JP3694183B2 - スピーカ装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、スピーカ装置に関し、特に磁界中のコイルに流れる駆動電流によって生じる電磁駆動力の反力を用いて振動板を駆動するスピーカ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、スピーカ装置はオーディオ信号(電気信号)を入力して振動板を機械振動させ、当該振動板の振動を音響エネルギに変換する、いわゆる電気−音響変換器である。
【0003】
スピーカ装置の代表例であるムービングコイル方式のダイナミックスピーカ(動電型スピーカ)の構造を図12に示す。周知のごとく、ダイナミックスピーカは、例えば略円錐形状(コーン形状)を有する振動板101の中央部分の孔に、ボイスコイル102が卷回されたボイスコイルボビン103が嵌合固着し、フレーム112に取り付けられたエッジ108及びダンパ109によって、振動板101、ボイスコイル102、ボイスコイルボビン103が一体に弾性支持されることにより振動板101がダイナミックスピーカの中心軸X方向における所定の静止位置において支持されると共に、ボイスコイル102及びボイスコイルボビン103が磁石104、プレート105、ポールヨーク106からなる磁気回路107の磁気空隙内の所定の静止位置において空間支持される。
【0004】
また、ボイスコイル102はその両端がフレーム112に設けられた正負の入力端子110にそれぞれリード線111を介して電気的に接続されていて、該入力端子110からオーディオ信号が供給されることにより磁気ギャップ内のボイスコイル102がオーディオ信号に応じた電磁駆動力を受けて振動板101と共にピストン振動方向に沿って前後に駆動する。その結果、振動板101からオーディオ信号に応じた音響エネルギが放射される。
【0005】
このように、ムービングコイル方式のダイナミックスピーカは、その構造上ボイスコイルが振動板101と共に振動するので、フレーム112に設けられた正負の入力端子110とボイスコイル102をつなぐリード線111は、入力端子110から供給される電気入力をボイスコイル102に常に供給する必要がある。
【0006】
また、リード線111は、振動中の振動板101の有効ストロークを確保すると共に振動板101の振動姿態に影響をおよぼさないようにするために、耐屈曲性を有し、適度に柔らかく且つ自己の姿勢維持が可能な程度の硬さを有する材料で形成されるのが望ましい。
【0007】
また、リード線111は、振動板101の有効ストロークに対し突っ張らないように振動板101の振幅に対しある程度余裕ある長さを有する必要があるが、振動中にリード線111が振動板101、ダンパ109、フレーム112等にぶつかって不要な音を出さないようにするためにはリード線111の長さをあまり余裕を持たせて形成することができない。
【0008】
したがって、従来、ムービングコイル方式のダイナミックスピーカでは、正負の各リード線111は、上述した範囲の長さを有し、その一端を入力端子110側に固定し、他方端を振動板101の表面上に引き出されたボイスコイル102の両端に振動板101の裏側からそれぞれ接続して該接続部分が振動板101上に固定すると共に、中間部分をややたるませた状態で振動板101やボイスコイル102、フレーム112等と接することがないように、振動板101の背面側とフレーム112との間において空中配線(図12参照)によってスタイリングされるのが通常である。
【0009】
上述のように、ムービングコイル方式のダイナミックスピーカは、静磁界内に空間配置された質量の小さいボイスコイル及びボイスコイルボビンが振動板に固着されて軽量の振動系を構成し、当該ボイスコイルに電気入力を与えることによりボイスコイルが電磁駆動して、振動板を前後に振動させるので、電気−音響変換効率の主要構成要素となる振動系の付加質量を容易に小さく設定でき、したがって電気−音響変換効率を高める上で比較的有利である。
【0010】
従来のムービングコイル方式のダイナミックスピーカは概略以上のように構成され、簡単な構造と音響変換の効率良さからスピーカ装置の主流として広く用いられている。
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記ムービングコイル方式のダイナミックスピーカに代表されるスピーカ装置は、近年、家庭用のオーディオ装置等に用いられるのみならず、車載用としても用いられることが多く、使用者が臨場感あふれる大音量の再生音を望むため、スピーカ装置に大入力が供給される場合が多い。
【0012】
ところが、上述したムービングコイル方式のダイナミックスピーカでは、リード線111をスタイリングする必要からリード線111の長さに自ずと限りがあり、リード線111が突っ張らない範囲での振幅しか得ることができない。
【0013】
つまり、スピーカ装置に大入力を供給した場合に、振動板101やボイスコイル102の振動に伴なってリード線111の両端部分が繰り返し突っ張ったり大きく屈曲したりするので、その結果リード線111の両端部分が屈曲疲労して断線してしまう場合がある。その結果、スピーカ装置のコイルに電気入力が供給されない状態(コイル断線状態)を引き起こしてしまう場合がある。
【0014】
また、ムービングコイル方式のダイナミックスピーカのボイスコイルに供給される電気入力は、その一部がボイスコイルに流れる駆動電流よって熱エネルギーに変換されてジュール熱となって放熱されて消費され、残りが振動系の駆動エネルギとなる。
【0015】
従って、上述した、ムービングコイル方式のダイナミックスピーカに大入力が供給されて、振動板101やボイスコイル102が大振幅で振動する場合に、リード線111が上述の理由によって即座に断線しない場合であっても、振動板1の大振幅に伴ってリード線111のある部分が繰り返し屈曲し、その屈曲動作によって材料に疲労が生じて僅かであってもその屈曲部分が集中的に損傷する場合があり、その場合には、屈曲部分のリード線の断面積が減少するのでリード線の抵抗値が局所的に増すこととなる。
【0016】
このような状態において、スピーカ装置にさらに大入力を供給し続けた場合には、リード線111の損傷部分に集中的にジュール熱が放熱または蓄積されるのでリード線111が急激に温度上昇してその部分が軟化してさらに屈曲し易くなり、結果的にリード線111を加速的に損傷させることとなり断線を引き起こす場合がある。その結果、スピーカ装置のコイルに電気入力が供給されない状態(コイル断線状態)を引き起こしてしまう場合がある。
【0017】
そのため、従来ではリード線111に機械的、電気的な負荷がかからない範囲内においてスピーカ装置に電気入力を供給する必要があり、スピーカ装置に大入力を供給して振動板を大振幅で振動させることには自ずと限界があった。
【0018】
本発明は、上述の問題点に鑑みなされたものであり、コイルに大入力を供給して振動板が大振幅で振動してもコイル断線することのないスピーカ装置を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決する手段】
請求項1記載の発明は、フレームに対して移動可能に設けられた振動板と、前記フレームに対して固定されたコイルと、前記コイルに磁束を付与する磁束付与手段と、を有し、前記振動板を前記コイルの軸方向に駆動するスピーカ装置であって、前記磁束付与手段は、前記コイルに対してコイル軸方向に略垂直な磁束を付与するものであり、前記振動板に固定された駆動マグネットを含み、前記コイルは前記コイル軸方向に分離した上部コイルと下部コイルとからなり、前記駆動マグネットは前記上部コイルに対面する上部マグネットと前記下部コイルに対面する下部マグネットとからなり、前記上部コイル及び前記下部コイルは互いに逆方向の電流が供給され、前記上部マグネット及び下部マグネットは互いに逆方向の磁束を発生するものであり、前記上部マグネットと前記下部マグトは磁性体からなるヨーク部材を介して連結されることを特徴とする。
【0020】
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載のスピーカ装置において、振動板は、コイルに電流が供給されることによってコイルに発生するコイル軸方向の力の反力により、コイル軸方向に駆動されることを特徴とする。
【0021】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載のスピーカ装置において、前記コイルは略筒状であることを特徴とする。
【0022】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載のスピーカ装置において、前記駆動マグネットはリング状であり、前記コイルが挿通されて配されることを特徴とする。
【0023】
