JP3692806B2 - 走査電子顕微鏡 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電子線回折図形の強度分布の対称性を用いて試料マトリクスの結晶方位からのずれを画像化することを可能とした走査電子顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の走査電子顕微鏡像を用いた試料マトリクス中の異物の検出方法は、例えばアプライド フィジクス(Applied Physics)A,第57巻(1993年),第385頁から第391頁あるいは特開昭52―16160に開示されている。
【0003】
この方法では高角度に散乱された電子線を用いて走査透過像を観察し、高角度に散乱された電子線が原子の種類に依存するコントラストを有することを利用して、試料マトリクスと異物とのコントラストの違いから異物を検出するものである。また、従来の走査電子顕微鏡像を用いた結晶構造の解析は、高角度に散乱された電子線を用いて走査透過像を観察した場合、結晶構造と1対1に対応する像が得られることを利用して、200万倍以上の高倍率で原子配列を直接観察して行なっている。
【0004】
上記従来の走査電子顕微鏡像を用いた試料マトリクス中の異物の検出は、走査透過像を観察し、その画像コントラストから異物の有無を判断する。しかし、高角度に散乱された電子線を用いても試料マトリクスからの回折電子線強度が電子線回折図形の強度分布において支配的であり、異物の量が微小な場合には検出がほとんど不可能である。また、高角度に散乱された電子線の強度は非常に小さく、異物の量が微小でなくても高角度においては異物からの散乱電子線強度は極めて小さくなるために画像のS/Nが悪く、検出が難しい。
【0005】
上記従来の走査電子顕微鏡像を用いた結晶構造解析法では、高倍率で直接原子配列を観察する方法であるために、装置の高安定性が必要で、かつ電子線を原子配列の間隔以下の微小プローブにまで収束する必要がある。このような高精度の解析は装置が安定するまでに長時間を要するため能率が悪く、かつ精密な光学条件でプローブを形成しなくてはならず、高度な専門知識を必要とする。また、得られる高倍率の像では、その観察し得る試料の領域はせいぜい50nm角であり、μmオーダの広範囲での結晶構造の解析は不可能である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来の走査透過電子顕微鏡法では、画像のコントラストに寄与する電子線が主として試料マトリクスからの回折電子線であり、試料マトリクスに含まれる微量な異物をコントラストとして検出することが難しい。また高角度に散乱された電子線を用いて走査透過像を得る方法では異物のコントラストを向上させることができるが、高角度に散乱された電子線は数が少ないために画像のS/Nが悪く実効的な検出感度は低角度散乱電子を用いた場合と比較して大差ない。
【0007】
従来の走査透過電子顕微鏡による結晶構造解析法は、高倍率で直接原子配列が観察可能であるが、高倍率で像を観察する装置条件や光学条件を設定するために、非常に高度な知識と熟練を要していた。また原子配列は高倍率でしか観察できないので、一度に解析し得る試料の領域はかなり小さい。
【0008】
本発明の目的は、走査電子顕微鏡によって走査透過像を観察し、異物を検出する際に、電子線回折図形中の試料マトリクスからの回折電子線をカットし、低角度側での異物からの回折電子線を選択的に、かつ高S/Nで検出することにより、走査透過像中での異物のコントラストを向上させ、また、特定の回折電子線を選択的に検出することによって観察したい結晶方位を持つ部分や粒子を高コントラストで観察することができ、電子線回折図形の対称性を利用して試料マトリクスの結晶方位からのずれをコントラストとして画像化できる走査電子顕微鏡装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は電子源より発生した電子線を高エネルギにするための1段以上の静電レンズと、サブナノメータの微小なプローブを形成するための1段以上の収束レンズと対物レンズと、対物レンズ中で試料を保持するための試料ホルダーと、上記プローブを試料面上で2次元に走査するための1段以上の偏向コイルと、試料によって散乱された電子線強度を上記偏向コイルの走査と同期して検出し、上記電子線強度を輝度に変調して走査透過像を得るための検出器を具備した電子顕微鏡において、電子線検出器の上部に1段以上のマスク絞りを設置し、それらを用いて電子線回折図形の特定の回折電子線をマスクし、走査透過像における観察目的とする、例えば基板中の異物を高コントラストで観察できるようにする。
