JP3722239B2 - 抗血栓性、抗菌性組成物および医用材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ムコ多糖類と第4級ホスホニウムとのイオン性複合体から成る脂溶化ムコ多糖と、重付加反応体とを主成分とする組成物であることを特徴とする、抗血栓性および抗菌性を有する組成物および該組成物を主成分として成る医用材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
加工性、弾性、可撓性に優れた人工材料は、近年医療用材料として広く利用されるようになってきているが、人工腎臓、人工肺、補助循環装置、人工血管等の人工臓器や、注射器、血液バッグ、心臓カテーテル等のディスポーザブル製品として今後益々利用が拡大することが予想される。これらの医用材料としては、充分な機械的強度や耐久性に加えて、生体に対する安全性、特に血液と接触した場合に血液が凝固しないこと、すなわち抗血栓性が要求される。
【0003】
従来、医療用材料に抗血栓性を付与する手法としては、(1)材料表面にヘパリン等のムコ多糖類やウロキナーゼ等の線溶活性因子を固定させたもの、(2)材料表面を修飾して陰電荷や親水性などを付与したもの、(3)材料表面を不活性化したものの3通りに大別できる。このうち(1)の方法(以下、表面ヘパリン法と略記する)はさらに、(A)ポリマーと脂溶化したヘパリンのブレンド法、(B)脂溶化したヘパリンでの材料表面被覆法、(C)材料中のカチオン性基にヘパリンをイオン結合させる方法、(D)材料とヘパリンを共有結合させる方法に細分類される。
【0004】
上記の方法のうち、(2)、(3)の方法は長期的に体液と接触した場合には、材料表面にタンパクが吸着して生体膜類似表面を形成し、安定した抗血栓性を得ることが可能である。しかし、材料を生体内(血液接触部位)に導入した初期段階では、生体内において種々の凝固因子等が活性化された状態にあるため、ヘパリン投与などの抗凝血療法を施すことなしに充分な抗血栓性を得るのは困難である。
【0005】
これに対して(1)は、導入初期段階には表面上のヘパリンやウロキナーゼによって抗血栓性、または生成した血栓の溶解性能が発揮されるが、長期間の使用によって一般的に性能が低下する傾向にある。すなわち、(A)、(B)、(C)では通常、生理条件下での長期の使用によってヘパリン類が脱離し易く、生体内に固定して用いる医療用材料としては充分な性能が得られにくい。(D)で得られる材料では、ヘパリンが共有結合されているため脱離しにくいという利点を有するが、従来の結合方法では往々にして、ヘパリン構成成分であるD−グルコサミンやD−グルクロン酸のコンフォメーションに変化を与えてしまい、抗凝血効果を低下させてしまうという欠点がある。
【0006】
また、(C)、(D)の方法では、ヘパリンの固定化に利用できる官能基を含む材料を選択するか、あるいは新たに導入する必要がある。このため、材料の選択の幅が狭められたり、官能基の導入によって材料の機械的強度が低下する可能性がある。また、操作の煩雑化によって、医療用材料を得る工程数が増加するという問題もある。
【0007】
このように、材料の抗血栓化の容易さ、適用できる材料の選択の幅の広さから考えると、(A)ポリマーと脂溶化したヘパリンのブレンド法、もしくは(B)脂溶化したヘパリンでの材料表面被覆法が最も優れた方法であると言える。しかしながらこの方法の致命的欠点は既述の通り、生理条件下での長期の使用によってヘパリン類が脱離し易いという点である。逆に言えば、この欠点を克服することによって簡便性、汎用性に富む優れた抗血栓化を提供することが可能になる。
【0008】
この問題を解決する手段として、特開平2−270823に開示されている方法がある。この方法は、天然ムコ多糖類と天然脂質もしくは合成脂質との複合体を形成させることを特徴としており、ヘパリンと生体内リン脂質の複合体で材料表面を被覆する技術が好ましい例として挙げられている。
【0009】
しかしながらこの方法はヘパリン溶出に伴って同時に溶出されるカチオン性物質(脂溶化剤)が天然脂質もしくは合成脂質であるため、生体に悪影響を及ぼしにくいという点においてのみ有用であると言える。すなわち、この方法によって、長期間使用時のヘパリンの溶出による抗血栓性の低下が解決されたとは言い難い。
【0010】
