JP3700140B2 - グルコース濃度の測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルコース濃度の測定方法、特に、全血状態でグルコース濃度を測定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
医療分野、医学的研究分野等において、血液(または血漿、場合により血清)中のグルコース濃度の測定が必要とされ、そのために種々の方法が提案され、また、実施されている。
そのような方法の中で、広く採用されている方法の1つにバイオセンサーを用いる血液中のグルコース濃度の測定方法がある。良く知られているように、この測定方法は、一般的にグルコースセンサー法と呼ばれ、グルコース分解酵素であるグルコースオキシダーゼ(GOD)を用いて試料中のグルコースを分解し、その時に生成する分解生成物である過酸化水素量や消費される酸素量を電気化学的に測定し、測定結果から試料中のグルコース濃度を求めることを測定原理とするものである。
【0003】
このようなグルコースセンサー法は、試料の複雑な前処理を必要とせずに高感度でグルコース濃度を測定できるので、特に糖尿病の診断や治療に幅広く使用され、具体的には、GODを固定化した膜と過酸化水素電極とを組み合わせた測定装置(グルコースセンサー)がこの方法にしばしば用いられている。例えば、この方法を用いるグルコース濃度測定装置として、株式会社京都第一科学から商品名GA−1140装置が市販されている。
グルコースセンサー法によりグルコース濃度を測定する場合、血液を遠心分離して血球部分を分離した上澄み液(通常は血漿、場合により血清)を得て、これを適当な緩衝液により希釈してグルコースセンサー法を用いてグルコースの分解速度を測定する。
【0004】
このようなグルコースセンサー法を用いるに際して、全血状態の血液を用いずに、遠心分離した血液から上澄み液(血漿または血清)をサンプリングするのは、血球は相当量の固形分(通常、約25〜45%)を含むため、サンプリングした試料に血球が含まれていると、緩衝液による試料の希釈倍率が真の倍率((緩衝液+試料中の液体分)/試料中の液体分)と見掛けの倍率((緩衝液+全試料)/全試料)とでは異なり、血球が含まれている割合が判らないからである。従って、全血状態でのグルコース濃度の測定は困難であった。
【0005】
このような背景のもと、全血状態のままでグルコース濃度を測定する方法として、平衡点法、一次微分法および二次微分法のような高次微分法から選択される2種類の方法を用いて血球体積割合を求め、それに基づいて真の希釈倍率を求めて測定値(生データ)を補正することによりグルコース濃度を求める方法が特公平7−37991号公報に記載されている。
【0006】
この公報に記載の平衡点法および一次微分法は、次のような事項に基づくものである:
全血は主に血清(または血漿)および血球から成り、血球はその内部に液体成分を含み、この液体成分は血清中のグルコース濃度に等しい濃度でグルコースを含んでいる。通常、上述のような特公平7−37991号公報に記載の方法では、全血試料をGOD−過酸化水素電極反応系で測定する場合、試料は等張の緩衝液により80〜100倍程度に希釈される。この場合、血球内の液体中のグルコースは10秒程度で緩衝液中に移動(溶出)して平衡状態となる。
【0007】
平衡点法では、このような平衡状態に到達した後のグルコース濃度を測定することになるので、血球内の液体および血清に含まれているグルコース濃度が測定される。しかしながら、平衡点法と言えども、全血試料についての測定であるので、血球膜のような固形分が含まれており、従って、上述のように真の希釈倍率が判らない。また、真の希釈倍率は見掛けの希釈倍率より大きいので、平衡点法により測定されるグルコース濃度は真のグルコース濃度より小さい測定値として得られる。
【0008】
また、一次微分法により全血試料のグルコース濃度を測定する場合、出力の時間的変化量(出力の速度速度の概念)は試料注入後2秒程度で極大(最大)値に達する。一次微分法による測定も平衡点法と変わるところはなく、真の希釈倍率は判らない。この場合においても、試料が希釈された時に、血球内のグルコースは血球から緩衝液中に溶出しようとする。しかしながら、平衡点法と比較すると、極大値までの時間が相当短く、血球膜という抵抗も存在するので、一次微分法により測定されるグルコース濃度は血清内のグルコースのみに起因する濃度であると近似できる場合が多く、特公平7−37991号公報に記載の方法ではこの近似を平衡点法と組み合わせて利用している。
【0009】
