JP3684475B2 - フェライト系耐熱鋼管の溶接構造 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は火力発電プラント、高速増殖炉など、高温での使用に適するフェライト系耐熱鋼管の溶接構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、火力発電プラント、高速増殖炉等に使用される鋼材の使用温度及び使用圧力は上昇する傾向にある。このため、これらのプラントには9Cr−1Mo鋼などの高温強度の優れたフェライト系の耐熱鋼管が多く使用されるようになってきた。これらの耐熱鋼の多くは高温強度を向上させるため、焼きならし・焼き戻しなどの熱処理が施されている。この種の耐熱鋼管は、熱処理した板材の曲げ加工後に溶接して製作する場合には、被覆アーク溶接(SMAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、TIG溶接、MIG溶接などの溶接方法で、管の長手方向、あるいは周方向を完全溶け込みで溶接することにより製作される。この溶接鋼管は管寄せや主配管等として使用される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述のフェライト系耐熱鋼の溶接においては、溶融、凝固した溶接金属の周囲の母材に溶接入熱による熱影響部(HAZ)が生じ、さらにHAZの一部で、熱影響を受けない母材との境界に軟化域が生じ、この軟化域のために溶接部のクリープ破断強度が母材に比べて低下することが明らかになってきた。また、2.25Cr−1Mo鋼のように調質されていないフェライト系耐熱鋼においても、同様な理由で溶接部のクリープ破断強度が低下する。これは、フェライト系耐熱鋼の母材においては適正な成分設計と熱処理によって良好な特性が得られるようになっているが、HAZにおいては、溶接入熱によって組織が変化するため母材と同等のクリープ特性にならないためである。
【0004】
溶接鋼管を製作する場合、鋼板を曲げ加工して管状に成形した後に鋼板の突合せ部分を管軸方向に長手溶接を行う場合がある。内圧が作用する鋼管の長手溶接部には、内圧によって生じる周方向応力が、溶接入熱によって生成したHAZに対して垂直に働くことになるので、継手のクリープ寿命は母材のそれに比べ低下する。周溶接継手においても同様に継手のクリープ寿命は、長手溶接継手ほど大きくないが、母材に比べて低下する。
【0005】
また、鋼板を管状に曲げ加工し、管軸方向に長手溶接を行って鋼管を製作する場合、突合せ開先の加工の困難さから鋼管の内外面の両方から溶接を行うことがある。鋼管の内外両面から完全溶け込み溶接を行うと、図6に示すように、外面側7aからの溶接部と内面側7bからの溶接部が重なる部分では両方のHAZ 4(4a、4b)が角度θをもって交わることになる。HAZ 4と母材7との境界に溶接入熱の熱履歴によって生じるHAZの軟化域5は、母材7や溶接金属3に比べてクリープ変形しやすいので、上述のHAZ 4が重なる部分6にクリープ変形が集中する。このため、HAZ 4が重なる部分6においてはクリープ損傷が進み、HAZ軟化域5ではき裂が発生しやすくなっている。
【0006】
以上のような理由で、内圧の働くフェライト系耐熱鋼管1の長手溶接部のクリープ強度は、母材7のクリープ強度に比べ低下する。また、周溶接継手のクリープ強度も同様な理由で母材7に比べて低下する。
【0007】
本発明の目的は、このような内圧を受けるフェライト系耐熱鋼管の長手溶接継手部および周溶接継手部の、クリープ破断強度を高めてクリープ損傷を低減し、溶接構造物の信頼性を向上させることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、フェライト系耐熱鋼管を管内外両面から完全溶け込みで突合せ溶接した溶接構造であって、管内面側に形成された溶接金属の周囲の熱影響部と管外面側に形成された溶接金属の周囲の熱影響部が交わる位置から管内面までの距離と、管の肉厚との比が0.4以上である構造によって達成される。
【0009】
