JP3720913B2 - 含浸型陰極構体、これに用いられる陰極基体及びこれを用いた電子管 - Google Patents

含浸型陰極構体、これに用いられる陰極基体及びこれを用いた電子管 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラー受像管、クライストロン、進行波管、及びジャイロトロン等の電子管に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、クライストロン等のマイクロ波電子管は、高出力化の傾向がある。特に核融合や粒子加速器のためのプラズマ装置に使用するものについては、その出力がメガワット級になり、ますます高出力化が要求されている。また、走査線を増加させ解像度を改善したカラー受像管や、超高周波対応受像管の開発が要請されており、その輝度の向上が要求されている。また、投写管等においても輝度の向上が要求されている。これらの要求にこたえるためには、陰極からの放出電流密度を、従来に対し大幅に増大させる必要がある。
【0003】
従来、電子管例えばカラー受像器に使用されるカラー受像管において、陽極電圧以外にコンバージェンス電極や、フォーカス電極等に供給される高電圧が必要とされるものがある。この場合、カラー受像管のステム部より高電圧を供給すると、耐電圧の面から問題を生ずるので、カラー受像管内に電子銃と共に分圧用の抵抗器を電子管内蔵用抵抗器として組み込み、この抵抗器によって陽極電圧を分圧してそれぞれの電極に高電圧を供給する方式が採用されている。
【0004】
クライストロンは、1939年の研究に始まり、UHF帯からミリ波領域にわたる広い範囲の増幅管、発振管として開発されてきた。1960年代には衛星通信地球局用のクライストロンの開発が始められたほか、1970年代にはいると、クライストロンの高効率動作に関する研究が進み、UHF−TV放送用を初めとして効率50%を越える製品が実用化された。最近では、効率50〜70%で連続波出力1MW、パルス出力150MWの超大電力クライストロンが開発され、超大型の加速器や核融合研究のためのプラズマ加熱装置に使用されている。クライストロンは高効率で大電力を発生することができることから、特に大電力分野で今後とも広く利用されると考えられる。
【0005】
進行波管は、1943年に発明され、その後完成された。進行波管は、使用する遅波回路の種類によって、らせん形、空胴結合形、交差指形、はしご形など多くの種類がある。らせん型進行波管は、帯域が広く、マイクロ波中継回線をはじめ、航空機や人口衛星に搭載する送信管として広範囲に用いられてきた。空胴結合型進行波管は、らせんの耐電力容量を補う目的で開発され、主として、衛星通信地球局用の送信管として実用化された。進行波管の効率は、数〜20%程度が普通であるが、電位低下形のコレクタを採用することにより、衛星搭載用の進行波管など50%のものが開発されている。
【0006】
また、ジャイロトロンは。周知の通り、サイクロンメーザ作用を動作原理とする電子管で、数10〜数100GHz帯の大電力ミリ波を発生する高周波大電力源として利用されている。
【0007】
ところで、含浸型陰極は、酸化物陰極に比べて大きな放射電流密度が得られることから、これまで上述のような陰極線管、進行波管、クライストロン、及びジャイロトロン等の電子管に使用されてきた。含浸型陰極の使用は、カラー受像管の分野ではHD−TV管、ED−TV管等の特種用途のみに限られていたが、近年大型CRT用等の要請が高まり、その採用が急速に拡大されている。
【0008】
例えばクライストロン及びカラー受像管等に用いられる含浸型陰極構体では、その陰極基体は、例えば空孔率15〜20%の多孔質のタングステン(W)からなり、この陰極基体の空孔部に、例えば酸化バリウム、(BaO)、酸化カルシウム(CaO)及び酸化アルミニウム(Al23 )等の電子放射物質が含浸されている。さらに、この陰極基体の電子放射面上に、スパッタ法などの薄膜形成手段によりイリジウム(Ir)薄膜層がさらに設けられたイリジウムコートの含浸型陰極構体が使用されている。
【0009】
この陰極構体では、電子管内に搭載された後のエージング工程により、陰極構体内に含浸されている例えばバリウム(Ba)あるいは酸素(O2 )等を拡散させることにより、陰極構体表面の電子放射面上に電気2重層が形成され、高放射電流が可能となる。
【0010】
エージング工程におけるエージング時間は、対象とする電子管の使用時の印加電圧により種々設定されるが、低電圧動作で使用される電子管、例えば10kV程度の印加電圧で使用される電子管においては、50時間程度で、電気2重層が形成され得る。
【0011】
これに対し、大電流が必要とされ、高電圧動作で使用される電子管例えば70kVの印加電圧で使用される超大電力クライストロンの場合では、取り出す電流が、例えばそのパルス幅が5μsで、1秒間の繰り返しが500の場合は、数十時間の比較的短時間のエージングで十分な電流密度の電流が取り出せるが、取り出す電流が直流の場合、同じ電流密度の電流を取り出すには、500時間以上のエージングが必要になる。
【0012】
超大電力クライストロン等の高電圧動作で使用される電子管の場合には、エージングによる電気2重層の形成と同時に、コレクタから放出された大量のガスが放射電子との衝突のためにイオン化される。更に、このイオンが、高電圧により電子放射面に衝突し、電気2重層を破壊する。ここで、イオン化されたガスは、高エネルギーを有しており、電子放射面に衝突するガスの量が増えるほど、電子放射面の電気2重層は破壊され得る。このため、高電圧動作で使用される電子管では、長時間のエージングが必要となってしまう。
【0013】
また、陰極線管用含浸型陰極構体は、省電力の目的からコンパクトな構造に形成されている。そのため、陰極線管用含浸型陰極構体は、必然的に、その厚さ及び直径の大きさが制限され、電子放射物質を十分な量含浸することが困難である。一般的に、含浸型陰極の寿命特性は、電子放射物質の主要成分であるバリウムの蒸発量に支配されている。蒸発によりバリウムが消耗すると、陰極基体の単原子被覆密度が減少し、仕事関数の増加にともなって電子放射能力が減少し、その結果、要求される長寿命特性が得られない。これは実用上大きな問題である。これらの観点から低温動作可能な含浸型陰極構体が望まれている。
【0014】
このような陰極線管用陰極構体として、近年、スカンジウム(Sc)系含浸型陰極構体が注目されている。
上記スカンジウム系含浸型陰極構体は、メタルコートの含浸型陰極構体に比較して低デューティのパルスエミッション特性が遥かに優れており、低温動作が可能であると期待されている。
【0015】
しかしながら、この低温動作が可能なスカンジウム系含浸型陰極構体においても、その陰極は、高周波数条件下でイオン衝撃を受けると、消失したScの回復が遅く、低温動作性が低下するという欠点があり、実用性に不十分な点が多かった。
【0016】
例えば、陰極基体表面にスカンジウム化合物を被着するタイプでは、陰極製造工程中に表面の変質が生じる。また、長時間作動させると、スカンジウムが消耗し、電子放射特性の劣化をきたす。また、イオン衝撃で基体表面が局部的に破壊され、その部分の仕事関数が高くなり、電子放射分布が不均一となる。
【0017】
スカンジウム系含浸型陰極のオージェによる表面解析の結果、スカンジウム系含浸型陰極は、イオン衝撃を受けると、表面のスカンジウムが消失し、電子放射の良好な濃度に回復するまでに時間を要することが判明した。
【0018】
従来の陰極基体としては、具体的には以下のようなものがあげられる。
例えば特開昭56−52835号及び特開昭58−133739号には、多孔質基体上に、この多孔質基体よりも空孔率の低い例えば17ないし30%の空孔率を有する被覆層を設けた陰極基体が開示されている。しかしながら、このような陰極基体では、被覆層の空孔率を低くしているため、電子放射物資の蒸発が低く抑えられ、陰極の寿命を延ばすことは可能である。しかしながら、高電流密度で動作する電子管のように、イオン衝撃の強い動作条件下では、陰極基体表面の構造の回復が遅く、良好な結果が得られない。また、特開昭58−177484号には、スカンジウムとを含有する陰極基体が開示されているが、イオン衝撃後のスカンジウムの回復が十分ではない。このため、低温動作性が不十分である。特開昭59−79934号には、高融点金属層上に、高融点金属とスカンジウムを含有する層を形成した陰極基体が開示されているが、イオン衝撃後のスカンジウムの回復が十分ではなく、低温動作性が不十分である。
【0019】
特開昭59−203343号には、タングステンからなる多孔質基体上に0.1ないし2μmの微細なタングステン、スカンジウム酸化物及び電子放射物質を含む均一層が形成された陰極基体が開示されている。しかしながら、この陰極基体は、スカンジウムを含んでいるために、低温動作は可能である。しかしながら、ここでも、イオン衝撃の強い動作条件下で用いられると、陰極基体表面の構造の回復が遅く、良好な結果が得られない。特開昭61−91821号には、多孔質基体上に、タングステンとスカンジウム酸化物とからなる被覆層を設けた陰極基体が開示されている。この陰極基体は、スカンジウムを含んでいるために、低温動作は可能である。しかしながら、ここでも、イオン衝撃の強い動作条件下で用いられると、陰極基体表面の構造の回復が遅く、良好な結果が得られない。特開昭64−21843号には、例えば20ないし150μmの大きな平均粉末粒度を有する第1成型体上にその第1成型体よりも小さな平均粉末粒度を有する頭頂が設けられた陰極構体が開示されている。しかしながら、このような陰極構体は、電子放射物質の蒸発が低く抑えられ、陰極寿命を延ばすことは可能であるけれども、イオン衝撃の強い動作条件下で用いられると、陰極基体表面の構造の回復が遅く、良好な結果が得られない。
【0020】
さらに、特開平1−161638号には、高融点金属からなる多孔質基体上にスカンジウム化合物またはスカンジウム合金層を設けた陰極基体が開示されている。特開平3−105827号及び特開平3−25824号には、多孔質基体上に、タングステン及びスカンジウム酸化物混合層と、スカンジウム供給源例えばScと、Re、Ni、Os、Ru、Pt、W、Ta、Moとの組合せを含む層との積層体、あるいはそれらの混合物からなる層を形成した陰極基体が開示されている。また、特開平3−173034号には、高融点金属多孔質基体の上層にバリウム及びスカンジウムを含む層を有する陰極基体が開示されている。特開昭5−266786には、高融点金属多孔質基体上に、例えばタングステン層、スカンジウム層、レニウム層等の高融点金属を含む積層体が形成された陰極基体が開示されている。しかしながら、これらの陰極基体では、イオン衝撃後のスカンジウムの回復が十分ではなく、低温動作性が不十分であり、十分な耐イオン衝撃性を得るには至っていない。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、従来の含浸型陰極構体においては、高電圧、高周波数下で十分な耐イオン衝撃性が得られなかった。このため、イオン衝撃による含浸型陰極構体の電子放出特性の劣化を十分に防止できず、これを用いた電子管の高出力化及び受像管の輝度の向上の妨げとなっていた。