しかしながら、種々の検討を重ねていくと、一次微分値の極大値を得る例えば2秒程度の時間内であっても、血球内の液体中のグルコースが溶出しようとするのは確かであり、しかも、血球の割合が大きい場合には各血球からの溶出量がわずかであっても溶出する総量としては血球から緩衝液内へのグルコースの溶出を無視し得ない場合があることが判った。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、血球から緩衝液への溶出がある場合であってもその影響を受けず、全血状態のままで血液のグルコース濃度を測定する方法が提供されれば、より向上した精度でグルコース濃度の測定が可能となり、また、従来の測定方法では必要とされていた遠心分離工程を省略することができる。即ち、全血状態でのグルコース濃度の測定を可能にすることができる。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の第一の要旨において、グルコースセンサー法により、血球および液体成分を含んで成る試料中の液体成分中のグルコース濃度(GL)、即ち、試料のグルコース濃度を測定する方法であって、
(a)試料のグルコース濃度(GL)は、その試料についての平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を用いて
GL=EP+a×(EP−DI) (1)
[式中、aは係数であり、GLにより変化し得る。即ち、GLの関数として表される係数である。]で表されると仮定し、
(b)グルコース濃度(GL)が既知の種々の試料について平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を得、
(c)得られた測定値(EPおよびDI)を式(1)に代入することにより、aをグルコース濃度(GL)の関数として予め求めておき、
(d)グルコース濃度が未知の試料について、平衡点法によりグルコース濃度測定値(EP)を得、また、一次微分法によりグルコース濃度測定値(DI)を得、
(e)得られた測定値(EPおよびDI)および工程(c)において求めたaを式(1)に代入して未知数であるグルコース濃度(GL)を求める
ことを特徴とする方法を提供する。
【0012】
本発明において、血球とは赤血球、白血球および血小板から選択される少なくとも一種を意味し、実際的には主として赤血球から成るものを意味する。液体成分とは血球の外部に存在する液体、例えば血漿、血清などを意味する。従って、血球および液体成分を含んで成る試料とは、例えば通常の生体(生物、特にヒト)から採取した全血としての血液を意味するが、これに限定されるものではなく、予め分離されている血液の種々の液体成分および血球成分を混合したものであってもよい。
【0013】
本発明において、グルコースセンサー法とは、酵素としてグルコース分解酵素である例えばグルコースオキシダーゼ(通常は適当な支持体に固定化されたもの)を用いて液体部分に溶解しているグルコースを分解し、その時に分解生成する過酸化水素量および/または消費される酸素量を過酸化水素電極および/または酸素電極により電気化学的に測定し、その測定結果から液体中のグルコース濃度を求めることを測定原理とする、従来の技術の説明において説明したようないわゆるバイオセンサーを用いるグルコース濃度を測定する方法を意味する。通常のグルコース濃度の測定においては、グルコース濃度を測定すべき試料を直接測定するのではなく、試料を適当な液体、特に緩衝液により希釈したものについてグルコース濃度を測定する。このようなグルコースセンサー法は当該分野においては周知のものであり、本発明ではグルコースオキシダーゼと過酸化水素電極の組み合わせを用いるのが特に好ましい。
【0014】
以下、グルコースオキシダーゼと過酸化水素電極を用いる場合を例として本発明を説明するが、他の電極を用いる場合も本発明を同様に適用できる。
具体的には、図1に模式的に示すような装置を用いてグルコース濃度を測定する。グルコース濃度測定セル1はGODを固定化した過酸化水素電極2を有し、セル内の液は、スターラ3および撹拌子4により充分に撹拌されるようになっている。ポンプ5により緩衝液がバルブ6を介してセル1内に供給され、グルコース濃度を測定すべき試料はサンプラー9によりセル1内に供給され、測定が終了すると、ポンプ7によりバルブ8を介して測定液は排出される。測定は、サンプラー9から試料を供給した時間を0として、過酸化水素電極2からの出力と経過時間との関係を求めることにより行う。
【0015】
