JP3687481B2 - インクジェット式記録ヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴を吐出させるのに好適な振動子ユニット、及び、これを用いたインクジェット式記録ヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のインクジェット式記録ヘッド、例えば、圧電振動子を電気機械変換素子として用いたインクジェット式記録へッドにおいては、複数のノズル開口を列状に開設したノズルプレート上に流路形成板と振動板とを順に積層して流路ユニットを構成し、流路ユニットをケースに接合する。
即ち、図5(a)に示すように、この記録ヘッド50は、複数の圧電振動子51…をユニット化した圧電振動子ユニットと、圧電振動子ユニットを内部に収納固定可能なケース52と、ケース52の先端面に接合される流路ユニット53とを備えている。この流路ユニット53は、流路形成板54の一方の面にノズルプレート55を接合し、他方の面に振動板56を接合することで構成されている。
【0003】
ノズルプレート55には、複数のノズル開口57…を列状に開設している。また、流路形成板54には、各ノズル開口57にそれぞれ連通する複数の圧力発生室58、各圧力発生室58に供給するインクを貯留する共通インク室59、及び、この共通インク室59とそれぞれの圧力発生室58との間を連通するインク供給口60などを隔壁によって区画することで形成している。振動板56は、例えば、ステンレス鋼板61に樹脂フィルム62をラミネートした複合板をエッチング加工することにより形成されており、ステンレス鋼鈑61の部分を島状に残すことで島部(厚肉部)56aを形成し、島部56aの周囲には樹脂フィルム62だけの薄肉部56bを形成している。そして、圧電振動子51における自由端部の先端部が島部56aに当接するようにして圧電振動子ユニットをケース52に固定する。
【0004】
この様に構成された記録へッド50は、共通インク室59のインクをインク供給口60を通じて各圧力発生室58内に供給し、圧電振動子51の伸縮により振動板56を撓ませて圧力発生室58内に圧力変動を生じさせ、この圧力変動によってノズル開口57からインク滴を吐出する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、この種の記録ヘッドにおいては、圧電振動子の駆動時に、圧電振動子の横振動が励起されてしまうことがある。
例えば、図5(a)において、圧電振動子51の先端部が、島部56aの長手方向の中央からずれて接合された場合には、圧電振動子51を伸長させた際に、島部56aにおける長手方向一端側から受ける反力と他端側から受ける反力とが異なる。そして、この反力のバランスの差に起因して圧電振動子51に曲げモーメントが発生する。ここで、圧電振動子51の縦振動と横振動とが同調してしまうと、縦振動のエネルギーが横振動のエネルギーに移行して横振動が加振され、島部56aの長手方向側の横振動(つまり、撓み振動)が励起されてしまう。
【0006】
そして、この横振動が励起されてしまうと、図中αで示すように、圧力発生室58内を往復する圧力波が発生する虞がある。この圧力波αは、まるで圧力発生室58内が音響管であるかのように振る舞い、ノズル開口57とインク供給口60との間で反射往復を繰り返す。これにより、図5(b)中に実線で示すように、圧力発生室58内においてノズル開口57側のインク圧力が高いときにはインク供給口60側のインク圧力が低くなり、また、点線で示すように、ノズル開口57側のインク圧力が低いときにはインク供給口60側のインク圧力が高くなるという圧力の偏りが生じてしまう。
【0007】
この圧力波αに関しては、制振させるためのダンパー要素がないので、比較的長い時間に亘って反射往復が繰り返される。その結果、メニスカス(ノズル開口で露出しているインクの自由表面、図5中に符号63で示す)の振動がなかなか収束しないという問題が生じる。
そして、メニスカスの振動が十分に収束していない状態で次のインク滴を吐出させてしまうと、インクミストやサテライトが発生するなど、インク滴の吐出が不安定になってしまう。このため、メニスカスの振動が十分に収束するまで待つ必要が生じ、高周波数での駆動を妨げる一因となっている。
【0008】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、インク滴の吐出を安定させ、高周波数での駆動が行える振動子ユニット、及び、インクジェット式記録ヘッドを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために提案されたもので、請求項1に記載のものは、長手方向の一端が固定されて自由端部が駆動信号によって長手方向に伸縮する電気機械変換素子を備えた振動子ユニットと、ノズル開口に連通した圧力発生室が形成され、該圧力発生室の一部を構成する振動板を備えた流路ユニットとを備え、
