JP3683036B2 - 自然分解性複合糸およびその製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自然分解性で、且つ優れた嵩高性、柔軟性および好ましい風合いを持つ繊維製品を製造することが出来る、新規複合糸およびその製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
合成樹脂からなる従来の合成繊維は、自然環境下での分解速度が遅く、また焼却時の発熱量が多いため、自然環境保護の見地からの見直しが必要である。このため、脂肪族ポリエステルからなる自然分解性繊維が開発されつつあり、環境保護への貢献が期待されている。脂肪族ポリエステルのあるものは、優れた繊維性能を持ち、新しい特徴ある繊維素材として期待されるが、製品の嵩高性、柔軟性、風合いなどの面で不満足な点があり、その改善が望まれている。
【0003】
従来、通常の繊維間複合(混合)体において、収縮性の異なる繊維を組合わせると、嵩高性や柔軟性に優れた編織物などの製品が得られることは知られている。しかし、脂肪族ポリエステル繊維では、収縮性を制御する方法は未だほとんど知られておらず、まして収縮性の異なる繊維を複合することや、それを用いて織物や編み物の品質を改良することは、全く知られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、自然分解性であり、且つ優れた嵩高性、柔軟性および好ましい風合いを持つ繊維製品を製造することが出来る新規複合糸およびそれらから得られる優れた製品を提供するにある。本発明者らは、脂肪族ポリエステル繊維の特性特に熱収縮性について鋭意研究し、溶融時の吸熱量や融点の異なる成分からなる繊維を組合わせることにより、優れた繊維構造物が得られることを明らかにし、本発明を完成したものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記本発明の目的は、融点140℃以上且つ溶融時の吸熱量が20ジュール/グラム以上の結晶性脂肪族ポリエステル重合体(1)からなる、分子配向された繊維(A)と、融点が10℃以上異なる少なくとも2種の脂肪族ポリエステルのブロック共重合体または/及び融点が10℃以上異なる少なくとも2種の脂肪族ポリエステルの混合体であり、且つ融点110℃以上、溶融時の吸熱量が3ジュール/グラム以上の高融点成分(X)を95〜10重量%、および融点40〜120℃、溶融時の吸熱量が3ジュール/グラム以上の低融点成分(Y)を5〜90重量%含む組成物(2)からなる、分子配向された繊維(B)とが混合されてなる複合糸およびそれを応用した編織物などの繊維構造物により達成される。
ここで、脂肪族ポリエステルとは、(1)グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチルカルボン酸などのようなヒドロキシアルキルカルボン酸、(2)グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、(3)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのような脂肪族ジオール、(4)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレン/プロピレングリコール、ジヒドロキシエチルブタンなどのようなポリアルキレンエーテルのオリゴマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどのポリアルキレングリコール、(5)ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリヘキサンカーボネート、ポリオクタンカーボネート、ポリデカンカーボネートなどのポリアルキレンカーボネートグリコールおよびそれらのオリゴマー、(6)コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸など、脂肪族ポリエステル重合原料に由来する成分を主成分すなわち50重量%以上(特に60%以上)とするものであって、脂肪族ポリエステルのホモポリマー、脂肪族ポリエステルのブロック又は/及びランダム共重合ポリマー、および脂肪族ポリエステルに他の成分、例えば芳香族ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン、ポリオルガノシロキサンなどを50重量%以下(ブロック又は/及びランダム)共重合したもの及び/又は混合したものをすべて包含する。
