JP3685369B2 - 内燃機関の制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関の吸気圧に基づいて燃料噴射量を演算するDジェトロ式の制御装置に関し、特に慣性過給による吸気圧の変動に対する燃料噴射量の補正に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的な従来の内燃機関のDジェトロ式の制御装置(以下、ECU(Engine Control Unit)という)は、内燃機関の吸気圧に基づいて、基本燃料噴射量を決定している。またECUは、一般的に、内部のROM(Read Only Memory)に記憶保持した2次元マップを参照しながら基本燃料噴射量を補正している。この2次元マップは、内燃機関の回転数と吸気圧とに基づいて、燃料噴射量の補正係数を定めたものである。
【0003】
図10は、特開平9−287496号公報に記載された従来の内燃機関の制御装置の構成を概略的に示す図である。
図10に示すように、従来の内燃機関は、エアクリーナ1、吸気管2、スロットルバルブ3、スロットル開度センサ4、吸気圧センサ5、インジェクタ6、点火プラグ7、排気管8、触媒9、O2センサ10、クランクシャフト11、クランク角センサ12、カム角センサ14、排気カムプーリ15、ECU16および可変バルブタイミング機構アクチュエータ17を備える。
【0004】
図10に示す内燃機関において、ECU16は、機関回転数、吸気圧および可変バルブタイミング機構の制御量に基づき、燃料噴射量を決定する。
具体的には、吸気圧センサ5で検出された吸気圧と、クランク角センサ12で検出された内燃機関の回転数と、クランク角センサ12とカム角センサ14との信号位相差に基づいて検出された実際の進角量、あるいは可変バルブタイミング機構17の制御量とに基づき、インジェクタ6から噴射する燃料噴射量を決定する。
【0005】
内燃機関の吸気行程において、シリンダ内に吸入された混合気は、点火プラグ7が発する火花により点火されて爆発する。この爆発力は、ピストン21を下方に押し下げ、クランクシャフト11の回転力として内燃機関の外部に取り出される。
また、このとき、ECU16は、O2センサ10で検出された排気ガス中の残存酸素量に基づき、触媒9における排気ガス浄化作用の効率が最良となる理論空燃比が得られるようにフィードバック制御を行う。
さらに、ECU16は、ROMに格納されている進角量の目標値(以下、目標進角量と称す)と、クランク角センサ12とカム角センサ14との信号位相差に基づいて検出された実際の進角量(以下、実進角量と称す)とが一致するように、可変バルブタイミング機構17の制御量を制御する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般的に内燃機関では、一定のスロットル開度で加減速をしているような状態(以下、過渡運転状態と称す)において、定常運転状態よりも慣性過給効果が顕著に現れる場合がある。
この慣性過給とはエンジンに吸入される吸気の流れの慣性により、スロットルバルブの開度が一定であるにもかかわらず、定常運転状態よりも多くの吸気がエンジンに押し込まれる状態である。
即ち、スロットルバルブ3の開度が一定であっても、慣性過給の状態下においては、定常運転状態に比し、多くの吸気量がエンジンに押し込まれている。このため、慣性過給の状態下においては、吸気圧が見かけ上、小さくなっている。
このため、過渡運転状態における吸気圧は、定常運転状態における吸気圧よりも低くなる場合がある。
【0007】
従来の内燃機関の制御装置は、実際に検出された吸気圧に基づいて基本燃料噴射量を決定していた。このため、定常運転状態よりも吸気圧が低下する慣性過給の状態下にある過渡運転状態では実際には多くの吸気がエンジンに流入しているにもかかわらず、見かけ上の吸気圧が小さいので、吸気量が少ないものと判断しそれに応じた量の燃料しか噴射していなかった。
このため、燃料噴射量が不足し、空燃比(空燃比A/F:Air/Fuel)が変動したり、あるいは、O2センサ10を用いたフィードバック制御におけるフィードバック補正量が大きく変動する等の支障が生じ得るという課題があった。
【0008】
