JP3713972B2 - 多電極tig溶接トーチのアーク長制御方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は大電流溶接が可能な多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
板材の如き部材を突き合わせて開先溶接を行う際に用いるTIG溶接トーチにおいて、近年、大電流を流せるようにして高速溶接を行うことができるように、電極を多電極構造としたものが開発されている。
【0003】
上記多電極構造としたTIG溶接トーチのうち、狭開先用として開発されたものは、図5(イ)(ロ)に一例を示す如く、細長平板状の絶縁板1の両側面部に、平溝2a,2bをそれぞれ長手方向に沿い設けると共に、これら平溝2aと2bに、それぞれ別電源に接続されていて帯板状に形成されたタングステン製の第1電極3aと第2電極3bを並列状態に嵌入して、該2本の電極3aと3bにより絶縁板1を挟持させるようにし、且つ上記絶縁板1の後端面と該後端面に当接配置した絶縁体製のワイヤガイド1aとの境界部に溶接ワイヤ4を挿通させるようにしてなる扁平断面形状の電極構造体5を構成し、該電極構造体5を、給電コレット6を介してトーチ本体7に支持させると共に、該電極構造体5の先端部を、シールドガス8を噴出させるガスカップ9の先端から所要長さ突出させるようにしたTIG溶接トーチ10としてある。
【0004】
ところで、単電極構造のTIG溶接トーチでは、通常、AVC(arc voltage control)と称するアーク長制御が行われている。これは、設定電圧に応じて、トーチを母材に対し自動的に近接、離反させることで、電極と母材との間に放つアークの長さを一定に保つようにするものであり、これにより、安定した溶接が可能となり、平滑なビードが形成できる等、溶接精度を高めることができるものである。したがって、かかるアーク長制御方式を上記の多電極TIG溶接トーチ10に適用することが考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、単電極構造のTIG溶接トーチのアーク長制御方式を多電極構造のTIG溶接トーチ10に適用すると、一方の電極3a又は3bの電圧に基づいて制御が行われるため、アーク長が過大になったり、電極が短絡してしまうことが想定される。
【0006】
詳述すると、上記多電極構造のTIG溶接トーチ10を用いて、たとえば、図6に示す如き厚板11間に形成された横向き開先12を横向きに溶接する場合は、両電極3a,3bが上下に並ぶようにTIG溶接トーチ10全体を横向きに配置して、横向き開先12内に電極構造体5の先端部を挿入し、両電極3a,3bに電圧を印加して横向き開先12に沿わせて移動させていくことになるが、横向き開先12の溶接では、溶融金属13に重力が作用することから、1層1パスの場合、開先12の下壁12a側に溶融金属13の垂れ下がりによるオーバーラップ部14が生じることになる。
【0007】
この際、たとえば、上側に位置する第1電極3aを基にアーク長制御を行うと、下側に位置する第2電極3bが上記オーバーラップ部14に接することにより第2電極3bが短絡してしまう可能性があり、一方、下側に位置する第2電極3bを基にアーク長制御を行うと、上側に位置する第1電極3aのアーク長が過大となって、開先12の上壁12b側にアンダーカット部15が生じてしまう虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、2本の電極の電圧変動を同時に監視して、電極の短絡現像やアーク長過大現像が発生しないよう電圧を調整してアーク長を適切に制御することができるような多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法及び装置を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、第1電極と第2電極の2本の電極を並列させて有する多電極TIG溶接トーチによる母材の溶接時に、上記2本の電極への設定電圧に基づいて母材との間に放つアークの長さを保つようにする多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法において、上記2本の電極の設定電圧からの変動値をそれぞれ求めて加算し、次に、この加算値に補正定数を掛けて補正値を算出し、該補正値を基に、上記溶接トーチを母材に対し近接、離反させてアーク長を制御する多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法とし、又、第1電極と第2電極の2本の電極を並列させて有する多電極TIG溶接トーチの上記2本の電極の電圧を設定する電圧制御器と、該電圧制御器による設定電圧に基づきトーチ移動ユニットへ駆動指令を与えて母材との間に放つアークの長さを保つようにしてある演算指令器とを備えた多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置において、上記第1電極の電圧を測定する第1電圧測定器、上記第2電極の電圧を測定する第2電圧測定器、上記第1電圧測定器の測定値と設定電圧との差を求める第1変動値測定器、上記第2電圧測定器の測定値と設定電圧との差を求める第2変動値測定器、上記第1変動値測定器による変動値と第2変動値測定器による変動値とを加算する加算器、該加算器により得られた加算値に補正定数を掛けて得られた補正値を上記演算指令器を送る補正器を備えてなる構成を有する多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置とする。
【0010】