【0022】
また、低温動作が可能なスカンジウム系含浸型陰極構体においても、その陰極は、高周波数条件下でイオン衝撃を受けると、消失したScの回復が遅く、低温動作性が低下するという欠点があり、実用的に不十分な点が多かった。
【0023】
本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、高電圧、高周波数条件下でも十分な耐イオン衝撃性を有し、良好な電子放射特性を有する、高性能、長寿命の改良された含浸型陰極基体を提供することにある。
【0024】
本発明の第2の目的は、改良された含浸型陰極基体を用いて、優れた含浸型陰極構体を得ることにある。
本発明の第3の目的は、改良された含浸型陰極基体を用いて、優れた電子銃構体を得ることにある。
【0025】
本発明の第4の目的は、改良された含浸型陰極基体を用いて、優れた電子管を得ることにある。
本発明の第5の目的は、本発明にかかる含浸型陰極基体の好ましい製造方法を提供することにある。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明は、大粒径低空孔率領域と、該大粒径低空孔率領域の電子放射面側に設けられ、該大粒径低空孔率領域の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ該大粒径低空孔率領域の空孔率よりも大きい空孔率を有する小粒径高空孔率領域とを含み、電子放射物質が含浸されてなる含浸型陰極基体において、
前記小粒径高空孔率領域は、その平均粒径が1μm以上2.0μm未満であり、空孔率が25ないし40%であることを特徴とする含浸型陰極基体を提供する。
【0030】
本発明は、上記含浸型陰極基体を有することを特徴とする含浸型陰極構体を提供する。
本発明は、上記含浸型陰極構体を有することを特徴とする電子管を提供する。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、高電圧、高周波数下で十分な耐イオン衝撃性を得るために、含浸型陰極構体の電子放射面における電気2重層の形成速度を、電気2重層がイオン衝撃により破壊または飛散される速度よりも早くすることを試みた。
【0032】
多孔質陰極基体に含浸される電子放射物質は、基体金属粒子の表面に沿って、基体金属内部から電子放射面に拡散していき、電子放射面で電気2重層を形成する。
【0033】
電子放射物質が電子放射面まで拡散し、電気2重層を形成するまでの時間を短縮するためには、拡散距離を短縮することが考えられる。拡散距離を短縮する方法として、基体金属の粒径を小さくすることが効果的である。基体金属を形成している例えばWの粒径は、一般に3ないし5μmの平均粒径を有する。このW粒子を焼結し、その粒子間に0.3μm程度の空孔部が多数形成される。電子放射物質は、この空孔部に拡散し、これらを通って放射面へ到達して電気2重層を形成する。電気2重層がイオン衝撃により破壊された場合には、新たな電子放射物質がこの空孔部から拡散され放射面全体に供給されなければならない。この場合、電子放射物質が通る空孔部間の距離が短ければ、拡散が促進され、イオン衝撃で電気2重層が破壊されても、直ちに新しい電子放射物質が補われ、十分な電子放出特性が得られ、エミッションが回復する。
【0034】
本発明は上述の理論に基づいてなされたもので、その第1の発明は、大粒径低空孔率領域と、該大粒径低空孔率領域の電子放射面側に設けられ、該大粒径低空孔率領域の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ該大粒径低空孔率領域の空孔率よりも大きい空孔率を有する小粒径高空孔率領域とを含み、電子放射物質が含浸されてなる含浸型陰極基体を提供する。
【0035】
更に、詳しく述べると、この第1の発明の含浸型陰極基体は、第1の平均粒径を有する焼結された粒子により構成され、かつ第1の空孔率を有する第1の領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられた、第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径及び該第1の空孔率よりも大きい第2の空孔率を有する第2の領域とから実質的に構成される少なくとも二層の構造を含む。なお、ここでは、この第1の領域を大粒径低空孔率領域、第2の領域を小粒径高空孔率領域という。
【0036】
本発明に用いられる多孔質の陰極基体は、高融点金属例えばW、モリブデン(Mo)、及びレニウム(Re)等の高融点金属粉末を焼結して得られる焼結体を含むものである。
【0037】
平均粒径とは、この得られた焼結体を構成する粒子の平均粒径をいう。
電子放射物質は、多孔質陰極構体全体に含浸されていても良いし、あるいはその一部を除く領域例えば電子放射面近傍を除く領域に含浸されていてもよい。
【0038】
第1の発明の第1の好ましい態様によれば、大粒径低空孔率領域は、好ましくは、その平均粒径が2ないし10μmであり、かつその空孔率は15ないし25%である。
【0039】
更に、詳しく述べると、この第1の発明の第1の好ましい態様にかかる含浸型陰極基体は、2ないし10μmの平均粒径を有する焼結された粒子により構成され、かつ15ないし25%の空孔率を有する大粒径低空孔率領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられ、該大粒径低空孔率領域の平均粒径よりも小さい平均粒径及び該大粒径低空孔率領域空孔率よりも大きい空孔率を有する小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される少なくとも二層の構造を含む。
【0040】
また、第1の発明の第2の好ましい態様によれば、小粒径高空孔率領域は、好ましくは、その平均粒径が0.1μm以上2μm未満であり、かつその空孔率が25ないし40%である。
【0041】
さらに、詳しく述べると、この第1の発明の第2の好ましい態様にかかる含浸型陰極基体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられ、その焼結体を構成する粒子の平均粒径が0.1μm以上2μm未満であり、かつその空孔率が25ないし40%である小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される少なくとも二層の構造を含む。
【0042】
本発明の第1の発明の第3の好ましい態様によれば、小粒径高空孔率領域は、好ましくは、その厚さが30μm以下である。
さらに詳しく述べると、この第1の発明の第3の好ましい態様にかかる含浸型陰極基体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられ、その厚さが30μm以下である小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される少なくとも二層の構造を含む。
【0043】
本発明の第1の発明の第4の好ましい態様によれば、小粒径高空孔率領域は、好ましくは、大粒径低空孔率領域の電子放射面側に、線状または点状に存在している。
【0044】
さらに詳しく述べると、この第1の発明の第4の好ましい態様にかかる含浸型陰極基体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面側に、線状または点状に存在する小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される構造を含む。
【0045】
本発明の第1の発明の第5の好ましい態様によれば、大粒径低空孔率領域から前記小粒径高空孔率領域にかけて、その平均粒径及び空孔率は、好ましくは、段階的に変化する。
【0046】
さらに詳しく述べると、この第1の発明の第5の好ましい態様にかかる含浸型陰極基体は、その平均粒径が、その厚さ方向において、電子放射面側に近付くほど減少し、かつその空孔率がその電子放射面側に近付くほど増加するように段階的に変化する構成を実質的に有する。
【0047】
第1の発明の第6の好ましい態様によれば、好ましくは、その電子放射面上に、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及びスカンジウム(Sc)からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む層がさらに形成される。
【0048】
さらに、詳しく述べると、第1の発明の第6の好ましい態様にかかる含浸型陰極基体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面側に設けられた小粒径高空孔率領域と、この小粒径高空孔率領域の電子放射面側に設けられたイリジウム、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、及びスカンジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む層とから実質的に構成される少なくとも三層の積層構造を含む。
【0049】
第1の発明において、電子放射物質は、多孔質陰極基体全体に含浸されていても良いし、その一部を除く領域例えば電子放射面近傍を除く領域に含浸されていてもよいし、あるいは大粒径低空孔率領域のみに含浸されていても良い。
【0050】
第2の発明は、第1の発明にかかる含浸型陰極基体を製造するための好ましい方法の1つであって、
(1)大粒径低空孔率となる多孔質焼結体を形成する工程、
(2)該多孔質焼結体の電子放射面側に、該大粒径低空孔率領域の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ該大粒径低空孔率領域の空孔率よりも大きい空孔率を有する小粒径高空孔率領域を形成し、多孔質陰極部材を得る工程、
