JP3690990B2 - タンタル、ニオブ等の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本件出願に係る発明は、タンタル、ニオブ若しくはこの双方を含有し、アンチモンを不純物として含有した鉱石若しくは精鉱から、アンチモンを効率よく除去する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、タンタル、ニオブ若しくはこれらの化合物(以上及び以下において、単に「タンタル、ニオブ等」と称する場合がある。)等の需要は急速に伸びている。ここで言う「これらの化合物」とは、タンタル酸化物、ニオブ酸化物、タンタル窒化物、ニオブ窒化物等を意味するものとして用いている。タンタル、ニオブ等は、特殊鋼の合金元素としての用途、電子機器用の素子材料として、その使用範囲が拡大しているためである。従って、タンタル、ニオブ等を採取するために用いる原料にはタンタライト、コロンバイト等の鉱石及び精鉱が一般的に用いられる。
【0003】
従来から、タンタル、ニオブ等の採取精製には、直接抽出法が広く用いられてきた。この直接抽出法は、高濃度フッ化水素酸を用いてタンタル及びニオブを溶解抽出するフッ素処理工程を備えているのが通常である。ここで、直接抽出法について簡単に説明する。直接抽出法は、最初に、原料の鉱石を直接そのまま用いる場合もあるが、その鉱石を選鉱することで精鉱とする原料調整から始まるのが一般的である。そして、これら原料は、次工程であるフッ素処理工程に入る前に一定のサイズになるまで粉砕して粒調整が行われる。従来は、鉱石若しくは精鉱が0.5m/g以下の比表面積を持つようになるまでの粉砕が行われていた。
【0004】
そして、次には、フッ素処理工程において、この粉砕後の原料をフッ化水素酸若しくはフッ化水素酸を必須成分とした混酸を抽出液として用いることによりフッ素処理することで、タンタルやニオブの成分を抽出液中に溶出させ(以上及び以下において、この溶出後の溶液を「フッ素抽出液」と称する。)、フィルタープレスなどを使用して溶解しなかった抽出残渣(以上及び以下において「フッ素抽出残渣」と称する。)とを分離する。即ち、この工程が、本件発明で言う「フッ素処理工程」に相当するのである。そして、このようにして得られたフッ素抽出液中に含まれるタンタルやニオブ成分が採取精製されるのである。
【0005】
このとき、タンタル、ニオブを含んだ原料である鉱石若しくは精鉱には、不純物元素としてのアンチモンが含まれているのである。このアンチモンは、上述したフッ素処理工程でも除去することが出来ず。最終的には、フッ素抽出液中に含まれることとなり、精製採取したタンタル、ニオブ等に不純物として含有されるものとなるのである。製品であるタンタル、ニオブ等に不純物として含まれたアンチモンは、タンタル及びニオブを電子材料として用いる際の導電性阻害要因となり、可能な限り含有量を低減することが求められるのである。不純物元素としてのアンチモンは、その除去が最も困難なものである。しかも、用途に応じてタンタル、ニオブ等の製品中における含有量を0.01wt%以下とすることが市場要求として求められるばあいもあるが、安定した除去効率が得られていなかったのである。
【0006】
タンタル、ニオブ等の採取精製におけるアンチモンの除去技術に関しては、種々の研究が行われてきたが、いずれも18mol/l以上の高濃度フッ化水素酸溶液を用いたフッ素処理工程を前提とした技術である。例えば、特開平10−68029号に開示された発明も、フッ素濃度が18mol/l以上の濃度領域において、アンチモン除去の可能な方法として限定されている。フッ化水素酸溶液は、pKa=3.6程度の弱酸であり、フッ素イオン濃度を低下させると、アンチモン除去の際に用いる卑金属元素のアンチモンを置換析出させる効果が低下して、アンチモンの除去効果が実質上得られなくなる等制御の困難なものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高濃度フッ化水素酸溶液を用いてのタンタル、ニオブ等の採取精製では、装置の腐食問題、作業上の安全性、大気中へのフッ化水素酸ガスの希散による環境汚染問題等を解決しなければならない。そのための設備投資には、極めて大きなコストが係ることになり、製品価格の低廉化を阻害する要因となっていた。
【0008】
また、一方では、タンタル、ニオブ等の採取精製のプロセスとして考えて、タンタル、ニオブを抽出する溶液として、現段階ではフッ化水素酸系溶液以外のものは考えられないのが現状である。
【0009】
従って、上述した問題を根本から解決することは困難であるが、フッ素処理工程でフッ素処理残渣を得た後のフッ素抽出液のフッ素イオン濃度を低減させることが出来れば、廃液処理、装置負荷、人体負荷、環境負荷をより軽減することができ、そのようなタンタル、ニオブ等の採取精製技術が望まれてきた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、フッ素処理工程で、最終的に得られるフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度を20mol/l未満に低減しても、後のアンチモン除去が容易に行えることの出来る製造方法に想到したのである。本件出願に係る発明は、このフッ素抽出液にフッ化水素酸を必須成分とする混酸を用いて、フッ素処理した後のフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度が20mol/l未満である場合の溶液から、不純物であるアンチモンを効率よく除去することの出来る方法を開示するのである。即ち、従来アンチモン除去が不可能と考えられてきたフッ素イオン濃度が18mol/l未満の領域においても、従来の方法では達成できなかった高いアンチモンの除去効率を達成できるのである。以下、説明する。
