JP3680043B2 - 多階層建築物の冷暖房設備 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,ビルの多階層建築物の冷暖房設備に関する。さらに詳細には,3階建て以上のビルに設置される多階層建築物の冷暖房設備に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より,一般に病院や事務所ビル等の冷暖房は,熱交換媒体として水や冷媒等を利用して行われている。水の顕熱を利用した方式としては,冷水または温水を水ポンプによって空調用の冷温水配管に送出するものがある。しかし,水を利用した方式では,水を循環させるための配管等の設備費が大きく,また,水漏れや凍結に注意する必要がある。一方の冷媒を利用した方式は,冷媒を循環させて冷媒の潜熱を利用するものである。この方式では,配管がさほど大きくなくてすみ,水漏れ対策等の問題もない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,前記した従来の冷媒利用方式の冷暖房設備では,ビルの屋上や地下等に室外機等の熱交換器を設置した場合,冷媒を垂直方向へ搬送する必要がある。冷媒は,熱交換器内で気体と液体との相変化をし,室内機と室外機とでは逆方向の変化をする。つまり,室内機から室外機への流れと室外機から室内機への流れとでは,液体あるいは気体の異なる状態であることとなる。さらに,冷房時と暖房時とでは冷媒の流通方向が逆転されるので,年間を通してみると液体状の冷媒を,室内機から室外機へと流通させる場合と室外機から室内機へと流通させる場合とがあることになる。つまり,どこに室外機を設置しても,場合によって,上向きに液冷媒を流し下向きに気体冷媒を流すことが必要となるのである。この冷媒利用方式では,一般に液冷媒をポンプによって循環させているので,上向きに流す場合には,その冷媒の液体と気体との密度差及び高低差による液ヘッドがポンプにかかることになる。そのため,3階建て以上のビルではギヤポンプ等の高揚程型のポンプを使用しなければならなかった。高揚程型のポンプは,耐久性に難点があり,また,液中に気体が混入することによって起きるキャビテーションに弱いという問題点があった。
【0004】
本発明は,前記した従来の多階層建築物の冷暖房設備が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,高揚程型のポンプを使用することなく,3階建て以上のビルの冷暖房が可能な多階層建築物の冷暖房設備を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この課題の解決を目的としてなされた本発明に係る多階層建築物の冷暖房設備は,多階層建築物を階層に基づいて区画した複数の区域ごとにそれぞれ設置され,それぞれの区域内で気液相変化冷媒を遠心ポンプにより循環させるとともに室内機に接続された冷媒循環回路と,2以上の冷媒循環回路の区域を縦方向に縦断して設置され,縦方向に水をポンプにより循環させるとともに室外機に接続された水循環回路と,水循環回路と各冷媒循環回路との接点にそれぞれ設けられた熱交換器とを有するものである。
【0006】
本発明の多階層建築物の冷暖房設備によれば,多階層建築物が階層に基づいて複数の区域に区画されて,その各区域にそれぞれ冷媒循環回路が設けられるので,各冷媒循環回路の循環範囲は階層に基づいたものとなる。そこで,例えば,各階ごとや2階ごとというように少ない階層部分を1つの区域とすることにより,冷媒循環回路のポンプにかかる液ヘッドを小さくすることができる。従って,冷媒循環回路のポンプとしては,高揚程型のポンプを使用する必要はない。さらに本発明では,各冷媒循環回路が室内機に接続され,室外機に接続される水循環回路と各冷媒循環回路との接点に熱交換器が設けられるので,冷媒によって,室内の冷暖房を行うことが可能である。また水循環回路は,2以上の冷媒循環回路の区域を縦断して設置されるが,水はその顕熱を利用するものであり,密閉回路で使用する場合には水循環回路のポンプには大きな液ヘッドがかかることはない。従って,水循環回路のポンプとしては,一般的な水ポンプが使用できる。これにより,高揚程型のポンプを使用することなく,3階建て以上のビルの冷暖房が可能な多階層建築物の冷暖房設備とすることができる。
【0007】
また,本発明の多階層建築物の冷暖房設備では,各冷媒循環回路のポンプとして遠心ポンプを用いている遠心ポンプは低揚程型であり,耐久性に優れ,液中に気体が混入するキャビテーションに強いからである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態は,3階建て以上のビルの冷暖房用の多階層建築物の冷暖房設備である。
【0009】
