JP3691889B2 - 溶接継手 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は少なくとも厚さ20mm以上でかつ板厚の異なる円筒状母材の溶接を行う際の溶接継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の溶接継手について図8により説明する。第1の円筒状母材1に第2の円筒状母材2を溶接するにあたり、第2の円筒状母材2の下端部外周面に環状スペーサ3を取り付けるとともに第2の円筒状母材2の下端面に30°のベベル角度4をもって開先5を形成したのち、その開先5にアークを発生する電極または溶接材料を入れて溶接している。スペーサ3により第1の円筒状母材1と第2の円筒状母材2との間隔を保っている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
TIG溶接を初めとするアーク溶接の場合、アークを発生する電極または溶接材料を開先5内に入れなければならないため、ルート間隙や、開先5のベベル角度4を大きくしなければならず、また溶着量が多い。したがって、溶接変形や母材の変質という材料的な課題と、溶接時間が長くなる課題がある。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、溶着量を少なくし、溶接変形や母材の変質を軽減すると同時に溶接時間を低減できる溶接継手を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、肉厚の第1の円筒状母材と肉薄の第2の円筒状母材を開先溶接する溶接継手において、前記第1の円筒状母材のベベル角度を0°とし、前記第2の円筒状母材のベベル角度を20°以下としかつ前記第2の円筒状母材の下端部にリップを形成し、このリップの外側に溶接材料を配置してリップの外側から前記第1及び第2の円筒状母材を溶接し、しかる後に前記リップの内側から前記第1及び第2の円筒状母材を1層1パス溶接したことを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、前記リップはリップ長さを5mmから8mmの範囲に、リップ厚さを1mmから4mmの範囲内にそれぞれ設定してなることを特徴とする。
請求項3の発明は、前記リップ形状を前記第1の円筒状母材に向けて先細りに形成してなることを特徴とする。
【0007】
請求項の発明は、前記溶接材料の設置位置は前記リップと前記第2の円筒状母材の継ぎ目から前記溶接材料の外径の2倍以内とすることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1(a)から(c)を参照しながら本発明に係る溶接継手の第1の実施の形態を説明する。
図1(a)は第1の円筒状母材1と第2の円筒状母材2を溶接する状態で左半分のみを部分的に示している。すなわち、第1の円筒状母材1の上端面はベベル角度4が0°で、平坦面となっており第2の円筒状母材の下端部には20°以下のベベル角度が形成された開先5と、外周面にリップ6が形成されている。
【0010】
リップ長さ7は5〜8mmとなっている。第2の円筒状母材2のリップ6を第1の円筒状1の上端面に載置し、開先5内に溶接材料を入れてTIGまたはアーク溶接する。
【0011】
しかして、上記第1の実施の形態では第1の円筒状母材1は0°のベベル角度4を有し、第2の円筒状母材2は20°以下のベベル角度4を有している。第2の円筒状母材2のリップ6のリップ長さ7は小さいほど溶着量が少なくて済むが、TIG溶接を初めとするアーク溶接の場合、アークを発生するタングステン電極または溶接材料を開先5内に入れなければならないことから電極径が 3.2mmの場合、リップ長さ7は最低5mm必要である。
【0012】
その理由は溶接中にタングステン電極が第1および第2の円筒状母材1,2と接触することを防止するために片側約1mmのギャップを必要とするからである。また、リップ長さ7が8mmを越えると、1層1パス溶接ができなくなり、1層2パス溶接以上となるため、溶着量が多くなる。その結果、溶接変形,母材の変質低下や溶接時間の削減という効果が少なくなってしまう。
【0013】
図1(b)に1層1パス溶接の模式図を、図1(c)に1層2パス溶接の模式図を示す。図1(b)に示す1層パス溶接ビード8および図1(c)に示す1層2パス溶接ビード9が1回に溶接された溶着部で、この部分をパスという。
【0014】
また、ベベル角度4を20°以下に限定した理由は板厚20mmの場合、第1の円筒状母材1と第2の円筒状母材2の間隙の最大値が12mmを超えると1層1パス溶接ができなくなるためである。すなわち、リップ長さ7が最大値5mm,リップ6の厚さが1mmとした場合のベベル角度4の値が20°である。
このことから板厚が20mmを超えたり、リップ長さ7が5mmよりも長い場合はベベル角度4はこの値より小さくしなければならない。
【0015】
