JP3677668B2 - 電力系統安定化システム及び電力系統安定度監視システム - Google Patents

電力系統安定化システム及び電力系統安定度監視システム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力系統の安定度を監視ないし維持するシステムに係り、具体的には、電力系統を複数の部分系統に分割し、各部分系統ごとに部分系統安定化装置を設置し、それらの部分系統安定化装置により協調して、起こり得る電圧や周波数等の電気的な系統状態量の動揺を予測し、動揺抑制のために系統設備(系統構成要素)の制御を動揺の前又は後に実施する電力系統安定化システム及び電力系統安定度監視システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
電力系統に生じる電気的な系統状態量の動揺を抑制する制御としては、例えば送電線などの故障に対して、系統の過渡安定度を維持するために必要な量の発電機を遮断する(電制と呼ぶ)制御、あるいは発電機の励磁を制御して電力系統の動態安定度を向上させるPSS(Power System Stabilizer)装置のパラメ−タ調整を行う制御などがある。PSS装置は、発電機の有効電力や軸回転速度などの入力信号をもとに、系統動揺抑制のための安定化信号を出力し、これを励磁制御装置の端子電圧設定値に付加するものであり、軸回転速度の変動と同相で電気出力が変化するように、安定化信号を加えて動揺抑制を図るものである。これらの動揺抑制の制御は、電力系統の現在の状態に対応させて適合調整することが、動揺抑制の効果の上で望ましい。
【0003】
これに対して、電力系統の現在状態で生じる可能性のある系統状態量の動揺を予測し、これに従って動揺抑制の制御内容を予め設定しておき、動揺が発生したときに設定した制御を行うことが考えられる。例えば、電気学会論文誌B115巻1号(平成7年1月)「オンライン安定度計算による脱調未然防止システム(TSC)の開発」に述べられているように、送電線などの故障に対して系統の過渡安定度を維持するために必要な量の発電機を遮断するシステムがある。このシステムは、系統状態を常時オンラインで取り込み、複数の想定される故障ケ−スについて、事前に過渡安定度計算を行って、必要な量の遮断発電機(電制機と呼ぶ)を求めておき、これを数分間隔で更新する。そして、実際に故障が発生した場合は、発生した故障内容に対応する予め定めた電制機を検索し、これを実際に遮断することにより電力系統の安定化を図るものである。このことにより、現在の系統状態にあった制御を行うことができる。同様に、PSSのパラメ−タ調整の場合であっても、オンライン安定度計算によって抑制対象とすべき軸回転速度動揺モ−ドを求め、随時PSSのパラメータを調整しておくことにより、系統の現在状態にあった安定化制御を行うことができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の従来技術は、系統故障時等の系統動揺を過渡安定度計算によってシミュレ−ションすることを前提とし、過渡安定度計算の入力デ−タとして、対象系統全体の構成デ−タ及び状態量デ−タを必要とすること、また、1回の過渡安定度計算は1台の計算機で実行されることから、次のような問題がある。
【0005】
つまり、過渡安定度計算に必要なデ−タ全てを、過渡安定度計算を行う1台の計算機内に取り込む必要があるから、対象とする電力系統が広範囲になると、広範囲な系統各部から大量のデ−タを取り込む必要が生じ、デ−タ通信量増大の問題と共に、処理速度低下の問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、対象系統が広範囲化しても、過渡安定度計算を行う計算機へのデ−タ通信量を増加させることなく、また過渡安定度計算処理速度を低下させることなく、電力系統安定化システムを実現することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の電力系統安定化システムは、上記課題を解決するため、電力系統を複数の部分系統に区分けし、かつ各部分系統が少なくとも1つの他の部分系統と一部の系統構成要素を共有するように区分けし、各部分系統の系統構成要素を制御する部分系統安定化装置を各部分系統に対応させてそれぞれ設け、各部分系統安定化装置は自己が管轄する部分系統の系統状態データを取り込むとともに、系統構成要素を共有する他の部分系統安定化装置との間で当該共有系統構成要素の系統状態データの交換を行いながら、前記電力系統に生じる電気状態量の動揺をシミュレーションし、該シミュレーションに基づいて前記部分系統の系統構成要素を制御して前記電力系統に発生する電気状態量の動揺を抑制することにある。
