JP3704939B2 - 制動力制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、制動力を制御することにより車両状態を制御する例えばABS,TCS,VDC等のような車両制御システムに好適な制動力制御装置に関し、特に、実車輪速(実際の車輪速)と目標車輪速との偏差や、その偏差若しくは実車輪速の微分値等に基づいたフィードバック制御を実行する制動力制御装置において、フィードバックゲインの最適化が図られるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、例えば実車輪速と目標車輪速との偏差、或いは、実スリップ率(実際のスリップ率)と目標スリップ率との偏差等に基づいたPID制御等のフィードバック制御を実行するようになっている制動力制御装置がある。例えば、ABS(アンチロックブレーキシステム)に関する従来の技術としては、本出願人が先に提案した特開平8−142837号公報等に開示されるものがある。
【0003】
そして、従来のABS等にあっては、フィードバック制御に用いるフィードバックゲインとしては、予め車両の諸元等に基づいて実験やシミュレーション等を行って決定した固定値が用いられるようになっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、車両の制動性能を考える際には、車両諸元のような各車両毎に固有の情報の他に、天候,走行路面,車体速,操舵条件等の各種走行条件にも留意することが望ましいのであるが、上記のようにフィードバックゲインが固定であっては、十分な対処が行えないという未解決の課題があった。例えばABSであれば、上記のような偏差に基づいたPD制御やPID制御を行う場合に、制御対象となる制御プラント(つまり車輪の回転運動)の状態が変化することに起因して、フィードバックゲインが、必ずしも最適値ではなくなってしまうため、走行状況に応じては、制御目標として用いられる車輪速やスリップ率の目標値への追従性等が十分でなくなり、制動距離が延びる等のシステムとしての性能低下を招く恐れがあるのである。
【0005】
本発明は、このような従来の技術が有する未解決の課題に着目してなされたものであって、走行状況等が変化しても、フィードバックゲインの最適化を図ることができる制動力制御装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、車輪の運動を表す状態量に基づいてフィードバック制御を行ってブレーキ力を制御するようになっている制動力制御装置において、タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数(Driving Stiffness )と、車体速との両方に基づいて、予め設定したマップにより前記フィードバック制御に用いるフィードバックゲインを変更するフィードバックゲイン変更手段を設けた。
また、上記目的を達成するために、請求項2に係る発明は、車輪の運動を表す状態量に基づいてフィードバック制御を行ってブレーキ力を制御するようになっている制動力制御装置において、タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数と、車体速との比に基づいて、予め設定したマップにより前記フィードバック制御に用いるフィードバックゲインを変更するフィードバックゲイン変更手段を設けた。
さらに、上記目的を達成するために、請求項3に係る発明は、車輪の運動を表す状態量に基づいてフィードバック制御を行ってブレーキ力を制御するようになっている制動力制御装置において、タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数に基づいて、予め設定したマップにより前記フィードバック制御に用いるフィードバックゲインを変更するフィードバックゲイン変更手段を設けた。
【0007】
請求項に係る発明は、上記請求項1〜3に係る発明である制動力制御装置において、前記車輪の運動を表す状態量は、車輪速とした。
これに対し、請求項に係る発明は、上記請求項1〜3に係る発明である制動力制御装置において、前記車輪の運動を表す状態量は、スリップ率とした。
【0009】
そして、請求項に係る発明は、上記請求項1〜5に係る発明である制動力制御装置において、前記制駆動剛性係数として、局所的な制駆動剛性係数を用いるようにした。
【0010】
さらに、請求項に係る発明は、上記請求項に係る発明である制動力制御装置において、前記局所的な制駆動剛性係数として、目標スリップ率に対応した局所的な制駆動剛性係数を用いるようにした。
【0011】
