JP3719068B2 - 車両の駆動力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、駆動輪に係る駆動力を制御する車両の駆動力制御装置に関し、特にエンジンへの燃料の供給を停止(燃料カット)するとか、スロットル開度を調整して減少することにより、当該エンジンの出力を制御することで当該各駆動輪への駆動力を制御可能とする車両の駆動力制御装置に適する。
【0002】
【従来の技術】
このような車両の駆動力制御装置としては、例えば特開平9−280081号公報に記載されるものがある。この駆動力制御装置では、例えば現在の加速度を維持するために必要な駆動トルク成分(以下、フィードフォワード項、F/F項とも記す)を求めると共に、目標とする駆動輪速度と実際の駆動輪速度との差分値、所謂スリップ量及びその微分値及びその積分値の夫々に所定のゲインを乗じ、それらの加算値を、駆動輪スリップを有効に抑制する駆動トルク成分(以下、フィードバック項、F/B項とも記す)とし、両者の和から駆動力制御装置が要求するトルク、所謂TCS(Traction Contorol System)要求トルクを求め、このTCS要求トルクから目標エンジントルクを設定し、この従来例では、自ら当該目標エンジントルクが達成されるように、スロットル開度を調整することでエンジンの回転状態を制御して駆動力を制御するようにしている。また、特開平9−280082号公報に記載される車両の駆動力制御装置では、駆動輪スリップを抑制する駆動トルク成分に応じて燃料カットするエンジン気筒数を設定し、それらの気筒への燃料カットを行うことでエンジンの回転状態を制御して駆動力を制御するようにしている。
【0003】
ちなみに、前記TCS要求トルクのF/B項に用いられるゲインは、前記駆動輪のスリップ状態、例えば前記スリップ量やその微分値の大きさによって変更している。具体的には、例えばスリップ量の微分値の絶対値が小さい領域ではゲインが小さく、スリップ量の微分値の絶対値の増加と共にゲインを大きくするようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、例えば車両が安定して走行しているとき、所謂定常状態で駆動輪スリップが発生したときには、その原因が駆動力増加によるものなのか、或いは路面の摩擦係数状態が高い状態から低い状態に移行したためのものなのかが分からないから、前記TCS要求トルクのF/B項のゲインを、単に駆動輪スリップ量やその微分値に応じて設定するようにすると、特に路面摩擦係数状態(以下、単に路面μとも記す)が変化したときに適切な制御が行えない可能性がある。また、このような定常状態で発生する駆動輪スリップには、例えば自動変速機がギヤ位置を、減速比の大きい状態から小さい状態になるように変更する、所謂アップシフト時のものもある。これは、自動変速機内の摩擦要素が完全に締結する前に、出力軸側の回転数が完全締結後の回転数よりも低下して、出力軸トルクが増大するために発生する。前述のTCS要求トルクのF/B項算出に用いられるゲインは、あくまでもエンジンの発生トルクが大き過ぎる場合を想定して設定されたものであり、路面μの急激な変化やアップシフトに対応したものではないから、エンジンの回転状態を制御する駆動力制御装置としては、適切な制御を行えない場合もある。
【0005】
本発明は、これらの諸問題に鑑みて開発されたものであり、路面μの急激な変化やアップシフト時の駆動輪スリップを速やかに抑制して、適切な制御が行われるようにすることができる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に係る車両の駆動力制御装置は、駆動輪のスリップ状態を検出する駆動輪スリップ状態検出手段と、当該駆動輪スリップ状態検出手段で検出された駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定する目標エンジントルク設定手段と、この目標エンジントルク設定手段で設定された目標エンジントルクに応じてエンジンの回転状態を制御するエンジン制御手段と、自動変速機のギヤ位置が、減速比の大きい状態から小さい状態に変化するアップシフトを検出するアップシフト検出手段と、このアップシフト検出手段でアップシフトを検出したとき、前記駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きくするゲイン補正手段とを備え、前記ゲイン補正手段は、前記アップシフトが検出されてから、アップシフトの所要時間より短い所定時間だけゲインを大きくすることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明のうち請求項2に係る車両の駆動力制御装置は、前記請求項1の発明において、路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記ゲイン補正手段は、前記路面摩擦係数状態検出手段で検出された路面摩擦係数状態の変化速度が所定速度以上で高い状態から低い状態に変化するとき、前記駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きくすることを備えたことを特徴とするものである。
また、本発明のうち請求項3に係る車両の駆動力制御装置は、前記請求項2の発明において、前記ゲイン補正手段は、前記高い状態から低い状態に変化する路面摩擦係数状態の変化速度が大きいほど、前記目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きく設定することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のうち請求項4に係る車両の駆動力制御装置は、前記請求項1乃至3の何れかの発明において、前記ゲイン補正手段は、前記駆動輪のスリップ状態のうち、目標駆動輪速度と実際の駆動輪速度との差分値に乗じるゲインを補正することを特徴とするものである。