また、請求項5記載の発明は、請求項4に記載のスピーカ装置において、前記駆動マグネットは、内周部と外周部に磁極を有することを特徴とする。
【0024】
また、請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一に記載のスピーカ装置において、前記磁束付与手段は、前記フレームの略中央に立設した磁性材料からなるポールヨーク部を含み、前記コイルは前記ポールヨーク部に対して貫通した状態で固定され前記マグネットと前記ポールヨーク部との間に形成されるギャップ内に位置することを特徴とする。
【0025】
また、請求項7記載の発明は、請求項5に記載のスピーカ装置において、前記ポールヨーク部の上端及び下端に一対の反発マグネットを設けたことを特徴とする。
【0029】
【作用】
本発明によれば、フレームに対して固定されたコイルに電気入力が供給されてコイルに駆動電流が流れることによりコイルにはコイル軸方向の電磁駆動力が発生し、コイルに対してコイル軸方向に略垂直な磁束を付与する磁束付与手段がその反力をコイル軸方向に受けることによって振動板をコイル軸方向に駆動するので、振動板が大振幅で振動してもコイル及びそれに接続されるリード線は振動板に引っ張られることがなく、従って、振動板の振幅に起因してコイルが断線することがない。
【0030】
【発明の実施の形態】
次に、本発明におけるスピーカ装置の好適な各実施形態について図をもとに以下に説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態におけるスピーカ装置の初期状態(スピーカ装置に電気入力が供給されていない状態のこと。以下同じ。)における主要断面構造図である。第1の実施形態におけるスピーカ装置は、磁界中のコイルに流れる駆動電流によって生じる電磁駆動力を用いたムービングマグネット駆動(M−M駆動)方式によるスピーカ装置であり、以下これを説明する。
【0032】
図1に示すように、スピーカ装置は、略円錐形状(コーン形状)を有する振動板1の中央部分の孔にスピーカ装置の中心軸Xを中心としたリング状の磁石(駆動マグネット)2の外周面が嵌合して振動板1に固定される。
【0033】
磁石2は、例えば55〜65MG・Oe程度もしくはそれ以上の高い磁気エネルギ(B・H積)を有するネオジウム系金属化合物やサマリウム系金属化合物などの材料からなるリング状(ここでは中空円筒状)の希土類磁石であり、中心軸Xを中心としたラジアル方向に磁化されて、内周面側(内周部)と外周面側(外周部)が正負一対の磁極となる磁極を有する。
【0034】
磁石2が固定された振動板1は、外周縁側がエッジ4を介してフレーム3に取り付けられると共に、内周縁側がダンパ5を介してフレームに取付けられており、これにより、中心軸X方向に移動可能であるように弾性支持される。また、磁石2はその上面が例えばアルミニウムや樹脂等を用いて形成された比較的質量の小さなリング状の剛体からなる支持枠6の一方端に同軸に固定される。さらに、支持枠6の他方端は、フレーム3に取り付けられたリング状のキャップ7の内周部分に取り付けられたダンパ8の内周側に固定される。
【0035】
以上により、振動板1、磁石2及び支持枠6は一体の可動体を構成し、フレーム3に取り付けられたエッジ4及びダンパ5、8により、中心軸X方向において移動可能に弾性支持される。
【0036】
また、フレーム3は、例えば鉄や銅やアルミニウムやイリジウムやマグネシウムまたはそれらを含む合金等の優れた熱伝導性を有する金属材料からなり、中心軸Xを略中心に底面から中心軸X方向に立設する磁性材料からなる中空円筒状のポールヨーク部3aが略中央に固定されている。ポールヨーク部3aは、熱伝導性を有し、リング状の磁石2よりもやや小さい内径を有する。
【0037】
また、ヒートシンク10は、熱伝導性を有する部材からなる放熱フィン等によって構成される放熱器であり、ポールヨーク部3aに取り付けられてフレーム3に固定されることにより、ポールヨーク部3aを含むフレーム3からの熱を伝えて外部空間に放熱する。
【0038】
また、コイル9は、絶縁被膜を有する電線が同方向に複数回巻かれて形成される略筒状(ここでは中空円筒状)のコイルであり、ポールヨーク部3aの外径にほぼ等しい内径を有し、ポールヨーク部3aに貫通して底面及び内周面がポールヨーク部3aに接する状態で固定されることによりフレーム3に固定される。また、コイル9の高さは、ここでは磁石2の高さに比して充分高いものとする。さらに図1に示すように、コイル9の下部がフレーム3に接触固定される。従って、コイル9はその中心軸(コイル軸)が中心軸X方向と一致するようにフレーム3に固定される。
【0039】
また、コイル9は、上述したように、リング状の磁石2の内径よりもやや小さい外径を有するので、スピーカ装置は、磁石2が振動板1と共にエッジ4及びダンパ5、8によってスピーカ装置の中心軸X方向における所定の静止位置に弾性支持されると共に、コイル9がリング状の磁石2に挿通して配されて、コイル9の外周面と磁石2の内周面とが所定の間隔を有するリング状の空隙(ギャップ)を介して対向する。
【0040】
磁石2とポールヨーク部3aは、このリング状の空隙を有する磁束付与手段としての磁気回路を構成する。その結果、磁石2とポールヨーク部3aは、コイル9に対してコイル軸方向に略垂直な磁束を付与している。
【0041】
また、コイル9の両端はリード線などにより引き出されてスピーカ装置の図示せぬ入力端子に接続される。
【0042】
スピーカ装置は、概略以上のように構成され、入力端子からコイル9に電気入力(オーディオ信号)が供給されてコイル9に駆動電流が流れることによりコイル9にはコイル軸方向の電磁駆動力が発生し、コイル9に対してコイル軸方向に略垂直な磁束を付与する磁石2がその反力をコイル軸方向に受けることによって振動板1をコイル軸方向、換言すれば、ピストン振動方向(つまり、中心軸X方向)に沿って前後に駆動する。その結果、振動板1からオーディオ信号に応じた音響エネルギが放射され、キャップ7に設けられた開口部7aを通してスピーカ装置の前面に放射される。
【0043】
図2は、第1の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図である。同図に示すように、リング状の磁石2はここでは内周面側がN極であり、外周面側がS極とする。この場合に磁石2のN極側から発せられる磁力線は図2に示す矢印の方向に沿って分布するので、磁石2の内周面側(N極側)と空隙を介して対向するコイル9の部分は、N極付近の高い磁束密度(B)を有する磁界中に配され、各電線が磁力線にほぼ直交するように交差する。
【0044】
このような状態で図示せぬ入力端子からコイル9に電気入力が供給されると磁界中のコイル9の各電線中には常に同方向の駆動電流(I)が流れる。
【0045】
ここで図2に示すようにコイル9の各電線中に紙面に垂直且つ表側から裏側にいたる方向に駆動電流が流れた場合、コイル9には図2に示すように紙面上方向に電気入力に応じた力が発生する。
【0046】
ところが、コイル9は、その内周面がポールヨーク部3aに接する状態でポールヨーク部3aに固定されることによりフレーム3に固定されているので、磁石2は、反作用により上記コイル9が発生する力と大きさが同じで逆の方向の力(反力)を受ける。
【0047】
上述したように、磁石2は、振動板1と共にエッジ4及びダンパ5、8によってスピーカ装置の中心軸X方向における所定の静止位置に弾性支持されているので、上記反力を受けることにより振動板1がこの反力の方向に駆動される。
その結果、振動板1は、コイル軸方向に沿って駆動される。
【0048】
また、コイル9の各電線中に紙面に垂直且つ裏側から表側にいたる方向に駆動電流が流れた場合は同様にしてコイル軸方向に沿って上記とは逆の方向に駆動される。この場合に、磁石2は、振動板1と共に反力がエッジ4及びダンパ5、8による弾性力とつりあう位置まで移動して、電気入力に応じた振動板1の振幅を得ることができる。
【0049】
以上により、スピーカ装置は、入力端子からコイル9に供給される電気入力に応じて、磁石2が振動板1と共にコイル軸方向に駆動されるので、振動板1がピストン振動方向に沿って駆動されて振動する。
【0050】
この場合に、入力端子から供給される電気入力が大入力であってもコイル9の高さを充分高く形成しているので、スピーカ装置は、磁石2が振動板1と共に大振幅で振動する場合にも、コイル9には磁石2がコイル軸方向に略垂直な方向に付与する磁束が常に磁石2の静止位置における場合と同様な分布で交差することとなり、エッジ4、ダンパ5、8の振幅のリニアリティが充分確保されれば、大入力に対する振動板1の有効ストロークを確保することができ、振幅のリニアリティ特性が良好となる。
【0051】
