JP3721086B2 - 自動車用シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車用シートに関し、特に自動車の急減速時に乗員の前方への移動をより確実に阻止するようにした自動車用シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車が急減速した場合に、乗員が慣性によって前方に移動するのを防止するための手段としてシートベルトが設けられているが、乗員の尻部がシートクッションに沈み込みながら前方に移動するのに対して有効に作用しないことがあるという問題があった。図6を参照して説明すると、(a)に示すようにシート31に乗員30が正規に着座し、シートベルト32を装着した状態で前面衝突を受けた場合、慣性力により(b)に示すように乗員30の尻部が沈み込みながら前方に移動し、さらに減速度が最大になったときには(c)に示すように乗員30の尻部がシートクッション31の前端まで大きく移動してしまうことになる。
【0003】
このように乗員30の尻部がシートクッション31の前方に移動するのを防止するために、図7に示すように、シートクッション31に、正規着座状態で乗員30の尻部の前部に位置するようにパイプなどの受止部材33を配設し、衝撃を吸収し、前方移動を抑制することが提案されている。
【0004】
ところが、シートクッション31の前部にパイプなどの受止部材33を配設すると、乗員30の座り心地が悪くなり、ドライブの快適性を阻害するという問題があり、一方座り心地に影響しない位置まで受止部材33の配置位置を下げると、乗員30の前方移動防止効果が得られなくなるという問題がある。
【0005】
そこで、図8に示すように、通常は(a)の受止部材33が低い位置に配置され、衝突時には(b)の如くインフレータ等の駆動手段35が作動して適宜リンク機構などの連動手段34を介して受止部材33を上方に持ち上げるようにしたものが提案されている。この種の技術手段が、例えば特開平5−238297号公報や特開平7−81466号公報等に開示され、また実開平7−5898号公報には衝突時にシートクッション自体の前部を持ち上げるようにしたものが開示されている。
【0006】
また、本出願人は先に特願2000−38402号で、シートクッションの内部に左右方向に延びる受止部材をガイドにて上下方向に移動自在に配設するとともに、受止部材を上方に付勢する手段を設け、上方から荷重が作用したときは受止部材が円滑に下方に移動し、後方から荷重が作用したときは受止部材がガイドの前側縁に係合して下方移動が阻止され、この受止部材にて受け止められるようにした構成を提案している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、図8に示した構成や上記各公報に開示された構成では、受止部材33を所要時に強制的に持ち上げるための機構やその駆動手段34、35などが必要であるため、装置が複雑となってコスト高になるとともに、重量面でも重くなるという問題がある。
【0008】
一方、上記特願2000−38402号に開示した構成では、構成は簡単であり、また着座時に座り心地も悪くないが、全面衝突時に乗員の尻部が前方に移動する時に受止部材に加わる荷重の下方分力によって受止部材が下方に逃げてしまう恐れがあり、乗員の前方移動防止効果を安定的に得ることができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、座り心地を悪化することなく自動車が急減速した場合に乗員が前方に移動するのを確実に抑制でき、かつ構成が簡単で軽量・安価に構成できる自動車用シートを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の自動車用シートは、シートクッション前部の内部に、シートクッションの幅方向に延びる受止部を配設するとともに、この受止部をガイド手段にて上下方向にのみ移動自在に支持し、かつ受止部を上方に付勢する手段を設け、受止部に対するシート後方からの押圧により受止部の前方に突出する係合部材を受止部に配設し、受止部の前方に突出した係合部材がシートクッション内部のパッドに食い込んで係合するものである。
【0011】