従って、この発明は、慣性過給効果が増大する過渡運転状態において、定常運転状態の定常吸気圧と実際に検出した吸気圧との差圧に基づいて燃料噴射量の補正を行い、空燃比の変動や、O2センサを用いたフィードバック制御におけるフィードバック補正量の変動を抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、運転状態検出手段によって検出された運転状態に基づいて内燃機関を運転する制御手段とを備えてなり、制御手段は、運転状態検出手段によって検出された運転状態に基づく定常運転状態における定常吸気圧と吸気圧検出手段によって検出された吸気圧との差圧に基づいて燃料噴射量を補正し、さらに、前記内燃機関の加減速運転中に燃料噴射量を補正する加減速補正手段を備え、内燃機関の加減速運転中、加減速を開始した後の所定期間、あるいは加減速補正手段による加減速補正の実行中には、差圧に基づく燃料噴射量の補正を禁止することを特徴とする。
【0010】
また、前記制御手段は、定常運転状態における定常吸気圧より検出された吸気圧の方が低くなったときに燃料噴射量を増量させることを特徴とする。
【0011】
また、前記制御手段は、差圧が所定の範囲内にある場合には、差圧に基づく燃料噴射量の補正を禁止することを特徴とする。
【0013】
また、前記制御手段は、差圧に基づく燃料噴射量の補正の禁止を解除する際には、差圧に基づいて演算される補正量を徐々に通常値にまで収束させることを特徴とする。
【0014】
また、前記内燃機関の吸気側あるいは排気側のバルブタイミングを変更する可変バルブタイミング機構をさらに備えてなり、制御手段は、バルブタイミングと差圧とに基づいて燃料噴射量を補正することを特徴とする。
【0015】
また、前記制御手段は、燃料噴射量の補正に用いるバルブタイミングとして、可変バルブタイミング機構の制御量を用いることを特徴とする。
【0016】
また、前記バルブタイミングを検出するバルブタイミング検出手段をさらに備え、燃料噴射量の補正に用いるバルブタイミングとして、バルブタイミング検出手段の出力を用いることを特徴とする。
【0017】
また、前記補正量は、吸気側のバルブタイミングが進角するほど大きく設定されることを特徴とする。
【0018】
さらに、前記補正量は、差圧が大きくなるほど大きく設定されることを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
この発明は、内燃機関の慣性過給効果による空燃比の変動などを抑制すべく、燃料噴射量を補正するものである。従って、本来的には、慣性過給効果を利用して高出力化を図る可変バルブタイミング機構を備える内燃機関に適用する方が、より顕著な効果を奏するのであるが、可変バルブタイミング機構を備えない内燃機関においても慣性過給効果は生じる。
そこで、この発明の実施の形態1では、まず、可変バルブタイミング機構を備えない内燃機関に、この発明を適用した場合について説明する。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の構成を示す図である。
図1に示す内燃機関は、可変バルブタイミング機構を備えず、カムプーリ13は、カムシャフト18に固着されている。なお、従来の内燃機関の制御装置と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
また、制御手段としてのECU19内のROMには、従来と同様の燃料噴射量の補正係数に関する機関回転数と吸気圧とをパラメータとする2次元マップの他、機関回転数とスロットル開度とによって定まる定常運転状態の定常吸気圧を記憶した2次元マップをも備える。
【0021】
図2は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の制御処理内容を示すフローチャートである。
図2に示すように、ステップ201では、吸気圧検出手段としての吸気圧センサ5で吸気圧Pbを検出する。ステップ202では、吸気圧センサ5で吸気圧を検出した時の機関回転数とスロットル開度に基づき、ROM内の2次元マップに記憶されている定常運転状態での定常吸気圧Pbmを読み出す。なお、内燃機関の運転状態としてのスロットル開度および機関回転数は、運転状態検出手段としてのスロットル開度センサ4およびクランク角センサ12によって、それぞれ検出されるものである。
ステップ203では、定常運転状態の定常吸気圧Pbmと吸気圧センサ5で検出した実際の吸気圧Pbの差圧Pを求める。