また、上述したように、コイル9は振動板1や磁石2などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されているので、磁石2や振動板1がコイル軸に沿って大振幅で振動しても振幅に起因してコイル9やコイル9を引き出すリード線などが断線することがない。
【0052】
また、コイル9は、電気入力が供給されて駆動電流が流れた場合に、駆動電流の大きさに応じたジュール熱を放熱するが、コイル9の内周面がポールヨーク部3aに接する状態で固定されているので、放熱されたジュール熱は優れた熱伝導性を有するポールヨーク部3aによって即座に直接吸熱され、さらにポールヨーク部3aに取り付けられたヒートシンク10及びフレーム3に伝えられてヒートシンク10またはフレーム3から外部空間に放熱される。
【0053】
したがって、コイル9は、供給される電気入力が大入力である場合でもコイル9自体の温度が急激に上昇することがないので直流抵抗値が大きく変化せず、したがって電気入力の大きさに対する駆動電流値は直線的に比例する。その結果、スピーカ装置は、大入力に対するパワーリニアリティ特性が良好となる。
【0054】
また、コイル9は、ポールヨーク部3aに固定されることによりフレーム3に固定され、コイル9の両端に接続されるリード線から電気入力が供給されるので、スピーカ装置が動作中は、コイル9及びリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル9及びリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0055】
また、コイル9は、供給される電気入力が大入力である場合でもコイル9自体にジュール熱が蓄積しないので過熱状態にならない。その結果、スピーカ装置に大入力を供給しても、コイル9またはコイル9に接続されるリード線は熱による断線を生じることがない。
【0056】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。第2の実施形態におけるスピーカ装置は、磁界中の2個のコイルに流れる駆動電流によって生じる電磁駆動力を用いたムービングマグネット駆動(M−M駆動)方式によるスピーカ装置であり、以下これを説明する。なお、図3におけるスピーカ装置の各構成中、先に説明した第1の実施形態におけるスピーカ装置の構成部分と同等の構成部分については同一の符号を付している。
【0057】
図3に示すように、スピーカ装置は、略円錐形状(コーン形状)を有する振動板1の中央部分の孔に中心軸Xを中心としたリング状(ここでは中空円筒状)の磁性体からなる連結ヨーク11の外周面が嵌合して固着されている。また、連結ヨーク11の内周側面の上下の両端部分には駆動マグネットとしての2つの磁石(上部マグネット)14、磁石(下部マグネット)15が連結ヨーク11を介して連結されて、該連結ヨーク11に一体に固着されている。
【0058】
磁石14、15は、磁石2と同様に、例えば55〜65MG・Oe程度もしくはそれ以上の高い磁気エネルギ(B・H積)を有するネオジウム系金属化合物やサマリウム系金属化合物などの材料からなるリング状の希土類磁石であり、中心軸Xを中心としたラジアル方向に磁化されて、内周面側(内周部)と外周面側(外周部)が正負一対の磁極となる磁極を有する。また、磁石14、15は、互いの内周部どうし及び外周部どうしがそれぞれ逆極性となるように磁化されている。
【0059】
連結ヨーク11は、磁石14、15の外周部の両極を磁気的に連結し、ここでは、磁石14の外周部のN極から発せられる磁力線による磁束を磁石15の外周部のS極側に有効に導くための磁性体からなるヨーク部材であり、当該磁束が磁石14、15の外周側へ大きく磁気漏洩するのを防ぐことができる。
【0060】
連結ヨーク11及び磁石14、15が固着された振動板1は、外周縁側がエッジ4を介してフレーム12に取り付けられると共に、内周縁側がダンパ5、13を介してフレーム12に取付けられており、これにより、中心軸X方向に移動可能であるように弾性支持されている。
【0061】
また、フレーム12は、フレーム3と同様に、例えば鉄や銅やアルミニウムやイリジウムやマグネシウムまたはそれらを含む合金等の優れた熱伝導性を有する金属材料からなり、中心軸Xを略中心に底面から中心軸X方向に立設する磁性材料からなる中空円筒状のポールヨーク部12aが略中央に固定されている。ポールヨーク部12aは、熱伝導性を有し、リング状の磁石14、15の内径よりもやや小さい外径を有する。
【0062】
また、ヒートシンク16は、熱伝導性を有する部材からなる放熱フィン等によって構成される放熱器であり、ポールヨーク部12aに取り付けられてフレーム12に固定されることにより、ポールヨーク部12aを含むフレーム12からの熱を伝えて外部空間に放熱する。
【0063】
また、コイル(上部コイル)17、コイル(下部コイル)18は、絶縁被膜を有する電線が各コイルにおいてそれぞれ同方向に複数回巻かれて形成される略筒状(ここでは中空円筒状)のコイルであり、ポールヨーク部12aの外径にほぼ等しい内径を有し、ポールヨーク部12aに貫通して内周面がポールヨーク部12aに接する状態で上記振動板1の所定の静止位置において支持される磁石14、15に対向する高さ位置に互いにそれぞれ逆方向に巻かれた状態で固定されることによりフレーム3に固定される。従って、コイル17、18はそれぞれの中心軸(コイル軸)が中心軸X方向と一致するようにフレーム12に固定される。
【0064】
また、コイル17、18は、上述したように、リング状の磁石14、15の内径よりもやや小さい外径を有するので、スピーカ装置は、連結ヨーク11に連結された磁石14、15が振動板1と共にエッジ4及びダンパ5、13によってスピーカ装置の中心軸X方向における所定の静止位置に弾性支持されると共に、コイル17、18がそれぞれリング状の磁石14、15に挿通して配されて、コイル17、18の外周面と磁石14、15の内周面とが所定の間隔を有するリング状の空隙を介してそれぞれ対向する。
【0065】
その結果、磁石14、15とポールヨーク部12aと連結ヨーク11は、この2つのリング状の空隙を有する磁束付与手段としての磁気回路を構成し、コイル17、18に対してそれぞれコイル軸方向に略垂直で、且つ、互いに逆方向の磁束を付与している。
【0066】
また、この場合にポールヨーク部12aと連結ヨーク11は、それぞれ磁気回路のヨーク部材を構成する。なお、磁性材料からなるポールヨーク部12aは、ここでは、磁石15の内周部のN極から発せられる磁力線による磁束を磁石14の外周部のS極側に有効に導くので、磁石15から発せられる磁力線による磁束がポールヨーク部12aの中空内部側へ大きく磁気漏洩するのを防ぐことができる。
【0067】
また、コイル17、18の各両端はリード線などにより引き出されてスピーカ装置の図示せぬ入力端子に接続される。
【0068】
スピーカ装置は、概略以上のように構成され、入力端子からコイル17、18に電気入力(オーディオ信号)を同時に供給することにより、コイル17、18には互いに逆方向の駆動電流が流れ、それぞれ交差する互いに逆方向の磁束によってコイル軸方向に同方向となる電磁駆動力が発生し、コイル17、18に対してコイル軸方向に略垂直な磁束を付与する磁石14、15がその反力をそれぞれコイル軸方向に同方向に受けることによって振動板1をコイル軸方向、換言すれば、ピストン振動方向(つまり、中心軸X方向)に沿って前後に駆動する。その結果、振動板1からオーディオ信号に応じた音響エネルギが放射され、スピーカ装置の前面に放射される。
【0069】
図4は、第2の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図であり、図4中、(a)はスピーカ装置の初期状態における磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示し、(b)は正の電気入力がコイル17、18に供給された場合の磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示し、(c)は負の電気入力が駆動コイルに供給された場合の磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示している。
【0070】
同図に示すように、ここでは、磁石14は内周面側をS極とし外周面側をN極とし、磁石15は内周面側をN極とし外周面側をS極とする。従って、磁石14、15の各N極側から発せられる磁力線は、そのほとんどが磁石14、15と連結ヨーク11とポールヨーク部12aによって形成される磁気回路内を図4(a)に示す矢印の方向に沿って分布するので、磁石14、15の各内周面側と対向するコイル17、18は、上記磁気回路の各空隙内に配される電線の部分がそれぞれ磁力線にほぼ直交するように交差する。
【0071】
