JP3707936B2 - 胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
消化管潰瘍は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍及び吻合部潰瘍などの総称であり、胃又は十二指腸などの粘膜下層以下に及ぶ部分的な粘膜欠損と定義される。消化管潰瘍の発症機序としては、一般にバランス説が受け入れられている。すなわち、消化管内部では、酸やペプシンなどの攻撃因子と、粘膜、重炭酸、粘膜血流などの防御因子のバランスが維持されているが、何らかの原因によってこのバランスが崩れ、攻撃因子の作用が防御因子の作用を上回ったときに潰瘍が生じると考えられている(鈴木ら、検査と技術、23巻、7号、466〜472頁、1995年)。本疾患は、一般的に持続性の痛みを伴い、患者に多大な苦痛をもたらす上、一度発症すると、治癒後も再発を繰り返して慢性化することが多い。
【0003】
胃潰瘍及び十二指腸潰瘍の治療薬としては、制酸薬(重曹、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど)、H2レセプターアンタゴニスト(シメチジン、ラニチジン、ファモチジンなど)、プロトンポンプインヒビター(オメプラゾール等)及びスクラルファートなどが用いられる。これらの薬剤は、上記バランス説における、ある攻撃因子を減弱又はある防御因子を増強し、その結果、生体の自然治癒力が発揮され効果を現す。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、潰瘍部位のより積極的治癒のために、粘膜細胞の増殖促進など、生体の自然治癒力を直接高める薬剤の開発が期待されている。本発明の目的は、上記の点に鑑み、より有用性の高い消化管潰瘍治療物質及び胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の胃潰瘍治療剤は、下記式〔I〕で表されるペプチドを有効成分として含有する。
【化3】
【0006】
本発明の十二指腸潰瘍治療剤は、下記式〔I〕で表されるペプチドを有効成分として含有する。
【化4】
【0007】
本発明で用いられる上記ペプチド(以下、本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質という)は、ストレプトマイセス属に属する該ペプチド生産菌株、例えば、放線菌ストレプトマイセス・ノビリス(Streptomyces nobilis、以下「S.ノビリス」と略記する)を培養し、得られた培養液または同液の乾固物もしくは培養菌体から有機溶剤によって抽出された抽出物を、各種カラムクロマトグラフィーに付し、目的物を含むカラムクロマトグラフィー画分を再結晶処理することにより得られる。
【0008】
本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質を生産する放線菌S.ノビリスは、公的保存機関から入手可能であり、たとえば理化学研究所の保存菌(JCM4274)(これは米国においてATCC19252およびオランダにおいてCBS198.65としても保存)などの菌が使用できる。
【0009】
本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質を得る方法は、例えば、本発明者らが先に国際出願したWO96/12732号公報に記載の方法によって得られる。
【0010】
本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質は、強力な肉芽形成促進作用を有することから、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍の治癒を促進するものと考えられる。
【0011】
本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質を有効成分として含有する本発明の胃潰瘍治療剤又は十二指腸潰瘍治療剤は、通常は、上記の物質を製剤用担体と混合して製剤組成物の形態とする方法により製造される。担体としては、剤型に応じた薬剤を調製するために、通常、使用される充填剤、崩壊剤、増量剤、結合剤、着色剤、矯味矯臭剤、pH調整剤、可溶化剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、付質剤、表面活性剤、滑沢剤、賦形剤などが例示される。また、適当な溶剤を選定することにより、上記の物質を液剤として使用することもできる。
【0012】
本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質を用いて製剤化される胃潰瘍治療剤又は十二指腸潰瘍治療剤の投与単位形態としては、上記のような液剤のほか、錠剤、丸剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、トローチ剤、パップ剤、リニメント剤、硬膏剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、貼付剤、軟膏剤、ゼリー剤などが例示される。
【0013】
胃潰瘍治療剤又は十二指腸潰瘍治療剤中に含有される本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質の量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、好ましくは胃潰瘍治療剤又は十二指腸潰瘍治療剤中に10−7〜10重量%の範囲である。