【0010】
【発明の効果】
而して、本発明のうち請求項1に係る車両の駆動力制御装置によれば、変速機のアップシフトを検出し、アップシフトを検出したとき、駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きくする構成としたため、アップシフト時に発生する駆動輪のスリップを速やかに抑制し、通常のエンジン回転状態を制御する駆動力制御の状態に復帰して、適正な制御を維持できるようにすることができる。
【0011】
また、通常の自動変速機などでは、アップシフトに係る所要時間は限られているので、この限られた所要時間より短い所定時間だけゲインを大きくする構成としたため、アップシフト時に発生する駆動輪のスリップを有効に且つ速やかに抑制して、通常の駆動力制御の状態に速やかに復帰することができる。
【0012】
また、本発明のうち請求項2に係る車両の駆動力制御装置によれば、路面の摩擦係数状態を検出し、その路面摩擦係数状態の変化速度が所定速度以上で高い状態から低い状態に変化するとき、駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きくする構成としたため、路面μが急激に変化したときに発生する駆動輪のスリップを速やかに抑制し、通常のエンジン回転状態を制御する駆動力制御の状態に復帰して、適正な制御を維持できるようにすることができる。
【0013】
また、本発明のうち請求項3に係る車両の駆動力制御装置によれば、高い状態から低い状態に変化する路面摩擦係数状態の変化速度が大きいほど、目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きく設定する構成としたため、路面μの変化が大きいほど、大きくなるであろう駆動輪のスリップを有効且つ速やかに抑制することができる。
【0015】
また、本発明のうち請求項4に係る車両の駆動力制御装置によれば、目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きくするに当たり、目標駆動輪速度と実際の駆動輪速度との差分値に乗じるゲインを補正する構成としたため、定常状態で発生するアップシフト時の駆動輪スリップを適切に且つ速やかに抑制することができる。また、定常状態で発生する路面μ変化時の駆動輪スリップを適切に且つ速やかに抑制することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の車両の駆動力制御装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る駆動力制御装置の一実施例が適用された車両を示す概略構成図であって、後輪駆動車である場合を示している。図中、10FL,10FRは、非駆動輪(従動輪)となる前左輪,前右輪を、10RL,10RRは、駆動輪となる後左輪,後右輪を示す。つまり、ここでは直列4気筒で構成されるエンジン20の出力は、既存のトルクコンバータ18を介して自動変速機14に伝達され、この自動変速機14で自動的に選択されたギヤ比(減速比)で減速されることにより駆動トルクが調整され、更にプロペラシャフト22、ディファレンシャルギヤ24を介して後左右車軸12L,12Rに分岐され、その回転駆動力が両後輪10RL,10RRから路面に伝達される。
【0017】
前記エンジン20の吸気管路36には、ステップモータ45をアクチュエータとし、そのステップ数に応じた回転角により開度が調整可能なスロットルバルブ39と、前記4つの気筒の夫々に燃料を噴射する燃料噴射装置(以下,インジェクタとも記す)21a〜21dとが設けられている。このうち、インジェクタ21a〜21dは、後述するエンジンコントロールユニット31からの駆動信号に応じてエンジン20の各気筒への燃料噴射のタイミング及びその量を調整するものであり、当該エンジンコントロールユニット31からの要求駆動信号によっては各気筒への燃料噴射を停止することも可能である。また、前記スロットルバルブ39は、アクセルペダル37の踏込み量を検出するアクセルセンサ37aの踏込み量検出値に応じて、エンジンコントロールユニット31が電気的に調整制御して、その開方向へのスロットル開度を調整すると共に、エンジンコントロールユニット31からの駆動信号によってステップモータ45のステップ数(回転角)が調整制御され、この回転角に応じてスロットル開度が調整されるが、エンジンコントロールユニット31のフェイル時には、アクセルペダル37の踏込み量に機械的に連動することが可能となっている。なお、図中の符号42はスロットルバルブ39のスロットル開度を検出するスロットルセンサ、符号49は、ステップモータ45の回転角を検出するスロットルモータセンサである。また、このエンジン20及びその周囲には、前記エンジンコントロールユニット31でエンジンの燃焼状態を電子制御するために必要な各種のセンサが設けられており、具体的には吸気管路36には燃焼用の空気流量を検出するエアフローメータ41が、排気管路38には排気中の酸素濃度を検出するO2 センサ40が、またシリンダブロックの外部にはエンジン20内での所謂ノッキングを検出するノックセンサ47が、また図示されないクランク軸回りにはエンジン20の回転数NE を検出するエンジン回転数センサ44が、またエンジン20を冷却する冷却液路の近傍には、当該冷却液温度TW を検出する冷却液温度センサ43等が設けられており、夫々の検出信号は、エンジンコントロールユニット31に出力される。
【0018】