(3)該多孔質部材を切断または打ち抜き加工することにより、多孔質陰極基体を形成する工程、及び
(4)該多孔質陰極基体に電子放射物質を含浸する工程を具備することを特徴とする含浸型陰極基体の製造方法が提供される。
【0051】
小粒径高空孔率領域は、好ましくは、印刷法、スピンコート法、スプレー法、電着法、及び溶射法から選択される方法を用いて形成される。
第3の発明は、第2の発明にかかる方法の改良例の1つであって、
(1)大粒径低空孔率の多孔質焼結体を形成する工程、
(2)多孔質焼結体の電子放射面側に、該大粒径低空孔率領域の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ該大粒径低空孔率領域の空孔率よりも大きいを有する小粒径高空孔率領域を形成し、多孔質陰極部材を得る工程、
(3)多孔質陰極部材の電子放射面側に、1200℃以下の融点を有する金属及び合成樹脂からなる群から選択される充填材を配置する工程、
(4)充填材を有する形成体を、充填材が溶融し得る温度で加熱処理し、該充填材のみを溶融する工程、
(5)多孔質焼結体を所定の大きさに切断または打ち抜き加工し、多孔質陰極基体を形成する工程、
多孔質陰極基体をタンブリング処理に供し、バリ及び汚染物を除去する工程、
(6)タンブリング処理された多孔質陰極基体から充填材を除去する工程、及び
(7)充填材が除去された多孔質陰極基体に、電子放射物質を含浸する工程を具備することを特徴とする含浸型陰極基体の製造方法が提供される。
【0052】
なお、ここで、多孔質陰極部材とは、所定形状の多孔質陰極基体に切断または打ち抜き加工する前の多孔質陰極基体のことをいう。
第4の発明によれば、第2の発明にかかる方法の改良例の他の1つであって、
(1)大粒径低空孔率領域となる高融点金属多孔質焼結体を形成する工程、
(2)該多孔質焼結体の電子放射面側に、大粒径低空孔率領域の平均粒径より小さい平均粒径を有する高融点金属粉末と、1200℃以下の融点を有する金属及び合成樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の充填材とを含有するペーストを塗布し、前記充填材が溶融し得る温度で焼成し、小粒径高空孔率領域となる多孔質焼結体を形成するとともに、該多孔質焼結体内に該充填材を溶融せしめ、多孔質陰極部材を形成する工程、
(3)多孔質焼結体を、所定の大きさに切断または打ち抜き加工し、多孔質陰極基体を形成する工程、
(4)多孔質陰極基体をタンブリング処理に供し、バリ及び汚染物を除去する工程、
(5)タンブリング処理された多孔質陰極基体から充填材を除去する工程、及び
(6)多孔質陰極基体に、電子放射物質を含浸する工程を具備することを特徴とする含浸型陰極基体の製造方法が提供される。
【0053】
また、このようにして得られた多孔質陰極基体を用いて含浸型陰極構体を形成することが可能である。また、この含浸型陰極構体を用いて電子管を形成することもできる。
【0054】
第5の発明は、第1の発明にかかる多孔質陰極基体を用いた例えば陰極線管用多孔質陰極構体、クライストロン用多孔質陰極構体、進行波管用多孔質陰極構体、及びジャイロトロン用多孔質陰極構体等に使用される多孔質陰極構体を提供する。
【0055】
さらに、詳しく述べると、この第5の発明の含浸型陰極構体は、電子放射物質が含浸された、高融点金属粉末の焼結体からなる多孔質陰極基体、該多孔質陰極基体を支持する支持部材、及び該支持部材内に設けられたヒータを具備する多孔質陰極構体であって、前記多孔質陰極基体は、第1の平均粒径を有する焼結された粒子により構成され、かつ第1の空孔率を有する大粒径低空孔率領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられた、第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径及び該第1の空孔率よりも大きい第2の空孔率を有する小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される。
【0056】
第5の発明の第1の好ましい態様にかかる含浸型陰極構体は、電子放射物質が含浸された、高融点金属粉末の焼結体からなる多孔質陰極基体、該多孔質陰極基体を支持する支持部材、及び該支持部材内に設けられたヒータを具備する陰極構体であって、前記多孔質陰極基体は、2ないし10μmの平均粒径を有する焼結された粒子により構成され、かつ15ないし25%の空孔率を有する大粒径低空孔率領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられ、該大粒径低空孔率領域の平均粒径よりも小さい平均粒径及び該大粒径低空孔率領域空孔率よりも大きい空孔率を有する小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される少なくとも二層の構造を有する。
【0057】
第5の発明の第2の好ましい態様にかかる含浸型陰極構体は、電子放射物質が含浸された、高融点金属粉末の多孔質焼結体からなる陰極基体、この陰極基体を支持する支持部材、及びこの支持部材内に設けられたヒータを具備する多孔質陰極構体であって、この多孔質陰極基体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられ、その焼結体を構成する粒子の平均粒径が0.1μm以上2.0μm未満であり、かつその空孔率が25ないし40%である小粒径高空孔率領域とから実質的になる少なくとも二層の構造を含む。
【0058】
第5の発明の第3の好ましい態様にかかる含浸型陰極構体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面の少なくとも一部に設けられ、その厚さが30μm以下である小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される少なくとも二層の構造を含む多孔質陰極基体と、この陰極基体を支持する支持部材、及びこの支持部材内に設けられたヒータを具備する。
【0059】
第5の発明の第4の好ましい態様にかかる含浸型陰極構体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面側に、線状または点状に存在する小粒径高空孔率領域とから実質的に構成される少なくとも二層の構造を含む多孔質陰極基体と、この多孔質陰極基体を支持する支持部材、及びこの支持部材内に設けられたヒータを具備する。
【0060】
第5の発明の第5の好ましい態様にかかる含浸型陰極構体は、その平均粒径が、その厚さ方向において、電子放射面側に近付くほど減少し、かつその空孔率がその電子放射面側に近付くほど増加するように段階的に変化する構成を実質的に有する多孔質陰極基体と、この多孔質陰極基体を支持する支持部材、及びこの支持部材内に設けられたヒータを具備する。
【0061】
第5の発明の第6の好ましい態様にかかる含浸型陰極構体は、大粒径低空孔率領域と、その電子放射面側に設けられた小粒径高空孔率領域と、この小粒径高空孔率領域の電子放射面側に設けられたイリジウム、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、及びスカンジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む層とから実質的に構成される少なくとも三層の積層構造を含む多孔質陰極基体と、この多孔質陰極基体を支持する支持部材、及びこの支持部材内に設けられたヒータを具備する。
【0062】
第5の発明にかかる陰極構体が陰極線管用である場合、例えば筒状の陰極スリーブと、該陰極スリーブの一端部の内面に固定された含浸型陰極基体固定部材と、該含浸型陰極基体固定部材に固定された第1の発明にかかる含浸型陰極基体と、前記陰極スリーブを包囲するように、その外側に同軸的に配置された筒状ホルダーと、一端部が該陰極スリーブの外側に固定され、他端部が該筒状ホルダーの内側に固定された複数のストラップと、該陰極スリーブの内側に配置されたヒーターとを有する。
【0063】
また、第5の発明にかかる陰極構体がクライストロン用である場合、例えば第1の発明にかかる含浸型陰極基体と、該含浸型陰極基体を支持する支持筒と、該支持筒に内蔵され、かつ絶縁物に埋め込まれてなるヒーターとを有する。
【0064】
第6の発明は、第1の発明にかかる多孔質陰極基体を用いて例えば陰極線管用電子銃構体、クライストロン用電子銃構体、進行波管用電子銃構体、及びジャイロトロン用電子銃構体等の電子銃構体を提供するものである。
【0065】
第6の発明にかかる電子銃構体が陰極線管用電子銃構体である場合には、例えば第5の発明にかかる含浸型陰極構体と、該含浸型陰極構体の電子放射面側に同軸的に配置された複数のグリット電極と、前記複数のグリット電極の前面に、同軸的に配置されたコンバージェンス電極とを有する電子銃と、前記電子銃に接続される分圧用の抵抗器とを有する。
【0066】
図1に、第6の発明にかかる陰極線管用電子銃構体の一例として、電子管内蔵抵抗器が組み込まれたカラー受像管を表わす概略断面図を示す。
図1において、61は真空容器であり、この真空容器61に形成されたネック部61aの内部には、電子銃構体Aが配置されている。この電子銃構体Aには、3個のカソードに対し、共通に第1グリッド電極G1、第2グリッドG2、第3グリッドG3、第4グリッドG4、第5グリッドG5、第6グリッドG6、第7グリッドG7、及び第8グリッドG8が順次同軸上に配置されている。グリッド電極G8の後段には、コンバージェンス電極62が配置されている。
【0067】
各グリッド電極G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、及びG8は、相互に所定位置関係を維持して、ビードガラス3によって、機械的に保持されている。また、第3グリッド電極G3と第5グリッド電極G5とは、導線64によって電気的に接続されており、さらに、コンバージェンス電極62は、第8グリッド電極G8と溶接により、接続されている。
このような電子銃構体Aには、電子管内蔵用抵抗器65が取り付けられている。この抵抗器65は、絶縁基板65Aを備えている。この絶縁基板65Aには、所定パターンの抵抗体層(図示せず)及びこの抵抗体層に接続されている電極層が形成されている。この抵抗器65の絶縁基板65Aには、電極層に接続される高圧の電極取り出し用の端子66a、66b、66cが設けられ、これら各端子66a、66b、66cは第7グリッド電極G7、第6グリッド電極G6、第5グリッド電極G5に接続されている。また、抵抗器65の絶縁基板65Aに設けられて電極層に接続される端子67は、コンバージェンス電極62と接続され、さらに絶縁基板65Aに設けられて電極層に接続されたアース側の取り出し端子68はアース電極ピン69に接続されている。
