JP3712290B2 - d−デチオビオチンの製造法 - Google Patents

d−デチオビオチンの製造法 Download PDF

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Description

【0001】
本発明は、発酵によるd−デチオビオチン(以下、DTBと略記する)の製造法に関する。
【0002】
DTBは、いわゆるビオチン バイタマーの一つであり、一般に多くの微生物においてd−ビオチンの直接の前駆体と考えられている。したがって、DTBは、生物学的なd−ビオチンの製造に非常に重要な物質である。
【0003】
ビオチン バイタマーの製造に関する研究は知られている。ムコール(Mucor)、リゾプス(Rhizopus)、アスぺルギルス(Aspergillus)、ストレプトミセス(Streptomyces)、エシェリヒア(Escherichia)、バチルス(Bacillus)およびスポロボロマイセス(Sporobolomyces)のような属に属する各種微生物が、ビオチン バイタマーを生産することが知られている。しかしながら、クルチア(Kurthia)属に属する微生物が大量のDTBを蓄積することは知られてない。
【0004】
本発明によれば、大量のDTBを生産することができる。クルチア属に属する微生物は、発酵液中に大量のDTBを蓄積することができ、そこから所望の純度で蓄積したDTBを採取できることを見出した。
【0005】
d−ビオチン−d−スルホキシド、d−デチオビオチン(DTB)、7,8−ジアミノペラルゴン酸、および7−ケト−8−アミノペラルゴン酸を含むビオチン バイタマーの含有量は、サッカロミセス セレビシイェー(Saccharomyces cerevisiae)ATCC7754(J. Am. Chem. Soc., 62, 175-178, 1940)を用いてぺーパーディスクプレート法により定量できる(J. Microbiological Methods, 6, 237-246, 1987)。また、試料中のそれぞれのビオチン バイタマーは、サッカロミセス セレビシイェーATCC7754を用いてバイオオートグラフ法により同定することができる(Agr. Biol. Chem., 33, (12), 1730-1736, 1969)。
【0006】
本発明を実施するにあたり、クルチア属に属する微生物は、資化可能な炭素源、消化可能な窒素源および微生物の成育に必要な他の栄養素を含有する培地で培養される。炭素源としては、例えばグルコース、フラクトース、でんぷん、ラクトース、マルトース、ガラクトース、スクロース、デキストリン、グリセリンまたはキビゼリーなどが用いられる。窒素源としては、例えばペプトン、大豆粉、コーンスチープリカー、肉エキス、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などがそれぞれ単独もしくは混合して用いられる。更に、その他の微量要素としては、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン、コバルトおよび鉄の、硫酸塩、塩酸塩または燐酸塩などが用いられる。また、培地にピメリン酸などのビオチン前駆体を含んでいてもよい。更に、必要に応じて動物油、植物油、鉱油などのごく一般的な栄養因子もしくは消泡剤を補足的に加えてもよい。培養に用いる培地のpHは、約5. 0〜9. 0であり、約6. 5〜7. 5が好ましく、培養温度は、約10〜40℃であり、約26〜30℃が好ましい。培養時間は、通常、約1〜10日であり、約2〜5日が好ましい。通常、培養において、通気および攪拌は好ましい結果を与える。培養後、培養液中に生産されたDTBは、培養液から分離し、精製する。この目的のために、通常、発酵液から生成物の抽出に使用される方法をDTBの各種の性質を利用して行ってもよい。このように、例えば菌体を培養液から分離し、そのロ液中の所望の物質を活性炭に吸着させ、次いで溶離させ、イオン交換樹脂で精製する。あるいは、培養ロ液を直接にイオン交換樹脂に適用し、溶離後所望の生成物をアルコールと水の混合液から再結晶する。
【0007】
本発明において使用する微生物は、DTB生産能を有するクルチア属に属するすべての菌株を含む。クルチア属の菌株の中で、特に好ましい菌株としては、横浜市舞岡公園で採取された土壌試料から分離しクルチア エスピー. (Kurthia sp. )538−6(以下、538−6号菌と略記する)が挙げられ、1994年10月5日に、DSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Gottingen, Germany)へ、DSM No. 9454として寄託されている。538−6号菌の分類は、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 9th Edition (N.R. Krieg and P.H.A. Sneath, The Williams & Wilkins Co., Baltimore,1984)に基づき行った。