また、前記自動変速機14では、トランスミッションコントロールユニット34からの制御信号又は駆動信号によってアクチュエータユニット32が駆動される。このトランスミッションコントロールユニット34で制御される自動変速機14内のギヤ比は、周知のように、出力軸回転速度として代用され且つ車速センサ48で検出される車速と前記スロットルセンサ42で検出されたスロットル開度とを変数として、或いは前記エンジン回転数センサ44で検出されたエンジン回転数を参照としながら、運転状態に応じた最適な駆動トルクが得られる車両減速比となるように制御される。ちなみに、本実施例のトランスミッションコントロールユニット34は、前記エンジンコントロールユニット31と相互に情報の授受を行って前記エンジン20及び自動変速機14の通常走行時における最適化制御を実施しており、例えば選択されている減速比をギヤ位置GPとしてエンジンコントロールユニット31やトラクションコントロールユニット30に向けて出力する。
【0019】
また、前記各車輪10FL〜10RRには車輪速センサ28FL〜28RRが設けられており、各車輪速センサ28FL〜28RRからは、当該車輪10FL〜10RRの回転速度に応じたパルス信号が、その車輪速VwFL〜VwRRとして後述するトラクションコントロールユニット30に向けて出力される。
また、前記エンジンコントロールユニット31は、図示されないマイクロコンピュータ等を内蔵して構成されており、例えば前記冷却液温度センサ43で検出された冷却液温度、エンジン回転数センサ44で検出されたエンジン回転数NE 、スロットルセンサ42で検出されたスロットル開度、スロットルモータセンサ49で検出されたスロットルモータ回転角、O2 センサ40で検出された排気中O2 濃度、ノックセンサ47で検出されたノッキング状態、エアフローメータ41で検出された燃焼用空気流量等に基づいて、独自の演算処理に応じ、或いは前記トランスミッションコントロールユニット34や後述するトラクションコントロールユニット30からの要求信号や情報信号に応じて、インジェクタ21a〜21dのON/OFF及びそのタイミングと燃料噴射量や、スロットルバルブ39のスロットル開度等を調整して空燃比を調整することで、エンジン20の燃焼状態を制御することにより当該エンジン20の回転状態を制御して、これによりスムーズな加速感や必要にして十分な減速感を得たり、点火プラグ23a〜23dの点火時期やアイドル回転数等を車両の状態に応じて最適制御したりする。
【0020】
一方、前記トラクションコントロールユニット30は、図2に示すように、マイクロコンピュータ84を内蔵して構成される。このマイクロコンピュータ84は、A/D変換機能等を有する入力インタフェース回路84a、マイクロプロセサユニット(MPU)等から構成される演算処理装置84b、ROM,RAM等からなる記憶装置84c、及びD/A変換機能等を有する出力インタフェース回路84dを備えており、前記演算処理装置84bは、後述する演算処理に従って目標エンジントルクT* ENG を算出し、エンジンコントロールユニット31に向けて出力する。また、前記記憶装置84cは、演算処理装置84bの演算処理に必要な処理プログラムを予め記憶していると共に、当該演算処理装置84bの処理結果を逐次記憶する。また、このトラクションコントロールユニット30にも、前記エンジンコントロールユニット31やトランスミッションコントロールユニット34から種々の情報が与えられる。
【0021】
ここで、本実施形態では、例えば運転者のアクセル操作状態から当該運転者が要求するトルクをドライバ要求トルクとして設定し、前述のTCS要求トルクと比較して、何れか小さい方から目標エンジントルクを設定し、その目標エンジントルクに応じて燃料カット気筒数やスロットル開度を設定し、エンジンの回転状態を制御する、トルクデマンド型の駆動力制御を行うものとする。このような駆動力制御装置では、例えば前記目標エンジントルクの算出設定までを駆動力制御装置側で行い、実際のエンジンの回転状態の制御は、エンジン制御装置側で行うようにすることが可能である。
【0022】
次に、前記エンジンコントロールユニット31で行われる演算処理の一部を図3のフローチャートに基づいて説明する。前述のように、このエンジンコントロールユニット31では、独自にエンジンの回転状態を制御することができるが、トランスミッションコントロールユニット34やトラクションコントロールユニット30からの要求があれば、それを参照して、エンジンの回転状態を制御することも行う。この演算処理は、特にトラクションコントロールユニット30とのインターフェースを担い、所定の制御時間毎のタイマ割込処理によって、他の演算処理と平行して実行される。
【0023】
この演算処理では、まずステップS01で、図示されない個別の演算処理により現在のエンジントルクTENG を算出する。具体的には、エンジン回転数NE 及びスロットル開度から三次元マップに基づいてエンジントルクを算出する。
次にステップS02に移行して、図示されない個別の演算処理により、運転者が要求するドライバ要求トルクTDRV を算出する。具体的には、アクセルペダルの操作量やその操作速度から、運転者が要求している駆動トルクを求める。
【0024】
次にステップS03に移行して、後述するトラクションコントロールユニット30からの目標エンジントルクT* ENG を読込む。
次にステップS04に移行して、図示されない個別の演算処理により、前記目標エンジントルクT* ENG を達成するための目標燃料カット気筒数(燃料カット対象気筒を含む)及び目標スロットル開度を算出設定する。具体的には、例えば目標エンジントルクT* ENG から現在エンジントルクTENG を減じた値をトルクダウン量(トラクションコントロールユニット30から要求のある場合は、凡そ現在エンジントルクTENG が目標エンジントルクT* ENG より大きい)としたとき、トルクダウン量の絶対値が大きいほど燃料カットを優先し、小さいほどスロットル開度制御を優先するように設定されている。
【0025】
