JP3711838B2 - 放電ランプ用陰極の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は放電ランプ用陰極の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
放電ランプはその動作時において陰極が高温度となるため、陰極を構成する物質が溶融蒸発、溶融磨耗の現象を起こし、発光管の内壁の黒化による光透過率の劣化、放電アーク長伸びによる照射面での光利用効率の低下等があった。そこでそのような不具合をなくす工夫が種々なされてきている。
【0003】
ひとつには陰極の動作温度をより低くするために、エミッターを従来使用されていたThO2に代えて、ThO2よりも低い温度で動作するアルカリ土類酸化物を使用した陰極が研究されてきている。
【0004】
また、エミッターを陰極全体に含有する構成から陰極先端部でのみ放電空間に露出させる構造に代える研究されてきている。
エミッター含有層を陰極の先端部にのみ露出させるような構造の陰極がある。例えば特開平9−306421号や特開平11−297196号に記載のものがそうである。
図1はエミッター含有層を陰極の先端部にのみ露出させるような構造の陰極を使用した放電ランプの断面図である。石英ガラス製の発光管1内にタングステン製の陽極3とタングステン製の陰極4が対向配置され、陽極3と陰極4はそれぞれ発光管側の反対側端部において真空気密兼電流供給の役割を担うMo箔5と接続されている。6は口金である。
【0005】
図2は図1に示した放電ランプの陰極4の先端部分の拡大断面図である。陰極4の先端はコーン形状となっており、41はその傾斜部を示す。8はエミッターと高融点金属粉末の混合体の焼結層であるエミッター含有層である。
【0006】
図3は図2に示した従来の陰極の製作方法の概略説明図である。図3(A)は穴加工をして穴7内に高融点金属粉末とエミッターの混合粉末をパンチ10で矢印方向に圧入した状態を示す。そして、その後に焼結される。図3(B)は陰極4の先端部をコーン形状に切削加工した状態を示す。図3(C)はアーク放出部9がより小さな形状に切削加工された場合を示している。
【0007】
図4は図3の陰極を使用した場合の不具合を表す図である。図3(B)の構造の陰極を長時間動作させると、図4(A)の如く、エミッター含有層8と穴7との境界に隙間12を生じ、その結果アーク放出部9が変形して溶融蒸発を起こすことがある。
そして、図3(C)の構造の陰極を長時間動作させると、点灯初期は図4(B)の如くアーク放出部9からアーク放電を行うが、時間経過とともに図4(C)の如くエミッター含有層8の放電空間へ露出した側面部11からもアーク放電を生じるようになりアークの発生する輝点が広がってくる。その結果、アークの輝度が低下する。
【0008】
特に250W以下の小入力の放電ランプの場合、アーク放出部9は一層小さくすることが好ましく、例えばφ0.2mmとかφ0.3mmにする必要がある。そのためにエミッター含有層8の側面部が放電空間に露出する図4(C)の構造とせざるを得ない。φ0.2mmとかφ0.3mmという穴を陰極の先端部から内部にかけて機械加工すること極めて困難であり、仮に機械加工ができたとしてもはエミッター含有層をその小径の穴に圧入することは極めて困難である。
【0009】
上記問題点に関連する技術として特開平11−67077号公報と特開平11−339713号公報がある。
特開平11−67077号公報には、Ba酸化物系エミッターの陰極先端での放電空間露出面積を小さくすべく、エミッタ−含有層を陰極先端から陰極内部にかけて2段層とし、陰極先端側の前段のエミッター含有層を小径の円柱状とし、後段のエミッター含有層を前段の層より大径にしたものが開示されている。前段の層は後段のエミッター含有層の外径と同じ外径の高融点金属製円柱体の中心穴内に柱状成形体の形で挿入される。しかし、この公報記載の技術では、高融点金属製円柱体に中心穴を形成するので形成可能な中心穴の大きさには限界があった。また、該中心穴内にエミッター含有層の柱状成形体を挿入することは極めて困難である。
【0010】
特開平11−339713号公報には、陰極先端に高融点金属からなるキャップを被覆してエミッター含有の金属基体の尖頭部の先端のみをキャップ中央の開口から突出させ露出させた陰極が開示されている。この公報記載の技術では予め別体の金属キャップを金属基体の外形に適合するように成形し、それを金属基体に被せてから溶接をしてキャップを固定するという工程が必要となる。しかも、陰極基体の尖頭部は必ず突出させる技術であり、放電空間内に露出する陰極基体、即ちエミッター含有層は突出している分大きいものとなる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、長時間動作させてもエミッターの蒸発損耗が少ない放電ランプ用電極を容易に製造する製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的のために請求項1に記載の発明は、放電ランプ用陰極の製造方法であって、該陰極は、該陰極の先端部がコーン形状であり、該陰極の先端頂部から該陰極の内部にかけて、該先端頂部に近づくにつれて徐々に小内径となっている穴を有し、該穴内にエミッターと高融点金属粉末との混合体からなるエミッター含有層が該先端頂部に近いほどかつ陰極の径方向外側ほど高密度に充填されて焼結されているものであり、次の工程を有することを特徴とする放電ランプ用陰極の製造方法。