図6は、前述のように、一般的な鋼管の板曲げ、長手溶接によって形成されるHAZの一例を示すもので、一般的な溶接では、鋼板を曲げた後に内外両面に開先2を加工し、鋼管の内面・外面の両方から溶接を行う。開先2の角度(α、β)が大きい場合、鋼管内外面からの溶接によって生じたHAZ 4a、4bが交わる角度θ(以後、角度θをHAZ交叉角という)は小さくなる。これはこの部分にクリープ変形が集中しやすくなる点から好ましくない。
【0010】
9Cr−1Mo鋼等のフェライト系耐熱鋼においては、溶接入熱による熱履歴によってHAZ 4と母材7の境界に硬さの低いHAZ軟化域5が形成される。このHAZ軟化域5は母材7や溶接金属3と比べてクリープ変形しやすい。また、内圧を受ける長手溶接の耐熱鋼管1においては、最大応力成分である周方向応力が溶接部に垂直に働く。このため、HAZの方向が作用する応力方向に対して傾いている場合せん断成分が働き、外面からの溶接で生じたHAZと内面側からの溶接で生じたHAZが交わっている部分は幾何学的にクリープ変形が集中しやすい。このため、当該部分6はクリープ損傷が進行しやすいのでクリープによってHAZ軟化域5にき裂が発生しやすくなっている。
【0011】
図2、図3及び図4を用いて、有限要素法によるHAZ軟化域のクリープ損傷解析を説明する。図2に管長手方向の突合せ溶接部の解析用モデルを示す。このモデルは、互いに上下に位置する管外面側の溶接金属3と管内面側の溶接金属と3を中心にして、溶接金属3の周囲に左右に対称的にHAZ4、HAZ軟化域5、母材が順次隣接してなる溶接部分の左半分を示す。
【0012】
図3、図4に溶接入熱によって形成されたHAZ軟化域5を考慮した場合の鋼管の長手溶接継手について、有限要素法によるクリープ損傷解析した結果を示す。解析は、9Cr−1Mo鋼の内圧クリープのものである(外径=500mm、肉厚=100mm、解析温度=600℃、内圧=59MPa、θ=140°)。図3、図4には、管の表側と裏側に形成された2つのHAZ交叉角θが140°で、これらHAZの交わり点6が管の内面寄りにある場合(X/L=0.2)と、管の外面寄りにある場合(X/L=0.8)における、約4000時間クリープ後の相当応力の分布をそれぞれ示してある。ここで、Xは管内面からHAZ交わり点までの距離、Lは管の肉厚を示す。
【0013】
図4に示すように、HAZ交わり点が管内面に近い場合、最も高い相当応力がこの部分に発生している。これは上述のように、この部分にクリープ変形が集中するためで、この高い相当応力に起因して、この部分のHAZ軟化域5にはき裂が発生しやすくなる。図3に示すように、HAZ交わり点が管外面に近い場合、最も相当応力の高い箇所は管内面のHAZ軟化域5近傍であり、HAZが重なった部分には発生していない。
【0014】
一方、内圧を受ける鋼管に発生する応力は鋼管の板厚方向に分布を持っており、管内面が最も高くなり管外面に近づくほど低くなっている。したがって、溶接継手のクリープ破断寿命あるいはクリープ損傷の観点から言えば、管内面からの溶接によるHAZと管外面からの溶接によるHAZとが交わる位置を、なるべく管外面側に移動させることにより、当該部位のクリープ損傷が小さくなることは明らかである。図3、図4においては、相当応力の低い等高線▲1▼から高い等高線▲5▼まで▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼の5段階を示しており、それらの相当応力は70、80、90、100、110MPaである。
【0015】
有限要素法により、管内面からHAZ交わり点まで距離Xと、管の肉厚Lに対する比を種々変化(X/L=0.1〜0.9)させて、長手溶接鋼管の内圧によるクリープ損傷解析を行った(外径=500mm、肉厚=100mm、解析温度=600℃、内圧=59MPa、θ=140°)。
【0016】