請求項に係る発明は、上記請求項1〜に係る発明である制動力制御装置において、前記タイヤ及び路面の接触状態を、車両の横方向の運動を表す状態量に基づいて補正する補正手段を設けた。
【0012】
また、請求項に係る発明は、上記請求項に係る発明である制動力制御装置において、前記車両の横方向の運動を表す状態量は、タイヤ横滑り角とした。
ここで、図2に示す車輪の運動モデルから、車輪回りのタイヤの回転の運動方程式は、下記の(1)式のようになる。
【0013】
whω' =−DS rκ−2μpad Arb P ……(1)
但し、Pはホイールシリンダ圧(kgf/cm2)、ωは車輪回転角速度(rad/s)、κはスリップ率、Iwhは車輪の回転慣性(kgm2)、μpad はディスクブレーキ装置を構成するブレーキパッドの摩擦係数、Aはホイールシリンダの受圧面積、rはタイヤ半径(m)、Vは車体速(m/s)、Ds は制駆動剛性係数(N)、rb は車輪の回転中心からブレーキ装置までの距離であるブレーキ半径(m)である。
【0014】
また、スリップ率κは、下記の(2)式によって求めることができるから、この(2)式を上記(1)式に代入することにより、下記の(3)式のような最終的な車輪の回転の運動方程式が得られる。
【0015】
κ=(rω−V)/V ……(2)
whω' =−DS r(rω−V)/V−2μpad Arb P ……(3)
この(3)式中、車両の走行状況によって変動するパラメータは、制駆動剛性係数DS と、車体速Vとであり、制駆動剛性係数Ds は、例えば路面摩擦係数μ等のようにタイヤ及び路面の接触状態に応じて変化する係数である。
【0016】
一方、請求項1に係る発明にあっては、車輪の運動を表す状態量(例えば、請求項に係る発明のように車輪速、或いは、請求項に係る発明のようにスリップ率)の実際値(検出値或いは推定値)と目標値との偏差(P)、その偏差若しくは状態量の微分値(D)及びその偏差の積分値(I)のうちの少なくとも一つに基づいて、例えばPD制御或いはPID制御等のフィードバック制御が実行されるから、偏差に基づくのであれば比例制御用のフィードバックゲインKp が、微分値に基づくのであれば微分値制御用のフィードバックゲインKd が、積分値に基づくのであれば積分値制御用のフィードバックゲインKi が、それぞれ用いられる。
【0017】
そして、フィードバックゲイン変更手段が、タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数D s と、車体速との両方に基づいて、予め設定したマップにより上記フィードバックゲインKp ,Kd ,Ki を変更するから、車両の走行状況が変化してもそれを追従するようにフィードバックゲインが再設定されることになる。
【0018】
また、請求項2に係る発明であれば、タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数Ds と車体速Vとの比(Ds /V)に基づいて、予め設定したマップによりフィードバックゲインが決定されるため、それら制駆動剛性係数Ds や車体速Vの両方が同時に変化するような状況下であっても、最適なフィードバックゲインが設定されるようになる。
そして、請求項3に係る発明であれば、制駆動剛性係数Ds に基づいて予め設定したマップによりフィードバックゲインを変更するようにしているから、それが固定であった従来技術に比べれば良好な制御が行えるようになる。
【0019】
そして、請求項に係る発明のように、制駆動剛性係数Ds として、スリップ率とタイヤ前後力との単なる比ではなく、局所的な制駆動剛性係数Ds を用いることも可能である。その場合、現時点のスリップ率に対応する局所的な制駆動剛性係数Ds を用いることができるし、或いは、請求項に係る発明のように、目標スリップ率に対応する局所的な制駆動剛性係数Ds を用いることもできる。
【0020】
特に、後者の請求項に係る発明であれば、非線形制御系の平衡点(目標値)回りで系を安定させるのに適したフィードバックゲインが設定される。
さらに、請求項に係る発明のように、補正手段が、制駆動剛性係数のようなタイヤ及び路面の接触状態を、車両の横方向の運動を表す状態量(例えば、請求項に係る発明のようにタイヤ横滑り角)に基づいて補正すれば、例えば旋回中に横力の発生により制駆動剛性係数Ds が減少しても、それも考慮できるようになるから、車両の直進,旋回を問わず最適なフィードバックゲインが設定されるようになる。
【0021】
【発明の効果】
請求項1、2に係る発明によれば、タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数と、車体速との両方に基づいてフィードバックゲインを変更するようにしたため、車両の走行状況が変化してもそれを追従するようにフィードバックゲインが再設定されることになり、より安定したフィードバック制御が実行されるという効果がある。