次にステップS05に移行して、前記ステップS04で設定した目標燃料カット気筒数及び目標スロットル開度を達成する夫々の制御信号を創成し、出力してメインプログラムに復帰する。
従って、この演算処理では、トラクションコントロールユニット30からの目標エンジントルクT* ENG が現在エンジントルクTENG より小さいほど、燃料カットの気筒数を増やして速やかにエンジントルクを減少し、逆に目標エンジントルクT* ENG が現在エンジントルクTENG に対してさほど小さくないときには、スロットル開度を調整してエンジントルクをゆっくり減少する。
【0026】
次に、前記トラクションコントロールユニット30のマイクロコンピュータ84で実行される演算処理を図4のフローチャートに基づいて説明する。なお、この演算処理では、特に通信のためのステップを設けていないが、演算処理装置84bで算出された演算結果は随時記憶装置84cに記憶され、記憶装置84cに記憶されている情報は随時演算処理装置84bのバッファ等に伝達記憶されるようになっている。
【0027】
そして、この演算処理は、例えば前記マイクロコンピュータ84の演算処理装置84bにおいて、例えば10msec. 程度の所定制御時間ΔT毎にタイマ割込み処理によって実行され、先ず、ステップS1で、各車輪速センサ28FL〜28RRからの車輪速Vwi (i:FL〜RR)を読込む。
次にステップS2に移行して、前記エンジンコントロールユニット31で算出された現在エンジントルクTENG 、ドライバ要求トルクTDRV 、エンジン回転数センサ44で検出されたエンジン回転数NE 、及び前記トランスミッションコントロールユニット34から出力されたギヤ位置GPを読込む。なお、ギヤ位置GPは、例えばエンジン回転数NE を、後述する車体速と等価な前左右輪速VwF で除した減速比から、マップ検索などにより推定するようにしてもよい。
【0028】
次にステップS3に移行して、駆動輪である平均後輪速の比較対象となる車体速を、非駆動輪(従動輪)である前左右輪10FL,10FRの前左右輪速VwFL,VwFRの平均値と等価であるとして、その平均前輪速(以下、平均従動輪速とする)VwF を下記1式に従って算出する。
VwF =(VwFL+VwFR)/2 ……… (1)
次にステップS4に移行して、駆動輪である後左右輪10RL,10RRの後左右輪速VwRL,VwRRから、平均後輪速(以下、平均駆動輪速とする)VwR を下記2式に従って算出する。
【0029】
VwR =(VwRL+VwRR)/2 ……… (2)
次にステップS5に移行して、前記車体速と等価な平均従動輪速VwF に所定値αを加算した値を、駆動力制御開始のための駆動輪速閾値VwR0として算出する。
次にステップS6に移行して、前記平均駆動輪速VwR が前記駆動輪速閾値VwR0より大きいか否かを判定し、大きい場合にはステップS7に移行し、そうでない場合にはステップS8に移行する。
【0030】
前記ステップS7では、駆動力制御フラグFTCS を“1”にセットしてからステップS9に移行する。
一方、ステップS8では、前駆動力制御フラグFTCS が“1”のセット状態であるか否かを判定し、セット状態である場合には前記ステップS9に移行し、そうでない場合にはステップS24に移行する。
【0031】
前記ステップS9では、前記車体速と等価な平均従動輪速の今回値VwF(n)から前回値VwF(n-1)を減じた値を前記所定制御時間ΔTで除すことにより、車両の前後加速度XG を算出してからステップS10に移行する。
前記ステップS10では、後述する図5の演算処理に従って、駆動力制御装置として要求するTCS要求トルクTTCS のうち、例えば現在の加速度を維持する、或いは運転者の意図する加速度を達成するために必要な駆動トルクをフィードフォワード項(以下、F/F項)として設定してからステップS11に移行する。
【0032】
前記ステップS11では、下記3式に従って路面μを算出してからステップS12に移行する。
μ=K1 ・(XG 2 +YG 2 )1/2
YG =VwF ×|VwFL−VwFR|(=車体速×ヨーレイト) ……… (3)
但し、YG は横加速度、K1 は定数である。
【0033】
前記ステップS12では、後述する図6の演算処理に従って、前記TCS要求トルクTTCS のうち、駆動輪のスリップを有効に抑制する駆動トルク(一般に減少側)であるフィードバック項(以下、F/B項)のスリップ量比例項の補正係数Aを設定してからステップS13に移行する。
前記ステップS13では、前記車体速と等価な平均従動輪速VwF に所定値βを加算した値を目標駆動輪速V* wR として算出してからステップS14に移行する。
【0034】
前記ステップS14では、前記目標駆動輪速V* wR から平均駆動輪速VwR を減じた値をスリップ量ΔVwR として算出してからステップS15に移行する。
前記ステップS15では、前記スリップ量の今回値ΔVwR(n)から前回値ΔVwR(n-1)を減じた値を前記所定制御時間ΔTで除すことにより、スリップ変化速度ΔV’wR を算出してからステップS16に移行する。
【0035】
前記ステップS16では、前記スリップ量ΔVwR に積分ゲインKI を乗じた値を前記TCS要求トルクのF/B項積分項の変化量ΔTF/BIとして算出してからステップS17に移行する。
前記ステップS17では、前記スリップ量ΔVwR に比例ゲインKP 及び前記比例項補正係数Aを乗じた値を前記TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPとして算出してからステップS18に移行する。
【0036】
前記ステップS18では、前記スリップ変化速度ΔV’wR に微分ゲインKD を加算した値を前記TCS要求トルクのF/B項微分項TF/BDとして算出してからステップS19に移行する。
