JP3676976B2 - 多胞状リポソームへの薬剤封入量の調節 - Google Patents
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Description
〔発明の背景〕
1.発明の分野
本発明は、リポソームへの活性な薬剤の封入量(loading)の調節方法に関する。さらに特定すると、本発明は、多胞状リポソーム(multivesicular liposome)への活性な薬剤の封入量の調節(modulating)方法に関する。
【0002】
2.関連技術の説明
多くの薬物を用いる最適な治療のためには、薬物レベルが長時間にわたって特定のレベルに維持されることが必要とされる。例えば、細胞周期に特異的な代謝拮抗薬を用いた最適な抗癌治療には、長時間にわたって細胞傷害性の薬物レベルを維持することが必要である。シタラビンは非常にスケジュール依存性の高い抗癌薬である。この薬物は細胞がDNAを合成している時だけ細胞を死滅させるので、最良の治療効果を得るためには、治療に有効な濃度のその薬剤に長い間さらすことが必要である。この種の薬剤の治療効果は、静脈内または皮下投薬の後の半減期が2〜3時間と短いことがある、という事実によってさらに複雑になる場合が多い。シタラビンのような細胞周期特異的薬物を用いて癌細胞に対する最良の治療効果を達成するためには、2つの主な要件がある。第1には、宿主に不可逆性の大きな損傷を与えることなしに癌細胞を高濃度の薬物にさらさなくてはならないことであり、第2には、DNA合成(すなわち、細胞増殖のサイクルの感受性である部分)の間に接触する癌細胞の数を最大にするために、腫瘍を薬物に長時間さらさなくてはならないことである。この種の治療レジュメには、徐放性製剤において高い薬物封入量とすることが必要である。
【0003】
別のあるタイプの薬物は非常に毒性であるので、長時間にわたって該薬物を低レベルに維持することが重要である。例えば、アミカシンは、グラム陰性細菌およびグラム陽性細菌の両方の株に対して臨床上有意な活性を有するアミノ配糖体系抗生物質である。既存の治療手法では、この薬物は通常、静脈内または筋肉内の経路で一日当たり1回または2回のスケジュールで投与される。最も一般的に用いられる臨床用量は15mg/Kg/日であり、これは一日当たり1gという最大の推奨一日用量に等しい。しかし、間隔をあけけて注射することによる該薬物の投与は、結果的には患者を全身的にさらすことになり、薬物によっては、毒性のある副作用の危険性が高くなる。したがって、軟部組織または骨の局所領域に限られるもののような、感染症の治療のための局所的貯留(デポー)型徐放性調製物は、治療全身用量に比べて、該薬物の局所的組織内レベルを高め、それと同時に遊離薬物の全身的毒性を低減するまたはなくす上で有利であろう。薬物が非常に毒性があるか、または治療レジュメが少ない治療用量を必要とする場合、徐放性製剤において比較的少ない薬物封入量が有利である。
【0004】
薬物送達のための制御放出組成物を提供するのに用いられている1つのアプローチは、リポソーム封入(liposome encapsulation)である。主なタイプのリポソームの中でも、多胞状リポソーム(Kimら, Biochim. Biophys. Acta; 728:339-348, 1983)は、単膜リポソーム(Huang, Biochemistry; 8:334-352, 1969; Kimら, Boochim. Biophys. Acta; 646:1-10, 1981)、多重膜リポソーム(Banghamら, J. Mol. Bio., 13:238-252, 1965)および安定多膜(stable plurilamellar)リポソーム(米国特許第4,522,803号)とは独自に異なる。単膜リポソームに対して、多胞状リポソームは、複数の水系チャンバーを含む。多膜リポソームに対して、この多胞状リポソームの複数の水系チャンバーは非同心円状である。
【0005】
先行技術はまた、多胞状リポソームの製造方法も記載している(Kimら, Biochim. Biophys. Acta; 728:339-348, 1983)。しかし、シトシンアラビノシド(シタラビンまたはAra-Cとしても知られる)のような幾つかの小さな分子の封入効率は比較的低いことが判明しており、生物学的液体中での封入分子の放出速度は、治療上望ましいものよりも速かった。欧州特許公開第0280503B1号は、多胞状リポソームからの封入分子の放出速度を調節するために開発された方法を開示しており、そこでは、封入プロセスに塩酸塩を加えて、生物学的液体中での(活性な薬剤の)放出速度を調節している。国際公開第WO95/13796号に開示されているさらなる研究では、ヒト血漿中における多胞状リポソームからの薬剤の放出速度は非塩酸塩の酸を水系溶液に加えることによって調節できることが示されており、そこにおいて、薬剤は多胞状リポソームを形成する前に溶解させてある。
【0006】
米国特許第5,077,056号は、封入した生物学的薬剤の水系環境への放出速度がプロトノホアまたはイオノホアをリポソームに導入して膜電位をつくることによって調節できることを示す研究を開示している。さらに、小胞体組成物からの薬物の放出速度を調節する方法が知られており(米国特許第5,186,941号)、そこでは、封入された治療用薬剤を含むリポソームが、該小胞体内の溶液の容量オスモル濃度(osmolarity)について実質的に等張であり、かつ生理食塩水については高張な容量オスモル濃度をもたらすのに十分な溶質を含有する溶液中に懸濁されている。多胞状リポソームにおいては、多胞状リポソームを形成する前に、活性な薬剤が溶解している水系溶液に浸透圧スペーサーを導入することによって該活性な薬剤の放出速度を調節することも知られている(国際公開第WO96/08253号)。
