JP3715069B2 - 楽音信号合成方法および装置ならびに記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子的楽音信号合成技術に関し、特に、デジタル方式に適した変調による電子的楽音信号合成技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子的楽音信号合成装置としてアナログ式とデジタル式が知られている。アナログ式シンセサイザは、主に電圧信号によりVCO(電圧制御発振器)、VCF(電圧制御周波数)、VCA(電圧制御振幅)等の機能を制御し、音高、フィルタ周波数、エンベロープ等を形成して楽音信号を合成するものであった。
【0003】
アナログ式シンセサイザの技術の1つに、パルス幅変調(PWM)がある。一定周波数の矩形波のデューティ比を変調することにより、変調により楽音信号を形成する技術である。デューティ比を変化させるためには、鋸歯状波発振器と比較器を用いる。
【0004】
図6は、アナログ式シンセサイザにおけるPWMの原理を示す。図6(A)は、比較器への2つの入力信号を示し、図6(B)は出力信号を示す。両図において、横軸は時間、縦軸は電圧を表す。
【0005】
図6(A)において、2つの信号VstとVthが比較器に入力される。一方の入力信号Vstは、鋸歯状波であり、たとえば−1から+1まで変化する。他方の信号Vthは、閾値を定める信号であり、−1から+1の範囲の値をとる。閾値信号Vthも変化するが、その変化は信号Vstの変化と比べれば、極めてゆっくりしているため、図中では一定値で示す。
【0006】
比較器は、信号Vth以上に信号Vstが上昇した時には“1”を与え、VstがVth未満になった時には“0”を出力する。したがって、比較器の出力は図6(B)に示すようになる。ここで、閾値信号Vthの値が変化すると、図6(B)に示す出力パルス信号のパルス幅が変化することが判るであろう。このようにして、PWMが実行される。
【0007】
なお、PWMは、変調周波数を復調するのみでなく、パルス幅を変調した矩形波自身を楽音信号として扱うこともできる。矩形波を楽音信号として利用する場合、デューティ比の変化は音色の変化をもたらす。たとえば、デューティ比50%の矩形波は、奇数倍音が強い楽音であり、デューティ比を50%からずらすと、偶数倍音が増加して音色が変化する。
【0008】
クラリネット、オーボエ等のリード管楽器は、リードの開閉が矩形波に類似する性質を有し、矩形波信号で楽音信号を形成するのに適している。また、矩形波を用いて種々の効果音(擬音)を形成することもできる。
【0009】
近年、シンセサイザはアナログ式からデジタル式に移行し、デジタル信号の処理により、電子楽音信号を合成するようになった。しかしながら、アナログ式シンセサイザの技術が総てデジタル式シンセサイザに移植された訳ではない。アナログ式シンセサイザで可能であった楽音に対する要求も強い。PWMはその1つである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、デジタル信号処理により、アナログ信号処理で実行できた処理と同等の処理、あるいはアナログでは成し得なかった処理を行える楽音信号合成方法または装置を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、デジタル信号処理によりパルス幅変調(PWM)を行うことのできる楽音信号合成方法または装置を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、デジタル信号処理に適した新規な変調による楽音信号合成技術を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の一観点によれば、第1の周波数の第1の位相信号に基づき、第1の波形信号を発生させる工程と、第2の周波数を指示する周波数情報に基づき、第2の周波数で移相領域内で変化する第2の位相信号を発生させる工程と、前記第1の位相信号を前記第2の位相信号で移相することにより得られる第3の位相信号に基づき、第2の波形信号を発生させる工程と、前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とを合成することにより楽音信号を形成する工程とを含み、前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とは同じ波形形状である楽音信号合成方法が提供される。