P=Pbm−Pb (1)
【0022】
ステップ204では、(2)式に基づき、燃料噴射量に対応するインジェクタ駆動パルス幅Tiを求める。
Ti={Qp1s×(Pb+P)×K}×KINJ+Tv (2)
ここで、Ti:インジェクタ駆動パルス幅(msec)、Qpls:吸気圧から燃料吐出量への変換係数(mcc/mmHg)、Pb:検出吸気圧(mmHg)、K:各種補正係数、KINJ:吐出量からパルス幅への変換係数(msec/mcc)、Tv:無効噴射パルス幅(msec)である。
なお、機関回転数と吸気圧とをパラメータとする2次元マップに記憶された燃料噴射量の補正係数は上記の各種補正係数Kに含まれており、また、このような補正は、ECU19によって行われるものである。
ここで基本燃料噴射量はQpls×Pbにより決定されるものである。
即ち(2)式によれば、基本燃料噴射量が差圧Pにより補正されるというものである。
【0023】
このように、過渡運転状態において、吸気圧Pbに、定常運転状態の定常吸気圧Pbmと検出吸気圧Pbとの差である差圧Pを加算して吸気圧の補正を行うことにより、インジェクタ駆動パルス幅Tiを演算できる。従って、例えば、検出吸気圧Pbが定常運転状態の定常吸気圧Pbmより低い場合には、インジェクタパルス幅Tiを増大させるので、慣性過給効果による吸気量の増大に応じて最適な燃料噴射量を確保することができる。
この結果、上述の差圧Pが生じていても、空燃比A/Fの変動を抑制すると共に、O2センサ10を用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制でき、加速不良等の発生を抑制することができる。
【0024】
例えば図6には、加速時における内燃機関の運転状態を示す特性図が示されている。この図6においてスロットルバルブを開いた後、実際の吸気圧Pbは実線の如く少し遅れて変化し、やがて定常運転状態の定常吸気圧Pbmと一致するが、その後、吸気圧Pbは定常吸気圧Pbmに比し小さくなる。これは慣性過給効果により吸気圧が小さくなっている状態を示している。この状態においては、上述したように、吸気圧Pbが小さくなっているものの、これは慣性過給効果により見かけ上小さくなったものに過ぎず、実際には多量の吸気が内燃機関に押し込まれている。
【0025】
ここで、従来のDジェトロ式のECUでは、単に実際の吸気圧Pbに基づいて基本燃料噴射量を決定するので、実際には多量の吸気が内燃機関に押し込まれているにもかかわらず、図示の如く吸気圧Pbが小さくなった分だけ基本燃料噴射量を少なくするので、燃料不足を生じる。
しかしながら、この発明の実施の形態1によれば、実際の吸気圧Pbに慣性過給効果によって小さくなった分だけ加算し、これに基づいて燃料噴射量を決定する。よって、Dジェトロ式のECUにおいて、慣性過給効果により吸気圧Pbが小さくなったとしても、これに対応して燃料噴射量を少なくしてしまうことがなく、十分な量の燃料を内燃機関に供給することができる。
【0026】
以上のように、この発明の実施の形態1では、差圧Pがあるときは(Pb+P)、即ち(Pb+P)=(Pb+Pbm−Pb)=Pbmに基づいて燃料噴射量を決定する。
即ち、この発明の実施の形態1は、検出された吸気圧Pbに基づいて基本燃料噴射量を決定するDジェトロシステムにおいて、慣性過給の状態下では回転数とスロットル開度に基づいて定まる定常吸気圧Pbmに基づいて基本燃料噴射量を決定するというものである。
【0027】
次に、図2に示すフローでは、差圧Pが生じた場合には、常に補正を行うようにしているが、例えば、差圧Pが正圧であるか負圧であるかに応じて、補正を行うか否かを判定してもよい。
図3は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の制御内容の変形例を示すフローチャートである。
図3に示すステップ201からステップ204は、図2に示す同一番号のステップと同一の処理を行うものであり、その説明を省略する。
【0028】
図3において、ステップ203に続くステップ300では、ステップ203で求めた差圧Pの正負を判定する。
差圧Pが負圧である場合には、フローがステップ301に進行し、差圧Pを零に設定し、さらにフローはステップ204へ進行する。
この結果、差圧Pが負圧の場合には、すなわち、吸気圧センサで検出した吸気圧Pbの方が定常運転状態における定常吸気圧Pbmより高い場合には、差圧Pに基づく燃料噴射量の補正は行われない。