【0007】
生物学的に活性な薬剤ならびにリポソームからの生物学的に活性な薬剤の放出速度を調節するための酸または浸透圧スペーサーに加えて、幾つかのヘルパー機能のいずれかを果たさせるための化合物を一緒に封入することが一般に実施されている。例えば、ある生物学的に活性な化合物は、特定のpHで維持された場合にだけ活性を保持する。したがって、薬物環境のpHを調節するためには、必然的に、活性な薬剤に加えて酸または緩衝液が封入されることが多い。別の場合には、対イオンを加えて、溶解性の低い生物学的に活性な薬剤の溶解性を増大させる。
【0008】
徐放特性を有するリポソーム製剤を製造するためのこれらの方法は、時として、リポソーム内への封入の失敗によって高価な活性薬剤がほどんど洗い流されてしまわないような良好な封入効率で高封入量の活性薬剤を含有するリポソームを製造する、という最終目的とは相容れないことが判明している。
【0009】
したがって、保存液体または生物学的液体への活性薬剤の望ましい徐放性を維持しながらも、薬物封入量を(高く、または低く)調節することを可能にする、リポソーム[例えば多胞状リポソーム(MVL)]を製造するための新しい方法が必要とされている。中でも特に関心が持たれるのは、ペプチドまたはタンパク質のための、高封入量の制御放出性製剤の開発である。高価な活性薬剤(例えば、薬物および治療用タンパク質)を無駄にしないために、高い封入効率を犠牲にせずにこれらの目的を達成する新しい方法もまた必要とされている。
【0010】
〔発明の概要〕
本発明は、リポソーム製剤(liposome formulation)への生物学的に活性な薬剤の封入量を調節(modulate)する方法を提供する。最終的な製品中での生物学的に活性な薬剤の濃度は、封入のために該活性な薬剤が溶解している水系成分の容量オスモル濃度を調整することによって調節される。容量オスモル濃度と薬物封入量とは反比例の関係にあることが判明しており、活性な薬剤の封入量は、水系成分の容量オスモル濃度が低下するにつれて増大する。したがって、高い薬物封入量または低い薬物封入量を有するリポソームは、封入の前に薬物含有溶液の容量オスモル濃度を操作することにより達成できる。さらに、薬物封入量の調節は、特に高い薬物封入量を達成するためには、製造方法における高い封入効率も、使用に際しての最終製品からの薬物の望ましい制御放出も犠牲にすることなしに、達成できることが判明した。
【0011】
本発明の方法により製造されるリポソームは、所定容量の注射可能なまたは埋込み可能なリポソーム製剤中に所望量の活性な薬剤を入れることにより、非常に改善された結果を達成し、in vivo部位に導入された場合に治療上望ましいレベルでの薬物の持続性放出をもたらす。リポソーム製剤への活性な薬剤の封入量を調節するために従う一般原理は、本明細書中で多胞状リポソーム(MVL)の製造を参照して説明する。リポソーム中の薬物封入量は、該リポソームの製造の間に、封入される水系溶液の容量オスモル濃度を制御することにより調節される。容量オスモル濃度は、水系溶液中に存在する溶質(生物学的に活性な物質、ならびに該活性な薬剤の放出速度を遅くする浸透圧賦形剤(osmotic excipient)のようなあらゆるヘルパー分子を含む)のモル濃度の合計である。溶質が解離、イオン化または凝集した形態で存在する場合、容量オスモル濃度は、その解離、イオン化または凝集形態物のモル濃度の合計として定義される。溶液中の任意の溶質により得られる溶液の容量オスモル濃度への寄与率(contribution)は、溶液中の溶質の濃度をその分子量で除算したものとほぼ等しい。したがって、一般的な原理として、溶質の分子量が大きくなるにつれて、その溶質の容量オスモル濃度は小さくなり、溶液の全体的な容量オスモル濃度への該溶質の寄与率は小さくなる。
【0012】
リポソーム中の薬物封入量のレベルが生物学的に活性な薬剤の濃度に正比例することは周知である。したがって、高レベルの薬物封入量を有するリポソームを得るためには、高レベルの活性な薬剤を、封入しようとする水系溶液に溶解させなければならない。しかし、封入量は、さらなる濃度の活性な薬剤を添加することによって必ずしも増大するわけではない。リポソームの製造の際に用いられる水系溶液中に存在する生物学的に活性な薬剤以外の溶質は、リポソームに充填できる生物学的に活性な薬剤の量を低減させる傾向がある。したがって、溶液が活性な薬剤の溶解性または生物活性を制御するのに必要な浸透圧賦形剤も含有する場合、溶液中のそのヘルパー浸透圧賦形剤の有利な効果は、薬物封入量におけるその浸透圧賦形剤のマイナスの効果と均衡させねばならない。
【0013】
薬物封入量を増大させるために、浸透圧賦形剤の濃度を低下させるか、低分子量の浸透圧賦形剤を同等の機能を持つ高分子量の浸透圧賦形剤で置き換えるか、あるいはそれらの両方のいずれかによって、水系溶液中に溶解している活性な薬剤の濃度を低下させることなく該水系溶液の容量オスモル濃度を低下させることができる。例えば、浸透圧賦形剤が特定濃度の生物学的に活性な薬剤の溶解性を得るために用いられる緩衝剤である場合、活性な薬剤の高封入量を得るためには、高分子量の緩衝剤を選ぶ。逆に、そのような状況において封入量を低下させるためには、低分子量の緩衝剤が用いられるであろう。