【0014】
本発明の他の観点によれば、第1の周波数の第1の位相信号に基づき、第1の波形信号を発生させる手段と、第2の周波数を指示する周波数情報に基づき、第2の周波数で移相領域内で変化する第2の位相信号を発生させる手段と、前記第1の位相信号を前記第2の位相信号で移相することにより得られる第3の位相信号に基づき、第2の波形信号を発生させる手段と、前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とを合成することにより楽音信号を形成する手段とを含み、前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とは同じ波形形状である楽音信号合成装置が提供される。
本発明の他の観点によれば、第1の周波数の第1の位相信号に基づき、第1の波形信号を発生させる手順と、第2の周波数を指示する周波数情報に基づき、第2の周波数で移相領域内で変化する第2の位相信号を発生させる手順と、前記第1の位相信号を前記第2の位相信号で移相することにより得られる第3の位相信号に基づき、第2の波形信号を発生させる手順と、前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とを合成することにより楽音信号を形成する手順とを含み、前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とは同じ波形形状である、プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【0015】
第1の波形信号と第2の波形信号との位相差を制御し、これらの波形信号に基づき、変調により楽音信号を合成することにより、新たな楽音信号を得ることができる。
【0016】
第1の波形信号と第2の波形信号とが位相のみが異なり、周波数、振幅が等しい鋸歯状波である場合、それらの差をとることにより、矩形波が発生する。位相差を変調すれば、矩形波のデューティ比が変更される。
【0017】
従来の鋸歯状波と閾値との組み合わせによるPWMと比べ、変調の移相領域が2πの領域に制限されない。また、移相領域を2πの範囲内に制限するようにすれば、従来のアナログ式PWMと同等の効果、あるいはそれを越える効果を得ることもできる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0019】
図1は、楽音信号合成装置の基本構成を示す。図1(A)は、楽音信号合成装置のブロック図を示し、図1(B)は、信号波形が鋸歯状波である場合の回路主要部の波形を示す。
【0020】
図1(A)において、位相発生器1は、周波数f1で2πの範囲内の位相を繰り返し発生する。たとえば、−πから+πまでリニアに増加し、+πから−πに瞬時に移行する周期的位相θ(t)を発生する。
【0021】
位相発生器1の出力ノードN1の信号波形を図1(B)第1段に示す。横軸は時間tを示し、縦軸は位相θを示す。
【0022】
位相信号θ(t)は、波形発生器2aに供給されると共に、移相器4bに供給される。移相器4bは、変調器3からの移相信号φ(t)を受け、位相θ(t)をφ(t)だけずらした信号θ+φを波形発生器2bに供給する。なお、波形発生器2aに供給される位相信号も、移相器4bと同様の機能を有する移相器4aを介して供給してもよい。但し、移相角度φは異なるものとする。
【0023】
移相器4bの出力ノードN2の波形を、図1(B)第2段に示す。移相角度φ(t)をπとした場合を示す。πの移相により、時間軸上で半周期ずれた波形が発生する。
【0024】
波形発生器2a、2bは、それぞれ入力した位相に基づき立ち下がる形状の鋸歯状波を発生する。入力する位相がπずれているため、発生する鋸歯状波は半周期ずれた状態となる。
【0025】
波形発生器2a、2bの出力ノードN3、N4の信号波形を図1(B)第3段、第4段に示す。
【0026】
ここで、変調器3が発生する移相角度φ(t)が時間と共に変化すると、波形発生器2bの入力位相が時間と共に変化し、波形発生器2bの出力波形は時間軸上で前後するように変化する。
