JP3713345B2 - 複合型光学素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、400nm以下の波長の電磁波エネルギーによって硬化する硬化型樹脂とガラス製の基材とが接合された複合型光学素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガラス製の基材と樹脂層を密着させ、接着させる場合においては、基材と樹脂の密着や結合力が低いため、樹脂と密着する基材上にシランカップリング剤等による化学的な処理を施すことにより、基材と樹脂を化学的に結合させる方法が従来から行われている。また特開平4−83740号公報では、さらに密着、結合力を向上させるため、基材表面に酸処理等を施すことにより、基材表面に微少な凹凸を形成している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、カップリング処理を行うには、基材へのカップリング剤の塗布や、焼き付けの工程が必要なためコストが高くなる。また、硝材の種類によってはSiO2 の含有量が少ないなどの理由からカップリング処理の効果が期待できない場合もある。
【0004】
一方、特開平4−83740号公報のように、カップリング処理等を行う前に、樹脂と接触する基材表面に微少な凹凸を設ける為の酸処理等を行うと、さらに工程が増えるためコストが上昇し、また基材の機械的強度が低下する。さらに、高い光学性能が必要な複合型光学素子の場合は、樹脂の屈折率と基材の屈折率を接近させなければ基材上の微少な凹凸による樹脂と基材の界面が乱反射を起こすため、樹脂または基材を選択する自由度が制限される等の不具合が発生する。
【0005】
本発明はこれらの問題点を解決することができる複合型光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、樹脂層を形成する光学面を有する金型またはガラス製の基材のいずれか一方に400nm以下の波長の電磁波エネルギーで硬化する樹脂を供給し、金型と基材を相対的に接近させて樹脂を押圧して広げることにより金型と基材の間に樹脂層を形成した後、エネルギーの照射により樹脂層を硬化させ、硬化した樹脂層から金型を剥離する製造方法であって、樹脂層が硬化を開始する時点で、基材と樹脂が接触する界面の温度が30℃以上、樹脂の粘度が2500cPs以下となるように制御することを特徴とする。
【0007】
一般に、有機材料と無機材料の接着は、物理的な結合力と化学的な結合力が両者の間に存在するために成り立っている。ガラスからなる清浄な基材の表面と、樹脂(高分子)の両者間の結合では、物理的なガラス表面の微細な凹凸(0.1〜0.1μm程度のクラック)に硬化前の液体状の樹脂が入り込み、硬化することにより結合性が高まる「くさび効果」からなる現象と、化学的なガラスと高分子間の静電引力、すなわち水素結合や分子間力等による結合力の両者から主に成り立っている。
【0008】
しかし、従来の方法で成形した場合には、清浄な基材上に形成された樹脂層が、基材から容易に剥離してしまうため、基材表面を化学的に処理して、単位面積当たりの基材と樹脂の結合力を増大させる必要がある。しかし実際には、成形された樹脂層12と研磨された清浄な基材11の界面の断面は、図1の模式で示すように、基材1と樹脂層2は十分に密着することなく、これらの間に空間18が多く存在する。このため、樹脂層2と基材3の間に本来的に作用する物理的、化学的結合力が十分発揮されていなかった。
【0009】
本発明はこの物理的、化学的結合力を有効に活用し、また紫外線領域(400nm)以下の波長の電磁波により樹脂を硬化させる時の活性化した基材表面と樹脂の反応性を利用して十分な結合力を得るものである。
【0010】
この結合力を発揮させる必要最低条件は、樹脂層の硬化を開始する時点における基材と樹脂が接触する界面の温度が30℃以上で、樹脂の粘度が2500cPs以下である。
【0011】
以下に、ガラスと高分子の物理的、化学的結合力を十分に発揮させることが可能な理由を説明する。