また、高栄養輸液カテーテル(以下IVHと略記する)など、長期間体内に留置する必要のある医用デバイスでは、生体−材料界面からの感染が問題であった。血液と材料の接触によって生成した血栓に菌が繁殖し、これが体内に入り込んで感染を引き起こす。したがって、このような医用デバイスに使用される材料には抗血栓性と抗菌性とを同時に有することが必要である。しかしながらこうした抗血栓性および抗菌性を兼ね備えた素材の開発は強く望まれているにもかかわらず、この分野に応用可能な素材についてはほとんど報告されていないのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の欠点を解決し、簡便性、汎用性に加え長期間の抗血栓性と同時に抗菌活性をも発揮できる、抗血栓性と抗菌性とを併せ持つような組成物、および該組成物を主成分として成る医用材料を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は、抗凝血作用を有する少なくとも1種のムコ多糖類と第4級ホスホニウムとのイオン性複合体から成る脂溶化ムコ多糖と、重付加反応体とを主成分とする組成物であることを特徴とする。
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は、ムコ多糖類としてヘパリンが少なくとも含有されることを特徴とする。
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は、第4級ホスホニウムが前記化1の構造であることを特徴とする。
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は、重付加反応体がポリウレタンもしくはポリウレタンウレアであることを特徴とする。
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は、重付加反応体100重量部に対して、脂溶化ムコ多糖が0.1〜20重量部含有されていることを特徴とする。
本発明の医用材料は該抗血栓性、抗菌性組成物を主成分として含まれて成ることを特徴とする。
【0013】
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物の必須成分である第4級ホスホニウムは、前記化1の構造を有することを特徴としているが、この第4級ホスホニウムは1種類だけ使用しても、何種類かを同時に使用してもよい。第4級ホスホニウムのリン原子に結合する4つの炭化水素鎖のうち、ひとつは炭素数1〜25、好ましくは3〜20、さらに好ましくは6〜20のアルキル基である。他の3つの炭化水素鎖は、炭素数1〜12、好ましくは1〜8のアルキル基、または炭素数6〜12、好ましくは6〜10のアリール基、または炭素数7〜20、好ましくは7〜12のアラルキル基である。
【0014】
第4級ホスホニウムとしては具体的に、トリブチルラウリルホスホニウム、トリブチルミリスチルホスホニウム、トリブチルセチルホスホニウム、トリブチルステアリルホスホニウム、トリフェニルラウリルホスホニウム、トリフェニルミリスチルホスホニウム、トリフェニルセチルホスホニウム、トリフェニルステアリルホスホニウム、ベンジルジメチルラウリルホスホニウム、ベンジルジメチルミリスチルホスホニウム、ベンジルジメチルセチルホスホニウム、ベンジルジメチルステアリルホスホニウムなどが例示されるが、化1によって示される構造の化合物であれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は抗凝血作用を有するムコ多糖類の使用を必須としているが、このムコ多糖類としてはたとえばヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸等が挙げられるが、なかでもヘパリンが特に好ましい。
【0016】
抗凝血作用を有するムコ多糖類と第4級ホスホニウムとのイオン性複合体を得る方法は特に限定されないが、例えば、ムコ多糖類の弱酸性緩衝液溶液もしくは分散液と、第4級ホスホニウム塩の弱酸性緩衝液溶液もしくは分散液を混合し、得られた沈澱を回収、凍結乾燥する方法などが挙げられる。この際の緩衝液に使用される溶質としては、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、3−(N−モルホリノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸が好ましく、特に好ましくは2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(以下MESと略記する)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(以下PIPESと略記する)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(以下MOPSと略記する)である。
【0017】 本発明においては、抗凝血作用を有するムコ多糖類と第4級ホスホニウムのイオン性複合体(以下脂溶化ムコ多糖と略記する)と重付加反応体とから成る組成物であることが必須である。脂溶化ムコ多糖のブレンドによって材料表面が不活性化すると同時に、一部は重合体から徐放することよって抗血栓性、抗菌性が発揮されるものと考えられる。本発明の抗血栓性、抗菌性組成物では、重合体と脂溶化ムコ多糖の親和性によって生体成分との接触によっても脂溶化ムコ多糖の徐放が制御され、長期間の溶出後も非常に優れた抗血栓性を維持することが可能である。さらに、脂溶化剤として機能する第4級ホスホニウムの効果によって、抗血栓性と同時に抗菌性をも材料に導入することが可能である。