前記ステップS19では、前回の制御時刻に算出された前記TCS要求トルクのF/B項積分項の前回値TF/BI(n-1) に前記F/B項積分項変化量ΔTF/BIを加算した値を前記TCS要求トルクのF/B項積分項(の今回値)TF/BIとして算出してからステップS20に移行する。
【0037】
前記ステップS20では、前記TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPとF/B項微分項TF/BDとF/B項積分項TF/BIとの総和を当該TCS要求トルクのF/B項TF/B として算出してからステップS21に移行する。
前記ステップS21では、前記TCS要求トルクのF/B項TF/B とF/F項TF/F との和を当該TCS要求トルクTTCS として算出してからステップS22に移行する。
【0038】
前記ステップS22では、前記ステップS2で読込まれたドライバ要求トルクTDRV が前記ステップS21で算出されたTCS要求トルクTTCS より大きいか否かを判定し、大きい場合にはステップS23に移行し、そうでない場合にはステップS24に移行する。
前記ステップS23では、前記TCS要求トルクTTCS を目標トルクT* に設定してからステップS26に移行する。
【0039】
一方、前記ステップS24では、前記TCS制御フラグFTCS を“0”にリセットしてからステップS25に移行する。
前記ステップS25では、前記ドライバ要求トルクTDRV を目標トルクT* に設定してから前記ステップS26に移行する。
前記ステップS26では、前記ステップS23又はステップS25で設定された目標トルクT* を、例えばギヤ比で除すなどして目標エンジントルクT* ENG に変換してからメインプログラムに復帰する。
【0040】
次に、前記図4の演算処理のステップS10で行われる図5の演算処理について説明する。
この演算処理では、まずステップS101で、前記図4の演算処理のステップS9で算出された前後加速度XG に所定のゲインK2 を乗じた値を、前記TCS要求トルクの基準F/F項TF/F0として算出する。
【0041】
次にステップS102に移行して、前記図4の演算処理のステップS2で読込んだ現在エンジントルクTENG に所定の係数K3 を乗じて、当該現在エンジントルクTENG で達成可能な平坦路での加速度を運転者が要求する要求加速度XG0として算出する。
次にステップS103に移行して、前記要求加速度XG0から前記前後加速度XG を減じた値を前後加速度差分値ΔXG として算出する。
【0042】
次にステップ104に移行して、前記ステップS101で算出されたTCS要求トルクの基準F/F項TF/F0に前記前後加速度差分値ΔXG 及び所定のゲインK4 を乗じた値を前記TCS要求トルクのF/F項TF/F として算出してから前記図4の演算処理のステップS11に復帰する。
次に、前記図4の演算処理のステップS12で行われる図6の演算処理について説明する。
【0043】
この演算処理では、まずステップS121で、前回の制御時には、駆動輪のスリップが定常な状態にあったか否かの判定を行い、駆動輪のスリップが定常な状態にあった場合にはステップS122に移行し、そうでない場合にはステップS128に移行する。この駆動輪スリップが定常な状態にあるかどうかの判定は、例えば特開平9−280080号公報に記載されるように、前記平均駆動輪速VwR が目標駆動輪速VwR0に対して著しく変動しておらず、且つ目標駆動輪速VwR0に対してある一定のレベルまで収束している状態を示し、具体的には、例えば平均駆動輪速VwR の変化率の大きさや、平均駆動輪速VwR と目標駆動輪速VwR0との差分値などで推定することができる。
【0044】
前記ステップS122では、前記図4の演算処理のステップS11で算出された路面μの今回値μ(n) から、前回の制御時に算出された路面μの前回値μ(n-1) を減じた値を前記所定制御時間ΔTで除すことにより、路面μ変化速度dμ/dtを算出してからステップS123に移行する。
前記ステップS123では、前記路面μ変化速度dμ/dtが負値であるか否かを判定し、それが負値である場合にはステップS124に移行し、そうでない場合にはステップS126に移行する。
【0045】
前記ステップS124では、前記路面μ変化速度dμ/dtが、予め設定された負値の所定値B0 より小さいか否かを判定し、小さい場合にはステップS125に移行し、そうでない場合には前記ステップS126に移行する。
前記ステップS125では、図7に示す制御マップに従って、前記路面μ変化速度dμ/dtに応じて、前記TCS要求トルクのF/B項比例項補正係数Aを設定してから前記図4の演算処理のステップS13に復帰する。この制御マップでは、前記路面μ変化速度dμ/dtが前記所定値B0 以上である領域では、前記TCS要求トルクのF/B項比例項補正係数Aは“1”に固定される。また、前記路面μ変化速度dμ/dtが、前記所定値B0 より小さい所定値B1 以下である領域では、前記TCS要求トルクのF/B項比例項補正係数Aは、“1”より大きい所定値A1 一定である。そして、前記路面μ変化速度dμ/dtが前記所定値B0 と所定値B1 との間の領域では、当該路面μ変化速度dμ/dtが小さくなる、つまり絶対値的に大きくなるほど、前記TCS要求トルクのF/B項比例項補正係数Aもリニアに大きくなるように設定されている。
【0046】
一方、前記ステップS126では、アップシフト指令がなされたか否かが判定され、アップシフト指令がなされた場合にはステップS127に移行し、そうでない場合にはステップS128に移行する。このアップシフト指令がなされたことの判定は、例えば前記図4の演算処理のステップS2で読込まれたギヤ位置GPが、前回制御時のそれより大きな値になっているかどうか、例えば“1”速から“2”速になっているかどうかで判定することができる。