また、請求項3に係る発明であっても、制駆動剛性係数に基づいてフィードバックゲインを変更するようにしているから、それが固定であった従来技術に比べれば良好な制御が行えるという効果がある。
【0022】
特に、請求項に係る発明であれば、より最適なフィードバックゲインを設定することができるから、さらに安定したフィードバック制御が実行できるという効果がある。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態の全体構成を示すブロック図であり、本実施の形態における車両は、車両状態量推定部10と、目標設定部20と、制御量演算部30と、ブレーキ力サーボ装置40と、を備えて構成されている。なお、ブレーキ力サーボ装置40としては、従来のABSやTCS装置等に適用されて各車輪のホイールシリンダ(ブレーキ装置)の圧力を制御するホイールシリンダ圧増減装置が採用可能であるから、その具体的な説明は省略する。
【0024】
そして、車両状態量推定部10,目標設定部20及び制御量演算部30は、実際にはマイクロコンピュータや必要なインタフェース回路等によって構成されていて、車両状態量推定部10には、各車輪毎の実車輪速Vwhfl,Vwhfr,Vwhrl及びVwhrrを検出する車輪速センサ11と、車体の前後加速度αlon を検出する前後加速度センサ12と、車体の横加速度αlat を検出する横加速度センサ13とから、それぞれ検出信号が入力されるようになっている。
【0025】
車両状態量推定部10は、各センサから供給される各検出信号に基づき、車体速Vと、各車輪毎の実スリップ率κfl〜κrrと、路面摩擦係数μとを、それぞれ推定するようになっている。
【0026】
車体速Vは、従来のABSと同様の手法で推定すればよく、例えば、実車輪速Vwhfl〜Vwhrrのうちの従動輪の実車輪速Vwhを車体速Vとして推定することもできるし、或いは、実車輪速Vwhfl〜Vwhrrのうちの最も遅い実車輪速Vwhを車体速Vとして推定することもできる。
【0027】
実スリップ率κ(κfl〜κrr)は、上記(2)式と同義の下記の(4)式に従って演算することができる。
κ=(Vwh−V)/V ……(4)
つまり、実車輪速Vwhと車輪回転角速度ωとの間にか、下記の(5)式の関係がある。
【0028】
ω=Vwh/r ……(5)
また、路面摩擦係数μは、ABS作動時には車輪にスリップが生じているという前提から、前後加速度αlon 及び横加速度αlat に基づいて、下記の(6)式に従って演算することができる。
【0029】
μ=(αlon 2 +αlat 2 1/2 ……(6)
目標設定部20には、各車輪の実車輪速Vwhfl〜Vwhrr、車体速V、各車輪の実スリップ率κfl〜κrr及び路面摩擦係数μが入力されるようになっていて、目標設定部20は、ABSを有効に機能させるための目標スリップ率κ* と実スリップ率κfl〜κrrとの偏差や実車輪速Vwhfl〜Vwhrr等に基づいて、各車輪の目標車輪速Vwhfl * 〜Vwhrr * を設定するようになっている。
【0030】
そして、制御量演算部30には、実車輪速Vwhfl〜Vwhrr、車体速V、実スリップ率κfl〜κrr、路面摩擦係数μ及び目標車輪速Vwhfl * 〜Vwhrr * が入力されるようになっていて、それら情報に基づき、ブレーキ力サーボ装置30への指令信号である各車輪毎のホイールシリンダ圧の増圧目標値ΔPfl〜ΔPrrを求めるようになっている。
【0031】
即ち、この制御量演算部30の構成が本発明の適用により従来と大きく異なっているのであって、制御量演算部30は、路面摩擦係数μと、路面摩擦係数μを1と仮定した場合の制駆動剛性係数DS1とに基づいて、そのときの制駆動剛性係数DS を推定する一方、その制駆動剛性係数DS と車体速Vとに基づいて、フィードバック制御に用いるフィードバックゲインKp 及びKd を設定し、それら設定されたフィードバックKp 及びKd を用いて増圧目標値ΔPfl〜ΔPrrを求めるようになっている。
【0032】
ここで、本実施の形態では、下記の(7)式で示されるようなフィードバック制御則を用いている。
Figure 0003704939
この(7)式中、(k),(k−1)が付く項はそれぞれ離散時刻k,k−1における値であることを表している。従って、P(k)はこれから演算するホイールシリンダ圧であり、P(k−1)は前回の処理で演算したホイールシリンダ圧(よって、現在のホイールシリンダ圧)である。
【0033】