【0029】
一方、ステップ300において、差圧Pが正圧であると判定された場合には、フローがステップ204に直接進行する。
この結果、差圧Pが正圧の場合にのみ、すなわち、吸気圧センサで検出した吸気圧Pbの方が定常運転状態における定常吸気圧Pbmより低い場合にのみ、吸気圧の補正が行われることになる。
【0030】
一般的に、差圧Pが正圧になる場合、すなわち、吸気圧センサで検出した吸気圧Pbの方が定常運転状態における定常吸気圧Pbmより低い場合とは、車両が加速して慣性過給効果が顕著に生じる場合である。
従って、上述のような差圧Pの正負に応じて、吸気圧を補正すれば、より極めの細かい内燃機関の運転制御を行うことが可能である。
【0031】
なお、実施の形態1では、ECU19のROMに、予め実験的に求めた定常運転状態の定常吸気圧Pbmを2次元マップとして格納し、そのデータを読み出すようにしているが、このような2次元マップを予め用意するのではなく、実際に走行している際の定常運転状態における定常吸気圧Pbmを学習し、この学習値を用いて2次元マップを作成し燃料噴射量を決定しても、上述の場合と同等の効果を得ることができる。
【0032】
また、ECU19のROMに予め実験的に求めた定常運転状態の定常吸気圧Pbmを2次元マップとして格納し、車両が定常運転状態で走行している際の定常吸気圧Pbmを学習し予め記憶された2次元マップを補正する補正値をECU19内のRAMに記憶しておき、これに基づいてインジェクタ駆動パルス幅Tiを演算する方法によっても、本発明を同様に実施することができる。このような場合には、より精度の高い制御を行うことができる。
【0033】
なお、この発明の実施の形態1では、可変バルブタイミング機構を備えない内燃機関の制御について説明したが、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関に本発明を適用すれば、更に顕著な効果を得ることができる。
【0034】
実施の形態2.
実施の形態1では、定常運転状態の定常吸気圧Pbmと、吸気圧センサで検出した吸気圧Pbに差が生じた場合は、常に吸気圧の補正を行う場合について説明した。
しかしながら、内燃機関は断続的に吸気行程を行うため、吸気圧に脈動が生ずる場合がある。このような場合にまで一律に吸気圧を補正すると、却って、空燃比A/Fを変動させる場合が生じうる。
従って、実施の形態2では、吸気圧の脈動の影響を排除することのできる制御処理について説明する。
【0035】
図4は、この発明の実施の形態2に係る内燃機関の制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
ステップ201から203は、図2に示す同一番号のステップと同一内容であるため、その説明を省略する。
ステップ203に続くステップ404では、定常運転状態の定常吸気圧Pbmと吸気圧センサ5で検出した吸気圧Pbの差である差圧Pが、所定の範囲内であるか否か、すなわち、不感帯の範囲内にあるか否かを判定する。この不感帯の範囲とは、吸気の脈動による圧力変動とみなす範囲である。
【0036】
この結果、差圧Pが不感帯の範囲内であれば、フローはステップ405に進行して、差圧Pを零に設定し、さらに続くステップ406では、吸気圧の補正を行わずに、上述の式(2)によりインジェクタ駆動パルス幅Tiを演算する。
一方、ステップ404において、差圧Pが不感帯の範囲外であると判定された場合には、加速時の慣性過給効果によって吸入空気量が増加したものとみなし、続くステップ406において、上述した式(2)により吸気圧を補正してインジェクタ駆動パルス幅Tiを演算する。即ち、この場合、検出吸気圧Pbが定常運転状態の定常吸気圧Pbmより低いので、インジェクタパルス幅Tiを増大させることができる。
【0037】
以上、この発明の実施の形態2に係る内燃機関の制御装置は、吸気の脈動によって生じる吸気圧の変動に対する補正をほとんど排除できるので、より高精度に空燃比A/Fの変動を抑制できると共に、O2センサ10を用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制でき、加速不良等の発生を抑制できる。
【0038】
