JP3679863B2 - インクジェット式記録ヘッド - Google Patents
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Description
【発明が属する技術の分野】
本発明は、印字信号に応じてインク滴を吐出し、記録媒体にドットを形成するオンデマンド型のインクジェツト式記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェツト記録ヘッドは、ノズル開口を備えたノズルプレート、ノズル開口に連通する圧力発生室と、共通のインク室とインク供給口を形成する流路形成基板、これを封止して外部からの変位を受けて、圧力発生室を膨張、収縮させる振動板とからなる流路ユニット、及び振動板を介して圧力発生室にインク吐出のための機械的エネルギーを与える変位発生ユニットとから構成されている。
【0003】
インクジェットヘッドのインク供給口は、ノズル開口と並んで印字品質を大きく左右する重要な因子で、インク供給口とノズル開口との流路インピーダンス比、及び流路インビータンスの絶対値を変動させる大切な要素であって、これの寸法や流体抵抗の如何によってインク滴の飛翔速度、インク滴のインク量、インク滴の吐出可能なくり返し周波数といった記録ヘッドの諸特性が大きな影響を受ける。
このような問題は、例えば、特開平5‐229114号公報に開示されているようにシリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより圧力発生室、共通のインク室、及びインク供給口を高い寸法精度で成形することが可能となる。
ところが、高密度印刷に対応するための記録ヘッドでは、圧力発生室はアスペクト比が大きくなり、また隣接する各々の圧力発生室を隔てる壁45(図7)も薄くなり、流路形成基板に固着すべきノズルプレートや振動板の接着代が極端に狭く、また小さくなる。
【0004】
例えば、上述のように構成される記録ヘッドのサイズの一例を挙げると、図7に示したようにノズル開口40側で確保できる接着領域41は800μm×141μmと大きく、圧力発生室42の反対側のインク供給口43周囲での接着領域44は、25μm×200μmの小片として存在し、これらを合わせてもインク供給口43近傍の接着面積がノズル開口40の近傍の約20分の1と極めて小さく、ここでの接着強度を確保することが困難となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これに起因して、インク流路を形成する基板とノズルプレート、振動板との接合面での、接着剤の塗布ムラに起因する剥離や圧力発生室間でのインクの漏洩等が発生し、信頼性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであってその目的とするところは、インク供給口の流路抵抗を管理しつつ、ノズルプレート、流路形成基板、振動板の接合強度を確保することができるインクジェット式記録ヘッドを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような問題を解決するため本発明においては、ノズル開口の各々と連通する圧力発生室と、該圧力発生室にインクを供給するための共通のインク室と、前記圧力発生室と共通のインク室と接続するインク供給口とを形成する流路形成基板、インク滴を吐出するためのノズル開口を有し、前記流路形成基板の一方の面を封止するノズルプレート、前記圧力発生室を膨張、収縮させる弾性変形領域を備え、前記流路形成基板の他方の面を封止する振動板、及び前記振動板を介して前記圧力発生室を膨張、収縮させる変位発生手段とからなるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記流路形成基板の前記インク供給口は、該インク供給口を形成する一方の隔壁が前記共通のインク室から前記圧力発生室へ段階的に開拡する複数の段差が形成されている。
【0008】
【作用】
圧力発生室のインク供給口との接続領域に複数の段差を形成することにより、この近傍の接着面積を確保して変位発生手段により作用するせん断力に抗する接着力を得ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例であるインクジェツトヘッドの構成を示す斜視図であり、図2は、1つの圧力発生室の長手方向の断面構造を示す図である。インクジェツト記録ヘッドは、基本的には流路ユニット1と変位発生ユニット2との2つのユニットにより構成されている。この流路ユニット1は、ノズルプレート11と、圧力発生室13、共通のインク室14及びインク供給口15等のインク流路を形成する流路形成基板16と、振動板17との3つの基板から構成されている。
【0010】
流路形成基板16は、図4、5に示したようにノズルプレート11のノズル開口12、12、12‥‥の配列に合わせて圧力発生室13が列状に等間隔に形成されており、各圧力発生室13は、その−端がインク供給口15を介して共通のインク室14に連通されている。