【0047】
前記ステップS127では、図8の制御マップのように、前記TCS要求トルクのF/B項比例項補正係数Aを、所定時間T0 だけ、“1”より大きな所定値A0 に保持する指令を出力してから前記図4の演算処理のステップS13に復帰する。ちなみに、この所定値A0 は前記所定値A1 より小さい。
また、前記ステップS128では、前記TCS要求トルクのF/B項比例項補正係数Aを“1”に固定してから前記図4の演算処理のステップS13に復帰する。
【0048】
次に、前記図4〜図6の演算処理の作用の概要について説明する。これらの演算処理では、前記平均駆動輪速VwR が前記駆動輪速閾値VwR0を超えない限り、つまり駆動輪にスリップが生じない限り、図4の演算処理のステップS6からステップS8を経てステップS23以後に移行し、ステップS25で前記ドライバ要求トルクTDRV が目標トルクT* に設定されるので、ステップS26では、当該ドライバ要求トルクTDRV に応じた目標エンジントルクT* ENG が設定され、この目標エンジントルクT* ENG を前記図3の演算処理で読込んだエンジンコントロールユニット31では、通常のエンジン回転制御と同様の制御によって、運転者が要求するトルクが得られるようにエンジンの回転状態を制御する。
【0049】
一方、駆動輪にスリップが生じて平均駆動輪速VwR が駆動輪速閾値VwR0を超えると、ステップS6からステップS7を経てステップS9以後に移行する。そして、ステップS10ではTCS要求トルクのF/F項が設定される。このTCS要求トルクのF/F項は、図5の演算処理のステップS101で算出される、現在の前後加速度XG を達成するための基準F/F項TF/F0に対し、同ステップS102では、運転者のアクセル操作によって発生している現在エンジントルクTENG が達成すべき平坦路の加速度を要求加速度XG0として算出し、次のステップS103で現在の前後加速度XG との差分値ΔXG を求め、次のステップS104では、それをゲイン化して前記基準F/F項TF/F0に乗じて、最終的なTCS要求トルクのF/F項TF/F としている。つまり、運転者の意志を尊重するF/F項では、現在の前後加速度を維持するだけでなく、運転者のアクセル操作に応じた加速度が得られるように駆動トルクを設定しているのである。
【0050】
これに対して、続くステップS11からステップS20では、TCS要求トルクのF/B項TF/B が算出設定される。このF/B項は、駆動輪のスリップを抑制するものであり、同ステップS13からステップS19で、目標駆動輪速V* wR に対する駆動輪速VwR のスリップ量ΔVwR に対する比例・微分・積分項を設定し、同ステップS20で、それらの和をTCS要求トルクのF/B項TF/B とし、次のステップ21で、これと前記F/F項TF/F との和をTCS要求トルクTTCS とし、それが前記ドライバ要求トルクTDRV 以下である場合には(駆動輪スリップ状況下では、一般にドライバ要求トルクTDRV より小さい)、同ステップS22からステップS23に移行して、当該TCS要求トルクTTCS を目標トルクT* とするので、エンジンコントロールユニット31では、このTCS要求トルクTTCS が達成されるように、エンジンの回転状態を制御して、凡そエンジントルクを減少し、駆動輪のスリップを抑制する。
【0051】
このうち、TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPについては、そのゲインを調整するための補正係数Aが同ステップS12で設定されている。このステップS12で実行される図7の演算処理では、まずステップS121で駆動輪スリップの状態が比較的安定したものであったかどうかの判定がなされ、それが安定していないときにはステップS128に移行して、補正係数Aを“1”に設定する。これは、例えば発進加速時など、路面μが安定していても、著しい駆動輪スリップが発生する状況では、前記補正係数Aを“1”として、前記比例・微分・積分項からなるTCS要求トルクのF/B項でエンジンの回転状態を制御することで、駆動輪のスリップを適切に抑制することができるようにしているのである。
【0052】
一方、前回の制御時まで駆動輪のスリップ状態が安定している場合には、ステップS122に移行して、前記図4の演算処理のステップS11で算出した路面μから路面μ変化速度dμ/dtを算出する。そして、続くステップS123、ステップS124で、当該路面μ変化速度dμ/dtが負の所定値B0 より小さいとき、つまり路面μが所定速度以上で高い状態から低い状態に、ある程度急速に移行するときには、同ステップS125で、当該路面μ変化速度dμ/dtの大きさに応じて補正係数Aを設定する。具体的には、路面μ変化速度dμ/dtが小さいほど、換言すれば路面μが大きく、速く低下するほど、補正係数Aを大きく設定する。すると、前記TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPが、路面μの低下分だけ大きくなり、従ってTCS要求トルクTTCS から減ぜられる駆動トルクが、当該路面μの低下分だけ大きくなることになる。従って、駆動輪スリップが定常状態にあるとき、路面μが急速に低下すると、勿論、駆動輪のスリップ量が大きくなるのであるが、それに合わせて目標エンジントルクT* ENG が急速に小さく設定され、その結果、例えばエンジンコントロールユニット31は幾つかの気筒への燃料カットを実施するなどして、エンジントルクTENG を急速に小さくし、もって駆動輪の大幅なスリップを速やかに抑制する。一方、路面μの低下代が小さいときには、駆動輪のスリップ量もさほど大きくならず、同時に目標エンジントルクT* ENG も少し小さめに設定される程度であるから、例えばエンジンコントロールユニット31はスロットル開度を調整するなどして、エンジントルクTENG を少し小さくし、もって駆動輪のスリップを、そのスリップ量の大きさに応じて抑制する。即ち、路面μ変化速度dμ/dt(の絶対値)の大きさに応じて、TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPのゲインを大きくすると、駆動輪のスリップ状態が定常状態にあるときの路面μの低下に応じて、適切に且つ速やかにエンジンの回転状態を制御して、駆動輪のスリップを抑制することができるのである。