【0018】
本発明の抗血栓性抗菌性医用材料に使用される重合体は重付加反応体であることが必要であり、具体的にはポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンウレア等従来より使用されている材質、また、将来使用されるであろう材質が広く利用できるが、ポリウレタン、ポリウレタンウレア、ポリエステルウレタン、ポリエステルウレタンウレア、ポリエーテルウレタン、ポリエーテルウレタンウレアが好ましく、セグメント化ポリエーテルウレタン、セグメント化ポリエーテルウレタンウレアがさらに好ましい。
【0019】
脂溶化ムコ多糖を重付加反応体と混合する際の添加量は、重付加反応体100重量部に対して、脂溶化ムコ多糖を好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部の量を添加することが推奨される(以下、重合体100重量部に対して添加剤1重量部を加えた場合、添加剤添加量は1phrであると表現する)。
【0020】
重付加反応体の詳細な組成や、合成方法に関しては特に制限されないが、例えば次のようにして合成されたセグメント化ポリエーテルウレタン(ウレア)が利用され得る。分子量120〜4000程度のポリオキシアルキレンジオールをジイソシアネート類と反応させて末端イソシアネートプレポリマーを得た後、このプレポリマーを、イソシアネート基と反応し得る活性水素を2個以上有する化合物で分子鎖を延長させることにより、セグメント化ポリエーテルウレタン(ウレア)を得る。
【0021】
この際に使用されるポリオキシアルキレンジオールとしては、たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、およびこれらの混合物などが例示される。ジイソシアネート類としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、およびこれらの混合物などが例示される。また、鎖延長剤としてはたとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のジオール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミンやヒドラジン、ジカルボン酸ジヒドラジド等のジアミン、さらにメタノールアミン、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール等のアミノアルコール、およびこれらの混合物などが例示される。
【0022】
重付加反応体の構造については本発明で特には制限を受けないが、親水性セグメントが適度に伸び、しなやかな構造を有している方が好ましい。これは第一に医用材料として要求される加工性、弾性、可撓性等の機械的特性を満足するためであり、第二に抗血栓性、抗菌性の発揮に有利だからである。詳細な機構は明らかではないが、重付加反応体の化学構造に柔軟性が有る場合には脂溶化ムコ多糖のモービリティが向上し、より活性を発揮しやすいコンフォメーションを取りながら材料−生体成分界面に滲出するためであろうと考えられる。
【0023】
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物はさらに、基材となる他の構造体に導入することも可能である。構造体の素材としては特に限定されるものではないが、たとえばポリエーテルウレタン、ポリウレタン、ポリウレタンウレア、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート等、従来より使用されている材質、また、将来使用されることが予想される材質が広く利用できる。また、既存、および新規の材質からなる血液透析膜、血漿分離膜、吸着剤等の血液処理剤に抗血栓性を付与する目的で導入することも可能である。
【0024】
基材への導入方法も特に限定されないが、たとえば通常のブレンド法、コーティング法が適用可能であり、さらにコーティング方法についても、塗布法、スプレー法、ディップ法等、特に制限なく適用できる。
このようにして、本発明の抗血栓性、抗菌性組成物が得られる。詳細な機構は明かではないが、本発明による材料は生体成分との接触初期段階ではもちろん、接触が長期にわたった後も良好な抗凝血性が維持できる。また、第4級ホスホニウムの効果によって抗血栓性と同時に抗菌性をも導入することができる。
【0025】
【発明の実施形態】