本実施の形態の多階層建築物の冷暖房設備は,図1に示すように,大きく冷温水配管系と冷媒配管系とに分けられている。冷媒配管系は各階にそれぞれ設けられるものであり,それぞれの末端部に冷媒用の汎用室内機11,21,31が設けられている。この図では,簡単のために各階にそれぞれ1台の室内機11〜31が示されているが,一般には,各階に複数台の室内機11〜31が設けられる。さらに,各階には,それぞれ1台ずつの遠心ポンプ12,22,32と熱交換器13,23,33が設けられ,冷媒用配管14,24,34によってその階の室内機11〜31と接続されている。図1には,3階分の構成が図示されているが,さらに多数階のビルであれば同様の構成を階数分だけ設ければよい。
【0010】
一方,冷温水配管系は,図1に示すように,ビルの屋上に設けられた吸収冷温水機41に接続されて,水ポンプ42と冷温水配管43とが設けられている。冷温水配管43は,垂直方向に往復の流路がそれぞれ形成され,各流路が各階の熱交換器13〜33と接続されている。熱交換器13〜33では,冷温水配管43を循環する冷温水と冷媒用配管14〜34を循環する冷媒との間で熱交換できるようにされている。
【0011】
冷媒循環用の遠心ポンプ12〜32は,図2に示すような内部構成を有している。ケース内に設けられた羽根車が回転し,羽根車の中心部から吸入された冷媒液を羽根車の外周に位置する吐出口へと押し出すものである。この遠心ポンプ12〜32は,低揚程ではあるが,耐久性に優れたポンプである。さらに,低揚程であることから羽根車とケーシング間の厳密なシールが不要であり,隙間が存在するため,ここから液中に発生した気泡が抜けやすい。また,キャビテーションにも強いので,ポンプ上流に気体と液体とを分離する装置を必要としないという利点も有している。
【0012】
この冷暖房設備は,次のように動作する。冷房運転時には,吸収冷温水機41において水が冷却され,水ポンプ42によって冷温水配管43に冷水が送出される。各階の熱交換器13〜33において,この冷水と冷媒との間で熱交換が行われ,冷媒が冷却されて液化する。この結果得られた液冷媒が遠心ポンプ12〜32によって室内機11〜31へ送出される。室内機11〜31では,液冷媒が室内の熱を奪って蒸発気化するので,室温が下げられる。室内機11〜31で気化されたガス冷媒は,冷媒用配管14〜34を通って熱交換器13〜33に戻り,冷水によって冷やされ再び液化する。また,熱交換器13〜33で冷媒を冷却した水は,水ポンプ42によって冷温水配管43を通って吸収冷温水機41へと送られる。そして,吸収冷温水機41において冷やされ,再び冷温水配管43へ送出される。
【0013】
暖房運転時には,吸収冷温水機41において水が加温され,水ポンプ42によって冷温水配管43に温水が送出される。各階の熱交換器13〜33において,冷媒はこの温水によって加温され蒸発気化する。気体となった冷媒は,室内機11〜31に送られて室内に熱を放出して凝縮される。それにより液化された冷媒は,遠心ポンプ12〜32によって熱交換器13〜33に戻されて,再び加温される。冷温水配管43内の水は,水ポンプ42によって循環され,再び吸収冷温水機41で加温される。
【0014】
従って,冷房時,暖房時ともに,垂直方向へ循環されるのは冷温水のみであり,冷媒はすべてその階内をほぼ水平に循環されている。この冷温水は,顕熱利用であり温度による密度差はほとんどないので,一般的な水ポンプ42によって上下方向へ循環させることができる。一方,冷媒の循環は同一階内のみであり,液ヘッドがかからないので,遠心ポンプ12〜32によって十分循環させることができる。ここでは,遠心ポンプ12〜32,熱交換器13〜33,冷媒用配管14〜34といった2次側システムを各階に設置したが,ビルの床面積や1階分の高さ等の条件によっては,2階ごとに設置して実施してもよい。
【0015】
次に,遠心ポンプ12〜32と高揚程型のギヤポンプとを比較し,本実施の形態の冷暖房設備において,冷媒の循環用として遠心ポンプ12〜32が使用可能であることを説明する。図3は,ポンプ圧力ヘッドと吐出量との比を吐出量に対してプロットすることによって,各種ポンプの性能を示したものである。黒丸は各種ギヤポンプの性能領域をプロットしたものであり,黒四角は各種遠心ポンプの性能領域をプロットしたものである。
【0016】
次に,本実施の形態における冷媒循環のために必要なポンプの性能領域を算出する。ここでは,条件的に厳しい2階ごと設置タイプで計算した。まず,必要なポンプ揚程は,配管各所における圧力損失と冷媒を1階分上昇させるための液ヘッドとの合計で算出できる。各所の圧力損失の計算値は以下のようになる。
(1)冷温水との熱交換器13〜33での圧力損失は,約49kPaである。
(2)室内機11〜31での圧力損失は,約49kPaである。
(3)冷媒用配管14〜34途中での圧力損失は,約98kPaである。