【0010】
また、上記マスク絞りによって特定の回折電子を選択的に検出し、例えば多結晶材料中の特定結晶方位の粒子のみを観察できるようにする。また、電子線検出器を2分割して電子線回折図形の左右の強度分布をそれぞれ独立に検出し、それらを割り算することによって、例えば特定部分の試料マトリクスの結晶方位からのずれをコントラストとして検出する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、走査電子顕微鏡を用いて試料マトリクスの情報を低減し、試料に含まれる試料マトリクス以外の情報を効率よく抽出した走査透過像を得る方法を説明する。
【0012】
図1は走査電子顕微鏡の構成図を示すものである。電子線源1から発生した電子線を2aから2cまでに示す多段の静電レンズによって所定の加速電圧まで加速する。1段あたりの加速電圧を30kV程度に設定して各段のレンズに印加する電圧を変化させることにより最終的な電子線の加速電圧を変化させることができる。所定の加速電圧まで加速された電子線は1段目収束レンズ3aおよび2段目収束レンズ3bによって縮小される。
【0013】
1段目収束レンズ3aおよび2段目収束レンズ3bの電流励磁の組み合わせを変化させることによって電子線の縮小率を任意に変化させることができる。さらに、強励磁に設定した前磁場対物レンズ4によって電子線は縮小され、最終的にはサブナノメータ径のプローブが試料5上に形成される。2段目収束レンズ3b下部に設置した収束絞り6によりプローブの開き角を変化させ、プローブ径に及ぼす回折収差および球面収差のバランスを調整することができる。
【0014】
試料5を透過した電子線は試料5下部に電子線回折図形を形成する。後磁場対物レンズ7の下段に設置した1段目投影レンズ8aおよび2段目投影レンズ8bの電流励磁を変化させることによって、電子線回折図形の倍率を任意に変化させて電子線検出器9に投影することができる。電子線検出器9は電子線強度を光の強度に変換するための円盤状のシンチレータとその光の強度を増幅し、電流信号に変換する光電子倍増管から構成されており、シンチレータと光電子倍増管の間には石英のライトガイドが設置され、光電子倍増管の後にはプリアンプ18が設置されている。
【0015】
2段目投影レンズ8bの下部に設置した1段目検出器アライメントコイル10a、2段目検出器アライメントコイル10bは電子線回折図形の電子線検出器9に対する位置合わせのために用いる。電子線検出器9の下部には撮像装置11が設置されており、電子線回折図形を実時間で観察できるようなCCDカメラ等が用いられる。この撮像装置11を用いる時には電子線検出器9に設置されたニュウマティックドライブ方式の駆動機構により電子線検出器9を光軸から外す。2段目投影レンズ8b下部には1段目検出器絞り12a、2段目検出器絞り12bが設置されている。これらは4段階程度に可動できる絞りであり、電子線回折図形のパターンや丸穴など多種類のマスクパターンを持っており、試料マトリクスの結晶構造や入射方位等が様々に変化した場合に対応可能となっている。
【0016】
走査透過像の取得は、偏向コイル13によりプローブを試料5上で2次元的に走査し、それに同期して電子線検出器9での信号を像強度に輝度変調して行なう。この時、像強度はA/Dコンバータ14の出力を基にデジタルの画像ファイルとして記録される。一連の操作における全てのレンズ、コイル、検出器の制御はCPU15がD/Aコンバータ16を介して行ない、インターフェース17を通じて操作者が条件を設定する。