【0011】
請求項1には、タンタル、ニオブ若しくはこの双方を含有し、且つ、アンチモンを不純物として含有した鉱石若しくは精鉱を原料とし、フッ素処理工程で当該原料をフッ化水素酸で処理してニオブ、タンタル等の溶出したフッ素抽出液とフッ素処理残渣とを分取し、アンチモン除去工程で当該フッ素抽出液に鉱酸を所定量添加し液温を20〜60℃に維持し、ここに卑金属成分を添加することで不純物成分として溶解しているアンチモンを当該卑金属成分上に置換析出させ、当該卑金属成分が完全溶解する前に残渣として分離除去するアンチモンの除去処理をし、そのフッ素抽出液からタンタル、ニオブ等を採取精製するタンタル、ニオブ等の製造方法であって、原料である鉱石若しくは精鉱は、その比表面積が0.5m/g〜10m/gである微粉原料であり、フッ素処理工程で用いるフッ化水素酸は20wt%〜60wt%のフッ化水素酸溶液を用い、アンチモン除去工程で前記フッ素抽出液に鉱酸を添加することでフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成であることを特徴としたタンタル、ニオブ等の製造方法としている。この請求項1に記載したタンタル、ニオブ等の製造方法を分かりやすく示すと図1に示すような製造フローである。
【0012】
請求項1に記載の発明における特徴を、表1を参照しつつ説明する。特徴は、▲1▼微粉化工程において鉱石若しくは精鉱を粉砕し比表面積が0.5m/g〜10m/gに調整した微粉原料を用いること。▲2▼フッ素処理工程で用いるフッ化水素酸は55wt%の低濃度フッ化水素酸溶液を用いること。▲3▼アンチモン除去工程で前記フッ素抽出液に鉱酸を添加することでフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの混酸組成とすること。の3点にある。
【0013】
この特徴の内、特徴▲1▼と特徴▲2▼とは、密接に関連した物である。通常、鉱石若しくは精鉱を原料として用いる場合は、比表面積が0.5m/g未満の粗粒に粉砕して用いるのが通常である。そして、従来は、この鉱石若しくは精鉱を原料とする場合には、80wt%の高濃度フッ化水素酸溶液が用いられる。この程度のフッ化水素酸濃度でなければ、タンタル、ニオブを効率よく溶解させることが困難とされてきたからである。
【0014】
これに対し、本件発明者等は、より濃度の薄い20wt%〜60wt%程度のフッ化水素酸溶液を用いている。ここで言う下限値である濃度20wt%未満のフッ化水素酸溶液を用いても、原料からタンタル及びニオブを効率よく溶出させることは出来ず、一方、60wt%を超える濃度のフッ化水素酸溶液を用いるとすれば、原料を微粉化させる意味合いはなくなるからである。そこで、本件明細書においては、発明者等が、市販されている最も一般的で入手し易い55wt%と称されるフッ化水素酸溶液を用い採取したデータを基に以下の説明を行うこととする。
【0015】
まず、鉱石若しくは精鉱中からタンタル及びニオブを溶液中に溶解させるためにはどのようにすればよいのかを鋭意研究した。その結果、鉱石若しくは精鉱を細かく粉砕し、一定レベル以上の微粉粒(以上及び以下において、「微粉原料」と称する。)とすることが最も効果的であることが分かった。鉱石若しくは精鉱を微粉原料とすることで、フッ化水素酸溶液との接触反応界面面積を増加させ、溶解挙動が早く起こるようにするのである。そのためには、本件発明者等が鋭意研究した結果、比表面積が0.5m/g以上となる程度の微粉粒とすればよいことが判明した。この値は、工業上求められる生産性を考慮して定められるものであるが、タンタル及びニオブの溶出効率が臨界的に変化する点でもある。
【0016】
このことをデータとして、ここで示しておく。タンタル及びニオブをTaとして30wt%、Nbとして30wt%含有した精鉱を、50wt%フッ化水素酸溶液を用いて24時間処理した結果を示しておく。比表面積0.1m/gの精鉱の溶出効率28%、比表面積0.4m/gの精鉱の溶出効率72%、これに対し、比表面積0.5m/gの精鉱の溶出効率91%、比表面積5m/gの精鉱の溶出効率99%であった。本件明細書で言う比表面積とは、BET法を用いて測定した値を用いて表している。そして、溶出効率(%)=[(溶液中に含有しているタンタルとニオブとの合計重量)/(精鉱中に含まれるタンタルとニオブとの合計重量)]×100として求めている。
【0017】
また一方では、鉱石若しくは精鉱を細かく粉砕した微粉原料とするほどタンタル、ニオブの溶出効率は向上するとしても、そこには設備の健全維持の可能な範囲においてとの条件を考慮しなければならない。即ち、一定レベル以上の細かな微粉粒としても、フッ化水素酸によるタンタル、ニオブの抽出効率は頭打ちとなり、粉砕に要する時間だけが掛かることとなり工業上好ましくない。また、あまりにも細かな微粉粒は、槽内に沈殿したとき強固に固化することとなり除去することが困難となり、しかも配管内での目詰まりを起こし易くなるのである。研究の結果、その限界が比表面積10m/gであることが明らかとなったのである。従って、鉱石若しくは精鉱を比表面積0.5m/g〜比表面積10m/gの範囲となるように粉砕することが好ましいのである。
【0018】
次に、特徴▲3▼にあるように、アンチモン除去工程で前記フッ素抽出液に鉱酸を添加することでフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの混酸組成とする理由については、以下に説明する。アンチモンの除去工程とは、タンタル、ニオブ、不純物としてのアンチモンが溶解した溶液中に、所定の卑金属成分を添加し、その添加した卑金属成分とアンチモンとのイオン化傾向の差を利用して、卑金属成分の上にアンチモンを置換析出させ除去する工程のことである。