そして、上記(7)式の右辺第2項中の(Vwh(k-1) −Vwh * )は、実車輪速Vwhと目標車輪速Vwhとの偏差であり、これに比例制御用のフィードバックゲインKp が乗じられているから、この右辺第2項は、偏差に応じたフィードバック量である。
【0034】
また、上記(7)式の右辺第3項中の(Vwh(k-1) −Vwh(k-2) )は、実車輪速Vwhの最新値とその一つ前の値との差つまり微分値であり、微分値の目標値は零であり、その微分値に微分制御用のフィードバックゲインKd が乗じられているから、この右辺第3項は、微分値に応じたフィードバック量となっている。
【0035】
つまり、本実施の形態では、いわゆるPD制御のフィードバック制御によってホイールシリンダ圧Pの増圧目標値ΔP(=Kp (Vwh(k-1) −Vwh * )+Kd (Vwh(k-1) −Vwh(k-2) ))が求められるようになっているのである。
【0036】
そして、制御量演算部30は、フィードバックゲインKp 及びKd を、制駆動剛性係数Ds と車体速Vとに基づいて設定するようになっている。
つまり、制御量演算部30は、予め実験やシミュレーション等に基づいて生成した図3(a),(b)に示すような3次元マップを記憶していて、それら3次元マップに制駆動剛性係数DS と車体速Vとを当てはめることにより、フィードバックKp 及びKd をそれぞれ決定するようになっている。
【0037】
なお、制駆動剛性係数Ds は、下記の(8)式に従って演算するようになっている。
s =μ×Ds1 ……(8)
路面摩擦係数μを1と仮定した場合の制駆動剛性係数DS1は、前輪及び後輪のそれぞれについて求められるが、ここでは、前輪側の制駆動剛性係数DS1は、前輪側の輪加重Wf に基づいてマップを検索することにより求められ、後輪側の制駆動剛性係数DS1は、後輪側の輪加重Wr に基づいてマップを検索することにより求められる。輪加重Wf 及びWr は、下記の(9)式及び(10)式に従って演算される。
【0038】
f =Wf * +αlon g /L ……(9)
r =Wr * −αlon g /L ……(10)
但し、Wf * は静的な前輪軸重、Wr * は静的な後輪軸重、hg は重心高、Lはホイールベースである。
【0039】
図4は制御量演算部30における処理の概要を示すフローチャートである。なお、この図4における処理は各車輪毎に実行されるようになっており、各処理の手順は同じであるため、車輪速Vwhや実スリップ率κ等に付される各車輪を表す添え字(fl〜rr)は省略し、各車輪毎の処理は纏めて説明することとする。
【0040】
即ち、所定のサンプリング・クロックの間隔で図4の処理が開始されると、先ず、そのステップ101において、車両状態量推定部10及び目標設定部20で推定・設定された各種情報を読み込み、次いで、ステップ102に移行し、上記(9)式及び(10)式に基づいて、前輪及び後輪のそれぞれの輪加重Wf ,Wr を演算する。
【0041】
次いで、ステップ103に移行し、輪加重Wf ,Wr に基づいてマップを検索することにより、前輪及び後輪のそれぞれについて、路面摩擦係数μを1と仮定した場合の制駆動剛性係数DS1を求める。
【0042】
そして、ステップ104に移行し、上記(8)式に従って、前輪及び後輪のそれぞれについて、制駆動剛性係数DS を演算し、次いで、ステップ105に移行し、制駆動剛性係数DS と車体速Vとに基づき、図3(a),(b)に示すような3次元マップを検索して、フィードバックゲインKp 及びKd を決定する。なお、制駆動剛性係数DS は前輪及び後輪別に求められるため、フィードバックゲインKp 及びKd も、前輪及び後輪別に求められることになる。
【0043】
ステップ105でフィードバックゲインKp 及びKd が求められたら、ステップ106に移行し、上記(7)式の右辺第2項及び第3項からなるホイールシリンダ圧の増圧目標値ΔPを、各車輪毎に演算する。
【0044】
そして、ステップ107に移行し、増圧目標値ΔPをブレーキ力サーボ装置40に供給し、ステップ108に移行し、次回の演算に必要な一つ前の車輪速Vwh(k−1)及び現在の車輪速Vwh(k)をそれぞれVwh(k−2)及びVwh(k−1)として保存した後に、今回の処理を終了する。
【0045】
ステップ107において増圧目標値ΔPがブレーキ力サーボ装置40に供給されると、各車輪に対応するホイールシリンダの圧力が、各車輪毎に演算されている増圧目標値ΔPに応じて適宜増減又は保持され、これにより各車輪のスリップ率が目標スリップ率に制御されて、車輪のロックを防止して操舵性を確保しつつ制動距離を可能な範囲で短縮できるようになる。
【0046】