なお、この発明の実施の形態2では、可変バルブタイミング機構を備えない内燃機関の制御について説明したが、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関に本発明を適用すれば、更に顕著な効果を得ることができる。
【0039】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3における内燃機関は、図10に示す従来の内燃機関と同様に、可変バルブタイミング機構を備える。
なお、図10に示す内燃機関は、吸気バルブ側のみに可変バルブタイミング機構を備えるが、排気バルブ側に可変バルブタイミング機構を備えても本発明を同様に実施することができる。
また、本発明は、可変バルブタイミング機構そのものの機械的な形式を問わず、適用できるものである。
【0040】
一般的に、可変バルブタイミング機構を備えない内燃機関では、限られた運転条件下で運転効率が最良となるようなバルブタイミングに設定せざるを得なかった。これに対して、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関では、効率良く運転を行うことのできる条件を拡大できるため、慣性過給効果を得ることのできる運転条件が拡大しており、可変バルブタイミング機構を備えない内燃機関よりも、燃料噴射量の演算にあたって吸気圧の補正を行う効果は大きい。
【0041】
図5は、この発明の実施の形態3に係る内燃機関の制御装置の制御処理内容を示すフローチャートである。ステップ201からステップ203までは、図4に示す実施の形態2における制御内容と同一であるため、その説明を省略する。
図5に示すように、ステップ504において、差圧Pが不感帯の範囲外であると判定された場合には、ステップ506において、次式(3)で表される補正係数K2を演算する。
K2=f(VT,P) (3)
【0042】
ここで、VTは、可変バルブタイミング機構のバルブタイミング(degCA)を表し、吸気バルブと排気バルブのオーバラップが最小である場合を基準とした場合の進角量を示している。
式(3)に示すように、補正係数K2は、可変バルブタイミング機構のバルブタイミングVTと、差圧Pとに基づき、あらかじめECU19のROM内に設定されたデータより参照することによって演算される。
この補正係数K2は、吸気側のバルブタイミングVTが進角するほど大きくなると共に、差圧Pが大きくなるほどこれに応じて大きくなるように設定されている。
【0043】
なお、上述の説明では、バルブタイミングVTとして実バルブタイミングを用いている。このような実バルブタイミングは、バルブタイミング検出手段としてのクランク角センサ12およびカム角センサ14の出力に基づいて、ECU19によって演算される。
また、上述のような制御処理におけるバルブタイミングVTの値としては、可変バルブタイミング機構の制御量(目標進角量)を用いても、実バルブタイミングを用いた場合と同様に本発明を実施することができる。
【0044】
ステップ507では、補正係数K2を用いてインジェクタ駆動パルス幅Tiを求める。
Ti=(Qpls×Pb×K×K2)×KINJ+Tv (4)
式(3)および式(4)から分かるように、この発明の実施の形態3では、差圧Pに基づいて吸気圧を単に補正するのではなく、補正係数K2を差圧PおよびバルブタイミングVTに基づいて補正し、補正係数K2を用いてインジェクタ駆動パルス幅Tiを演算している。
このような補正により、例えば、検出吸気圧Pbが定常運転状態の定常吸気圧Pbmより低くなった場合には、インジェクタパルス幅Tiを増大させることができる。
【0045】
以上、この発明の実施の形態3では、差圧PおよびバルブタイミングVTに応じて演算した補正係数K2を用いて、インジェクタ駆動パルス幅Tiを演算することにより、慣性過給効果での吸入空気量の増加による空燃比A/Fの変動、もしくは、O2センサ10を用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制することができる。
なお、実施の形態3で、バルブタイミングVTおよび差圧Pに基づいて補正係数K2を求めているのと同様に、実施の形態1、2において、バルブタイミングVTを固定値とし差圧Pに基づいて補正係数K2を演算し、当該補正係数K2を用いてインジェクタ駆動パルス幅Tiを演算しても同様の効果を得ることができる。
【0046】
実施の形態4.