【0019】
原料中にあるタンタル、ニオブ及び不純物としてのアンチモンはフッ化水素酸以外の鉱酸での溶解が困難であるため、従来から、高濃度のフッ化水素酸を単独で用いることが行われてきた。そして、フッ化水素酸と鉱酸等との混酸を用い溶解抽出した溶液から、アンチモンを除去することは従来から不可能と認識されてきた。このことは、特開平10−68029号にも、フッ化水素酸以外の鉱酸を用いることは出来ず、フッ化水素酸濃度が18Nよりも高い溶液からのアンチモン除去技術として開示されていることからも明らかである。
【0020】
ところが、本件発明者等は、アンチモンを除去する段階において、フッ化水素酸と鉱酸との混酸を用いることで、フッ化水素酸の使用量を相対的に低減させることが可能か否かを再検討してみることとしたのである。このとき、本件発明者等は、次のように考えた。即ち、タンタル、ニオブ、不純物であるアンチモン等のフッ化水素酸でなければ溶解不可能なもののみを溶解させることの出来る最低限量のフッ化水素酸と、鉱酸でも溶解除去可能なその他の成分については鉱酸の溶解力を適用するという考え方を採用したのである。更に、この混酸を用いることで、以下のアンチモン除去の溶液に必要な卑金属元素との置換反応を円滑に行うための酸性度の確保ができるようになり、アンチモン除去作業が円滑に行えるものとなるのである。
【0021】
このとき、アンチモン除去工程において、フッ化水素酸と鉱酸との混酸の状態になっていればよいのである。従って、フッ素処理工程の段階で、フッ化水素酸を単独で用いた場合は、アンチモンの除去を行うための卑金属成分を添加する前に鉱酸を添加して調整を行い所定の溶液組成とすればよいのである。このことは表1のフローからも見て取ることが可能である。
【0022】
以上のような概念に基づき、鋭意研究を行った結果、フッ素抽出液として、従来アンチモン除去が不可能と言われていた18mol/l未満のフッ素イオン濃度の溶液であっても、フッ化水素酸と鉱酸との混酸状態とすることでアンチモン除去は、極めて高い除去効率を持って可能であるとの結論を得たのである。しかも、特開平10−68029号に開示された18mol/l以上の高濃度フッ化水素酸溶液からのアンチモン除去効率と比較して、格段に効率よくアンチモン除去が可能となることが判明したのである。この除去効率については、以下でより詳細に説明することとする。
【0023】
更に、鋭意研究した結果、フッ素抽出液中のフッ素イオン濃度が18mol/l〜20mol/lの範囲であっても、混酸溶液の状態とすることで、特開平10−68029号に開示されたアンチモン除去方法の持つ効果に比べ、遙かに高い除去効率を達成できることも判明してきたのである。
【0024】
ここで、本件発明において用いている「フッ素イオン濃度」という用語について説明をしておく。前記フッ素抽出液は、タンタル、ニオブ等を含有している。従って、前記フッ素抽出液中では、フッ化水素酸のフッ素は、これらのタンタル、ニオブ等と金属錯イオンを形成するか、当該金属錯体を形成しなかった未反応のフッ化水素酸はHFの状態若しくは解離してFの状態で存在している。本件明細書では、かかる場合の「HFの状態若しくは解離してFの状態」で存在するフッ素量を、イオン電極法を用いて測定した値を「フッ素イオン濃度」と称している。なお、本件明細書で使用する各表中においては、フッ素イオン濃度をFとして表示している。
【0025】
請求項1において、「アンチモン除去工程で当該フッ素抽出液に鉱酸を所定量添加し、液温を20〜60℃に維持し、ここに卑金属成分を添加することで不純物成分として残留しているアンチモンを当該卑金属成分上に置換析出させてアンチモンの除去処理をし、」とあるように、アンチモンの除去は、タンタル、ニオブ、アンチモンを不純物として含有した溶液中に存在するアンチモンと、当該溶液中に添加した卑金属成分との間で置換反応を起こさせ、添加した卑金属成分の表面にアンチモンを置換析出させることにより行うものであることを意味しているのである。従って、「当該卑金属成分が完全溶解する前に残渣として分離除去する」のは、添加した卑金属成分が完全に溶解する事になれば、卑金属成分の表面に析出したアンチモンも当該溶液中に再溶解してしまい、アンチモン除去が出来ないこととなる。このことから、添加した卑金属成分が完全溶解する前に残渣として分離除去すれば、添加した卑金属成分の表面に置換析出したアンチモンを同時に分離除去できるのである。
【0026】
このことから、アンチモン除去における処理時間は、完全溶解が起こるまでの時間が、最も長い処理時間として考えられる。ところが、添加した卑金属の前記溶液中への溶解は、添加して一定時間経過後に急に溶解消失するという性質のものではない。アンチモンとの置換の進行と共に卑金属成分の溶解は進行し、卑金属成分の表面を置換アンチモンが完全被覆した状態となった時点で、アンチモンの最大量を卑金属成分が捕捉したことになる。本件出願に係る発明の場合の処理時間は、30分〜24時間である。ここで述べた置換反応の処理時間は、反応温度、添加する卑金属の種類、処理する液量によっても異なってくるため、処理時間を適宜変更して行うためである。
【0027】