【0068】
一方、真空容器61に形成されたファンネル部61bの内壁には、前記ネック部61aの内壁まで伸びるグラファイト導電膜70が被着されており、ファンネル部61bに設けられた高電圧供給ボタン(図示しない陽極ボタン)を通じて陽極電圧が供給される。
【0069】
そして、コンバージェンス電極62には、導電ばね79が設けられており、導電ばね79がグラファイト導電膜70と接触することにより、コンバージェンス電極62に第8グリッド電極G8、及び電子管内蔵用抵抗器65のコンバージェンス端子67に陽極電圧が供給され、高圧の66a,66b,66cに発生する分圧電圧が第7グリッド電極G7、第6グリッド電極G6、及び第5グリッド電極G5に供給される。
【0070】
第6の発明にかかる電子銃構体がクライストロン用電子銃構体である場合には、第5の発明にかかる含浸型陰極構体と、該含浸型陰極構体を内蔵する陰極部と、該含浸型陰極構体の電子放射面に同軸的に配置された陽極部を有する。
【0071】
図2に、第6の発明にかかるクライストロン用電子銃構体の一例の主要部を説明するための概略断面図を示す。
図2に示すように、クライストロン用電子銃構体の一例の要部では、陰極構体81を配置する。陰極部181と、絶縁部93は、ほぼ軸方向に沿ってテーパ状に嵌合する薄肉金属リングからなる溶接つば180,181の先端のアーク溶接封止部184により封止されている。なお、また、絶縁部93と陽極部95は、同じくほぼ軸方向に沿ってテーパ状に嵌合する薄肉金属リングからなる溶接つば182,183の先端アーク溶接封止部185により機密封止されている。なお、陽極部95に対して電極間隔を定めながら組み立てるために、最後に嵌合させ、両者の溶接封止部98にて機密封止することにより電子銃構体を組み立てている。
【0072】
一般に、クライストロンの動作に致命的になりかねない電子銃構体の不具合の一つに、電極間隔の設計寸法からのずれが挙げられる。このずれは、主に部品精度及び組み立て精度に起因している。そこで、電極間隔は、次のように調整される。すなわち、軸方向のずれは、陰極部のステム板84とステム端板86との間に適当な導体スペーサを挿入し、ねじ85にて固定する。またはバックアップ用セラミックリング92と溶接つば180もしくは183との間にスペーサを挿入する。また、半径方向のずれは、陰極部83を回転台治具でウェネルト82と溶接つば180との軸出しを行なった後、ねじ85にて固定する。また、絶縁部93については溶接つば181,182の同軸度が得られるように適当な組み立て治具を用いて鑞付けする。
【0073】
また、第7の発明は、第1の発明にかかる含浸型陰極基体を使用した例えば陰極線管用電子管、クライストロン用電子管、進行波管用電子管、及びジャイロトロン用電子管等の電子管を提供するものである。
【0074】
第7の発明にかかる電子管は、陰極線管用である場合には、例えばフェース部を有する真空外囲器と、該フェース部内面に設けられた蛍光体層と、該真空外囲器のフェース部に対向する位置に配置された第6の発明にかかる電子銃構体と、前記蛍光体層と該電子銃構体の間に配置されたシャドウマスクを有する。
【0075】
図3に、本発明にかかる陰極線管用電子管の一例を説明するための概略断面図を示す。
図3に示すように、この陰極線管用電子管は、矩形状のパネル31と漏斗状のファンネル32とネック33とからなる外囲器を有している。パネル31の内面には赤、緑、青に各々発光する蛍光体層34がストライプ状に設けられており、ネック33には、図1に示すような電子銃構体がパネル31の水平軸に沿って一列に配列された赤、緑、青に対応する電子ビーム35を射突するインライン型電子銃36が内設されている。また蛍光体34に近接対抗した位置には、多数の微細な開孔を有するシャドウマスク7がマスクフレーム38に支持固定されている。偏向装置38により電子ビーム35を偏向走査して画像を再現している。
【0076】
第7の発明にかかる電子管は、クライストロン用である場合には、例えば第6の発明にかかる電子銃構体と、該電子銃構体の電子放射面側に同軸的に配置された複数の共振空胴がドリフト間で連結された高周波作用部及びコレクタ部と、該高周波作用部の外周部に配置された磁界発生装置を有する。
【0077】
図4に、本発明にかかるクライストロン用電子管の一例の主要部を説明するための概略断面図を示す。
図4に示すように、このクライストロン用電子管の要部において、符号191は電子銃部であり、192は陰極構体である。図2に示すような構成を有する電子銃部191には複数の共振空胴193がドリフト管194で連結された高周波作用部195とコレクタ部196が順次連結されている。さらに、高周波作用部195の外側には磁界発生装置例えば電磁石コイル197が配設されている。なお、198は電子ビームである。また、出力導波管部は図示を省略している。
【0078】
第7の発明にかかる電子管は、進行波管用である場合には、例えば本発明の含浸型陰極構体を用いた電子銃構体と、該含浸型陰極構体の電子放射面側に同軸的に配置された信号を増幅する遅波回路と、電子ビームを捕捉するコレクタ部を有する。
【0079】
図5に、本発明にかかる進行波管用電子管の一例を説明するための概略断面図を示す。
図5に示すように、この進行波管は、本発明の含浸型陰極基体を用いた電子銃171と、信号を増幅する遅波回路(高周波作用部)172と、電子ビームを捕捉するコレクタ173とを備えている。そして、遅波回路172は、パイプ状真空外囲器174内にヘリックス175が3本の誘電体支持棒176に支持固定されてなり、この遅波回路172の両端には、それぞれ入力177と出力接栓178が突設されている。
【0080】
第7の発明にかかる電子管は、ジャイロトロン用である場合には、例えば本発明の含浸型陰極構体を用いた電子銃構体と、該含浸型陰極構体の電子放射面側に配置された次第に径が小さくなるテーパ状の電子ビーム圧縮部と、該テーパ状電子ビーム圧縮部に連続的に配置された空胴共振部と、前記空胴共振部に連続的に配置された次第に径が大きくなるテーパ状電磁波案内部と、電子ビームを補足するコレクタ部と、空胴共振部の外周部に配置された磁場発生装置とを有する。
【0081】
図6に、本発明にかかるジャイロトロン用電子管の一例を説明するための概略断面図を示す。
図6において、符号230はジャイロトロン本体、231は本発明の含浸型陰極構体を用いて組み立てられ、その中空電子ビームを発生する電子銃部、232は、その電子ビーム下流に配置され、次第に径小となるテーパ状電子ビーム圧縮部、233はその下流に連続的に設けられ、次第に径大になるテーパ電磁波案内部、235はその後に配置され、相互作用を行なった後の電子ビームを捕捉するコレクタ部、236はその下流に配置されたセラミックス気密窓を有する出力窓、237は導波管結合フランジ、239は磁場発生装置のソレノイドを表わしている。
【0082】
次に、第1の発明について説明を加える。
第1の発明においては、その含浸型陰極構体の少なくとも電子放射面側から、小粒径、高空孔率の多孔質領域、及び大粒径、低空孔率の多孔質領域が順々に設けられている。
【0083】
大粒径低空孔率領域では、加熱時に、含浸された電子放射物質の供給を一定に維持することができる。
また、大粒径低空孔率領域上に、小粒径高空孔率領域を設けることにより、電子放射面側の小粒径高空孔率領域では、陰極基体を構成する粒子間距離が短いために電子放射物質の拡散距離が短縮されている。このため、電子放射物質による電子放射面の被覆がより速く、より均一に行なわれ、電子放射物質の十分な供給、電子放射面の十分な被覆率が達成できる。被覆率が向上すると、より優れた耐イオン衝撃性が得られる。また、このようにして、高電圧操作の含浸型陰極構体のエージング時間を短縮することができる。また、たとえ拡散速度の遅い電子放射物質を含む場合でも、イオン衝撃による含浸型陰極構体の電子放出特性の劣化を防止することができる。
【0084】
また、本発明に用いられる空孔率とは、一定体積の物体(固体)中に存在する空間の割合であり、下記式(1)で表わされる。
P1−W/Vd…(1)
但し、式中wは被測定物の重量(g)、Vは被測定物の体積(cm3 )、dは被測定物の密度(タングステンの場合なら19.3g/cm3 )、Pは空孔率(%)を表わす。しかしながら、本発明が要求している小粒径大空孔率領域は層となっていることが望ましく、さらには、この層は30μm以下の厚さになっていることが好ましい。このため、上式のw,Vを実際に測定することは実施不可能で、空孔率を算出することはできない。そこで、現実に空孔率を制御するために、以下の方法によって空孔率の測定を行なう。
【0085】
まず、含浸後の陰極基体であれば、空孔内の電子放射物質を全て除去した後、これら空孔内に着色樹脂を溶融含浸する。その後、陰極表面に垂直な断面を出すために金属研磨機などで研磨を行なう。陰極基体の寸法が大きい場合には、予め切断して粗い断面を出しておいてもよい。平滑な断面が得られたら、この断面の断面像を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡にて撮影する。この断面像を画像処理装置例えばKEYENCE社製CV−100によって画像処理を行ない、本断面中の高融点金属が現れている部分の面積Sbaseと着色樹脂が現れている部分の面積を求める。そうすれば、P=Spore/(Spore+Sbase)×100(%)を空孔率として用いることができる。このとき、領域Sporeと陰極基体外部領域との境界は、陰極基体の最外周に存在する高融点金属粒のもっとも陰極基体外部に突出した点同志を結んだ線分とする。面積Sbaseと面積Sporeの算出は陰極基体全面にわたって行なうことが好ましいが、そのような処理を行なうことは現実にはむずかしい。そこで、陰極基体の断面のうち任意の点を少なくとも5点選び、その近傍1000μm2 以上の領域について面積Sbaseと面積Sporeを求め、その平均から計算されたPを空孔率として用いることができる。
【0086】