図8に示した従来例では1層2パス以上の溶接を考えているため、第1の円筒状母材1と第2の円筒状母材2の間隔が10mmであり第2の円筒状母材のベベル角度4が30°であることから、第2の円筒状母材2の厚さを38mmと仮定すると図1の溶接継手の溶着量は図8のそれの約40%である。
【0016】
ということは溶着量が約40%になり、従って、円筒状母材に加えられる熱量(以下入熱量と称す)も約40%になる。入熱量が小さいことから変形および母材の変質が軽減できる。また、溶接時間は同一溶接方法と仮定すれば、ほぼ溶着量に比例することから溶接時間も約40%とすることができ、溶接時間を削減することができる。
【0017】
つぎに図2(a),(b)により本発明に係る溶接継手の第2の実施の形態を説明する。
図2中、図1と同一部分には同一符号を付して重複する部分の説明は省略する。本第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は第2の円筒状母材2に開先5およびリップ6を形成するとともにリップ6の外側に溶接材料10を予め配置して溶接を行うものである。
【0018】
一般に溶接を行うと軸方向の長さが短くなる現象が起きる。リップ6を完全に溶かす完全溶け込み溶接を行うと、その縮み量は大きくなるが、リップ6を部分的にしか溶かさない部分溶け込み溶接にすることにより縮み量は軽減される。
【0019】
その場合、強度上溶着部の長さが第2の円筒状母材2の厚さ分必要な場合、予め溶接材料10をリップ6の外側角に配置しておき、リップ6の外側から溶接を行い、溶接材料10を完全に溶かした後、反対側の開先5側から溶接を行う。図2(b)は溶接後の状態を示しており、符号11は溶接材料10が溶けた外側溶着部で、符号12は開先5側から溶接した内側溶着部で、符号13は未溶融リップを示している。
【0020】
外側溶着部11は別の働きをする場合もある。それは内側溶着部だけの場合、外側に未溶着部がクレビス状に残るため、耐蝕性の低下や疲労強度の低下を招くことがある。しかし、外側溶着部11によりそれを防止することができる。
【0021】
溶接材料10の働きとしては上述の他に第1の円筒状母材1または第2の円筒状母材2の材質が例えばSUS316 のように完全オーステナイト組織の材料のように高温割れを生じやすい材料の場合、適切な溶接材料を使用することにより高温割れの発生を防ぐことができる。
【0022】
つぎに図3(a),(b)により本発明に係る溶接継手の第3の実施の形態を説明する。
図3中、図2と同一部分には同一符号を付して重複する部分の説明は省略する。本実施の形態が第2の実施の形態と異なる点は第2の円筒状母材2のリップ6のリップ厚さ17を設定してリップ6を完全溶け込み溶接して強度を向上させたことにある。
【0023】
本実施の形態ではリップ6の外側から溶接を行い、開先5側から溶接を行うが、片側からの溶け込み深さは限界(約2mm)があるため、第2の円筒状母材2のリップ6のリップさ17は4mm以下でなければならない。
【0024】
図3(b)はこの状態を説明したもので、図3(b)中の溶着部14が図3(a)中のリップ6の外側から溶接した部分で、内側溶着部12は図2(b)と同様である。また、リップ厚さ17が1mm未満の場合、第2の円筒状母材2の重量によってはリップ6が座屈してしまうため、1mm以上の厚さが必要である。
【0025】
図3(a)中リップ6の外側から溶接する際、溶接材料なしで溶接を行った場合、図4中に示す溶接部15に一部凹み16を生じる可能性がある。これを防止するには溶接材料10を連続的に供給するかまたは図2(a)に示すように予め溶接材料10を配置しておくことである。図4は設計上板厚分の溶接厚さが要求された場合の好ましくない溶接の例である。
【0026】
つぎに図5により本発明に係る溶接継手の第4の実施の形態を説明する。
本実施の形態は第2の実施の形態の他の例を示したものであるので、図2(a)と同一部分には同一符号を付して重複する部分の説明は省略する。本実施の形態が第2の実施の形態と異なる点は予めリップ6の外側に配置する溶接材料10の設定位置の範囲を定めたことにある。
【0027】
ところで、溶接材料10とのギャップ22が0の場合、第1の円筒状母材1の角を十分溶かすことができない場合がある。この場合は図5に示すように溶接材料10と第1の円筒状母材1とのギャップ22を大きくとればよいが、ギャップ22があまり大きすぎても良好な溶接部が得られないので、ギャップ22の目安としては溶接材料10の外径の2倍以内までとすることが望ましい。
【0028】
そこで、溶接材料10の設定位置は前記リップ6と第2の円筒状母材2の継ぎ目から第1の円筒状母材1の上面までの長さ、つまりリップ長さ7に対して溶接材料10はその外径の2倍の長さに保持して溶接することにある。
【0029】
つぎに図6(a)から(d)を参照しながら第1から第4の実施の形態におけるリップの他の例を説明する。
すなわち、図6(a)に示す第1の例はリップ6aを先細りとして第2の円筒状母材2の直線部と円弧で結んだ例にある。このような構成とすることにより、図1から図5に示したリップ6のリップ厚さ17が一定の場合には完全溶け込みが得られない場合があるのに対して、完全溶け込みが得られる効果がある。