【0014】
これらの原理はあらゆるタイプのリポソームの製造において働き得るが、その原理は本明細書中では、シタラビン、ロイプロリド、エンケファリン、モルヒネおよびインスリン様増殖因子I(IGF-I)のような各種の活性な薬剤を含有するMVL製剤において説明されている。これらの研究では、あらゆる濃度の生物学的に活性な薬剤について、MVLにおいて製造の際の薬物封入量が、第1の水系成分の全体の容量オスモル濃度に対する、溶液中の浸透圧賦形剤によって生じる寄与率を変化させることにより効果的に調節できることがわかった。この原理は、本明細書中の実施例において、リポソーム製剤において一般的に用いられるモデル浸透圧賦形剤(スクロースかグリシルグリシンのいずれか)の濃度を調整することにより説明されている。この方法によれば、どのような所与の生物学的に活性な薬剤についても広範囲の封入量レベルを有するMVL製剤が製造できる。
【0015】
調節された薬物封入量を有する多胞状リポソーム(MVL)の製造方法では、1種以上の有機溶剤中に溶解させた少なくとも1種の両親媒性脂質および1種の中性脂質を含んでなる脂質成分を、封入しようとする1種以上の生物学的に活性な薬剤と、場合により1種以上の浸透圧賦形剤(例えば、ヘルパー分子)とを含む不混和性の水系成分と混合する。最終製剤中の活性な薬剤の封入量は、この第1の水系成分の全体容量オスモル濃度に依存し、この全体容量オスモル濃度とは、該第1の水系成分中に溶解している溶質の各々(活性な薬剤およびあらゆる浸透圧賦形剤を含む)によりもたらされる容量オスモル濃度の合計である。
【0016】
第1の水系成分の容量オスモル濃度を、最終製品において活性な薬剤の所望の封入量を達成するように調整したら、上記の2つの不混和性の成分を混合することにより油中水滴型エマルジョンを形成する。次に、この油中水滴型エマルジョンを第2の不混和性の水系成分に混合して、溶剤小球体(solvent spherules)を形成する。有機溶剤は最終的には溶剤小球体から(例えばエバポレーションにより)除去して、該溶剤小球体を凝集させてMVLとする。このプロセスの最終工程において、MVLを水系媒体(例えば、普通の生理食塩水)に懸濁する。活性な薬剤を含有するMVLを懸濁した媒体の容量を増やすか減らすことにより、治療上有効な用量(重量/製剤の容量)の活性な薬剤を含有する組成物を得ることができる。
【0017】
MVLの製剤化の間に高い封入効率(または歩留まり)を維持し、かつ使用における活性な薬剤の放出がゆっくりとした治療上有効な速度であることを確実にするために、脂質成分は、炭素鎖内に約13〜約28個(例えば、約18〜約22個)の炭素を有する両親媒性の脂質を1種以上含有する。
【0018】
〔好ましい実施形態の説明〕
本発明では、封入される薬物含有水系成分の容量オスモル濃度を調整することによって、リポソーム製剤の単位容量当たりに封入される生物学的に活性な薬剤の量を調節する方法が提供される。この方法では、封入前に活性な薬剤が溶解している水系成分の容量オスモル濃度を低下させることにより、最終的なMVL懸濁液中の活性な薬剤の濃度(重量/容量基準)が増大し、またその逆ももたらされる。
【0019】
少なくとも3つのタイプのリポソームがある。本明細書および請求の範囲全体をとおして用いられる「多胞状リポソーム(multivesicular liposomes)(MVL)」という用語は、複数の非同心円状の水系チャンバーを包囲する脂質膜を含んでなる、人工の微小な脂質小胞体を意味する。これに対して、「多重膜リポソームまたは小胞体(MLV)」は、複数の「タマネギの皮」のような同心円状の膜を有し、その間に殻様の同心円状の水系コンパートメントがある。多重膜リポソームおよび多胞状リポソームは、特徴的には、長さについての荷重平均直径(length-weighted mean diameter)がマイクロメーターの範囲であり、通常は0.5〜25μmである。本明細書中で用いられる「単膜リポソームまたは小胞体(ULV)」という用語は、単一の水系チャンバーを有するリポソーム構造物をいい、通常は平均直径の範囲が約20〜500nmである。
【0020】
多重膜および単膜リポソームは、幾つかの比較的簡単な方法により製造できる。先行技術では、ULVおよびMLVを製造するための幾つかの技法が記載されている(例えば、Lenkの米国特許第4,522,803号、Baldeschweilerの同第4,310,506号、Papahadjopoulosの同第4,235,871号、Schneiderの同第4,224,179号、Papahadjopoulosの同第4,078,052号、Taylorの同第4,394,372号、Marchettiの同第4,308,166号、Mezeiの同第4,485,054号、およびRedziniakの同第4,508,703号)。
【0021】