吸気圧センサ5で検出した吸気圧Pbは、加減速運転中にスロットル開度を変化させれば、当然に変化し、結果的に空燃比A/Fが変化する。このような加減速運転中の空燃比A/Fの変化を抑制すべく、加減速運転中に空燃比A/Fの補正(加減速補正)を行うことが一般的に行われている。
従って、加減速補正が行われている間に、上述したような吸気圧の補正を行うと、逆に空燃比A/Fが大きく変動する場合がある。
この発明の実施の形態4は、加減速補正が行われている間には、差圧Pを用いた補正を行わないようにする制御処理に関するものである。
【0047】
図6は、加速時における内燃機関の運転状態を示す特性図である。
図6に示すように、加速を開始した直後において、吸気圧Pb(実線で示す)には、実際の機関回転数およびスロットル開度に対応する定常運転状態の定常吸気圧Pbm(波線で示す)に対して、実際の吸気圧の変化に遅れが生じる。このような圧力変化の遅れにより、定常運転状態における定常吸気圧Pbmと、吸気圧センサ5で検出される実際の吸気圧Pbとの間に差圧P1が発生する。この差圧P1は、スロットルバルブの開弁に対する吸気の流入遅れによるものであり慣性過給効果によって発生する差圧Pとは異なるものである。
【0048】
従って、このような状況下においては、慣性過給効果による誤差を補正しようとする制御を行うべきではない。例えばこの状況下において上述の実施の形態の補正を行うと図6に示す如く加速直後において大きな補正量が与えられる。しかしながら、このときの差圧P1は慣性過給効果によるものではないので、この補正量は全て誤差となってしまう。
そこで実施の形態4は、差圧P1に対しては補正を行わないようにしたものである。
【0049】
図7は、この発明の実施の形態4に係る内燃機関の制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
ステップ201からステップ203までと、ステップ404及びステップ405は、図4に示す同一番号のステップと同一であるため、その説明を省略する。ステップ404において、差圧Pが所定の範囲外であると判定した場合には、フローはステップ706に進行する。
【0050】
ステップ706では、例えば、スロットル開度センサ4の検出信号に基づき、車両が加減速を行ったか否かを判定する。
ステップ706において、加減速運転中であると判定した場合には、もしくは、加減速が行われてから所定時間が経過していないと判定した場合には、フローはステップ405に進行する。ステップ405では、差圧Pを零に設定し、差圧Pによる吸気圧の補正を禁止する。
補正が禁止された後は、フローがステップ707に進行し、ステップ707において、式(2)のK項に含まれる加減速補正を行う。この結果、加減速によって生じた変動分を補正することができるので、空燃比A/Fの変動を抑制することができる。
【0051】
一方、ステップ706において、加減速が行われていないと判定した場合には、もしくは、加減速が行われてから所定時間が経過したと判定した場合には、差圧Pは慣性過給効果によって生じたものと判定し、フローはステップ707に進行する。
ステップ707では、上述した式(2)により、差圧Pで補正した吸気圧を用いてインジェクタ駆動パルス幅Tiを演算する。例えば、検出吸気圧Pbが定常運転状態の定常吸気圧Pbmより低くなった場合には、インジェクタパルス幅Tiを増大させることができる。
【0052】
このように、車両の加減速運転中または加減速運転が終了してから所定の時間が経過するまでには、上述の差圧Pによる吸気圧の補正を行わないようにすることで、空燃比A/Fの変動、もしくは、O2センサ10を用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量が変動することを抑制できる。
また、上記実施の形態では加減速運転中または加減速運転が終了してから所定の時間が経過するまでには上述の差圧Pによる吸気圧の補正を行わないようにすることとしたが、加減速運転中または加減速運転が終了してから所定の期間(時間、点火回数、回転回数の積算値等)が経過するまで、あるいは加減速運転を開始してから所定期間経過するまでは、上述の差圧Pによる吸気圧の補正を行わないようにしても良い。
なお、実施の形態4に係る制御処理は、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関に適用すれば、更に顕著な効果を得ることができるものである。
【0053】
実施の形態5.
図8は、この発明の実施の形態5に係る内燃機関の制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
図8において、図7におけるステップ706がステップ806に置き換わったこと以外は、実施の形態4に準ずるものである。
図8に示す806は、加減速運転中と、加減速補正が実行されている間には、上述の差圧Pを零に設定して補正を禁止するためのステップである。
【0054】
すなわち、ステップ806において、加減速運転中あるいは加減速補正実行中であると判定した場合には、フローはステップ405に進行し、差圧Pがゼロに設定される。
一方、ステップ806において、加減速運転中ではない、あるいは、加減速補正実行中ではないと判定した場合には、フローはステップ707に進行し、差圧Pによる補正を用いて、燃料噴射量が演算される。例えば、検出吸気圧Pbが定常運転状態の定常吸気圧Pbmより低くなった場合には、インジェクタパルス幅Tiを増大させることができる。
【0055】
以上のように、この発明の実施の形態5では、加減速運転中と、加減速補正実行中には、差圧Pを零に設定して補正を禁止するので、実施の形態4と同様の効果を得ることができる。
なお、実施の形態5に係る制御内容を、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関に適用すれば、更に顕著な効果を得ることができる。
【0056】
実施の形態6.