【0008】
538−6号菌の形態学的性質を表Iに要約する。細胞形態は、24時間培養(培養初期)において、0. 87−1. 2μm ×1. 5−5. 2μm の桿菌で、連鎖し、その長さは60μm 以上にもなる。96時間培養(培養後期)では、一部の桿菌はコッコイド(Coccoid)細胞を形成する。30℃で培養されたニュートリエント アガー(nutrient agar)上の538−6号菌の単一集落類は、円形状、レギュラー(regular)、半レンズ状、黄味白色−ロウ色、無光沢および少しシワ状であり、色素生産は見られなかった。24時間での集落は、直径2mmであった。その桿菌は、グラム陽性、非運動性であり、胞子を形成しなかった。流動パラフィンの存在または非存在でのニュートリエント アガーを用いた穿刺培養における538−6号菌の14日間での成育は、流動パラフィン非存在での寒天表面付近でのみ観察された。この結果は、本菌が通性嫌気性ではなく絶対好気性であることを明確に示している。上述の性質は、538−6号菌がBergey's Manual of Systematic Bacteriology Vol.2 のセクション14:レギュラー、ノンスポーリング グラム−ポジティブ ロッド(Regular、Nonsporing Gram−positive Rods)に属することを示している。
【0009】
【表1】
Figure 0003712290
【0010】
538−6号菌は、カタラーゼ陽性であり、細胞壁中のペプチドグリカンは、ジアミノ酸としてリジンを含有していた。538−6号菌の細胞壁中の主要な脂肪酸のタイプは、飽和の直鎖型ならびにアンテイソ(anteiso)−およびイソ−メチルの分岐型であるが、主要脂肪酸は、12−メチルテトラデカン酸(アンテイソ−C 15:0)であった。細胞壁中の主要なキノンは、7個のイソプレンユニットを有する不飽和メナキノン(MK−7)であった。GC含量は、41%であった(表II)。
【0011】
【表2】
Figure 0003712290
【0012】
a:S、直鎖飽和脂肪酸;A、アンテイソ−メチル−分岐脂肪酸;I、イソ−メチル−分岐脂肪酸
【0013】
これらの性質は、538−6号菌がクルチア属に属することを支持している。クルチア属は、二つの種、すなわち、クルチア ギブソニー(Kurthia gibsonii)およびクルチア ゾフィー(Kurthia zopfii)に分類されている。しかし、さらに1つの種、クルチア シビリカ(Kurthia sibirica)が、Berukoba et al. (Mikrobiologiya, 55, 831-836, 1986)により報告された。クルチアの種は、以下の9つの性質により区別されている。45℃での成育、熱抵抗性、集落の色、4−アミノ−n−ブチレートの資化性、エタノールおよびグリセリンからの酸生成、デオキシリボヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、ホスファターゼおよびパントテン酸の要求性。そこで、表III に示すように538−6号菌のそれら9つの性質を調べた。
【0014】
【表3】
Figure 0003712290
【0015】
クルチア ギブソニー、クルチア ゾフィーおよびクルチア シビリカの資料は、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology (9th Ed.)およびBerukoba et al. (1986)から引用した。
( ):その種のなかで陽性を示す株の割合(%)
【0016】
これらの結果から、538−6号菌は、以下の性質において上述の3つの既知クルチアの種とは異なった。クルチア ゾフィー:熱抵抗性、4−アミノ−n−ブチレートの資化性およびパントテン酸の要求性;クルチア ギブソニー:45℃での成育;クルチア シビリカ:集落の色およびパントテン酸の要求性。次に、表IVに示すように,538−6号菌と、3つの既知クルチアの種、クルチア ゾフィー(NCIB9878)、クルチア ギブソニー(NCIB9758)およびクルチア シビリカ(BKM B−1549)との定量的DNA−DNAハイブリダイゼーションを行い、それぞれ16、19および4%の相同値を得た。細菌分類法での種の独立性の概念によれば、DNA−DNAハイブリダイゼーションにより同一種菌株間で得られる相同値は、一般的に70%以上である。これら4つの菌株で得られた相同値から、それらの菌株は、独立の種であると決定した。したがって、538−6号菌をクルチアの新種と決定し、とりあえずクルチア エスピー. (Kurthia sp.)538−6と命名した。