【0053】
この効果を図9のタイミングチャートに示す。ここでは、理解を容易にするために、車体速の変化がなく、同時に前記TCS要求トルクTTCS が随時算出され続けたものとし、図4の演算処理のステップS22以後のように、ドライバ要求トルクTDRV と比較して、何れか小さい方が目標トルクT* となり、目標エンジントルクT* ENG が設定されたものとする。ここでは、車両が一定速度で走行中に、時刻t01で高μ路面から大幅な低μ路面に移行したものとする。この時刻t01まで、高μ路面での駆動輪のスリップは安定しており、平均従動輪速VwF に対して平均駆動輪速VwR は僅かに大きい程度である。しかしながら、時刻t01から低μ路面に移行すると、現在エンジントルクTENG と等価なドライバ要求トルクTDRV は、当該低μ路面で駆動輪をスリップさせ、そのままでは平均駆動輪速VwR が図示二点鎖線のように変化して、スリップ量が増大するところであった。これに対して、前記時刻t01から前記所定制御時間ΔT後の時刻t02では、前記路面μ変化速度dμ/dtの判定がなされ、当該路面μ変化速度dμ/dt(の絶対値)の大きさに応じて前記補正係数Aが大きく設定されるので、前記TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPが路面μの低下分だけ大きくなり、その分だけ目標エンジントルクT* ENG が大幅に減少され、その結果、平均駆動輪速VwR は、前記時刻t01からさほど経過しない時刻t03で減速に転じ、時刻t04以後は、スリップ量が安定する定常状態に移行した。なお、このシミュレーションでは、アクセルペダルを運転者が操作せず、前記ドライバ要求トルクTDRV が一定に保持され続けたため、これ以後は、TCS要求トルクTTCS がドライバ要求トルクTDRV より小さい状態に維持され、当該TCS要求トルクTTCS が目標トルクT* に選出され続けた。
【0054】
また、前記図7の演算処理では、例えば前記路面μの急速な低下がない場合でも、同ステップS126でアップシフトの判定がなされ、アップシフトがなされたときには、それから所定時間T0 だけ、前記TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPのゲインを調整するための補正係数Aが大きく設定される。前述のように、特に自動変速機の場合、アップシフト前のギヤ位置からアップシフト後のギヤ位置に変更する際、必ず摩擦要素の解放と締結とが、この順に行われる。このうち、摩擦要素が締結されるときには、それが完全に締結される以前に、出力軸側のトルクが一時的に増大する現象があり、そのために、それ以前に駆動輪のスリップ状態が安定していればいるほど、駆動輪がスリップしてしまうこともある。しかしながら、この出力軸増大の時間は限られた時間であるから、それより少し短い時間だけ、前記TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPのゲインを調整するための補正係数Aを大きめに設定しておけば、駆動輪にスリップが発生しても、そのスリップ量に応じた分だけ、前記目標エンジントルクT* ENG が小さく設定されるので、適切に且つ速やかにエンジンの回転状態を制御して、駆動輪のスリップを抑制することができ、また前記変速機内の摩擦要素が完全に締結するときには、補正係数Aは“1”に戻されるので、通常の駆動力制御への復帰も早い。
【0055】
この効果を図10のタイミングチャートに示す。ここでも、理解を容易にするために、車体速の変化がなく、同時に前記TCS要求トルクTTCS が随時算出され続けたものとし、ドライバ要求トルクTDRV と比較して、何れか小さい方が目標トルクT* となり、目標エンジントルクT* ENG が設定されたものとする。ここでは、車両が比較的低い路面μを一定速度で走行中に、時刻t11でアップシフト指令がなされたものとする。この時刻t11まで、高μ路面での駆動輪のスリップは安定しており、平均従動輪速VwF に対して平均駆動輪速VwR は少し大きい程度である。しかしながら、時刻t11でアップシフト指令がなされると、続く時刻t12までで自動変速機内の摩擦要素が解放されるため、実際のトルクが小さくなり、平均駆動輪速VwR も僅かに減速する。この時刻t12からは、自動変速機内の個別の摩擦要素の締結が開始され、それが完全に締結される時刻t15間での間、出力軸の実トルクが一時的に増大する。その結果、そのままでは、路面μが低いこともあって、平均駆動輪速VwR は図示二点鎖線のように増速するところであった。これに対して、前記時刻t11から、前記時刻t15より以前の時刻t14までの所定時間T0 、前記補正係数Aが“1”より大きい所定値A0 に保持されるので、駆動輪スリップ量ΔVwR が発生すると、当該補正係数分だけ、前記TCS要求トルクのF/B項比例項TF/BPが大きくなり、その分だけ目標エンジントルクT* ENG が少し減少され、その結果、平均駆動輪速VwR は、前記時刻t12からさほど経過しない時刻t13で減速に転じ、前記時刻t14以後は、スリップ量が安定してほぼ定常状態に移行した。なお、このシミュレーションでは、アクセルペダルを運転者が操作せず、前記ドライバ要求トルクTDRV が一定に保持され続けたため、アップシフト完了後は、アップシフト前に比べて平均駆動輪速VwR がやや減少し、スリップ量も小さくなったため、TCS要求トルクTTCS は僅かに大きくなった。