【0006】
脂肪族ポリエステルを共重合や混合によって変性する目的は、結晶性の低下、融点の低下(重合温度や成型温度の低下)、摩擦係数、柔軟性や弾性回復性の改良、耐熱性、ガラス転移温度や熱収縮性の低下または上昇、染色性、親水性や撥水性の改良、分解性の向上または抑制などが挙げられる。
【0007】
本発明複合糸は、融点140℃以上、溶融時の吸熱量20J/g以上で結晶性が高い脂肪族ポリエステル重合体(1)からなる低収縮性繊維(A)と、融点110℃以上の高融点成分(X)および融点40〜120℃の低融点成分(Y)を含む脂肪族ポリエステル組成物(2)からなる高収縮繊維(B)とが混合された、繊維間複合体である。本発明複合糸の具体例としては、複数種の連続フィラメントが混合されている混合フィラメント(以下「混繊糸」と記すことがある)、連続フイラメントとステープルとが複合された「長/短複合糸」、および複数種のステープルが混合され紡績された「混紡糸」の3つが代表的なものである。
【0008】
ここで溶融時の吸熱量は、走査型示差熱量計 (以下DSCと記す) を用い、十分に延伸又は/及び熱処理し、乾燥した試料について、試料重量10mg、窒素中、昇温速度 10℃/minの条件で測定したものである。図7に、DSC曲線を模式的に示す。図はほとんど結晶化していない試料の測定例で、4はガラス転移によるベースラインの変化を示し、5は測定時の加熱による結晶化の発熱ピークを示し、6は結晶の溶融による吸熱ピークを示す。十分に結晶化している試料では、発熱ピーク5は消失し観測されない。本発明において、融点は結晶の溶融による吸熱ピーク6の極小値(中心値)の温度とし、吸熱ピーク6の全吸熱量(積分値、図7の斜線部の面積に比例する)を溶融時の吸熱量(以下に「溶融吸熱量」と略記する場合がある)とする。吸熱量の単位は、ジュール/グラム(以下J/gと記す)とする。混合物やブロック共重合体などで、融点が複数存在する場合は、最も高いものを組成物全体の融点とする。但し、最も高温のピークの溶融吸熱量が例えば3J/g程度以下と無視できる程小さく、それよりも低温に溶融吸熱量が例えば20J/g以上の大きな主ピークがあれば、その組成物の実質的な融点(ポリマーが極度に軟化、流動開始する温度)はその主ピークとみなされる場合もある。また組成物全体の溶融吸熱量は、全ての溶融吸熱ピークの合計とする。
【0009】
重合体(1)は、融点及び溶融吸熱量が高く、熱収縮性の小さな成分である。重合体(1)に好適なものとしては、結晶性のホモポリマーおよび、それに対して結晶性をあまり損なわない程度に少量(例えば40重量%以下、特に30%以下)の第二成分や第三成分を共重合又は/及び混合したものが挙げられる。本発明繊維混合体の、強度、耐熱性および製品の風合いの見地から、重合体(1)の溶融時の吸熱量は、20J/g以上が必要であり、30J/g以上が特に好ましく、40J/g以上が最も好ましい。結晶性脂肪族ポリエステルのホモポリマーの溶融吸熱量は、多くの場合50J/g前後またはそれ以上である。
【0010】
同様に、実用的見地から重合体(1)の融点は、140℃以上の必要があり、150℃以上が好ましく、160℃以上が最も好ましい。重合体(1)に好ましいものの具体例としては、ポリL−乳酸(融点約175℃)、ポリD−乳酸(同175℃)、ポリヒドロキシブチレート(同180℃)、ポリグリコール酸(同230℃)などのホモポリマー、およびそれらに少量の他成分を共重合又は/及び混合したものが挙げられる。重合体(1)の分子量は、特に限定されないが、実用性の見地から、5万以上が好ましく、8〜30万が特に好ましく、10〜20万の範囲が最も広く用いられる。
【0011】
一般に、ブロック共重合では結晶性や融点の変化は緩やかであり、共重合成分の比率は1〜50%、特に1〜40%、多くの場合1〜30%が好ましいが、ランダム共重合では結晶性や融点の変化が顕著で、共重合成分の比率は0.5〜10%、特に1〜5%が好ましいことが多い。勿論、共重合による融点や結晶性の変化は、共重合成分によって大きく変るので、DSCによる結晶の溶融吸熱量及び融点に注意する必要がある。他成分の混合による融点や結晶性の変化も、混合成分や混合率により相当変わるが、ランダム共重合ほど顕著でないことが多い。