また、図4では、コイル17は正の電気入力が供給された場合に紙面の表側から裏側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れ、負の電気入力が供給された場合に紙面の裏側から表側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れるようにその巻き方向が設定されていることとし、コイル18は、正の電気入力が供給された場合に紙面の裏側から表側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れ、負の電気入力が供給された場合に紙面の表側から裏側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れるようにその巻き方向が設定されていることとする。
【0072】
振動板1に固定された連結ヨーク11及び磁石14、15は、スピーカ装置の初期状態において、フレーム12に取り付けられたエッジ4によって振動板1を介して弾性支持されると共に、フレーム12に取り付けられたダンパ5及びダンパ13によって内周縁部が中心軸X方向において弾性支持されることにより、図4(a)に示すように、磁石14の内周面の中央部分がコイル17の外周面の略中央に対向し磁石15の内周面の中央部分がコイル18の外周面の略中央に対向する所定の静止位置において静止保持される。
【0073】
次に、スピーカ装置の図示せぬ入力端子から正の電気入力をコイル17、18に同時に供給した場合は、コイル17には、紙面の表側から裏側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れるので空隙内で交差する磁力線によって紙面下方向に電気入力に応じた力が発生する。また、コイル18には、紙面の表側から裏側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れるので空隙内で交差する磁力線によって同じく紙面下方向に電気入力に応じた力が発生する。
【0074】
ところが、コイル17、18は、その内周面がポールヨーク部12aに接する状態でポールヨーク部12aに固定されることによりフレーム12に固定されているので、磁石14、15は、それぞれコイル17、18に発生する力の反作用を受けるが、磁石14、15が連結ヨーク11に一体に固着されているので、磁石14、15は連結ヨーク11と共に上記コイル17、18が発生した力を合成した力と大きさが同じで逆の方向の力(合成反力)を受ける。その結果、振動板1は、コイル軸方向に沿って紙面上方に駆動される。
【0075】
図4(b)はこの状態を示したものであり、振動板1は、この合成反力がエッジ4及びダンパ5、13による弾性力とつりあう位置まで移動して、正の電気入力に応じた振動板1の振幅を得ることができる。
【0076】
次に、スピーカ装置の図示せぬ入力端子から負の電気入力をコイル17、18に同時に供給した場合は、コイル17には、紙面の裏側から表側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れるので空隙内で交差する磁力線によって紙面上方向に電気入力に応じた力が発生する。また、コイル18には、紙面の裏側から表側に向かって垂直な方向に駆動電流が流れるので空隙内で交差する磁力線によって同じく紙面上方向に電気入力に応じた力が発生する。
【0077】
ところが、コイル17、18は、上述したように、ポールヨーク部12aに固定されることによりフレーム12に固定されているので、磁石14、15は、それぞれコイル17、18に発生する力の反作用を受けるが、磁石14、15が連結ヨーク11に一体に固着されているので、磁石14、15は連結ヨーク11と共に上記コイル17、18が発生した力を合成した力と大きさが同じで逆の方向の力(合成反力)を受ける。その結果、振動板1は、コイル軸方向に沿って紙面下方に駆動される。
【0078】
図4(c)はこの状態を示したものであり、振動板1は、この合成反力がエッジ4及びダンパ5、13による弾性力とつりあう位置まで移動して、負の電気入力に応じた振動板1の振幅を得ることができる。
【0079】
以上により、スピーカ装置は、入力端子からコイル17、18に供給される電気入力(オーディオ信号)に応じて、連結ヨーク11に固着された磁石14、15が振動板1と共にコイル軸方向に駆動されるので、振動板1がピストン振動方向に沿って駆動されて振動する。
【0080】
この場合に、コイル17、18は、振動板1や磁石14、15や、連結ヨーク11などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されてポールヨーク部3aに固定されることによりフレーム3に固定されているので、コイル17、18の各両端に接続されるリード線から電気入力が供給されてスピーカ装置が動作する場合は、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0081】
また、コイル17、18は、電気入力が供給されて駆動電流が流れた場合に、駆動電流の大きさに応じたジュール熱を放熱するが、各コイルの内周面がポールヨーク部12aに接する状態で固定されているので、放熱されたジュール熱は優れた熱伝導性を有するポールヨーク部12aによって即座に直接吸熱され、さらにポールヨーク部12aに取り付けられたヒートシンク16及びフレーム12に伝えられてヒートシンク16またはフレーム12から外部空間に放熱される。
【0082】
したがって、コイル17、18は、供給される電気入力が大入力である場合でも当該各コイル自体の温度が急激に上昇することがないので直流抵抗値が大きく変化せず、したがって入力の大きさに対する駆動電流値は直線的に比例する。その結果、スピーカ装置は、大入力に対するパワーリニアリティ特性が良好となる。
【0083】
また、コイル17、18は、供給される電気入力が大入力である場合でも各コイル17、18自体にジュール熱が蓄積しないので過熱状態にならない。その結果、スピーカ装置に大入力を供給しても、コイル17、18またはコイル17、18に接続されるリード線は熱による断線を生じることがない。
【0084】
以上のように、第2の実施形態におけるスピーカは、振動板1を含む振動系に設けられた2つの磁石14、15を用いて磁気回路を形成したスピーカ装置の例によって説明したが、これに限らず、以下の第3の実施形態に示すように4つの磁石によって磁束付与手段としての磁気回路を構成しても良い。
【0085】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。第3の実施形態におけるスピーカ装置は、第2の実施形態におけるスピーカ装置の各構成に加えてポールヨーク部12aとコイル17、18の間にそれぞれ磁石19、20を設けてスピーカ装置を構成した例である。なお、図5に示すスピーカ装置の構成部分のうち、先に説明した第2の実施形態におけるスピーカ装置の構成部分と同等の部分については同一の符号を付してあり、ここでは重複を避けるためその詳細説明は省略する。
【0086】
磁石19、20は、磁石14、15と同様に、例えば55〜65MG・Oe程度もしくはそれ以上の高い磁気エネルギ(B・H積)を有するネオジウム系金属化合物やサマリウム系金属化合物などの材料からなるリング状の希土類磁石であり、中心軸Xを中心としたラジアル方向に磁化されて、内周面側(内周部)と外周面側(外周部)が正負一対の磁極となる磁極を有する。
【0087】
また、磁石19は、磁石14と同方向に磁化されて内周面側がフレーム12に固定されたポールヨーク部12aの外周面側に嵌合し、磁石19の外周面側がコイル17の内周面側に嵌合するようにコイル17及び磁石14と同軸に配される。また、磁石19及びコイル17は上記振動板1の所定の静止位置における磁石14に対向する高さ位置においてポールヨーク部12aに対し固定されることによりフレーム12に固定される。
【0088】
また、磁石20は、磁石15と同方向に磁化されて内周面側がフレーム12に固定されたポールヨーク部12aの外周面側に嵌合し、磁石20の外周面側がコイル18の内周面側に嵌合するようにコイル18及び磁石15と同軸に配される。また、磁石20及びコイル18は上記振動板1の所定の静止位置における磁石15に対向する高さ位置においてポールヨーク部12aに対し固定されることによりフレーム12に固定される。
【0089】
その結果、磁石14、15、19、20とポールヨーク部12aと連結ヨーク11は、2つのリング状の空隙を有する磁束付与手段としての磁気回路を構成し、コイル17、18に対してそれぞれコイル軸方向に略垂直で、且つ、互いに逆方向の磁束を付与している。なお、本実施形態におけるスピーカ装置の上記磁気回路の各空隙は、先の第2の実施形態における磁気回路の各空隙よりも磁石19、20が追加された分大きな磁束密度(B)を得ることができるので、コイル17、18を電磁駆動するための有効磁束を増すことができ、結果として、スピーカ装置の感度を高くすることができる。