研磨された清浄な光学面を有したガラス基材表面には、0.1μm以下の微細なクラックが無数に存在する。この基材表面を界面として樹脂層が密着するが、この時、ガラス基材表面に十分な濡れ性があり、また液体状の高分子もある程度以下の粘度でないと、微細なガラス表面のクラック内に未硬化樹脂が入り込むことができない。このため、まず基材の温度を30℃以上に上昇させることで基材の濡れ性を良くする。さらに樹脂の粘度を30℃で2500cPs以下にして流動性、濡れ性を増大させる。この手段としては2つの方法▲1▼,▲2▼がある。
【0012】
▲1▼ 30℃の時に粘度が2500cPs以下の樹脂を用いる。同じ温度で同じ種類の樹脂において、粘度が低くなるためには、オリゴマーの分子量が小さく、モノマーの比率が多く、単官能モノマーが多い等の条件が必要である。この条件はいずれも樹脂の密着性を向上させる方向に作用して、微細なガラス表面のクラック内に進入し易くなる。
【0013】
▲2▼ 粘度が30℃で2500cPsより高い粘度の樹脂を用いる場合は、樹脂の温度を30℃以上に上昇させて樹脂の粘度を2500cPs以下にする。樹脂の温度を上昇させると、通常の樹脂は高分子の分子運動が活発になり粘度が低下する。この状態もまた樹脂の密着性を向上させる方向に作用するため、樹脂が微細なガラス表面のクラック内に進入し易くなる。
【0014】
以上のようにガラス製基材と樹脂の密着性を良くする条件を満たすことによりガラス表面の微細な凹凸に硬化前の液体状の樹脂が入り混んだ状態で樹脂が硬化する。これにより、「くさび効果」が発揮され、物理的結合力を有効に使用することができる。
【0015】
ガラス基材表面と高分子間の静電引力、すなわち水素結合や分子間力等は通常、両者の間隔が5Å以下程度となって、始めて結合力が発揮される。従って、物理的なガラス製基材と樹脂との密着性が低いと化学的結合力も発揮させることができない。また樹脂に含まれる低分子量成分またはオリゴマー等の末端基の大きさは数Åであり、ガラス製基材表面の微少な凹凸に十分に入り込むことができるが、従来ではガラスと樹脂との間隔が5Å以下になっている界面の面積が非常に少なかった。
【0016】
しかし、物理的結合力を向上させることにより、図2に示すように、図1と比較してガラス製基材3と樹脂層2の密着面積が大幅に増加し、これにより空間18も減少する。すなわち、基材表面と樹脂の間が5Å以下に接近している面積も大幅に増加するため、化学的結合力も向上する。
【0017】
さらに、400nm以下の波長の電磁波により硬化を行う際に、ガラス製基材表面と樹脂との接触する界面の温度が少なくとも30℃以上で、樹脂を硬化する為に通常使用されている電磁波強度(50mw/cm2 程度以上)を用いて、樹脂を硬化する。これにより、ガラス製基材表面と樹脂が活性化した状態で反応するため、ガラス−高分子間の単位面積あたりの化学的結合力をさらに向上させることが可能となる。
【0018】
上記のように樹脂層の硬化を開始する時点で、基材と樹脂が接触する界面の温度が30℃以上で、樹脂の粘度が2500cPs以下の条件を満たすことにより、ガラス製基材と樹脂の物理的、化学的結合力を飛躍的に増大させることができる。
【0019】
このため従来行われていたカップリング処理や基材の表面処理等を行う必要がなくなり、工程が大幅に簡略化される、コストを低減することができる。また、基材表面に微少な凹凸を設けるための酸処理等も不要となり、基材の機械的強度が低下することもない。
【0020】
さらに、SiO2 の含有量が少ない硝材では、シランカップリング剤等の効果が低い場合があり、このような硝材を基材として使用する場合は、さらに化学処理を行う必要がある。本発明を用いることにより通常の研磨面を有したガラス製基材であれば、基材と樹脂の強い結合力を容易に得ることができる。このため、硝材の選択範囲が広がり、コストの低減も出来る。なお、従来から行われているシランカップリング処理や表面に凹凸を設けるための酸処理等と本発明による方法とを併用することもでき、これによりさらに強力な結合力を得ることも可能である。
【0021】