(1)陰極の先端面に加工により穴を形成し、エミッターと高融点金属粉末との混合体を該穴に圧入する第1工程。
(2)第1工程品を焼結処理した後、所定のコーン形状に陰極の先端面を切削加工する第2工程。
(3)第2工程品の陰極の先端に対応するすり鉢状の凹底面を有する金属部材によってスエージすることにより、前記穴が陰極先端頂部に近づくにつれて徐々に小径化し、エミッター含有層が陰極先端頂部に近いほどかつ陰極の径方向外側ほど高密度に充填された放電ランプ用陰極とする第3工程。
【0013】
なお、陰極の先端に対応するとは、コーン形状の陰極の先端に、陰極コーン切削角度より若干大きな角度の傾斜内面のすり鉢状の凹底面を有する金属部材が被さるということである。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された放電ランプ用陰極を図6に断面図で示す。陰極4のコーン形状の先端頂部、即ちアーク放出部9から陰極内部にかけて、該アーク放出部9に近づくにつれて徐々に小内径となっている穴7を有し、該穴内にエミッターと高融点金属粉末との混合体からなるエミッター含有層8が該先端部に近いほど高密度に充填されて焼結されている。
【0015】
穴7は陰極内部では有底円筒管状になっており、アーク放出部9に近づくにつれて小内径になっていることから、陰極内部の穴には豊富な電子放射性物資を貯蔵させることが可能であり、しかも放電空間内に露出するエミッター含有層はアーク放出部9だけであり、しかもアーク放出部9近傍の、エミッター含有層8は高密度となっており陰極先端付近の穴内において、陰極本体の高融点金属と強固に接合されている。
【0016】
次に、本発明の放電ランプ用陰極の製造方法について説明する。
以下の3工程を有することが特徴である。
【0017】
第1の工程は、陰極の先端面にドリル加工などにより有底穴を形成し、エミッターと高融点金属粉末との混合体を該穴に圧入する工程である。図5(A)に示すように、陰極4の先端面42に穴7を穴加工により形成し、高融点金属としてのタングステン粉末、エミッターとしてのアルカリ土類酸化物を混合した混合粉末をパンチ10によって矢印の方向に圧入する。
【0018】
第2工程は、第1工程品を焼結処理した後、所定のコーン形状に陰極の先端面を切削加工する工程である。
第1工程品を例えば1600℃の高温で約15分間真空または不活性ガス雰囲気下で焼結処理した後、図5(B)に示すように、エミッター含有層8の先端面のみを陰極表面に露出した状態となるようにコーン形状に陰極先端部を切削加工する。
【0019】
第3工程は、第2工程品の陰極の先端面に対応する、すり鉢状の凹底面を有する金属部材によってスエージすることにより、前記穴が陰極先端頂部に近づくにつれて徐々に小径化し、エミッター含有層が陰極先端頂部に近いほど、かつ陰極の径方向外側ほど高密度に充填された放電ランプ用陰極とする工程である。図5(C)、(D)は第3工程を示した断面図であり、陰極4を不活性ガス雰囲気中で、例えば1500℃で加熱した状態で、陰極コーン切削角度より若干大きな角度の傾斜内面を有するすり鉢状の凹底面を有する金属部材であるパンチ20で矢印の方向に、圧力約4Ton/cm2で1回/1秒の間隔で加圧連打して約20回の加圧が行われるスエージ処理をする。例えば、陰極コーン切削角度(図5(C)の角α)が70度のとき、すり鉢状の凹底面を有するパンチの内面傾斜角度(図5(C)の角β)が78度のものを使用する。上記のスエージ処理をすることによって、陰極先端のアーク放出部9を内径方向(図5(C)で左右から中心に向かう方向)に打ち縮める作用が働いてエミッター含有層が高密度化するとともに、アーク放出に必要なエミッター含有層の先端穴径とすることが可能となる。
【0020】
本発明の製造方法によれば、従来の方法では一切不可能であった小入力ランプの200Wランプで0.2mmφ、75Wで0.15mmφのエミッター含有層の露出部を陰極先端頂部に有する放電ランプ用陰極が実現できた。
【0021】
なお、本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された放電ランプ用陰極のコーン形状先端部において、エミッター含有層周囲のタングステン組織はコーン形状の傾斜方向に沿って配列していることが顕微鏡観察され、明らかに陰極先端部において内径方向にスエージされていることが分かる。これは本発明の製造方法独特の組織構造である。