なお、第1の発明の第1の好ましい態様においては、大粒径低空孔率領域の粒径が2μm未満であると、製造時の焼結の進行と共に、クローズドポアの存在が無視できなくなり、空孔率は確保できても、電子放射物質の含浸には意味をなさなくなる傾向があり、また10μmを越えると、意図する空孔率が得られなくなり、小粒径高空孔率領域への電子放射物質の供給が不十分であると共に、所望の空孔率を得るためには、焼結温度も極端に高くなる傾向があり、工業的な製造が困難となる傾向がある。大粒径低空孔率領域のさらに好ましい平均粒径は、2〜7μmであり、さらにまた好ましい平均粒径は、2〜5μmである。また、その空孔率が15%未満であると、小粒径高空孔率領域への電子放射物質の供給が不十分となる傾向があり、25%を越えると、必要な強度が得られなくなると共に電子放射物質の消耗が増加して寿命が短くなる傾向がある。大粒径低空孔率領域のさらに好ましい空孔率は、15〜22%であり、さらにまた好ましい空孔率は、17〜21%である。
【0087】
第1の発明の第2の好ましい態様において、小粒径高空孔率領域の平均粒径は、0.1μm未満であると、あまりその粒径が小さいために、陰極基体にクラックが入り易くなり、強度が低下する傾向がある。また原料となる高融点金属の粉末の粒径があまりに小さいと、焼結時に容易に2次粒子、3次粒子等を形成し、焼結が進み易くなり、所望の粒径が得られなくなることがある。このような場合には、密度が高くなり、意図する空孔率が得られなくなる傾向がある。
【0088】
また、粒径が2μm以上であると、電子放射物質の拡散距離が大きくなることから、電子放射面へ電子放射物質が十分に供給するために時間がかかるようになる。さらに、拡散距離が大きくなると、電子放射面における均一な拡散も得難くなる。これらのことから、粒径が2.0μm以上であると、電子放射面の電子放射物質による被覆率が低下する傾向があることがわかる。上述のように、被覆率が低下すると、十分な耐イオン衝撃性が得られなくなる。
【0089】
多孔質陰極基体の小粒径高空孔率領域のさらに好ましい平均粒径は0.8〜1.5μmである。
また、多孔質陰極基体の小粒径高空孔率領域の平均粒径が0.1μm以上2.0μm未満の範囲で、空孔率が25%未満であると、電子放射物質が電子放射面に十分に供給されなくなり、電子放射面の電子放射物質による被覆率が低下する傾向がある。被覆率が低下すると、十分な耐イオン衝撃性が得られなくなる。
【0090】
さらに、陰極基体の平均粒径が0.1μm以上2μm未満の範囲で、空孔率が40%を越えるほど大きいと、陰極基体の機械的強度が低下する傾向がある。小粒径高空孔率領域のさらに好ましい空孔率は、25〜35%である。
【0091】
また、第1の発明の第3の好ましい態様に示すように、少なくとも二層以上の積層構造を有する含浸型陰極基体の場合、大粒径低空孔率領域層の電子放射面側に設けられる小粒径高空孔率領域層の層厚は、30μm以下が好ましい。この層厚は、より好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは、3〜20μmである。
【0092】
第2の発明に示すように、少なくとも二層の構造を有する含浸型陰極構体は、例えば以下のようにして製造される。
先ず、常法により、平均粒径2ないし10μmであり、かつ空孔率15ないし25%の大粒径低空孔率領域となる多孔質焼結体を形成する。
【0093】
次に、この多孔質焼結体の電子放射面上に、平均粒径が大粒径低空孔率領域となる多孔質焼結体の平均粒径よりも小さいW粉末よりなる高融点金属粉末を有機溶剤と共にペースト状に調製し、例えばスクリーン印刷法により意図する膜厚になるように塗布する。その後、乾燥し、真空中あるいは水素(H2 )などの還元雰囲気中、1700〜2200℃の範囲で焼結を行なう。このようにして小粒径高空孔率領域を大粒径低空孔率領域上に形成する。この場合、ペーストの濃度、印刷条件、焼結時の時間などは、焼結体を構成する粒子の意図する平均粒径及び空孔率が得られるように、適宜設定される。
【0094】
また、第1の発明にかかる陰極基体の別の構造としては、その第4の好ましい態様に示すように、大粒径低空孔率領域からなるマトリックスの少なくとも電子放射面側に複数の小粒径高空孔率領域が点在する構造があげられる。例として、大粒径低空孔率領域の電子放射面上に溝状あるいは孔状に凹部が存在し、その凹部に小粒径高空孔率領域が存在する構造があげられる。このような構造の陰極構体を形成するためには、例えば大粒径低空孔率領域となる多孔質焼結体の電子放射面側に機械加工などにより、溝あるいは孔状の凹部を形成し、その凹部にペーストを充填させ、焼結を行ない、小粒径高空孔率領域を形成することができる。
【0095】
さらに、陰極基体の構造の他の変形としては、第1の発明の第5の好ましい態様に示すように、その厚さ方向において、電子放射面に近付くに従って次第にその空孔率が増加し、かつその粒径が小さくなる構成を有するような構造があげられる。
【0096】
この小粒径高空孔率領域の形成は、上記印刷法に限らず、スピンコート法、スプレー法、電着法あるいは溶射法など多孔質層を得られる方法であれば、何ら限定されるものではない。また、このうち溶射法を採用した場合には、焼結工程を省くことができる。
【0097】
上述のような構成を有する陰極構体の陰極基体には、その後常法と同様にして例えばBaO:CaO:Al23 モル比が4:1:1の混合物からなる電子放射物質をH2 などの還元雰囲気中で溶融含浸する。
【0098】
さらに、第1の発明の第6の好ましい態様について説明を加える。
第1の発明の第6の好ましい態様に使用されるイリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及びスカンジウム(Sc)からなる群から選択される少なくとも1種の元素は、単体、その元素を含有する物質、または他の元素あるいは他の元素を含有する物質との組合せとして使用し得る。
【0099】
この組合せとは、個々に存在する場合と、例えば合金、化合物等の形で存在する場合とを含む。
この第6の好ましい態様によれば、これらの元素を含む層を形成することにより、陰極構体の電子放射面の電気2重層がイオン衝撃により破壊されても、電子放射特性がすぐに回復され、エミッションが可能となり、かつ十分な低温動作が可能となる。また、低温動作が可能となることにより、電子放射物質例えばバリウム等の蒸発量を低減することができるので、陰極構体の厚さを従来より薄く設定することが可能となる。
【0100】
単独で好ましく用いられる元素は、イリジウム、スカンジウムである。
好ましく用いられる元素を含有する物質は、酸化スカンジウム(SC23 )、水素化スカンジウム(ScH2 )等である。
【0101】
好ましく用いられる組合せは、Ir−W、Os−Ru、Sc23 −W、Sc−W、ScH2 −W、Sc−Re等の合金である。
このOsは作用的には単体で使用可能であるが、その酸化物が毒性を有することから、作業者の安全性を考慮すると、単体で用いるよりも、酸化しにくい合金の形で用いることが好ましい。
【0102】
また、Scは、ハフニウム(Hf)、レニウム、及びルテニウム(Ru)等の高融点金属から選択される少なくとも1種の金属と組合せて用いることができる。これらの高融点金属は、陰極構体の動作時に、Scを酸素から分離する分離剤として働く。
【0103】
また、第1の発明においては、必要に応じて多孔質陰極基体表面の余分な電子放射物質を除去した後、使用される元素成分の層を、例えばスパッタ法等の薄膜形成手段により形成することができる。
【0104】
第3の発明及び第4の発明についてさらに説明を加える。
第3の発明及び第4の発明は、多孔質陰極構体の製造方法において、その多孔質体から所定形状の陰極基体を切り出す工程を改良するものである。切断された陰極基体には、バリが発生する。このため、陰極基体をタンブリング処理に供することにより、バリを除去する必要がある。タンブリング処理は、通常、切断された陰極基体を、アルミナとシリカからなる小球体とともに容器内で振り動かし、小球体と陰極基体とを摩擦させることにより行なわれる。この際、陰極基体の電子放射面側も同様に摩擦され、多孔質体の空孔部が塞がれる。この空孔部は、電子放射物質の供給路であるため、空孔部が塞がれると、電子放射物質の含浸が妨げられるという問題が生じる。また、多孔質体表面の見掛けの表面積が増大し、表面における電子放射物質の拡散距離が増大するという問題が生ずる。特に、小粒径高空孔率領域を有する陰極基体では、これらの問題により、電子物質の拡散距離の短縮及び供給路の増大が損なわれ、耐イオン衝撃特性の改善効果が得られない。
【0105】
また、陰極基体表面の剥離が発生すると、電子放射物質の吹き出しが発生し、電子放射面の変質が生じる。電子放射面の変質は、放射電流密度の劣化等の悪影響を及す。
【0106】
第3の発明によれば、陰極基体を切断加工する前の多孔質体の電子放射面上に、1200℃以下の融点を有する金属及び合成樹脂からなる群から選択される充填材を適用し、充填材が溶融し得る温度で加熱処理し、充填材を該多孔質用形成体内に溶融することにより、電子放射面上の空孔部から多孔質体の内に充填材が溶融される。これにより、孔内の保護及び多孔質体の強化がなされ、タンブリングの際に電子放射面が摩擦を受けても空孔部が塞がらないようにすることができる。
【0107】
また、第4の発明によれば、高融点金属と、1200℃以下の融点を有する金属及び合成樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の充填材とを含有するペーストを、充填材が溶融し得る温度で焼成し、高融点金属を主成分とする多孔質体を形成するとともに、多孔質体の孔内に該充填材が溶融される。これにより、孔内の保護及び多孔質体の強化がなされ、タンブリングの際に電子放射面が摩擦を受けても空孔部が塞がらないようにすることができる。
【0108】
また、本発明の陰極基体の応用例として例えば陰極基体の電子放射面領域に、さらに高融点金属微粉末と、酸化スカンジウムとの混合物層を形成することができる。これにより、陰極構体の電子放射面の電気2重層がイオン衝撃により破壊されても、電子放射特性がすぐに回復され、エミッションが可能となり、かつ十分な低温動作が可能となる。また、低温動作が可能となることにより、電子放射物質例えばバリウム等の蒸発量を低減することができるので、陰極構体の厚さを従来より薄く設定することが可能となる。このことはまた、電子放射物質の含浸量不足により不十分となっていた従来の省電力型含浸型陰極の寿命特性を、大幅に改善することが出来ることを意味する。
【0109】
さらに、好ましくは、高融点金属微粉末としてタングステンとモリブデンの合金またはその混合物を用いることができる。これにより、低い焼結温度でも十分強固な焼結層を得ることができる。合成樹脂としては、好ましくは、メタクリル酸メチルを使用することができる。