本発明において、平衡点法とは、上述のグルコースセンサー法を用いるグルコース濃度測定法の1つであって、グルコース濃度が既知の標準溶液について測定開始後(即ち、試料をセル内に注入した後)の過酸化水素電極の出力(電流値)が実質的に一定となるまで測定を継続し、その一定出力とグルコース濃度との関係を検量線として予め求めておき、その後、グルコース濃度が未知の試料について過酸化水素電極の出力を測定し、同様に出力が実質的に一定値となるまで測定を継続し、その一定値から検量線に基づいてグルコース濃度を求める方法を意味する。
【0016】
この平衡点法は、次のような事項に基づくものである:
グルコースオキシダーゼによるグルコースの分解反応速度は、緩衝液中のグルコース濃度に比例するが、酵素によるグルコースの分解量自体は微量であるのでグルコース濃度は殆ど変化しない。従って、定常状態では過酸化水素の生成速度は一定となる。
【0017】
具体的には、あるグルコース濃度の試料について、測定を実施すると、図2に模式的に示すような(ある時間経過した後は一定となる)電極の出力と試料注入後の時間との関係が得られ、出力は通常10秒程度でほぼ一定となる(図2では、理解のため、EPの符号を付している)。この一定の出力値と緩衝液中のグルコース濃度との間には一定の相関関係があり、平衡点法は、この関係を検量線として利用するものである。
【0018】
このような平衡点法では、測定開始後、出力が一定値に到達するまでに十分な時間があり、測定すべき液体試料中に血球が混入している場合、この時間は、血球内の液体に含まれるグルコースが血球の細胞膜という抵抗に抗して緩衝液本体中に拡散していくのに十分なものであることが判っている。従って、平衡点法により測定される測定グルコース濃度(EP)をもたらすグルコースは、液体成分中に溶解しているグルコースおよび血球内の液体中に溶解しているグルコースの双方である。
【0019】
本発明において、一次微分法とは、上述のグルコースセンサー法を用いるグルコース濃度測定法の1つであって、グルコース濃度が既知の標準溶液について測定開始後の過酸化水素電極の出力(電流値)と測定時間との関係を測定し、それに基づいて出力の時間的変化量(即ち、出力の時間による微分値、従って、出力の速度)の最大値とグルコース濃度との関係を検量線として予め求めておき、その後、グルコース濃度が未知の試料について過酸化水素電極の出力の時間的変化を測定し、同様に時間的変化量の最大値を測定し、その最大値から検量線に基づいてグルコース濃度を求める方法を意味する。
【0020】
例えば、図2に模式的に示すような電極の出力と時間との関係を時間について微分すれば出力の時間的変化量が求められ、具体的には図2に示すような(極大値を持つ)曲線が得られる(図2では、理解のためDIの符号を付している)。この曲線の最大値と緩衝液中のグルコース濃度との間には一定の相関関係があり、一次微分法はこの関係を検量線として利用するものである。このような一次微分法では、測定開始後、出力の時間的変化量が最大値に到達するまでにわずか数秒程度(例えば2秒程度)の時間しかないことが判っている。
【0021】
尚、本発明の方法において、式(1)を仮定するというのは、後の説明から理解できるように、グルコース濃度(GL)と測定値(EPおよびDI)との間には式(1)で示される関数が成り立つと考えてもよいので、この関係式を本発明において使用するということを意味する。
【0022】
本発明の方法において、aをグルコース濃度(GL)の関数として予め求めておくとは、血球および液体成分を含む種々の試料についての測定値(EPおよびDI)とその試料の既知のグルコース濃度からのaの値を算出し、このaの値とグルコース濃度(GL)との相関関係を予め求めておくことを意味する。この関数が判っていれば、グルコース濃度が未知の試料についてEPとDIを測定し、これらを式(1)に代入すれば未知数がGLだけの等式(1)となるので、方程式を解くようにしてGLを求めることができる。
本発明の方法において、血球が含まれた液体成分として全血状態の血液を使用する場合に特に有効な効果を得ることができる。従って、本発明は全血状態の試料中のグルコース濃度の測定に特に有用である。
【0023】
従って、第2の要旨において、本発明は、グルコースセンサー法により全血試料のグルコース濃度(GL)を測定する方法であって、
(a)試料のグルコース濃度(GL)は、その試料についての平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を用いて
GL=EP+a×(EP−DI) (1)
[式中、aは係数であり、GLにより変化し得る。即ち、GLの関数として表される係数である。]で表されると仮定し、