しかも、本実施の形態にあっては、PD制御に用いられるフィードバックゲインKp 及びKd を、各割り込みタイミングにおける制駆動剛性係数DS 及び車体速Vに基づいて設定するようになっているから、走行路面の状態や車体速等が変化してもそれを追従するようにフィードバックゲインKp 及びKd が設定されることになり、より安定したフィードバック制御を実行できるのである。
【0047】
ここで、本実施の形態にあっては、ステップ102〜105の処理によってフィードバックゲイン変更手段が構成される。
図5乃至図7は本発明の第2の実施の形態を示す図であって、図5は図4と同様に制御量演算部30における処理の概要を示すフローチャートである。なお、全体構成は上記第1の実施の形態と同様であるため、その図示及び説明は省略するとともに、図4と同様の処理を実行するステップには同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0048】
ここで、連続系で記述された上記(3)式のタイヤの回転の運動方程式を離散値系に変換し、それと上記(7)式のフィードバック制御則とを合わせて運動をモデル化すると、下記の(11)式が得られる。なお、ω1 は、一回前の割り込み処理における車輪回転角速度(つまり、ω(k−1))を、Δtはサンプリング間隔をそれぞれ表している。
【0049】
【数1】
Figure 0003704939
【0050】
Figure 0003704939
但し、
d11 =Ad32 =1
d12 =r(Kp +Kd
d13 =rKd
d21 =−Δt2μpad Arb /Iwh
d22 =1−(Δtr2 /Iw h )(Ds /V)
d23 =Ad31 =Ad33 =0
d1 =Kp wh *
d2 =ΔtDs r/Iwh
d3 =0
である。
【0051】
この(11)式で表されるシステムの安定性は、下記の(12)式の行列Ad の固有値によって判別可能である。
【0052】
【数2】
Figure 0003704939
【0053】
Figure 0003704939
この行列Ad において車両の走行状態によって変動するパラメータは、制駆動剛性係数DS と車体速Vとの比である(Ds /V)のみである。そこで、パラメータ(Ds /V)に応じてフィードバックゲインKp ,Kd を設定することにより、安定したフィードバック制御を実現できるのである。
【0054】
具体的には、上記行列Ad は車両諸元等からパラメータ(Ds /V)以外の部分は予め設定可能であるから、そのパラメータ(Ds /V)が種々変化した場合でも、行列Ad の特性根の絶対値が1より小さくなるようにフィードバックゲインKp ,Kd を設定するためのマップを作成しておけばよい。
【0055】
つまり、行列Ad * の特性根実部及び特性根虚部と、制御の安定・不安定との関係を示したものであるが、一般に、フィードバックゲインKp を大きくすると根は不安定領域に近づく傾向がある。逆に、フィードバックゲインKp を小さくすると根は安定領域に落ち着く傾向はあるが制御の追従性は悪化する。そこで、パラメータ(Ds /V)が種々変化した場合でも、行列Ad の特性根の絶対値が1より若干小さくなるように、フィードバックゲインKp 設定するためのマップを作成する。フィードバックゲインKd についても同様の観点からマップを作成する。
【0056】
図7(a)及び(b)は上記観点に従って作成したフィードバックKp ,Kd の設定するためのマップの例であり、図7(a)は、パラメータ(Ds /V)が小さい範囲では比較的小さいなフィードバックゲインKp を、パラメータ(Ds /V)が大きい範囲では比較的大きなフィードバックゲインKp を、パラメータ(Ds /V)が中間の値にあるときにはその増加に伴ってフィードバックゲインKp を徐々に大きくするようになっているマップの例である。また、図7(b)は、パラメータ(Ds /V)の増加に伴ってフィードバックゲインKd を徐々に小さくするようになっているマップの例である。
【0057】
そして、制御量演算部30において図5の処理が実行されると、ステップ104から201に移行し、パラメータ(Ds /V)に基づき、図7(a),(b)に示すような予め作成し記憶しておいたマップを参照して、フィードバックゲインKp 及びKd を、前輪及び後輪別に設定する。フィードバックゲインKp 及びKd が設定されたら、ステップ106に移行し、上記第1の実施の形態と同様の処理を実行する。
【0058】
この図5の処理が実行される結果、フィードバックゲインKp 及びKd が各割り込みタイミングにおけるパラメータ(DS /V)に基づいて設定されるため、上記第1の実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0059】