図5は、有限要素法解析により得られた、比X/Lの変化にともなう長手溶接継手のクリープ寿命の変化を示す。距離の比X/Lが大きくなるほど、換言すれば、HAZが交わる部分が管外面に近いほど、溶接継手のクリープ寿命は長くなっている。距離の比X/Lが0.7以上において継手のクリープ寿命はほぼ一定となり、継手のクリープ寿命は、管内面から溶接によるHAZと管外面からの溶接によるHAZとが角度を持たない理想的な溶接継手のクリープ寿命に近づく。このことは本発明を用いれば、開先2の角度の大きな溶接継手においても、狭開先の溶接継手と同等のクリープ寿命が得られることを示している。
【0017】
また図5によると、長手溶接継手のクリープ寿命は、管内面からHAZ交わり点までの距離Xと、鋼管の肉厚Lとの比(X/L)が0.4以下で大きく低下している。このことは、長手溶接部のクリープ損傷の観点からはHAZが交わる部分が鋼管のなるべく外側に近い方が望ましいことを示している。継手のクリープ寿命比はX/L=0.4以上では大きな変化は無いことから、X/Lの比0.4以上が望ましいと言える。
【0018】
すなわち、鋼管を内外面から溶接する構造物において、管内面から溶接と管外面からの溶接のHAZが交わる位置までの管内面からの距離と、鋼管の肉厚との比が0.4以上となるような溶接構造にすれば、溶接鋼管の内圧によるクリープ損傷は低減され、溶接構造物のクリープ破断強度や信頼性が向上する。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態を具体的に説明する。図1に本発明の実施の形態として、板曲げ長手溶接継手の開先形状およびマクロ組織の概略図を示す。溶接条件は以下の通りである。
【0020】
鋼 材:9Cr−1Mo鋼
鋼管寸法:φ762×t100(mm)
溶接方法:SMAW
溶接電流:170〜250A
溶接電圧:22〜27V
溶接棒径:4.0mm,5.0mm
予 熱:170℃
開先形状:H=20mm,B1=15mm,B2=20mm(X/L=0.8)
溶接は先ず管外面から被覆アーク溶接(SMAW)を行い、その後裏面をはつり、管内面から同様にSMAW溶接を行った。HAZが交わる位置までの管内面からの距離Xと鋼管の肉厚Lとの比の影響を検討するため、本発明の溶接構造X/L=0.8の溶接継手と、従来の溶接構造X/L=0.2の溶接継手のクリープ強度の比較を行った。断面のマクロ組織を観察した結果、管内面から溶接と管外面からの溶接によるそれぞれのHAZのなす角度(HAZ交叉角)θは約140°であった。有限要素法によるクリープ損傷解析(解析温度=600℃,内圧=59MPa,θ=140°,X/L=0.8)による、本発明(X/L=0.8)の溶接継手のクリープ寿命は26,000時間であった。X/L=0.2である従来の溶接構造の継手のクリープ寿命は20,300時間であった。なお、管内面から溶接によるHAZと管外面からの溶接によるHAZとが角度を持たない理想的な溶接継手のクリープ寿命は、クリープ損傷解析によると26,100時間であった。
【0021】
したがって、上述のように管内面からHAZが交わる位置までの距離Xと管の肉厚Lとの比(X/L)が0.4以上になるような溶接を行うことにより、継手のクリープ寿命は向上し、管内面から溶接によるHAZと管外面からの溶接によるHAZとが角度を持たない理想的な溶接継手のクリープ寿命に近づき、耐熱鋼管1の長手溶接継手部あるいは周溶接継手部のクリープ破断強度が向上する。
【0022】
他の実施の形態
以下、本発明の他の実施の形態を具体的に説明する。上述の実施の形態と同様な溶接をX/Lの比を変更して行った。溶接条件は以下の通りである。
【0023】
鋼管寸法:φ762xt100
溶接方法:被覆アーク溶接(SMAW)
溶接電流:170〜250A
溶接電圧:22〜27V
溶接棒径:4.0mm,5.0mm
予 熱:170℃
開先形状:H=50mm,B1=15mm,B2=15mm(X/L=0.5)
溶接は先ず管外面からSMAW溶接を行い、その後裏面をはつり、管内面から同様にSMAW溶接を行った。管内面からHAZ交わり点までの距離Xと鋼管の肉厚Lとの比の影響を検討するため、本発明の溶接構造であるX/L=0.5の溶接継手と、従来の溶接構造X/L=0.2の溶接継手のクリープ強度の比較を行った。断面のマクロ組織を観察した結果、管内面から溶接と管外面からの溶接によるHAZのなす角度(HAZ交叉角)θは約140°であった。有限要素法によるクリープ損傷解析(解析温度=600℃,内圧=59MPa,θ=140°,X/L=0.5)によれば、本発明(X/L=0.5)の溶接継手のクリープ寿命は25,800時間であり、一方、X/L=0.2である従来の溶接構造の継手のクリープ寿命は20,300時間であった。
