JP3686206B2 - 防食鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は環境を汚染せず、かつ化学的等の耐久性に優れ、特に有害な鉛分を含まない防食鏡に関する。
【0002】
【従来技術とその解決すべき課題】
従来鏡の裏止め塗料組成物には、防食剤として例えば鉛丹、鉛白、塩基性硫酸鉛、シアナミド鉛、鉛酸カルシウム等の鉛系顔料を配合し、該鉛系顔料によるカチオン効果 (通常鏡に使われる銀、銅等の金属よりイオン化傾向の大きい鉛金属塩により、銀、銅等のイオン化、変質を抑制する) 、還元効果 (金属膜との界面を還元雰囲気にすることにより、金属膜の酸化を防止する) 、中和効果 (鉛系顔料から生じる塩基性物質で腐食部の酸度を中和し、金属膜の酸化を防止する) 、アニオン効果 (鉛系顔料から溶出した陰イオン、例えばシアナミドと、金属膜における金属イオンが反応して不動態皮膜を形成し、金属膜の腐食を抑止する) によって、縁シケ (鏡の縁部に発生する腐食、変質) 、中シケ (前記鏡の縁部の縁シケに対し鏡の内部に発生するスポット状の腐食、変質) の発生を防止していた。
【0003】
このような鉛系顔料を含む裏止め塗料で製鏡した鏡は、例えば米国環境保護局(EPA)で認定した特定の検査機関 (TCLP) での検査、分析によると、鉛分が30〜60mg/L 検出され、同環境保護局の鉛分の規制値5.0mg /L を大幅に超過し、同国においては土壌や水源が汚染されると認定されて該鏡のカレットや加工屑等の廃棄物は放棄できないことになる。
我が国においても近年、環境保護の動きが胎動しており、近々同様な規制が施されることは必至であり、基本的には鉛分を一切含まない鏡の開発が急務である。
【0004】
特開平7-261007号には、裏止め塗料においてビスフェノール型エポキシエステル樹脂にベンゾトリアゾールあるいはその誘導体を配合した鏡が開示されている。なお、その発明の詳細な説明に記載されるように塗料中に鉛系顔料を用いているが、先述の如く鉛系顔料を採用したものは環境保護上使用が抑えられ、さらに使用できなくなる趨勢にあり、また仮に鉛系顔料を採用しなかった場合はベンゾトリアゾール (誘導体) の単独での使用では従来の鉛系顔料を用いたものに比べ防食機能において充分対抗し得ない。
また特開平7-234306号には、銅保護膜と、従来公知の裏止め塗膜との間にベンゾトリアゾールあるいはその誘導体を塗布、形成すること、それにより従来に比べ化学的耐久性を向上させることが開示されている。しかし従来の裏止め塗膜自体鉛分を含むものであるから前記同様使用できなくなるものであり、また裏止め塗膜に鉛分を含まなければベンゾトリアゾール (誘導体) を単独で使用したところで防食機能を満足し得ない。
【0005】
本発明はこのような鏡業界の趨勢に鑑みて鋭意検討の結果完成に達したものであって、鏡の加工性 (切断、面取り等) は勿論、化学的、機械的耐久性においても、鉛系顔料を有する裏止め塗膜を採用した鏡と同等の性能を有し、かつ鉛を含有することなく、従って環境汚染を誘起することのない防食鏡を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
ガラス基材の少なくとも片面に銀鏡膜、銅膜等の金属(A) の膜を形成し、該金属(A) 膜上に裏止め皮膜を形成した鏡において、該裏止め皮膜は合成樹脂ビヒクルに、アゾール系有機酸またはカルバミン酸もしくはその置換体と前記金属(A)より大きいイオン化傾向を有する金属との塩であって、チアゾール系金属塩、ベンツイミダゾール系金属塩またはジチオカルバミン酸塩系金属塩から選択される一種以上の金属塩(B) と、塩基性を呈し前記金属(A)の腐食部を中和し該金属(A) と結合するイミダゾール誘導体、チアゾール誘導体またはフェニレンジアミン誘導体から選択される一種以上の化合物であるアゾール系またはジアミン系化合物(C)を含有し、実質的に鉛成分を含まない塗料組成物を塗布し、硬化してなることを特徴とする防食鏡である。
【0007】
【発明の実施の形態】
通常鏡はガラス基材上に、銀鏡膜、銅膜を順次スプレイ等の適宜膜形成手段で膜付けする。なお銀鏡膜は銀のみならず、適宜クロム、チタン等の金属を混在させたものでもよい。銅膜は銀を保護する金属膜として最も一般的であるが、勿論これに限らず、化学的安定性が高く、銀鏡膜との密着性がよく、さらに好ましくは銀鏡膜と同様な皮膜形成法(例えば無電解メッキ法)により容易に膜形成し得る金属、例えばニッケル、ニッケル合金、錫、錫合金等の各種金属を保護膜として採用できる。該銅膜 (保護金属膜) 上には、ローラーコート、フローコート、スプレイ等の適宜手段で裏止め塗料を塗布し、硬化させて鏡を完成する。
【0008】