しかも、本実施の形態であれば、制駆動剛性係数DS 及び車体速Vの比であるパラメータ(DS /V)に基づいてフィードバックゲインKp 及びKd を決定するようになっているため、それら制駆動剛性係数DS 及び車体速Vの両方が同時に変化するような状況下であっても、適切にフィードバックゲインKp 及びKd を設定できる。
【0060】
特に、そのフィードバックゲインKp 及びKd を設定するためのマップを、上述の行列Ad の特性根に基づいてシステムの安定性及び追従性の両方を満足できるように作成するようになっているため、高精度のアンチロックブレーキ制御を実行する上で好適なフィードバックゲインKp 及びKd を確実に設定できるという利点もある。
【0061】
ここで、本実施の形態では、ステップ102〜104,201の処理によってフィードバックゲイン変更手段が構成される。
図8乃至図10は本発明の第3の実施の形態を説明するための図であり、図8は図4,図5と同様に制御量演算部30における処理の概要を示すフローチャートである。なお、全体構成は上記第1の実施の形態と同様であるため、その図示及び説明は省略するとともに、図4,図5と同様の処理を実行するステップには同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0062】
ここで、アンチロックブレーキ制御の実行中に、所定の制動力Q及び目標スリップ率κ* の平衡点回りの運動が行われているとすると、上記(1)式で示した運動方程式と同様のモデルを使用して、下記の(13)式のようなモデル化が可能である。
【0063】
【数3】
Figure 0003704939
【0064】
Figure 0003704939
但し、
d1=Cd3=0
d2=(ΔtDs r/Iwh)+(−ΔtQr/Iwh
である。
【0065】
また、右肩に“〜”が付く記号は、目標値からの偏差を意味しており、目標スリップ率κ* とするための車輪回転角速度ω,ω1 の目標値をω* ,ω1 * とすれば、下記の(14)式,(15)式のような関係が成り立つ。
【0066】
【数4】
Figure 0003704939
そして、上記(13)式中の行列Ad は、上記第2の実施の形態で用いた(12)式の行列Ad と同じである。
【0067】
しかし、本実施の形態では、所定の制動力Q及び目標スリップ率κ* の平衡点回りに運動法定式を立てているため、制駆動剛性係数DS としては、目標スリップ率κ* に対応した局所的な制駆動剛性係数DSLが適用されることになる。
【0068】
ここで、上記第2の実施の形態で用いた制駆動剛性係数DS をグローバルな制駆動剛性係数DSGとし、これら制駆動剛性係数DSG及びDSLを図示すると、図9のようになる。つまり、制駆動剛性係数DSG及びDSLは、実スリップ率κが目標スリップ率κ* よりもある程度小さい範囲では一致するが、実スリップ率κが目標スリップ率κ* 付近にあるときには、局所的な制駆動剛性係数DSLはグローバルな制駆動剛性係数DSGよりも小さくなる傾向がある。
【0069】
そこで、目標スリップ率κ* 基づいて図10に示すようなマップを参照して係数Gκを設定しておき、上記(8)式ではなく、下記の(16)式に従って制駆動剛性係数DS を演算するようになっている。
【0070】
s =μ×Gκ×Ds1 ……(16)
即ち、図8に示すように、ステップ103の処理を終えたらステップ301に移行し、目標スリップ率κ* に基づき図10に示すようなマップを参照して、係数Gκを設定する。そして、ステップ302に移行し、上記(16)式に従って制駆動剛性係数DS を演算し、ステップ201に移行する。それ以降の処理は、上記第2の実施の形態と同様である。
【0071】
そして、本実施の形態のように、所定の制動力Q及び目標スリップ率κ* の平衡点回りに運動法定式を用いるとともに、制駆動剛性係数DS として目標スリップ率κ* に対応した局所的な制駆動剛性係数DS を用いるようになっていると、非線形制御系の平衡点回りで系を安定させるのに適しているフィードバックゲインKp 及びKd を設定することができるのである。
【0072】
なお、目標スリップ率κ* と、実スリップ率κとは、ABS制御の実行中であっても必ずしも一致するものではないから、例えば、実スリップ率κが目標スリップ率κ* から大きく離れているときには、その実スリップ率κに対応した局所的な制駆動剛性係数DS を用いてフィードバックゲインKp 及びKd を設定し、実スリップ率κが目標スリップ率κ* に近い場合には、この第3の実施の形態のように目標スリップ率κ* に対応した局所的な制駆動剛性係数DS を用いてフィードバックゲインKp 及びKd を設定するようにしてもよい。
【0073】