前記振動板は圧力発生室に対応する部分に島部を備え、
前記電気機械変換素子における自由端部の先端部を島部に当接固定し、電気機械変換素子の伸縮により圧力発生室の膨張・収縮を制御してノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドであって、
前記振動子ユニットは、電気機械変換素子の長手方向の伸縮である縦振動の1次モード周期を、該素子の長手方向に直交する方向の振動である横振動の1次モード周期よりも短くしたことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドである。
【0010】
ここで、「縦振動1次モード周期」とは、長手方向(縦方向)の振動の1次モードであり、「横振動1次モード周期」とは、長手方向に直交する方向(横方向)の振動の1次モードである。また、「電気機械変換素子」とは、駆動信号の印加によって機械的な変形を生じさせる素子であり、例えば、圧電振動子が該当する。
【0011】
請求項2に記載のものは、前記電気機械変換素子の駆動時に、自由端部の全体に亘って同時に駆動電圧を供給するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0012】
請求項3に記載のものは、前記電気機械変換素子を、縦方向に細長い櫛歯状に形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0013】
請求項4に記載のものは、前記電気機械変換素子が横効果型の圧電振動子であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0014】
請求項5に記載のものは、前記電気機械変換素子が縦効果型の圧電振動子であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0015】
請求項6に記載のものは、前記圧電振動子が、圧電体と内部電極とを交互に積層して構成された積層型圧電振動子であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0018】
請求項7に記載のものは、島部がノズル開口の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、
電気機械変換素子の横振動の方向が島部の長手方向と一致していることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0019】
請求項8に記載のものは、島部長手方向側についての電気機械変換素子の中心と島部の中心とを揃え、この状態で電気機械変換素子の先端部を島部に当接させたことを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0020】
請求項9に記載のものは、圧力発生室の内部を反射往復する圧力振動の振動周期がインクに励起される固有振動の振動周期よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項8の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0021】
請求項10に記載のものは、圧力発生室は、ノズル開口の列設方向と直交する方向に細長い室であることを特徴とする請求項1から請求項9の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0022】
請求項11に記載のものは、電気機械変換素子の一端が固定板に接合され、自由端部が固定板の縁よりも突出していることを特徴とする請求項1から請求項10の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0023】
請求項12に記載のものは、電気機械変換素子の縦振動の1次モード周期を、圧力発生室内のインクに励起される固有振動の振動周期よりも短くしたことを特徴とする請求項1から請求項11の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0024】
請求項13に記載のものは、電気機械変換素子の横振動の1次モード周期を、圧力発生室内のインクに励起される固有振動の振動周期よりも長くしたことを特徴とする請求項1から請求項12の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、図4を参照して、代表的な画像記録装置であるインクジェット式プリンタ31(以下、プリンタ31という。)について説明する。