【0090】
また、コイル17、18は、振動板1や磁石14、15や、連結ヨーク11などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されてポールヨーク部12aに固定されることによりフレーム12に固定されているので、コイル17、18の各両端に接続されるリード線から電気入力が供給されてスピーカ装置が動作する場合は、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0091】
また、上述した各実施形態では、振動板1を含む振動系に設けられた2つの磁石14、15の各外周部を連結ヨーク11を用いて磁気的に連結することにより、磁石14の外周部のN極から発せられる磁力線による磁束を磁石15の外周部のS極側に有効に導くと共に、当該磁束が磁石14、15の外周側へ大きく磁気漏洩するのを防ぐことにより、コイル17、18を電磁駆動するための磁気回路の空隙内の磁束密度を高めて有効磁束を増すように構成したが、以下の第4の実施形態に示すように、アウターヨーク21を用いて磁束付与手段としての磁気回路を構成したスピーカ装置であっても良い。
【0092】
(第4の実施形態)
図6は、本発明の第4の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。なお、図6に示すスピーカ装置の構成部分のうち、先に説明した第3の実施形態におけるスピーカ装置の構成部分と同等の部分については同一の符号を付してあり、ここでは重複を避けるためその詳細説明は省略する。
【0093】
図6において、スピーカ装置は、磁石14、15が先の第2の実施形態と同様にそれぞれポールヨーク部12aに固定されたコイル17、18と対向するように配されていて、磁石14と磁石15が支持枠22によって上下に連結されて、さらに磁石14の上面が支持枠23の下端に固定されて、支持枠23の上端が振動板1の中央部分の孔に嵌合されて固定されている。支持枠22、23は、いずれも例えばアルミニウムや樹脂等を用いて形成された比較的質量の小さなリング状の剛体からなる。
【0094】
従って、振動板1、支持枠22、23、磁石14、15は、フレーム12に取り付けられたエッジ4及びダンパ5によって磁石14、15がコイル17、18と対向配置されるスピーカ装置の中心軸X方向における所定の静止位置において一体に弾性支持されるので、フレーム12に対して中心軸X方向に移動可能に弾性支持される。
【0095】
また、アウターヨーク21は、中空円筒状の磁性体からなり、磁石14、15よりもやや大きい内径を有し、ポールヨーク部12aと同軸となるようにフレーム12に固定されている。これにより、ポールヨーク部12a及びアウターヨーク21は、リング状の空隙を形成する。また、アウターヨーク21の高さは、上記所定の静止位置に配される上部マグネット(磁石14)の上面とおなじ高さかもしくは上面よりもやや高く形成されている。当該リング状の空隙内には、上記弾性支持された磁石14、15がそれぞれ配される。
【0096】
その結果、コイル17、18がそれぞれリング状の磁石14、15に挿通して配されて、コイル17、18の外周面とアウターヨーク21の内周面とがそれぞれ所定の間隔を有するリング状の空隙を有してそれぞれ対向する。また、磁石14、15の外周面とアウターヨーク21の内周面とが所定の間隔を有してそれぞれ対向する。
【0097】
磁石14、15とポールヨーク部12aとアウターヨーク21は、上記2つのリング状の空隙を有する磁束付与手段としての磁気回路を構成し、コイル17、18に対してそれぞれコイル軸方向に略垂直で、且つ、互いに逆方向の磁束を付与している。また、この場合にポールヨーク部12aとアウターヨーク21は、それぞれ磁気回路のヨーク部材を構成する。
【0098】
図7は、上記磁気回路の磁束の流れを示す図である。アウターヨーク21は、磁石14の外周部のN極から発せられる磁力線による磁束を磁石15の外周部のS極側に有効に導くので、当該磁束がアウターヨーク21の外周側へ大きく磁気漏洩するのを防いでいる。また、ポールヨーク部12aは、磁石15の内周部のN極から発せられる磁力線による磁束を磁石14の外周部のS極側に有効に導くので、磁石15から発せられる磁力線による磁束がポールヨーク部12aの中空内部側へ大きく磁気漏洩するのを防いでいる。
【0099】
これにより、磁石14、15が配される2つのリング状の空隙の磁束密度を高めることができ、その結果、コイル17、18を電磁駆動するための有効磁束が増す。
【0100】
このように、本実施形態では、フレーム12に固定されるアウターヨーク21によって振動系のコイル17、18を電磁駆動するための有効磁束を高めることができるので、振動系の一部を構成する支持枠22、23をそれぞれ剛性を維持する範囲内で軽量に形成することができる。
【0101】
したがって、スピーカ装置の振動系は質量が小さいほど中音域に比して高音域の感度が高くなり、高音域の再生限界周波数を拡大することができるので、このような音響特性をスピーカ装置に求める場合には、本実施形態によるスピーカ装置が好適といえる。
【0102】
また、コイル17、18は、振動板1や磁石14、15や、支持枠22、23などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されてポールヨーク部12aに固定されることによりフレーム12に固定されているので、コイル17、18の各両端に接続されるリード線から電気入力が供給されてスピーカ装置が動作する場合は、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0103】
なお、本実施形態は上述したスピーカ装置に限らず、アウターヨーク21と先の第2の実施形態において述べた連結ヨーク11を併用して磁束付与手段としての磁気回路を構成したスピーカ装置であっても良い。つまり、支持枠22の代りに連結ヨーク11を用いて磁石14と磁石15とを連結し、連結ヨーク11の外周側に所定間隔に配されるアウターヨーク21によって磁気回路を形成するスピーカ装置でも良い。
【0104】
上述のように、本発明によるスピーカ装置では、電気入力が供給されるコイルがフレームに固定されたポールヨーク部に固定されているので、電気入力がコイルに大入力で供給される場合でもポールヨーク部やコイルの高さ等を適宜振幅に合わせて設定すれば上述したいずれの実施形態によっても大振幅が可能であるが、過大入力が供給された場合には振動系を構成する磁石がポールヨーク部の下部付近にぶつかる、いわゆる底当たり現象を起こしたり、ポールヨーク部の高さに限りがある場合には磁石がポールヨークから飛び出してしまったり、最悪の場合には、磁石がポールヨーク部の上面に乗り上げるおそれがある。このような状態を避けるために工夫したスピーカ装置を以下の第5の実施形態により説明する。
【0105】
(第5の実施形態)
第5の実施形態におけるスピーカ装置は、第2の実施形態におけるスピーカ装置の各構成に加えてポールヨーク部12aに磁石14、15に対する反発磁石を一対で設けてスピーカ装置を構成した例である。第5の実施形態におけるスピーカ装置の構造及びその駆動原理を図8により以下に説明する。なお、図8に示すスピーカ装置の構成部分のうち、先に説明した第2の実施形態におけるスピーカ装置の構成部分と同等の部分については同一の符号を付してあり、ここでは重複を避けるためその詳細説明は省略する。
【0106】
図8は、本発明の第5の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図であり、図8中、(a)はスピーカ装置の初期状態における磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示し、(b)は正の電気入力がコイル17、18に供給された場合の磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示し、(c)は負の電気入力が駆動コイルに供給された場合の磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示している。
【0107】
先ず、図8(a)によって本実施形態におけるスピーカ装置の構造を説明する。
第5の実施形態におけるスピーカ装置は、フレーム12に固定されたポールヨーク部12aの上端の外周面及び、フレーム12に固定される下端の外周面にリング状の反発磁石(上部反発マグネット)24、反発磁石(下部反発マグネット)25が一対で設けられている。
【0108】