本件発明では、液温が20℃〜60℃以下のタンタル、ニオブ等を抽出した混酸に卑金属成分を添加するのであるが、20℃に満たない温度領域では、置換反応が遅く工業的に予定される生産性を満足しない。これに対して、60℃を越えた温度領域では、置換反応が急激な速さで起こり、激しい水素発生が起こると共に、添加した卑金属成分が完全溶解するまでの時間が短く、卑金属成分の完全溶解前に残渣として除去することが容易でなくなるのである。従って、工業的に使用できる生産性を確保し、アンチモンの置換析出速度を制御することのできる温度範囲として、20℃〜60℃以下としているのである。また、更に、当該液温が20℃〜60℃の範囲の中でも、20℃〜40℃の範囲とするのがより好ましい。最も安定で良好なアンチモンの除去効率が得られるのである。このことについても、以下でデータを示しつつ説明することとする。
【0028】
更に、添加する卑金属成分の量は、卑金属成分をアンチモンを置換析出させるために用いるのであるから、酸化還元反応として捉えて決定されるべきものである。例えば、卑金属成分として鉄を用いようとすると、鉄(Fe)は、アンチモンイオン(Sb5+)に対する電子供給源となるため、鉄イオン(Fe2+)として溶液中に溶けだし、放出された電子をアンチモンイオン(Sb5+)が受け取り、金属アンチモン(Sb)として鉄上に析出することになる。このように考えれば、含有しているアンチモン量を1とすると、理論量として2.5倍の鉄を添加する必要があることになるのである。このようにして算出した卑金属成分の添加量を、以下では「理論量」と称する。
【0029】
この卑金属成分の添加量に関して、本件発明者等が理論量〜理論量×100倍の範囲で卑金属成分を添加して研究をした結果、次のようなことが分かってきた。アンチモンの除去効率の面から見ると、溶液中のアンチモン濃度が高い場合と低い場合とを比較すると、高い場合の方が除去効率が良好になる。そして、この結果を反映するかのように、アンチモン濃度が高いほど理論量に近い卑金属成分の添加量で、良好なアンチモン除去効率の達成が出来ることが判明したのである。一方、アンチモン除去を行う際の除去プロセスとして考えると、卑金属成分を添加した直後の還元速度は非常に速いが、置換析出したアンチモンが卑金属成分の表面を被覆するに従い還元速度が遅くなってくる。従って、理論量よりも過剰の卑金属成分を添加する必要があるのである。また、卑金属成分の量は、鉱酸濃度の影響考慮して定めなければならない。即ち、鉱酸濃度が高い場合には、卑金属成分の溶解速度が速くなるため、大過剰の量を必要とすることとなるのである。
【0030】
これらのことを考えるに、本件発明において添加する卑金属成分の量は、前記溶液中のアンチモンの含有量に対して、使用する卑金属との酸化還元による電子の授受で必要な理論量の3〜1000倍の範囲である。3倍未満の場合には、アンチモンの置換析出速度が遅いばかりでなく、鉱酸による卑金属成分の完全溶解が起こりやすく、操業上の安定性確保が困難となるのである。これに対し、1000倍を越える理論量の卑金属成分を添加したとしても、最終的なアンチモンの除去効率は頭打ちとなり、単にアンチモン除去後の残渣回収量が増加するだけであり、廃棄コストの上昇に繋がるだけとなる。
【0031】
上述のような考え方と合わせて、アンチモン除去を行う際の卑金属成分を、どのような形態で前記溶液中に添加するかによっても、アンチモン除去効率は大きな影響を受けることになる。即ち、溶液中のアンチモンイオンと、添加した卑金属成分との接触反応界面面積を以下に広くとるかの問題となる。従って、卑金属成分は、顆粒状若しくは粉末状が好ましい。このように接触反応界面面積だけを考えれば、より微細で細かなものが好ましいと考えられる。ところが、本件発明に係るアンチモン除去方法においては、当該卑金属成分が完全溶解するほど微細なものであってはならないのである。
【0032】
従って、本件発明者等が、上述した卑金属成分の添加に関する研究の全条件を満たすものとして、平均粒径が10μm〜1000μmの卑金属粒を用いることが好ましいと結論付けた。上述した10μm未満の平均粒径では、本件発明に係る方法では、完全溶解が起こりやすく工程の制御が困難となるのである。一方、平均粒径が1000μmを越えると接触反応界面面積の低下が、アンチモン除去効率に大きな影響を与え出すのである。
【0033】
本件発明に係るアンチモン除去が、溶解したアンチモンと添加した卑金属成分との置換反応により行われることを考えれば、卑金属成分の添加量に特段の上限はない。アンチモンとの置換が円滑に行える最低限量が添加されていれば足りるのであり、不必要に多量の卑金属成分を添加することは、資源の無駄遣いであり、製造コスト押し上げる要因ともなり、商業生産上は好ましくないのである。
【0034】
次に、「前記溶解液はフッ化水素酸と鉱酸とを含み、原料溶解後の溶液中のフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成を持つもの」としている。フッ素イオン濃度が1mol/l未満の領域だと、タンタル、ニオブ及びアンチモンの溶解度が低下し、アンチモン除去工程で用いる溶液中の金属濃度が低下し、アンチモンの除去効率が低下するのである。一方、フッ素イオン濃度が20mol/l以上になると、産業界の可能な限りフッ素イオン濃度を低減したいという要請を満足せず、しかも、次に述べる鉱酸濃度との関係において、最も効率よくアンチモン除去をすることの出来る適正範囲から外れてくるのである。
【0035】
従って、鉱酸濃度はフッ素イオン濃度との組み合わせとして考え、アンチモン除去が最も効率的に行える範囲として定めなければならないことになる。鉱酸濃度が0.5mol/l未満の領域では、一般的な原料組成を考慮して、上述した鉱酸に求める役割を果たさず、最低限のフッ素イオン濃度を考慮した際に、アンチモン除去の効率を向上させる役割も果たさないのである。一方、鉱酸濃度が10mol/lを越えた場合も、前述のフッ化水素酸濃度との関係において、アンチモン除去の効率が減少傾向となるのである。