【0008】
このようにすることにより、部分系統安定化装置は管轄する部分系統を対象として電気的動揺をシミュレーションするにあたり、その過程で他の部分系統と共通する系統構成要素の電気状態量のシミュレーション途中経過を、相互に入れ替えてシミュレーションに反映させていることから、系統全体のシミュレーションを適切に行うことができる。したがって、電力系統を複数の部分系統に分割し、各部分系統に安定化制御装置を分散させて構成しても、電力系統全体の動揺抑制を可能となり、対象系統を広範囲化する場合においても、過渡安定度計算を行う計算機へのデ−タ通信量の増加を抑制し、また過渡安定度計算処理速度を低下させることなく電力系統安定化システムを実現できる。
【0009】
また、部分系統安定化装置は、自己が管轄する部分系統の系統状態データを用いて前記電力系統の故障に対する当該部分系統の電気状態量の動揺をシミュレーションし、該シミュレーションに際して系統構成要素を共有する他の部分系統安定化装置との間で、当該共有系統構成要素の系統状態データについてシミュレーション経過データを交換しながらシミュレーションし、該シミュレーションの結果に基づいて前記故障に起因する動揺を抑制するために強制遮断する発電機の候補を設定し、該設定した遮断発電機候補を他の部分安定化制御装置に送信するとともに、他の部分系統安定化装置から遮断発電機候補を取り込み、全ての遮断発電機の候補の中で動揺抑制に最も有効な候補を遮断発電機として設定し、該設定された遮断発電機の遮断を実行したものとして前記シミュレーションを繰返し実行して遮断発電機データを決定するようにすることができる。
【0010】
これによれば、自己が管轄する部分系統内の遮断発電機候補に留まらず、系統全体の遮断発電機候補を収集して、最も先に脱調する恐れがある発電機を遮断発電機として設定し、さらにこれを反映させて動揺シミュレーションを繰返し実行し、必要な遮断発電機を順次決定していることから、安定化制御装置を分散させて構成しても、適切に協調のとれた遮断発電機データ、つまり安定化制御内容を決定することができる。
【0011】
この場合において、部分系統安定化装置は、故障の種類に対応させて遮断発電機データを登録する制御テーブルを有し、故障発生時に該故障の種類に対応する制御テーブルの遮断発電機データを検索し、自己が管轄する部分系統に属する遮断発電機に遮断指令を出力することにより、故障発生時に速やかに適切な安定化制御を行うことができる。また、遮断発電機の遮断を実行せずに、電力系統の過渡安定度をシミュレーションした結果、つまり故障時の発電機内部相差角動揺シミュレーション結果をグラフ化して表示装置に表示することにより、系統運用者に提供するようにしてもよい。
【0012】
さらに、上記の発電機を遮断する電制に代えて、部分系統安定化装置は、自己が管轄する部分系統の系統状態データを用いて前記電力系統の故障に対する当該部分系統の電気状態量の動揺をシミュレーションし、該シミュレーションに際して系統構成要素を共有する他の部分系統安定化装置との間で、当該共有系統構成要素の系統状態データのシミュレーション経過データを交換しながらシミュレーションし、該シミュレーションの結果を用いて、発電機制御系のパラメ−タ値を調整する発電機制御系パラメ−タ調整手段を備えるものとすることがでる。
【0013】
これによれば、オンラインで現状の電力系統の状態に適合したPSSパラメータに事前に調整することができ、故障が発生しても速やかに電力系統の動揺を抑制することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1に、電力系統に本発明の系統安定化システムを適用した一実施の形態の構成概要図を示す。図において、電力系統1は、発電機、送電線、母線、変圧器、遮断器、開閉器、負荷などの系統構成要素からなる電力ネットワ−クであり、発電機で生成された電力を負荷へ供給するようになっている。本発明では、電力系統1の全体を、複数の部分系統2(2-1、2-2、2-3、・・)に分けて取り扱う。ここで、部分系統2の分割条件は、次のものとする。
(1)電力系統1を構成する各系統構成要素が、何れかの部分系統2に含まれること。
(2)一の部分系統2は、少なくとも1つの他の部分系統2と互いに共通する系統構成要素を有すること。
【0015】