請求項2の発明は、樹脂の粘度が2500cPs以下となるように樹脂または基材の少なくとも一方を加温することを特徴とする。
【0022】
この方法は、粘度が30℃で2500cPs以下の樹脂を用いるのではなく、樹脂の粘度が2500cPs以下になるように樹脂の温度を上昇させて樹脂内の高分子運動を活発にして粘度を低下させるものである。これにより、樹脂の仕様を決定する場合、粘度に拘束されることなく、屈折率、樹脂成分の配合比等を自由に選定できるため、使用樹脂の選択範囲が広くなる。
【0023】
また、同じ温度で同じ種類の樹脂を比較した場合、樹脂粘度の調整は高分子のオリゴマーの分子量やモノマーとオリゴマーの配合比を調整して行うので、粘度が高い樹脂の方が未硬化状態での平均分子量が大きく、硬化するまでの時間が短いため、サイクルタイムを短縮することが可能となる。加えて、未硬化状態での樹脂の分子量が大きいほど、硬化時の収縮量も小さいため、精度の良い光学面を得ることが容易となる。
【0024】
さらに、同一の樹脂を比較した場合、温度を高くすることによって反応性が高まり、樹脂を硬化する時間を短縮することが出来るため、サイクルタイムを短縮することが可能となる。
【0025】
樹脂を加温する手段としては、樹脂自体を加温する、基材を加温することによって樹脂へ熱伝導させて加温する、金型を加温して樹脂へ熱伝導させて加温する、または、これらを併用する等の方法がある。
【0026】
図3は、樹脂の粘度と温度の関係を、ウレタン−アクリレート系の樹脂について示すものである。このウレタン−アクリレート系の樹脂は、温度30℃の時に粘度が約4000cPsであるため、本発明の条件には合致しない。しかし、従来の温度を40℃以上にすることで粘度が約2500cPs以下に低下し、これにより本発明の条件を満たすことができる。
【0027】
請求項3の発明は、基材を加温することを特徴とする。
この発明は、基材を加温することにより樹脂へ熱伝導させて樹脂の温度を上昇させるものである。これにより、樹脂層の硬化を開始する時までに、基材と樹脂が接触する界面の樹脂粘度を2500cPs以下にすることができる。
【0028】
未硬化の樹脂保存性は一般に高温状態であればあるほど悪くなり、時間と共に樹脂内のモノマーや重合開始剤等が揮発して、樹脂成分が変化したり、熱重合が開始される場合があるため、樹脂を吐出する前から長時間加温しておくことは好ましくない。しかし吐出された後に樹脂が加温される場合は、極めて短時間で成形が完了するため、樹脂の成分変化等の可能性がほとんどないというメリットがある。
【0029】
また、いずれにせよ基材を30℃以上に加温することが必要な条件となっているため、樹脂、金型の温度は従来通りのままで、基材の温度だけを樹脂の粘度が2500cPs以下になるように設定することにより、さらに容易に良好な効果を発揮させることができる。
【0030】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
図4〜図6は本発明の実施の形態1の製造を工程順に示しており、1はガラス製の基材、3は金型である。基材1はLAL14(小原(社)製)からなる硝材が使用され、樹脂層2を成形する成形面1aは曲率半径83mmの凹面となっており、裏面1bは平面に研磨されている。この基材1は中心厚さが2mm、直径30mmである。これに対し、金型3は直径30mm、曲率半径80mmの凸面の光学面3aを有している。
【0031】
複合型光学素子の成形は、60℃に温度調整され、且つ400nm以下の波長の電磁波によって硬化するアリルエステル系樹脂5を、基材1の成形面1aの中央に吐出する。金型3は60℃に温度調整されており、この金型3の中心軸を基材1の中心軸に合わせて、基材1との距離が0.3mmとなるまで下降する。これにより樹脂5が金型3及び基材1とによって押圧されて広がり、樹脂層2となる。
【0032】
この時の成形雰囲気温度および基材1の温度は24℃であるが、金型3が樹脂5を押圧する間に、樹脂5から基材1への熱伝導により、樹脂層2と基材1の界面の温度が45℃以上に上昇し、樹脂5の粘度は2300cPsとなった。このアリルエステル樹脂5は30℃における粘度が5500cPsであり、金型3と樹脂5の温度を上昇させることにより、成形時の樹脂5の粘度を2500cPs以下に設定するものである。