組成物(2)は、融点が10℃以上異なる少なくとも2種の脂肪族ポリエステルのブロック共重合体または/及び融点が10℃以上異なる少なくとも2種の脂肪族ポリエステルの混合体であり、融点が110℃以上の高融点成分(X)と、融点が40〜120℃の低融点成分(Y)とをそれぞれ95〜10%および5〜90%含むものである。成分(X)は組成物(2)の耐熱性を維持するためのもので、融点は110℃以上の必要があり、120℃以上が好ましく、140℃以上が特に好ましい。成分(X)の重量比率は、95〜10%の範囲であり、85〜20%の範囲が好ましく、75〜30%の範囲が最も広く用いられる。組成物(2)中の成分(X)の溶融吸熱量は、3J/g以上が必要であり、5J/g以上が特に好ましく、10J/g以上が最も好ましく、10〜50J/g程度の範囲が広く用いられる。
【0012】
成分(Y)は、組成物(2)からなる繊維(B)の熱収縮性に大きく寄与するもので、融点は40〜120℃の範囲である必要があり、50〜110℃が好ましく、60〜100℃の範囲が特に好ましい。組成物(2)の中の成分(Y)の比率は、5〜90%の必要があり、15〜80%の範囲が特に好ましく、25〜70%の範囲が最も広く用いられる。
【0013】
成分(Y)の融点は、成分(X)の融点よりも少なくとも10℃低い必要があり、その融点差は20℃以上が特に好ましく、30℃以上が最も好ましい。例えば融点160℃の成分(X)と、融点80℃の成分(Y)の組み合わせによるブロック共重合体または混合物からなる繊維は、例えば100℃の水中で処理されると成分(Y)が溶融するため大きく収縮するが、高融点成分(X)が存在するため繊維全体は溶融せず形を保つ。従って、必要とされる熱処理温度、熱収縮性、耐熱性に応じて、組成物(2)を構成する成分(X)、(Y)の融点及びその比率を選べばよい。一般に、低融点成分(Y)は、低結晶性でも良いが、結晶性が低すぎると、繊維の染色堅牢度が低下したり、加熱などにより粘着を生じることがある。従って、収縮させる熱処理工程の温度(例えば80〜120℃)では溶融するが、使用時の温度(例えば40℃以下)では,十分に結晶化していることが好ましいことが多い。すなわち成分(Y)は、結晶性で、その融点は50〜110℃,特に60〜100℃の範囲が好適なことが多い。組成物(2)中の成分(Y)の結晶の溶融吸熱量は3J/g以上の必要があり,5J/g以上が好ましく、10〜40J/g程度の範囲が広く用いられる。
【0014】
組成物(2)は、主要な構成成分(X)と(Y)とが、ブロック共重合又は/及び混合されたものである。分子末端に水酸基を持つ脂肪族ポリエステルには、カプロラクトン、ラクチド、グリコリドなどのラクトンは溶融状態で容易に付加反応(重合)し、ブロック共重合体が得られる。また分子末端に水酸基を持つ2種以上の脂肪族ポリエステルの混合物に、例えばヘキサンジイソシアネートなどのジイソシアネート、無水フタル酸などのジカルボン酸無水物、テレフタル酸クロリドなどのジカルボン酸ハロゲン化物などの2官能化合物を反応させ、それらを結合しブロック共重合物を得ることも出来る。同様に、複数の脂肪族ポリエステルを溶融混合し、エステル交換反応によりブロック共重合物を得ることも出来る。しかし、溶融混合を触媒存在下、あまり高温で長時間行うと、エステル交換反応が進み過ぎてランダム共重合物となるので、十分注意が必要である。
【0015】
成分(X)と(Y)との混合は、それらのペレットを混合してスクリュー押出し機などで溶融、混合してもよく、別々に溶融した両成分を2軸混合押出し機その他の攪拌装置、流れの分割と合流を多段的に繰返す静止混合器などの1種または複数種を組合わせて応用し、混合しても良い。この場合も、エステル交換反応が進み過ぎないように注意する必要がある。混合物または反応物をDSC分析し、融点および溶融吸熱量の低下が少なければ、ランダム共重合があまり進行していないと判定出来る。成分(X)と(Y)との混合を安定に行うためには、両者の親和性が高いことが望ましい。両者の親和性改善の方法としては、成分(X)の中に成分(Y)をブロック共重合などの方法で部分的に導入すること、成分(Y)の中に成分(X)を導入すること、親和性改善剤(界面活性剤)として両成分のブロック共重合物を混合することなどが挙げられる。
【0016】