系統安定化システム3は、システム全体として電力系統1に生じる電気的な系統状態量の動揺を抑制するために、動揺前あるいは動揺後に電力系統1の系統構成要素を制御するものであり、分割された部分系統2に対応させて部分系統安定化装置4(4-1、4-2、4-3、・・)がそれぞれ設けられている。部分系統安定化装置4-1、4-2、4-3、・・は、全て同一の機能構成を有し、系統通信部401と、観測部402と、部分系統デ−タ部403と、分散過渡安定度計算部404と、ネットワ−ク通信部405と、系統設備制御部400とから構成されている。そして、相互に通信ネットワーク5を介して情報の交換を可能に、かつ対応する各部分系統2と通信網6を介して接続されている。部分系統安定化装置4の各ブロックの機能の詳細については後述するが、対応する部分系統2の系統状態のみを通信網6を介して観測し、その対象とする部分系統2に関する系統状態デ−タのみを用いて、その部分系統2内の系統構成要素のみの制御を行う一方で、電力系統1の全体の安定度維持を図る適切な制御を行うために、それぞれの部分系統安定化装置4の相互間で協調しながら制御内容を決定するようにしている。
【0016】
系統通信部401は、通信網6を介して部分系統安定化装置4と対象部分系統2の間の通信を行う。観測部402は、系統通信部401を介して部分系統2の系統状態デ−タを取り込み、部分系統デ−タ部403に格納する。ここで、系統状態データには、系統構成要素の電圧・電流などの潮流デ−タ、周波数などの電気的な系統状態量データや、系統構成要素間の接続状態デ−タなどが含まれる。
【0017】
部分系統デ−タ部403は、部分系統2をモデル化してなる部分系統モデルを有しており、分散過渡安定度計算部404に対象部分系統に係るデ−タを与えるようになっている。ここで、モデル系統デ−タは、系統構成要素間の接続情報を与える系統構成デ−タ、送電線インピ−ダンスなどの系統構成要素デ−タ、系統構成要素の電圧・電流などの潮流デ−タを含んでなる。また、部分系統デ−タ部403は、他の部分系統にも共通に含まれる系統構成要素や、その部分系統を制御対象とする部分系統安定化装置4を対応づけるデ−タも管理する。
【0018】
分散過渡安定度計算部404は、本発明の主な特徴である部分系統安定化装置4の相互間の協調処理を実行するものであり、系統全体の過渡安定度計算を、部分系統毎の過渡安定度計算を組み合わせて実現する処理を行うものである。ネットワ−ク通信部405は、通信ネットワ−ク5を介して他の部分系統安定化装置4との間の通信を行う。
【0019】
このように、部分系統安定化装置4の分散過渡安定度計算部404は、対応する部分系統2を対象として電気的動揺を計算するが、その計算の過程で隣接する他の部分系統と共通する系統構成要素の電気状態量の計算結果を、相互に交換して他の部分系統の電気状態量の変化を計算に反映させることにより、他の部分系統安定化装置4と互いに協調して各制御内容を決定する。これにより、各部分系統2ごとに設置される部分系統安定化装置4による閉じた安定化制御処理であっても、電力系統全体の動揺抑制を可能としている。したがって、部分系統安定化装置4を必要に応じて電力系統1に設置することにより、対象系統を広範囲化する場合においても、過渡安定度計算を行う計算機へのデ−タ通信量の増加を抑制し、また過渡安定度計算処理速度を低下させることなく系統安定化システム3を実現することが可能になる。
【0020】
ここで、本発明の特徴部に係る部分の詳しい機能構成について、図2に示した具体的な実施の形態に基づいて説明する。図2は、電力系統1の故障発生時に、その故障に対応させて予め設定された一部の発電機を強制遮断(電制)して、系統全体を安定化するものとして具現化された場合の例を示している。ここでは、1つの部分系統安定化装置4-2に着目し、それに対応する部分系統2-2を単に対象部分系統として説明する。
【0021】
系統設備制御部400は、図2に示すように、電制機決定部406、制御テ−ブル生成部407、制御テ−ブル部408、制御起動部409、故障検出部410から構成される。故障検出部410は、対象とする部分系統2に故障が実際に発生したとき、系統通信部401を介してこれを検出し、故障発生情報を制御起動部409へ送る。制御起動部409は、故障検出部410あるいはネットワ−ク通信部405から系統の故障発生情報(故障点、故障様相など)を受信したとき、この故障に対応する安定化制御の内容を制御テ−ブル部408から抽出し、抽出した制御内容に従って、系統通信部401を介して対象部分系統の系統構成要素に制御信号を送出する。本例では、系統安定化のために遮断すべき発電機(電制機)を決定し、その電制機を遮断すべく、遮断信号を系統通信部401を介して対象部分系統へ送出する。
【0022】