【0026】
例示したプリンタ31は、記録ヘッド2が取り付けられると共にインクカートリッジ32を保持するキャリッジ33を備えている。このキャリッジ33は、筐体34に架設したガイド部材35に対して移動可能に取り付けられており、ヘッド走査機構によりこのガイド部材35に沿って(つまり、主走査方向に沿って)往復移動される。
【0027】
ヘッド走査機構は、筐体34の左右一端部に設けたパルスモータ36と、このパルスモータ36の回転軸に接続した駆動プーリー37と、筐体34の左右他端部に設けた遊転プーリー38と、駆動プーリー37と遊転プーリー38との間に架け渡されると共にキャリッジ33に接続されたタイミングベルト39と、パルスモータ36の回転を制御するプリンタコントローラ(図示せず)等を備えて構成してある。即ち、このヘッド走査機構は、パルスモータ36を動作させることにより、キャリッジ33、つまり記録ヘッド2を、印刷記録媒体の一種である記録紙40の幅方向に往復移動させる。また、このプリンタ31は、記録紙40を主走査方向とは直交する副走査方向に送り出す紙送り機構を備えている。この紙送り機構は、紙送りモータ41及び紙送りローラ42等から構成されている。そして、プリンタコントローラは、ホストコンピュータから送信された印刷データに基づいて記録ヘッド2、パルスモータ36、及び、紙送りモータ41等を制御し、記録ヘッド2を主走査すると共に、この主走査に連動させて記録紙40を順次送り出す。
【0028】
次に、上記した記録へッド2について詳細に説明する。図1はインクジェット式記録へッド2の一実施形態の断面図、図2は図1に示す記録ヘッド2の要部を示す概略図である。なお、本実施形態の記録ヘッド2には、電気機械変換素子として圧電振動子1を用いている。
【0029】
図1に示すように、例示した記録へッド2は、複数の圧電振動子1…、固定板7、及び、フレキシブルケーブル6等をユニット化した圧電振動子ユニットと、この圧電振動子ユニットを収納可能なケース3と、ケース3の先端面に接合される流路ユニット5とを備えている。
【0030】
ケース3は、先端と後端が共に開放した収納室4が形成された合成樹脂製のブロック状部材であり、収納室4内には圧電振動子ユニットが収納固定されている。この圧電振動子ユニットは、圧電振動子1の櫛歯状先端1aを先端側開口に臨ませた姿勢とされており、固定板7が収納室4の壁面に接着されている。
【0031】
圧電振動子1は、縦方向に細長い櫛歯状をしており、例えば、50μm〜100μm程度の極めて細い幅のニードル状に切り分けられることで形成されている。例示した圧電振動子1は、圧電体1cと内部電極1dとを交互に積層して構成された積層型の圧電振動子であって、電界方向に直交する縦方向に伸縮可能(即ち長手方向に振動可能)な横効果(d31効果)型の圧電振動子である。
そして、各圧電振動子1…は、基端側部分が固定板7上に接合されており、圧電振動子1の自由端部1bを固定板7の縁よりも外側に突出させた片持ち梁の状態で取り付けられている。また、各圧電振動子1…の櫛歯状先端1a…は、それぞれ流路ユニット5の所定部位である島部(アイランド部)22に当接固定されており、フレキシブルケーブル6は、固定板7とは反対側となる振動子の基端部側面で、圧電振動子1と電気的に接続されている。
【0032】
上記の内部電極1dは、一定電位の共通内部電極と、駆動電圧の供給によって電位が変動する個別内部電極とからなり、圧電体1cを挟んで共通内部電極と個別内部電極とを交互に積層している。個別内部電極は圧電振動子単位で電位が変動し、共通内部電極は全ての圧電振動子1で同じ電位とされている。そして、これらの共通内部電極と個別内部電極との重ね合わせ領域は、自由端部1bにおける振動子長手方向のほぼ全域に亘って形成されている。
このため、駆動対象となる圧電振動子1の個別電極に駆動電圧を印加すると、この駆動電圧は当該圧電振動子1の自由端部1bの略全体に亘って同時に供給される。これにより、当該自由端部1bには電極積層方向に一様な電界が一時に作用し、自由端部1bは長手方向に伸長或いは収縮する。このように、自由端部1bの長手方向全域に亘って一様な電界を同時に作用させることにより、自由端部1bを1次モードで励振することができる。
【0033】
流路ユニット5は、流路形成板8を間に挟んでノズルプレート9を流路形成板8の一方の面側に配置し、振動板10をノズルプレート9とは反対側となる他方の面側に配置して積層することで構成されている。
【0034】