【0033】
次に基材1の下方から400nm以下の紫外線を100mw/cm2 の照度で照射し、樹脂層2を硬化する。その後、金型3と樹脂層2を剥離し、図6に示すように複合型光学素子4の製造が完了する。
【0034】
基材としてLAL14の硝材を用いた場合、SiO2 含有量が少ないため、従来のシランカップリング処理では樹脂5と基材1の密着力が低く、複合型光学素子の基材1として使用することができなかった。これに対し、この実施の形態では、樹脂5と金型3の温度を60℃に設定し、従来と同様の手順で複合型光学素子の成形を行うだけで、樹脂と基材との強い結合力を得ることが可能となる。これにより、LAL14からなる硝材を複合型光学素子の基材として使用することができるため、基材の選択範囲が広がる。また従来の成形よりも高い温度の状態で樹脂を硬化するため、樹脂の硬化時間が短縮され、サイクルタイムが短くなり、迅速に製造できる。
【0035】
本実施の形態では、作成された複合型光学素子500個(n=500)を用いて、−60℃から+110℃までのヒートショック試験を30サイクル行った。結果は全て合格で、樹脂層2の剥離やクラック等は発生しなかった。なお、同一の金型、基材、樹脂を用いて温度を24℃に設定して、基材には化学的処理を行わないサンプルのヒートショック試験(n=100)を行ったが、2サイクルで樹脂層2が基材3と剥離し、全数不良という結果となった。
【0036】
(実施の形態2)
ガラス製基材1は、図7に示すように、樹脂5と接触する成形面1aが曲率半径60mmの凹面となっており、裏面1bが曲率半径30mmの凸面であり、厚さが5mmで直径20mmの硝材PBL27(小原(社)製)を使用した。この清浄なガラス製基材1の成形面1aの中央へ350nm以下の電磁波で硬化するエポキシ系樹脂5を吐出する。金型3は直径20mm、曲率半径40mmの凸面の光学面3aを有している。この金型3を、基材1の中心軸と同一で中心軸上での金型3と基材1の距離が0.05mmになるまで下降する。これにより図8のように樹脂5が押圧されて樹脂層2となる。この時の成形雰囲気は30℃であり、金型3、基材1、樹脂5の温度も30℃に保たれ、樹脂5の粘度は約2400cPsである。
【0037】
次に、基材1下部より300nm以下の紫外線を60mw/cm2 の照度で照射し、樹脂層2を硬化する。その後、金型3と樹脂層2を剥離し、図9に示すように基材1と樹脂層2とが一体となった複合型光学素子4を得る。
【0038】
従来は、基材にシランカップリング処理を行って成形を行わなければないらかったが、この実施の形態によれば、雰囲気の温度を30℃に設定し、従来通りの手順で成形を行うだけで、樹脂5と基材1の強い結合力を有した複合型光学素子を成形することが可能となる。このため、基材へのシランカップリング剤の塗布、焼き付け工程が必要がなくなり、製造のサイクルタイムが短くなると共に、大幅にコストを低減することができる。
【0039】
本実施の形態で作成した複合型光学素子を用い、−40℃から+80℃までのヒートショック試験(n=200)を50サイクル行った結果、0.5%の不良が発生したが、不良サンプルを観察すると、基材1と樹脂層2が剥離しているのではなく、樹脂層2にクラックが入ったために不良となっており、基材1と樹脂層2の結合力は非常に高いことが確認された。
【0040】
なお、同一の金型、樹脂を用いてシランカップリング処理した基材を用い、成形温度を24℃に設定して成形したサンプルのヒートショック試験結果(n=200)は不良率1%であり、基材を化学的に処理した場合の樹脂との結合力と比較しても、本実施の形態における基材と樹脂の結合力は何等遜色のない結果となった。ここで、化学的処理を行わない基材を用い、成形雰囲気を24℃に設定して成形したサンプルの同様なヒートショック試験(n=100)結果は4サイクルで全数不良となった。
【0041】
(実施の形態3)