(1)〜(3)の合計から,配管中の圧力損失の合計は,約196kPaとなる。実験の結果においても,配管各所の圧力損失合計は,約100〜200kPaであった。圧力損失98kPaが,液ヘッド約10.35mに相当するので,この圧力損失に起因する液ヘッドは,約20.7mとなる。一方,高さ方向の液ヘッドの計算は次のようになる。居室の床から天井までの高さを4mとして,冷媒の比重を1.2とすると,1階分の高さの差による液ヘッドは4.8mとなる。これらを合計して,液ヘッドの合計値は,約25.5mであることがわかった。
【0017】
また,本冷暖房設備に必要な冷媒循環量はおよそ次の通りである。冷凍能力56kWクラスの設備においては約0.02m3/min必要であり,冷凍能力28kWクラスの設備においては約0.01m3/min必要である。これらの結果を図3のグラフにプロットすると,56kWクラスの設備が黒三角51であり,28kWクラスの設備が黒三角52に位置する。このことから,本冷暖房設備に必要な性能領域53は,遠心ポンプの性能領域に含まれていることが分かった。これに対し,1次側水循環設備がなく垂直方向にも冷媒を循環させる場合には,仮に10階建ての建物に設置したとすると,図3の領域55の性能を有するポンプが必要となるので,高揚程型のギヤポンプを使用しなければならない。
【0018】
以上詳細に説明したように,本実施の形態の多階層建築物の冷暖房設備によれば,垂直方向に循環させる必要のある1次側熱媒体として,水を使用している。そして,各階(あるいは2階)ごとに,その水と冷媒との間で熱交換するための熱交換器13〜33を設ける。これにより,液ヘッドの影響を受ける垂直方向には冷媒を循環させない。各階(あるいは2階)の範囲内であれば,冷媒を循環させても大きな液ヘッドはかからないので,低揚程型のポンプである遠心ポンプ12〜32が使用できる。これにより,高揚程型のポンプを使用することなく,3階建て以上のビルの冷暖房が可能な多階層建築物の冷暖房設備を提供することができた。
【0019】
さらに,本実施の形態の多階層建築物の冷暖房設備によれば,各居室内へは水配管が配置されていないので,水を嫌う施設であっても使用できる。また,冷媒は熱交換器13〜33によって熱交換されるので,一般的な冷媒利用方式では必要な圧縮機が不要となる。従って,圧縮機に使用されていた冷凍機油が不要となるので,使用できるフロンの種類が限定されない。さらに,遠心ポンプ12〜32はキャビテーションに強いので,気液分離装置が不要であり,シンプルな構成とすることができる。
【0020】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,上記実施の形態では,冷媒配管用ポンプとして遠心ポンプ12,22,32を使用しているが,遠心ポンプは低揚程型のポンプの1例であり,これに限るものではない。
また,例えば,上記実施の形態では,冷温水配管系用の冷却源または加熱源として吸収冷温水機41を使用しているが,これに限るものではない。
また,例えば,上記実施の形態では,吸収冷温水機41を屋上に設けることとしたが,屋上に限らず地下やテラス等に設置することもできる。
また,例えば,上記実施の形態では,各階に1台の遠心ポンプ12〜32と熱交換器13〜33とが設けられることとしたが,各階の面積が大きく,1台では効率の低下が大きい場合には,それぞれ複数台の遠心ポンプと熱交換器を設けてもよい。
【0021】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明によれば,高揚程型のポンプを使用することなく,3階建て以上のビルの冷暖房が可能な多階層建築物の冷暖房設備を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態にかかる多階層建築物の冷暖房設備の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態にかかる遠心ポンプの構成を示す断面図である。
【図3】本実施の形態にかかる遠心ポンプと高揚程型のギヤポンプとの性能を比較したグラフ図である。
【符号の説明】
11,21,31 室内機
12,22,32 遠心ポンプ
13,23,33 熱交換器
14,24,34 冷媒用配管
42 水ポンプ
43 冷温水配管

Claims (1)

  1. 多階層建築物の冷暖房設備において,
    多階層建築物を階層に基づいて区画した複数の区域ごとにそれぞれ設置され,それぞれの区域内で気液相変化冷媒を遠心ポンプにより循環させるとともに室内機に接続された冷媒循環回路と,
    2以上の冷媒循環回路の区域を縦方向に縦断して設置され,縦方向に水をポンプにより循環させるとともに室外機に接続された水循環回路と,
    前記水循環回路と前記各冷媒循環回路との接点にそれぞれ設けられた熱交換器とを有することを特徴とする多階層建築物の冷暖房設備。
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