組成物(2)は、主として、脂肪族ポリエステル成分(X)及び(Y)とからなるが、副次的成分(50重量%以下、特に30%以下)として他の成分例えば芳香族成分、ポリエーテル成分、ポリカーボネート成分、ポリウレタン成分、ポリアミド成分、ポリ有機シロキサン成分その他を含んでいてもよい。組成物(2)の分子量は、特に限定されないが、5万以上が好ましく、8〜30万が特に好ましく、10〜20万の範囲が広く用いられる。
【0017】
高融点成分(X)に好適な脂肪族ポリエステルの具体例としては、前述の重合体(1)用に例示したものの他、ポリブチレンサクシネート(融点116℃)、ポリヘキサメチレンフマレート(融点117℃)等が挙げられる。他方、低融点成分(Y)に好適なポリエステルの具体例としては、例えばポリカプロラクトン(融点約59℃)、ポリプロピオラクトン(同95℃)などの脂肪族ポリラクトンの他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族グリコール類の一種以上と、サクシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、オクタンジカルボン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸の一種以上を組み合わせて得られるポリエステル、例えばポリエチレンアジペート(融点約49℃)、ポリエチレンスベレート(同65℃)、ポリエチレンアゼレート(同52℃)、ポリエチレンセバケート(同75℃)、ポリブチレンサクシネート(同116℃)、ポリブチレンアジペート(同72℃)、ポリブチレンセバケート(同66℃)、ポリヘキサンセバケート(同74℃)その他のホモポリマー、およびそれらを成分とするブロックまたはランダムコポリマーが挙げられる。
【0018】
重合体(1)と組成物(2)とは、それぞれ別々に繊維化され、必要に応じて延伸、熱処理などにより分子配向、結晶化され、繊維(A)および繊維(B)が製造される。繊維(A)および繊維(B)は、色々な手段で混合されて本発明の複合糸(繊維混合体)が得られる。混合方法は、特に限定されないが、繊維(A)および繊維(B)が共にフィラメントの場合、同一または近接する紡糸口金から同時に紡糸し巻取る紡糸混繊、別々に紡糸後エアノズルなどを応用するエア混繊、延伸混繊、単なる合糸、合撚、混繊仮撚(複合仮撚)などの方法が好ましく用いられる。繊維(A)および繊維(B)の一方がフィラメントで他方がステープルの場合は、紡績工程にフィラメントを供給するいわゆるコアスピニング法が応用される。繊維(A)および繊維(B)が共にステープルの場合、通常の混合綿、混合スライバー、混合ウェブなどの方法で混紡糸が容易に得られる。
【0019】
従来、特に柔軟性を必要とするドレス、ブラウス、下着、裏地、コートそのほかの薄地または中肉の織編物などでは、染色仕上げ加工工程において、ポリエステル繊維からなる布をアルカリ(水酸化ナトリウムの水溶液など)で処理し、ポリマーの一部(例えば5〜50%、特に10〜30%)を分解除去するアルカリ減量加工が広く行われる。脂肪族ポリエステル繊維もアルカリ減量加工可能である。しかし、一般に脂肪族ポリエステル繊維はアルカリに極めて敏感であり、従来の芳香族ポリエステル繊維に比べ、よりマイルドな条件(低アルカリ濃度、弱アルカリ、低PH、低温など)で行う。本発明複合糸を応用した編織物のアルカリ減量加工では、繊維(B)は繊維(A)に比べてアルカリ減量速度が大きい場合が多い。従って、アルカリ減量が予定されている場合、繊維(B)は、その減量速度に応じて繊維(A)よりも単糸(平均)繊度を大きく、例えば10%以上、特に20〜400%(5倍)程度大きくしておくことが望ましい場合がある。同様な目的の別の方法としては、繊維(B)を単位重量当たりの表面積が小さい円形またはそれに類似する断面とし、繊維(A)をそれよりも10%以上、特に20〜400%(5倍)程度表面積の大きな多角形や多葉形とすることが挙げられ、アルカリ減量加工後に繊維(A)および(B)が、それぞれ適切な繊度および混合比率となるように配慮することが好ましい。もちろん上記2つの方法を併用することもできる。いずれにせよ、アルカリ減量加工をする場合、脂肪族ポリエステル繊維のアルカリ減量加工は、アルカリの消費量が少なく、生成する分解物は容易に生物により分解されるので、従来の芳香族ポリエステル繊維に比べて、環境への悪影響が極めて少ないという大きな利点がある。