そして、同時に、ネットワ−ク通信部405を介して他の部分系統安定化装置4−1,4−3に事故発生情報を送信する。制御テ−ブル部408は、図3に示すように、故障点と故障様相ごとに故障ケースが設定され、その故障点を含む部分系統2を管轄する部分系統安定化装置4を対応付けるデ−タと、系統の現在状態で故障が発生した場合の安定化制御内容を対応付けてなるテ−ブルを管理する。テ−ブルに登録される故障ケ−スは、部分系統内のみでなく系統全体にわたり、全ての部分系統安定化装置4で同じものを登録するが、故障ケ−ス間には順序が付けられているものとする。また、制御テ−ブル部408は、制御起動部409からの問い合わせに応じて、該当する安定化制御の内容を返答するようになっている。制御テ−ブル生成部407は、系統の現在状態で故障が発生した場合を想定して、その故障に対応する安定化制御内容を決定することにより、制御テ−ブルを生成するものである。以下、図4〜11に示したフローチャートに沿って、特徴部に係る各ブロックの機能構成を動作とともに詳細に説明する。
【0023】
《制御テ−ブル生成部407》
図4は、制御テーブル生成部407の処理フローを示す。制御テーブル生成部407は図3の処理フローに従って、一つ一つの故障ケースについて安定化制御内容(電制機)を決定する処理を実行して、図3の制御テーブルを完成させる。
S1:制御テ−ブル部408に設定されている故障ケ−スfを1つ選択
S2:選択した故障ケースfの故障ケ−スデ−タを電制機決定部406へ送信ここで、故障ケースデータには、故障点デ−タ、故障点を含む部分系統の管轄部分系統安定化装置を示すデ−タ、故障様相デ−タを含む。また、電制機決定部406の処理は図5参照
S3:電制機決定部406により決定された電制機を受信
S4:受信した電制機を故障ケ−スfに対する電制機として制御テ−ブル部408に登録
S5:制御テ−ブル部408内の全ての故障ケ−スについて、S1〜S4を繰り返すことにより、全ての故障ケースの安定化制御内容を決定する。
【0024】
《電制機決定部406》
図5〜7に、電制機決定部406の処理フローを示す。基本的に、電制機決定部406は、図5に示すように、制御テ−ブル生成部407から送信された故障ケ−スに対する電制機を決定して、その電制機を制御テ−ブル生成部407へ送信する。この電制機の決定は、他の部分系統安定化装置4-1、4-3の電制機決定部406と協調しながら実行する。
【0025】
図5は、電制機決定部406における処理概要のフローを示す。すなわち、
S11:制御テ−ブル生成部407から故障ケ−スデ−タfを受信
S12:初期設定として、電制機デ−タをクリア
S13:故障ケースfの故障点が、対象部分系統内であるか、対象部分系統外であるかを判断
S14:故障ケースfの故障点が、対象部分系統内であれば、図6に示す処理フローに従って電制機を決定
S15:電制機の決定結果を、他の部分系統安定化装置4-1、4-2の電制機決定部406へ送信
S16:故障ケースfの故障点が、対象部分系統外であれば、図7に示す処理フローに従って電制機を決定
S17:電制機決定結果を、制御テ−ブル生成部407へ送信して、処理を終了する。
【0026】
図6に、図5のS14、S15の処理における対象部分系統内の故障に対する電制機決定の手順を示す。すなわち、
S101:故障ケ−スデ−タ、制御テーブル部408内の電制機デ−タ(最初は電制機なしの状態)を受信して、分散過渡安定度計算部404へ送信する。
【0027】
(これにより、図9,10の動揺シミュレーションが実行される。)
S102:分散過渡安定度計算部404から送信されてくる発電機の内部相差角動揺シミュレ−ション結果を受信
S103:シミュレ−ション結果から、内部相差角が予め与えられるしきい値δ0を超える発電機を抽出し、内部相差角がδ0を超える発電機が存在するか否か判断する。つまり、内部相差角がある値を超えると脱調してしまうことから、しきい値δ0を超える発電機を遮断して、系統の動揺を抑制するための判断
S104:S104の判断が肯定(YES)のときは、内部相差角がδ0を最初に超える発電機をG0として設定
S105:発電機G0の内部相差角がδ0を最初に超える時刻をt0に設定
S106:電制候補として、(G0、t0)を設定
S107:S104の判断が否定(NO)のとき、つまり内部相差角がδ0を超える発電機が存在しなくなった場合は、電制候補デ−タ(電制候補なし)を設定
S108:他の全ての部分系統安定化装置i(図2例では、4-1、4-2)の電制機決定部406から、電制候補デ−タ(電制候補Gi、時刻ti)を収集
S109:収集データに基づき、電制候補データがあるか否かを判断