溶接時に、第1電極と第2電極の設定電圧からの変動値を求めて加算し、この加算値に、たとえば、補正定数として1/2を掛けて補正値を算出し、この補正値を基に溶接トーチを母材に対して近接又は離反させることによって、母材に対して両電極とも適切なアーク長に制御される。したがって、横向き溶接であっても、オーバーラップ部やアンダーカット部が生じないようにすることができる。
【0011】
又、電圧制御器に、第1電極、第2電極単独の動作モードを付加し、且つ第1変動値測定器、第2変動値測定器にて測定した変動値を補正値として演算指令器に送る機能を具備させた構成とした場合は、モード選択によって第1電極又は第2電極いずれか一方の電圧変動値を基準にアーク長が制御されることになる。したがって、下向き溶接に適用して有利となる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明の多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置の実施の一形態を示すもので、図5(イ)(ロ)に示したと同様な構成としてある多電極TIG溶接トーチ10の2本の電極3a,3bへの印加電圧を設定する電圧制御器16と、該電圧制御器16による設定電圧に基づきトーチ移動ユニット17へ駆動指令を与えて上記溶接トーチ10を母材に対し近接、離反させることによりアーク長を一定に保つようにしてある演算指令器18とを備えた多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置において、第1電極3aの電圧を測定する第1電圧測定器19a、第2電極3bの電圧を測定する第2電圧測定器19b、上記第1電圧測定器19aによる測定値と設定値との差としての変動値を求める第1変動値測定器20a、上記第2電圧測定器19bによる測定値と設定電圧との差としての変動値を求める第2変動値測定器20b、上記第1変動値測定器20aで求めた変動値と上記第2変動値測定器20bで求めた変動値とを加算する加算器21、該加算器21で得られた加算値に補正定数を掛けて得られた補正値を上記演算指令器18へ送る補正器22を備えた構成とする。
【0014】
かかる構成としたアーク長制御装置により、TIG溶接トーチ10のアーク長を制御しながら、たとえば、図6に示す如き厚板11間に形成された横向き開先12を溶接する場合は、2本の電極3a,3bの設定電圧からの変動値をそれぞれ求めて加算し、この加算値に補正定数を掛けて補正値を算出し、該補正値を基に、母材となる厚板11の横向き開先に対しTIG溶接トーチ10を近接、離反させるようにする。
【0015】
図1及び図2のフローを参照して詳述すると、まず、電圧制御器16で第1電極3aと第2電極3bの設定電圧S1とS2を設定して溶接を開始すると、アーク長制御が開始される。この場合、たとえば、第1電極3aの設定電圧S1と第2電極3bの設定電圧S2との平均値Sが演算指令器18に送られ、アーク長制御の基準とされる。
【0016】
溶接が開始されると、溶接作業中の第1電極3aの電圧が第1電圧測定器19aにより測定され、第2電極3bの電圧が第2電圧測定器19bにより測定される。次に、第1変動値測定器20aにて、第1電圧測定器19aによる測定値S1′と設定電圧S1とが比較されることによりその差としての変動値ΔS1が求められ、一方、第2変動値測定器20bにて、同様に、第2電圧測定器19bによる測定値S2′と設定電圧S2とが比較されることによりその差としての変動値ΔS2が求められる。
【0017】
次いで、求められた変動値ΔS1とΔS2が加算器21に入れられて加算され、この加算値ΔSが許容範囲内であれば、そのままのアーク長で溶接が続行される。一方、図6に示す如く、横向き開先12内にオーバーラップ部14やアンダーカット部15が生じると、変動値ΔS1やΔS2は大きくなるので、加算器21にて加算された加算値ΔSは許容範囲を越えることになる。したがって、このような場合は、加算値ΔSが補正器22に送られ、ここで、たとえば、補正定数としての1/2が掛けられることにより補正値ΔS′が算出され、この補正値ΔS′が演算指令器18へ送られることにより設定電圧Sが補正される。したがって、演算指令器18からトーチ移動ユニット17へ送られる駆動指令が修正される結果、TIG溶接トーチ10は横向き開先12に対し近接、又離反させられることになり、アーク長が適切な長さに制御されることになる。これにより、第1電極3aと第2電極3bは母材側と短絡してしまうようなことはなく、又、アーク長が過大になってしまうようなことを未然に防ぐことができる。
【0018】
次に、図3は本発明の他の実施の形態を示すもので、図1に示したものと同様な構成において、電圧制御器16に、第1電極3a、第2電極3bのみの単独の動作モードを付加し、且つ第1変動値測定器20a、第2変動値測定器20bで測定した変動値ΔS1、ΔS2が許容範囲を越えているときに、これら変動値ΔS1、ΔS2を演算指令器18へ補正値として直接送る機能を具備させたものである。
【0019】
図3に示すようにアーク長制御装置を構成した場合は、図4のフローに示す如く、電圧制御器16にて、アーク長を制御すべき電極として、第1電極3aと第2電極3bの組み合わせ、又は第1電極3aのみ、あるいは第2電極3bのみを選択することができ、第1電極3aのみ又は第2電極3bのみのモードを選択した場合には、図4のフローにおいて、変動値測定後は破線で示す経路にて制御が行われる。したがって、横向き溶接時には上記実施の形態の如く、電極3aと3bの両電圧変動値を基に、又、下向き溶接時には、電極3a又は3bのみの電圧変動値を基にアーク長制御を行うなど、開先の形状やトーチ姿勢に応じて多電極制御を選択したり単電極制御を選択して使用することができる。
【0020】