【0017】
【表4】
Figure 0003712290
【0018】
538−6号菌の他の分類学的性質を表Vに要約する。細胞の多形性は見られず、抗酸性は陰性であった。生理学的性質は以下の通りであった。
【0019】
硝酸塩の還元:陽性;脱窒反応:陰性;メチルレッドテスト:陰性;VPテスト:陰性;インドールの生成:陰性;硫化水素の生成:陰性;でんぷんの加水分解:陰性;クエン酸塩の利用性(Koser's):陽性;塩化アンモニウムおよび硝酸カリウムの利用性:陽性;ウレアーゼ反応:陽性;オキシダーゼ反応:陰性;成育範囲:pH5. 7〜pH10、かつ15℃〜37℃で生育;OFテスト(Hugh & Leifson):陰性;酸生成:D−グルコース、D−フラクトース、D−マンニトール、およびグリセリンで微陽性、L−アラビノース、D−キシロース、D−マンノース、D−ガラクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、D−ソルビトール、イノシトールおよびでんぷんで陰性;ガス生成:L−アラビノース、D−キシロース、D−グルコース、D−マンノース、D−フラクトース、D−ガラクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、D−ソルビトール、D−マンニトール、イノシトール、グリセリンおよびでんぷんで陰性。
【0020】
その他の性質は、以下の通りであった。糖から酢酸、プロピオン酸および酪酸の生成:陰性;グルコン酸の酸化:陽性;アルコールの酸化:陰性;ジヒドロキシアセトンの生成:陰性;エスクリンの分解:微陽性;セルロースおよび馬尿酸の分解:陰性;マロン酸の資化性:陰性;アルギニンの分解:陰性;リジンおよびオルニチンの脱炭酸反応:陰性;フェニルアラニンの脱アミノ化反応:陰性;コアグラーゼの生成:陰性;馬血液の溶血性:陰性;80℃、10分間での生存:陰性;塩化ナトリウムに対する耐性:0−7%;シアン化カリウムに対する耐性:陰性;ペクチナーゼの生成:陰性;リパーゼの生成(Tween 80):陽性;レシチナーゼ(Egg yolk)の生成:陰性;およびビタミン要求性:陰性。
【0021】
【表5】
Figure 0003712290
【0022】
【表6】
Figure 0003712290
【0023】
【表7】
Figure 0003712290
【0024】
【実施例】
以下、本発明についてさらに実施例を示して詳細な説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
クルチア エスピー. 538−6号菌(DSM−9454)の斜面固体培養基から一白金耳の細胞を、1%ブイヨン(極東製薬社製)から成る5mlの液体培地を含む試験管に植菌し、28℃で一晩、振とう培養した。その種培養液の1mlを2. 0%グリセリン、4%プロテアーゼ・ペプトン(日本製薬社製)、0. 2%酵母エキス(ディフコ社製)、0. 1%リン酸一カリウム、0. 05%硫酸マグネシウム7水和物、0. 001%硫酸第一鉄7水和物、0. 001%硫酸マンガン4−7水和物および一滴の消泡剤CA−115(日本油脂社製)から成る50mlの培地を含む500ml容フラスコに植菌し、28℃で振とう培養した。72時間培養後、その培養液を、9N 硫酸でpH3. 0に調整し、8,000rpm で10分間遠心分離を行った。その上澄中のビオチン バイタマーの含有量を、サッカロミセス セレビシイェーATCC7754を用いてペーパーディスクプレート法により測定した。15μl の上澄およびビオチン標準溶液を、ペーパーディスクに浸みこませた。風乾後、そのペーパーディスクをサッカロミセス セレビシイェーATCC7754を含むアッセイプレートの寒天上に置き、28℃で17時間培養を行い、成育ゾーンの直径を測定した。上澄中のビオチン バイタマーの含有量は、標準成育曲線から計算した。その結果、上澄には18.mg/L のビオチン バイタマーが含まれていた。
【0026】
実施例2