【0014】
本発明の胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤は、その使用に際し各種形態に応じた方法で投与される。例えば、注射剤の場合には静脈内、筋肉内、皮内もしくは皮下投与され、錠剤、丸剤、飲用液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、坐剤の場合には直腸内投与され、外用剤の場合には、これを皮膚もしくは粘膜などの所要部位に直接貼付または塗布される。
【0015】
本発明の胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤の投与量は、使用目的、症状などにより適宜選択されるが、通常は、1日当たり本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質として10ng〜10mg/kg程度の範囲である。また、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療剤を1〜4回/日に分けて投与することももちろん差し支えない。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例を説明する。
実施例1
理化学研究所から入手した放線菌S.ノビリス(JCM4274)を、酵母エキス0.2%(w/v)添加澱粉・アンモニウム培地50mlを含む500ml容坂口スラスコ5本で、26℃、150rpm、120時間振盪培養(前々培養)した。続いて同培地12リットルを含む20リットル容ジャーファメンターに前々培養菌液240mlを接種し、26℃、410rpm、通気量4リットル/分で24時間培養(前培養)した。さらに澱粉・アンモニウム培地(蒸留水100ml中に可溶性澱粉を1g、リン酸水素二カリウムを0.05g、塩化アンモニウムを0.05g含む)140リットルを含む200リットル容ジャーファメンターに、前培養菌液12リットルを接種し、26℃、24時間種培養した。
【0017】
さらに澱粉・アンモニウム培地1400リットルを含む2000リットル容タンクに、種培養菌液140リットルを接種し、26℃、140rpm、通気量700リットル/分、pH7.5で7日間培養した。
【0018】
培養終了後、濾過により菌体を濾別した。このようにして得られた菌体6.34kg(湿重量)のうち、菌体1kg(湿重量)にジクロロメタン3リットルを加え、室温で15時間攪拌後、菌体を濾別し、菌体抽出液を得た。菌体については、同操作を3回繰り返した。得られた菌体抽出液を濃縮後、シリカゲル担体120gに吸着させた。本吸着シリカゲル担体をシリカゲルカラムにより精製した。
【0019】
シリカゲル担体800gを充填した径8.0cmのカラムに上記抽出物吸着担体約120gをチャージし、シリカゲルカラムを作成した。このシリカゲルカラムを下記の条件を用いて精製を行なった。溶出溶剤として、a)ヘキサン:酢酸エチル=4:6を4リットル、b)酢酸エチルを3.5リットル、c)メタノールを2リットルを、この順に流速500ml/時間で流した。分画は、溶剤組成を変更する毎に行い、特に酢酸エチルの溶出画分は500mlずつ分画した(従って、酢酸エチルについては、溶出画分数は合計7画分となる)。
【0020】
上記の各溶出画分について、それぞれ、ODS−80TM、内径4.6mm×長さ25.0cmの東ソー社製のカラムを用いたHPLC(日立社製、ポンプL−6000、L−6200、検出器L−3000、カラムオーブン655A−52)によって、検出波長210nm、カラム温度40℃、流速1ml/分の条件で、溶離液として水:アセトニトリル=3:7を用いて、純度を確認した。
【0021】
上記のHPLCによる純度確認において、リテンションタイムが12〜15分で溶出され
るピーク面積が、全溶出ピーク面積の80%以上を占めることが確認されたシリカゲルカラム溶出画分を合わせ、同一画分とした。本画分を濃縮乾固後、メタノール−ジクロロメタン系を用いて繰り返し再結晶を行い、柱状結晶3.5gを得た。
【0022】
この物質の構造は、種々の機器分析データよりWO96/12732号公報に記載された物質と同一であり、式〔I〕であると決定した。
【0023】
構造分析データ
上記で得られた物質の機器分析データを以下に示す。
【0024】
1.MS
・ESI−MS:m/z=913.6(M+H−H2 O)+ ,
931.6(M+H)+ ,
953.6(M+Na)+
・HRFAB−MS
Found : m/z=913.5079(M+H−H2 O)+ ,
m/z=913,953,931
(913がメイン,931は非常に小さい)
Calcd for : C45H69N8 O12
m/z=913.5053
【0025】
2.IR
IR: 3,400cm−1:−OH, −NH,
2,900cm−1:アルキル基,
1,750cm−1:−C(=O)−O−,
1,650cm−1:−C(=O)−NH−
【0026】
3.アミノ酸分析
加水分解物としてD−セリン、L−アラニンおよびD−N−メチル−フェニルアラニンが認められた。
【0027】
試験例1