【0027】
合波器6は、波形発生器2a、2bの出力波形を受け、その差を出力信号として供給する。合波器6の出力ノードN5の信号波形を図1(B)最下段に示す。信号波形N5は、信号波形N3から信号波形N4を引いた差分を示している。信号波形N3、N4が−1から+1に瞬時に変化する時に、信号波形N5は−1から+1へ、または+1から−1へ変化し、矩形波を形成する。
【0028】
なお、移相角度φ(t)の時間変化により、波形発生器2bの出力信号波形(位相)が変化すると、合波器6の出力信号である矩形波のデューティ比が変化する。
【0029】
このように、一対の波形発生器に入力する位相の一方を変調することにより、デューティ比が変調されたパルス信号を供給することができる。波形発生器出力波形が鋸歯状波である場合、矩形波のデューティ比が変調される。
【0030】
しかしながら、波形発生器の出力波形は鋸歯状波に限らない。たとえば、矩形波、三角波、正弦波等の波形であってもよい。これらの場合にも、移相角度に応じた出力波形の変化が得られる。
【0031】
なお、位相発生器1の出力信号を直接波形発生器2aに供給した場合には、波形発生器2aの出力波形は位相発生器1の出力位相のみによって決定されるが、位相発生器1の出力位相を移相器4aを介して波形発生器2aに供給した場合には、移相器4aに供給される移相信号によって位相発生器1の出力位相が変調された(移相された)位相が波形発生器2aに供給される。
【0032】
図1(A)に示す回路は、位相によって出力信号の波形を制御している。従来のアナログ式シンセサイザの場合には、比較器に供給する鋸歯状波と閾値信号との電圧(振幅)の大小関係により矩形波を発生していた。したがって、閾値は鋸歯状波の変化領域を越えることはできず、変調信号の移相領域は2πの範囲に制限されていた。図1(A)に示す回路によれば、変調器3の発生する移相信号の変化領域は2πの領域に制限されない。2πの領域を越える範囲内で移相領域を設定することにより、新たな性質の楽音信号を生成することが可能となる。移相領域が2πを越える場合、本構成による合成波形(合成器出力)はゆったりとした、コーラス感のある、厚い音色を与えることができる。
【0033】
位相変調は基本的に周波数変調と等価であり、位相を微分したものがピッチとなる。例えば、三角波で位相を変調するとすれば、ピッチ変化は矩形波状となり、一定幅の上下動を繰り返すことになる。つまり、ピッチのずれ量が周波数一定なので、その深さ(セント量)は被変調波オシレータの発振周波数に反比例する。
【0034】
従って、高い周波数において位相変調で十分なピッチずれを実現するためには、位相変調の範囲を大きく取るか、変調周波数を高くする必要がある。しかし、変調周波数を高くすると、聴感上、ビブラートのようになってしまい、もっとゆったりとしたコーラス的な効果は得られない。従って、位相変調の範囲を多く(2π以上)取りたい。
【0035】
ところが、位相変調の範囲はアナログでは2πを越えることはできない。一方、本実施例のようなディジタル方式による構成では容易に2π(あるいは±π)を越える位相変調が可能であり、上記効果が容易に得られる。
【0036】
図2は、図1の回路を具体化した回路構成の例を示す。
位相発生器1は、周波数f1に対応する周波数ナンバを入力し、−1から+1の範囲をモジュロとする加算器MA1、遅延回路D1により周波数f1の立ち上がり形状を有する鋸歯状波を発生する。この位相発生器1の出力波形は、πを単位とする位相信号であり、図1(B)の信号波形N1に相当するものである。この位相信号は、波形発生器2aに直接供給されると共に、移相器4bを介して波形発生器2bに供給される。
【0037】
波形発生器2a、2bは、フィードバックループを備えた正弦波発生器である。両波形発生器の構成は同等であるので、波形発生器2aを例にとって説明する。入力信号は、モジュロ加算器MA2に供給され、モジュロ加算器MA2の出力信号はサインテーブルOSC1に供給される。サインテーブルOSC1は、入力位相xに基づき、出力信号y=sinπ・x(−1≦x<1)を出力する。サインテーブルOSC1の出力信号は、そのまま出力されると共に、加算器A1、乗算器M1、加算器A2、遅延回路D2、乗算器M2を介してモジュロ加算器MA2にフィードバックされる。さらに、遅延回路D2の出力信号は、加算器A1、A2にもフィードバックされる。