【0024】
したがって、本実施の形態においても上述の実施の形態と同様に、管内面からHAZ交わり点までの距離Xと管の肉厚Lとの比(X/L)が0.4以上になるような溶接を行うことにより、継手のクリープ寿命は向上し、管内面から溶接によるHAZと管外面からの溶接によるHAZとが角度を持たない理想的な溶接継手のクリープ寿命に近づき、耐熱鋼管の長手溶接継手部あるいは周溶接継手部のクリープ破断強度が向上する。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、内圧を受けるフェライト系耐熱鋼管の長手方向の溶接部のクリープ破断強度やクリープ損傷を低減することができ、溶接構造物の信頼性を向上する。
【0026】
また、これらのことから継手の効率を上げることができるので従来法に比べ鋼管を薄肉化できるため、主配管等の重量低減を図ることができる。
したがって、本発明の工業的価値は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態である管の突合せ溶接継手の形状を示す図である。
【図2】有限要素法による、管の突合せ溶接継手部のクリープ解析に用いたモデルを示す図である。
【図3】クリープ解析による管の突合せ溶接継手部(本発明)の相当応力の分布を示す図である。
【図4】クリープ解析による管の突合せ溶接継手部(従来)の相当応力の分布を示す図である。
【図5】HAZの交わり点の位置X/Lに対するクリープ寿命を示すグラフある。
【図6】一般に用いられる管の突合せ溶接継手の形状を示す図である。
【符号の説明】
1 フェライト系耐熱鋼管
2 開先
3 溶接金属
4、4a、4b HAZ
5、5a、5b HAZ軟化域
6 HAZ交わり点
7 母材
Claims (2)
- フェライト系耐熱鋼管を管内外両面から完全溶け込みで突合せ溶接した溶接構造において、管内面側に形成された溶接金属周囲の熱影響部と管外面側に形成された溶接金属周囲の熱影響部とが交わる位置から管内面までの距離と、管の肉厚との比が0.4以上であることを特徴とするフェライト系耐熱鋼管の溶接構造。
- 前記フェライト系耐熱鋼管はCr−Mo鋼からなる請求項1記載のフェライト系耐熱鋼管の溶接構造。
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JP32715995A JP3684475B2 (ja) | 1995-12-15 | 1995-12-15 | フェライト系耐熱鋼管の溶接構造 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP32715995A JP3684475B2 (ja) | 1995-12-15 | 1995-12-15 | フェライト系耐熱鋼管の溶接構造 |
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JPH09164480A JPH09164480A (ja) | 1997-06-24 |
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JP32715995A Expired - Fee Related JP3684475B2 (ja) | 1995-12-15 | 1995-12-15 | フェライト系耐熱鋼管の溶接構造 |
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- 1995-12-15 JP JP32715995A patent/JP3684475B2/ja not_active Expired - Fee Related
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