図11乃至図13は本発明の第4の実施の形態を示す図であって、図11は図1と同様に全体構成を示すブロック図、図12は図4,図5,図8と同様に制御量演算部30における処理の概要を示すフローチャートである。なお、上記各実施の形態と同様の構成,ステップには同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0074】
ここで、本実施の形態は、車両旋回中には、横力の発生により制駆動剛性係数DS が減少し、これによって車輪の回転運動が影響を受けてしまうことに着目したものであって、制駆動剛性係数DS を、車両の横方向の運動を状態量としてのタイヤ横滑り角βf ,βr に基づいて補正することにより、車両の直進,旋回を問わず制御の安定化が図られるようにしたものである。
【0075】
そこで、車両状態量推定部10には、車輪速センサ11,前後加速度センサ12及び横加速度センサ13の各センサ出力の他に、ヨーレートrを検出するヨーレートセンサ14から供給される実ヨーレートrと、前輪及び後輪のそれぞれの舵角を検出する舵角センサ15から供給される前輪及び後輪の舵角δf ,δr とが供給されるようになっている。なお、後輪を操舵する機構を備えていない場合には、常にδr =0として考えればよい。
【0076】
そして、車両状態量推定部10は、下記の(17)式に従って車体横滑り角βを推定するとともに、下記の(18)式に従って前輪及び後輪のタイヤ横滑り角βf 及びβr を推定するようになっている。
【0077】
Figure 0003704939
但し、Mは車両の質量、aは車両重心から前輪側車軸までの水平距離、bは車両重心から後輪側車軸までの水平距離、CPf は前輪のコーナリングパワー、CPr は後輪のコーナリングパワーである。なお、前輪の操舵角δf は、操舵角θと、前輪操舵系のステアリングギア比Nとから求める(δf =θ/N)こともできる。
【0078】
そして、制御量演算部30は、タイヤ横滑り角βf ,βr に基づいて図13に示すようなマップを参照して係数Gβを設定し、下記の(20)式に従って制駆動剛性係数DS を演算するようになっている。
【0079】
s =μ×Gκ×Gβ×Ds1 ……(20)
即ち、図12に示すように、ステップ301で係数Gκを設定した後に、ステップ401に移行し、前輪及び後輪のそれぞれについて、タイヤ横滑り角βf ,βr に基づき図13に示すようなマップを参照して、係数Gβを設定し、次いでステップ402に移行し、上記(20)式に従って制駆動剛性係数DS を演算し、ステップ201に移行する。それ以降の処理は、上記第2の実施の形態と同様である。
【0080】
このような構成であれば、上記第3の実施の形態と同様の作用効果が得られるとともに、制駆動剛性係数DS がタイヤ横滑り角βf ,βr に基づいて補正されているから、車両の直進,旋回を問わず制御の安定化が図られるという利点もある。
【0081】
ここで、本実施の形態では、ステップ402の処理が補正手段に対応する。
なお、上記各実施の形態では、前輪及び後輪毎に輪加重Wf ,Wr を求めることに対応して、制駆動剛性係数DS を前輪及び後輪毎に求めるようになっているが、これに限定されるものではなく、前後加速度αlon 及び横加速度αlat に基づいて輪加重を前後左右の各車輪毎に求めるとともに、制駆動剛性係数DS も各車輪毎に求めて、フィードバックゲインKp 及びKd を各車輪毎に求めるようにしてもよい。
【0082】
また、上記各実施の形態では、車輪の運動を表す状態量として車輪速Vwhを用い、その車輪速Vwhと目標車輪速Vwh * との偏差等に基づいたフィードバック制御を実行するようにしているが、これに限定されるものではなく、車輪の運動を表す状態量として実スリップ率κを用い、その実スリップ率κと目標スリップ率κ* との偏差等に基づいたフィードバック制御を実行するようにしてもよい。
【0083】
そして、フィードバック制御としては、上記各実施の形態ではいわゆるPD制御を実行するようになっているが、これに限定されるものでなく、P制御、或いはPID制御等であってもよい。
【0084】
さらに、上記第4の実施の形態では、車両の横方向の運動を状態量としてタイヤ横滑り角βf ,βr を用いているが、これに限定されるものではなく、車両の横方向の運動を状態量として車体横滑り角βを用いるようにしてもよい。
【0085】
また、上記各実施の形態は、本発明に係る制動力制御装置をABSに適用した場合について説明したが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、TCSやVDC等を搭載した車両に対しても本発明は適用可能である。
【0086】
