JP3714192B2 - マグネシウム材の塗装方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、マグネシウム材の塗装方法に関し、無機有機複合系塗料を用いることにより、従来のプライマ塗布工程を省略できるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のマグネシウム材の塗装方法は、以下のようにして行われている。
まず、マグネシウム、マグネシウム合金を所望の形状に成形して得られたマグネシウム材に酸あるいはアルカリを用いたエッチング処理を施す。ついで、化成被膜処理を施す。この化成被膜処理は、クロメート処理、リン酸塩処理によって行われ、マグネシウム材の表面に薄い化成被膜が形成される。
【0003】
この化成被膜が形成されたマグネシウム材の表面にプライマを塗布し、乾燥する。このプライマには、接着性が良好なエポキシ樹脂系プライマが主に用いられる。このプライマの上に上塗りとしてアクリル樹脂系塗料、メラミン樹脂系塗料を塗布して、一連の塗布作業が終了する。
【0004】
しかしながら、このような塗装方法にあっては、プライマ塗布工程が存在するため、作業ラインが長くなり、作業時間が長く、これによって塗装コストが高くつく欠点がある。
一般に、金属製品の表面塗装には、光沢、硬度、耐摩耗などの特性の点を考慮してアクリル樹脂系塗料、メラミン樹脂系塗料などが用いられている。しかし、このアクリル樹脂系塗料などは、マグネシウム材の化成被膜との接着性が十分でなく、この接着性を高めるため上述のエポキシ樹脂系などのプライマを使用せざるをえない状況にある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
よって、本発明における課題は、マグネシウム材の塗装において、プライマの塗布、乾燥を不要とし、塗装作業性を高めることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる課題は、マグネシウム材をエッチング処理し、ついで化成被膜処理した後、下記化学式(I)で示されるシリコーンオリゴマーの加水分解縮合物と、下記化学式(II)で示されるシラン化合物の加水分解縮合物と、有機樹脂を含む無機有機複合系塗料を塗布する方法で解決できる。また、化成被膜処理を、リン酸マンガン、リン酸マンガンカルシウム、クロメート処理のいずれかによると好ましい。さらに、化成被膜処理後の加熱乾燥を温度130〜180℃で行うことが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明における被塗装物であるマグネシウム材は、マグネシウムやAZ−91Dなどのマグネシウム合金を射出成形、ダイキャスト成形などにより、所望の形状に成形したものである。
【0008】
このマグネシウム材を、まずエッチング処理する。このエッチング処理は、硫酸、塩酸などの酸あるいは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリの水溶液または温水溶液にマグネシウム材を浸し、マグネシウム材の表面の油脂、汚れなどを除去し、表面に均一な酸化膜を形成する公知の方法で行うことができる。
【0009】
ついで、エッチング処理されたマグネシウム材を、化成被膜処理する。この化成被膜処理は、周知のクロメート被膜処理法、リン酸塩被膜処理法などによって行われ、マグネシウム材表面にマグネシウムリン酸被膜やクロム酸マグネシウム被膜などの薄い化成被膜を形成するものである。この化成被膜処理で形成された化成被膜の厚みは0.1μm以上、好ましくは0.2〜5μm程度とされる。
【0010】
この化成被膜処理後、マグネシウム材は、残余の処理液等を除去するため洗浄され、加熱乾燥されて、次の塗装工程に送られるが、本発明ではこの加熱乾燥に際して温度130〜180℃、時間5〜60分の条件で加熱を行うことが重要である。
また、化成被膜処理から次の塗装までに1週間程度の時間をあけた場合には、塗装前に再度温度130〜180℃、時間5〜60分の条件で加熱を行うことが重要である。
【0011】
結局、化成被膜処理から次の塗装に至るまでの時間が短い場合でも、長い場合でも、塗装前に温度130〜180℃、時間5〜60分の条件で少なくとも1回は加熱することが大切であり、この加熱によって、マグネシウム材からの揮発成分の蒸発に基づく発泡を防止することができる。
【0012】