なお、実施の形態では、補正器22の補正定数として1/2を用いた場合を示したが、母材や溶融池の形状等に応じて任意の数値を選定し得ること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0021】
【発明の効果】
以上述べた如く、本発明の多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法及び装置によれば、第1電極と第2電極の2本の電極を並列させて有する多電極TIG溶接トーチによる母材の溶接時に、電圧制御器で設定した上記2本の電極への設定電圧に基づいて母材との間に放つアークの長さを保つようにする多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法及び装置において、上記2本の電極の設定電圧からの変動値を変動値測定器にて求めて加算器にて加算し、該加算値に補正器にて補正定数を掛けて補正値を算出し、該補正値を演算指令器に送ることによりTIG溶接トーチを母材に対し近接、離反させてアーク長を制御するようにしてあるので、2本の電極の短絡やアークの過大現像を未然に防ぐことができ、又、第1電極、第2電極単独の動作モードを付加し、第1電極又は第2電極の電圧変動値を補正値とする機能を具備させることにより、アーク長制御を種々のモードで実施でき、母材の形状等に合わせた制御を行うことができる、等の優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置の実施の一形態を示すブロック図である。
【図2】図1のブロック図に基づくフローである。
【図3】本発明の他の実施の形態を示すブロック図である。
【図4】図3のブロック図に基づくフローである。
【図5】TIG溶接トーチの一例を示すもので、(イ)は概略側面図、(ロ)は(イ)のA−A方向拡大矢視図である。
【図6】図5に示すTIG溶接トーチの使用状態の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
3a 第1電極
3b 第2電極
10 TIG溶接トーチ
16 電圧制御器
17 トーチ移動ユニット
18 演算指令器
19a 第1電圧測定器
19b 第2電圧測定器
20a 第1変動値測定器
20b 第2変動値測定器
21 加算器
22 補正器
Claims (3)
- 第1電極と第2電極の2本の電極を並列させて有する多電極TIG溶接トーチによる母材の溶接時に、上記2本の電極への設定電圧に基づいて母材との間に放つアークの長さを保つようにする多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法において、上記2本の電極の設定電圧からの変動値をそれぞれ求めて加算し、次に、この加算値に補正定数を掛けて補正値を算出し、該補正値を基に、上記溶接トーチを母材に対し近接、離反させてアーク長を制御することを特徴とする多電極TIG溶接トーチのアーク長制御方法。
- 第1電極と第2電極の2本の電極を並列させて有する多電極TIG溶接トーチの上記2本の電極の電圧を設定する電圧制御器と、該電圧制御器による設定電圧に基づきトーチ移動ユニットへ駆動指令を与えて母材との間に放つアークの長さを保つようにしてある演算指令器とを備えた多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置において、上記第1電極の電圧を測定する第1電圧測定器、上記第2電極の電圧を測定する第2電圧測定器、上記第1電圧測定器の測定値と設定電圧との差を求める第1変動値測定器、上記第2電圧測定器の測定値と設定電圧との差を求める第2変動値測定器、上記第1変動値測定器による変動値と第2変動値測定器による変動値とを加算する加算器、該加算器により得られた加算値に補正定数を掛けて得られた補正値を上記演算指令器を送る補正器を備えてなる構成を有することを特徴とする多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置。
- 電圧制御器に、第1電極、第2電極単独の動作モードを付加し、且つ第1変動値測定器、第2変動値測定器にて測定した変動値を補正値として演算指令器に送る機能を具備させた請求項2記載の多電極TIG溶接トーチのアーク長制御装置。
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JP25688198A JP3713972B2 (ja) | 1998-09-10 | 1998-09-10 | 多電極tig溶接トーチのアーク長制御方法及び装置 |
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Family Applications (1)
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JP25688198A Expired - Lifetime JP3713972B2 (ja) | 1998-09-10 | 1998-09-10 | 多電極tig溶接トーチのアーク長制御方法及び装置 |
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US6940039B2 (en) | 2003-12-22 | 2005-09-06 | Lincoln Global, Inc. | Quality control module for tandem arc welding |
-
1998
- 1998-09-10 JP JP25688198A patent/JP3713972B2/ja not_active Expired - Lifetime
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