裏止め塗料に含まれる防食剤は、鉛系顔料のように前記したカチオン効果、還元効果、中和効果、アニオン効果を併せ持つものは稀であり、従って複数の防食剤を混合させて総合的に防食機能を発揮させる必要がある。
【0009】
一つは前記鏡を構成する銀、銅等の金属(A) よりイオン化傾向の大きい金属との塩で、しかも陰イオンが銅イオン等と反応して不動態皮膜を形成することにより、直に接触する金属膜、すなわち銅膜等と裏止め皮膜との密着性を良好とし、腐食性物質の浸透を抑制する有機酸の金属塩(B) を採用する。
該金属塩(B) としては2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2-メルカプト -4-メチルチアゾール亜鉛、2-メルカプト -4-エチルチアゾール亜鉛、2-メルカプト−5-メチルチアゾール亜鉛、2-メルカプト -5-エチルチアゾール亜鉛、2-メルカプト -5-メチルベンゾチアゾール亜鉛、2-メルカプト -5-エチルベンゾチアゾール亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N-エチル-N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、2-メルカプトベンツイミダゾール亜鉛、2-メルカプトメチルベンツイミダゾール亜鉛、2-メルカプト -1-メチルベンツイミダゾール亜鉛、2-メルカプト−1-エチルベンツイミダゾール亜鉛、2-メルカプト -5-メチルベンツイミダゾール亜鉛、2ーメルカプト -5-エチルベンツイミダゾール亜鉛、あるいはそれら化合物の亜鉛を鉄やテルルに置換したものなど、チアゾール系金属塩、ベンツイミダゾール系金属塩またはジチオカルバメート系金属塩等がある。
ちなみにチアゾール系金属塩、例えば2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛の銅、銀との反応挙動を示せば下記〔化1〕における式 (I)、式 (II) 、式 (III)に示す如くなり、腐食性物質の浸透を抑制する。
【0010】
【化1】
【0011】
上記有機酸の金属塩(B) 、好適にはチアゾール系金属塩、ベンツイミダゾール系金属塩またはジチオカルバメート系金属塩は塗料固形分中1〜15wt%の範囲で含有せしめるのが望ましい。すなわち 1wt%未満では皮膜と鏡を構成する金属 (A)との密着性、耐塩水噴霧性、キャステスト等において効果が充分とはいえず、15wt%を越えると塗料の保管、貯蔵に際して塗料粘度が上昇し、顔料の沈降を起生する傾向が生ずる。さらに望ましくは 3〜11wt%の範囲で導入するのが好ましい。
【0012】
なお裏止め塗料皮膜はガス分子に対し非透過性のものではない。また銀鏡膜や銅膜等の金属(A) の膜は一般的な金属膜と異なりコロイド粒子の集積体であってガス分子を透過し易い。すなわち酸素や水等の腐食性物質はそれら皮膜、銅膜、銀鏡膜を介してガラス基材面まで達する。これに対し裏止め皮膜から溶出し易く、腐食部を中和し銀イオン、銅イオン等との結合によって腐食の進行を抑制する塩基性を呈するアゾール系またはジアミン系化合物(C) も必要不可避の成分材料である。
【0013】
該塩基性のアゾール系またはジアミン系化合物(C) として、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4−メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ペプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4- メチルイミダゾール、1-ベンジル-2- メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2- メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2- エチル-4- メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2- ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2- フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2- メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2- エチル-4- メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2- ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2- フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6- 〔2'- メチルイミダゾリル-(1') 〕エチル-S- トリアジン、2,4-ジアミノ-6- 〔2'- エチル-4'-メチルイミダゾリル-(1') 〕エチル-S- トリアジン、2,4-ジアミノ-6- 〔2'- ウンデシルイミダゾリル(1')〕エチル-S- トリアジン、2,4-ジアミノ-6- 〔2'- メチルイミダゾリル(1')〕エチル-S- トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5- ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4- メチル-5- ヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2- フェニル-4,5- ジシアノエトキシメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾリン、2-メルカプトベンツイミダゾール、2-メルカプトメチルベンツイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール・シクロヘキシルアミン、2-メルカプトベンゾチアゾール・ジシクロヘキシルアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、 p-(p-トルエンスルフォニルアミド) ジフェニルアミン、 N,N'-ジ-2- ナフチル-p- フェニレンジアミン、 N,N'-ジフェニル-P- フェニレンジアミン、3,5-ジアミノクロロベンゼン、3,5-フェニレンジアミン酸、2,4-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノフェノール、2,4-ジアミノジフェニルアミン、3,4-ジアミノベンゾフェノン、2,4,6-トリメチル-1,3- フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-P- フェニレンジアミン、 N,N'-ジメチル-P- フェニレンジアミン、N-メチル-N'-エチル-P- フェニレンジアミン、N-メチル-N'-イソプロピル -P-フェニレンジアミン、 N,N'-ジイソプロピル-P- フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-P- フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-(1,3- ジメチルブチル)-P-フェニレンジアミン等のイミダゾール誘導体、チアゾール誘導体またはフェニレンジアミン誘導体等が挙げられる。
ちなみにイミダゾール誘導体のうち2,4-ジアミノ-6- 〔2'- メチルイミダゾリル(1')〕エチル-S- トリアジンと銅、銀との反応挙動を示せば下記〔化2〕における式 (IV) 、式 (V) 、式 (VI) に示す如くなり、腐食部を中和し、それら金属との結合により腐食の進行を抑制する。
【0014】
【化2】
【0015】
上記塩基性を呈するアゾール系またはジアミン系化合物(C) 、好適にはイミダゾール誘導体、チアゾール誘導体またはフェニレンジアミン誘導体は塗料固形分中0.5 〜5wt%の範囲で含有せしめるのが望ましい。すなわち0.5 wt%未満では耐塩水噴霧性、キャステスト等において充分効果を発揮し難く、5wt%を超えた場合は耐温水性において塗膜中にブリスターが発生し易い傾向が生ずる。さらに望ましくは1.5 〜3.5 wt%の範囲で導入するのが好ましい。
【0016】
本発明に使用する合成樹脂系ビヒクルは、鏡用裏止め塗料を塗装する条件や鏡に要求される耐久性グレードによって、熱可塑性または熱硬化性樹脂のなかから選択することができる。すなわち、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、各種変成アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、ビニール樹脂、ニトロセルローズ変成樹脂、フェノール樹脂、アミノ変成樹脂、セルローズアセテートブチレート変成樹脂等である。
【0017】
