に搬送した。
【0070】
〔水洗処理槽〕
還元処理された帯状のスライバーをサクション式水洗処理槽中で、40℃の温水で33秒間処理した。水洗後、更に、水洗処理槽に搬送した。
〔水洗処理槽〕
帯状のスライバーをサクション式水洗処理槽で、40℃の温水で33秒間処理した。水洗後、後工程に必要な紡績油剤、柔軟剤を付与するため、最終槽に搬送した。
【0071】
〔紡績油剤・柔軟剤処理工程〕
水洗された帯状のスライバーを下記処理剤の入ったサクション式処理槽で40℃の温水で33秒間処理した。
処理剤
1 g/L濃度の「アルカミン CA New」
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、および
1 g/L濃度の「クロスルーベ GCL」
(クロスフィールズ/ミキ(株)製)
油剤処理後、乾燥機に搬送した
〔乾燥工程〕
乾燥は、サクション式熱風乾燥機を用い、80℃で乾燥した。
【0072】
処理された帯状のスライバーをギル掛けし、Z500×S300の撚りで2/48Nmのメリヤス糸に紡績し、糸の強度、伸度を調べ、カバー・ファクターC.F. 0.41の密度に編み立てて、キュウベックス(Cubex)洗濯試験機で1時間及び3時間連続洗濯し、更に、C.F. 0.41に編み立てた編地を用いて、ICIピリング試験機を用いて、5時間ピリング試験を行った。処理された羊毛繊維の性能を更に調べるために、日立S-3500Nによる羊毛表面の電子顕微鏡観察を行った。処理羊毛の撥水機能を調べるために、スライバーをギル掛して開繊し、処理、未処理のスライバーをそれぞれ1gをサンプリングし、1リッターのビーカに蒸留水800mLを入れ水面に浮べて沈降状態を観測した。これらの結果を表1に示す。
【0073】
処理された羊毛スライバーは、ソフトで白く、WM TM31法による防縮性もウール・マーク洗濯機洗い基準の面積収縮率の基準に合格しており、ICIピリング試験においても、4級の抗ピル性を示していた。1gのサンプルの沈降状態を観察したところ、未処理羊毛、オゾン処理羊毛とも一昼夜放置しても沈降せず、ビーカーの水面上に浮んでいたが、塩素化樹脂方法(クロリン・ハーコセット方法)で処理された羊毛は、2〜3分放置するだけでビーカーの水面下に沈んでいた。獣毛繊維の特質の一つは、撥水機能が天然的に備わっている点であるが、本発明は天然羊毛の持つ撥水機能を損なうことなく、防縮性を付与することのできる画期的な実験結果であった。従来の防縮方法は、塩素処理を施しハーコセット樹脂(ポリアミドエピクロロヒドリン)で羊毛表面を被覆する方法が主流であるため、防縮性は得られるものの、撥水性機能が失われて濡れ易く、水の高い熱伝導率のため、体温を奪い着用者に冷え感を与えるものであった。湿潤状態の電子顕微鏡観察することのできる日立S-3500Nを用いて処理羊毛の羊毛表面を観測した所、羊毛のスケールは立ち上がっておらず、即ち、摩擦係数の異方性(D.F.E.)がなく、一方、未処理羊毛では、湿潤した水によって羊毛のスケールは立ち上がり、これがフェルト化の原因となっている。従って、本発明は、水中で羊毛のスケールを隆起させない防縮加工方法である。
【0074】
比較例
オーストラリア産メリノ種羊毛20.7ミクロンのスライバー(25g/m、9本、ドラフト率 1.66倍)を用いて、実施例1の方法に従って,連続処理を行った。但し、超微細気泡飛散防止装置を用いるオゾン処理を省略した。この結果を表1に示す。処理羊毛は漂白されていたが、防縮性、抗ピリング性は未処理羊毛と同等であり、処理効果は、全くなかった。
【0075】
実施例1と比較例1の比較から、前処理工程として、過硫酸水素カリウムで前処理した羊毛は、少量のオゾンで酸化が速やかに進行することが判明した。即ち、実施例1で例示した本発明は、少量のオゾンで羊毛繊維を改質して、防縮性、抗ピリング性を付与することができ、その結果小規模なオゾン発生装置で十分、処理効果を発揮し、設備投資の軽減や排ガス処理の軽減、作業環境の悪化を防ぐ画期的な方法である。
【0076】
比較例
オーストラリア産メリノ種羊毛20.7ミクロンのスライバー(25g/m,9本、ドラフト率 1.66倍)を用いて、実施例1の方法に従って、連続処理を行った。但し、過硫酸水素カリウムを用いる前処理を省略した。この結果を表1に示す。処理羊毛は、多少漂白されていたが、防縮性、抗ピリング性は全く未処理羊毛と同程度であった。
【0077】
実施例