ついで、このマグネシウム材にプライマ処理を施すことなく上塗り塗装を施す。ここで使用される上塗り塗料には、無機有機複合系塗料が用いられる。
本発明で用いられる無機有機複合塗料とは、下記の3成分を含有するものである。
(1)シリコーンオリゴマーの加水分解縮合物と、
(2)シラン化合物の加水分解縮合物物と、
(3)有機樹脂。
【0013】
(1)シリコーンオリゴマーの加水分解縮合物は、下記一般式(I)で示されるシリコーンオリゴマーを、有機溶媒中で水および酸触媒を添加することにより得られる加水分解縮合物を含む溶液である。
【0014】
【化1】
Figure 0003714192
【0015】
(式中、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基を表し、nは1〜20の整数である。)
【0016】
(2)シラン化合物の加水分解縮合物は、下記一般式(II)で示されるシラン化合物を、有機溶媒中で水および酸触媒を添加することにより得られる加水分解縮合物を含む溶液である。
【0017】
【化2】
Figure 0003714192
(式中、R1およびR2は、同一でも異なっても良く、それぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、CH2CH2OCH3またはCH2CH2OC25を表し、R3は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基を表す。Xはγ−(メタ)アクリルオキシプロピル基、ビニル基、フェニル基、γ−グリシドオキシ基を表す。)
【0018】
(3)有機樹脂とは、アクリル系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂とアミノ系樹脂の混合樹脂およびポリエステル系樹脂とアミノ系樹脂との混合樹脂から選ばれる有機樹脂を有機溶媒で溶解した溶液である。
【0019】
この3成分からなる塗料において、シリコーンオリゴマーの加水分解縮合物とシラン化合物の加水分解縮合物との量比は、両者の固形分の重量比が5:1〜1:5の範囲とされる。また、シリコーンオリゴマーの加水分解縮合物とシラン化合物の加水分解縮合物との固形分の和と、有機樹脂固形分分との重量比は、1:10〜2:1の範囲とされる。
この塗料には、着色剤、充填材、紫外線吸収剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤などの添加剤を必要に応じて適宜加えることかできる。
【0020】
この無機有機複合系塗料のマグネシウム材への塗布は、ディッピング法、エアスプレー法、エアレススプレー法、スピンコーター法、ロールコーター法、グラビアコーター法、カーテンコーター法などの公知の塗布方法が採用できる。
また、その加熱硬化法は、赤外線炉、熱風炉などの加熱装置を使い、温度130〜180℃、時間5〜60分の条件で行われる。
得られる塗膜の厚みは、5〜50μmの範囲が好ましい。
【0021】
このような塗装方法で得られた塗膜は、塗膜の表面層側に実質的にSi−O−結合のガラス質からなる無機性成分が、マグネシウム材側に有機樹脂由来の有機物を主体とし、これに微量の無機物が共存してなる有機性成分が存在する2層構造となっており、この2層構造に起因して高い光沢性、表面硬度、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性、耐汚染性が得られるとともに素地のマグネシウム材との接着性も良好となり、あえてプライマ層を必要としないものになる。
【0022】
このような塗装方法によれば、上塗り塗料として上述の無機有機複合系塗料を用いているので、得られる塗膜のマグネシウム材化成被膜表面への密着性、接着性が高く、従来必要とされていたプライマ処理が不要となり、これにより塗装作業性が向上する。
また、塗膜の光沢性、表面硬度、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性、耐汚染性が高く、従来のアクリル樹脂系塗料などの上塗り塗料と同等以上の性能の塗膜が得られる。
【0023】
さらに、化成被膜処理後から無機有機複合系塗料を塗布するまでの間に、少なくとも1回の温度130〜180℃、時間5〜60分の条件による加熱乾燥を行うことで、マグネシウム材の揮発成分の蒸発に起因する塗膜の発泡を防止できる。
【0024】