【0038】
このようなフィードバックループを備えた正弦波発生器は、たとえば特公昭61−20875号公報の実施例の欄に詳述されている。このようなフィードバック回路の出力波形は、フィードバック量が浅い場合には正弦波的な形状であるが、フィードバック量が増大すると、立ち下がり形状の鋸歯状波となる。フィードバック量が大きい場合、立ち上がり型鋸歯状波形状の位相信号を入力した波形発生器からは、位相がπずれた立ち下がり型鋸歯状波の出力波形が発生する。
【0039】
すなわち、波形発生器2aの入力位相と出力信号の関係は、図1(B)に示す波形信号N1とN3の関係である。
【0040】
なお、波形発生器2bも波形発生器2aと同等の(モジュロ加算器MA3、サインテーブルOSC2、加算器A5、A6、乗算器M7、M8、遅延回路D3を有する)構成を有し、同等の機能を有する。
【0041】
変調器3は、PWM用周波数ナンバ(周波数f2に対応)が入力されるモジュロ加算器MA6、モジュロ加算器MA6にフィードバックをかける遅延回路D3、モジュロ加算器MA3の出力を受け、負値を正値に変換する絶対値回路ABS、絶対値回路ABSの出力を正のピーク値と負のピーク値とが等しくなるようにシフトさせる加算器A3を含む。
【0042】
モジュロ加算器MA3は、入力されるPWM周波数ナンバを順次加算し、モジュロに達した時に初期値に戻す。たとえば、モジュロ加算器MA3の出力は−1から+1に変化する鋸歯状波となる。絶対値回路ABSは、負値を正値に変換し、0から+1の間で変化する三角波形を発生する。加算器A3には、−0.5が入力され、絶対値回路ABSの出力を−0.5シフトし、−0.5から+0.5の間で変化する出力波形を発生する。
【0043】
図3の第1段および第2段に、モジュロ加算器MA6の出力P1および加算器A3の出力P2の例を示す。
【0044】
本実施例においては、変調移相領域を変化させるため、加算器A3の出力に乗算器M4でPWM深さ信号PDを乗算し、加算器A4を介して加算器(シフタ)M6に入力し、定数Kを乗算する。たとえば、PWM深さ係数PDとして1/16を乗算し、定数Kとして32を乗算する。乗算器M4へ入力される−0.5から+0.5の範囲で変化する三角波は、1/16倍された後、32倍され、−1から+1の間で変化する三角波に変換される。
【0045】
PWM深さ係数PDとして1を乗算する時は、乗算器M6の出力は−16から+16の範囲で変化する三角波形となる。乗算器M6は、変調範囲を変更する機能を有するため、シフタと呼ぶ。
【0046】
なお、加算器A4には、乗算器M5の出力も入力される。乗算器M5には、たとえば位相変調の中心位相を定める信号PHASECが入力される。なお、信号PHASECは所定の値としてもよいし、音色毎に設定するパラメータとしてもよい。また、信号PHASECを時間的に変化する信号として、さらに複雑な位相変調がかかるようにしてもよい。この信号は、たとえば−1、0、1の三値の1つをとる。乗算器M5は、シフタM6が32倍することに合わせ、入力を1/32倍する。乗算器M5への入力が−1、1であることは、シフタM6の出力において、位相が−π、+π変化することを意味する。
【0047】
シフタM6の出力は、リミッタLTを介してモジュロ加算器MA4に供給される。リミッタLTは、シフタM6から供給される入力信号をそのまま通過させるか、一定の絶対値でリミットするかの機能を有する。たとえば、リミット信号Lが1の場合、リミッタLTの出力は−1から+1の領域内に制限される。
【0048】
乗算器M4に供給されるPWM深さ係数PDが1の場合、リミッタLTに入力される三角波は、−16から+16の範囲内で変化する。リミッタLTがリミット機能を発揮する時は、この三角波の+1以上、−1以下の部分を制限し、−1から+1の領域内で変化する信号波形に変換する。
【0049】
図3第3段目には、リミッタLTが機能した場合のリミッタの出力波形の例を示す。
【0050】
図4(A)は、リミッタLTの入力と出力の関係を概略的に示す。入力の絶対値がある値を越えると、リミッタ機能が作用し、出力はその時の値で飽和する。
【0051】