これに対して、多胞状リポソームの製造は、幾つかのプロセス工程を必要とする。簡単に説明すると、MVLを製造するための好ましい方法は以下のとおりである。第1の工程において、少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の中性脂質を1種以上の揮発性有機溶剤に溶解させることにより「油中水滴型」エマルジョンを作り、脂質成分とする。この脂質成分に、封入しようとする生物学的に活性な薬剤とMVLに有用で有益な特性を付与する1種以上のヘルパー分子(すなわち浸透圧賦形剤)とを含有する不混和性の第1の水系成分を加える。この混合物を乳化し、次に第2の不混和性の水系成分と混合して、第2のエマルジョンを形成する。この第2のエマルジョンを超音波エネルギーやノズル噴霧などにより機械的に、またはそれらの組合せによって混合して、第2の水系成分中に懸濁されている溶剤小球体を形成する。この溶剤小球体は、封入しようとする生物学的に活性な薬剤が溶解している複数の水系液滴を含む(Kimら, Biochem. Biophys. Acta, 728:339-348, 1983を参照)。ULVおよびMLV製造の各種の方法の概説としては、Szokaら, Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:465-508, 1980を参照されたい。
【0022】
本明細書および請求の範囲全体をとおして用いられる「溶剤小球体(solvent spherule)」という用語は、有機溶剤の微小な回転楕円面状(spheroid)の液滴を意味するものであり、その内部には複数のより小さな水系溶液の液滴が存在する。溶剤小球体は第2の水系溶液中に懸濁し完全に浸ける。
【0023】
「中性脂質(neutral lipid)」という用語は、それ自体は膜形成能を全く持たず、かつ親水性の「ヘッド」基を持たない油または脂肪を意味する。
【0024】
「両親媒性脂質」という用語は、親水性の「ヘッド」基と疎水性の「テイル」基とを有し、かつ膜形成能がある分子を意味する。
【0025】
「両性イオン性脂質」という用語は、pH7.4で正味の電荷がゼロである両親媒性脂質を意味する。
【0026】
「アニオン性脂質」という用語は、pH7.4で正味の負電荷を有する両親媒性脂質を意味する。
【0027】
「カチオン性脂質」という用語は、pH7.4で正味の正電荷を有する両親媒性脂質を意味する。
【0028】
多胞性リポソームを作製するためには、脂質成分中に少なくとも1種の両親媒性脂質および1種の中性脂質が含まれることが必要である。両親媒性脂質は、両性イオン性、アニオン性またはカチオン性の脂質であり得る。両性イオン性の両親媒性脂質の例は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンなどである。アニオン性の両親媒性脂質の例は、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸などである。カチオン性の両親媒性脂質の例は、ジアシルトリメチルアンモニウムプロパンおよびエチルホスファチジルコリンである。中性脂質の例としては、ジグリセリド(例えばジオレイン、ジパルミトレイン)および混合カプリリン-カプリンジグリセリド、トリグリセリド(例えば、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリンおよびトリラウリン)、植物油(例えば大豆油)、スクアレン、トコフェロール、およびそれらの混合物が挙げられる。さらに、コレステロールまたは植物性ステロロールが多胞状リポソームの製造に用いることができる。
【0029】
本明細書中で用いる「生物学的に活性な薬剤」または「活性な薬剤」という用語は、多胞状リポソームのチャンバー内またはリポソームの製造の際に用いられる水系溶液中に存在する薬剤をいうのに用いる場合には、特定の疾患状態の治療において標的とされる生物学的活性を有する薬剤を含み、これは小胞体から放出される形態、または小胞体チャンバーから放出された後で活性になる形態のいずれかである。例えば、生物学的に活性な薬剤としては、薬物、および酵素と相互作用すると治療活性を有する活性な部分に変換されるプロドラッグが挙げられる。殺虫剤(insecticidesおよびpesticides)および所望の化粧品の用途がある薬剤もまた「生物学的に活性な薬剤」という用語に包含される。
【0030】
「浸透圧賦形剤(osmotic excipient)」なる用語は、生物学的に活性な薬剤ではない、水系溶液中のあらゆる生物学的に適合性のある溶質分子を意味する。電解質および非電解質の両方とも浸透圧賦形剤として機能する。ある特定の分子が浸透圧賦形剤として機能するか否かを調べる上で、あるいは溶液中の浸透圧賦形剤(例えば、多胞状リポソームに封入されるもの)の濃度を決定する上で、その分子が溶液内の条件下(例えばpH)で全体的にイオン化されるのか、それとも部分的にイオン化されるのか、を考慮する必要がある。また、そのようなイオンが脂質膜を透過するか否かも調べるべきである(Mahendra K. Jain, van Nostrand Reinhold Co., The Bimolecular Lipid Bilayer Membrane, 1972, 470pp)。当業者であれば、本発明の使用のためには、浸透圧賦形剤が、そのリポソームを用いて治療を受けている被験者にとって毒性または有害であることがわかっているものを避けるように選択されねばならないことがわかるであろう。当業者であれば、過度の実験に頼らずとも、本発明における使用についての所与の浸透圧賦形剤の好適性を容易に評価できる。
【0031】