実施例1の方法に従って、オーストラリア産メリノ種羊毛20.7ミクロンのスライバーを処理した。但し、羊毛スライバーの搬送速度を0.55m/minとし、オゾン処理槽および各処理槽の羊毛スライバーの処理液の接触時間を2分とした。見掛けの羊毛へのオゾン供給量は、5.37%owfであった。
25g/m × 9 × 1/1.66 = 135.5g wool
135.5g× 0.55m/min × 接触時間 2min=149.05g wool
4g/min (O) × 2min= 8g (O)
8g/149.05g×100=5.37% owf O
処理された羊毛スライバーをギル掛けして、Z500×S300の撚りで2/48Nmのメリヤス糸に紡績し、カバー・ファクターC.F. 0.41の編み密度に編み立て、キューベックス試験機による1時間及び3時間の連続洗濯試験、更にICIピリング試験機による5時間のピリング試験を行い、紡績糸の強度、伸度を測定し、羊毛表面の改質状態を見るために、1gの処理スライバーをギルで開繊し1リッターのビーカーに蒸留水800mLを入れ、このスライバーを水面に浮かべてその沈降状況を観測した。
【0078】
試験結果を表1に示す。処理羊毛スライバーはソフトで白度もあり、更に、オゾン供給量を実施例1よりも約3.6倍増加させることによって、防縮性もウール・マークの耐洗濯性基準より遥かに優れ、ICIピリング試験の5時間でも5級という高度の抗ピリング性を示した。オゾンの反応量を増加させた関係上、紡績糸の強度、伸度は多少低下し、撥水機能も、塩素処理羊毛の場合、完全に水面下に沈降するが、この処理を施された羊毛は天然の未処理羊毛と比較すると多少低下していた。
【0079】
【表1】
Figure 0003722708
【0080】
実施例
オゾン処理の接触時間を1分とした以外は実施例1と同様にしてオーストラリア産20.7ミクロンのメリノ種羊毛を防縮処理した。得られた防縮処理羊毛繊維の特性を評価した結果を、未処理の羊毛、塩素処理羊毛およびクロリン-ハーコセット処理羊毛と比較して表2に示した。また繊維表面の電子顕微鏡写真を図1に、編地上への水滴滴下法による撥水性試験結果を図5に示した。
【0081】
表2の特性の評価は、前記したように、フェルト収縮率は14ゲージ1本取りでカバー・ファクターC.F. 0.41に編み立てた編地でWM TM31法に準拠して測定したものであり、抗ピリング性は、1P18Gで編み立てた編地でJIS L 1076.6.1Aに準拠したピリング試験法によってした。また単繊維のスケールの方向に対して逆方向の摩擦係数μおよびスケールの方向に対して順方向の摩擦係数μはJIS L 1015に準拠して掛け糸荷重200mg、円筒周速度:90cm/minの条件で測定したものである。
【0082】
また、FT-IRは、繊維そのものを反射法(ATR法)により測定した。数値は−SOH基 および−S−SONa基に相当する吸収バンドの、アミドIに相当する吸収バンドの吸光度を1とした場合の相対吸光度で表示したものである。
表2には、スルホン酸基の存在量の尺度となる塩基性染料による染色性の評価結果も示した。
更に、エピクチクル層の存在を確認するために、アルベルデン反応による評価を行った。この結果を図6に示した。
【0083】
これらのデータからわかるように、本発明の防縮性羊毛繊維は従来の防縮処理繊維と異なり、天然の未処理羊毛と同程度にスケールが残っており(図1)、その結果良好な撥水性(図5)を保持している。
また、抗ピリング性は従来の処理繊維がわずかな改良にとどまっているのに較べて顕著に改良されている。
更に、フェルト収縮率が大幅に改良され、且つフェルト収縮率のひとつの尺度である単繊維の摩擦係数(静摩擦および動摩擦)差、即ちスケールに対して逆方向と順方向の摩擦係数の差「μ−μ」が小さくなり異方性が小さくなっている。
【0084】
FT-IRのデータは、本発明の防縮性改良繊維は、他のものに較べて高次酸化状態を示すスルホン酸基(−SOH)およびブンテ(Bunte)塩(−S−SONa)が繊維の表面に多量に生成していることを示しており、効率よく表面酸化が行われていることを示している。
図6からは、本発明の獣毛繊維は、未処理獣毛繊維と同様に、アルベルデン反応によって気泡の発生が見られ、エピクチクル層の十分な存在が確認された。これに対して、「塩素処理羊毛」および「クロリン・ハーコセット処理羊毛」は気泡の発生がなく、エピクチクル層が破壊されていることが認められた。