【0022】
具体的に本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された陰極を使用した放電ランプを製作し、その性能を確認した。石英ガラス製の発光管に発光物質として水銀、バッファガスとしてキセノンを封入した。定格電力は250W(10A、25V)であり、陰極は直径φ5mm、長さ30mmのタングステン製であり、陰極内部の穴内径はφ1.0mm、穴深さ5mmであり、陰極先端のアーク放出部径はφ0.40mmである。エミッターはBa1.8Sr0.2Ca1.0WO6 1.0である。本発明の放電ランプ全体の構成は図1の従来型のランプと同じである。比較のために従来型の陰極として図3(C)の構造の陰極を製作して使用し、その他は上記仕様の放電ランプを従来型ランプとして製作した。
【0023】
図7は本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された陰極を使用したランプAと従来型ランプBの寿命特性を照度維持率であらわしたものである。本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された陰極を使用したランプA(図中実線)は点灯6000時間経過後も照度維持率は初期のランプの90%を有するものであった。一方、従来型のランプB(図中点線)は点灯後6000時間経過後には初期のランプの85%にまで劣化していた。
【0024】
なお本発明において、エミッターとしてはアルカリ土類酸化物系のエミッターの例を示したが、La2O3、CeO2、Y2O3などの希土類酸化物系エミッターであっても、ThO2であっても適用可能であることはもちろんである。また、陰極を構成する高融点金属はタングステンの例で示したがモリブデンであっても、タンタルであっても使用する放電ランプによって選択可能である。そして、本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された陰極は、水銀ランプ、キセノン水銀ランプ、キセノンランプ、フラッシュランプ等種々の放電ランプに適用可能な技術である。
【0025】
【発明の効果】
本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された放電ランプ用陰極を放電ランプに使用することによって、エミッタ含有層がアーク放出部でのみ放電空間内に露出させることができるので、長時間動作させてもエミッターの蒸発損耗が少ない。
【0026】
また、本発明の放電ランプ用陰極の製造方法によれば、100W以下の入力電力の小型放電ランプ用の、長時間動作に耐える放電ランプ用電極を容易に製造することができる。すなわち、エミッタ含有層を圧入する穴を従来と同等のものとしても、本発明の製造方法によれば陰極先端部の開口部分を小径化することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の放電ランプの一例の断面図を示す。
【図2】従来の放電ランプ用陰極の先端拡大断面図を示す。
【図3】陰極成形の工程の説明用断面図を示す。
【図4】従来の陰極成形の工程の説明用断面図を示す。
【図5】従来の陰極での不具合を示す説明用断面図を示す。
【図6】本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された放電ランプ用陰極の断面図を示す。
【図7】本発明の放電ランプ用陰極の製造方法で製造された陰極と従来の陰極を使用したランプの性能比較を示す。
Claims (1)
- 放電ランプ用陰極の製造方法であって、該陰極は、該陰極の先端部がコーン形状であり、該陰極の先端頂部から該陰極の内部にかけて、該先端頂部に近づくにつれて徐々に小内径となっている穴を有し、該穴内にエミッターと高融点金属粉末との混合体からなるエミッター含有層が該先端頂部に近いほどかつ陰極の径方向外側ほど高密度に充填されて焼結されているものであり、次の工程を有することを特徴とする放電ランプ用陰極の製造方法。
(1)陰極の先端面に加工により穴を形成し、エミッターと高融点金属粉末との混合体を該穴に圧入する第1工程。
(2)第1工程品を焼結処理した後、所定のコーン形状に陰極の先端面を切削加工する第2工程。
(3)第2工程品の陰極の先端に対応するすり鉢状の凹底面を有する金属部材によってスエージすることにより、前記穴が陰極先端頂部に近づくにつれて徐々に小径化し、エミッター含有層が陰極先端頂部に近いほどかつ陰極の径方向外側ほど高密度に充填された放電ランプ用陰極とする第3工程。
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