ある浸透圧賦形剤は固有の生物学的活性を有し、多くのものが生物学的に活性な薬剤の生物学的活性を促進する。例えば、対イオンとしてカルシウムイオンを共に封入して、薬物の貯蔵寿命を長くしたり、バイオアベイラビリティを促進することが可能であるが、しかし、MVL製剤の治療上または他の実用性を達成するには不十分である。さらに、種々の安定化剤が存在してもよい。一般に賦形剤として分類される特定の薬剤は、実際には、非常に僅かな程度から極めて有意な程度の直接的な生物学的活性を有していることがある。例えば、一般的な賦形剤であるマンニトールは、利尿剤としても生物学的に作用し得る。水でさえも、生物学的に作用して脱水症を直すことができるが、これらの化合物が活性な薬剤としではなく浸透圧賦形剤として用いられる場合、それらは同じヘルパー機能を示す他のものと比較的交換可能である。多胞状リポソームの形成および多胞状リポソームからの封入薬剤の薬物封入量の調節のために用い得る浸透圧賦形剤としては、グルコース、スクロース、トレハロース、コハク酸塩、グリシルグリシン、グルコン酸、シクロデキストリン、アルギニン、ガラクトース、マンノース、マルトース、マンニトール、グリシン、リシン、クエン酸塩、ソルビトール、デキストラン、およびそれらの適切な組合せが挙げられるが、これらに限定されない。下記の表1は、異なる濃度におけるスクロース溶液とグリシルグリシン溶液の容量オスモル濃度を比較するものである。
【0032】
【表1】
【0033】
当業者であれば、過度な実験に頼らずとも、本発明の小胞体において用い得る賦形剤の様々な組合せを容易に確認でき、またそうした組み合わせを思い付くことができる。
【0034】
本明細書中で用いられる「治療上有効な量またはレベル」という用語は、所望の薬理学的効果を引き起こすのに必要な生物学的に活性な薬剤の量を意味する。この量は、特定の活性な薬剤の有効度、個々の宿主の年齢、体重および応答性、ならびに宿主の症状の性質および重篤度に応じて大きく変化しうる。したがって、活性な薬剤の量には厳密な上限も下限もない。本発明で用いる治療上有効な量は、当業者であれば容易に決定できる。
【0035】
本明細書中で用いる「薬物封入量(drug loading)」は、通常の量的な意味において、製品であるリポソーム懸濁液の中に充填される生物学的に活性な薬剤の量を意味する。したがって、それは、使用の際に患者に送達しようとする、リポソーム製剤の単位容量において使用可能な活性な薬剤の量の尺度である。さらに詳細に言えば、「薬物封入量」とは、リポソーム懸濁液の単位容量当たりの封入薬物の、リポソーム自体における封入容量の割合(%)に対する比率を意味する。それは、遊離薬物の割合が低い場合には、懸濁液中の活性な薬剤の濃度を懸濁液のリポクリットで除算したものにほぼ等しい。
【0036】
【数1】
【0037】
本明細書中で用いられる「薬物または他の化合物の封入率」とは、リポソーム製造プロセスの最終懸濁液における封入しようとする化合物の量の、該プロセスの第1の水系溶液において用いられる封入しようとする化合物の全量に対する割合を100倍したものを意味する。
【0038】
【数2】
【0039】
本明細書中で用いられる「リポクリット(lipocrit)」とは、ヘマトクリットと同様にして求められるものであり、リポソームが占める容量の、全懸濁液容量に対する割合を100倍したものを意味する。
【0040】
【数3】
【0041】
本明細書中で用いられる「遊離薬剤の割合」とは、最終リポソーム懸濁液においてリポソームの外側に存在する薬物の量の、最終懸濁液(最終製品)中の薬物の全量に対する割合を100倍したものを意味する。
【0042】
【数4】
【0043】
これらのパラメーターを求める方法は、本出願の実施例7で説明されている。
【0044】
可能な場合はいつでも、生物学的に活性な薬剤の高い封入量を達成するために、浸透圧賦形剤の使用は最少限まで減らすか、さもなくば使用しない。この場合、容量オスモル濃度は活性な薬剤に大きく依存するので、薬物封入量は、封入しようとする溶液中の活性な薬剤の濃度に直接左右される。浸透圧賦形剤を含まない第1の水系溶液を使用することが不可能な場合、第1の水系成分の容量オスモル濃度は、低分子量の賦形剤を高分子量の賦形剤で置き換えることによって低下できる(例えば、低分子量の緩衝剤または安定化剤を高分子量のもので置き換える)。また、薬物のために陰性の対イオンを選択する上で、低分子量の対イオンを高分子量のものと置き換えることができる。例えば、塩酸モルヒネにおいて、塩素イオンは、サルフェートまたはさらに大きな分子量の陰イオン(例えば、ホスフェート)で置き換えることができる。
【0045】
逆に、生物学的に活性な薬剤が高濃度では毒性である場合のように、生物学的に活性な薬剤の低封入量製剤の製造が望まれる場合、第1の水系溶液の容量オスモル濃度は、その容量オスモル濃度を増大させるために低分子量の浸透圧賦形剤を選択することにより増大させることができる。
【0046】
第1の水系成分の容量オスモル濃度の下限は、生物学的に活性な薬剤が高分子量タンパク質または他の巨大分子であって、かつ浸透圧賦形剤が用いられない場合のように、ゼロに近いものであってもよい。一方、第1の水系成分の容量オスモル濃度は、時には、使用において有害または毒性の効果をもたらことなく、約1000mOsm以上と高いものであり得る。この理由は、賦形剤の多くが、製造プロセスの間にリポソームから出ていくことができるからである。しかし、通常は、第1の水系成分の容量オスモル濃度は、約0.01mOsmから約1100mOsmの範囲、例えば約5mOsmから約400mOsmの範囲である。
【0047】