図4(B)は、シフタM6およびリミッタLTの回路構成例を示す。入力するmビットの信号が上位6ビットと下位n−1ビットに分割され、上位6ビットはオール0かオール1かを判断される。オール0かオール1が成立する時は、飽和値として供給されるリミット定数LがマルチプレクサMUXの飽和入力端子Sに入力される。この際、上位6ビット中の最上位ビットが符号ビットとしてマルチプレクサMUXの端子1に供給され、飽和値の符号を制御する。リミット(飽和)値は±Lとなる。
【0052】
上位6ビットが総て1でもなく、0でもない場合には、上位6ビット中の最下位ビットが下位(n−1)ビットと共にマルチプレクサMUXの端子0に供給され、最上位の符号ビットと共に出力を構成する。このようにして、図2の構成におけるシフタM6およびリミッタLTが実現される。なお、シフタとリミッタの構成はこの例に限らない。
【0053】
変調器3は、モジュロ加算器MA4に移相信号を供給する。モジュロ加算器MA4は、位相発生器1から供給される位相信号を、変調器3から供給される移相角度シフトさせ、次のモジュロ加算器MA5に出力信号を供給する。モジュロ加算器MA5には、−1が加算される。−1の加算は、位相において−πの加算に相当し、入力する信号を逆相に変化させる。
【0054】
モジュロ加算器MA4とMA5が移相器4bを構成する。
移相器4bの出力は、波形発生器2bに供給される。波形発生器2bは、波形発生器2aと同等の機能を有し、入力する位相に基づく鋸歯状波を出力する。なお、変調移相が“0”の場合、モジュロ加算器MA5に加算された−1により、波形発生2aと波形発生器2bの発生する鋸歯状波は逆相の信号となる。
【0055】
これらの信号は、それぞれ乗算器M3、M9を介し、加算器A7に供給される。乗算器M3、M9および加算器A7が、合波器6を構成する。逆相の鋸歯状波が加算器A7で加算されることにより、図1(B)波形N5で示すようなデューティ比が制御された矩形波が発生する。
【0056】
なお、変調器3の乗算器M4から加算器A5に供給される移相角度が“0”の場合、乗算器M5の出力が“0”とすると、モジュロ加算器MA4は入力信号をそのまま通過させ、モジュロ加算器MA5で位相信号は逆相にされる。この場合、デューティ比は50%である。
【0057】
変調器3の乗算器M5に入力される信号が−1の場合、モジュロ加算器MA4に−1が入力され、さらにモジュロ加算器MA5で逆相にされるため、元の位相に戻りデューティ比は“0”となる。乗算器M5の入力が+1をわずかに下回る数の場合、モジュロ加算器MA4に+1をわずかに下回る数が供給され、モジュロ加算器MA5で逆相にされる結果、移相がわずかに異なる2つの鋸歯状波が発生し、デューティ比はほぼ100%となる。
【0058】
図5は、図1の回路構成を実現する他の構成を示す。本構成において、図2の回路構成と異なる点を主に説明する。位相発生器1と波形発生器2aの間に、移相器4aが挿入されている。移相器4aは、モジュロ加算器MA8によって構成され、スイッチSWを介して変調器3と接続されている。変調器3の乗算器M4には1か1/8が供給され、シフタM6は入力を16倍して出力する。乗算器M5の定数も1/16となる。
【0059】
この構成によれば、PWM深さPDが“1”の時、リミッタLTに入力される移相角度は−8πから+8πの間で変化し、それぞれモジュロ加算器MA4およびMA8に供給される。モジュロ加算器MA4では減算を行い、モジュロ加算器MA8では加算を行う。したがって、2つの信号経路における位相差は−16πから+16πの領域内で変化する。
【0060】
なお、スイッチSWを開くことにより、モジュロ加算器MA8の機能を停止させることもできる。
【0061】
図5におけるその他の構成については、図2に示す構成と同様である。
図7は、上述の実施例による楽音信号合成装置を含む電子楽器のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0062】
CPU20は、バス24を介して、ROM18、RAM19、自動演奏装置21の他、MIDIインターフェース11、検出回路12、表示装置14、楽音信号合成装置15、ハードディスクドライブ(HDD)22、フロッピディスクドライブ(FDD)23、CD−ROM(コンパクトディスク−リード・オンリィ・メモリ)ドライブ41、通信インターフェース43に接続される。
【0063】