【0110】
得られる微細な焼結層は、好ましくは0.8ないし1.5μmの平均粒径を有し、好ましくは20ないし40%、さらに好ましくは25ないし35%の空孔率を有する。
【0111】
以下、図面を参照し、本発明を具体的に説明する。
実施例1
図7は、本発明にかかる含浸型陰極構体の第1の例を使用した電子管の例を表す一部切欠概略図を示す。この陰極構体は、クライストロン用含浸型陰極構体であり、高出力、高電圧下で使用されるものである。
【0112】
図示するように、この電子管は、多孔質Wからなる基体金属3と、この多孔質陰極基体3を支持するよう鑞付されたMo等からなる支持筒11と、支持筒11に内蔵されたヒーター18とから主に構成され、このヒーター18はAl23 等からなる埋め込み材14に埋め込んで焼結することにより固定されている。この多孔質陰極基体3の空孔部には、例えばBaO:CaO:Al23 モル比が4:1:1の電子放射物質が含浸されている。多孔質陰極基体3の電子放射面側には、スパッタリングによりIrの薄膜層が設けられ、合金化処理により、IrとWの合金化層(図示せず)が形成される。また、この陰極構体は、集束のために電子放射面に例えば半径53mmの曲率を有する。
【0113】
この陰極構体の多孔質陰極基体3の構造を表わすモデル図を図8に示す。多孔質陰極基体3は、図8に示すように、大粒径低空孔率層22とその上に形成された小粒径高空孔率層23とから構成される二層構造を有する。このような構成を有する多孔質陰極基体3は、以下に示すように、例えばスプレー法により形成することができる。
【0114】
まず、大粒径低空孔率層として、例えば平均粒径約3μmのW粒子からなる空孔率約17%の多孔質W基体を用意する。この基体は、例えば直径70mmであり、電子放射面の曲率半径は53mmである。
【0115】
この多孔質W基体にマスク治具を装着した状態で、基体の電子放射面にW粒子と、酢酸ブチルとメタノールの混合物をスプレガンを用いて垂直に吹きかける。吹き付け距離を10cm,エア圧力を1.2kgf/cm2 、吹き付け流量を0.35cc/秒、吹き付け時間を5秒とし、曲率を持った電子放射面に均一に厚さ20μmの薄膜層を形成する。
【0116】
その後、薄膜層の焼結及び薄膜層と基体金属の接着のため、還元雰囲気中で1700〜2200℃例えば水素雰囲気中で2000℃の温度で、1時間の熱処理を行なう。
【0117】
このようにして得られた小粒径高空孔率W薄膜層は、外観上クラックがなく、また十分な強度を持ち、平均粒径0.8μm、空孔率30%で約10μmの均一な厚さを有していた。
【0118】
次に、この多孔質基体3の空孔部にBaO:CaO:Al23 モル比が4:1:1の混合物からなる電子放射性物質をH2 雰囲気中、1700℃で、約10分間加熱することにより溶融含浸させた。
【0119】
このようにして得られた二層構造を有する陰極構体をクライストロン電子管内に取り付け、陰極温度1000℃b(℃bは輝度温度である)の条件でエージングを行なった。
【0120】
図9に、エージングを100時間行なった後の電子放射特性を表すグラフ図を示す。この電子放射特性は、陰極温度が1100℃bのときの放射電流を100%としたときの比率で表わされた放射電流と陰極温度との関係で示す。図中実線31、32は、それぞれ、従来の含浸型陰極構体と、実施例1の含浸型陰極構体との特性を表わすグラフである。このグラフから明らかなように、低温部においては、実線32で表わされる実施例1の含浸型陰極構体が優位であることが認められる。高温部では、拡散速度が早いために特性上優位は認められないが、低温部では、拡散速度が遅いため、本発明にかかる含浸型陰極構体の方が著しく優位となる。また、このグラフから、本発明の含浸型陰極構体を用いると、エージング時間を短縮できることは明白である。
【0121】
実施例2
図10に、本発明にかかる他の電子管に用いられる含浸型陰極構体の第2の例を表す概略図を示す。この陰極構体は、陰極線管用陰極構体であり、その陰極基体は、実施例1のクライストロン用の陰極基体とは異なりほとんど曲率を持たない。
【0122】
図示するように、含浸型陰極構体を用いた電子管は、例えば陰極スリーブ1と、この陰極スリーブ1の一端部の内側に、その一端部開口縁とほぼ同一面をなすように固定されたカップ状固定部材2と、このカップ状固定部材2内に固定されていて、電子放射物質が含浸された多孔質陰極基体3と、陰極スリーブ1を包囲する如くその内側に同軸的に配置された筒状ホルダー4と、一端部が陰極スリーブ1の他端外側面に取り付けられ、他端部が筒状ホルダー4の一端部に形成された内側張り出し部に取り付けられて、陰極スリーブ1を筒状ホルダー4の内側に同軸的に支持する複数個の短冊状ストラップ5と、筒状ホルダー4の一端部に形成された内側張り出し部に支持片6によって取り付けられて陰極スリーブ1と複数個のストラップ5との間に配置されたしゃへい筒7とから構成され、陰極スリーブ1の内側に挿入されたヒータ8により加熱される構造になっている。
【0123】
前記多孔質陰極基体3の材質はWである。この基体の空孔部には、例えばBaO:CaO:Al23 モル比が4:1:1の混合物とSc23 1重量%からなる電子放射物質が含浸されている。
【0124】
なお、この陰極構体は、例えば筒状ホルダー4の外表面に取り付けられたストラップ9を介して陰極構体上に順次所定間隔離れて配置される複数個の電極(図面には第1グリッドのG1のみ図示)とともに、絶縁支持体10に固定される。
【0125】
多孔質陰極基体3は、図8と同様の構成を有し、以下に示すように、例えばスクリーン印刷法により形成することができる。
まず、W粒子と、バインダ剤としてエチルセルロース、樹脂及び界面活性剤の混合物と、溶剤を混合し、塗布液を得る。
【0126】
大粒径低空孔率層として、例えば粒径約3μmのW粒子からなる空孔率約17%の多孔質タングステン基体を用意する。この基体は、例えば直径1.1mmであり、0.32mmの厚さを有する。
【0127】
この基体上に、ステンレス メッシュ スクリーンを用い、上記塗布液をスクリーン印刷し、小粒径高空孔率のタングステン薄膜層を形成する。
その後、薄膜層の焼結及び薄膜層と大粒径低空孔率層との接着及び焼結のため、H2 雰囲気中、2000℃の温度で、1時間の焼結を行なう。
【0128】
このようにして得られた小粒径高空孔率のタングステン薄膜層は、外観上クラックがなく、また、十分な強度を持ち、平均粒径1μm、空孔率約30%で、約10μmの均一な厚さを有していた。また、得られた陰極基体は、図8に示すモデル図と同様の二層構造を有する。
【0129】
上に述べた方法を用いて、小粒径高空孔率領域の粒径、空孔率及び大粒径低空孔率領域の粒径、空孔率を変化させた陰極線管用陰極基体を作成し、そのエミッション特性の評価及び強制ライフ試験を行なった。作成した陰極基体は、その材質としてテングステンを用い、その半径が1.1mm、厚さが0.32mmであった。電子放射物質としてBaO:CaO:Al23 =4:1:1を含浸した。小粒径高空効率領域は、スクリーン印刷法を用いて、10μmの厚さに形成した。さらにこの上にはIrのスパッタ膜を形成した。
【0130】
デューティによるエミッション特性は、この陰極基体に、ヒーター、陽極等を取り付けて組み立てられた二極管を用いて、陽極電圧200V、ヒーター電圧6.3Vの条件で行なった。
【0131】
強制ライフ試験は、この陰極基体を用いて組み立てられた陰極構体を画面対角寸法760mmのテレビジョン用受像管に搭載して、ヒーター電圧8.5V、陰極電流600μAの条件下で行なわれた。そのエミッション測定として、ヒーター電圧6.3V、第1グリットに200V、デューティ 0.25%のパルスを印加した時のカソード電流を測定を行なった。
その結果を表1及び表2に示す。
【0132】
【表1】
Figure 0003720913
【0133】
【表2】
Figure 0003720913
【0134】
表中、デューティ0.1%でのエミッション(%)とは、小粒径高空孔率領域のない粒径3μm、空孔率20%の陰極構体を用いた電子管で、デューティ0.1%のパルス動作を行なったときに得られるエミッション量を100として、各々の実験値をパーセントで表わしたものである。また、同様に、デューティ4.0%でのエミッション(%)とは、小粒径高空孔率領域を設けない粒径3μm、空孔率20%の陰極基体を用いた電子管で、デューティ4.0%のパルス動作を行なった時に得られるエミッション量を100として、各々実験値をパーセントで表示したものである。さらに、強制ライフ(%)は、下記式(2)で表わされる。
【0135】
(Ilife/I0 )/(Ilife ref /I0 ref )×100(%)…(2)
ここでは、小粒径高空孔率領域のない粒径3μm、空孔率20%の陰極基体を用いた電子管の強制ライフ試験前のエミッション値をI0 ref 、強制ライフ試験3000時間後のエミッション値をIlife ref とし、それに対し、表に示された構成の陰極構体を用いた電子管の強制ライフ試験前のエミッション値をI0 、強制ライフ試験3000時間後のエミッション値をIlifeとする。
【0136】
強制試験は、通常電子管の陰極フィラメント電圧が6.3Vであるところを8.5Vに引き上げて陰極温度を上昇させた状態で行なった。
表1及び表2から明らかなように、小粒径高空孔率領域の空孔率が25ないし40%の場合、耐イオン衝撃性が向上するが、空孔率が25%未満となると、エミッション特性が劣化し、また、40%を越えると、小粒径高空孔率領域の強度が十分に得られない傾向があることがわかる。小粒径高空孔率領域の粒径が0.1以上2μm未満の場合、耐イオン衝撃性が向上しているが、粒径が0.1μm未満となると、陰極表面に開口する空孔の数が著しく減少して含浸が困難となり、また2μmを越えると、十分な耐イオン衝撃性が得られない傾向があることがわかる。
【0137】
また、大粒径低空孔率領域の空孔率が15ないし25%の場合、良好な陰極特性が得られるが、空孔率が15%未満となると、含浸される電子放射物質の量が著しく減少して寿命が短くなり、また、25%を越えると、今度は電子放射物質に蒸発速度が上がりすぎて、寿命が短くなる傾向があることがわかる。大粒径低空孔率領域の粒径が2μm以上10μm未満の場合、良好な陰極特性が得られるが、粒径が2μm未満となると、クローズドポアが表れ、含浸量が減少し、寿命が短くなり、かつエミッション特性も劣化する傾向がある。また、大粒径低空孔率領域の粒径が10μmを越えると、焼結によって所定の空孔率を得るのに、膨大なエネルギーあるいは時間を要する傾向があることがわかる。