【0085】
比較として評価した「塩素処理羊毛」および「クロリン・ハーコセット処理羊毛」は次のようにして調製したものである。
塩素処理羊毛の調製:
羊毛スライバーを連続的に、塩素処理浴に浸漬し、絞りローラーで絞り、次に、脱塩素処理浴に浸漬し、絞りローラーで絞り、水洗し、乾燥する方法である。
塩素処理:活性塩素量で羊毛重量に対して1.8%〜2.0%owfになるように、水中に塩素ガスを吹き込み、pH2.0、冷水で数十秒間処理する。
脱塩素処理:40g/Lの亜硫酸ソーダを用い、重炭酸ソーダでpH9.0になるように調整し、30℃、数十秒間処理する。
水洗処理:40℃の水洗浴に数十秒間浸漬し、絞りローラーで絞る。
乾燥処理:サクション型乾燥機で乾燥する。
【0086】
クロリン・ハーコセット処理羊毛の調製:
上記の塩素処理、脱塩素処理、水洗処理後、羊毛スライバーをハーコセット樹脂WT-570(ディック・ハーキュレス社製)を溶解した処理浴槽に浸漬処理して絞り、次に、柔軟剤、紡績油剤を含む処理浴に浸漬して絞り、乾燥する。
ハーコセット樹脂処理:羊毛重量に対して2%owfになるように、樹脂浴濃度と重炭酸ソーダでpH7.5になるように浴pHを調整し、35℃で、数十秒間処理して絞りローラーで絞る。
柔軟処理:柔軟剤であるアルカミンCA-New(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を羊毛重量に対して0.5%owf、および紡績油剤であるクロスルーベGCL(クロスフィールズ/ミキ(株)製)を、羊毛重量に対して1.35%owfになるように浴温度を調整し、30℃で数十秒間処理して、絞りローラーで絞る。
乾燥処理:サクション型乾燥機で乾燥する。
【0087】
【表2】
Figure 0003722708
【0088】
表2の評価項目のうち、既に説明したフェルト収縮率、単繊維摩擦係数、抗ピリング性、FT-IR測定および撥水性以外の項目について、評価法を以下に説明する。
〔エピクチクル層の存在の確認〕
アルベルデン反応:ガラスプレート上に羊毛単繊維を数本置き、飽和臭素水を数滴落として、すぐに光学顕微鏡により繊維表面の状態を観察する。エピクチクル層が存在すると繊維表面に気泡が発生するので、気泡の発生の有無によってエピクチクル層の存在確認ができる。
〔スケールの有無〕
電子顕微鏡による観察。
〔塩基性染料による染色性〕
1g/Lのアストラゾンブルー 3RL(Astrazon Blue 3RL)(バイエル社製)と、1ml/Lの非イオン性浸透剤を含む水溶液に、浴比1:100、20℃、5分間羊毛繊維を浸漬し、次に、水洗して着色状態を観察する。
着色状態が濃く染まるほど、酸化により形成されたスルホン酸塩が多いことを示す。
【0089】
【発明の効果】
本発明は、獣毛本来の優れた特徴である撥水性を損なうことなく、更に繊維物性を低下することなく、優れた防縮性および抗ピリング性の付与された獣毛繊維を提供することができる。また本発明は、塩素系等の有害な薬剤を使用することなく、上記特性を有する獣毛繊維の製造方法を提供する。加えて本発明の方法によれば連続処理が可能であり、工業化の点でも極めて利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 獣毛繊維の模式的縦断面図。
【図2】 未処理羊毛繊維および各種防縮処理羊毛繊維の表面の走査電子顕微鏡写真:
(a)未処理羊毛繊維、 (b)塩素処理羊毛繊維、
(c)クロリン-ハーコセット処理羊毛繊維
(d)本発明の羊毛繊維。
【図3】 本発明の方法に使用する加工装置の側面図。
【図4】 オゾン処理方法を説明する図。
【図5】 実施例3の各種羊毛繊維の撥水性の肉眼観察状況を示す図。
【図6】 未処理羊毛繊維および各種防縮処理羊毛繊維についてのアルベルデン反応状態を示す光学顕微鏡写真:
(a)未処理羊毛繊維、 (b)塩素処理羊毛繊維、
(c)クロリン-ハーコセット処理羊毛繊維
(d)本発明の羊毛繊維。
【符号の説明】
1:オゾン処理装置のメッシュベルト(外)
2:原料獣毛繊維(一次酸化処理を受けた獣毛繊維)
3:オゾン処理装置のメッシュベルト(内)
4:オゾン処理装置のドラムカバー(超微細気泡飛散防止装置)
5:オゾン処理装置のサクションドラム
6:オゾン・酸素混合ガス含有液の吹出口
7:サクション口
8:液吸込防止板
9:オゾン処理槽
10:オソン処理液液面
11:オゾン発生器
12:オゾン・酸素混合ガス含有液循環用ポンプ