RAM19は、レジスタやバッファ等、CPU20のワーキングエリアを有する。ROM18は、コンピュータプログラムや種々のパラメータを記憶する。CPU20は、ROM18に記憶されるコンピュータプログラムに応じて、各種処理を行う。
【0064】
CPU20は、検出回路12を介して鍵盤13上の演奏操作の信号を受ける他、自動演奏装置21、ハードディスクドライブ22、フロッピディスクドライブ23、CD−ROMドライブ41、MIDIインターフェース11または通信インターフェース43から演奏データを受けることができる。
【0065】
フロッピディスクドライブ23は、抜き差し可能なフロッピディスクに対してデータの読み出しおよび書き込みを行うことができる。演奏データが記憶されたフロッピディスクを、フロッピディスクドライブ23に差し込むと、CPU20は、フロッピディスクに記憶されている演奏データを読み出すことができる。
【0066】
ハードディスクドライブ22は、大容量記憶装置であり、多数の演奏データを記憶することができる。CPU20は、フロッピディスクドライブ23からハードディスクドライブ22に演奏データをコピーすることができる。CPU20は、ハードディスクドライブ22から演奏データを読み出すこともできる。
【0067】
MIDIインターフェース11は、外部に対してMIDIデータを入出力することができる。例えば、演奏データを入出力することができる。
【0068】
検出回路12には、キーボードやマウス装置等の入力装置13が接続される。CPU20は、検出回路12を介して、入力装置13のスイッチ状態等を検出する。操作者は、入力装置13を操作することにより、各種の指定を行うことができる。例えば、再生を行いたい演奏データを指定することができる。また、入力装置13は、再生を指示するための再生スイッチを有する。
【0069】
表示回路14は、種々の情報を表示する。ハードディスクドライブ22等に記憶されている演奏データを表示することもできる。
【0070】
CPU20と楽音信号合成装置15は、上述のPWM方式に従った楽音信号合成を行うことができる。CPU20と楽音信号合成装置15は、PWM方式の楽音信号合成の他、さらに波形メモリ方式、FM方式、物理モデル方式、高調波合成方式、フォルマント合成方式のいずれかによる楽音信号合成を行えるものでもよい。楽音信号合成装置15は、専用回路、デジタル信号処理装置(DSP)、またはCPU20の機能の一部とソフトウェアないしこれらの組合わせで構成することができる。たとえば、楽音波形合成処理、さらには自動演奏処理やMIDI信号等演奏信号の送受信までをCPUとソフトウェアで(特別なハードウェアや周辺機器を用いることなく)行うようにしてもよい。
【0071】
D/A変換器16は、楽音信号合成装置15からデジタル楽音信号を受け、デジタル信号からアナログ信号に変換する。
【0072】
サウンドシステム17は、アンプとスピーカを有し、D/A変換器16からアナログの楽音信号を受ける。楽音信号は、アンプにより増幅され、スピーカから発音される。
【0073】
HDD(ハードディスクドライブ)22は、コンピュータプログラムや自動演奏データ、コード進行データ等の各種データを記憶しておく記憶装置である。ROM18にコンピュータプログラムが記憶されていない場合、このHDD22内のハードディスクにコンピュータプログラムを記憶させておき、それをRAM19に読み込むことにより、ROM18にコンピュータプログラムを記憶している場合と同様の動作をCPU20にさせることができる。このようにすると、コンピュータプログラムの追加やバージョンアップ等が容易に行える。
【0074】
CD−ROM(コンパクトディスク−リード・オンリィ・メモリ)ドライブ41は、CD−ROM42に記憶されているコンピュータプログラムや各種データを読み出す装置である。読み出したコンピュータプログラムや各種データは、HDD22内のハードディスクにストアされる。コンピュータプログラムの新規インストールやバージョンアップ等が容易に行える。なお、このCD−ROMドライブ41以外にも、外部記憶装置として、フロッピィディスクドライブ23、光磁気ディスク(MO)装置等、様々な形態のメディアを利用するための装置を設けるようにしてもよい。
【0075】