ノズルプレート9は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口11…を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、180dpiのピッチで96個のノズル開口11を開設し、これらのノズル開口11…によってノズル列を構成する。そして、このノズル列を、吐出可能なインクの色に対応した複数列形成する。
【0035】
流路形成板8は、図2に示すように、ノズルプレート9の各ノズル開口11…に対応させて圧力発生室13となる空部を隔壁で区画した状態で複数形成するとともに、インク供給口14および共通インク室15となる空部を形成した板状の部材である。圧力発生室13は、ノズル開口11の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室であり、その一部が、流路形成板8の厚さ方向に貫通した断面略平行四辺形の貫通孔16により構成され、残りの部分は堰部17で区画された偏平な凹室で構成されている。この堰部17は共通インク室15から圧力発生室13への流路に形成してあり、該堰部17により流路幅の狭い狭窄部の形で、インク供給口14が形成されている。
そして、この流路形成板8の貫通孔16、圧力発生室13、インク供給口14および共通インク室15は、シリコンウエハーをエッチング加工することにより形成されている。
【0036】
また、本実施形態では、貫通孔16は、圧力発生室13の一端、即ち圧力発生室13内における共通インク室15から最も離れた位置に形成されている。そして、圧力発生室13の他端にインク供給口14が接続され、このインク供給口14とは反対側の端部近傍でノズル開口11が開口するように配置してある。
なお、共通インク室15は、インクカートリッジ32に貯留されたインクを各圧力発生室13に供給するための室であり、長手方向のほぼ中央にはインクカートリッジ32からのインクが通るインク供給管19が連通する。
【0037】
振動板10は、上記圧力発生室13の一方の開口面を封止する封止板と、同じく流路形成板8の他方の面に積層され、共通インク室15の一方の開口面を封止する弾性体膜(薄膜部)とを兼ねており、ステンレス鋼板20上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム21をラミネート加工した二重構造である。そして、同一材により封止板と弾性体膜とを構成するので、封止板として機能する部分、すなわち圧力発生室13に対応した部分のステンレス鋼板20をエッチング加工して圧電振動子1の先端部1aを当接固定するための島部22を形成し、また、弾性体膜として機能する部分、すなわち共通インク室15に対応する部分のステンレス板20をエッチング加工で除去してフィルム部(弾性体膜)21だけにする。上記の島部22は、圧力発生室13の平面形状と同様に、ノズル開口11の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、その長手方向中心と、圧電振動子1の軸心(図示の例では、圧電体積層方向の中心)とを揃えた状態で取り付けてある。
【0038】
上記の構成を有する記録ヘッド2では、圧電振動子1を振動子長手方向(つまり、縦方向)に伸長させることにより、島部22がノズルプレート9側に押圧され、島部22周辺のフィルム部(弾性体膜)21が変形して圧力発生室13が収縮する。また、圧電振動子1を振動子長手方向に収縮させると、フィルム部21の弾性により圧力発生室13が膨張する。そして、圧力発生室13の膨張・収縮を制御することにより、圧力発生室13内のインク圧力が変動してノズル開口11からインク滴が吐出される。
【0039】
そして、この記録ヘッド2における振動系は、図3に示す等価回路によって表すことができる。図3において、記号Mは単位長さあたりの媒質の質量であるイナータンス〔Kg/m4〕であり、Maは圧電振動子1におけるイナータンス、Mnはノズル開口11におけるイナータンス、Msはインク供給口14におけるイナータンスである。記号Rは媒質の内部損失であるレジスタンス〔N・s/m5〕であり、Raは圧電振動子1におけるレジスタンス、Rnはノズル開口11におけるレジスタンス、Rsはインク供給口14におけるレジスタンスである。記号Cは単位圧力あたりの容積変化であるコンプライアンス〔m5/N〕であり、Ccは圧力発生室13を形成している隔壁12と振動板10のコンプライアンス、Caは圧電振動子1におけるコンプライアンス、Cnはノズルプレート9のコンプライアンスである。また、記号Pは圧電振動子1が経時的に発生する圧力、換言すれば、圧電振動子1に印加する電圧パルスを等価圧力に変換したものである。
【0040】
本実施形態では、圧電振動子1の縦振動1次モード周期をその横振動1次モード周期よりも短く設定することにより、圧電振動子1の駆動時において横振動(詳しくは、島部22の長手方向側の撓み振動)が励起されるのを抑制している。
