JP3711568B2 - ポリフルオロプロピオン酸ハライドの製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリフルオロプロピオン酸ハライドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリフルオロプロピオン酸ハライドの製造方法としては、例えば(1)ハロゲンの存在下かつ光照射下1,1,1,3−テトラクロロテトラフルオロプロパンを発煙硫酸で酸化する方法(特開昭60−237040号公報)および(2)ブチリルフルオリドの電解フッ素化による方法(米国特許第2717871号明細書)が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記(1)の方法においては生成する塩素を含む廃酸が多量に副生することから工業的製法とはいえない。また(2)の方法においては多量の電力を用いかつ副生する水素ガスとの分離に経費がかかり経済的な製法とはいえない。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、従来法にみられる欠点を克服すべくなされたものであり、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン(以下、R225caと略す)および1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(以下、R225cbと略す)から選ばれる少なくとも1種のジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R225と略す)を光照射下および塩素の存在下酸素により気相で酸化する、一般式YCF2CF2COX(ただし、XがF原子であるときYはCl原子であり、XがCl原子であるときYはF原子である。)で表されるポリフルオロプロピオン酸ハライドの製造方法であって、光照射のための光源を反応器内に設置し、当該光源として、フッ素樹脂からなる保護層を有する外筒を設けてなる光源を用いることを特徴とするポリフルオロプロピオン酸ハライドの製造方法である。
【0005】
【0006】
塩素の存在量は特には限定されないが、少なすぎると反応速度が低下し、多すぎると副生物が増加する。したがって、100モルのR225に対して、好ましくは0.01〜200モル、より好ましくは0.3〜200モル、更に好ましくは5〜50モルの塩素を用いるのがよい。かかる塩素の存在量は、温度、圧力など数々の反応条件により多少変化する。
【0007】
反応温度は、気相反応においては原料ガス組成でのR225の露点以上であれば特に限定されず、通常は室温〜200℃の範囲が好ましく、特には50〜150℃の範囲が好ましい。
【0008】
反応圧は特に限定されず、任意の圧力、例えば常圧でも容易に進行するが、当然反応温度などその他の条件と関連し、気相反応においては、原料ガス組成でのR225の露点以下であれば反応率や、装置効率の点から加圧系で反応を行うのが好ましく、通常は常圧〜5kg/cm2 (ゲージ)、さらに好ましくは常圧〜3kg/cm2 (ゲージ)の範囲である。酸素量を増やすことによりR225の転化率は一般に上昇する。
【0009】
本発明における光照射下酸素による酸化反応は、酸素をはじめ反応中間体または反応生成物に対して不活性な化合物、例えば窒素、ヘリウム、アルゴンまたは炭酸ガス等で希釈しながら行ってもよい。工業的な規模で反応を行う場合は、R225と酸素の爆発範囲を避けるような反応ガス組成にするために、窒素などの不活性ガスで希釈することがより好ましい。
【0010】
理論的には酸素は100モルのR225に対し50モル消費されるが、R225の反応率を高めるために、50モル以上、例えば400モル程度まで用いてもよい。ポリフルオロプロピオン酸ハライドの選択率を高めるために理論量以下の酸素を用いてもよい。
【0011】
気相反応においては、R225と酸素の供給モル比を100モルのR225に対して酸素10〜200モルの割合とすること、好ましくは100モルのR225に対して酸素30〜180モルの割合とすること、更に好ましくは100モルのR225に対して酸素50〜150モルの割合とすることが反応収率の点から望ましい。
【0012】
本発明方法において用いる光源は、原料あるいは反応系中に存在させる塩素を活性化するものであれば特に限定されない。例えば高圧水銀灯、中圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプなどを用いうる。適当な光源を用いれば塩素なしでも反応は進行するが塩素を存在させた場合に比べて反応速度は遅くなるため工業的ではない。
【0013】
光酸化反応させるには、光源を反応系から保護し、光源の熱を冷却するための冷却手段を有する外筒でカバーされた光源を反応器内に設置して照射する。微量でもフッ化水素の発生を伴う光酸化反応で光源に外筒を用いる場合は、フッ化水素により反応系と直接接触する光源の外筒に使われるガラスが腐食し失透するため反応率が比較的早期に低下するなどの問題がある。