このような利点を活かして、本発明の抗血栓性、抗菌性組成物の用途は広い範囲に適用されうるものであるが、特に医用材料として各種の医療用器具あるいは機器類の素材には有用である。具体的には、たとえば血液透析膜や血漿分離膜およびこれらのコーティング剤、血液中老廃物の吸着用コーティング剤に適用できる。また、人工肺用の膜素材(血液と酸素の隔壁)や人工心肺におけるシート肺のシート材料、大動脈バルーン、血液バッグ、カテーテル、カニューレ、シャント、血液回路等広範な分野に用いられ得る。また、抗菌性を同時に有する特長を利用し、従来生体−材料界面からの感染が問題であったIVHなどに適用することも特に好ましい。
さらに本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は医用材料以外にも、壁紙、食品包材用あるいは汎用包装用フイルム、クリーンブースのフード、塗料などへも適用することができる。また各種の衛生用品にも応用されるものであり、たとえばオムツ、マスク、ガーゼ、包帯、生理用品等が挙げられる。さらに樹脂としても利用することが可能であり、たとえばボールペン軸、キーボードカバー、デスクマット等の文具や、まな板、各種電気製品等の日用品が挙げられる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
〈実施例1〉
ヘパリンナトリウム塩10.00gをpH5.5のMES緩衝液に溶解させ、全量で100mlとした。塩化トリ(n−ブチル)セチルホスホニウム(以下TBCP・Clと略記する)14.73gをpH5.5のMES緩衝液に溶解させ、全量で147mlとした。双方の溶液を氷冷下で混合し、そのまま4℃で15時間静置して沈澱を得た。この沈澱を3300rpmで遠心沈降させて回収し、凍結乾燥させることによってTBCP・Cl−ヘパリン複合体(以下TBCP−Hepと略記する)を得た。このTBCP−Hepはベンゼン、DMF、THF、クロロホルム等の有機溶媒に可溶であった。
【0027】
市販ポリエーテルウレタン(Pellethane(商品名)、以下PUと略記する)をTHFに溶解して5%溶液とした。このPU溶液1000gに対し、上記で得たTBCP−Hep1.00gを加えて、均一溶液とした。このTBCP−Hep/PUブレンド溶液20gを水平に保った12cm×12cmのガラス板上に均一に載せ、40℃で8時間窒素気流下で乾燥後、40℃で減圧乾燥を15時間行い、厚さ約60μmのフィルムを得た(以下このTBCP−Hep/PUブレンド材料を材料A、材料Aから得たフィルムをフィルムA1 と略記する)。フィルムA1 には、TBCP−Hepが2phr添加されていることになる。
【0028】
上記で得たフィルムA1 上での血漿相対凝固時間について以下の方法で評価を行った。
フィルムA1 を直径約3cmの円形に切り抜き、直径10cmの時計皿の中央にはりつけた。このフィルム上にウサギ(日本白色種)のACD加血漿200μlを取り、0.025mol/lの塩化カルシウム水溶液200μlを加え、時計皿を37℃の恒温槽に浮かせながら液が混和するように穏やかに振盪した。塩化カルシウム水溶液を添加した時点から血漿が凝固(血漿が動かなくなる時点)までの経過時間を測定し、同様の操作をガラス上で行った場合の血漿凝固に要した時間で割り、相対凝固時間として表した。ただし、ガラス板上での凝固時間の12倍を超えても血漿が凝固しない場合には評価を中断し、相対凝固時間は>12と表した。結果は後記表1に示した。
【0029】
材料A溶液をTHFで希釈して2%とし、この溶液に40〜60メッシュのガラスビーズを30分浸漬した後ガラスフィルターで濾過し、窒素気流下40℃で8時間、40℃で減圧乾燥を15時間行ってガラスビーズ表面に材料Aをコートした。ヒト血清のPBS(−)2倍希釈液1mlにこのコーティングビーズ100mgを浸漬し、穏やかに振盪しながら37℃で30分間インキュベートした。この液をサンプルとしてMayer法(Mayer,M.M.,”Complement and Complement fixation” Experimental Immunochemistry 2nd Ed.p.133−240,C.C.Thomas Publisher ,1961)により溶血補体価(CH50)を測定した。結果は、ビーズを加えない上記希釈血清1mlにおける補体価を100%とした相対値を百分率により後記表1に示した。
【0030】
フィルムA1 の抗菌性を以下の方法で評価した。なお、一連の操作は全て無菌的に行った。
ブロース液(滅菌生理食塩水で50倍希釈)により、細菌数を約1×107 個/mlに調製した黄色ブドウ球菌液(以下この菌液を菌原液と呼ぶ)を調製した。この菌原液中の菌数は、次のように測定した。菌原液を104 倍に希釈した後100μlを普通寒天培地にまき、24時間後に形成された黄色ブドウ球菌のコロニー数を計測した。このコロニー数をN個とすると、菌原液の菌数Cは