【0041】
ここで、圧電振動子1の縦振動の固有振動数をfvとすると、fvは次式(1)のように表わすことができる。
【0042】
fv=λ/2πL・√(E/ρ)・・・(1)
【0043】
この(1)式において、Lは圧電振動子1の自由端部1bの長さ〔m〕、Eは圧電振動子1の材料の縦弾性係数〔Pa〕、ρは圧電振動子1の材料密度〔kg/m3〕、λは境界条件と振動モードによって定まる無次元の係数であり、縦振動の伝播速度はc=√(E/ρ)である。なお、一様断面の圧電振動子の縦振動の固有振動数は、断面の形状には無関係である。
【0044】
そして、圧電振動子1における縦振動の1次モード周期Tvは、上記の固有振動数fvを用いて次式(2)のように表すことができる。なお、この縦振動の1次モード周期Tvは、圧力発生室13内のインクの固有振動周期Tcに揃えられており、圧電振動子1の縦振動のタイミングと圧力発生室13の容積変化のタイミングとを同期させている。
【0045】
Tv=1/fv・・・(2)
【0046】
また、圧電振動子1の横振動の固有振動数をfhとすると、fhは次式(3)のように表わすことができる。
【0047】
fh=λ2/2πL2×√〔(E・I)/(A・ρ)〕・・・(3)
【0048】
この式(3)において、Lは圧電振動子1の自由端部1bの長さ〔m〕、Eは圧電振動子1の材料の縦弾性係数〔N/m2〕、Iは圧電振動子1の断面二次モーメント〔m4〕、Aは圧電振動子1の断面積〔m2〕、ρは圧電振動子1の材料密度〔kg/m3〕、λは境界条件と振動モードによって定まる無次元の係数である。そして、圧電振動子1は、一端が固定板であり、他端が島部22に当接した支持端とみなせるため、1次モードの計数λは3.927である。
【0049】
この圧電振動子1における横振動の1次モード周期Thは、上記の固有振動数fhを用いて次式(4)のように表すことができる。
【0050】
Th=1/fh・・・(4)
【0051】
従って、本実施形態では、上記の式(1)〜式(4)に基づいて各構成部材の条件を規定し、圧電振動子1における縦振動の1次モード周期Tvが横振動の1次モード周期Thよりも短くなるように構成する。言い換えれば、横振動の1次モード周期Thが縦振動の1次モード周期Tvよりも長くなるように構成する。
【0052】
このように構成することにより、圧電振動子1(詳しくは、自由端部1b)における縦振動と横振動との間には周期のずれが生じ、共振を抑制できる。このため、圧電振動子1の縦振動のエネルギーが横振動のエネルギーに移行し難くなり、圧電振動子1の縦振動による島部長手方向側の横振動(つまり、撓み振動)の励起を抑制できる。
そして、駆動時における横振動の励起が抑制されることにより、ノズル開口11とインク供給口14との間で反射往復を繰り返す圧力波の発生を防止することができる。
その結果、インクミストやサテライトの発生が防止でき、インク滴の吐出を安定させることができる。また、メニスカス23の振動を速やかに収束させることができ、インク滴吐出の応答性を向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態では、圧電振動子1の横振動1次モード周期Thを、圧力発生室13内のインクの固有振動周期Tcよりも長く設定している。
【0054】
ここで、圧力発生室13内のインクに励起される固有振動の振動数fcに関し、この固有振動数fcは、上記Mn、Ms、Ccを用いて次式(5)のように表わすことができる。
【0055】
fc=1/2π×√〔(Mn+Ms)/(Mn・Ms・Cc)〕・・・(5)
【0056】
さらに、インクの固有振動の振動周期(ヘルムホルツ共振周波数)Tcは、上記の固有振動数fcを用いて次式(6)のように表すことができる。このインクの固有振動周期Tcは、インク速度やインク量に影響を与える要因となる。
【0057】
Tc=1/fc・・・(6)
【0058】
従って、本実施形態では、横振動1次モード周期Th>固有振動周期Tcの関係が成立するように、各構成部材の条件を規定する。このように構成することにより、インク滴の吐出によって圧力発生室13内に励起されたインクの固有振動と圧電振動子1(詳しくは、自由端部1b)の横振動との間には、振動周期のずれが生じる。このため、インクの固有振動と圧電振動子1の横振動とが共振せず、インクの固有振動のエネルギーが圧電振動子1の横振動のエネルギーに移行し難くなる。従って、圧電振動子1の横振動が長時間に亘って続いてしまうという不具合を防止することができる。その結果、メニスカス23の振動を速やかに収束させることができ、インク滴吐出の応答性を向上させることができる。
【0059】