【0017】
次に、走査透過像を結像するための光学系と検出器絞りの使用方法について説明する。図2は試料5を透過した電子線が対物後磁場レンズ7によって像面22に結像される様子を示したものである。ここで、プローブの入射方向と平行に進行する透過電子線19とそれと異なる方向に進行する回折電子線20は対物後磁場レンズ7によって進行方向が変えられる。後焦点面21では試料透過後に進行する方向が同じ電子線が1点に収束する。すなわち、この後焦点面21においては試料で回折された角度に依存して電子線が分散する電子線回折図形が結像される。
【0018】
後焦点面21を通過した電子線は試料5を物面としてそれに1対1に対応する像面22を形成する。プローブの平行走査に伴い像面22に結像される像はプローブの走査と同期して平行移動し、後焦点面21に結像される像は移動しない。よって走査透過像を観察する場合に、プローブ位置に依存する情報を抽出するためには、1段目投影レンズ8aの焦点を後焦点面21に合わせ、後焦点面21に結像される電子線回折図形を電子線検出器9に結像する。さらに、2段目投影レンズ8bを用いて1段目投影レンズ8aの像面50を拡大あるいは縮小して電子線検出器9上に投影することによって走査透過像の検出角度範囲を変えることができる。
【0019】
1段目検出器絞り12aは2段目投影レンズ8b下部に設置してあり、特定の回折電子線をマスクする働きをしている。この1段目検出器絞り12aによりマスクされた回折電子線51は電子線検出器9には到達せず、マスクされない回折電子線52は到達するので、得られる走査透過像にはマスクされない回折電子線52のみの情報が選択的に反映されることになる。
【0020】
次に、電子線プローブが試料に入射した場合に形成される電子線回折図形の特徴について説明する。透過電子顕微鏡を用いて電子線を試料に対して平行に入射させて電子線回折図形を形成させた場合には、電子線入射方向から見た結晶構造をフーリエ変換したものを2次元的に投影した図形が観察される。この図形は小さなスポットが規則的に並んだ図形である。
【0021】
一方、図3のように電子線を収束させ電子線プローブ23を形成して試料5に入射した場合には、透過電子線を中心として後焦点面21にディスクが規則的に並んだ図形が得られる。平行照射ではスポットであったものが、収束された電子線プローブ23の場合にディスクになるのは、電子線プローブ23の開き角24が関連している。開き角24とは電子線を電磁レンズで収束した場合、仮想的に円錐状に収束された電子線の外形線と光軸とのなす角度であり、最終的には収束絞りによって回折収差と球面収差とのバランスを取るように調整される。このように収束電子線を用いた場合には電子線回折図形はディスク形状となるので、検出器絞りのマスクパターンはディスクが並んだパターンを用意する必要がある。
【0022】
次に、検出器絞りのマスクパターンの決定法について説明する。結晶試料のある晶帯軸と平行に電子線を入射した場合には、後焦点面には透過電子線に対応するディスクを中心として回転対称に回折ディスクが並んだ図形が形成される。
【0023】
図4はダイアモンド型構造を持つ結晶に3つの異なる結晶方位で同じ開き角の電子線プローブが入射した場合に形成される電子線回折図形を表わした模式図である。それぞれの電子線入射方向で回転対称性、ディスク間の距離が異なっている。このため、1種類の絞りマスクパターンでは対応不可能なので、4段程度の可動絞りを切り替えて用いる、または検出器絞りを複数段にして対応する必要がある。ただし、試料の種類に応じてその数だけマスクパターンが必要となるわけではない。その理由として例えば、結晶構造が同一の物質では電子線回折図形のパターンが同一で、ディスク間の間隔のみが異なっている。これは結晶単位胞の長さのみが異なるからである。
【0024】
この場合には2段目投影レンズによって電子線回折図形の倍率を変化させ、実際の回折図形とマスクパターンが一致するようにすればよい。また例えば、面心立方格子構造の〔001〕入射の場合の電子線回折図形のパターンと図4に示したダイアモンド構造の〔001〕入射の場合の電子線回折図形のパターンは同一なので、上記と同様な方法で結晶単位胞の長さによるディスク間隔のずれだけを調整してやればよい。