このような構成により、シートクッション上に乗員が座ったときには受止部が下方に押圧されて付勢手段に抗して下降し、かつその際に係合部材はガイド手段とは別途に設けられ、受止部の移動に影響することはないため、受止部は円滑に下降し、座り心地が悪化することはない。一方、急減速時に乗員の尻部が前方に移動すると、係合部材が前方に突出してパッドと係合し、直ちに受止部がロックされて下方への移動が防止されるので、この受止部にて乗員の前方移動が確実に防止され、また押し上げ機構や駆動手段を別に設けていないので構成が簡単で軽量・安価に構成できる。
【0012】
また、係合部材の被係合部がシートクッションのパッドであるので、係合部材の被係合部を別途に配設したり、加工したりする必要がなく、さらに簡単な構成となって軽量・安価に構成できるとともに、係合部材の作動チューニングが容易にできる。
【0013】
また、係合部材が、受止部に対して前後方向にスライド可能に配設され、かつその後端が受止部の後方に突出されていると、係合部材の入力端である後端が受止部より後方に突出しているので、確実な動作が得られる。
【0014】
また、受止部の後部に、シートクッションの幅方向及び後方に延びる板状体を配設し、板状体の一端を受止部に連結し、他端を係合部材の後端部に連結すると、後方からの押圧力や移動を板状体にて受けて係合部材を作動させることにより、係合部材の動作が安定するとともに係合部材を複数設けることによりさらに動作が安定する。
【0015】
また、板状体の他端側を上方に付勢する手段を設けると、乗員が座ったときの受止部の下降動作時に、不測に係合部材と被係合部が係合する恐れが無く、安定した動作を確保できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の自動車用シートの一実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
【0017】
図1、図2において、1は自動車用シートのシートクッションで、左右両側のシートレール2にて前後位置を調整可能に構成されている。シートレール2は、前後両端の取付部3aが車体のフロアに固定されたロアレール3に対してアッパレール4が摺動及び任意位置で固定可能に装着されている。5は、左右のシートレール2のアッパレール4に両側下面が固定支持された鋼板製のクッションパネルで、その上部に発泡ウレタンなどのクッションパッド6が装着されている。クッションパネル5の外周部には上方に膨出成形された周堤部5aが設けられ、クッションパッド6はその内外周面に嵌合するように形成されている。クッションパッド6の外面は外装材7にて被覆され、その周縁部がクッションパネル5の周壁下端に固定具8にて固着されている。
【0018】
左右両側のアッパレール4の前部には、それぞれクッションパネル5の周堤部5aの外側壁の内側に適当な隙間をあけて立ち上がり、上端が周堤部5aの上壁に貫通係合する適当な幅のガイド部材9が形成され、その中央部に上下方向のガイド溝10が形成されている。周堤部5aの内側壁にもガイド溝10に左右方向に対向するように長穴11が形成されている。また、クッションパッド6には、左右方向に長穴11、11間にわたるとともに、後方側に適当幅だけ拡幅された下端開放の溝12が形成されている。
【0019】
左右のガイド部材9間にわたる長さのパイプ材から成る受止部材13が周堤部5aの内側壁の長穴11及びクッションパッド6の溝12を貫通して配設され、かつこの受止部材13の両端はガイド溝11に上下に移動自在に係合され、さらにその両端に固着した抜け止め板14がガイド部材9の外面に係合されており、これによって受止部材13がシートクッション1内の前部で上下方向にのみ移動自在に支持されている。また、この受止部材13の両端部下端とアッパレール4の上面との間に圧縮ばね15が介装され、受止部材13が上方に移動付勢されている。
【0020】
受止部材13の上下移動時の最上位置は、ガイド溝10の上端や長穴11の上端との間に隙間が生じた状態でクッションパッド6の溝12の上端との係合によって規制され、最上位置での異音の発生が防止されている。
【0021】
また、アッパレール4のガイド部材9を形成した部分においては、クッションパネル5を固定する取付ブラケット16が内側に向けて長く延出されている。これは、クッションパネル5の周堤部5a内に圧縮ばね15の配設空間を確保するためにその内側壁が内側に向けて膨出されており、これを避けるためである。この取付ブラケット16の受止部材13の直下位置にクッションゴム17が装着され、受止部材13の上下移動時の最下位置はこのクッションゴム17との当接によって規制され、最上位置での異音の発生が防止されている。