C=104 ×N/0.1=105 ×N[個/ml]
と示される。
あらかじめ5cm×5cmに裁断してEOGガス滅菌したフィルムA1 を滅菌シャーレ上に置き、上記の調製した菌原液10μlを滴下し、同じ大きさの滅菌済み市販食品包装用ラップを密着させて覆って37℃で24時間培養した。培養後、被覆ラップを剥離して、フィルムA1 と被覆ラップからSCDLP培地10mlを用いて菌を洗い出し、10倍に希釈して普通寒天培地にまいた。24時間後同培地上に形成された黄色ブドウ球菌のコロニー数を計測した。このコロニー数をN’個とすると、25cm2 フィルムA1 との接触後の菌数Na は次の式で与えられる。
Na =102 ×N’
フィルムA1 と接触する前の菌原液の濃度は前記Cの通りであり、使用した原液量は10μlであるから、フィルムA1 接触前の菌数Nb は、
Nb =103 ×N
25cm2 の大きさのフィルム上でのNb →Na の個数変化を後記表1に示した。接触によって菌数が減少するということはフィルムの抗菌性が発揮されていることを示す。なお表1におけるN.D.は100個未満であることを示す。
【0031】
材料AのTHF4%溶液を調製し、これに既存の人工肺用ポリプロピレン製多孔質ホローファイバーを浸漬して引き揚げ、40℃で12時間乾燥することによってホローファイバーへのコーティングを行った。このホローファイバーを使用しin vivoで抗血栓性を評価した。実験方法は次の通りである。
ペントバルビタール麻酔下でウサギ(日本白色種、♂、2.5〜3.0kg)の大腿静脈を剥離して、末梢側を糸で結紮し、糸から2〜3cmのところを血管鉗子でクランプした。結紮部分の中枢側を眼下剪刀で血管径の1/4〜1/3切り、そこから試料であるホローファイバーを10cm、中枢側に向かって挿入した。挿入位置から1cmほどのところで、血管外に出ているホローファイバーの端部を縫いつけ、ホローファイバーが流されるのを防止した。切開部分を縫合し、抗生物質を投与して、以後試料を取り出すまで2週間にわたって飼育した。2週間後、ヘパリン加ペントバルビタールで麻酔下、正中切開を施し、腹部大動脈より適当なチューブを用いて脱血してウサギを犠死させた後、ホローファイバーを挿入した部分の血管を切断した。血管を切開してホローファイバーと血管内部を写真に撮るとともに、目視で観察し5段階評価を行った。結果は後記表1に示した。
【0032】
フィルムA1 をPBS(−)に浸漬し、37℃の振盪恒温槽で2週間にわたって溶出を行った。PBS(−)は毎日交換した。以下、溶出後のフィルムをフィルムA1 ’と呼ぶ。フィルムA1 と同様の方法でフィルムA1 ’での血漿相対凝固時間、抗菌性について評価を行った。結果は後記表1に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1におけるin vivo抗血栓性の5段階評価とは次の通りである。a:血小板凝集、血栓生成、フィブリン生成いずれも観察されない。b:フィブリン生成または血小板凝集は見られるが血栓生成は観察されない。c:フィブリン生成または血小板凝集が見られ血栓生成がわずかに観察される。d:フィブリン生成または血小板凝集が見られ血栓生成がかなり観察される。e:フィブリン生成または血小板凝集が見られ大量の血栓生成が観察される。
【0035】
〈実施例2〉
実施例1で得た材料A溶液をTHFで希釈して0.1%溶液とし、12cm×12cmの市販のポリ塩化ビニル(DOP含量50phr、以下このポリ塩化ビニルをPVCと略記する)製フィルム上に3mg/144cm2 の割合で導入されるように溶液3.00gを均一に載せ、40℃で8時間窒素気流下で乾燥後、40℃で減圧乾燥を15時間行い、厚さ約60μmのフィルムを得た(以下このTBCP−Hep/PUコーティングPVCフィルムをフィルムA2 と略記する)。
【0036】
実施例1と同様の方法でフィルムA2 の血漿相対凝固時間および抗菌性を測定した。また、実施例1と同様の方法でフィルムA2 の溶出試験を実施し、得られた溶出フィルムA2 ’の血漿相対凝固時間および抗菌性についても測定した。結果は表1に示した。
【0037】
〈実施例3〉
ヘパリンナトリウム塩10.00gをpH5.5のMES緩衝液に溶解させ、全量で100mlとした。塩化トリ(n−ブチル)ラウリルホスホニウム(以下TBLP・Clと略記する)12.95gをpH5.5のMES緩衝液に溶解させ、全量で130mlとした。双方の溶液を氷冷下で混合し、そのまま4℃で15時間静置して沈澱を得た。この沈澱を3300rpmで遠心沈降させて回収し、凍結乾燥させることによってTBLP・Cl−ヘパリン複合体(以下TBLP−Hepと略記する)を得た。このTBLP−Hepはベンゼン、DMF、THF、クロロホルム等の有機溶媒に可溶であった。
【0038】