最終リポソーム製品における封入された水系成分の容量オスモル濃度は通常、MVLが貯蔵される水系環境(例えば、0.9wt%のNaClまたは普通の生理食塩水)または使用のためにMVLが導入される水系環境(例えば、血清または他の生物学的に関連のある水系環境)について等張である。しかし、最終MVL製品における水系成分の容量オスモル濃度はまた、リポソームからの生物学的に活性な薬剤の放出速度の最適な低下をもたらすために高張であってもよい。したがって、本発明の範囲内では、MVL製品における水系成分は、貯蔵媒体または生物学的に活性な薬剤が放出される水系環境について低張、等張または高張であり得ると考えられる。
【0048】
普通の生理食塩水の容量オスモル濃度は、ヒト血漿および他のin vivo環境(例えば、脳脊髄液、滑液、皮下間腔および筋肉内間腔)の容量オスモル濃度と同等である。したがって、そのような環境におけるMVL薬物放出の予測モデルとして生理食塩水を用いることができる。本発明のMVLの好ましい使用は、(例えば、薬物デポー剤として)組織または体腔へのin vivo注射または埋め込み用であるので、それらは通常、媒体(例えば、普通の生理食塩水、リン酸緩衝化食塩水または他の浸透圧が同様の媒体)中に保存される。
【0049】
MVLからの活性な薬剤の放出速度は通常、製造の間に用いられる第1の水系成分の容量オスモル濃度を低下させることにより増大する。しかし、第1の水系成分の容量オスモル濃度を低下させることは、持続性放出および封入効率に対してマイナスの効果を及ぼし得る。このマイナスの効果は、脂質成分中に、約13〜約28個の炭素(例えば、約18〜約22個の炭素)を有する両親媒性脂質を1つ以上用いることによって克服できる。この一般法則は、その両親媒性脂質の炭素鎖が飽和していてもいなくても、またはそれが1つ以上の二重結合を含んでいてもいなくても成立する。しかし、一般に、多胞状リポソームの製剤化において用いる脂質を選択する上で念頭におくべきことは、炭素鎖中にある所定の炭素数を有する脂質を用いる場合、もしもその脂質が炭素鎖中に少なくとも1つの二重結合を含むならば、低沸点の有機溶剤を使用できることである。本発明の多胞状リポソームの作製に用いるための好ましい両親媒性脂質は、天然の脂質である。MVLの製造の際にそのような長鎖の両親媒性脂質を用いることによってもたらされる、生物学的に活性な薬剤の封入効率および持続性放出に対する有益な効果は、「Method for Producing Liposomes With Increased Percent of Compound Encapsulated」という表題である同時係属出願中の米国特許出願第08/723,583号(1996年10月1日出願)に開示されており、これは引用によりその全体を本明細書に組み入れる。
【0050】
本発明の実施において有用な長鎖両親媒性脂質の代表的な一覧は以下のとおりである。この一覧は説明のためであり、どのような意味においても本発明の範囲を制限しようとするものではない。また、本出願および科学文献におけるリン脂質を指すのに用いる略語も挙げてある。
【0051】
DOPCまたはDC18:1PC=1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DLPCまたはDC12:0PC=1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DMPCまたはDC14:0PC=1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DPPCまたはDC16:0PC=1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
【0052】
DSPCまたはDC18:0PC=1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DAPCまたはDC20:0PC=1,2-ジアラキドイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DBPCまたはDC22:0PC=1,2-ジベヘノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DC16:1PC=1,2-ジパルミトレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
【0053】
DC20:1PC=1,2-ジエイコセノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DC22:1PC=1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン
DPPG=1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール
DOPG=1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール
【0054】
多くの異なるタイプの揮発性疎水性溶剤が脂質相の溶剤として用いことができ、例えば、エーテル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、超臨界流体(例えば、CO2、NH3およびフレオン;しかしこれらに限定されない)が挙げられる。例えば、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテルまたは他のエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ハロゲン化エーテル、エステル、およびそれらの組合せが満足のいくものである。