通信インターフェース43はLAN(ローカルエリアネットワーク)やインターネット、電話回線等の通信ネットワーク44に接続されており、該通信ネットワーク44を介して、サーバコンピュータ45と接続される。HDD22内に上記コンピュータプログラムや各種データが記憶されていない場合、サーバコンピュータ45からプログラムやデータがダウンロードされる。クライアントとなる本装置は、通信インターフェース43及び通信ネットワーク44を介してサーバコンピュータ45へとコンピュータプログラムやデータのダウンロードを要求するコマンドを送信する。サーバコンピュータ45は、このコマンドを受け、要求されたコンピュータプログラムやデータを、通信ネットワーク44を介して装置へと配信し、本装置が通信インターフェース43を介して、これらプログラムやデータを受信してHDD22に蓄積することにより、ダウンロードが完了する。
【0076】
なお、本実施例は、本実施例に対応するコンピュータプログラムや各種データをインストールした市販のパーソナルコンピュータ等によって、実施させるようにしてもよい。その場合には、本実施例に対応するコンピュータプログラムや各種データを、CD−ROMやフロッピディスク等の、パーソナルコンピュータが読み込むことができる記憶媒体に記憶させた状態で、ユーザーに提供してもよい。そのパーソナルコンピュータ等が、LAN、インターネット、電話回線等の通信ネットワークに接続されている場合には、通信ネットワークを介して、コンピュータプログラムや各種データ等をパーソナルコンピュータ等に提供してもよい。
【0077】
なお、鋸歯状波を発生する波形発生器としては、上述のフィードバックループを備えた正弦波発生器以外の構成を用いてもよい。たとえば、鋸歯状波の波形を記憶する波形メモリを用いることもできる。論理演算で波形を演算してもよい。また、波形発生器2a、2bが、各々鋸歯状波以外の波形を発生するものとしてもよい。種々の波形を選択的に指定したり、時間的に変化する波形を発生するようにすれば、さらに音色の幅やバリエーションを増加させることが可能である。
【0078】
PWMの深さPDが2つの値のうち一方をとる場合を説明したが、この深さをキースケールさせてもよい。キースケールが0の場合は、従来のアナログ式シンセサイザのPWMと等価になり、深さを音高周波数に比例させれば、いわゆるコーラス効果と等価になる。また、これらの中間の状態も実現可能である。たとえば、いくつかの音高毎にPWMの深さを与えることもできる。
【0079】
また、PWM用の位相信号として三角波を用いる場合を説明したが、他の波形やエンベロープ発生器等を用いてもよい。また、リミッタのリミットする値を任意の値に変更することも可能である。
【0080】
実施例において説明した処理をソフトウェアによって記述し、DSPまたはMPUなどのプロセッサによって実行させることもできる。
【0081】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。たとえば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、デジタル方式に適し、新規な楽音信号合成を行うことのできる楽音信号合成方法または装置が提供される。
【0083】
鋸歯状波を用いた場合、従来のPWMと同等の楽音信号合成を行うことができる。さらに、従来のPWMにおける移相範囲が2πの領域内であったのに比較し、移相領域に制限を設ける必要がなくなる。また、2πを越える移相領域と2π以内の移相領域を選択することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例による楽音信号合成装置の構成を示すブロック図および波形ダイヤグラムである。
【図2】 図1の回路構成を実現する構成例を示すブロック図である。
【図3】 図2の回路における変調用波形の例を示す波形ダイヤグラムである。
【図4】 図2の構成におけるシフタとリミッタの機能を説明するためのグラフおよびその構成例を示す回路図である。
【図5】 図1の回路構成を実現する他の構成例を示すブロック図である。
【図6】 従来技術におけるパルス幅変調を説明するための波形ダイヤグラムである。
【図7】 本発明の実施例による楽音合成装置を含む電子楽器のハードウェア構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 位相発生器