金型3は図10に示すように、直径が18mm、曲率半径500mmの凹面の光学面3aを有し、25℃に温度調整されている。この金型3の中央へ、25℃に温度調整された400nm以下の電磁波で硬化するポリエン−チオール系樹脂5を吐出する。基材1はLAH53(小原(社)製)の硝材であり、平面に研磨された1辺が20mmの2つの正方形が直交する形のプリズムからなる。この基材1の片方の正方形の平面を成形面1aとし、金型3の光軸が成形面の中心を通り垂直に交わるように基材1を下降させて、金型3の外周部と基材1の成形面が0.02mmになるよう金型3と基材1を接近させる。これにより、図11のように樹脂5が押圧されて樹脂層2となる。
【0042】
この時の成形温度は25℃であるが、基材1は45℃に温度調整されており、樹脂5が押圧されて基材1と金型3の間に広がる時に、基材1から樹脂層2への熱伝導により、樹脂層2と基材1の界面の樹脂5の温度は35℃以上に上昇し、これにより粘度が2000cPsとなった。
【0043】
基材1の温度は樹脂層2への熱伝導のため、時間と共に徐々に低下して、樹脂層2と基材1の界面の温度が32℃となったとき、樹脂5の粘度が2500cPs以下になる。このため、樹脂5が32℃以下になる前に、基材1の成形面ではない正方形の平面に400nm以下の紫外線を230mw/cm2 の照度で照射し、プリズムで反射させて、樹脂層2を硬化する。その後、金型3と樹脂層2を剥離し、図12に示すように基材1と樹脂層2とが一体となった複合型光学素子4を得る。
【0044】
従来は、基材にシランカップリング処理を行って成形を行わなければならなかったが、この実施の形態によれば、基材1の温度を45℃に設定して従来通りの手順で複合型光学素子を成形を行うだけで、樹脂と基材の強い結合力を得ることが可能になっている。このため、従来行っていた基材へのシランカップリング剤の塗布、焼き付け工程が必要がなくなり、製造のサイクルタイムが短縮できる。
【0045】
また、通常、複合型光学素子の基材は回転対称形であるため、従来は基材を回転させてカップリング液を滴下し塗布するカップリング塗布装置を用いている。これに対し、本実施の形態で用いた基材は三角柱形状のプリズムであるため、シランカップリング塗布を行う場合、カップリング塗布装置を新たに作成しなければならない。しかし、この実施の形態ではその必要もなくなるために、自由な形状を複合型光学素子の基材として選定することが容易になっている。
【0046】
この実施の形態により作成された複合型光学素子を用いて、−20℃から+95℃までのヒートショック試験(n=700)を200サイクル行った結果、不良率は2.5%であった。なお、同一の金型、基材、樹脂を用いて温度を24℃に設定して、基材にシランカップリング処理を行ったサンプルの同一なヒートショック試験(n=50)での不良率は3%であった。これから基材を化学的に処理した場合の基材との樹脂の結合力と比較しても、この実施の形態による基材と樹脂の結合力は何等遜色のない結果となった。
【0047】
(実施の形態4)
図13に示すように、30℃に温度調整された直径22mm、曲率半径275mmの凸面の成形面1aを有し、裏面が凹面で曲率半径640mmのBAL41(小原(社)製)の清浄なガラス製基材1に、30℃に温度調整された粘度が1000cPsの変成ウレタンアクリレート樹脂5を中央に吐出する。そして直径21mm、近似曲率半径288mmの凹面を有した金型3を基材1と同一の中心軸上で接近させ、中心軸上の金型3と基材1の距離を0.02mmとする。これにより、図14のように、樹脂5が押圧されて樹脂層2となる。
【0048】
さらに、340nmの波長をピークとするランプ10により、下方から電磁波を120mw/cm2 で照射し、樹脂層2を硬化する。この後、金型3と樹脂層2を剥離し、図15に示すように、複合型光学素子の製造工程が完了する。
【0049】