【0055】
本発明の方法および組成物における封入のための治療用の生物学的に活性な薬剤または薬物は、抗腫瘍剤、抗感染剤、ホルモン、抗うつ剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗侵害受容剤、抗不安剤および生化学的薬剤からなる一般的な群から選択できる。
【0056】
本発明の組成物および方法において有用な抗腫瘍剤の代表的な例としては、メトトレキセート、タキソール、腫瘍壊死因子、クロラムブシル、インターロイキン、エトポシド、シタラビン、フルオロウラシル、およびビンブラスチンが挙げられる。
【0057】
本発明の組成物および方法において有用な抗感染剤の代表的な例としては、アミカシン、ペンタミジン、メトロニダゾル、ペニシリン、セファレキシン、テトラサイクリン、およびクロラムフェニコールが挙げられる。
【0058】
本発明の組成物および方法において有用な抗ウイルス剤の代表的な例としては、ジデオキシシチジン、ジドブジン、アシクロビル、インターフェロン、ジデオキシイノシン、およびガンシクロビルが挙げられる。
【0059】
本発明の組成物および方法において有用な抗不安剤および鎮静剤の代表的な例としては、ベンゾジアゼピン(例えば、ジアゼパム)、バルビツレート(例えば、フェノバルビタール)、および他の化合物(例えば、ブスピロンおよびハロペリドール)が挙げられる。
【0060】
本発明の組成物および方法において有用なホルモンの代表的な例としては、エストラジオール、プレドニゾン、インスリン、成長ホルモン、エリトロポイエチン、およびプロスタグランジンが挙げられる。
【0061】
本発明の組成物および方法において有用な抗うつ剤の代表的な例としては、フルオキセチン、トラゾドン、イミプラミン、およびドキセピンが挙げられる。
【0062】
本発明の組成物および方法において有用な抗侵害受容剤の代表的な例としては、ブピバカイン、ヒドロモルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、モルヒネおよびメペリジンが挙げられる。
【0063】
「生化学的薬剤(biologics)」なる用語は、核酸(DNAおよびRNA)、グルコサミノグリカン、タンパク質、およびペプチドを包含し、サイトカイン、ホルモン[下垂体(pituitary)ホルモン、副腎ホルモンおよび下垂体(hypophyseal)ホルモン]、増殖因子、ワクチンなどの化合物が挙げられる。中でも特に関心が持たれるのは、インターロイキン-2、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、インターフェロン、インスリン、ヘパリン、ロイプロリド、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、腫瘍壊死因子、インヒビン、腫瘍増殖因子αおよびβ、ミューラー管抑制物質、カルシトニン、B型肝炎ワクチン、DNAまたはRNAワクチン、遺伝子移入用DNA、ならびにアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0064】
生物学的に活性な薬剤は本発明においては様々な形態で用いることができ、例えば、分子複合体または生物学的に許容し得る塩の形態が挙げられる。そのような塩の代表的な例としては、コハク酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、グルクロン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、サリチル酸塩、金属塩(例えば、アルカリまたはアルカリ土類)、アンモニウムもしくはアミン塩(例えば、4級アンモニウム塩)などである。さらに、望ましい保持特性および放出特性を有するが、しかしin vivoにて生理学的pHもしくは酵素により容易に加水分解される活性な薬剤の誘導体(例えばそのエステル、アミドおよびエーテル)もまた、生物学的に活性な薬剤として用いることができる。
【0065】
封入される生物学的に活性な薬剤の濃度は、およそ数ピコモルからおよそ数百ミリモルまで様々であり得る。生物学的に活性な薬剤の望ましい濃度は、治療しようとする疾患、患者の年齢および症状、ならびに該薬剤の特定の特性のような特性に応じて様々である。薬剤が通常は毒性のような副作用を伴う場合には、一般に、低濃度の薬剤を含むMVLを作製し、かつ高濃度の浸透圧賦形剤を用いることが望ましい。これらの種々のパラメーターの相互関係は、当業者であれば、過度の実験に頼らずとも、所与のMVL組成物の選択および製造において容易に評価することができる。
【0066】
本発明の方法により得られる高封入量の製剤は、製薬産業において、血流中で薬物の所望の治療濃度を達成するために被験者に(筋肉内または皮下的に)投与しなければならないリポソーム製剤の量を低下させる場合に特に有用である。しかし、ある所定容量のリポソーム懸濁液に封入される薬物の量の有用な上限は、その懸濁液のリポクリットによって決まり得る。当業者であれば理解するように、リポソームを含有する懸濁液のリポクリットが非常に高い場合には、その懸濁液を注射することは困難な場合がある。
【0067】