【0014】
したがって本発明における酸化反応原料および反応生成物が接触する光源の外筒に保護層を設けることが好ましく、外筒のガラスと反応物が直接触れないようにすることによりガラスの失透が抑えられ長期間にわたって反応が円滑に進行する。
【0015】
保護層は光源部より照射された有効な光、例えば紫外線を透過させるものであれば特に限定されない。例えば窒素、空気などのガスで保護層を形成してもよく、紫外線を透過しかつ紫外線に安定なフッ素樹脂などの樹脂、例えばテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン系共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、含フッ素脂環式構造を有する重合体などを保護層として用いてもよい。
【0016】
これらの保護層を設けることにより、反応で副生するフッ化水素などが光源部のガラスに直接接触することがなくなるため、ガラスの失透を防止でき、長期間にわたって光酸化反応を継続させることができる。
【0017】
米国特許第5259938号明細書に、R225caを塩素の存在下および280nmより長波長の光照射下に、液相で酸素により酸化することによりペンタフルオロプロピオン酸クロリドを得る方法が記載されている。
【0018】
理由は必ずしも明らかではないが、このような液相反応においては反応器に用いる金属材料の腐食が激しく、工業的に用いることができる反応器材料が実質的にないといった問題がある。
【0019】
【0020】
本発明の塩素の存在下による気相反応では、R225に対する酸素の反応モル比を充分にとることができるため、塩素濃度を高くしても塩素化副生成物であるトリクロロペンタフルオロプロパン(以下、R215と略す)の生成量を低く抑えうる。これにより、塩素濃度を充分に高くすることができR225の高い転化率を確保できる。
【0021】
反応生成物であるポリフルオロプロピオン酸ハライドは250〜280nmの領域に吸収波長を持つため、反応において280nm以下の短波長の光が反応系内に照射されると、ポリフルオロプロピオン酸ハライドの光分解反応が進行し、目的物の選択率が悪くなるとともに、この分解反応によって副生するフッ素ラジカルや、フッ化水素が光源の外筒のガラスを腐食する。
【0022】
そこで、このポリフルオロプロピオン酸ハライドの分解波長より長波長の光を選択的に照射し、気相で反応を行えば、目的物の分解や、この分解によって副生するフッ酸による光源の外筒の腐食を抑えられる。したがって長期間にわたって工業的規模でポリフルオロプロピオン酸ハライドを安定に生産できる。
【0023】
本発明に用いられる280nmより長波長の光は、塩素の吸収領域であることが好ましく、280〜500nmの範囲、さらに好ましくは280〜450nmの範囲、から選択するとよい。用いる光源によって、この範囲より長波長側の波長を含むものもあるが、反応に対する影響はなく、特に長波長側をカットする必要はない。
【0024】
280nmより長波長側の光を選択的に照射する方法は、種々の方法があるが、例えば以下の方法が好ましい。
【0025】
(1)キセノンランプやハロゲンランプのように280nm以下の光をほとんど出力しない光源を用いる方法、
(2)280nm以下の光を含む光源の外筒にパイレックス(コーニング社製商品名)のように280nm以下の光を透過しないガラス部材を用いて、280nm以下の光を遮断する方法、
(3)280nm以下の光を含む光源を冷却するための石英ガラス製、フッ素樹脂製などの冷却水循環用の外筒中の冷却水に、280nm以下の光を吸収する溶液を用いて280nm以下の光を遮断する方法。
【0026】
上記(2)、(3)の方法に用いる280nm以下の光を含む光源としては、高圧、中圧または低圧の水銀灯などが好ましい。(3)の方法に用いる溶液としては、硫酸銅水溶液、クロム酸カリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、ヨウ化カリウム水溶液またはこれらを組合わせた混合溶液などが好ましい。ヨウ化カリウム水溶液は水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液との混合液が好ましい。
【0027】
ポリフルオロプロピオン酸ハライドおよびポリフルオロプロピオン酸ハライドより容易に転換可能なポリフルオロプロピオン酸は各種の触媒、農医薬の中間体、潤滑油の中間体などに用いられる有用な化合物である。
【0028】
【実施例】
例1〜4は参考例、6〜11、13は実施例、例5、12は比較例である。
「例1」
500ccのテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAと略す)製の容器を80℃の温水浴中に漬け、R225ca、O2、Cl2のモル比が5/4/1に調製された80℃の混合ガスを容器内のガスが完全に置換されるまで常圧で導入した。導入終了後外部より400Wの高圧水銀灯を10分間照射して気相反応を行った。反応終了後反応粗ガスを19F−NMRとガスクロマトグラフにより分析した。その結果R225caの転化率99%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率99%であった。
【0029】
「例2」
R225caのかわりにR225cbを用いる以外は例1と同様にして気相反応を行い、反応ガスを分析した。その結果R225cbの転化率98%、3−クロロ−2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸フルオリドの選択率99%であった。
【0030】
「例3」
内容積30ccのPFAチューブ型反応器に、あらかじめR225ca、O2 、Cl2 のモル比が2/6/1に調製された反応ガスを80℃の恒温槽中で、反応管内圧が2kg/cm2 (ゲージ圧)になるように導入した。導入終了後外部より400Wの高圧水銀灯を5分間照射して気相反応を行った。反応終了後反応粗ガスを同様に分析した。その結果R225caの転化率99%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率99%であった。
【0031】
「例4」
反応ガスとしてR225ca、O2 、Cl2 、N2 のモル比が1/1.4/0.5/1.6に調製されたものを使う以外は例3と同様にして気相反応を行い、反応終了後反応粗ガスを同様に分析した。その結果R225caの転化率99%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率99%であった。
【0032】
「例5」
−80℃の冷却管をとりつけた1000mlのハステロイ−C製反応器にR225caを1.5kg仕込み、反応温度0℃でCl2 、O2 をそれぞれ0.5モル/時、2.0モル/時で導入しながら高圧水銀灯のガラス製外筒表面を透明フッ素樹脂CYTOP(登録商標:旭硝子社製含フッ素脂環式構造を有する重合体)でコーティングした400Wの高圧水銀灯で光照射し液相反応を行った。6時間反応後反応粗生成物を同様に分析した。その結果R225caの転化率40%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率95%であった。
【0033】
「例6」
100リットルのハステロイ−C製のオートクレーブ内に、高圧水銀灯のガラス製外筒表面を透明フッ素樹脂CYTOP(同上)でコーティングした2kWの高圧水銀灯を装着し、光照射下反応器の内温を80〜100℃に保ちながら、常圧でR225ca、O2 、Cl2 、N2 をそれぞれ2.47モル/時、63リットル/時、0.5モル/時、117リットル/時で連続的に供給して気相反応を行った。反応器の出口から連続的に取り出される反応粗ガスを同様に分析した。その結果R225caの転化率95%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率98%であった。
【0034】
「例7」
R225caのかわりにR225cbを用いる以外は例6と同様にして反応を行い、反応粗ガスを同様に分析した。その結果R225cbの転化率92%、3−クロロ−2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸フルオリドの選択率96%であった。
【0035】
「例8」
R225ca、O2 のモル比が1/1に調製された80℃の混合ガスを用いる他は、例1と同様の方法で1000Wの高圧水銀灯を180分間照射した。反応終了後反応粗ガスを同様に分析した。その結果R225caの転化率70%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率92%であった。
【0036】
「例9」
10リットルのハステロイ−C製反応器にパイレックスガラス製の外筒を持つ1kWの高圧水銀灯を装着し、反応器内温を80℃に保ちながらR225ca、Cl2 、O2 、N2 をそれぞれ、0.51モル/時、0.051モル/時、0.20Nリットル/分、0.36Nリットル/分で連続的に反応器下部より仕込み、光照射を行って気相反応させた(平均滞留時間10分)。反応開始1時間後に反応器上部より連続的に流出する反応粗ガスを同様に分析した。その結果R225caの転化率99%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率98%、CF3 CF2 CCl3 (以下、R215cbと略す)の選択率2%であった。
【0037】
またこの反応系中にSUS−316とパイレックスガラスのテストピースをセットし300時間連続で反応を行った後の重量減少から、腐食速度を測定した結果を表1に示す。
【0038】
「例10」