これらノズルプレート11、流路形成基板16、及び振動板17は、流路形成板16を挟むように一方の面にノズルプレート11を、また他方の面を振動板17により液密に封止するように接着剤層26、27を介して流路ユニット1に纏められている。
【0011】
一方、変位発生ユニット2は、インク滴を吐出させるために圧力発生室13を膨張、収縮させるための変位発生部18を、圧力発生室13の配列方向(図1においてはX方向)に列状に配置して、先端が振動板17の島状部24に当接させることができるように片持梁状に基台19に固定して構成されている。
【0012】
この変位発生部18は、自由端となっている領域で圧電材料層20を挟んで交互に電極層21、22を積層配置してなる活性部が形成されている。電極層21、22の一方は、駆動電極として各変位発生部毎に、また他方は共通の電極として全ての変位発生部18のものを並列に接続されてリードフレーム23により図示していない外部の駆動回路に接続されている。
【0013】
これら流路ユニット1と変位発生ユニット2とは、変位発生部18の先端が、圧力発生室13に対向する領域の振動板17に形成された島状部24に当接するように接着剤25によりヘッドフレーム3に固定されている。
【0014】
ところで、印刷時には変位発生部18は圧力発生室13を膨張収縮させてノズル開口12からインク滴を吐出させる関係上、変位発生ユニット2には極めて大きな反力が作用するため、変位発生部18を保持している基台19とヘッドフレーム3との接合は、接着力が大きく、かつ疲労が少ない接着剤を使用する必要がある。このような特性を備えた接着剤は、常温では硬化速度が低いため、作業能率を上げるべく60°C程度の温度に加温して硬化を促進する処置が採られている。
【0015】
一方、ヘッドフレーム3は、製造の容易さから高分子材料の射出成形により製造され、また変位発生部18はPZT等の圧電特性を示すセラミックスにより構成されている。
【0016】
このように高分子材料とセラミックスという異なる材料で構成されているため、常温においては接着時との温度差によりヘッドフレーム3と変位発生部18との熱膨張率の差に基づく長さの違いが生じる。この長さの相違は、変位発生部18の先端に当接している圧力発生室13の近傍に集中的に押圧力として作用し、流路形成基板16や振動板17、ノズルプレート11を図3に示したように押し上げて変形させ、これに伴って発生する流路形成基板16、振動板17、ノズルプレート11への負荷は、これらを相互に接合している接着剤層26、27に対してせん断力として作用する。
【0017】
図4は、このような問題に対処するための流路形成基板16の一実施例を示すものであって、表面に(110)結晶面を持つ厚さ200〜300μmのシリコン単結晶基板のウエファーSに、複数個分の記録ヘッドの圧力発生室13、共通のインク室14、及びインク供給口15を貫通穴として形成し、インクジェット記録ヘッドの大きさに切りだして構成されている。
【0018】
図5は、上述の流路形成基板16のインク供給口15及び圧力発生室13の近傍を拡大して示すものであって、インク供給口15はその流体抵抗がノズル開口12とほぼ同等で、かつ圧力発生室13の流体抵抗に対して充分大きいことが求められるため、インク供給口15は、その流路断面積が圧力発生室13の断面積に比較して充分小さく形成されている
【0019】
すなわち一例を挙げると、圧力発生室13の幅w1が100μm程度の場合には、最も狭い箇所、つまり流路抵抗の大半を支配する最狭部15aの幅w2が25μm程度となるように形成されている。
【0020】
その上で、共通のインク室14を形成する位置を従来よりも外側にずらせて、インク供給口15と圧力発生室13との間の距離Lを従来のものに比較して長くなるように、この実施例では3倍の600μm程度となるように構成されている。そして最狭部15aから圧力発生室13側に向かって段階的に、この実施例では3つ段差部15b、15c、15dを介して圧力発生室13と同程度の幅、この実施例では100μmとなるように拡開されている。
【0021】
なお、図中符号28、29は、接着領域に形成した微小な凹部や細い溝で、接着作業時の押圧力ではみ出しかけた接着剤を吸収して、接着剤が圧力発生室やインク供給口に流れ込むのを防止するための接着剤吸収材として機能する。
【0022】
これにより、流路形成基板16の中で最も開口面積が大きな共通のインク室14と、共通のインク室14に次いで開口面積が大きな圧力発生室13の領域との間に、インク供給口15としての機能を阻害すること無く或程度の幅を有する長さ600μmの接着領域を確保することができ、従来の記録ヘッドのインク供給口領域の長さL’(図7)よりもL2だけ長い分だけ接着面積を従来の記録ヘッドの2倍程度確保することができる。
【0023】
このように接着面積の拡大による効果を確認するため、記録ヘッドを接着剤の固化のための加熱温度60℃から航空機による輸送時に晒される温度マイナス30℃まで温度を変化させ、流路形成基板、ノズルプレート、振動板の接着剤層26、27を検査したところ、接着剤層26、27の剥離は発見されなかった。
【0024】