S110:S109における判断が肯定(YES)のときは、収集した電制候補デ−タの中から、ti(i≧0)の最小値に対応する電制候補Gを抽出
S111:Gを電制機に追加
S112:電制機デ−タを全ての部分系統安定化装置(図2例では、4-1、4-2)の電制機決定部406へ送信して、S101に戻り、追加された電制機データに基づいて処理を繰り返す
S113〜S114:S109における判断が否定(NO)のとき、つまり全ての電制候補デ−タに電制候補がなくなった場合は、現在の電制機デ−タを電制機決定結果として確定し、電制機決定結果と電制機決定完了信号を全ての部分系統安定化装置(4-1、4-2)の電制機決定部406へ送信する。
【0028】
つまり、図6の処理を実行することにより、1つの故障ケースに対する1又は複数の電制機が決定される。この場合、S108〜S112の処理により、故障点を含む部分系統の発電機のみを電制機の対象とすることなく、電力系統1の全体からみて動揺抑制に有効な電制機が決定される。
【0029】
図7に、図5のS16に示した処理の対象部分系統外の故障に対する電制機決定の手順を示す。すなわち、
S121:故障ケ−スデ−タ、電制機デ−タ(最初は電制機なしの状態)を分散過渡安定度計算部404へ送信
(これにより、図9,11の動揺シミュレーションが実行される。)
S122:分散過渡安定度計算部404から発電機内部相差角動揺シミュレ−ション結果の受信
S123:シミュレ−ション結果から、内部相差角が予め与えられるしきい値δ0を超える発電機を抽出し、内部相差角がδ0を超える発電機が存在するか否か判断
S124:内部相差角がδ0を超える発電機が有るときは、時間的に最初に超える発電機をG0と設定
S125:G0の内部相差角がδ0を最初に超える時刻をt0と設定
S126:電制候補デ−タとして、(G0、t0)を設定
S127:S123で内部相差角がδ0を超える発電機が存在しないときは、電制候補デ−タとして、(電制候補なし)を設定
S128:故障ケ−スを対象範囲に有する部分系統安定化装置iの電制機決定部406へ電制候補デ−タ(電制候補Gi、時刻ti)を送信
S129:これに基づいて部分系統安定化装置iから送信される電制機デ−タあるいは電制機決定結果デ−タを受信
S130:受信したデ−タが電制機デ−タであれば、S121へ戻り、追加された電制機データに基づいて処理を繰り返し、受信したデ−タが電制機決定結果であれば、S131へ進んで電制機決定結果を出力して処理終了して図5のS17へ戻る。
【0030】
《分散過渡安定度計算部404》
ここで、分散過渡安定度計算部404の処理動作について説明する。一般に過渡安定度計算と呼ばれる系統故障時動揺シミュレ−ションは、例えば、オ−ム社「電力系統過渡解析論」に詳細に述べられている方式が知られている。これは、発電機の内部状態を表現する微分方程式と、発電機群をつなぐ送電網の電圧・電流の関係式を与える系統方程式と、これら2つを繋ぐ式を、ある設定された時間刻みで数値積分することにより、系統故障時の動揺をシミュレーションする方式である。その概要を図8に示した処理フロ−を用いて以下に説明する。
【0031】
S141:開始とともに、計算の時間断面の時刻を初期化(t=0)
S142:初期潮流状態を計算
S143:発電機諸量の初期値を計算
S144:時刻tが予め定められた時刻Tとなったら、S145で終了
(ここで、Tは、シミュレーションが収束するのに要する時間に基づいて設定する。)
S146:時刻tが予め定められた時刻Tに至っていない場合は、系統状態の変化の有無を判断
S147:系統状態が変化していれば、系統方程式を更新
S148:系統方程式を用いて系統各部の電圧・電流を計算(系統計算)
S149:微分方程式を用いて発電機内部状態量を計算
S150:微分方程式を用いて次の時間断面の発電機内部起電力を計算
S151:時刻tを予め定められた計算刻みΔtだけ進めてS144に戻る。
【0032】
本実施の形態における分散過渡安定度計算部404は、本発明の主な特徴である部分系統安定化装置間の協調処理を実行するものであり、大まかには、系統全体の過渡安定度計算を、部分系統毎の過渡安定度計算を組み合わせて行う。図9にその処理フローを示す。すなわち、
S161:電制機決定部406から故障ケ−スデ−タと電制デ−タを受信
S162:部分系統デ−タ部403から過渡安定度計算の入力デ−タとする部分系統デ−タを抽出
S163:故障点が対象部分系統内であるか否かを判断
S164:故障点が対象部分系統(2-2)内の場合は、それに対応する対象部分系統の過渡安定度を計算
S165:故障点が対象部分系統(2-2)外の場合は、それに対応する対象部分系統の過渡安定度を計算