【0056】
以上より、後輪速センサ28RL,28RR及び図4の演算処理のステップS14〜ステップS16が、本発明の車両の駆動力制御装置の駆動輪スリップ状態検出手段を構成し、以下同様に、図4の演算処理全体及びそれを実行するマイクロコンピュータ84及びトラクションコントロールユニット30が目標エンジントルク設定手段を構成し、図3の演算処理全体及びそれを実行するエンジンコントロールユニット31がエンジン制御手段を構成し、図4の演算処理のステップS9,ステップS11が路面摩擦係数状態検出手段を構成し、図4の演算処理のステップS12で実行される図6の演算処理のステップS126がアップシフト検出手段を構成し、図4の演算処理のステップ12及びそこで実行される図6の演算処理全体がゲイン補正手段を構成する。
【0057】
なお、上記実施形態では、駆動力制御装置として燃料カットやスロットル開度を制御するものについて説明したが、駆動輪の制動力の制御するものを併設することも可能である。
また、上記各実施例においては、車体速として非駆動輪、つまり従動輪の車輪速を用いたが、これに限定されるものではなく、例えばアンチスキッド制御装置に使用する擬似車速演算手段を適用して擬似車速を算出し、この擬似車速を車輪速に変換して従動輪の車輪速、即ち車体速として使用するようにしてもよい。
【0058】
また、上記各実施例においては、後輪駆動車に本発明の駆動力制御装置を適用した場合について説明したが、前輪駆動車や四輪駆動車にも本発明を適用することができる。但し、四輪駆動車の場合には、非駆動輪すなわち従動輪が原則的に存在しないので、前述したようにアンチスキッド制御装置に使用する擬似車速演算手段を適用するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両の駆動力制御装置を適用した車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す車両のトラクションコントロールユニットの一例を示すブロック図である。
【図3】図1の車両のエンジンコントロールユニットで行われる演算処理の一部を示すフローチャートである。
【図4】図2のトラクションコントロールユニットで実行される駆動力制御の演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図4の演算処理で実行されるマイナプログラムのフローチャートである。
【図6】図4の演算処理で実行されるマイナプログラムのフローチャートである。
【図7】図6の演算処理に用いられる制御マップである。
【図8】図6の演算処理に用いられる制御マップである。
【図9】図4の演算処理の作用を説明するタイミングチャートである。
【図10】図4の演算処理の作用を説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
10FL,10FRは前左右輪
10RL,10RRは後左右輪(駆動輪)
14は自動変速機
18はトルクコンバータ
20はエンジン(内燃機関)
21a〜21dは燃料噴射装置
28FL〜28RRは車輪速センサ
30はトラクションコントロールユニット
31はエンジンコントロールユニット
34はトランスミッションコントロールユニット
36は吸気管路
37はアクセルペダル
37aはアクセルセンサ
38は排気管路
42はスロットル開度センサ
84はマイクロコンピュータ
Claims (4)
- 駆動輪のスリップ状態を検出する駆動輪スリップ状態検出手段と、当該駆動輪スリップ状態検出手段で検出された駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定する目標エンジントルク設定手段と、この目標エンジントルク設定手段で設定された目標エンジントルクに応じてエンジンの回転状態を制御するエンジン制御手段と、自動変速機のギヤ位置が、減速比の大きい状態から小さい状態に変化するアップシフトを検出するアップシフト検出手段と、このアップシフト検出手段でアップシフトを検出したとき、前記駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きくするゲイン補正手段とを備え、前記ゲイン補正手段は、前記アップシフトが検出されてから、アップシフトの所要時間より短い所定時間だけゲインを大きくすることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
- 路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記ゲイン補正手段は、前記路面摩擦係数状態検出手段で検出された路面摩擦係数状態の変化速度が所定速度以上で高い状態から低い状態に変化するとき、前記駆動輪のスリップ状態に応じて目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
- 前記ゲイン補正手段は、前記高い状態から低い状態に変化する路面摩擦係数状態の変化速度が大きいほど、前記目標エンジントルクを設定するときのゲインを大きく設定することを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動力制御装置。
- 前記ゲイン補正手段は、前記駆動輪のスリップ状態のうち、目標駆動輪速度と実際の駆動輪速度との差分値に乗じるゲインを補正することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両の駆動力制御装置。
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