また、インク供給口15が共通のインク室14から圧力発生室13に向かって順次大きくなる形状として形成されているため、インク滴吐出能力回復のためにノズル開口12に負圧を作用させて強制的にインクを排出させた場合には、従来の記録ヘッドのインク供給口に比較して圧力発生室との境界の段差の度合が緩和されているため、この境界領域での渦の発生が可及的に抑制されてこの近傍の気泡をもノズル開口12から容易に排出することができる。
【0025】
なお、上述の実施例においては、圧力発生室の一端側をノズル開口に連通させて、圧力発生室の一側からインクを供給する形式の記録ヘッドに例を採って説明したが、図6(イ)、(ロ)に示したように圧力発生室30の中央にノズル開口31を配置し、圧力発生室30の両側にインク供給口32、33と共通のインク室34、35とを配置して、インクの供給性を高めて高速駆動ができる形式のものに適用した場合には、より一層顕著な効果が期待できる。
【0026】
すなわち、圧力発生室30を挟むように2つの共通のインク室34、35を配置すると、圧力発生室周辺の接着面積が極めて少なくなるが、共通のインク室側に最狭部32a、33aを設け、ここから複数の段差部32b、32c、33b、33cを介して圧力発生室30に長い距離を介して連通させると、インク供給口32、33の流体抵抗をインク滴吐出に最適な値に維持しつつ、接着領域を拡大できて接着強度を高めることができ、さらには圧力発生室30の両端で均等に荷重を受けることができるため、特定箇所での接着剤層の剥離をより確実に防止することができる。
【0027】
なお、両側にインク供給口32、33を形成する場合には、1つのインク供給口により圧力発生室にインクを供給する場合に比較して、各インク供給口の流体抵抗を大きくする必要があるが、最狭部の幅を狭くして流体抵抗を増加させると、寸法精度の確保が困難となるので、ハーフエッチングによりインク供給口32、33の深さdを浅くしておくのが望ましい。
【0028】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明によれば、圧力発生室のインク供給口との接続領域に複数の段差を形成することにより、この近傍の接着面積を確保して変位発生手段により作用するせん断力に抗する接着力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット式記録ヘッドの一実施例を示す組立分解斜視図である。
【図2】同上記録ヘッドが理想的に製作された場合の断面図である。
【図3】ヘッドフレームと変位発生ユニットとの接合に加温した記録ヘッドの常温での状態を示す断面図である。
【図4】単結晶シリコン単結晶ウエファから切り出された流路形成基板の一実施例を示す正面図である。
【図5】本発明の記録ヘッドに使用する流路形成基板の一実施例を圧力発生室近傍を拡大して示す正面図である。
【図6】図(イ)、(ロ)は、それぞれ本発明の他の実施例を、流路形成基板の圧力発生室近傍を拡大して示す正面及びA−A線における断面図である。
【図7】従来のインクジェット式記録ヘッドにおける流路構造の一例を流路形成基板の圧力発生室近傍を拡大して示す正面図である。
【符号の説明】
1 流路形成基板
2 変位発生ユニット
3 ヘッドフレーム
11 ノズルプレート
12 ノズル開口
13 圧力発生室
14 共通のインク室
15 インク供給口
15a 最狭部
15b〜15d 段差部
16 流路形成基板
17 振動板
18 変位発生部
24 島状部
26、27 接着剤層
Claims (4)
- ノズル開口の各々と連通する圧力発生室と、該圧力発生室にインクを供給するための共通のインク室と、前記圧力発生室と共通のインク室と接続するインク供給口とを形成する流路形成基板、インク滴を吐出するためのノズル開口を有し、前記流路形成基板の一方の面を封止するノズルプレート、前記圧力発生室を膨張、収縮させる弾性変形領域を備え、前記流路形成基板の他方の面を封止する振動板、及び前記振動板を介して前記圧力発生室を膨張、収縮させる変位発生手段とからなるインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記流路形成基板の前記インク供給口は、該インク供給口を形成する一方の隔壁が前記共通のインク室から前記圧力発生室へ段階的に開拡する複数の段差を形成してなるインクジェット式記録ヘッド。 - 前記圧力発生室の一端が前記ノズル開口に連通し、他端が前記インク供給口を介して1つの共通のインク室に連通している請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記圧力発生室の中央部が前記ノズル開口に連通し、また両側が前記インク供給口を介して2つの共通のインク室に連通している請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
- 前記流路形成基板がシリコン単結晶基板からなり、前記圧力発生室、共通のインク室、及びインク供給口が前記シリコン単結晶基板の異方性エッチングにより形成されている請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
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