実施例3
この実施例は、本発明にかかる含浸型陰極構体の第3の例を示す。
【0138】
まず、大粒径低空孔率層として、実施例1と同様の大粒径低空孔率層として多孔質W基体を用意した。この多孔質W基体の放射面側の表面に、加工幅20〜50μmの深さで、同程度の20〜50μmのピッチで、研削等の機械加工により複数の加工溝を形成した。その後、0.5〜1μmの平均粒径のW粉末を得られた加工溝に充填した。
【0139】
その後、実施例1と同様にして熱処理を行なった。このようにして得られた陰極基体のモデル図を図11に示す。図11に示すように、この陰極基体は、粒径約3μmのW粒子からなる空孔率約17%の大粒径低空孔率の多孔質W基体42からなるマトリックスと、その基体表面に点在する平均粒径0.5〜1μm、空孔率30%の小粒径高空孔率のW領域41とから構成される。
実施例4
本実施例は、本発明にかかる含浸型陰極構体の第4の例を示す。ここでは、実施例2と同様のタイプの陰極構体に用いられる陰極基体をスプレー法を用いて形成した。
【0140】
まず、大粒径低空孔率層として、実施例2と同様の形状の粒径3μm、空孔率20%の多孔質W基体を用意した。
次に、塗布液として、W粒子と、酢酸ブチルとメタノールとの混合物を調製した。この塗布液を、吹付け距離10cm、、エア圧力を1.2kg/cm2 、吹き付け流量0.35cc/秒、吹き付け時間5秒として、エアガンを用いてこの基体表面上に塗布液を垂直に吹き付けた。得られた塗布膜をその後乾燥し、塗布膜の焼結及び基体との接着のため、水素雰囲気中1900℃の温度で10分間熱処理した。このようにして形成された小粒径高空孔率のW薄膜層は、外観上クラックがなく、また十分な強度を持ち、膜厚20μm、平均粒径1μm、空孔率30%であった。また、得られた陰極基体の構造は、図8に示すモデル図と同様である。
【0141】
図8に示すように、この二層構造を有する陰極基体23上に、BaO:CaO:Al23 =4:1:1のモル比の混合物からなる電子放射物質を適用し、H2 雰囲気下1700℃の温度で10分間加熱し、図中24で表わされるように電子放射物質を溶融含浸させた。
【0142】
このようにして作成された陰極構体を図10に示すような含浸型陰極構体に適用し、陽極を備え付け、ダイオード構成の電子管を作成し、この電子管の電子放射特性を測定した。その結果、本発明によれば、従来の含浸型陰極に比較し、高デューティ領域での電子放射特性が改善された。
実施例5
この実施例は、本発明の含浸型陰極構体にかかる第5の例を示す。
【0143】
ここでは、小粒径高空孔率のW薄膜層の形成方法は、次の通りである。
塗布液として、W粒子と、炭酸ジエチルとニトロセルロースの混合液を調製し、この塗布液を1000rpmで回転させた実施例4と同様の多孔質W基体上にスピンコート法を用いて形成する以外は、実施例4と同様にして各種層厚の小粒径高空孔率のW薄膜層を形成し、陰極基体を得た。得られた薄膜層は、平均粒径1μm、空孔率30%であった。また、得られた陰極基体は、図8に示すような二層構造を有していた。
【0144】
この陰極基体に、実施例4と同様にして電子放射物質を溶融含浸させた。
次に、電子放射物質が含浸された陰極基体の電子放射面側上に、Irの薄膜層を、スパッタ法を用いて形成した。得られたIr薄膜層と陰極基体のWとを合金化させるため、Ir薄膜層が形成された陰極基体を高純度の水素雰囲気下1290℃の温度で10分間加熱処理した。
【0145】
このようにして得られた含浸型陰極について、実施例4と同様に電子放射特性を評価した。このときの印加パルスのデューティとエミッション変化率との関係を表わすグラフを図12に示す。
【0146】
図12は、二層構造において、小粒径高空孔率層がない場合と、小粒径高空孔率層の層厚を変化させた場合とについて、そのデューティ比とエミッション変化率との関係を示す。図中、実線100は小粒径高空孔率層がない場合、103は、膜厚3μmの場合、110は膜厚10μmの場合、120は膜厚20μmの場合、及び130は膜厚30μmの場合を各々示す。この例では、大粒径低空孔率層として、粒径3μm、空孔率20%のもの、小粒径高空孔率層として粒径1μm、空孔率30%のものを用いた。また、エミッション変化率は、デューティ0.1%のときのエミッションを100%として表わした。その測定条件は、ヒータ電圧6.3V、陽極電圧200Vであった。
【0147】
この図より明らかなように、本発明によれば、従来の含浸型陰極構体に比較し、高デューティ領域での電子放射特性が改善されると共に、この膜厚が3〜30μmの範囲において高デューティ領域での優れた電子放射特性が得られた。
【0148】
実施例6
この実施例は、本発明の含浸型陰極構体の第6の例を示す。
まず、大粒径低空孔率層として、粒径3μm、空孔率20%の多孔質W基体を用意した。この陰極基体は、図10に示す陰極線管用陰極構体に適用し得るものである。その電子放射表面上層に、W粉末を有機溶剤とともにペースト状に調整し、スクリーン印刷によって混合物層の厚さが20μmになるように塗布した。その後、塗布されたペーストを乾燥し、水素雰囲気中、1900℃で10分間熱処理することにより、小粒径高空孔率のW薄膜層を形成した。なお、焼結後の多孔質層の平均粒径が1μm、空孔率が30%になるように、Wペーストの濃度、印刷条件及び前記焼結時の焼結時間・温度が調節した。
【0149】
このようにして作成された陰極基体は、図8に示すような二層構造を有していた。
この陰極基体に、BaO:CaO:Al23 =4:1:1モル比の混合物からなる電子放射物質を適用し、陰極基体の空孔中に水素雰囲気中で1700℃で、10分間溶融含浸させた。
【0150】
このように作成された陰極基体表面に、スパッタ法によりSc化合物薄膜層であるScH2 層及び高融点金属薄膜層であるRe層を交互に二層ずつ形成した。得られた陰極基体は、図13に示すように、大粒子低空孔率層22上に小粒子高空孔率層23が積層され、その空孔内に電子放射物質が含浸された積層体上に、ScH2 層25,27及び高融点金属薄膜層であるRe層26,28が交互に積層された構造を有する。ScH2 薄膜層及びRe薄膜層の厚さはいずれも20nmで、各層を2層ずつ交互にスパッタした。特に、ScH2 薄膜層をスパッタ時にはH2 の分離を防ぐためにスパッタガスとしてArガスに加え1容量%のH2 ガスを導入した。
【0151】
このようにして作成された陰極構体を図10に示すような含浸型陰極構体に適用し、陽極を備え付け、ダイオード構成の電子管を作成した。この電子管の電子放射特性を、以下のように評価した。まず、ヒーター電圧6.3Vで、陰極・陽極間に200Vのパルスを印加した。ここで、印加パルスのデューティを0.1から9.0%まで変化させ、その放出電流密度を測定した。
【0152】
本実施例にかかる含浸型陰極の放射電子特性として、そのデューティーと放出電流密度との関係を表すグラフ図を図14に示す。図中71は従来の酸化スカンジウム系含浸型陰極の測定結果、72は本発明によるスカンジウム系含浸型陰極の測定結果、73は従来のメタルコートの含浸型陰極の測定結果である。本発明によるスカンジウム系含浸型陰極は、従来の含浸型陰極よりも低・高デューティー領域共に放出電流特性が優れている。
【0153】
他の例として前記高融点金属薄膜層中のReの代わりにRuまたはHfを用いても、スカンジウム化合物薄膜層のScH2 の代わりにScを用いても、前記と同等の特性を示した。
実施例7
この実施例は、本発明の第7の例を示す。
【0154】
図15ないし図21に、本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図を示す。
まず、平均粒径3μmのタングステン粒子を用いて、通常の方法を用いて空孔率20%の大粒径低空孔率層の多孔質体を得た。
【0155】
その後、得られた大粒径低空孔率層上に、タングステンを含むペーストを、スクリーン印刷法を用いて成膜した。次いで、成膜されたペーストを、水素雰囲気中、1800℃で30分間焼成することにより、大粒径低空孔率層上に、平均粒径1μm、空孔率30%の小粒径高空孔率層の多孔質体を形成し、陰極基体を得た。
【0156】
この陰極基体の断面構造を表すモデル図を図15に示す。図15に示すように、得られた陰極基体123は、大粒径低空孔率層121と、その上に形成された小粒径高空孔率層122とから構成される。
【0157】
次に、大粒径低空孔率層121上に銅粒子を適用し、銅粒子層131を形成した。銅粒子層131の形成手段としては、例えば銅粒子含有ペーストを用いてスクリーン印刷を行なう方法、銅粒子を小粒径高空孔率層122表面に直接まぶす方法等を用いることができる。ここでは、直接まぶす方法を用いた。
【0158】
このようにして得られた陰極基体の断面構造を表すモデル図を図16に示す。図16に示すように、銅粒子が適用された陰極基体133は、陰極基体123上に銅粒子層131を有する。
【0159】
その後、陰極基体133を例えばモリブデン製のカップに入れ、水素雰囲気中で1080℃程度まで加熱することにより、銅粒子131を溶融させ、小粒径高空孔率層122表面を銅被覆層で覆った。この時、加熱温度は、最高で、銅の融点である1083℃であればよいが、銅被覆が十分に行なわれる範囲で設定することができる。
【0160】
図17は、銅被覆層で覆われた陰極基体143の断面構造を表すモデル図である。図17に示すように、陰極基体143上は溶融された銅被覆層141により覆われている。
【0161】
図18は、陰極基体の切断工程を説明するための該略図である。図18に示すように、得られた陰極基体143を、その後、レーザー光源150からのレーザー光151により切断し、図19に示すように、所定の大きさの個々の陰極基体160に切り出した。
【0162】
図20に、切り出された陰極基体の形状を表す図を示し、図21は、タンブリング処理後の陰極基体の様子を模式的に表す図を示す。図20に示すように、切り出された陰極基体160にはバリ161が存在し、また、酸化、蒸発物による汚染物162等が付着していた。
【0163】
さらに、切り出された陰極基体160を、アルミナとシリカからなる小球体とともに密閉容器に入れ、バレル研磨機を用いてタンブリング処理を行なった。図21に示すように、この処理により、バリ161及び汚染物162等が除去され、大粒径低空孔率層121と小粒径高空孔率層122と銅被覆層141層とから構成される陰極基体180が得られた。
【0164】