(ここで、S164およびS165における計算は、全系の過渡安定度を反映させるため他の部分系統安定化装置(4-1,4-3)の分散過渡安定度計算部404と協調処理を行うが、その処理の詳細は後述する。)
S167:過渡安定度計算結果の発電機内部相差角動揺デ−タを電制機決定部406へ送信して、処理を終了する。
【0033】
《S164の処理の詳細》
図10に、S164における対象部分系統(2-2)内の故障に対する過渡安定度計算処理を示す。すなわち、
S201:計算開始断面の時刻t=0を初期設定
S202:他の部分系統安定化装置(4-1,4-3)の分散過渡安定度計算部404へ計算起動信号を送出する。(これにより、複数の部分系統安定化装置の分散過渡安定度計算部404におけるシミュレーションの同期を図る。)
S203:初期潮流状態を計算
S204:発電機諸量の初期値を計算
S205:時刻tが予め定められた時刻Tとなったら終了
S206:時刻tが時刻Tに至ってないときは、系統状態の変化の有無を判断(電制機の有無、系統の遮断器の開閉変化の有無等)
S207:系統状態の変化があれば、系統方程式を更新(電制ありの場合もこのステップで反映される。)
S208:系統方程式を用いて系統各部の電圧・電流を計算(系統計算)
S209:微分方程式を用いて発電機内部状態量を計算
S210:微分方程式を用いて次時刻断面の発電機内部起電力を計算
S211:他の部分系統(2-1,2-3)にも含まれる共通の系統構成要素の状態量(電圧、電流、発電機の場合は内部状態量など)を、その部分系統を管轄する部分系統安定化装置(4-1,4-3)の分散過渡安定度計算部404との間で交換
(つまり、共通の系統構成要素の状態量のシミュレーション結果を、相互に入れ替えて、次の時間断面におけるシミュレーションに反映して協調をとる。)
S212:時刻tを予め定められた計算刻みΔtだけ進めてS205に戻り、時刻tが時刻TとなるまでS206〜S211を繰り返して実行する。
【0034】
《S165の処理の詳細》
S165における対象部分系統(2-2)外の故障に対する過渡安定度計算処理について図11を用いて以下に説明する。すなわち、
S301:他の部分系統安定化装置(4-1,4-3)の分散過渡安定度計算部404から計算起動信号を受信して、処理を開始する。
【0035】
S302:計算開始断面の時刻t=0を初期設定
S303:初期潮流状態を計算
S304:発電機諸量の初期値を計算
S305:時刻tが予め定められた時刻Tとなったら終了
S306:時刻tが時刻Tに至ってないときは、系統状態の変化の有無を判断
S307:系統状態の変化があれば、系統方程式を更新(電制ありの場合もこのステップで反映される。)
S308:系統方程式を用いて系統各部の電圧・電流を計算(系統計算)
S309:微分方程式を用いて発電機内部状態量を計算
S310:微分方程式を用いて次時刻断面の発電機内部起電力を計算
S311:他の部分系統(2-1,2-3)にも共通に含まれる系統構成要素の状態量(電圧、電流、発電機の場合は内部状態量など)を、その部分系統を対象とする部分系統安定化装置の分散過渡安定度計算部404間で交換
S312:時刻tを予め定められた計算刻みΔtだけ進めてS305に戻り、時刻tが時刻TとなるまでS206〜S211を繰り返して実行する。
【0036】
上述したように、第1の実施の形態によれば、部分系統安定化装置4の分散過渡安定度計算部404は、管轄する部分系統2を対象として電気的動揺をシミュレーションするにあたり、その過程で他の部分系統と共通する系統構成要素の電気状態量のシミュレーション途中経過を、相互に入れ替えてシミュレーションに反映させていることから、系統全体のシミュレーションを適切に行うことができる。したがって、電力系統を複数の部分系統に分割し、各部分系統に安定化制御装置を分散させて構成しても、電力系統全体の動揺抑制を可能となる。
【0037】
その結果、部分系統安定化装置4を必要に応じて電力系統1に設置することにより、対象系統を広範囲化する場合においても、過渡安定度計算を行う計算機へのデ−タ通信量の増加を抑制し、また過渡安定度計算処理速度を低下させることなく系統安定化システム3を実現することが可能になる。
【0038】
また、第1の実施の形態によれば、電制機決定部406により、自己が管轄する部分系統内の電制機に留まらず、系統全体の電制機候補を収集して、最も先に脱調する恐れがある発電機を電制機として決定し、さらにこれを反映させて動揺シミュレーションを繰返し実行し、必要な電制機を順次決定していることから、安定化制御装置を分散させて構成しても、適切に協調のとれた電制機データ、つまり安定化制御内容を決定することができる。