【0025】
次に、電子線回折図形をマスクし、走査透過像を観察した場合の効果について説明する。図5は結晶性基板中に微量の不純物が存在している場合について電子線回折図形強度のある方向の角度分布を示すものである。ここで、基板の結晶構造をダイアモンド構造、電子線の入射方向を〔001〕と仮定している。不純物が微量であることと、結晶性基板の晶帯軸に電子線が入射しているため、電子線回折図形は透過電子線(000)および基板結晶からの強い回折(220),(440)等が支配的であり、不純物からの回折電子線は図に示すように基板からの回折電子線の中に埋もれている。
【0026】
ここで、電子線回折図形の基板結晶に関する部分をマスクし走査透過像を観察すれば、基板以外の不純物のコントラストが向上し、検出しやすくなる。この方法は基板結晶からの回折電子線と不純物からのそれとが重複してしまう場合、例えば格子定数が同一で特定の電子線入射方向での回折パターンが同一の場合には適用不可能であるが、電子線入射方向を変化させる等により適応可能な条件を探索することができる。
【0027】
次に、検出器絞りの構造について説明する。図6は回折図形マスク用のパターンが施された検出器絞りの外観図である。マスクパターンは厚さ0.3から0.1mm程度のモリブデン等の金属板でできた検出器絞り板26上に加工されており、透過および回折電子線を除去するための電子線除去用板28がブリッジ29によって検出器絞り板26上に固定されている。検出器絞り板26は薄膜であり、絞りとしての強度を出すためにねじ27によって検出器絞りベース板25に固定されている。図6に示した検出器絞りは電子線回折図形をマスクするためのパターンの一例であり、異なるパターンが4種類程度並んでおり、手動あるいはエアー駆動による出し入れにより可変できる。
【0028】
図7は検出器絞りの別のマスクパターンの例である。構造としては図6の場合と同様で検出器絞り板26がねじ27によって検出器絞りベース板25に固定されているものであり、検出器絞り板26に丸穴30やスリット31が加工されている。丸穴30は特定の回折電子線のみを通過させ、試料においてその方向に回折を生じている部分を選択的に抽出する目的のためのマスクパターンであり、スリット31は回折電子線の特定の1方向を選択的に抽出するためのマスクパターンである。
【0029】
丸穴30を用いた場合の効果としては、観察目的とする部分からの回折電子線の後焦点面での位置が既知である場合に、その位置に丸穴30を合わせることによって観察目的とする部分のコントラストを向上させることができる。例えば、丸穴30を(111)回折電子線位置に合わせることにより多結晶試料中で(111)結晶方位を持った粒子のみを観察できる。この特定結晶方位の観察はスリット31を用いても可能であり、この場合例えば(200)と(−200)の両方の回折電子線を同時に選択できるので像コントラストが向上する。次に、電子線回折図形の検出器絞りおよび電子線検出器への位置合わせの方法について説明する。
【0030】
図8は試料5を通過した電子線が2段目投影レンズ8bによって拡大されて電子線検出器9に投影される様子を示したものである。まず最初に、電子線検出器9を光軸から外して撮像装置11によって電子線回折図形を観察する。この電子線回折図形を観察しながら1段目検出器絞り12aを光軸に挿入し、微調整つまみによって電子線回折図形と1段目検出器絞り12aのマスクパターンとの位置合わせをする。次に電子線検出器9を光軸に挿入し走査透過像を表示させる。
【0031】
低倍の走査透過像を表示させるとマスクパターンの位置に走査透過像が表示されるので、1段目検出器アライメントコイル10aおよび2段目検出器アライメントコイル10bを用いてマスクパターン上に表示された走査透過像を像表示画面の中心と一致するように調整する。これによって電子線回折図形の中心と電子線検出器9との中心が一致することになる。1段目検出器アライメントコイル10aおよび2段目検出器アライメントコイル10bは偏向比率が1:1の振り戻しになるように設定されており、電子線回折図形が電子線検出器9上で平行に移動するようになっている。