得られた陰極基体180は、硝酸:水の体積比が1:1の溶液に、約12時間浸漬後、水洗、乾燥した。その後、モリブデン製のカップに入れ、水素雰囲気中で銅の炎光がなくなるまで1500℃で加熱し、銅を除去した。図22は、銅を除去した陰極基体の様子を表すモデル図である。図22に示すように、銅を除去した後の小粒径高空孔率層122表面は、切断、タンブリングによる表面形状の悪化は見られず、良好であった。また、小粒径高空孔率層122の空孔部にも閉塞はみられなかった。
【0165】
次いで、小粒径高空孔率層122表面に、酸化バリウム:酸化カルシウム:酸化アルミニウムを4:1:1のモル比で混合して得られた電子放射物質を適用し、水素雰囲気中で1650℃で約3分間加熱することにより陰極基体180内に溶融含浸させた。図23に、このようにして得られた含浸型陰極の構成を表すモデル図を示す。図23に示すように、適用された電子放射物質208は、小粒径高空孔率層122の空孔部を通して、大粒径低空孔率層121の空孔部内に含浸された。
【0166】
以上のように、第7の例によれば、本発明の方法を用いることにより、切断、タンブリング工程が改良され、電子放射面に損傷なく良好な含浸型陰極が得られる。
実施例8
以下に、本発明の第8の例について示す。
【0167】
図24及び図25は、本発明に使用される陰極構体の製造工程を説明するための図を示す。
まず、実施例7と同様にして平均粒径3μm、空孔率20%のタングステン多孔質体からなる大粒径低空孔率層を得た。
【0168】
その後、得られた大粒径低空孔率層上に、タングステンと銅粒子を含むペーストを、スクリーン印刷法を用いて成膜した。次いで、成膜されたペーストを、水素雰囲気中、1800℃で30分間焼成することにより、大粒径低空孔率層上に、平均粒径1μm、空孔率30%の小粒径高空孔率層の多孔質体からなる陰極基体を得た。
【0169】
この陰極基体の断面構造を表すモデル図を図24に示す。図24に示すように、得られた陰極基体213は、大粒径低空孔率層211と、小粒径高空孔率層212とからなる二層構造を有し、小粒径高空孔率層212は、タングステン粒子214と銅粒子215とを含む多孔質層である
陰極基体213を実施例7と同様にして加熱することにより、銅粒子131を溶融させ、小粒径高空孔率層212表面を銅で覆い、その空孔部を埋めた。
【0170】
図25は、銅により空孔部が埋められた陰極基体の断面構造を表すモデル図である。図25に示すように、陰極基体223の小粒径高空孔率層222は、タングステン粒子214間の空孔部が溶融された銅225によって埋められた構造を有する。
【0171】
得られた陰極基体223を実施例7と同様にして切断し、タンブリングを行ない、銅成分を除去した。銅を除去した後の小粒径高空孔率層表面は、切断、タンブリングによる表面形状の悪化は見られず、良好であった。また、小粒径高空孔率層の空孔部にも閉塞はみられなかった。
【0172】
次いで、小粒径高空孔率層表面に、実施例7と同様にして電子放射物質を適用、溶融させたところ、陰極基体内に十分に溶融含浸させることができた。
第8の例によれば、本発明の方法を用いることにより、切断、タンブリング工程が改良され、電子放射面に損傷なく良好な含浸型陰極が得られる。
【0173】
上記本発明の含浸型陰極基体あるいはそれを用いた含浸型陰極構体を電子管、具体的には陰極線管、クライストロン、進行波管さらにはジャイロトロンに使用、さらに具体的には、図3に示す陰極線管、図4に示すクライストロン、図5に示す進行波管、図6に示すジャイロトロンに使用したところ、高電圧、高周波条件下でも、十分な耐イオン衝撃性を有し、良好な電子放射特性を有する高性能、高寿命の各種電子管が得られた。なお、本発明の含浸型陰極構体は、上記例に限らず各種電子管に用いることができる。
【0174】
【発明の効果】
本発明にかかる含浸型陰極構体は、改良された陰極基体を使用することにより、高電圧、高周波数条件下でも十分な耐イオン衝撃性を示し、良好な電子放射特性を有する。
【0175】
また、含浸型陰極の電子放射面上に特定の物質層を設けることにより、その低温動作性がさらに向上する。
さらに、本発明にかかる製造方法を用いることにより、表面及び空孔部の状態が良好な含浸型陰極が得られるため、十分な耐イオン衝撃性を示し、良好な電子放射特性を有する含浸型陰極構体を提供することができる。
さらにまた、本発明の含浸型陰極構体を用いることにより、高電圧、高周波数条件下でも良好な動作が可能な優れた電子銃構体及び電子管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかる陰極線管用電子銃構体の一例を説明するための概略断面図
【図2】 本発明にかかるクライストロン用電子銃構体の一例の主要部を説明するための概略断面図
【図3】 本発明にかかる陰極線管用電子管の一例を説明するための概略断面図
【図4】 本発明にかかるクライストロン用電子管の一例の主要部を説明するための概略断面図
【図5】 本発明にかかる進行波管用電子管の一例を説明するための概略断面図
【図6】 本発明にかかるジャイロトロン用電子管の一例を説明するための概略断面図
【図7】 本発明にかかる含浸型陰極構体の第1の例を表す一部切欠概略図
【図8】 図7の含浸型陰極の構造を表すモデル図
【図9】 図7の含浸型陰極構体の電子放射特性を表すグラフ図
【図10】 第2の例に用いられる陰極構体の構造を表す概略図
【図11】 第3の例に用いられる陰極構体の構造を表すモデル図
【図12】 第5の例にかかる放射電子特性を表すグラフ図
【図13】 第6の例に用いられる陰極構体の構造を表すモデル図
【図14】 第6の例に関する放射電子特性を表すグラフ図
【図15】 本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図
【図16】 本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図
【図17】 本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図
【図18】 本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図
【図19】 本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図
【図20】 本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図
【図21】 本発明に使用される陰極基体の製造工程を説明するための図
【図22】 第7の例にかかる陰極基体の構造を示すモデル図
【図23】 第7の例にかかる陰極基体の構造を示すモデル図
【図24】 本発明に使用される陰極構体の他の製造工程を説明するための第7の例にかかる陰極基体の構造を示すモデル図
【図25】 本発明に使用される陰極構体の他の製造工程を説明するための図
【符号の説明】
1…陰極スリーブ
2…カップ状固定部材
3,52,123,160,200…多孔質陰極基体
4…筒状ホルダー
5…ストラップ
6…支持片
7…しゃへい筒
8…ヒータ
9…ストラップ
10…絶縁支持体
11…支持筒
14…埋め込み材
18…ヒーター
22,121…大粒径低空孔率層
23,122…小粒径高空孔率層
24,208…電子放射物質
41…小粒径高空孔率領域
42…大粒径低空孔率領域
53…モリブデン微粉末、酸化スカンジウム混合物層
131…銅粒子層
141…銅被覆層
143…多孔質体
151…レーザ光
150…レーザー光源
161…バリ
162…汚染物
212…タングステン粒子と銅粒子とを含む多孔質層
214…タングステン粒子
215…銅粒子

Claims (12)

  1. 大粒径低空孔率領域と、該大粒径低空孔率領域の電子放射面側に設けられ、該大粒径低空孔率領域の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、かつ該大粒径低空孔率領域の空孔率よりも大きい空孔率を有する小粒径高空孔率領域とを含み、電子放射物質が含浸されてなる含浸型陰極基体において、
    前記小粒径高空孔率領域は、その平均粒径が1μm以上2.0μm未満であり、空孔率が25ないし40%であることを特徴とする含浸型陰極基体
  2. 前記大粒径低空孔率領域は、その平均粒径が2ないし10μmであり、かつ空孔率が15ないし25%であることを特徴とする請求項1に記載の含浸型陰極基体。
  3. 前記小粒径高空孔率領域は、その厚さが30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の含浸型陰極基体。
  4. 前記小粒径高空孔率領域は、前記大粒径低空孔率領域の電子放射面側に、線状または点状に存在していることを特徴とする請求項1に記載の含浸型陰極基体。
  5. 前記大粒径低空孔率領域から前記小粒径高空孔率領域にかけて、その平均粒径及び空孔率が段階的に変化することを特徴とする請求項1に記載の含浸型陰極基体。
  6. その電子放射面上に、イリジウム、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ロジウム、及びスカンジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む層がさらに形成された請求項1ないし3のいずれか1項に記載の含浸型陰極基体。
  7. 請求項1ないしのいずれか1項に記載の含浸型陰極基体を有することを特徴とする含浸型陰極構体。
  8. 請求項に記載の含浸型陰極構体を具備する電子管。
  9. 前記電子管は、陰極線管用であることを特徴とする請求項に記載の電子管。
  10. 前記電子管は、クライストロン用である請求項に記載の電子管。
  11. 請求項に記載の含浸型陰極構体を設けた電子銃構体と、該含浸型陰極構体の電子放射面側に同軸的に配置された信号を増幅する遅波回路と、電子ビームを細くするコレクタ部を具備し、進行波管に使用されることを特徴とする請求項に記載の電子管。
  12. 請求項に記載の含浸型陰極構体を設けた電子銃構体と、該含浸型陰極構体の電子放射面側に配置された次第に径が小さくなるテーパ状の電子ビーム圧縮部と、該テーパ状電子ビーム圧縮部に連続的に配置された空胴共振部と、前記空胴共振部に連続的に配置された次第に径が大きくなるテーパ状電磁波案内部と、電子ビームを捕捉するコレクタ部と、前記共振空胴部の外周部に配置された磁場発生装置を具備し、ジャイロトロンに使用されることを特徴とする請求項に記載の電子管。
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