【0036】
次に、「アンチモン除去工程で前記フッ素抽出液に鉱酸を添加することでフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成」としている。フッ素イオン濃度が1mol/l未満の領域だとアンチモンの除去効率が低下するためである。一方、フッ素イオン濃度が20mol/l以上になると、産業界の可能な限りフッ素イオン濃度を低減したいという要請を満足せず、しかも、次に述べる鉱酸濃度との関係において、最も効率よくアンチモン除去をすることの出来る適正範囲から外れてくるのである。
【0037】
従って、鉱酸濃度はフッ素イオン濃度との組み合わせとして考え、アンチモン除去が最も効率的に行える範囲として定めなければならないことになる。鉱酸の遊離酸濃度が0.5mol/l未満の領域では、一般的な原料組成を考慮して、上述した鉱酸に求める役割を果たさず、最低限のフッ素イオン濃度を考慮した際に、アンチモン除去の効率を向上させる役割も果たさないのである。一方、鉱酸の遊離酸濃度が10mol/lを越えた場合も、前述のフッ化水素酸濃度との関係において、アンチモン除去の効率が減少傾向となるのである。
【0038】
ここで、請求項2には、タンタル、ニオブ若しくはこの双方を含有し、且つ、アンチモンを不純物として含有した鉱石若しくは精鉱を原料とし、フッ素処理工程で当該原料をフッ化水素酸と鉱酸との混酸で処理してニオブ、タンタル等の溶出したフッ素抽出液とフッ素処理残渣とを分取し、アンチモン除去工程で当該フッ素抽出液の液温を20〜60℃に維持し、ここに卑金属成分を添加することで不純物成分として溶解しているアンチモンを当該卑金属成分上に置換析出させ、当該卑金属成分が完全溶解する前に残渣として分離除去するアンチモンの除去処理をし、そのフッ素抽出液からタンタル、ニオブ等を採取精製するタンタル、ニオブ等の製造方法であって、原料である鉱石若しくは精鉱は、その比表面積が0.5m/g〜10m/gに調整した微粉原料であり、フッ素処理工程で前記微粉原料をフッ化水素酸と鉱酸との混酸で処理して得られるフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度が10〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成であることを特徴としたタンタル、ニオブ等の製造方法としている。この製造フローを図2に分かりやすく示している。
【0039】
この請求項2に記載の発明は、フッ素処理工程において用いる溶解液として、フッ化水素酸の単独溶液ではなく、フッ化水素酸と鉱酸との混酸を用いる点が請求項1に記載の製造方法と異なっている。ここでは55wt%フッ化水素酸と鉱酸との混酸を用いることを意図しており、「フッ素処理工程で前記原料をフッ化水素酸と鉱酸との混酸で処理して得られるフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成」とあるように、55wt%フッ化水素酸と鉱酸との混酸中にタンタル、ニオブ、不純物であるアンチモンが溶出したフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成を備えるものとしているのである。この溶液組成は、請求項1の発明の説明において述べたと同様の溶液組成であり、請求項1に記載の発明と同様の効果を得る結果となる。従って、重複した説明となるため、ここで詳細に説明することは省略する。
【0040】
このようにすれば、請求項1に記載の製造方法のようにアンチモン除去工程において、事後的にフッ素抽出液に鉱酸を添加する必要が無く、フッ素抽出液を何ら調整することなく、直接、卑金属成分を添加してアンチモンの除去処理を行うことが可能となるのである。結果として、工程の短縮化が可能であり生産コストの低減に寄与することとなるのである。
【0041】
請求項3には、鉱酸は塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸から選ばれる1種以上を含有したものである請求項1又は請求項2に記載のタンタル、ニオブ等の製造方法としている。
【0042】
ここで言う鉱酸とは、有機酸に対する概念として一般に鉱物酸と称されるものを言うのであって、これらを用いることが出来るのである。これら鉱酸は、前述したフッ化水素酸の酸解離定数と比較して、いずれも大きな酸解離定数を持つものであり、卑金属上にアンチモンを置換析出させるために必要となる水素イオンを供給する能力において優れているのである。この中でも、硫酸を用いるのが非常に好ましい。後の一般的に用いられるメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いての溶媒抽出による精製工程に何ら悪影響を与えないためである。また、これらの鉱酸の複数種を併用することも可能である。従って、「・・・1種以上を含有したもの・・・」としているのである。
【0043】
請求項4には、アンモニア除去の際に用いる卑金属成分は、標準電極電位が−2V〜0Vの範囲にある金属成分を用いるものである請求項1〜請求項3のいずれかに記載のタンタル、ニオブ等の製造方法としている。そして、請求項5には、アンモニア除去の際に用いる卑金属成分は、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、錫、鉛から選ばれる1種以上である請求項1〜請求項4のいずれかに記載のタンタル、ニオブ等の製造方法としている。
【0044】