図9は、この発明の実施の形態6に係る内燃機関の制御装置による制御を行った際の各特性を示す図である。
この発明の実施の形態6は、実施の形態4及び実施の形態5において禁止された燃料噴射量の補正を再開する場合の制御処理に関するものである。
具体的には、図9に実線で示す特性のように、上述の補正禁止が解除された際に、零に設定されていた差圧Pの値を、補正が禁止されていない場合の値にまで徐々に増大させながら、インジェクタ駆動パルス幅Tiの演算を行う。
【0057】
このような制御処理を行うことにより、補正禁止により零に設定された差圧Pに基づく燃料噴射量の補正量を、徐々に、連続的にあるいは段階的に、補正禁止のない場合の補正量(以下、通常値と称す)にまで収束させることができる。
なお、図9に示す例では、補正量を通常値にまで収束させる場合として、補正量を通常値にまで増大させる場合を示すが、現在の吸気圧が定常吸気圧Pbmより高い場合には、補正量は負の値となるので、このような場合には補正量を通常値にまで減少させることとなる。
【0058】
以上、この発明の実施の形態6では、上述のような補正禁止が解除された直後において、零に設定されていた差圧Pを徐々に本来の値(補正禁止がない場合の値)に近づけることにより、差圧Pに基づく燃料噴射量の補正がいきなり行われることがないので、空燃比A/Fの急激な変動を抑制できると共に、O2センサ10を用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の急激な変動を抑制することができる。
【0059】
【発明の効果】
この発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、運転状態検出手段によって検出された運転状態に基づいて内燃機関を運転する制御手段とを備えてなり、制御手段は、運転状態検出手段によって検出された運転状態に基づく定常運転状態における定常吸気圧と吸気圧検出手段によって検出された吸気圧との差圧に基づいて燃料噴射量を補正し、さらに、前記内燃機関の加減速運転中に燃料噴射量を補正する加減速補正手段を備え、内燃機関の加減速運転中、加減速を開始した後の所定期間、あるいは加減速補正手段による加減速補正の実行中には、差圧に基づく燃料噴射量の補正を禁止することを特徴とするので、慣性過給効果による空燃比の変動や、O2センサを用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制すると共に、吸気圧の変動により生じる加速不良等の不具合を抑制することができ、また、吸気の脈動によって生じる吸気圧の変動に対する補正をほとんど排除でき、より高精度に空燃比の変動を抑制すると共に、O 2 センサを用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制でき、加速不良等の発生を抑制できる
【0060】
また、前記制御手段は、定常運転状態における定常吸気圧より検出された吸気圧の方が低くなったときに燃料噴射量を増量させることを特徴とするので、慣性過給効果による空燃比の変動や、O2センサを用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制することができると共に、吸気圧の変動により生じる加速不良等の不具合を抑制することができる。
【0061】
また、前記制御手段は、差圧が所定の範囲内にある場合には、差圧に基づく燃料噴射量の補正を禁止することを特徴とする。
【0063】
また、前記制御手段は、差圧に基づく燃料噴射量の補正の禁止を解除する際には、差圧に基づいて演算される補正量を徐々に通常値にまで収束させることを特徴とするので、差圧に基づく燃料噴射量の補正禁止が解除された際に、車両の運転状態を良好に保つことができる。
【0064】
また、前記内燃機関の吸気側あるいは排気側のバルブタイミングを変更する可変バルブタイミング機構をさらに備えてなり、制御手段は、バルブタイミングと差圧とに基づいて燃料噴射量を補正することを特徴とするので、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関において、慣性過給効果による空燃比の変動や、O2センサを用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制すると共に、吸気圧の変動により生じる加速不良等の不具合を抑制することができる。
【0065】
また、前記制御手段は、燃料噴射量の補正に用いるバルブタイミングとして、可変バルブタイミング機構の制御量を用いることを特徴とするので、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関において、慣性過給効果による空燃比の変動や、O2センサを用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制すると共に、吸気圧の変動により生じる加速不良等の不具合を抑制することができる。
【0066】
また、前記バルブタイミングを検出するバルブタイミング検出手段をさらに備え、燃料噴射量の補正に用いるバルブタイミングとして、バルブタイミング検出手段の出力を用いることを特徴とするので、可変バルブタイミング機構を備える内燃機関において、慣性過給効果による空燃比の変動や、O2センサを用いたフィードバック制御によるフィードバック補正量の変動を抑制すると共に、吸気圧の変動により生じる加速不良等の不具合を抑制することができる。