【0030】
図6(b)に示す第2の例のリップ6bは先端部が細先のリップ厚さ17と、本体部のリップ厚さ18が異なった2種類のリップ厚さ17,18を有し、その2種類のリップ厚さ17,18を直線で結んだ例にある。この例では前記第1の例と同様の作用効果がある。
【0031】
図6(c)に示す第3の例のリップ6cは内面がテーパ状に形成されて先細りとなっており、図6(d)に示す第4の例のリップ6dは先端部が円弧状に形成されている。この第3および第4の例においても、第1の例と同様の作用効果を奏する。
【0032】
つぎに図7により本発明に係る第5の実施の形態を説明する。
第1の円筒状母材1と第2の円筒状母材2との対向面にそれぞれ第1のベベル角度20と第2のベベル角度21を有する開先を形成する。この第1および第2のベベル角度20,21を合わせた開先角度19を20°以下にする。そして第2の円筒状母材2の先端部に取り付けたリップ6のリップ長さ7を6mm以上とし、リップ厚さ17を4mm以下とすることにより完全溶け込みを得ることができる。
【0033】
なお、本発明の実施の形態を要約すればつぎのとおりである。
(1) 板厚の異なる円筒状母材同士を溶接する継手で、一方の母材は平坦面で、他方の母材は20°以下のベベル角度をもつリップ付き開先形状となっていること。(2) 予め母材の外側に溶接材料を配置する。そして、部分溶け込み溶接するか、または完全溶け込み溶接をすること。溶接は円筒状母材の開先側または両側から行う。
【0034】
(3) リップは長さが5mm〜8mm,厚さが1mm〜4mmであり、一定でなく先細となっていること。(4) 溶接材料は断面形状が円形であること。溶接材料の設定位置はリップの継ぎ目から溶接材料外径の2倍の範囲にあること。
【0035】
(5) 板厚の異なる円筒状母材同士を溶接する継手で、両母材にベベル角度を有し、その両者のベベル角度の和の開先角度が20°以下であること、およびリップ厚さが1mm〜4mm,リップ長さが5mm〜8mmであること。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、厚板の円筒状母材を溶接する場合、溶着量が少なく、その結果、溶接変形や母材の変質を軽減するとともに溶接時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明に係る溶接継手の第1の実施の形態を説明するための要部を示す縦断面図、(b)は(a)における1層1パス溶接を示す模式図、(c)は同じく1層2パス溶接を示す模式図。
【図2】(a)は本発明に係る溶接継手の第2の実施の形態を説明するための要部を示す縦断面図、(b)は(a)において溶接した状態を示す縦断面図。
【図3】(a)は本発明に係る溶接継手の第3の実施の形態を説明するための要部を示す縦断面図、(b)は(a)において溶接した状態を示す縦断面図。
【図4】図3(a),(b)における溶接継手の第3の実施の形態と対比して説明するための部分断面図。
【図5】本発明に係る溶接継手の第4の実施の形態を説明するための要部を示す縦断面図。
【図6】(a)から(d)は前記第1から第4の実施の形態におけるリップの他の例を第1から第4の例としてそれぞれ部分的に示す縦断面図。
【図7】本発明に係る溶接継手の第5の実施の形態を説明するための要部を示す縦断面図。
【図8】従来の溶接継手を部分的に示す縦断面図。
【符号の説明】
1…第1の円筒状母材、2…第2の円筒状母材、3…スペーサ、4…ベベル角度、5…開先、6…リップ、7…リップ長さ、8…1層1パス溶接ビード、9…1層2パス溶接ビード、10…溶接材料、11…外側溶着部、12…内側溶着部、13…未溶融リップ、14…溶着部、15…溶接部、16…凹み、17,18…リップ厚さ、19…開先角度、20…第1のベベル角度、21…弟2のベベル角度、22…ギャップ。

Claims (4)

  1. 肉厚の第1の円筒状母材と肉薄の第2の円筒状母材を開先溶接する溶接継手において、前記第1の円筒状母材のベベル角度を0°とし、前記第2の円筒状母材のベベル角度を20°以下としかつ前記第2の円筒状母材の下端部にリップを形成し、このリップの外側に溶接材料を配置してリップの外側から前記第1及び第2の円筒状母材を溶接し、しかる後に前記リップの内側から前記第1及び第2の円筒状母材を1層1パス溶接したことを特徴とする溶接継手。
  2. 前記リップはリップ長さを5mmから8mmの範囲に、リップ厚さを1mmから4mmの範囲内にそれぞれ設定してなることを特徴とする請求項1記載の溶接継手。
  3. 前記リップ形状を前記第1の円筒状母材に向けて先細りに形成してなることを特徴とする請求項1記載の溶接継手。
  4. 前記溶接材料の設置位置は前記リップと前記第2の円筒状母材の継ぎ目から前記溶接材料の外径の2倍以内とすることを特徴とする請求項記載の溶接継手。
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