脂溶化ヘパリンをTBCP−HepからTBLP−Hepに変えた以外は実施例1と同様の方法で、TBLP−Hep/PUブレンド材料B、および材料Bから成るフィルムB1を得た。この材料BおよびフィルムB1 を用いて、実施例1と同様の方法で血漿相対凝固時間、補体価、抗菌性、in vivo抗血栓性を測定した。また、実施例1と同様の方法でフィルムB1 の溶出試験を実施し、得られた溶出フィルムB1 ’の血漿相対凝固時間、抗菌性についても測定した。結果は表1に示した。
【0039】
〈実施例4〉
実施例3で得た材料B溶液をTHFで希釈して0.1%溶液とし、12cm×12cmのPVCフィルム上に3mg/144cm2 の割合で導入されるように溶液3.00gを均一に載せ、40℃で8時間窒素気流下で乾燥後、40℃で減圧乾燥を15時間行い、厚さ約60μmのフィルムを得た(以下このTBLP−Hep/PUコーティングPVCフィルムをフィルムB2 と略記する)。
【0040】
実施例1と同様の方法でフィルムB2 の血漿相対凝固時間および抗菌性を測定した。また、実施例1と同様の方法でフィルムB2 の溶出試験を実施し、得られた溶出フィルムB2 ’の血漿相対凝固時間および抗菌性についても測定した。結果は前記表1に示した。
【0041】
【比較例】
〈比較例1〉
ヘパリンナトリウム塩10.00gをpH5.5のMES緩衝液に溶解させ、全量で100mlとした。この溶液と、塩化ベンザルコニウム10%水溶液(以下Ben・Clと略記する)110mlを氷冷下で混合し、そのまま4℃で15時間静置して沈澱を得た。この沈澱を3300rpmで遠心沈降させて回収し、凍結乾燥させることによってBen・Cl−ヘパリン複合体(以下Ben−Hepと略記する)を得た。このBen−Hepはベンゼン、DMF、クロロホルム等の有機溶媒に可溶であった。
【0042】
脂溶化ヘパリンをTBCP−HepからBen−Hepに変えた以外は実施例1と同様の方法で、TBLP−Hep/PUブレンド材料C、および材料Cから成るフィルムC1 を得た。この材料CおよびフィルムC1 を用いて、実施例1と同様の方法で血漿相対凝固時間、補体価、抗菌性、in vivo抗血栓性を測定した。また、実施例1と同様の方法でフィルムC1 の溶出試験を実施し、得られた溶出フィルムC1 ’の血漿相対凝固時間、抗菌性についても測定した。結果は表1に示した。
【0043】
〈比較例2〉
比較例1で得た材料C溶液をTHFで希釈して0.1%溶液とし、12cm×12cmのPVCフィルム上に3mg/144cm2 の割合で導入されるように溶液3.00gを均一に載せ、40℃で8時間窒素気流下で乾燥後、40℃で減圧乾燥を15時間行い、厚さ約60μmのフィルムを得た(以下このBen−Hep/PUコーティングPVCフィルムをフィルムC2 と略記する)。
【0044】
実施例1と同様の方法でフィルムC2 の血漿相対凝固時間および抗菌性を測定した。また、実施例1と同様の方法でフィルムC2 の溶出試験を実施し、得られた溶出フィルムC2 ’の血漿相対凝固時間および抗菌性についても測定した。結果は前記表1に示した。
【0045】
〈比較例3〉
脂溶化ヘパリンを導入していないPUフィルム(フィルムD)を用いて血漿相対凝固時間、補体価、抗菌性を測定した。また、実施例1と同様の方法でフィルムDの溶出試験を実施し、得られた溶出フィルムD’の血漿相対凝固時間、抗菌性についても測定した。結果は表1に示した。
【0046】
表1に示した結果からわかるように、本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は優れた抗血栓性を示しており、溶出後も性能が維持されている。脂溶化剤としてベンザルコニウムを使用した比較例1、2の材料は、溶出後の性能低下が顕著に見られる。この性能の差がどのような機構によるものなのかは明かではないが、本発明の有効性が示唆されている。また、抗菌性のデータからも、本発明の抗血栓性、抗菌性組成物が有効であることがわかる。
【0047】
【発明の効果】
本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は、優れた抗血栓性、抗菌性を有しており、その性能は材料調製直後のみならず、長期間の溶出操作後も維持される。したがって、本発明の抗血栓性、抗菌性組成物は広範囲な分野に適用されうるものであるが、特に医用材料としては広範な医療用途に対して優れた適性を有するものである。
Claims (3)
- ポリウレタンもしくはポリウレタンウレア100重量部に対して、脂溶化ムコ多糖が0.1〜20重量部含有されている請求項1記載の抗血栓性、抗菌性組成物。
- 請求項1または2記載の抗血栓性、抗菌性組成物が少なくとも主成分として含まれて成る医用材料。
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