【0020】
繊維(A)と繊維(B)との沸騰水収縮率(100℃沸騰水中、無荷重で10分間処理し、常温室内で自然乾燥したとき)の差は、特に限定されないが、通常3%以上、特に5〜50%程度が好ましく、10〜40%程度の範囲が最も広く用いられる。従って、繊維(A)の沸騰水収縮率は15%以下が好ましく、10%以下が特に好ましい。他方、繊維(B)の沸騰水収縮率は15%以上が好ましく、20%以上が特に好ましく、30〜60%程度の範囲が広く用いられる。 繊維(A)と繊維(B)の断面は、円形、長円形、ひょうたん形、多角形、多葉形、アルファベット形その他各種の非円形(異形)、中空形など任意に選ぶことが出来る。繊度も同様に使用目的に応じて任意に選ばれるが、通常の衣料用には、単糸繊度0.1〜50デニール(d)程度の範囲、特に0.5〜30dの範囲が好ましく、1〜20dの範囲が広く用いられる。不織布、皮革、資材用などにはもっと細いものや太いものも用いられる。繊維(A)と繊維(B)は、それぞれ断面、繊度、収縮率の異なる2種以上のものを混合したものでも良い。
【0021】
本発明複合糸は、重合体(1)および組成物(2)を用い、溶融、湿式、乾式、乾湿式その他の方法で紡糸して製造することが出来るが、特に溶融紡糸は能率が高く好ましい。溶融紡糸は、巻取速度500〜2000m/minの低速紡糸、巻取速度2000〜5000m/minの高速紡糸、巻取速度5000m/min以上の超高速紡糸が可能であり、更に必要に応じ延伸や熱処理をすることができる。一般に低速紡糸では3〜8倍程度、高速紡糸では1.5〜3倍程度の延伸を行い、超高速紡糸では延伸不要または2倍程度以下の延伸を行うことが多い。紡糸と延伸を連続して行ういわゆるスピンドロー方式も好ましく応用できる。また、延伸を比較的低い倍率でおこない、低温で熱処理した繊維で、後で高温の加熱により結晶化及び配向が進行し繊維が伸長する特異な「自己伸長糸」を、繊維(A)に好ましく用いることも出来る。
【0022】
本発明複合糸は、連続フィラメント混繊糸、合撚糸、長/短複合糸、複合仮撚糸、混紡糸およこびそれらに類似するものなど、使用目的に応じて任意の形態とすることが出来、それらを用いて編物、織物、不織布その他の繊維構造物を製造することが出来る。それらの製造工程や加工工程の中で、また製造後に適宜加熱又は膨潤することにより、繊維(A)と繊維(B)との間に収縮率の差を生じさせ、製品に好ましい嵩高性、柔軟性、伸縮性、風合いを与えることが出来る。加熱は乾熱、湿熱、赤外線、それらの併用その他任意である。膨潤は溶剤、膨潤剤や水を用いる。もちろん、必要に応じ糸状で仮撚や押込み法などで、機械的に巻縮を付与した後、加熱して収縮させることも出来る。また、例えば織物や編物の染色仕上げ工程で、加熱収縮させることが広く行われる。一般に収縮処理は、弛緩状態で行うことが多いが、適度な緊張を加えて収縮を制御することが出来る。本発明複合糸を構成する繊維(A)および繊維(B)には、各種顔料、染料、着色剤、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、無機化合物粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤を、必要に応じ混合することが出来る。
【0023】
本発明複合糸は単独で、又は他の繊維と混用して糸、紐、ロープ、編物、織物、不織布、紙、複合材料その他の構造物の製造に用いることが出来る。他の繊維と混用する場合、綿、羊毛、絹などの天然有機繊維、脂肪族ポリエステル繊維などの自然分解性繊維と混合使用すれば、完全に自然分解性の製品が得られるので特に好ましい。
【0024】
【発明実施の形態】
図1〜6に本発明の実施例である混繊糸、コアスパン糸(長/短複合糸)、および混紡糸の横断面を示す。図において1は繊維(A)を示し、2は繊維(B)を示し、3はその他の繊維(C)を示す。図1は、円形断面の繊維(A)12本と、円形断面の繊維(B)12本が比較的均一に混合されている例、図2は、円形断面の繊維(A)12本と、円形断面の繊維(B)12本が偏心的(それぞれの重心が離れている状態)に配置されている例、図3は、円形断面の繊維(B)10本が内部に、円形断面の繊維(A)14本が外部に同心的に配置されている例である。図4は、円形断面の繊維(B)12本と、三角断面の繊維(A)15本とが、ほぼ均一に混合されている例、図5はやや太い繊維(B)6本と、やや細い三角断面の繊維(A)15本が心鞘型に配置されている例、図6は、やや太い繊維(B)4本と、細い3角断面の繊維(A)12本、更にそれらとは別の円形断面の繊維(C)12本が混合されている例である。