反発磁石24、25は、ポールヨーク部12aの外周面にそれぞれ嵌合し、例えば55〜65MG・Oe程度もしくはそれ以上の高い磁気エネルギ(B・H積)を有するネオジウム系金属化合物やサマリウム系金属化合物などの材料からなる中心軸Xを中心としたリング状(ここでは中空円筒状)の希土類磁石であり、外径がコイル17、18の外径と等しいかまたはそれ以下の寸法でそれぞれ形成されている。
【0109】
反発磁石24、25は、中心軸X方向に磁化されて、上面側と下面側が正負一対の磁極となる磁極を有し、互いの上面側どうし及び下面側どうしがそれぞれ同極性となるように磁化されている。
【0110】
また、図8に示すように、磁石24の下面側の磁極は、磁石14の内周面側の磁極と同極(ここではS極)であり、反発磁石25の上面側の磁極は、磁石15の内周面側の磁極と同極(ここではN極)となるように一対で設けられる。
【0111】
なお、本実施形態のスピーカ装置のその他の構成部分は、先の第2の実施形態におけるスピーカ装置の構成と同様である。
【0112】
次に、スピーカ装置の図示せぬ入力端子から正の電気入力をコイル17、18に同時に供給した場合は、先の図4(b)と同様に、磁石14、15が連結ヨーク11と共に上記コイル17、18が発生した力を合成した力と大きさが同じで逆の方向の力(合成反力)を受け、振動板1がコイル軸方向に沿って紙面上方に駆動される。
【0113】
この場合に、正の電気入力が過大であれば、磁石14、15はそれぞれコイル17、18から紙面上方に大きく飛び出してしまい、磁石14の上面側が反発磁石24の下面側に移動接近する。
【0114】
ところが、反発磁石24の下面側と磁石14の上面側は同極の磁極を有するので、互いに反発する力が生じる。この反発力は、磁石14が反発磁石24に接近するほど強く生じるので、移動中の磁石14の移動が抑えられ、反発力が上記合成反力とつりあう位置において磁石14が停止する。
【0115】
図8(b)はこの状態を示したものであり、その結果、反発磁石24は、磁石14がポールヨーク部12aの上方に飛び出すのを阻止することができる。
【0116】
次に、スピーカ装置の図示せぬ入力端子から負の電気入力をコイル17、18に同時に供給した場合は、先の図4(c)と同様に、磁石14、15が連結ヨーク11と共に上記コイル17、18が発生した力を合成した力と大きさが同じで逆の方向の力(合成反力)を受け、振動板1がコイル軸方向に沿って紙面下方に駆動される。
【0117】
この場合に、負の電気入力が過大であれば、磁石14、15はそれぞれコイル17、18から紙面下方に大きく移動して、磁石15の下面側が反発磁石25の上面側に移動接近する。
【0118】
ところが、反発磁石25の上面側と磁石15の下面側は同極の磁極を有するので、互いに反発する力が生じる。この反発力は、磁石15が反発磁石25に接近するほど強く生じるので、移動中の磁石15の移動が抑えられ、反発力が上記合成反力とつりあう位置において磁石15が停止する。
【0119】
図8(c)はこの状態を示したものであり、その結果、反発磁石25は、磁石15がポールヨーク部12aの下部付近に底当たりするのを阻止することができる。
【0120】
また、コイル17、18は、振動板1や磁石14、15や、連結ヨーク11などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されてポールヨーク部12aに固定されることによりフレーム12に固定されているので、コイル17、18の各両端に接続されるリード線から電気入力が供給されてスピーカ装置が動作する場合は、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0121】
また、本発明によるスピーカ装置では、上述した各実施形態のように大入力を供給することにより振動板に固着された磁石が振動板と共にコイル軸方向に大振幅で移動することができるが、一般にエッジやダンパなどで弾性支持された振動系を有するスピーカ装置では、振動系はその振幅が大きくなるほど横ぶれ(いわゆるローリング)しやすくなり、場合によっては振動系が磁気回路などにぶつかるおそれがある。
【0122】
このような状態を避けるために工夫したスピーカ装置を以下の第6の実施形態により説明する。
【0123】
(第6の実施形態)
第6の実施形態におけるスピーカ装置は、第2の実施形態におけるスピーカ装置の各構成に加えてポールヨーク部12aに磁石14、15に対する反発磁石を一対で設けることによってスピーカ装置を構成した例である。第6の実施形態におけるスピーカ装置の構造及びその駆動原理を図9により以下に説明する。なお、図9に示すスピーカ装置の構成部分のうち、先に説明した第2の実施形態におけるスピーカ装置の構成部分と同等の部分については同一の符号を付してあり、ここでは重複を避けるためその詳細説明は省略する。
【0124】
図9は、本発明の第6の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図であり、図9中、(a)はスピーカ装置の初期状態における磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示し、(b)は正の電気入力がコイル17、18に供給された場合の磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示し、(c)は負の電気入力が駆動コイルに供給された場合の磁石14、15及び連結ヨーク11の配置状態を示している。
【0125】
先ず、図9(a)によって本実施形態におけるスピーカ装置の構造を説明する。
第6の実施形態におけるスピーカ装置は、フレーム12に固定されたポールヨーク部12aの外側面であってコイル17の上方部分に中空円筒状の非磁性体からなるスペーサ26が嵌合し、さらにスペーサ26の外側面に円筒形状の反発磁石27が中心軸Xと同軸となるように嵌合している。
【0126】
一方、ポールヨーク部12aの外側面であってコイル17の下方部分には、中空円筒状の非磁性体からなるスペーサ28が嵌合し、さらにスペーサ28の外側面に円筒形状の反発磁石29が中心軸Xと同軸となるように嵌合している。
【0127】
反発磁石27、29は、例えば55〜65MG・Oe程度もしくはそれ以上の高い磁気エネルギ(B・H積)を有するネオジウム系金属化合物やサマリウム系金属化合物などの材料からなるリング状(ここでは中空円筒状)の希土類磁石であり、中心軸Xを中心としたラジアル方向に磁化されて、内周面側(内周部)と外周面側(外周部)が正負一対の磁極となる磁極を有し、且つ、互いの外周面側どうしが同極性となるように磁化されている。
【0128】
また、図9に示すように、反発磁石27の外周面側の磁極は、磁石14の内周面側の磁極と同極(ここではS極)であり、反発磁石29の外周面側の磁極は、磁石15の内周面側の磁極と同極(ここではN極)となるように一対で配される。
【0129】
次に、スピーカ装置の図示せぬ入力端子から正の電気入力をコイル17、18に同時に供給した場合は、先の図4(b)と同様に、磁石14、15が連結ヨーク11と共に上記コイル17、18が発生した力を合成した力と大きさが同じで逆の方向の力(合成反力)を受け、振動板1がコイル軸方向に沿って紙面上方に駆動される。
【0130】
この場合に、正の電気入力が過大であれば、磁石14、15はそれぞれコイル17、18から紙面上方に大きく移動するので、エッジ4、ダンパ5、13によって支持されている磁石14、15、連結ヨーク11、振動板1は横ぶれを起こそうとして、磁石14が水平方向(コイル軸方向に垂直な方向)の一方向に移動してその内周面側が反発磁石27の外周面に接近しようとする。
【0131】
ところが、反発磁石27の外周面側と磁石14の内周面側は同極の磁極を有するので、互いに反発する力が生じる。この反発力は、磁石14が反発磁石27に接近するほど強く生じるので、磁石14が紙面上方に移動中に磁石14が反発磁石27にぶつかることがない。
【0132】
図9(b)はこの状態を示したものであり、その結果、正の電気入力がスピーカ装置のコイル17、18に供給された場合に反発磁石27は、磁石14が磁石15、連結ヨーク11、振動板1と一体でコイル軸方向に沿って振動板1の前方向に移動する場合の横ぶれを阻止することができる。
【0133】
次に、スピーカ装置の図示せぬ入力端子から負の電気入力をコイル17、18に同時に供給した場合は、先の図4(c)と同様に、磁石14、15が連結ヨーク11と共に上記コイル17、18が発生した力を合成した力と大きさが同じで逆の方向の力(合成反力)を受け、振動板1がコイル軸方向に沿って紙面下方に駆動される。
【0134】
この場合に、負の電気入力が過大であれば、磁石14、15はそれぞれコイル17、18から紙面下方に大きく移動するので、エッジ4、ダンパ5、13によって支持されている磁石14、15、連結ヨーク11、振動板1は横ぶれを起こそうとして、磁石15が水平方向(コイル軸方向に垂直な方向)の一方向に移動してその内周面側が反発磁石29の外周面に接近しようとする。