さらに、横振動の1次モード周期Thをインクの固有振動周期Tcよりも長く設定しているので、万一、ノズル開口11とインク供給口14との間で反射往復を繰り返す圧力発生室13内部の圧力波が発生してしまったとしても、この圧力波の移動周期は圧電振動子1の横振動周期Thに依存し、インクの固有振動周期Tcよりも長くなる。
このため、インクの固有振動周期Tcで規定されるタイミングで行われているインク滴の吐出タイミングと、圧力波の移動周期とが同調し難くなり、この圧力波に起因するインクミスト等の不具合を防止することができる。
【0060】
また、本実施形態では、島部22の長手方向中心と圧電振動子1の軸心とを略一致させた状態で圧電振動子1と島部22とを当接させているので、振動板10からの反力については、島部長手方向一端側と島部長手方向他端側とで均等になる。これにより、圧電振動子1の縦振動時において、振動板10からの反力のアンバランスに起因する横振動の励起を防止することができる。
【0061】
さらに、圧電振動子1の駆動時には、上記したように、自由端部1bの長手方向全域に亘って一様な電界を作用させて圧電振動子1の縦振動1次モードを積極的に励起するように構成してあるので、駆動時における圧電振動子1の横振動の励起を防止することができる。
従って、この点でも、メニスカス23の振動を速やかに収束させることができ、インク滴吐出の応答性を向上させることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、圧電振動子1の縦振動の1次モード周期Tvと圧力発生室13内のインクの固有振動周期Tcとが略一致している構成について説明したが、インク滴吐出時の応答性を向上させるという観点からすれば、この1次モード周期Tvはインクの固有振動周期Tcよりも短いことが望ましい。
【0063】
また、本実施形態では、電気機械変換素子として、横効果(d31効果)型の圧電振動子1を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、圧電体と内部電極とを振動子長手方向(つまり圧電振動子1の縦方向)に積層し、電界方向に振動可能な縦効果(d33効果)型の圧電振動子にも適用できる。
【0064】
さらに、電気機械変換素子は、圧電振動子に限らず、駆動信号の印加により機械的変形を生じる素子であればよい。例えば、磁歪素子でもよい。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、以下の効果を奏する。
即ち、電気機械変換素子の長手方向の伸縮である縦振動の1次モード周期を、該素子の長手方向に直交する方向の振動である横振動の1次モード周期よりも短くしたので、電気機械変換素子における縦振動と横振動との間には周期のずれが生じる。このため、共振が抑制され、電気機械変換素子の縦振動のエネルギーが横振動のエネルギーに移行し難くなり、電気機械変換素子の縦振動によって横振動が励起されるのを防止できる。
従って、この横振動に起因する圧力波の発生が防止でき、インク滴の吐出が安定する。
その結果、メニスカスの振動を速やかに収束させることができ、インク滴吐出の応答性を向上させることができる。
【0066】
また、電気機械変換素子の駆動時に、自由端部の全体に亘って同時に駆動電圧を供給するように構成した場合には、この自由端部には縦振動1次モードがより強く励起される。このため、駆動時における電気機械変換素子の横振動の励起を防止することができる。従って、インク滴吐出における応答性の一層の向上が図れる。
【0067】
また、島部長手方向側についての電気機械変換素子の中心と島部の中心とを揃え、この状態で圧電振動子の先端部を島部に当接させた場合には、振動板からの反力が島部長手方向一端側と島部長手方向他端側とで均等になる。これにより、電気機械変換素子の縦振動時において、反力のアンバランスに起因する電気機械変換素子の横振動の励起を防止することができる。
【0068】
また、圧力発生室の内部を反射往復する圧力振動の振動周期を、インクに励起される固有振動の振動周期よりも長くした場合には、インク滴の吐出タイミングと、圧力波の移動周期とが同調し難くなり、この圧力波に起因するインクミスト等の不具合を防止することができる。
【0069】
また、電気機械変換素子の横振動1次モード周期を、圧力発生室内のインクに励起される固有振動の振動周期よりも長くした場合には、振動周期のずれによってインクの固有振動と電気機械変換素子の横振動とが共振せず、インクの固有振動のエネルギーが電気機械変換素子の横振動のエネルギーに移行し難くなる。このため、メニスカスの振動を速やかに収束させることができ、インク滴吐出の応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの断面図である。
【図2】記録ヘッドの要部を示す概略図である。