そして、上記各実施の形態では、制駆動剛性係数Ds 及び車体速Vの両方に基づいてフィードバックゲインを変更するようにしているが、これに限定されるものではなく、車体速Vは考慮することなく制駆動剛性係数D s によってフィードバックゲインを変更するようにしてもそれが固定であった従来技術に比べれば良好な制御が行えるようになる。
【0087】
また、上記第4の実施の形態では、車体横滑り角βを上記(17)式に従って演算するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば本出願人が先に提案した特開平8−282521号公報に開示されるような公知の方法に従って車体横滑り角βを求めるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】車輪の運動モデルを示す図である。
【図3】フィードバックゲインを決定するためのマップの一例を示す図である。
【図4】第1の実施の形態における処理の概要を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施の形態における処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】制御の安定性を説明する根配置図である。
【図7】フィードバックゲインを決定するためのマップの一例を示す図である。
【図8】第3の実施の形態における処理の概要を示すフローチャートである。
【図9】スリップ率とタイヤ前後力との関係を示す特性図である。
【図10】係数Gκを決定するためのマップの一例を示す図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態の全体構成を示すブロック図である。
【図12】第4の実施の形態における処理の概要を示すフローチャートである。
【図13】係数Gβを決定するためのマップの一例を示す図である。
【符号の説明】
10 車両状態量推定部
11 車輪速センサ
12 前後加速度センサ
13 横加速度センサ
14 ヨーレートセンサ
15 舵角センサ
20 目標設定部
30 制御量演算部
40 ブレーキ力サーボ装置

Claims (9)

  1. 車輪の運動を表す状態量に基づいてフィードバック制御を行ってブレーキ力を制御するようになっている制動力制御装置において、
    タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数と、車体速との両方に基づいて、予め設定したマップにより前記フィードバック制御に用いるフィードバックゲインを変更するフィードバックゲイン変更手段を設けたことを特徴とする制動力制御装置。
  2. 車輪の運動を表す状態量に基づいてフィードバック制御を行ってブレーキ力を制御するようになっている制動力制御装置において、
    タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数と、車体速との比に基づいて、予め設定したマップにより前記フィードバック制御に用いるフィードバックゲインを変更するフィードバックゲイン変更手段を設けたことを特徴とする制動力制御装置。
  3. 車輪の運動を表す状態量に基づいてフィードバック制御を行ってブレーキ力を制御するようになっている制動力制御装置において、
    タイヤ及び路面の接触状態としての制駆動剛性係数に基づいて、予め設定したマップにより前記フィードバック制御に用いるフィードバックゲインを変更するフィードバックゲイン変更手段を設けたことを特徴とする制動力制御装置。
  4. 前記車輪の運動を表す状態量は、車輪速である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の制動力制御装置。
  5. 前記車輪の運動を表す状態量は、スリップ率である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の制動力制御装置。
  6. 前記制駆動剛性係数として、局所的な制駆動剛性係数を用いるようになっている請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の制動力制御装置。
  7. 前記局所的な制駆動剛性係数として、目標スリップ率に対応した局所的な制駆動剛性係数を用いるようになっている請求項記載の制動力制御装置。
  8. 前記タイヤ及び路面の接触状態を、車両の横方向の運動を表す状態量に基づいて補正する補正手段を設けた請求項1乃至請求項のいずれかに記載の制動力制御装置。
  9. 前記車両の横方向の運動を表す状態量は、タイヤ横滑り角である請求項記載の制動力制御装置。
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