【0025】
本発明において、繊維の断面形状、繊度、繊維(A)と繊維(B)との混合比率(重量比)などは、特に限定されない。繊維(A)と繊維(B)との混合比率は、目的とする製品によって任意に選ばれるが、多くの場合10/1〜1/10、特に5/1〜1/5の範囲が好ましく、3/1〜1/3の範囲が特に好ましく、2/1〜1/2の範囲が最も広く用いられる。繊維(A)と繊維(B)との複合(混合)状態も限定されないが、図1に示すように両者が均一且つランダムに分散されたもの、図2に示すような偏心的配置、図3に示すような芯鞘または同心的配置の三種は、基本的かつ好ましいことが多く、広く用いられる。また、図6のように別の繊維(C)を混合しても良い。繊維(C)としては、自然分解性の羊毛、綿、セルロース系および脂肪族ポリエステル繊維などが特に好ましい。
【0026】
【実施例】
以下の実施例において、%、部は特に断らない限り重量比である。脂肪族ポリエステルの分子量は、試料の0.1%クロロホルム溶液のGPC分析において、分子量1000以下の成分を除く高分子成分の分散の重量平均値である。
【0027】
繊維の収縮率は、試料フィラメントを約1000デニール(950〜1050d)、長さ50cmの束にし、荷重50gを加えて1分後の長さL1を測定し、次に無荷重で沸騰水中で10分間処理した後吸取り紙で脱水し、23℃,65%RHの測定室中で無荷重で24時間以上自然乾燥した後、荷重50gを加えて1分後の長さL2を測定し、[(L1−L2)/L1]×100(%)の式によって計算する。
【0028】
実施例1
分子量8000で両末端が水酸基のポリエチレングリコール(PEG)3部、L−ラクチド98部、オクチル酸錫100ppm、チバガイギー社の酸化防止剤イルガノックス1010の0.1部を混合し、窒素雰囲気中188℃で12分間、2軸押出機中で溶融攪拌重合し、冷却チップ化後、140℃窒素雰囲気中で4時間処理(固相重合)して、ポリ乳酸とPEGのブロック共重合ポリマーP1を得た。ポリマーP1は、分子量15.5万、PEG成分の含有率約3%、融点175℃、十分に配向結晶化した繊維の溶融吸熱量は55J/gであった。ポリマーP1を230℃のスクリュウ押出し機で溶融し、225℃、直径0.2mmのオリフィスより紡出し空気中で冷却、オイリングしながら1500m/minの速度で巻取り、80℃で4.5倍延伸し緊張下110℃で熱処理し40デニール/12フィラメのント延伸糸A1を得た。延伸糸A1の強度は4.5g/d,伸度29%、沸騰水中の収縮率は12%である。
【0029】
ポリブチレンサクシネート(PBS)とポリブチレンアジペート(PBA)の4/1(モル比)のランダム共重合物で分子量12.5万、融点92℃、溶融吸熱量57J/gのもの30部、L−ラクチド71部、上記イルガノックス0.1部、オクチル酸錫100ppmを混合し、以下ポリマーP1と同様にして、ブロックコポリマーBP1を得た。BP1の分子量は14.7万、融点は主要なものが166℃と85℃の2つあり、その吸熱量は32J/gと12J/gで、それぞれポリL−乳酸セグメント(ブロック)およびPBS/PBA共重合物セグメントの結晶に対応すると推定される。
【0030】
コポリマーBP1を220℃のスクリュウ押出し機で溶融し、225℃、直径0.2mmのオリフィスより紡出し空気中で冷却、オイリングしながら1500m/minの速度で巻取り、80℃で4.5倍延伸し、熱処理しないで40デニール/12フィラメのント延伸糸B1を得た。延伸糸B1の強度は4.3g/d,伸度35%、沸騰水中の収縮率は36%である。
【0031】
延伸糸A1および延伸糸B1を各1本ずつ用いエアノズルにより混合し、糸断面内で両者が均一に混合された混繊糸MY1を得た。混繊糸MY1を,600回/mで撚糸したものを経糸に、撚数30回/mのものを緯糸に用い2/1の綾織物を作成し、弛緩状態で精練剤を含む98℃の水中で15分間処理し、更に60℃の炭酸ソーダ2.5%水溶液で10分間処理(減量加工)した。その後洗浄し柔軟仕上げ剤を0.2%付与し120℃で緊張熱処理して織物MF1を得た。
