JP3694968B2 - 粉末冶金用混合粉 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械部品等の製造に用いる粉末冶金用混合粉に関し、とくに、寸法安定性に優れた焼結部品の製造に適した原料混合粉に関する。
【0002】
【従来の技術】
機械構造用部品等の製造においては、仕上切削量をできるだけ少なくして最終部品形状に加工し、生産性を高めることが要求されている。そのためには、粉体を成形した成形体から、焼結・熱処理を経た部品素材にいたるまで寸法の安定性が重要となる。とくに焼結時の寸法変化を零に近ずけることが、部品の寸法安定性を良くする最も重要な点となる。
【0003】
鉄系の焼結材料では、優れた機械的性質と高い経済性の観点から、最も一般的な合金元素としてCuが用いられている。しかし、Fe−Cu系は、焼結時に「銅膨張現象」とよばれる著しい膨張が生じることが知られている。この「銅膨張現象」は、焼結中に混合粉中に含まれる銅粉が溶融し、周囲の鉄粒子間の隙間に浸潤し拡散することにより生じる膨張現象である。
【0004】
Fe−Cu系にCを添加すると、Cu量が少ない範囲ではある程度の膨張抑制効果を示すため、Fe−Cu−C系の焼結材料は多く用いられてきたが、しかし、Cu量が多量の場合には、寸法変化を抑えることはできなかった。
焼結時の寸法変化を抑えるため、従来から、幾つかの試みがなされてきた。
たとえば、特開昭56-20142号公報には、Fe−Cu系焼結合金に、Bを0.03wt%以上含有させることにより、焼結時の銅の溶融による銅膨張現象を抑えようとする鉄銅系高密度焼結合金の製造法が提案されている。また、特開昭55-2791 号公報には、Fe−Cu系あるいはFe−Cu−C系粉末にPを0.15〜1.0wt %含有させることにより、焼結時の銅の溶融に伴う膨張を抑制し、良好な寸法正確性が得られることが開示されている。さらに、特開昭59-123740 号公報には、Fe−Cu−P−C系焼結合金部材の製造法が示され、原料粉末としてCu−P合金粉末を使用することにより、Cu−P液相の発生がわずかづつ生じ、焼結体の寸法変化が小さくなることが開示されている。
【0005】
また、特開昭53-92306号公報、特開昭53-128513 号公報および特開平1-290702号公報には、鉄粉の表面に銅を拡散付着させることにより、銅の偏析を防止し、優れた寸法正確性を有する焼結部品を製造できることが開示されている。
しかしながら、上記した技術によっても、Fe−Cu系あるいはFe−Cu−C系の焼結機械部品の焼結時の寸法変化を十分抑制できず、高精度機械部品製造に際しては、サイジング等の矯正が不可欠であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
Fe−Cu系あるいはFe−Cu−C系の原料混合粉は、焼結中に、Fe中へのCu、Cの固相拡散、Cuの溶融、Feの相変態等が複雑に絡んだ膨張収縮挙動を起こし、焼結体は複雑な寸法変化を生ずる。
本発明は、上記問題を有利に解決し、寸法変動の小さい焼結部品を製造できる粉末冶金用混合粉を提案することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、焼結時に、Fe−Cu系あるいはFe−Cu−C系の原料混合粉に生ずる、このような膨張収縮挙動に影響する要因を鋭意検討した。
焼結時、Fe−Cu系あるいはFe−Cu−C系の原料混合粉に生ずる膨張挙動は、 混合粉中に含まれる銅粉が溶融し、周囲の鉄粒子間の隙間に浸潤して急速に拡散することにより生じる膨張現象である。銅液相と鉄固相の間の現象であるため、銅液相中の微量成分や、鉄固相に存在する微量成分が大きく影響していると考え、とくに、銅粉に含まれる微量元素の影響を検討した結果、混合粉に使用する銅粉に微量含まれるPbが焼結体の寸法変動に大きな影響を及ぼしていることを突き止めた。まず、本発明の基礎になった実験について説明する。
【0008】