【0022】
図1において、18はクッションパネル5を固定するため、アッパレール4の前後端部において内側に向けて突設された取付ブラケット、19は取付ブラケット16、18とクッションパネル5を締結固定するボルト・ナットである。
【0023】
受止部材13の後部には、図1、図3、図4に示すように、シートクッション1の幅方向及び後方に延びる板状体20が配設されている。この板状体20はその前端が受止部材13の後端に固定された複数の枢支ブラケット21にて斜め下方前方に向けて揺動自在に支持され、ねじりばね22にて上方に揺動付勢されている。この板状体20及び受止部材13の下部には、シートクッション1の幅方向に適当間隔おきに複数の係合部材23が配設されている。この係合部材23はその後端が板状体20の後端部に相対回動自在に連結され、受止部材13の下端には各係合部材23を前後方向にスライド自在に支持するガイドブラケット24が固定されている。
【0024】
図示例では、板状体20の下面の係合部材23の配設位置に前後方向に延びる補強板25が垂直に立設され、その後端部に係合部材23の後端部がピン26にて枢支されている。また、板状体20は、両端の補強板25の前端部と枢支ブラケット21とをピン27を介して連結することで上記のように揺動自在に支持されている。
【0025】
係合部材23の前端部は尖突部23aに形成され、板状体20の斜め下方前方への揺動に伴って係合部材23が前方にスライドすると、図5に示すように、その尖突部23aがクッションパッド6の溝12の前側面の被係合部28に嵌入係合して受止部材13の下降を阻止するように構成されている。なお、図5に仮想線で示すように、被係合部28の壁面に補強布29を貼付けると、より確実に係合固定できるので作用面からは好ましい。
【0026】
以上の構成によれば、自動車用シートのシートクッション1上に乗員が座ったときや、乗員がペダル操作した時には、図4に示すように、クッションパッド6に下向きに押圧力F1 が加わり、クッションパッド6が圧縮されながら下方に変位するが、その際には仮想線で示すように、受止部材13が圧縮ばね15に抗して容易に下降し、さらに受止部材13をガイドするガイド溝10の前側縁に係合手段等が設けられていないので、受止部材13がその下降動作時に前方に変位しても係合力が作用するようなこともなく、円滑な下降動作が確保され、受止部材13によって違和感を感じたり、座り心地が悪化するようなことはない。
【0027】
一方、自動車が前突して急減速が発生し、乗員の尻部が前方に移動しようとした時には、図5に示すように、圧縮ばね15にてシートクッション1の上部に位置されている受止部材13に対して後方から押圧力F2 が加わることになる。すると、押圧力F2 によって板状体20が斜め下方前方に向けて揺動し、板状体20の後端にその後端が連結されかつガイドブラケット24にて前後に移動自在に支持されている係合部材23が前方に突出移動し、その先端の尖突部23aがクッションパッド6の被係合部28に食い込んで係合し、直ちに受止部材23がロックされて下方への移動が防止される。かくして、この受止部材23にて乗員の前方移動が受け止められ、受止部材13が潰れたり、くの字形に変形することにより、乗員の前方への移動エネルギーが吸収され、前方移動量が抑制される。
【0028】
特に、受止部材13の後部に板状体20を配設し、その後端に係合部材23の後端部に連結しているので、後方からの押圧力F2 や移動を板状体20で受けて係合部材23を作動させることになり、係合部材23の動作が安定するとともに複数の係合部材23を一斉に作用させてさらに安定した動作が得られる。さらに、板状体20をねじりばね22にて上方に付勢しているので、乗員が座ったときの受止部材13の下降動作時に、不測に係合部材23が被係合部28に係合する恐れが無くすことができて、安定した動作を確保できる。
【0029】
また、以上の構成によれば、従来例のような押し上げ機構や駆動手段を別に設ける必要がないため、簡単な構成にて軽量・安価に製造できる。また、被係合部28をクッションパッド6自体で構成しているので、被係合部28を構成する機構や部材を別途に配設したり、加工したりする必要がなく、さらに簡単な構成となって軽量・安価に構成できるとともに、係合部材23の作動チューニングが容易にできる。