以下、具体例を示す。
マグネシウム合金(AZ−91D)からなる板材を、塩酸を主成分とするエッチング剤でエッチング処理し、ついで表1および表2に示す化成被膜処理を行い、厚み約0.5μmの化成被膜を形成した。このものに、プライマ処理を行うことなしに、塗料Aないし塗料Dを塗布し、表1、2に示す加熱温度で焼き付けし、厚み5μmの塗膜を形成して、試験片を作成した。
【0025】
これらの試験片について、鉛筆硬度試験、付着試験、耐塩水噴霧試験を行い、塗膜の性能を評価した。
鉛筆硬度試験は、JIS S 6006に規定する鉛筆を使用し、3H以上を合格とする。
【0026】
付着試験は、試験片に1mm間隔でJIS G 4401に規定するカッターナイフで、碁盤目100個(10×10)の切り目を入れ、JIS Z 1522相当の粘着テープを用いて剥離試験を行い、100個付着を合格とする。
耐塩水噴霧試験は、JIS Z 2371に準拠しておこない、著しい錆もしくは発泡等の塗膜外観の変化がないものを合格とする。
結果を表1および表2に示す。
【0027】
【表1】
Figure 0003714192
【0028】
【表2】
Figure 0003714192
【0029】
表1および表2において、塗料Aは無機有機複合系塗料、塗料Bは市販のアクリル樹脂系塗料、塗料Cは市販のメラミン樹脂系塗料、塗料Dは市販のエポキシ樹脂系塗料である。
表1、2の結果から、無機有機複合系塗料を使用することで、プライマ処理を施さなくとも、マグネシウム材に対する付着性が高く、表面硬度も高いものとなることがわかる。また、化成被膜処理後の加熱条件を上記範囲内とすることで、耐塩水噴霧性が高くなることがわかる。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のマグネシウム材の塗装方法は、マグネシウム材をエッチング処理し、ついで化成被膜処理した後、無機有機複合系塗料を塗布するものであるので、この塗料のマグネシウム材の化成被膜表面への密着性が高く、化成被膜処理後のプライマ処理を施さなくとも、良好な塗膜密着性を発揮し、これによりプライマ処理を省略でき、作業性が大きく向上する。
【0031】
また、この塗膜は、光沢性、表面硬度、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性、耐汚染性が高く、従来のアクリル樹脂系塗料などの上塗り塗料と同等以上の性能が得られる。
さらに、化成被膜処理後から無機有機複合系塗料を塗布するまでの間に1回以上の加熱を、温度130〜180℃で行うようにすれば、塗膜の加熱時などに生じる発泡を未然に防ぐことができる。

Claims (3)

  1. マグネシウム材をエッチング処理し、ついで化成被膜処理した後、下記化学式(I)で示されるシリコーンオリゴマーを有機溶媒中で水および酸触媒を添加することにより得られる加水分解縮合物と、下記化学式(II)で示されるシラン化合物を有機溶媒中で水および酸触媒を添加することにより得られた加水分解縮合物と、有機樹脂を含む無機有機複合系塗料を塗布することを特徴とするマグネシウム材の塗装方法。
    Figure 0003714192
    (式中、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはフェニル基を表し、nは1〜20の整数である。)
    Figure 0003714192
    (式中、R およびR は、同一でも異なってもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、CH CH OCH またはCH CH OC を表し、R は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基を表す。Xはγ−(メタ)アクリルオキシプロピル基、ビニル基、フェニル基、γ−グリシドオキシ基を表す。)
  2. 化成被膜処理が、リン酸マンガン、リン酸マンガンカルシウム、クロメート処理のいずれかによるものであることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム材の塗装方法。
  3. 化成被膜処理後の加熱乾燥を温度130〜180℃で行うことを特徴とする請求項1または2記載のマグネシウム材の塗装方法。
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