見掛け密度、Mn、Si含有量がわずかに相違するアトマイズ鉄系粉A、B、Cに、Pb含有量の相違する銅粉2.0wt %と、黒鉛粉0.8 wt%とをステアリン酸亜鉛0.75wt%とともに混合し、成形したのち、還元雰囲気中で1130℃×20min 焼結した。焼結後の外径寸法を測定し、成形金型の外径寸法に対する変化率を求め、図1に示す。
【0009】
図1から、銅粉中のPb含有量が0.05wt%を超えると、寸法変化率が大きくなり、さらに、鉄系粉A、B、Cの間で寸法変化率の相違が大きくなることがわかる。すなわち、銅粉中のPb含有量を0.05wt%以下することにより、寸法変化率および鉄系粉の銘柄、ロットの相違による寸法変化のばらつきを低く抑えることができる。
【0010】
本発明は、上記知見に基づき構成されたものである。
すなわち、本発明は、鉄系粉と銅粉あるいはさらに黒鉛粉とを配合してなる焼結部品製造用原料混合粉であって、前記銅粉が、Pb含有量が0.05wt%以下の銅粉であることを特徴とする粉末冶金用混合粉であり、好ましくは、前記混合粉は、銅粉: 0.1〜5wt%あるいはさらに黒鉛粉:2wt%以下および残部鉄系粉からなり、さらに、前記鉄系粉は、前記銅粉の一部または全部を表面に拡散付着させたものであることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明では、焼結部品製造用原料混合粉として、鉄系粉と銅粉あるいはさらに黒鉛粉とを配合する。
本発明では、配合する銅粉に含まれるPb含有量を0.05wt%以下に制限する。
銅粉中のPb含有量を0.05wt%以下にすることにより、混合粉成形体の焼結中の寸法変化を許容できる範囲以内(好ましくは0.40%以下)にすることができる。また、混合粉に配合される鉄系粉のばらつき、たとえば鉄系粉の銘柄、ロット等の相違による微量元素のばらつき、による混合粉成形体の焼結中の寸法変化のばらつきも少なく、許容できる範囲内とすることができる。銅粉中のPb含有量が0.05wt%を超える銅粉では、融点が低下し、さらに銅液相の表面張力が低下し鉄粒子表面への濡れ性が増大して、銅膨張が助長されるため、寸法変化が大きくなると考えられる。また、銅粉中に含まれるPbを減少させることは、銅液相の鉄粒子への濡れ性に対する諸因子の影響を少なくしているものと推定される。このようなことから、銅粉中のPb含有量は0.05wt%以下とする。
【0012】
混合粉への銅粉の配合量は、0.1 〜5wt%とすることが好ましい。
混合粉へ配合された銅粉は、焼結時に液相となり、鉄粉へ拡散し、焼結部品の強度を増加させ焼結収縮を防止する効果を有する。混合粉への銅粉の配合量が、0.1 wt%未満では、その効果が認められず、また5wt%を超えると焼結中の寸法変化が大きくなり、焼結部品の寸法精度が低下する。このため、銅粉の配合量は、0.1 〜5wt%の範囲とした。
【0013】
混合粉への黒鉛粉の配合量は、2wt%以下とすることが好ましい。
黒鉛粉は、焼結中に鉄粉へ容易に拡散し、合金化して、焼結体の強度を上昇することができるため、必要に応じ配合する。2wt%を超える黒鉛粉の添加は、焼結体の寸法精度が劣化するため、配合する場合は、2wt%以下とする。黒鉛粉は、鱗片状の天然黒鉛粉が好適である。
【0014】
本発明で使用する鉄系粉は、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉等いずれも好適に適用でき、とくに限定する必要はないが、合金元素を含有できるアトマイズ鉄粉が好適である。また、本発明では、銅粉の一部または全部を予め鉄粉粒子表面に拡散付着させた鉄系粉がCuの偏析防止、寸法変化のバラツキ軽減の観点から好適である。鉄粉粒子表面への銅粉の拡散付着は、鉄系粉と銅粉を混合し還元雰囲気で熱処理することにより達成できる。鉄粉粒子表面への銅粉の拡散付着量は、 0.1〜5%の全範囲で効果的である。
【0015】