13:ラインミキサー、
21:エピクチクル層、
22:エキソクチクルa層、
23:エキソクチクルb層、
24:エンドクチクル層、
25:細胞間充填物。

Claims (14)

  1. a)獣毛表皮細胞中の−S−S−結合(シスチン結合)を低次の酸化状態へ一次酸化処理する第1の工程、
    b)一次酸化された−S−S−結合を、オゾンにより、ジ - 、トリ - またはテトラ - 酸化状態のいずれか1種または2種以上の高次酸化状態へ酸化処理する第2の工程、および
    c)上記ジ - 、トリ - またはテトラ - 酸化状態の−S−S−結合を、還元切断処理する第3の工程、を含む方法によって得られる防縮性および抗ピリング性に優れた獣毛繊維。
  2. 防縮性がWM TM31法(Wool Mark Test Method 31)に準拠して測定したフェルト収縮率として3時間値で面積収縮率が8%以下である、請求項1に記載の獣毛繊維。
  3. JIS L‐1015法によるスケールの方向に対して逆方向(μ)および順方向(μ)の差(μ−μ)で表した値が、静摩擦係数値または動摩擦係数値において、未処理の獣毛の(μ−μ)よりも30%以上減少しており、且つμの値が未処理の値と同程度でμの値が未処理の値よりも30%以上増加している請求項1または請求項2に記載の獣毛繊維。
  4. 抗ピリング性がJIS L‐1076.6.1A法による3級以上である請求項1〜3のいずれかに記載の獣毛繊維。
  5. 獣毛繊維の表皮細胞が、反射FT-IR測定法でアミドIに相当する吸収バンドの吸光度を1とした場合に−SOH基(スルホン酸基)吸収バンドの相対吸光度が0.1以上および−S−SONa基(ブンテ塩)吸収バンドの相対吸光度が0.08以上示す、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の獣毛繊維。
  6. 獣毛繊維が、羊毛、モヘア、アルパカ、カシミヤ、ラマ、ビキュ−ナ、キャメル、アンゴラからなる群から選ばれる請求項1〜5のいずれかに記載の獣毛繊維。
  7. アルベルデン反応により確認することができる、改質前の獣毛繊維と同等の撥水性を保持しているエピクチクル層を有する、請求項1〜6いずれかに記載の獣毛繊維。
  8. 第1の工程が、過硫酸、過酢酸、過蟻酸、これらの過酸の中性塩、酸性塩、過マンガン酸カリウム、過酸化水素からなる群から選ばれる1種または2種以上の混合物である酸化剤を使用して行われる、請求項1〜7のいずれかに記載の獣毛繊維
  9. 第1の工程が、酸化剤水溶液中への獣毛繊維のパッド・スチーム法によって行なわれる、請求項1〜8のいずれかに記載の獣毛繊維
  10. オゾンによる酸化処理を、オゾンを5ミクロン以下の超微細気泡として含んだ水性オゾン処理液を該オゾン処理液中で獣毛繊維に吹き付けて行う請求項1〜9のいずれかに記載の獣毛繊維
  11. 表皮細胞が、反射FT - IR測定法でアミドIに相当する吸収バンドの吸光度を1とした場合に、−SO H基(スルホン酸基)吸収バンドの相対吸光度0 . 1以上および−S−SO Na基(ブンテ塩)吸収バンドの相対吸光度0 . 08以上を示し、かつ、アルベルデン反応により確認することができる、改質前の獣毛繊維と同等の撥水性を与えるエピクチクル層を有し、表面状態が天然獣毛繊維のそれとほとんど同じである獣毛繊維であり、
    防縮性がWM TM31法( Wool Mark Test Method 31 )に準拠して測定したフェルト収縮率として3時間値で面積収縮率が8%以下であることを特徴とする、獣毛繊維。
  12. JIS L‐1015法によるスケールの方向に対して逆方向(μ )および順方向(μ )の差(μ −μ )で表した値が、静摩擦係数値または動摩擦係数値において、未処理の獣毛の(μ −μ )よりも30%以上減少しており、且つμ の値が未処理の値と同程度でμ の値が未処理の値よりも30%以上増加している請求項11に記載の獣毛繊維。
  13. 抗ピリング性がJIS L‐1076 . . 1A法による3級以上である請求項11〜12のいずれかに記載の獣毛繊維。
  14. 獣毛繊維が、羊毛、モヘア、アルパカ、カシミヤ、ラマ、ビキュ−ナ、キャメル、アンゴラからなる群から選ばれる請求項11〜13のいずれかに記載の獣毛繊維。
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