2 波形発生器
3 変調器
4 移相器
6 合波器
A 加算器
MA モジュロ加算器
M 乗算器
ABS 絶対値回路
D 遅延回路
LT リミッタ
OSC 発振器
Claims (12)
- 第1の周波数の第1の位相信号に基づき、第1の波形信号を発生させる工程と、
第2の周波数を指示する周波数情報に基づき、第2の周波数で移相領域内で変化する第2の位相信号を発生させる工程と、
前記第1の位相信号を前記第2の位相信号で移相することにより得られる第3の位相信号に基づき、第2の波形信号を発生させる工程と、
前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とを合成することにより楽音信号を形成する工程とを含み、
前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とは同じ波形形状である楽音信号合成方法。 - 前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とが同一振幅の鋸歯状波信号である請求項1記載の楽音信号合成方法。
- さらに、
前記移相領域を決定するパラメータを発生する工程と
前記パラメータに基づき、前記移相領域を決定する工程とを含む請求項1または2に記載の楽音信号合成方法。 - さらに、前記移相領域の範囲を制限するための信号に応じて、前記移相領域を2πの範囲内に制限する工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の楽音信号合成方法。
- 第1の周波数の第1の位相信号に基づき、第1の波形信号を発生させる手段と、
第2の周波数を指示する周波数情報に基づき、第2の周波数で移相領域内で変化する第2の位相信号を発生させる手段と、
前記第1の位相信号を前記第2の位相信号で移相することにより得られる第3の位相信号に基づき、第2の波形信号を発生させる手段と、
前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とを合成することにより楽音信号を形成する手段とを含み、
前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とは同じ波形形状である楽音信号合成装置。 - 前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とが同一振幅の鋸歯状波信号である請求項5記載の楽音信号合成装置。
- さらに、
前記移相領域を決定するパラメータを発生する手段と
前記パラメータに基づき、前記移相領域を決定する手段とを含む請求項5または6に記載の楽音信号合成装置。 - さらに、前記移相領域の範囲を制限するための信号に応じて、前記移相領域を2πの範囲内に制限する手段を含む請求項5〜7のいずれかに記載の楽音信号合成装置。
- 第1の周波数の第1の位相信号に基づき、第1の波形信号を発生させる手順と、
第2の周波数を指示する周波数情報に基づき、第2の周波数で移相領域内で変化する第2の位相信号を発生させる手順と、
前記第1の位相信号を前記第2の位相信号で移相することにより得られる第3の位相信号に基づき、第2の波形信号を発生させる手順と、
前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とを合成することにより楽音信号を形成する手順とを含み、
前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とは同じ波形形状である、プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。 - 前記第1の波形信号と前記第2の波形信号とが同一振幅の鋸歯状波信号である請求項9記載の記録媒体。
- 前記プログラムが、さらに、
前記移相領域を決定するパラメータを発生する手順と
前記パラメータに基づき、前記移相領域を決定する手順とを含む請求項9または10に記載の記録媒体。 - 前記プログラムが、さらに、前記移相領域の範囲を制限するための信号に応じて、前記移相領域を2πの範囲内に制限する手順を含む請求項9〜11のいずれかに記載の記録媒体。
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