【図3】記録ヘッドにおける振動系を等価回路によって表した説明図である。
【図4】インクジェット式プリンタの構成を説明する斜視図である。
【図5】(a)及び(b)は、何れも従来技術を説明する図である。
【符号の説明】
1 圧電振動子
2 インクジェット式記録ヘッド
3 ケース
4 収納室
5 流路ユニット
6 フレキシブルケーブル
7 固定板
8 流路形成板
9 ノズルプレート
10 振動板
11 ノズル開口
13 圧力発生室
14 インク供給口
15 共通インク室
16 貫通孔
17 堰部
19 インク供給管
20 ステンレス板
21 高分子フィルム部(弾性体膜)
22 島部
23 メニスカス
Claims (13)
- 長手方向の一端が固定されて自由端部が駆動信号によって長手方向に伸縮する電気機械変換素子を備えた振動子ユニットと、ノズル開口に連通した圧力発生室が形成され、該圧力発生室の一部を構成する振動板を備えた流路ユニットとを備え、
前記振動板は圧力発生室に対応する部分に島部を備え、
前記電気機械変換素子における自由端部の先端部を島部に当接固定し、電気機械変換素子の伸縮により圧力発生室の膨張・収縮を制御してノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドであって、
前記振動子ユニットは、電気機械変換素子の長手方向の伸縮である縦振動の1次モード周期を、該素子の長手方向に直交する方向の振動である横振動の1次モード周期よりも短くしたことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - 前記電気機械変換素子の駆動時に、自由端部の全体に亘って同時に駆動電圧を供給するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記電気機械変換素子を、縦方向に細長い櫛歯状に形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記電気機械変換素子は、横効果型の圧電振動子であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記電気機械変換素子は、縦効果型の圧電振動子であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記圧電振動子が、圧電体と内部電極とを交互に積層して構成された積層型圧電振動子であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記島部は、ノズル開口の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、
電気機械変換素子の横振動の方向が島部の長手方向と一致していることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。 - 島部長手方向側についての電気機械変換素子の中心と島部の中心とを揃え、この状態で電気機械変換素子の先端部を島部に当接させたことを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記圧力発生室の内部を反射往復する圧力振動の振動周期がインクに励起される固有振動の振動周期よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項8の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記圧力発生室は、ノズル開口の列設方向と直交する方向に細長い室であることを特徴とする請求項1から請求項9の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記電気機械変換素子の一端が固定板に接合され、自由端部が固定板の縁よりも突出していることを特徴とする請求項1から請求項10の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記電気機械変換素子の縦振動の1次モード周期を、圧力発生室内のインクに励起される固有振動の振動周期よりも短くしたことを特徴とする請求項1から請求項11の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記電気機械変換素子の横振動の1次モード周期を、圧力発生室内のインクに励起される固有振動の振動周期よりも長くしたことを特徴とする請求項1から請求項12の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
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