即ち、請求項4には、電気化学的な見地より、アンチモンとの置換反応が可能な範囲の標準電極電位を持つ金属成分を卑金属成分として用いることを明らかとしている。そして、請求項5には、より具体的に、元素名を明らかにすることで、卑金属成分の特定を行っているのである。この中でも、鉄を用いることが、工業的見地より最も好ましいのである。即ち、鉄は磁性材であり、アンチモンを置換析出させた後も、残留した鉄分を磁石を用いて回収することができるのである。このようにすることにより、濾過して除去する等の作業が不要となり、しかも確実に残留した鉄分の回収が可能となるのである。
【0045】
以下、データを示しつつ、本件発明に係るタンタル、ニオブ等の製造方法におけるアンチモン除去の効果について説明する。
【0046】
【表1】
Figure 0003690990
【0047】
表1には、タンタル、ニオブの双方を含有し、且つ、アンチモンを不純物として含有した溶液のフッ素イオン濃度を変化させ、アンチモン(Sb)の除去率に対する影響を示している。そして、この表1では、フッ化水素酸と混合して用いる鉱酸は硫酸とし、3.0mol/lの一定濃度となるようにしているのである。その他の溶液量、添加金属種(卑金属元素としての鉄)、反応温度等の諸条件は可能な限り同一の条件を採用している。しかしながら、アンチモンの置換析出速度は、溶液の酸性度が大きくなるほど早くなる傾向にある。従って、前述した溶液中のフッ素イオン濃度が上昇すると、よけいにフッ化水素酸が添加されていることになり、アンチモンの置換析出速度が早くなるため、最も適正と考えられる反応時間を酸性度に応じて変化させている。即ち、最もアンチモンの除去効率の高かった反応時間を採用したのである。
【0048】
この表1から明らかとなるように、フッ化水素酸と鉱酸とからなる溶液系からのアンチモンの除去効率は、特開平10−68029号に開示された発明を用いて同様のアンチモンを含有した溶液を処理して得られるアンチモン除去効率に比べ、全体的に極めて優れた除去効率を示している。このことは、実施形態において比較例として示して説明することとする。中でも、フッ素イオン濃度が1mol/l〜18mol/l未満の領域で、アンチモンの除去効率は、ほぼ100%となっている。フッ素イオン濃度が18mol/l〜20mol/lの範囲においても、従来にはないほど、非常に優れた除去効率を示している。この表1で、反応後のSb濃度として、「<1」としているのはプラズマ発光分光分析による検出限界以下であることを意味している。そして、本件発明者等が、この表1に示した結果を基に、より詳細に研究を行い調査した結果、フッ素イオン濃度が1mol/l〜20mol/l未満の領域で、市場要求を遙かに上回るレベルのアンチモン除去効率の達成が可能なことが判明したのである。
【0049】
次に、表2には、アンチモン除去効率の温度依存性を調べた結果を示したものである。このとき反応時間は、上述したと同様の理由で反応温度に応じて最も適正と考えられる時間をそれぞれ採用している。そして、その他の条件は、表1に示した結果が良好であった表1の試験No.4の条件を基本的に採用している。但し、反応温度65℃及び70℃においては、卑金属成分である鉄を添加した場合の水素発生が激しく、卑金属成分の溶解が極めて早く起こるため、作業上の安全性を著しく損なうことになり、工業上使用できないと判断できるため、反応後のアンチモン濃度の測定は行っていない。
【0050】
【表2】
Figure 0003690990
【0051】
この表2から分かるように、反応温度が20℃〜40℃の範囲において、アンチモン除去効率が、ほぼ100%を達成できている。そして、20℃〜60℃の範囲において、本件発明の目的とするところである20mg/l以下のアンチモン濃度が達成できることが分かるのである。20℃未満の反応温度領域では、置換速度が遅いためと考えられるが、目標とする20mg/l以下のアンチモン濃度を達成できないものとなっている。
【0052】
表3には、フッ素イオン濃度を15mol/lとし、鉱酸濃度を変化させ、適正な範囲を検証した結果である。ここでは、鉱酸濃度を変動させたのみで、その他の条件は一定としてアンチモンの除去効率を調べたのである。
【0053】
【表3】
Figure 0003690990
【0054】
この表3に示した結果から分かるように、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの範囲において、本件発明の目的である20mg/l以下のアンチモン濃度が達成できることが分かるのである。そして、1.0mol/l〜8mol/lの範囲において、除去効率がほぼ100%であり、特に優れた結果が得られていのが分かるのである。
【0055】
以上の表1〜表3でデータを示しつつ説明した傾向は、その他の条件である、鉱酸の種類、添加する卑金属の種類等を、本件発明として開示した内容の範囲で変動させても同様である。上述した数値データから得られた結果を持って、請求項に記載した発明の種々の数値データを定めたのである。
【0056】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について工程の順を追って説明する。
【0057】
第1実施形態: 本実施形態は、請求項1に記載の製造方法を実施したものである。まず最初に微粉化工程においては、タンタル及びニオブをTaとして30wt%、Nbとして30wt%含有した精鉱をクラッシャーで粉砕し、これを篩で処理し、これをボールミルを用いて粉砕後の比表面積が5m/gの微粉原料とした。
【0058】