樹脂、基材温度の両方を変更して、樹脂−基材界面の温度を変化せさて成形を行った場合のヒートショック試験(−54℃から100℃、5サイクル)の結果を表1に示す。サンプル数はそれぞれ80個である。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から基材温度30度を境に、剥離するサンプルの割合が激減している。従って、基材と樹脂の界面温度が30℃以上で本実施の形態の効果が発揮できる。これは、樹脂−基材界面の温度が30℃以上になると、ガラス基材表面と樹脂とが活性化した状態で反応し、ガラス−高分子間の単位面積当たりの化学的結合力が向上することによるものである。
【0052】
なお、表1では樹脂−基材界面温度と表示したが、基材表面に熱伝対を取り付けて、▲1▼樹脂、基材温度の双方を同一に変更、▲2▼基材の温度を変更、▲3▼樹脂の温度を変更の3方法で樹脂−基材界面温度を変化させたが、不良の割合には殆ど変化がないことを確認した。
【0053】
なお、上記実施の形態は、予備試験的に行ったため、実際の生産で本実施の形態を用いる場合は、樹脂、基材温度を35〜40℃以上に加温することで、更なる不良率の減少が可能である。
【0054】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、通常の研磨面を有したガラス製の基材と樹脂の物理的、化学的結合力を極めて容易に、飛躍的に向上させることができるため、基材へのシランカップリング処理や基材表面に凹凸を設けるための酸処理等の化学処理工程が必要なくなる。このため、基材の機械的強度が低下することもなく、基材上の微少な凹凸による樹脂と基材の界面が乱反射を起こすこともなく、大幅なサイクルタイムの短縮やコストの低減が可能となる。また、硝材の種類に拘束されることがないため、硝材の選択範囲を広げることができる。
【0055】
請求項2の発明によれば、請求項1の効果に加えて、粘度に拘束されることなく、屈折率、樹脂成分の配合比等を自由に選定できるため、使用樹脂の選択範囲が広くなる。また、サイクルタイムを短縮することが可能であり、しかも精度の良い光学面を得ることが容易となる。
【0056】
請求項3の発明によれば、請求項2の効果に加えて、吐出した後に樹脂を加温するため、短時間で成形が完了すると共に、加熱した状態で樹脂を長時間保存する必要がなく、樹脂の成分変化がほとんどなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】基材と樹脂層の界面の断面を示す模式図である。
【図2】基材と樹脂層の界面の断面を示す模式図である。
【図3】樹脂の粘度と温度の関係を示す特性図である。
【図4】実施の形態1の製造工程の正面図である。
【図5】実施の形態1の製造工程の正面図である。
【図6】実施の形態1の製造工程の正面図である。
【図7】実施の形態2の製造工程の正面図である。
【図8】実施の形態2の製造工程の正面図である。
【図9】実施の形態2の製造工程の正面図である。
【図10】実施の形態3の製造工程の正面図である。
【図11】実施の形態3の製造工程の正面図である。
【図12】実施の形態3の製造工程の正面図である。
【図13】実施の形態4の製造工程の正面図である。
【図14】実施の形態4の製造工程の正面図である。
【図15】実施の形態4の製造工程の正面図である。
【符号の説明】
1 基材
2 樹脂層
3 金型
4 複合型光学素子
5 樹脂
Claims (3)
- 樹脂層を形成する光学面を有する金型またはガラス製の基材のいずれか一方に400nm以下の波長の電磁波エネルギーで硬化する樹脂を供給し、金型と基材を相対的に接近させて樹脂を押圧して広げることにより金型と基材の間に樹脂層を形成した後、エネルギーの照射により樹脂層を硬化させ、硬化した樹脂層から金型を剥離する製造方法であって、樹脂層が硬化を開始する時点で、基材と樹脂が接触する界面の温度が30℃以上、樹脂の粘度が2500cPs以下となるように制御することを特徴とする複合型光学素子の製造方法。
- 樹脂の粘度が2500cPs以下となるように樹脂または基材の少なくとも一方を加温することを特徴とする請求項1記載の複合型光学素子の製造方法。
- 基材を加温することを特徴とする請求項2記載の複合型光学素子の製造方法。
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