【0032】
次に、左右2分割された電子線検出器を用いて走査透過像を取得し、試料の結晶方位に関する情報を効率よく抽出する方法を説明する。図9は左右2分割した検出器の構造を示す上面図(a)と側面図(b)である。検出器は中心部に電子線を通過させるための穴があり、左右の検出器を隔離するための遮光板36が配置され、その左右に対称的に部品が組まれている。左右それぞれの検出器はシンチレータ32、ライトガイド33、光電子倍増管34、プリアンプ35から構成されている。
【0033】
プリアンプ35からの信号は左右独立に収集され、割り算回路37で処理される。割り算された信号は光電子倍増管高電圧調整および直流電圧加算回路38に送られ、さらに画像表示装置39によって走査透過像として表示される。
【0034】
使用者は画像表示装置39に表示された走査透過像を観察しながら光電子倍増管高電圧調整および直流電圧加算回路38を調整し、観察像のコントラストを調整する。
【0035】
次に、左右2分割された電子線検出器を用いて走査透過像を取得する利点について説明する。図10は電子線検出器9上に結像される電子線回折図形を模式的に表わしたものである。電子線の入射方向が基板の結晶方位と一致している場合には(000)の透過電子線を中心として左右の回折強度が同じになる。一方、電子線の入射方向が基板の結晶方位と一致しない場合には左右の回折強度が異なる。ここで、左右それぞれの回折強度を独立に検出し、割り算を行なえば、結晶方位が一致する場合にはコントラストが1に、一致しない場合には1以上となる(ただし、強度の大きい側を小さい側で割った場合)。これを用いれば、ある特定の結晶方位からのずれの情報を画像化することができる。
【0036】
次に、電子線回折図形の左右検出器への合わせ方法について説明する。まず、図8で説明した方法と同様に電子線検出器9を光軸から外す。あるいはこの左右2分割型の場合には中央の丸穴を電子線回折図形が通過するように第2投影レンズ8bの電流励磁を調整する。この状態で撮像装置11を用いて電子線回折図形の目的とする結晶方位を合わせる。次に偏向コイルにラスターローテーション信号を付加し、試料面上で走査領域を回転させる。この操作に伴って電子線回折図形は回転するので電子線検出器9に対して電子線回折図形が左右対称となるように調整する。最後に電子線検出器9を光軸に戻し、走査透過像を観察して電子線回折図形と検出器の中心との合わせを行なう。このようにして調整すれば、ある特定の結晶方位からのずれの情報を走査透過像として画像化できる。
【0037】
次に、マルチチャネル型検出器を用いて電子線回折図形のパターンマスクや左右2分割で検出をする方法を説明する。図11はマルチチャンネル型検出器40の模式図であり、左右2分割での検出を行なう場合についての使用例である。図の1マスがそれぞれ1個のチャンネルであり中央部を検出しないで、左右を独立に割り算回路へ入力するように設定されている。これと同様に回折図形のパターンマスクを行なうには、ある特定のチャンネルを検出するように設定して行う。
【0038】
図12は検出器絞りおよび検出器を取り付けた真空フランジと鏡体との取り付け方法を表わす図である。1段目および2段目検出器絞りは真空フランジ62の側面から光軸に挿入されるように配置され、電子線検出器9の上部に配置される。真空フランジ62は投影レンズコイル61下部の投影レンズ磁路60の下磁路部分に真空シールされて配置される。
【0039】
1段目検出器絞り駆動機構63aは真空シールを介して大気側にあり外部からの制御によって検出器絞りを駆動する。1段目検出器絞り駆動ロッド64aは1段目検出器絞り駆動機構63aからの駆動制御を検出器絞りに伝達するものであり、その先端に1段目検出器絞りベース板65aが取り付けられ、その上に1段目検出器絞り板66aがネジで固定されている。
【0040】