(b)グルコース濃度(GL)が既知の種々の全血試料について平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を得、
(c)得られた測定値(EPおよびDI)を式(1)に代入することにより、aをグルコース濃度(GL)の関数として予め求めておき、
(d)グルコース濃度が未知の試料について、平衡点法によりグルコース濃度測定値(EP)を得、また、一次微分法によりグルコース濃度測定値(DI)を得、
(e)得られた測定値(EPおよびDI)および工程(c)において求めたaを用いて式(1)に基づいてグルコース濃度(GL)を求める
ことを特徴とする方法を提供する。
【0024】
1つの態様において、本発明の方法において、aはグルコース濃度に関係ない一定値として本発明の方法を適用してもよい場合がある。この一定値は、工程(c)に基づいた測定結果からaのグルコース濃度依存性が小さく、aが一定値であるとみなしてよい場合である。この場合は、EPおよびDIを式(1)に代入すると、直ちにGLを求めることができる。
本発明のグルコース濃度測定方法により血液中の血球量に関係なく、血液中のグルコース濃度の測定が可能となる。従って、従来のように、血液中のグルコース濃度の測定に際して遠心分離操作をする必要が解消される。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明は、以下の考察に基づいて為されたものである:
全血中の固形分は、血球の割合に比例して増加する。通常、全血中の血球の内、赤血球が大半を占めるので、血球および液体成分から成る試料中の血球の体積割合(Ht)は、赤血球の体積割合にほぼ等しい。また、赤血球中の固形分の割合はほぼ一定であると考えてもよいので、固形分は、試料中の血球の割合(Ht)、従って、赤血球の割合に比例して増加すると考えることができる。尚、試料が均一な混合物である場合、この血球の割合はいわゆるヘマトクリットに相当すると考えても問題はない。
【0026】
血漿(または血清)の場合のように、試料に血球が含まれない場合、平衡点法による測定の対象となるグルコースは、血漿中のグルコース全量であり、この場合、平衡点法の測定結果は真の(血漿または血清中の)グルコース濃度と考えることができる。他方、全血試料のように、試料に血球が含まれている場合、平衡点法による測定の対象となるグルコースは、試料中の液体(即ち、血漿または血清部分および血球内の液体)中に存在するグルコース全量である。即ち、血球の固形分は測定対象となるグルコースを含まないにも拘わらずある体積を占める物質として存在するので緩衝液による見かけの希釈倍率を小さくするという効果を有する。
【0027】
従って、全血試料の場合のグルコース濃度の測定に寄与するグルコース量は、試料が血球を含まないと仮定したグルコース量からグルコース濃度測定に寄与しない、Htに比例する量を差し引いた量である考えられる。(即ち、Htが大きくなると、Htに比例的に固形分が増えるので、測定対象となるグルコースはHtがゼロの状態からHtに比例して減少する。)測定により得られるグルコース濃度は、測定の対象となるグルコース量と一次の関係にあるので、全血試料の場合に平衡点法により測定されるグルコース濃度をEPとすると、
EP=GL−p×Ht (2)
[式中、GLは真のグルコース濃度であって、試料が血球を含まないとした場合の試料のグルコース濃度、即ち、血漿(または血清)中のグルコース濃度であり、pはグルコース濃度によって変化し得る係数であり、Htは試料中の血球の体積%である。]
と表現できる。
【0028】
一次微分法において、血球から溶出して測定の対象となり得るグルコース量は、血球の割合、従ってHtに比例して増加すると考えられる。従って、一次微分法において測定の対象となるグルコース量は、試料が血球を含まないと仮定したグルコース量から、グルコース濃度測定に寄与しない、溶出せず血球内の液体中に残っているグルコース量を差し引いた量である考えられる。この残存するグルコース量はHtに比例する量である。従って、平衡点法の場合と同様の考えに基づくと、全血試料の場合に一次微分法により測定されるグルコース濃度をDIとすると、
DI=GL−q×Ht (3)
[式中、qはグルコース濃度によって変化し得る係数であり、他は式(2)と同様である。]
と表現できる。
【0029】
そこで、式(2)および式(3)の妥当性を検討するために、種々のHt(体積%)の全血試料を準備し、これらの試料についてグルコース濃度を平衡点法および一次微分法により測定した。この場合、真のグルコース濃度(即ち、血清グルコース濃度)は80mg/dlであった。その結果を、図3に示す。