実施例1で述べたと同様の方法で調製された1L の培養上澄からビオチン バイタマーを採取した。精製のすべての過程でのビオチン バイタマーをサッカロミセス セレビシイェーATCC7754を用いてペーパーディスクプレート法により追跡した。上澄を、370mlの活性炭(和光純薬社製)で充填した3. 6×40cmのカラムに通した。そのカラムを500mlの脱イオン水で洗浄後、400mlのエタノール/アンモニア混合液(379mlの50%エタノールと21mlの25%アンモニアを混合して調整)で展開し、10mlずつ試験管に集めた。17. 1mgのビオチン バイタマーに相当するビオチン バイタマー活性を含む30本の試験管の溶出液を減圧下に、50mlまで濃縮した。その溶液のpHを1N 塩酸で7. 0に調整後、その溶液を、175mlのダウエックス1×4(ギ酸型、100−200メッシュ、ダウケミカル社製)を充填したカラム(2. 6×38cm)でクロマトグラフィーを行った。そのカラムを200mlの脱イオン水で洗浄後、500mlの0. 25N のギ酸で溶出し、それぞれ10mlずつ試験管に集めた。ビオチン バイタマー活性をもつ20本の試験管の溶出液を集め、減圧下で濃縮し、17. 5mgの白色粉末を得た。その白色粉末をエタノールと水の混合液で結晶化し、156℃の融点を有する10mgの無色針状結晶を得た。その試料の融点、薄層クロマトグラフ上でのRf値、赤外線吸収スペクトル、NMRスペクトルおよびサッカロミセス セレビシイェーATCC7754に対する活性は、DTB標品(シグマ社製)とよく一致した。DTBに加え、少量の7−ケト−8−アミノペラルゴン酸、7,8−ジアミノペラルゴン酸、d−ビオチンが産生物として検出された。
【0027】
実施例3
クルチア エスピー. 538−6号菌(DSM−9454)の斜面固体培養基から一白金耳の細胞を、1%ブイヨン(極東製薬社製)から成る5mlの液体培地を含む試験管に植菌し、28℃で一晩、振とう培養した。その1mlの種培養液を2. 0%グルコース、4%プロテアーゼ・ペプトン(日本製薬社製)、0. 2%酵母エキス(ディフコ社製)、0. 1%リン酸一カリウム、0. 05%硫酸マグネシウム7水和物、0. 001%硫酸第一鉄7水和物、0. 001%硫酸マンガン4−7水和物および一滴の消泡剤CA−115(日本油脂社製)から成る50mlの培地を含む500ml容フラスコに植菌し、28℃で3日間振とう培養した。その培養液から遠心分離により細胞を取り除き、その上澄中のビオチン バイタマーの含有量を、サッカロミセス セレビシイェーATCC7754を用いてペーパーディスクプレート法により測定した。その上澄は、サッカロミセス セレビシイェーATCC7754に対して17. 8mg/Lのビオチン バイタマー活性を示した。
【0028】
更に、上澄のビオチン バイタマーをサッカロミセス セレビシイェーATCC7754を用いてバイオオートグラフ法により測定した。10μl の上澄を、シリカゲルプレート(10×20cm、0. 25mm、Art. 5729、メルク社製)にのせ、そのプレートを酢酸エチル/メチルアルコール(10:1)の混合液で展開した。そのプレート上のビオチン バイタマーをサッカロミセス セレビシイェーATCC7754を含む寒天プレート上で検出した。試料の成育ゾーンのRf値を、7−ケト−8−アミノペラルゴン酸、7,8−ジアミノペラルゴン酸、DTB、d−ビオチン−d−スルホキシドまたはd−ビオチンの標品と比較した。その結果、このビオチン バイタマーを、DTBと同定した。
【0029】
実施例4
クルチア エスピー. 538−6号菌(DSM−9454)の斜面固体培養基から一白金耳の細胞を1%ブイヨン(極東製薬社製)から成る5mlの液体培地を含む試験管に植菌し、28℃で一晩、振とう培養した。その1mlの種培養液を、2. 0%グルコース、4%プロテアーゼ・ペプトン(日本製薬社製)、0. 2%酵母エキス(ディフコ社製)、0. 1%リン酸一カリウム、0. 05%硫酸マグネシウム7水和物、0. 001%硫酸第一鉄7水和物、0. 001%硫酸マンガン4−7水和物、0. 05%ピメリン酸および一滴の消泡剤CA−115(日本油脂社製)から成る50mlの培地を含む500ml容フラスコに植菌し、28℃で3日間振とう培養した。その培養液から遠心分離により細胞を取り除き、その上澄中のビオチン バイタマーの含有量を、サッカロミセス セレビシイェーATCC7754を用いてペーパーディスクプレート法により測定した。その上澄は、サッカロミセス セレビシイェーATCC7754に対して45mg/Lのビオチン バイタマー活性を示した。
【0030】
その上澄中のビオチン バイタマーを、DTBと決定した。

Claims (2)

  1. 好気的条件下、培地中でd−デチオビオチン生産能を有するクルチア属に属する微生物を培養し、次いで生成したd−デチオビオチンを発酵ブロスから採取することを特徴とするd−デチオビオチンの製造法。
  2. クルチア エスピー. 538−6(DSM−9454)。
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