【0135】
ところが、反発磁石29の外周面側と磁石15の内周面側は同極の磁極を有するので、互いに反発する力が生じる。この反発力は、磁石15が反発磁石29に接近するほど強く生じるので、磁石15が紙面下方に移動中に磁石15が反発磁石29にぶつかることがない。
【0136】
図9(c)はこの状態を示したものであり、その結果、負の電気入力がスピーカ装置のコイル17、18に供給された場合に反発磁石29は、磁石15が磁石14、連結ヨーク11、振動板1と一体でコイル軸方向に沿って振動板1の後方向に移動する場合の横ぶれを阻止することができる。
【0137】
また、コイル17、18は、振動板1や磁石14、15や、連結ヨーク11などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されてポールヨーク部12aに固定されることによりフレーム12に固定されているので、コイル17、18の各両端に接続されるリード線から電気入力が供給されてスピーカ装置が動作する場合は、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0138】
また、上述した各実施形態におけるスピーカ装置は、いずれも磁石とヨーク部材によって磁束付与手段としてのいわゆる開磁路型の磁気回路を構成して磁気回路のリング状の空隙内に磁束を生成し、この磁束と直交するようにコイルを空隙内に配することにより振動板と一体に設けられた磁石をコイルの電磁駆動力の反力で駆動させるM−M駆動方式のスピーカ装置で構成したが、本提Dは、これらに限らず、以下の第7の実施形態に示すように、例えば、磁束の漏洩の少ない閉磁路型の磁気回路によってスピーカ装置を構成しても良い。
【0139】
(第7の実施形態)
第7の実施形態におけるスピーカ装置は、第2の実施形態におけるスピーカ装置のポールヨーク部12aの代りに支持枠30及びヨーク31を用いてコイル17、18を支持すると共にフレーム12に固定し、さらに、断面が逆U字形状のヨーク32を第2の実施形態における連結ヨーク11に固定することによって形成される閉磁路型の磁気回路を有するスピーカ装置であり、以下これを図10によって説明する。
【0140】
図10は、本発明の第7の実施形態におけるスピーカ装置の磁気回路部分の主要断面構造図である。なお、図10に示すスピーカ装置の構成部分のうち、先に説明した第2の実施形態におけるスピーカ装置の構成部分と同等の部分については同一の符号を付してあり、ここでは重複を避けるためその詳細説明は省略する。
【0141】
図10において、支持枠30は、熱伝導性を有する非磁性体からなる中空円筒状の支持体であり、中心軸Xと同軸に配されてその外径がコイル18の外径と同じかもしくはコイル18の外径よりも若干小さい寸法で形成されている。
【0142】
また、ヨーク31は、熱伝導性を有する磁性体からなる中空円筒状のヨーク部材であり、コイル17、18の内周面と嵌合した状態で支持枠30に連結されて支持されることにより、コイル17、18を中心軸Xと同軸に、且つ、フレーム12に対し第2の実施形態の場合と同様の高さ位置に固定する。
【0143】
また、先の第2の実施形態と同様に、連結ヨーク11及び磁石14、15が固着された振動板1は、フレーム12に取り付けられたエッジ4によって外周縁部が中心軸X方向において弾性支持されると共にフレーム12に取り付けられたダンパ5及びダンパ13によって内周縁部が中心軸X方向において弾性支持されてスピーカ装置の中心軸X方向における所定の静止位置に弾性支持され、磁石14、15がそれぞれコイル17、18と対向する所定の高さ位置に配される。
【0144】
したがって、コイル17、18がそれぞれリング状の磁石14、15に挿通して配されて、コイル17、18の外周面と磁石14、15の内周面とが所定の間隔を有するリング状の空隙を介してそれぞれ対向する。
【0145】
また、連結ヨーク11の上端にはヨーク32が固着されている。ヨーク32は、図10に示すように、中心軸Xを同軸とする2つの中空円筒体がそれぞれの上面側において互いに連結されて形成される磁性体からなるヨーク部材であり、断面が逆U字形状を有し、外側の中空円筒体が連結ヨークに固定されると共に内側の中空円筒体がヨーク31の内周面と僅かな隙間を隔てて配されている。
【0146】
以上により、磁石14、15とヨーク31と連結ヨーク11は、この2つのリング状の空隙を有する磁束付与手段としての閉磁路型の磁気回路を構成し、コイル17、18に対してそれぞれコイル軸方向に略垂直で、且つ、互いに逆方向の磁束を付与している。また、この場合にヨーク31、32と連結ヨーク11は、それぞれ磁気回路のヨーク部材を構成する。
【0147】
なお、磁性材料からなるヨーク31は、ここでは、磁石15の内周部のN極から発せられる磁力線による磁束を磁石14の外周部のS極側に有効に導くので、磁石15から発せられる磁力線による磁束がヨーク31の中空内部側へ大きく磁気漏洩するのを防ぐことができる。
【0148】
また、ヨーク32は、上記磁気回路によって形成される磁束のうち、主として、磁石14のN極から発せられる磁力線が磁石14の上方の空間へ漏洩して磁石14のS極へ導入される分の漏洩磁束(図10中、点線で示す部分)を逆U字形状の断面に沿ってヨーク31に有効に導くことにより、磁石14の上方空間への磁気漏洩を防いでいる。ヨーク31に導かれた磁束は、磁石14と対向するリング状の空隙内をコイル17とほぼ直交に交差するように通って再び磁石14の内周面側のS極に導かれる。
【0149】
その結果、磁石14と対向するリング状の空隙内では、コイル17とほぼ直交に交差する磁力線が増し、コイル17を電磁駆動するための有効磁束を増すことができ、結果として、スピーカ装置の感度を高くすることができる。
【0150】
また、コイル17、18は、振動板1や磁石14、15や、連結ヨーク11や、ヨーク32などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されてヨーク31と共に支持枠30に固定されることによりフレーム12に固定されているので、コイル17、18の各両端に接続されるリード線から電気入力が供給されてスピーカ装置が動作する場合は、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0151】
また、上述した各実施形態におけるスピーカ装置は、振動板と一体に設けられた磁石をコイルの電磁駆動力の反力で駆動させるM−M駆動方式のスピーカ装置で構成したが、本発明は、これらに限らず、例えば、磁石をコイルと共にフレーム側に固定し、磁性体からなるヨーク部材を振動板と一体に設けることにより、これら磁石とヨーク部材を含む磁束付与手段としての磁気回路を構成して、当該磁気回路のリング状の空隙内に磁束を生成し、上記コイルをこの磁束と直交するように空隙内に配することにより、ヨーク部材をコイルの電磁駆動力の反力で駆動させる電磁駆動方式のスピーカ装置で構成しても良い。この一例を以下の第8の実施形態に示す。
【0152】
(第8の実施形態)
第8の実施形態におけるスピーカ装置は、第2の実施形態におけるスピーカ装置のポールヨーク部12aの代りに支持枠33及び磁石34、ヨーク35、36を用いてコイル17、18を支持すると共にフレーム12に固定し、さらに、第2の実施形態における連結ヨーク11及び磁石14、15の代りにヨーク37を振動板1に固定することによって磁束手段としての磁気回路を構成してコイル17、18を磁気回路の空隙内に配し、コイル17、18に対してそれぞれコイル軸方向に略垂直で、且つ、互いに逆方向の磁束を付与する構成を有するスピーカ装置であり、以下これを図11により説明する。
【0153】
図11は、本発明の第8の実施形態におけるスピーカ装置の初期状態における磁気回路部分の主要断面構造図である。なお、図11に示すスピーカ装置の構成部分のうち、先に説明した第2の実施形態におけるスピーカ装置の構成部分と同等の部分については同一の符号を付してあり、ここでは重複を避けるためその詳細説明は省略する。
【0154】
図11において、支持枠33は、熱伝導性を有する非磁性体からなる中空円筒状の支持体であり、中心軸Xと同軸に配されてその外径がコイル17、18のいずれか大きい方の外径と同じかもしくは若干小さい寸法で形成されている。
【0155】
支持枠33上にはヨーク36、磁石34、ヨーク35が順次載置されて互いに固定されている。
【0156】
ヨーク35、36は、熱伝導性を有する磁性体からなるヨーク部材であり、中心軸Xを中心とするリング状に形成され、各外周側面がそれぞれコイル17、18の内周面に嵌合して固着されている。
【0157】