R225caのかわりにR225cbを用いた他は例9と同様にして反応および分析を行った。その結果R225cbの転化率85%、3−クロロ−2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸フルオリドの選択率96%、CClF2 CF2 CCl2 F(以下、R215caと略す)の選択率4%であった。
【0039】
「例11」
200リットルの内容積を持ち、20kWの石英ガラス製の高圧水銀灯とこれを冷却するための石英ガラス製の冷却水循環用の外筒を持つ光源部を装着したSUS−316製の光反応器の、冷却水循環ラインにクロム酸カリウム(K2 CrO4 )、ヨウ化カリウムを、それぞれ0.1g/リットル、0.155g/リットルの濃度で0.1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に溶解した溶液を循環し、これを透して光照射を行いながら、R225ca、Cl2 、O2 、N2 をそれぞれ460Nリットル/時、44Nリットル/時、420Nリットル/時、960Nリットル/時の流量で連続的に反応器下部より仕込み、反応器内温を65℃に保ちながら気相反応を行った(平均滞留時間4.2分)。
【0040】
反応開始1時間後に反応器上部より連続的に流出する反応粗ガスを同様に分析した。その結果R225caの転化率76%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率99.5%、R215cbの選択率0.5%であった。この反応を720時間連続で行った後も、光源部のガラスにはフッ酸による腐食や侵食は全く観測されなかった。
【0041】
「例12」
−50℃の還流冷却器を装着した10リットルのハステロイ−C製反応器にパイレックスガラス製の外筒を持つ1kWの高圧水銀灯を装着し、R225caを1200g仕込んだ後に内温を−10℃に冷却し光照射を行いながら、Cl2 、O2 をそれぞれ0.052モル/時、0.45モル/時の流量で連続的に反応器下部より仕込み、液相で反応を行った。
【0042】
30時間反応後、反応溶液組成を同様に分析した。その結果R225caの転化率23%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率97%、R215cbの選択率1%、CF3 CF2 CCl2 CCl2 CF2 CF3 の選択率2%であった。
【0043】
また、この反応系中に表2に示す種々の金属のテストピースをセットし反応前後の重量減少から、腐食速度を測定した結果を表2に示す。
【0044】
「例13」
例11と同様の実験装置を用い、光源部の冷却水循環ラインに例11で用いた溶液フィルターのかわりに、純水を循環させる他は例11と同様の反応を行った結果、R225caの転化率98%、ペンタフルオロプロピオン酸クロリドの選択率33%、R215cbの選択率38%、CF3 CF2 CCl2 CCl2 CF2 CF3 の選択率18%、その他(COF2 、COCl2 、CF3 CF2 Cl、CF3 CF2 CCl2 Fなど)の選択率11%であった。
【0045】
この反応を100時間連続で行った後に光源部のガラスを観察するとフッ化水素による著しい侵食が観測され、特に腐食の激しい部分では、ガラスの肉厚が半分以下になっている部分も観察された。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【発明の効果】
ジクロロペンタフルオロプロパンからポリフルオロプロピオン酸ハライドを、工業的に有利に、高収率で得られる。また、気相反応においては目的生成物の分解や、長時間の反応においても光源部のガラスや、反応器材質の腐食がなく、きわめて高い反応収率でポリフルオロプロピオン酸ハライドが得られる。
Claims (3)
- 1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1種のジクロロペンタフルオロプロパンを光照射下および塩素の存在下酸素により気相で酸化する、一般式YCF2CF2COX(ただし、XがF原子であるときYはCl原子であり、XがCl原子であるときYはF原子である。)で表されるポリフルオロプロピオン酸ハライドの製造方法であって、光照射のための光源を反応器内に設置し、当該光源として、フッ素樹脂からなる保護層を有する外筒を設けてなる光源を用いることを特徴とするポリフルオロプロピオン酸ハライドの製造方法。
- 塩素の存在量がジクロロペンタフルオロプロパン100モルに対して0.01〜200モルの割合である請求項1に記載の製造方法。
- 酸素による酸化反応を280nmより長波長の光照射下に気相で行い、塩素の存在量がジクロロペンタフルオロプロパン100モルに対して0.3〜200モルの割合であり、ジクロロペンタフルオロプロパンと酸素の供給モル比がジクロロペンタフルオロプロパン100モルに対して酸素10〜200モルの割合である請求項1または2に記載の製造方法。
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