そのほか、混合粉には、潤滑材、被削性改善物質を添加してもよい。潤滑材としてはステアリン酸亜鉛、ワックスなどが好適である。
上記した組成の原料混合粉は、圧縮成形により、所定の寸法の成形体とされ、非酸化性雰囲気で焼結するのが好適である。
【0016】
【実施例】
(実施例1)
粒度が#80メッシュ以下で、0.013 wt%Si、0.17wt%Mnを含有する見掛け密度2.98の鉄系粉(A)、0.020wt %Si、0.25wt%Mnを含有する見掛け密度2.79の鉄系粉(B)および0.025wt %Si、0.22wt%Mnを含有する見掛け密度2.68の鉄系粉(C)の3種のアトマイズ鉄粉に、粒度が#200 メッシュ以下で、Pb含有量が0.002 〜0.10wt%の銅粉と、あるいはさらに0.8 〜2.3 wt%の天然黒鉛粉を、0.75wt%のステアリン酸亜鉛とともに、表1に示す割合で混合して混合粉としたのち、プレスによりφ35×φ14×10mmのリング形状に成形した。成形体の成形密度は6.85g/cm3 であった。これら成形体を、CO2 濃度が0.3vol%のRXガス雰囲気中で焼結した。焼結後、焼結体外径寸法を測定し、成形金型の外径寸法に対する変化率および外径寸法変化率の標準偏差を計算した。外径寸法の変化率の測定結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
本発明例の試片No.1〜6 では、外径寸法の変化率は低く、また、Mn、Si等の含有量が異なる鉄系粉をもちいても外径寸法変化率の変動は少ない。また、同一配合試片間の寸法変化率の標準偏差も小さい。これに対し、銅粉中のPb含有量が高い試片No.10 、12、12、15の比較例では、外径寸法変化率は大きく、かつ標準偏差も大きい。さらに、鉄系粉の種類の相違により、外径寸法変化率にばらつきが生じている。また、銅粉の配合量または黒鉛粉の配合量が本発明の範囲外である試片No.11 、13の比較例でも、外径寸法変化率は大きく、外径寸法変化率の標準偏差の偏差も大きい。
【0019】
(実施例2)
粒度が#80メッシュ以下の、 0.013wt%Si、0.17wt%Mnを含有するアトマイズ鉄粉と、粒度が# 250メッシュ以下の0.03wt%Pbを含有する銅粉(2wt%)とを混合し、還元雰囲気中で熱処理し、鉄粉表面に銅粉を拡散付着させた。この銅粉を表面に拡散付着させた鉄系粉に、粒度が# 250メッシュ以下の0.03wt%Pbを含有する銅粉を 1.0wt%、さらに、黒鉛粉を 1.0wt%混合し、原料混合粉とした。この原料混合粉を、プレスによりφ35×φ14×10mmのリング形状に成形した。成形体の成形密度は6.85g/cm3 であった。これら成形体を、CO2 濃度が0.3vol%のRXガス雰囲気中で焼結した。焼結後、焼結体外径寸法を測定し、成形金型の外径寸法に対する変化率を計算した。その結果、外径寸法の変化率は0.25%と非常に低かった。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、焼結中の寸法変動を有効に抑制でき、サイジング等の矯正をすることなく、高度な寸法精度を有する焼結機械部品の製造が可能となり、生産性・経済性が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】寸法変化率と銅粉中のPb含有量との関係を示すグラフである。
Claims (3)
- 鉄系粉と銅粉あるいはさらに黒鉛粉とを配合してなる焼結部品製造用原料混合粉であって、前記銅粉が、Pb含有量が0.05wt%以下の銅粉であることを特徴とする粉末冶金用混合粉。
- 前記混合粉が銅粉:0.1 〜5wt%あるいはさらに黒鉛粉2wt%以下および残部鉄系粉からなる請求項1記載の粉末冶金用混合粉。
- 前記鉄系粉が、前記銅粉の一部または全部を表面に拡散付着させたものであることを特徴とする請求項1または2記載の粉末冶金用混合粉。
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