1段目検出器絞り駆動ロッド64a、1段目検出器絞りベース板65aおよび1段目検出器絞り板66aは一体となって1段目検出器絞り駆動機構63aからの駆動制御により光軸への並進移動をする。この並進移動は4段階程度で段階的に駆動できるように調整してあり、1段目検出器絞り板66に形成された複数のマスクパターンが段階的に選択できる。
【0041】
2段目検出器絞りは2段目検出器絞り駆動機構63b、2段目検出器絞り駆動ロッド64b、2段目検出器絞りベース板65b、2段目検出器絞り板66bから構成され、並進駆動機構等は1段目検出器絞りと同様であり、1段目検出器絞りの下段に真空シールして真空フランジ62に固定されている。2段目検出器絞り板66bには1段目検出器絞り板66aとは異なるマスクパターンが形成されており、2段目検出器絞り単独でも使用可能である他に、1段目検出器絞りと2段目検出器絞りとを組み合わせて使用することによって様々な応用が可能となる。
【0042】
図13は真空フランジへの検出器および検出器絞りの取り付け方法および検出器絞りの微動機構を表わす図である。電子線検出器は大気側にプリアンプ35が、真空側にシンチレータ32、ライトガイド33が設置され、ハーメチック真空シールによって光電子倍増管34が設置されている。その上部に検出器絞りが配置される。検出器絞りはべローズ70によって真空シールされた検出器絞り微動用ロッド71を介して真空外から微動制御される。検出器絞り微動用ロッド71の先端には検出器絞りベース板25および検出器絞り板26が設置されている。
【0043】
検出器絞りの大気側には検出器絞り水平微動つまみ72、検出器絞り並進微動つまみ73、検出器絞り垂直微動つまみ74が設置され、検出器絞り板26の光軸への軸調整を行うことができる。検出器絞り並進微動つまみ73はその内部に歯車75および回転並進変換用ギア76が設置されており、並進微動つまみ73の回転運動を並進運動へ変換して検出器絞り微動用ロッド71を駆動させている。検出器絞り並進微動つまみ73、検出器絞り垂直微動つまみ74は直接的に検出器絞り微動用ロッド71につまみを押し当てる形で設置されており、てこの原理によって検出器絞り微動用ロッド71を微動させる。検出器絞り微動用ロッド71はばねを内蔵した検出器絞り微動用ロッド押さえ77によって常にテンションがかけられており、検出器絞り並進微動つまみ73、検出器絞り垂直微動つまみ74からの推進力とのバランスを保ち、検出器絞り微動用ロッド71の安定を保っている。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、電子線検出器の上段に検出器絞りを設置し、その絞りを用いて試料マトリクスからの回折電子線をマスクすることによって、走査透過像における試料マトリクス以外の欠陥、不純物が高コントラストで観察できるようになる。また、丸穴やスリット状のマスクパターンを用いれば、特定の結晶方位に配向した粒子のコントラストを向上できる。左右2分割した検出器を用い、左右それぞれの信号を割り算することによって試料マトリクスからの結晶方位のずれを走査透過像におけるコントラストの違いとして画像化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の走査電子顕微鏡装置の構成を示す概略縦断面図。
【図2】対物レンズによる像面、後焦点面の形成を示す縦断面図。
【図3】電子線プローブを用いて形成した電子線回折図形を示す斜視図。
【図4】ダイアモンド型構造を持つ結晶の電子線入射方位による電子線回折図形の違いを示す説明図。
【図5】(a)基板中に不純物を含む試料の電子線回折図形の強度分布図。(b)(a)の枠内の拡大図。
【図6】検出器絞り構造の第1の例を示す上面図。
【図7】検出器絞り構造の第2の例を示す上面図。
【図8】検出器アライメントコイルによる電子線回折図形と電子線検出器との位置合わせの方法を示す縦断面図。
【図9】左右2分割型電子線検出器の構成を示す上面図および側面図。
【図10】結晶方位による電子線回折図形の強度分布の違いを示す説明図。
【図11】マルチチャネル型電子線検出器を用いて左右2分割で電子線強度を検出する方法を示す上面図。