【0067】
また、前記補正量は、吸気側のバルブタイミングが進角するほど大きく設定されることを特徴とするので、バルブタイミングに応じて適切な燃料量を供給することができる。
【0068】
さらに、前記補正量は、差圧が大きくなるほど大きく設定されることを特徴とするので、差圧に応じて適切な燃料量を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の構成を示す図である。
【図2】 この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の制御処理内容を示すフローチャートである。
【図3】 この発明の実施の形態1に係る内燃機関の制御装置の制御内容の変形例を示すフローチャートである。
【図4】 この発明の実施の形態2に係る内燃機関の制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図5】 この発明の実施の形態3に係る内燃機関の制御装置の制御処理内容を示すフローチャートである。
【図6】 加速時における内燃機関の運転状態を示す特性図である。
【図7】 この発明の実施の形態4に係る内燃機関の制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図8】 この発明の実施の形態5に係る内燃機関の制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図9】 この発明の実施の形態6に係る内燃機関の制御装置による制御を行った際の各特性を示す図である。
【図10】 特開平9−287496号公報に記載された従来の内燃機関の制御装置の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
4 スロットル開度センサ(運転状態検出手段)、5 吸気圧センサ(吸気圧検出手段)、12 クランク角センサ(運転状態検出手段、バルブタイミング検出手段)、14 カム角センサ(バルブタイミング検出手段)、19 ECU(制御手段)。

Claims (9)

  1. 内燃機関の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
    前記内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、
    前記運転状態検出手段によって検出された運転状態に基づいて前記内燃機関を運転する制御手段とを備えてなり、
    前記制御手段は、前記運転状態検出手段によって検出された運転状態に基づく定常運転状態における定常吸気圧と前記吸気圧検出手段によって検出された吸気圧との差圧に基づいて燃料噴射量を補正し、
    さらに、前記内燃機関の加減速運転中に燃料噴射量を補正する加減速補正手段を備え、前記内燃機関の加減速運転中、加減速を開始した後の所定期間、あるいは前記加減速補正手段による加減速補正の実行中には、前記差圧に基づく燃料噴射量の補正を禁止することを特徴とする内燃機関の制御装置。
  2. 前記制御手段は、前記定常運転状態における定常吸気圧より検出された吸気圧の方が低くなったときに前記燃料噴射量を増量させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  3. 前記制御手段は、前記差圧が所定の範囲内にある場合には、前記差圧に基づく燃料噴射量の補正を禁止することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  4. 前記制御手段は、前記差圧に基づく燃料噴射量の補正の禁止を解除する際には、前記差圧に基づいて演算される補正量を徐々に通常値にまで収束させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  5. 前記内燃機関の吸気側あるいは排気側のバルブタイミングを変更する可変バルブタイミング機構をさらに備えてなり、前記制御手段は、前記バルブタイミングと前記差圧とに基づいて前記燃料噴射量を補正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  6. 前記制御手段は、前記燃料噴射量の補正に用いるバルブタイミングとして、前記可変バルブタイミング機構の制御量を用いることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
  7. 前記バルブタイミングを検出するバルブタイミング検出手段をさらに備え、前記燃料噴射量の補正に用いるバルブタイミングとして、前記バルブタイミング検出手段の出力を用いることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
  8. 前記補正量は、前記バルブタイミングが進角するほど大きく設定されることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
  9. 前記補正量は、前記差圧が大きくなるほど大きく設定されることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
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