【0039】
なお、第1の実施の形態は、故障ケースに対応させて電制機データを制御テーブル部に登録しておき、実際の故障時に、その制御テーブルに登録された電制機データに基づいて制御起動部により対応する発電機を遮断する電制制御を行うものである。しかし、本実施の形態はこれに限られるものではなく、例えば、電制制御を実行せずに、電力系統1の過渡安定度を複数の部分系統安定化装置4で相互に協調しながらシミュレーションした結果、つまり電制機決定部406で得られる故障時の発電機内部相差角動揺シミュレーション結果をグラフ化して表示装置に表示することにより、系統運用者に提供するようにしてもよい。
【0040】
〔第2の実施の形態〕
図12に、本発明の系統安定化システムの他の実施の形態を示す。本実施の形態は、電力系統に生じる電気的状態の動揺を抑制するため、系統状態変化時に発生する動揺を計算し、発電機の励磁制御装置の端子電圧設定値に付加するPSS(Power System Stabilizer)のパラメ−タを調整する例である。つまり、発電機の有効電力や軸回転速度などの入力信号に基づいて、系統動揺抑制のための安定化信号を出力し、これを励磁制御装置の端子電圧設定値に付加するPSSパラメ−タを動揺発生前に調整する系統安定化システムである。
【0041】
図示のように、本実施の形態の系統安定化システム7を構成する部分系統安定化装置8(8-1,8-2,8-3,・・・)は、図1の系統設備制御部400にPSS調整部801を適用した点で図2の実施の形態と相違し、その他のブロックは同一機能構成を有することから、同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
PSS調整部801は、調整対象の各PSSについて、分散過渡安定度計算部404が出力するシミュレーションされた各電気状態量の時系列データを用い、周知のProny解析による動揺モード解析を行う。そして、その結果に基づいてPSSパラメータを算定し、これを系統通信部401を介して各部分系統に設けられたPSSのパラメータとして設定、又は更新設定する。なお、電気状態量の時系列データを用いてProny解析によりPSSパラメータを算定する具体的な手順は、例えば、特願平8−236165号に記載されているので、ここでは省略する。
【0043】
このように、第2の実施の形態によれば、部分系統安定化装置8の分散過渡安定度計算部404は、管轄する部分系統2を対象として電気的動揺をシミュレーションするにあたり、その過程で他の部分系統と共通する系統構成要素の電気状態量のシミュレーション途中経過を、相互に入れ替えてシミュレーションに反映させていることから、系統全体のシミュレーションを適切に行うことができる。そして、その結果に基づいてPSSパラメータを調整していることから、電力系統を複数の部分系統に分割し、各部分系統に安定化制御装置を分散させて構成しても、電力系統全体の動揺抑制を可能となる。
【0044】
その結果、部分系統安定化装置8を必要に応じて電力系統1に設置することにより、対象系統を広範囲化する場合においても、過渡安定度計算を行う計算機へのデ−タ通信量の増加を抑制し、また過渡安定度計算処理速度を低下させることなく系統安定化システム7を実現することが可能になる。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、対象系統が広範囲化しても、過渡安定度計算を行う計算機へのデータ通信量を増大させることなく、また過渡安定度計算の処理速度を低下させることなく、電力系統安定化システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された電力系統安定化システムの一実施の形態の全体構成図である。
【図2】図1実施の形態の系統設備制御部の具体的な例を示す全体構成図である。
【図3】制御デーブルの一例を示す図である。
【図4】制御テーブル生成部の処理フローを示す図である。
【図5】電制機決定部における処理フローの概要を示す図である。
【図6】電制機決定部における対象部分系統内の故障に対する電制機決定処理のフローを示す図である。
【図7】電制機決定部における対象部分系統外の故障に対する電制機決定処理のフローを示す図である。
【図8】一般的な過渡安定度計算の処理フローを示す図である。
【図9】本発明に係る分散過渡安定度計算部の処理フローの概要を示す図である。
【図10】分散過渡安定度計算部における対象部分系統内の故障に対する処理のフローを示す図である。