【0032】
比較のために、延伸糸A1を2本合撚した糸を用い、以下MF1と同様にして織物MF2を得た。織物MF1、織物MF2の風合いなどを表1に示す。
【0033】
表1
織物 柔軟性 嵩高性 風合い 備考
MF1 良好 良好 良好 本発明
MF2 やや不良 やや不良 不良 比較例
実施例2
実施例1のPBS/PBA共重合物のペレット30部、コポリマーBP1(親和性改善用)のペレット10部およびポリマーP1のペレット70部を混合し、2軸押出し機で225℃で溶融混合し225℃の紡糸口金より紡糸し、以下実施例1延伸糸B1と同様にして延伸糸B2を得た。延伸糸B2の強度は4.3g/d、伸度は33%、沸騰水中の収縮率は33%で、融点及び溶融吸熱量は172℃、31J/g、88℃、17J/gであった。実施例1の延伸糸A1の1本と延伸糸B2の1本を用い、以下実施例1の混繊糸MY1と同様にして、混繊糸MY3を得た。混繊糸MY3を用い、以下実施例1の織物MF1と同様にして混繊糸織物MF3を得た。織物MF3の柔軟性、嵩高性、風合いなどは、実施例1のMF1とほぼ同等で、比較例MF2に比べるとはるかに優れており、混繊の効果が十分に認められた。
【0034】
【発明の効果】
本発明によって、自然分解性であり環境汚染することが少なく、しかも柔軟性、嵩高性、風合いにすぐれた編物、織物などを製造することが出来る新規複合糸が提供され、各種衣料、工業資材、産業資材、家庭用品などに好適に利用可能となった。一般に、脂肪族ポリエステル繊維は、自然環境下で分解するだけでなく、従来使われた合成繊維よりも燃焼時の発熱量が少なく、焼却も容易である。なかでも乳酸は、農産物から発酵法などで得られ、自然の物質循環系の中に組み込まれるので、空気中の炭酸ガスを増加させることがなく、ポリ乳酸を主成分とする脂肪族ポリエステルは、環境保護の見地から最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】2種の円形断面繊維が均一に混合された本発明複合糸の断面図である。
【図2】2種の円形断面繊維が偏心的に混合された本発明複合糸の断面図である。
【図3】2種の円形断面繊維が同心的に混合された本発明複合糸の断面図である。
【図4】3角断面と円形断面繊維が均一に混合された本発明複合糸の断面図である。
【図5】3角断面と円形断面繊維が同心的に混合された本発明複合糸の断面図である。
【図6】3角断面、円形断面繊維および第3の繊維が混合された本発明複合糸の断面図である。
【図7】走査型示差熱量計(DSC)による、結晶性ポリマーの昇温時の発熱および吸熱を示す曲線(DSC曲線)である。
【符号の説明】
1重合体(1)よりなる繊維(A) 2組成物(2)よりなる繊維(B)
3第3の繊維(C) 4ガラス転移によるベースラインの変化
5ポリマーの結晶化による発熱ピーク
6ポリマー(結晶)の溶融による吸熱ピーク
Claims (4)
- 融点140℃以上且つ溶融時の吸熱量が20ジュール/グラム以上の結晶性脂肪族ポリエステル重合体(1)からなる、分子配向された繊維(A)と、融点が10℃以上異なる少なくとも2種の脂肪族ポリエステルのブロック共重合体または/及び融点が10℃以上異なる少なくとも2種の脂肪族ポリエステルの混合体であり、且つ融点110℃以上、溶融時の吸熱量が3ジュール/グラム以上の高融点成分(X)を95〜10重量%、および融点40〜120℃、溶融時の吸熱量が3ジュール/グラム以上の低融点成分(Y)を5〜90重量%含む組成物(2)からなる、分子配向された繊維(B)とが混合されてなる複合糸。
- 重合体(1)が、融点が160℃以上、溶融時の吸熱量が40ジュール/グラム以上であり、且つ組成物(2)が、融点が20℃以上異なる複数の脂肪族ポリエステルを成分とするブロック共重合体または/及び融点が20℃以上異なる複数の脂肪族ポリエステルの混合体である請求項1記載の複合糸。
- 繊維(B)の単糸繊度が、繊維(A)のそれよりも10%以上大きい、又は繊維(B)の単位重量当たりの表面積が、繊維(A)のそれよりも10%以上小さい、請求項1記載の複合糸。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の複合糸を、少なくとも一部に用いて製造した織物又は編物。
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