一方、磁石34は、例えば55〜65MG・Oe程度もしくはそれ以上の高い磁気エネルギ(B・H積)を有するネオジウム系金属化合物やサマリウム系金属化合物などの材料からなる中心軸Xを中心としたリング状(ここでは中空円筒状)の希土類磁石であり、中心軸X方向に磁化されて、上面側と下面側が正負一対の磁極を有してなる。
【0158】
支持枠33は、その上面がヨーク36及びコイル18と接する状態でヨーク36及びコイル18を共に固定支持することにより、磁石34、ヨーク35と共にコイル17を固定支持し、コイル17、18を中心軸Xと同軸に、且つ、フレーム12に対し第2の実施形態の場合と同様の高さ位置に固定する。
【0159】
一方、振動板1の中央部分の孔に中心軸Xを中心とした中空円筒状の磁性体からなるヨーク37の外周面が嵌合して振動板1に固定されている。
【0160】
ヨーク37及び振動板1は、フレーム12に取り付けられたエッジ4によって外周縁部が中心軸X方向において一体に弾性支持されると共に、フレーム12に取り付けられたダンパ5によって振動板1及びヨーク37の内周縁部が中心軸X方向において弾性支持され、ダンパ13によってヨーク37の内周縁部が中心軸X方向において弾性支持される。
【0161】
これにより、ヨーク37の内周側面は、図11に示すように、ヨーク35の外周側面及びヨーク36の外周側面と対向することにより、所定の間隔を有する2つのリング状の空隙を形成する。また、この場合に、ヨーク37は、コイル17、18と対向する所定の高さ位置に配される。
【0162】
したがって、コイル17、18は、それぞれリング状の磁石34に挿通して配されて、上記各リング状の空隙を介してそれぞれヨーク37と対向する。
【0163】
以上により、磁石34及びヨーク35、36、37は、この2つのリング状の空隙を有する磁束付与手段としての閉磁路型の磁気回路を構成し、これら各空隙内に磁石34が発する磁力線による磁束を生成し、コイル17、18に対しコイル軸方向に略垂直で、且つ互いに逆方向の磁束を付与している。また、この場合に、ヨーク35、36、37は、それぞれ磁気回路のヨーク部材を構成する。
【0164】
なお、本実施形態のスピーカ装置のその他の構成部分は、先の第2の実施形態におけるスピーカ装置の構成と同様である。
【0165】
次に、スピーカ装置の動作を説明すると、先ず、スピーカ装置の図示せぬ入力端子から電気入力が供給されると、図示せぬリード線を介して同時にコイル17、18に駆動電流が流れる。
【0166】
この場合に、磁気回路によってそれぞれコイル軸方向に略垂直で、且つ互いに逆方向の磁束が付与されるコイル17、18には、同時に逆方向の駆動電流が流れるので、コイル軸方向に沿った同方向の電磁駆動力を発する。
【0167】
ところが、各コイルは、上述したように、ヨーク35、36、磁石34と共に支持枠33によってフレーム12に固定されているので、コイル17、18と対向配置されたヨーク37が各コイルが発生した力を合成した力と大きさが同じで逆の方向の力(合成反力)を受けて振動板1と一体に合成反力の方向に移動する。これにより、スピーカ装置は、供給される電気入力に応じて振動板1をコイル軸方向に沿って前後に駆動することができる。
【0168】
また、コイル17、18は、振動板1やヨーク37などで構成される振動系とは磁気回路の空隙を介して対向配置されて、磁石34に固定されたヨーク35、36にそれぞれ固定されて、支持枠33に固定されることによりフレーム12に固定されているので、コイル17、18の各両端に接続されるリード線から電気入力が供給されてスピーカ装置が動作する場合は、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線が振動板1を含むスピーカ装置の振動系によって突っ張ったり屈曲したりすることがないので、コイル17、18及びそれらに接続されるリード線に機械的負荷がかからない。したがって、スピーカ装置に大入力を供給して振動板1が大振幅で振動してもコイル断線を生じない。
【0169】
【発明の効果】
本発明によれば、フレームに対して固定されたコイルに電気入力が供給されてコイルに駆動電流が流れることによりコイルにはコイル軸方向の電磁駆動力が発生し、コイルに対してコイル軸方向に略垂直な磁束を付与する磁束付与手段がその反力をコイル軸方向に受けることによって振動板をコイル軸方向に駆動するので、振動板が大振幅で振動してもコイル及びそれに接続されるリード線は振動板に引っ張られることがなく、従って、振動板の振幅に起因してコイルが断線することがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるスピーカ装置の初期状態における主要断面構造図である。
【図2】第1の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図である。
【図3】本発明の第2の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。
【図4】第2の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図である。
【図5】本発明の第3の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。
【図6】本発明の第4の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。
【図7】第4の実施形態における磁気回路の磁束の流れを示す図である。
【図8】本発明の第5の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図である。
【図9】本発明の第6の実施形態におけるスピーカ装置の駆動原理を示した図である。
【図10】本発明の第7の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。
【図11】本発明の第8の実施形態におけるスピーカ装置の主要断面構造図である。
【図12】従来のムービングコイル方式のダイナミックスピーカの構造図である。
【符号の説明】
1・・・・振動板
2、14、15、19、20、34・・・・磁石
3、12・・・・フレーム
3a、12a・・・・ポールヨーク部
4・・・・エッジ
5、8、13・・・・ダンパ
6、22、23、30、33・・・・支持枠
7・・・・キャップ
7a・・・・開口部
9、17、18・・・・コイル
10、16・・・・ヒートシンク
11・・・・連結ヨーク
21・・・・アウターヨーク
24、25、27、29・・・・反発磁石
26、28・・・・スペーサ
31、32、35、36、37・・・・ヨーク
Claims (7)
- フレームに対して移動可能に設けられた振動板と、前記フレームに対して固定されたコイルと、前記コイルに磁束を付与する磁束付与手段と、を有し、前記振動板を前記コイルの軸方向に駆動するスピーカ装置であって、
前記磁束付与手段は、前記コイルに対してコイル軸方向に略垂直な磁束を付与するものであり、前記振動板に固定された駆動マグネットを含み、
前記コイルは前記コイル軸方向に分離した上部コイルと下部コイルとからなり、前記駆動マグネットは前記上部コイルに対面する上部マグネットと前記下部コイルに対面する下部マグネットとからなり、前記上部コイル及び前記下部コイルは互いに逆方向の電流が供給され、前記上部マグネット及び下部マグネットは互いに逆方向の磁束を発生するものであり、
前記上部マグネットと前記下部マグトは磁性体からなるヨーク部材を介して連結されることを特徴とするスピーカ装置。 - 前記振動板は、前記コイルに電流が供給されることによって前記コイルに発生する前記コイル軸方向の力の反力により、前記コイル軸方向に駆動されることを特徴とする請求項1に記載のスピーカ装置。
- 前記コイルは略筒状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスピーカ装置。
- 前記駆動マグネットはリング状であり、前記コイルが挿通されて配されることを特徴とする請求項1に記載のスピーカ装置。
- 前記駆動マグネットは、内周部と外周部に磁極を有することを特徴とする請求項4に記載のスピーカ装置。
- 前記磁束付与手段は、前記フレームの略中央に立設した磁性材料からなるポールヨーク部を含み、前記コイルは前記ポールヨーク部に対して貫通した状態で固定され前記マグネットと前記ポールヨーク部との間に形成されるギャップ内に位置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載のスピーカ装置。
- 前記ポールヨーク部の上端及び下端に一対の反発マグネットを設けたことを特徴とする請求項5に記載のスピーカ装置。
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