図3から明らかなように、いずれの測定方法においても、右下がりの直線関係が得られるが、これは、式(2)および式(3)のように考えることの妥当性を示すものである。尚、図3において[血球/(血球+血清)]×100=Ht(体積%)である。
【0030】
次に、EP値とDI値との差(EP−DI)を考える:
式(4)から明らかなように、差(EP−DI)は、Htに比例する。
図3に用いたデータから(EP−DI)とHtとの関係を求め、これを、図4に示す。
図4から明らかなように、実際のデータについて、(EP−DI)とHtは直線で近似できるとすることが妥当であり、従って、式(4)が妥当であることが判る。
【0031】
そこで、式(4)を式(2)に代入することによりHtを消去すると、グルコース濃度の測定においてHtの影響を無くすことができる。即ち、
[式中、a=p/(q−p)であり、aは真のグルコース濃度によって変化し得る係数である。]
となる。尚、式(4)を(式(2)の代わりに)式(3)に代入してもよい。この場合、
GL==DI+a’×(EP−DI) (1)’
[式中、a’=q/(q−p)であり、a’は真のグルコース濃度によって変化し得る係数である。]
となるが、式(1)も式(1)’も基本的には同様な考え方で以下の考察を進めることができることは数学的に容易に理解できる。従って、本明細書では、簡単のため、式(2)に代入する場合を例にして以下説明する。
【0032】
式(6)から明らかなように、真のグルコース濃度は、Htに関係なく、係数a、測定値EPおよび測定値DIにより決定できる。即ち、血球割合Htにより生じ得る誤差を排除した形で真のグルコース濃度を決定できる。
最後に、係数aを求める。この係数aは、グルコース濃度が既知である種々の全血試料を用いてEP値およびDI値を求め、式(6)にこれらの値を代入してaを求める。
【0033】
その一例を血清中のグルコース濃度とaとの関係にて図5に示す。
この場合では、結果的にaは実質的にグルコース濃度の影響を受けていない(a≒1.4=一定:即ち、グルコース濃度により影響を受けない)と考えても実質的には問題は無いと考えられる。尚、図3〜5に示したデータは、株式会社京都第一科学から市販されているグルコース濃度測定装置GA−1160(グルコースオキシダーゼ−過酸化水素電極系)を一部改造してDIも測定できるようにした装置を用いて得た場合の実測値である。
【0034】
従って、aが求められていれば、グルコース濃度が未知の全血試料の真のグルコース濃度は、その試料について測定して測定値EPおよびDIを得て式(6)に測定値EPおよびDIを代入するだけで(aが一定の場合は)簡単に算出することができる。
a=1.4とした場合の妥当性を検討するために、予め別に血清のみについて測定しておいた、血清濃度が既知の種々の全血試料についてEP値およびDI値を用いてa=1.4としてグルコース濃度を算出した。その結果を図6に示している。図6において横軸は真のグルコース濃度であり(血清のみについて測定したグルコース濃度)、縦軸は、本発明に基づいてa=1.4として式(6)に基づいて算出したグルコース濃度である。
【0035】
図6から明らかなように、傾きがほぼ1の直線上に大部分のデータが載っている(図6においては、rは相関係数であり、nは測定データ数である)。この結果から、本発明の全血試料についてのグルコース濃度の測定方法には、十分な精度があることが判る。
尚、更にデータを増やしたり、あるいは測定装置を変更したりすると、aの値が変わることも十分に予想され、真のグルコース濃度により変化する(即ち、aはグルコース濃度の関数である)とした方がより良い場合があるとも考えられる。そのような場合には、式(6)は、a=Fn(GL)とすると、
GL=EP+Fn(GL)×(EP−DI) (7)
[式中、FnはGLの何らかの関数を意味する。]
となる。Fnは上述のようにaを求める場合と同様にして種々の実験データから例えば図6のようなグラフを描き、aとグルコース濃度(GL)との間に相関関数があると判断される場合には、a=Fn(GL)を予め求めておけばよい。この関数の導出については、種々の回帰式を数学的にまたはコンピューター等により求める手法(例えば最小二乗法等)が知られており、例えば一次関数、対数関数および指数関数等を用いて、aをグルコース濃度(GL)の関数として求めることができる。
【0036】