【図12】検出器絞りを取り付けた真空フランジと鏡体磁路との取り付け方法を示す側面図および上面図。
【図13】真空フランジへの検出器および検出器絞りの取り付け方法および検出器絞りの微動機構を示す斜視図。
【符号の説明】
1…電子線源、2a…1段目静電レンズ、2b…2段目静電レンズ、2c…3段目静電レンズ、3a…1段目収束レンズ、3b…2段目収束レンズ、4…対物前磁場レンズ、5…試料、6…収束絞り、7…対物後磁場レンズ、8a…1段目投影レンズ、8b…2段目投影レンズ、9…電子線検出器、10a…1段目検出器アライメントコイル、10b…2段目検出器アライメントコイル、11…撮像装置、12a…1段目検出器絞り、12b…2段目検出器絞り、13…偏向コイル、14…A/Dコンバータ、15…CPU、16…D/Aコンバータ、17…インターフェース、18…プリアンプ、19…透過電子線、20…回折電子線、21…後焦点面、22…像面、23…電子線プローブ、24…開き角、25…検出器絞りベース板、26…検出器絞り板、27…ねじ、28…電子線除去用板、29…ブリッジ、30…丸穴、31…スリット、32…シンチレータ、33…ライトガイド、34…光電子倍増管、35…プリアンプ、36…遮光板、37…割り算回路、38…光電子倍増管高電圧調整および直流電圧加算回路、39…画像表示装置、40…マルチチャンネル型電子線検出器、50…1段目投影レンズの像面、51…マスクされた回折電子線、60…投影レンズ磁路、61…投影レンズコイル、62…真空フランジ、63a…1段目検出器絞り駆動機構、63b…2段目検出器絞り駆動機構、64a…1段目検出器絞り駆動ロッド、64b…2段目検出器絞り駆動ロッド、65a…1段目検出器絞りベース板、65b…2段目検出器絞りベース板、66a…1段目検出器絞り板、66b…2段目検出器絞り板、70…べローズ、71…検出器絞り微動用ロッド、72…検出器絞り水平微動つまみ、73…検出器絞り並進微動つまみ、74…検出器絞り垂直微動つまみ、75…歯車、76…回転並進変換用ギア、77…検出器絞り微動用ロッド押さえ。

Claims (6)

  1. 試料を保持する試料ホルダと、
    電子線を発生させる電子源と、
    前記試料に電子線を走査するための偏向器と、
    投影レンズと、
    対物レンズと、
    前記試料に電子線を走査して得られた前記試料からの回折電子線を検出する電子線検出器と、
    前記回折電子線を制限するマスクを備えた検出器絞りとを備え、
    前記マスクの形状は、前記試料に含まれる試料マトリクスの結晶構造と同一の回折図形パターンであって、
    回折電子線による前記試料マトリクスの結晶構造の情報を制限することにより、前記試料マトリクスの結晶構造以外の情報を抽出することを特徴とする走査電子顕微鏡。
  2. 請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
    前記検出器絞りを複数段備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
  3. 請求項1または2に記載の走査電子顕微鏡において、
    前記検出器絞りを移動させる駆動手段を備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の走査電子顕微鏡において、
    前記検出器と検出器絞りの間に偏向コイルを備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
  5. 請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
    前記検出器は2分割された分割検出器であることを特徴とする走査電子顕微鏡。
  6. 請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
    前記検出器はマルチチャンネル型であることを特徴とする走査電子顕微鏡。
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