本発明において、顔料(Pigm)の上記樹脂(Bind) に対する重量比 (Pigm/Bind) は1〜3/1とすることが望ましく、Pigm/Bindが1未満であると皮膜の硬度が不足し傷がつき易く、また耐温水性において劣り皮膜中ブリスターが発生する傾向にある。またPigm/Bindが3を越えると皮膜と鏡を構成する金属 (A)との密着性が悪く、従って耐薬品性、耐候耐久性等においても低下してフチシケ、中シケが発生し易い傾向にある。従ってPigm/Bind=1〜3/1、さらに望ましくは 1.4〜 2.2/1の範囲とするのが好ましい。なお顔料(Pigm)には、先述した防食剤、すなわち有機酸の金属塩(B)、およびアゾールまたはジアミン系化合物(C)も含まれる。
以下に具体的実施例を例示して本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
【実施例】
〔試料作製〕
所定の塗料配合物についてガラスビーズを混入したパールミルに投入し、撹拌後固形物粒径30μm 以下の塗料を作製した。
ガラス基材 (サイズ150mm ×200mm ×5mm 厚) を用い、その上に通常の化学メッキ法で銀鏡膜90nm、銅膜30nm厚みの膜を膜付けし、水洗、乾燥後アプリケーター( ウエット膜厚 7ミル) により裏止め塗料を塗布し、熱風乾燥機で雰囲気温度 160℃、10分間焼付け後、 2日間室温放置し、後段表1に示す評価基準により評価した。
【0019】
〔塗料配合組成例とその評価結果〕
イミダゾール誘導体として 2,4- ジアミノ-6- 〔2'- メチルイミダゾリル- (1')〕エチル-S- トリアジン、 1- シアノエチル-2- フェニルイミダゾール、 2,4−ジアミノ-6- 〔2'- メチルイミダゾリル -(1')〕エチル-S- トリアジン. イソシアヌル酸付加物を、チアゾール系金属塩として 2- メチルカプトベンゾチアゾール亜鉛を、ジメチルジチオカルバミン酸系金属塩としてジメチルジチオカルバミン酸亜鉛を、ベンツイミダゾール系金属塩として 2- メルカプトベンツイミダゾール亜鉛を適宜選択、使用した。
体質顔料としてタルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウムを、着色顔料として弁柄を、乾燥剤としてナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、皮張り防止剤としてメチルエチルケトオキシム、溶剤としてキシレンを採用した。
表2・1および表2・2に実施例 (E1〜 E11) および比較例 (Co.E1 〜Co.E3 :防食剤として鉛化合物を使用したものも含む) における塗料配合組成例を、また表3・1および表3・2にそれらの表1にもとづく評価結果を示す。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
以上のとおり本実施例においては、裏止め塗料皮膜中の防食剤が銀鏡膜、銅膜等と反応して不動態皮膜を形成するため密着性がよく、腐食物質の浸透を抑制し、また適度な塩基性で銀鏡膜、銅膜等の腐食部を中和して腐食の進行を防ぎ、かつ、銀、銅等よりイオン化傾向の大きな金属である亜鉛が銀、銅等のイオン化を抑制するため、中シケ、縁シケの発生が少なく、また耐酸性、耐アルカリ性、耐温水性等の化学的耐久性や切断性、面取り性、耐衝撃性、耐磨耗性等機械的特性にも優れ、鉛の溶出がなく、環境汚染を回避できるという作用効果を発揮するものである。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、裏止め塗料皮膜中の防食剤が銀鏡膜、銅膜等と反応して不動態皮膜を形成するため密着性がよく、腐食物質の浸透を抑制し、また適度な塩基性で銀鏡膜、銅膜等の腐食部を中和して腐食の進行を防ぎ、かつ、銀、銅等よりイオン化傾向の大きな金属が銀、銅等のイオン化を抑制するため、中シケ、縁シケの発生が少なく、また耐酸性、耐アルカリ性、耐温水性等の化学的耐久性や切断性、面取り性、耐衝撃性、耐磨耗性等の特性にも優れ、鉛の溶出がなく、環境汚染を回避できるという効果を奏する。
Claims (1)
- ガラス基材の少なくとも片面に銀鏡膜、銅膜等の金属(A) の膜を形成し、該金属(A) 膜上に裏止め皮膜を形成した鏡において、該裏止め皮膜は合成樹脂ビヒクルに、アゾール系有機酸またはカルバミン酸もしくはその置換体と前記金属(A)より大きいイオン化傾向を有する金属との塩であって、チアゾール系金属塩、ベンツイミダゾール系金属塩またはジチオカルバミン酸塩系金属塩から選択される一種以上の金属塩(B) と、塩基性を呈し前記金属(A)の腐食部を中和し該金属(A) と結合するイミダゾール誘導体、チアゾール誘導体またはフェニレンジアミン誘導体から選択される一種以上の化合物であるアゾール系またはジアミン系化合物(C)を含有し、実質的に鉛成分を含まない塗料組成物を塗布し、硬化してなることを特徴とする防食鏡。
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