Satohの方法(Satoh H.,Jpn.J.Paharmacol.1997;73:59−71)に準じて、ラット酢酸潰瘍モデルを作成した。すなわち、体重200〜250gのSD系雄性ラットを、エーテル麻酔下で開腹し、20重量%酢酸(ナカライテスク社製)水溶液20μlを胃粘膜下に注入して酢酸潰瘍を誘発した後、切開部を縫合した。反応誘発の2日後から、1日2回14日間、上記で得られた本発明胃潰瘍消化管潰瘍治療物質を0.5重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に懸濁して1mg/mlとしたものを、5ml/kg(本発明胃潰瘍消化管潰瘍治療物質として5mg/kg)ずつ経口投与した。コントロール群のラットには、0.5重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液のみを同様に投与した。なお、本試験には各群20匹のラットを用いた。
【0028】
薬剤の最終投与の24時間後に、ラットを剖検し、胃を摘出して胃潰瘍の有無を調べ、潰瘍のあるものについては潰瘍面積および潰瘍スコア(0:ほぼ正常、1:びらん、2:中程度の潰瘍、3:穿孔)を測定した。この結果を表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
本発明の胃潰瘍治療剤を投与した群では、コントロール群に比べて、胃潰瘍のある個体数が明らかに少なく、また潰瘍面積および潰瘍スコアも明らかに抑制されていた。すなわち、本発明の胃潰瘍治療剤は、胃潰瘍治癒促進作用を有する。
【0031】
試験例2
Szaboの方法(Szabo S.,Am J Pathol 1978;93:273−276)に準じて、ラットシステアミン潰瘍モデルを作成した。すなわち、体重200〜250gのSD系雄性ラットを用い、システアミン塩酸塩(ナカライテスク社製)水溶液(50mg/ml)を5ml/kg(システアミン塩酸塩として250mg/kg)ずつ、4時間ごとに合計3回経口投与して、システアミン潰瘍を誘発した。システアミンの初回投与から2、6、10、24および32時間後に、上記で得られた本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質を0.5重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に懸濁して1mg/mlとしたものを、5ml/kg(本発明胃潰瘍及び十二指腸潰瘍消化管潰瘍治療物質として5mg/kg)ずつ経口投与した。コントロール群のラットには、0.5重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液のみを同様に投与した。なお、本試験には各群5匹のラットを用いた。
【0032】
誘発の48時間後に、ラットを剖検し、胃および十二指腸を摘出して胃潰瘍及び十二指腸潰瘍の有無を調べ、潰瘍のあるものについては潰瘍の面積を測定した。この結果を表2に示した。
【0033】
【表2】
【0034】
本発明の胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤を投与した群では、コントロール群に比べて、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍のある個体数が明らかに少なく、また潰瘍面積も明らかに小さかった。すなわち、本発明の胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤は、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍治癒促進作用を有する。
【0035】
試験例3
加藤らの方法(薬理と治療、26巻、5号、787〜795頁、1998年)に準じて、
ラットインドメタシン誘発胃粘膜障害モデルを作成した。すなわち、体重200〜250gのルイス系雄性ラットを24時間絶食後、上記で得られた本発明胃潰瘍消化管潰瘍治療物質を0.5重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に懸濁して1mg/mlとしたものを、5ml/kg(本発明胃潰瘍消化管潰瘍治療物質として5mg/kg)ずつ経口投与した。コントロール群のラットには、0.5重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液のみを同様に投与した。
その30分後に、インドメタシンを0.5重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に懸濁して5mg/mlとしたものを、5ml/kg(インドメタシンとして25mg/kg)ずつ経口投与して胃粘膜障害を誘発した。なお、本試験には各群8匹のラットを用いた。
【0036】
インドメタシン投与の4時間後に、ラットを剖検し、胃を摘出して胃潰瘍の有無を調べ、潰瘍のあるものについては潰瘍の面積を測定した。この結果を表3に示した。
【0037】
【表3】
【0038】
本発明の胃潰瘍治療剤を投与した群では、コントロール群に比べて、胃潰瘍のある個体数が明らかに少なく、また潰瘍面積も明らかに抑制されていた。すなわち、本発明の胃潰瘍消化管潰瘍治療剤は、胃潰瘍消化管潰瘍治癒促進作用を有する。
【0039】
【発明の効果】
【0040】
本発明の胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤の構成は、上述のとおりであり、請求項1記載のペプチドを有効成分として含有するので、本発明は、より有用性の高い胃潰瘍治療剤及び十二指腸潰瘍治療剤を提供する。
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