実際の測定に際しては、EP値およびDI値が得られ、Fnが既に求められているので、式(7)において未知数は真のグルコース濃度だけとなる。従って、式(7)に測定値および関数を代入して、代数的に、または関数が複雑な場合は数値解法的に例えばコンピューターにより真のグルコース濃度を求めることができる。
【0037】
そこで、第3の要旨において、本発明は、上述のようなグルコース濃度測定方法を実施するために、その方法をソフト化した回路を含むグルコース濃度測定システムを提供し、このシステムは、既存のグルコース濃度測定装置に、上述にような本発明のグルコース濃度測定方法を実施する回路を組み込むことにより、全血試料のグルコース濃度の測定を可能にするものである。本発明の測定方法は、上述の開示に基づいて容易にソフト化でき、実際には電極からの出力の処理(即ち、平衡点法および一次微分法の測定値の算出)と組み合わせてコンピューターで全血試料のグルコース濃度を計算させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 グルコース濃度測定装置を模式的に示す図である。
【図2】 過酸化水素電極の出力の時間的変化および過酸化水素電極の出力の時間的変化の時間微分を示す模式的グラフであって、平衡点法および一次微分法によるグルコース濃度の測定原理を示す。
【図3】 式(2)および式(3)の妥当性を確認するグラフである。
【図4】 実際のデータについて式(4)が妥当であることを確認するためのグラフである。
【図5】 係数aとグルコース濃度(GL)との関係を示す実測データのグラフである。
【図6】 本発明の方法によるグルコース濃度の算出値と血清グルコース濃度との比較を示すグラフである。
【符号の説明】
1…グルコース濃度測定セル、2…GOD固定化過酸化水素電極、
3…スターラ、4…撹拌子、5…ポンプ、6…バルブ、7…ポンプ、
8…バルブ、9…サンプラー。
Claims (4)
- グルコースセンサー法により、血球および液体成分を含んで成る試料中の液体成分中のグルコース濃度(GL)、即ち、試料のグルコース濃度を測定する方法であって、
(a)試料のグルコース濃度(GL)は、その試料についての平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を用いて
GL=EP+a×(EP−DI) (1)
[式中、aはGLによって変化しない一定の係数である。]で表されると仮定し、
(b)グルコース濃度(GL)が既知の種々の試料について平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を得、
(c)得られた測定値(EPおよびDI)を式(1)に代入することにより、aをグルコース濃度(GL)の関数として予め求めておき、
(d)グルコース濃度が未知の試料について、平衡点法によりグルコース濃度測定値(EP)を得、また、一次微分法によりグルコース濃度測定値(DI)を得、
(e)得られた測定値(EPおよびDI)および工程(c)において求めたaを式(1)に代入して未知数であるグルコース濃度(GL)を求める
ことを特徴とする方法。 - グルコースセンサー法により全血試料のグルコース濃度(GL)を測定する方法であって、
(a)試料のグルコース濃度(GL)は、その試料についての平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を用いて
GL=EP+a×(EP−DI) (1)
[式中、aはGLによって変化しない一定の係数である。]で表されると仮定し、
(b)グルコース濃度(GL)が既知の種々の全血試料について平衡点法によるグルコース濃度測定値(EP)および一次微分法によるグルコース濃度測定値(DI)を得、
(c)得られた測定値(EPおよびDI)を式(1)に代入することにより、aをグルコース濃度(GL)の関数として予め求めておき、
(d)グルコース濃度が未知の試料について、平衡点法によりグルコース濃度測定値(EP)を得、また、一次微分法によりグルコース濃度測定値(DI)を得、
(e)得られた測定値(EPおよびDI)および工程(c)において求めたaを用いて式(1)に基づいてグルコース濃度(GL)を求める
ことを特徴とする方法。 - 式(1)に代えて、式(1)':
GL=DI+a'×(EP−DI) (1)'
[式中、a'=q/(q−p)であり、a ' はGLによって変化しない一定の係数である。]
を使用する請求項2記載の方法。 - 請求項2または3に記載のグルコース濃度測定方法を実施するための回路を含むグルコース濃度測定システム。
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