次に、フッ素処理工程について説明する。ここでは55wt%濃度のフッ化水素酸溶液を用いて、液温を60℃とし、ここに前記微粉原料を入れ、攪拌しつつ、24時間のフッ素処理を行った。その結果、タンタル、ニオブ及び不純物であるアンチモンが、フッ素抽出液中に溶出することになる。そして、このフッ素抽出液とフッ素抽出残渣とをフィルタープレスを用いて分離した。このフッ素抽出液を用いて、以下のアンチモン除去を行った。
【0059】
アンチモン除去工程では、まず該フッ素抽出液に鉱酸を添加する事から始まる。ここでは、鉱酸として98wt%の硫酸を用いて、鉱酸を添加した後のフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度を1mol/l〜20mol/l、硫酸濃度を0.5mol/l〜10mol/lの範囲に複数調整した。詳細については表4中に記載している。
【0060】
表4中の調整溶液中のタンタル及びニオブの濃度については、プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて、タンタルとニオブのそれぞれの含有量を測定し、Ta及びNbに換算し、その合計量として表示している。また、アンチモンについても、プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて測定し、調整溶液中の1リットル当たりの含有量として表示している。更に、硫酸濃度の測定には、一般的な滴定法を用いて行った。
【0061】
そして、この調整溶液中に卑金属成分を添加し、表4に記載した所定条件で不純物であるアンチモンを卑金属成分上に置換析出させ、卑金属成分が完全に溶解する前に、残留している卑金属成分を残渣として除去することで、アンチモン除去処理を行ったのである。卑金属成分として鉄を用いた場合の残渣の回収は、磁石を用いることにより行った。その他の場合には、濾過法を用いて行った。
【0062】
アンチモン除去処理の終了したフッ素抽出液中のアンチモン濃度を、上述したと同様の方法で測定し、アンチモン除去処理前のアンチモン濃度を基準として、除去効率を算出した。即ち、[除去効率(%)]=[(除去処理前の調整溶液中のアンチモン濃度)−(除去処理後の調整溶液中のアンチモン濃度)]/[除去処理前の調整溶液中のアンチモン濃度]×100の式により除去効率を求めた。
【0063】
以上のようにして、アンチモンの除去が終了したフッ素抽出液を用いて、メチルイソブチルケトン(MIBK)法を用いてタンタル及びニオブを採取精製した。この結果、表4に示したいずれの溶液の場合であっても、製品中のアンチモン含有率は0.01wt%以下の条件を満足していた。
【0064】
更に、本件発明者等は、上述した本実施形態の効果を確認するため、比較用に特開平10−68029号に開示された18N以上の高濃度フッ化水素酸溶液からのアンチモン除去方法を実験的に行ってみた。比較例として用いた一つは、「18N以上の高濃度フッ化水素酸溶液」とあることから、80wt%の高濃度フッ化水素酸溶液を用いて、フッ素イオン濃度を25N(25mol/l)とした高濃度フッ化水素酸溶液からのアンチモン除去を試みてみた。そして、本件発明者等は、もう一つの比較用に、特開平10−68029号に開示された発明で用いたフッ素イオン濃度を、単に18N(18mol/l)未満(15mol/lのフッ化水素酸濃度を採用した。)として、本件発明と同等の効果が得られるものか否かの確認をも行ったのである。前者を比較例1、後者を比較例2として表4及び第2実施形態で用いる表5中に示している。
【0065】
【表4】
Figure 0003690990
【0066】
第2実施形態: 本実施形態は、請求項2に記載の製造方法を実施したものである。まず最初に微粉化工程においては、第1実施形態と同様の微粉原料を製造した。
【0067】
フッ素処理工程について説明する。ここでは55wt%濃度のフッ化水素酸溶液と、鉱酸である98wt%の硫酸とを混合した混酸を用いて、当該混酸の液温を60℃とし、ここに微粉原料を入れ、攪拌しつつ24時間のフッ素処理を行った。その結果、タンタル、ニオブ及び不純物であるアンチモンが、フッ素抽出液中に溶出することになる。そして、このフッ素抽出液とフッ素抽出残渣とをフィルタープレスを用いて分離した。フッ素処理後のフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度を1mol/l〜20mol/l、硫酸濃度を0.5mol/l〜10mol/lの範囲に複数調整した。濃度の分析方法に関しては、第1実施形態の場合と同様である。このフッ素抽出液を用いて、以下のアンチモン除去を行った。
【0068】
アンチモン除去工程では、該フッ素抽出液に、直接、卑金属成分を添加し、表5に記載した所定条件で不純物であるアンチモンを卑金属成分上に置換析出させ、卑金属成分が完全に溶解する前に、残留している卑金属成分を残渣として除去することで、アンチモン除去処理を行ったのである。卑金属成分として鉄を用いた場合の残渣の回収は、磁石を用いることにより行った。その他の場合には、濾過法を用いて行った。なお、アンチモンの除去効率の求め方も、第1実施形態の場合と同様である。
【0069】
以上のようにして、アンチモンの除去が終了したフッ素抽出液を用いて、メチルイソブチルケトン(MIBK)法を用いてタンタル及びニオブを採取精製した。この結果、表5に示したいずれの溶液の場合であっても、製品中のアンチモン含有率は0.01wt%以下の条件を満足していた。
【0070】
【表5】
Figure 0003690990
【0071】