【0030】
上記実施形態の説明では、受止部材13としてパイプ材を用いた例を示したが、前後に適当な幅を有する型材や板材等を用いても良く、材質的にも鋼材などの金属に限らず、繊維補強合成樹脂成形品等を用いてもよい。
【0031】
また、受止部材13と板状体20の連結構成として、板状体20を可撓性のある合成樹脂成形板を用いてその一端部を受止部材13に固着してもよく、また合成樹脂製の板状体20の一端部近傍にインテグラルヒンジを設け、その一端部を受止部材13に固着してもよい。また、板状体20と係合部材23を一体化し、同時成形してもよい。
【0032】
【発明の効果】
本発明の自動車用シートによれば、以上のようにシートクッション上に乗員が座ったときには受止部が下方に押圧されて付勢手段に抗して円滑に下降するため、座り心地が悪化することはなく、また急減速時に乗員の尻部が前方に移動すると、係合部材が前方に突出してパッドと係合し、直ちに受止部がロックされて下方への移動が防止されるので、この受止部にて乗員の前方移動を確実に防止でき、また押し上げ機構や駆動手段を別に設けていないので構成が簡単で軽量・安価に構成できる。
【0033】
また、係合部材の被係合部がシートクッションのパッドであるので、係合部材の被係合部を別途に配設したり、加工したりする必要がなく、さらに簡単な構成となって軽量・安価に構成できるとともに、係合部材の作動チューニングが容易にできる。
【0034】
また、係合部材が、受止部に対して前後方向にスライド可能に配設され、かつその後端が受止部の後方に突出されていると、係合部材の入力端である後端が受止部より後方に突出しているので、確実な動作が得られる。
【0035】
また、受止部の後部に、シートクッションの幅方向及び後方に延びる板状体を配設し、板状体の一端を受止部に連結し、他端を係合部材の後端部に連結すると、後方からの押圧力や移動を板状体にて受けて係合部材を作動させることにより、係合部材の動作が安定するとともに係合部材を複数設けることによりさらに動作が安定する。
【0036】
また、板状体の他端側を上方に付勢する手段を設けると、乗員が座ったときの受止部の下降動作時に、不測に係合部材と被係合部が係合する恐れが無く、安定した動作を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の自動車用シートの一実施形態の分解斜視図である。
【図2】同実施形態の受止部材の支持構造を示す部分縦断正面図である。
【図3】同実施形態における受止部材と板状体と係合部材を示す斜視図である。
【図4】同実施形態における通常の着座時の作動状態を示す部分縦断側面図である。
【図5】同実施形態における急減速時の作動状態を示す部分縦断側面図である。
【図6】自動車用シートにおける急減速時の乗員の挙動の説明図である。
【図7】急減速時の乗員の前方移動を防止する手段の説明図である。
【図8】従来例の急減速時の乗員の前方移動を防止する手段を設けた自動車用シートの動作説明図である。
【符号の説明】
1 シートクッション
6 クッションパッド
9 ガイド部材
13 受止部材(受止部)
15 圧縮ばね(付勢手段)
20 板状体
22 ねじりばね(付勢手段)
23 係合部材
28 被係合部
Claims (4)
- シートクッション前部の内部に、シートクッションの幅方向に延びる受止部を配設するとともに、この受止部をガイド手段にて上下方向にのみ移動自在に支持し、かつ受止部を上方に付勢する手段を設け、受止部に対するシート後方からの押圧により受止部の前方に突出する係合部材を受止部に配設し、受止部の前方に突出した係合部材がシートクッション内部のパッドに食い込んで係合することを特徴とする自動車用シート。
- 係合部材は、受止部に対して前後方向にスライド可能に配設され、かつその後端が受止部の後方に突出されていることを特徴とする請求項1記載の自動車用シート。
- 受止部の後部に、シートクッションの幅方向及び後方に延びる板状体を配設し、板状体の一端を受止部に連結し、他端を係合部材の後端部に連結したことを特徴とする請求項2記載の自動車用シート。
- 板状体の他端側を上方に付勢する手段を設けたことを特徴とする請求項3記載の自動車用シート。
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