【図11】分散過渡安定度計算部における対象部分系統外の故障に対する処理のフローを示す図である。
【図12】本発明が適用された電力系統安定化システムの他の実施形態の全体構成図である。
【符号の説明】
1 電力系統
2 部分系統
3,7 系統安定化システム
4,8 部分系統安定化装置
5 通信ネットワーク
6 通信網
400 系統設備制御部
401 系統通信部
402 観測部
403 部分系統データ部
404 分散過渡安定度計算部
405 ネットワーク通信部
406 電制機決定部
407 制御テーブル生成部
408 制御テーブル部
409 制御起動部
410 故障検出部

Claims (5)

  1. 電力系統を複数の部分系統に区分けし、かつ各部分系統が少なくとも1つの他の部分系統と一部の系統構成要素を共有するように区分けし、各部分系統の系統構成要素を制御する部分系統安定化装置を各部分系統に対応させてそれぞれ設け、各部分系統安定化装置は自己が管轄する部分系統の系統状態データを取り込むとともに、系統構成要素を共有する他の部分系統安定化装置との間で当該共有系統構成要素の系統状態データの交換を行いながら、前記電力系統に生じる電気状態量の動揺をシミュレーションし、該シミュレーションに基づいて前記部分系統の系統構成要素を制御して前記電力系統に発生する電気状態量の動揺を抑制する電力系統安定化システム。
  2. 前記部分系統安定化装置は、自己が管轄する部分系統の系統状態データを用いて前記電力系統の故障に対する当該部分系統の電気状態量の動揺をシミュレーションし、該シミュレーションに際して系統構成要素を共有する他の部分系統安定化装置との間で、当該共有系統構成要素の系統状態データについてシミュレーション経過データを交換しながらシミュレーションし、該シミュレーションの結果に基づいて前記故障に起因する動揺を抑制するために強制遮断する発電機の候補を設定し、該設定した遮断発電機候補を他の部分安定化制御装置に送信するとともに、他の部分系統安定化装置から遮断発電機候補を取り込み、全ての遮断発電機の候補の中で動揺抑制に最も有効な候補を遮断発電機として設定し、該設定された遮断発電機の遮断を実行したものとして前記シミュレーションを繰返し実行して遮断発電機データを決定することを特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
  3. 前記部分系統安定化装置は、前記故障の種類に対応させて前記遮断発電機データを登録する制御テーブルを有し、故障発生時に該故障の種類に対応する前記制御テーブルの遮断発電機データを検索し、自己が管轄する部分系統に属する遮断発電機に遮断指令を出力することを特徴とする請求項2に記載の電力系統安定化システム。
  4. 前記部分系統安定化装置は、自己が管轄する部分系統の系統状態データを用いて前記電力系統の故障に対する当該部分系統の電気状態量の動揺をシミュレーションし、該シミュレーションに際して系統構成要素を共有する他の部分系統安定化装置との間で、当該共有系統構成要素の系統状態データのシミュレーション経過データを交換しながらシミュレーションし、該シミュレーションの結果を用いて、発電機制御系のパラメ−タ値を調整する発電機制御系パラメ−タ調整手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の電力系統安定化システム。
  5. 電力系統を複数の部分系統に区分けし、かつ各部分系統が少なくとも1つの他の部分系統と一部の系統構成要素を共有するように区分けし、各部分系統の系統構成要素を制御する部分系統安定化装置を各部分系統に対応させてそれぞれ設け、各部分系統安定化装置は自己が管轄する部分系統の系統状態データを取り込むとともに、系統構成要素を共有する他の部分系統安定化装置との間で当該共有系統構成要素の系統状態データの交換を行いながら、前記電力系統に生じる電気状態量の動揺をシミュレーションし、該シミュレーションの結果に基づいて前記故障に起因する動揺を抑制するために強制遮断する発電機の候補を設定し、該設定した遮断発電機候補を他の部分安定化制御装置に送信するとともに、他の部分系統安定化装置から遮断発電機候補を取り込み、全ての遮断発電機の候補の中で動揺抑制に最も有効な候補を遮断発電機として設定し、該設定された遮断発電機の遮断を実行したものとして前記シミュレーションを繰返し実行し、該シミュレーションにより求められる系統構成要素の電気状態量の変化を表示する電力系統安定度監視システム。
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