更に、本件発明者等は、上述した本実施形態の効果を確認するため、比較用に特開平10−68029号に開示された18N以上の高濃度フッ化水素酸溶液からのアンチモン除去方法を実験的に行ってみた。比較例として用いた一つは、「18N以上の高濃度フッ化水素酸溶液」とあることから、80wt%の高濃度フッ化水素酸溶液を用いて、フッ素イオン濃度を25N(25mol/l)とした高濃度フッ化水素酸溶液からのアンチモン除去を試みてみた。そして、本件発明者等は、もう一つの比較用に、特開平10−68029号に開示された発明で用いたフッ素イオン濃度を、単に18N(18mol/l)未満(15mol/lのフッ化水素酸濃度を採用した。)として、本件発明と同等の効果が得られるものか否かの確認をも行ったのである。前者を比較例1、後者を比較例2として表4及び表5中に示している。なお、これらを用いて上述のメチルイソブチルケトン(MIBK)法を用いてタンタル及びニオブを採取精製したが、いずれの場合にも製品中のアンチモン含有量が0.01wt%を越えるものとなっていた。
【0072】
この表4及び表5から分かるように、本件発明に係る実施形態で行ったアンチモン除去処理は、いずれもフッ素抽出液中のアンチモン濃度を20mg/l以下にまで低減させることが可能で、アンチモン除去効率もほぼ100%を達成できるものである事が分かる。これに対して、比較例1の場合には、約42.9%の除去効率しか得られず、本実施形態と同様の卑金属元素添加、反応温度、反応時間等の条件が同じであれば、アンチモンの除去速度が遅くなることが分かる。従って、本件発明に係るアンチモン除去方法の方が、比較例1の方法に比べて、効率の良いアンチモン除去が可能となると言えるのである。
【0073】
また、比較例2の場合を見てみると、アンチモン除去効率が極端に悪くなっていることが分かる。従って、確かに特開平10−68029号の開示した発明のフッ化水素酸濃度を単に下げても、本件出願に係る発明と同等の除去効率の達成が出来ないことが分かるのである。
【0074】
【発明の効果】
本件発明に係るタンタル、ニオブ等の製造方法によれば、微粉化した鉱石若しくは精鉱を用いることで55wt%フッ化水素酸での溶解が可能となり、設備上の損傷を軽減することが可能であり、作業者及び環境に対する負荷を軽減することが可能となる。また、アンチモン除去工程において、溶液をフッ化水素酸と鉱酸との混酸状態とすることで、アンチモンの除去が非常に高い効率で可能となるのである。その結果、複雑な工程を経る必要も、アンチモン除去処理を複数回繰り返して行う必要もなく、ワンオペレーションで安定してタンタル、ニオブ等の製品中のアンチモン含有量を0.01wt%以下にすることが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】製造フローを表す図。
【図2】製造フローを表す図。

Claims (5)

  1. タンタル、ニオブ若しくはこの双方を含有し、且つ、アンチモンを不純物として含有した鉱石若しくは精鉱を原料とし、フッ素処理工程で当該原料をフッ化水素酸で処理してニオブ、タンタル等の溶出したフッ素抽出液とフッ素処理残渣とを分取し、アンチモン除去工程で当該フッ素抽出液に鉱酸を所定量添加し液温を20〜60℃に維持し、ここに卑金属成分を添加することで不純物成分として溶解しているアンチモンを当該卑金属成分上に置換析出させ、当該卑金属成分が完全溶解する前に残渣として分離除去するアンチモンの除去処理をし、そのフッ素抽出液からタンタル、ニオブ等を採取精製するタンタル、ニオブ等の製造方法であって、
    原料である鉱石若しくは精鉱は、その比表面積が0.5m/g〜10m/gである微粉原料であり、
    フッ素処理工程で用いるフッ化水素酸は20wt%〜60wt%のフッ化水素酸溶液を用い、
    アンチモン除去工程で前記フッ素抽出液に鉱酸を添加することでフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成であることを特徴としたタンタル、ニオブ等の製造方法。
  2. タンタル、ニオブ若しくはこの双方を含有し、且つ、アンチモンを不純物として含有した鉱石若しくは精鉱を原料とし、フッ素処理工程で当該原料をフッ化水素酸と鉱酸との混酸で処理してニオブ、タンタル等の溶出したフッ素抽出液とフッ素処理残渣とを分取し、アンチモン除去工程で当該フッ素抽出液の液温を20〜60℃に維持し、ここに卑金属成分を添加することで不純物成分として溶解しているアンチモンを当該卑金属成分上に置換析出させ、当該卑金属成分が完全溶解する前に残渣として分離除去するアンチモンの除去処理をし、そのフッ素抽出液からタンタル、ニオブ等を採取精製するタンタル、ニオブ等の製造方法であって、
    原料である鉱石若しくは精鉱は、その比表面積が0.5m/g〜10m/gに調整した微粉原料であり、
    フッ素処理工程で前記微粉原料をフッ化水素酸と鉱酸との混酸で処理して得られるフッ素抽出液中のフッ素イオン濃度が1〜20mol/l、鉱酸濃度が0.5mol/l〜10mol/lの組成であることを特徴としたタンタル、ニオブ等の製造方法。
  3. 鉱酸は塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸から選ばれる1種以上を含有したものである請求項1又は請求項2に記載のタンタル、ニオブ等の製造方法。
  4. アンチモン除去工程で用いる卑金属成分は、標準電極電位が−2V〜0Vの範囲にある金属成分を用いるものである請求項1〜請求項3のいずれかに記載のタンタル、ニオブ等の製造方法。
  5. アンチモン除去工程で用いる卑金属成分は、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、錫、鉛から選ばれる1種以上である請求項1〜請求項4のいずれかに記載のタンタル、ニオブ等の製造方法。
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