本発明の多胞状リポソーム中の生物学的に活性な薬剤の、ヒトにおけるin vivoでの使用に適する投薬範囲は、体表面積m2当たり0.001〜6,000mgの範囲を含む。上記の用量範囲外の用量でもよいかもしれないが、この範囲は、実際上全ての生物学的に活性な薬剤についての使用の範囲を包含する。しかし、ある特定の治療薬剤の場合、先に記載したように、好ましい濃度は容易に確認できる。
【0068】
MVL製剤は、懸濁用媒体または任意の生理学的に許容し得る担体を添加することによりさらに希釈して、任意の治療上有効な全投与量を有する注射可能な徐放性デポー製剤を得ることができる。通常用いられる好適な担体としては、水系または非水系溶液、懸濁液、およびエマルジョンが挙げられる。非水系溶液の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)および注射可能な有機エステル(例えば、エチルオレエート)である。水系担体としては、水、アルコール-水系溶液、エマルジョンまたは懸濁液が挙げられ、生理食塩水および緩衝化媒体を含む。非経口用ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース、デキストロース、および乳酸加リンガー液が挙げられる。静脈内用ビヒクルとしては、液体または栄養補給液(replenishers)、電解質補給液(例えば、リンガーのデキストロースをベースとするもの)などが挙げられる。防腐剤および他の添加剤が存在してもよく、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性気体が挙げられる(Remington's Pharmaceutical Sciences, 第16版、A. Oslo編, Mack, Easton, PA.1980)。
【0069】
多胞状リポソームは、どのような所望の経路で投与してもよく、例えば、腫瘍内、関節内(関節へ)、眼内、筋肉内、鞘内、腹腔内、皮下、静脈内、リンパ内、経口および粘膜下が挙げられる。多胞状リポソームは、当業界で周知の方法を用いて、例えば賦形剤分子またはペプチドにより、標的特異的リガンド(例えば、抗体および他の受容体特異的タンパク質リガンド)を直接的または関節的に結合させて改変して、器官または細胞標的特異性を付与してもよい(Maloneら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 86:6077, 1989; Gregoriadis, Immunology, Today, 11(3):89, 1990; これらの両方は引用により本明細書に組み入れる)。
【0070】
一連の実験を行って、薬物封入量に対する容量オスモル濃度の効果が逆であり、活性な薬剤の量以外の製造プロセスの間に用いられる他のパラメーターとは無関係であり、リポソーム製剤における充填可能な活性な薬剤の量に正比例することを示した。したがって、所望するレベルの封入量を得るためには、これら2つのパラメーターを均衡させなければならない。例えば、実施例1では、ボルテクサー(vortexer)ミキサー、および40mg/mLのシタラビンを20mMクエン酸に溶解させたものと0〜8.0w/v%の範囲の各種量のスクロースとを含有する第1の水系成分を用いて、シタラビンをMVLに封入できることを示した。製剤における第1の水系組成物のこの範囲に対応推定容量オスモル濃度は185.9〜446.9mOsmであった。対応する薬物封入量の範囲(表2)は、61.7〜21.0mg/mlであり、封入プロセスの歩留まり(%)は比較的一定のままであった。
【0071】
活性な薬剤の濃度および浸透圧賦形剤の濃度を様々に変化させることにより、本発明は、任意の所与の活性な薬剤について広範囲の薬物封入量のMVL製剤を生じる。例えば、実施例2では、40または5mg/mLのメトエンケファリンを20mMのクエン酸に溶解させたものと0、2.5または5w/v%のスクロースとを含有する第1の水系成分を用いてメトエンケファリンをMVLに封入して、第1の水系成分の容量オスモル濃度範囲を35.5〜191.5mOsmにした。これらの研究の結果(表2および3)から、第1の水系溶液中の活性な薬剤の濃度が40mg/mLであっても5mg/mLであっても、第1の水系成分中の容量オスモル濃度を低下させると、それに比例して薬剤封入量が増大することが示される。さらに、本発明の方法を用いて、6.4mg/mLという少量の薬物または61.7mg/mLという多量の薬物を含有するMVL製剤を得た。これらの結果は、クレームする発明の根底をなす原理の広い適用性を実証するものである。
【0072】
一定pHにて100mM HClまたは25mMクエン酸を含む、または含まない10〜80mg/mLの範囲のIGF-Iの第1の水系成分濃度を用いてさらなる研究を行った。封入したIGF-Iの溶解性およびバイオアベイラビリティが、第1の水系成分のpHにしたがって変化することがわかった。研究から、約300mg/mLまでのIGF-Iが5より低いpHで溶解性であることが示されている。試験を行った全ての濃度のIGF-Iにおいて、薬物が溶解性であるpH範囲では、薬物封入量は容量オスモル濃度にしたがって変化した。40〜300mg/mLの範囲のIGF-Iの濃度では、溶解度は2〜4.8の範囲で最大であり、約1mg/mL〜約33mg/mLの範囲のIGF-Iの濃度についての有用な溶解度の範囲は約1〜約5であった。
【0073】
さらに、IGF-I製剤を、浸透圧賦形剤として糖(スクロース)を糖でないもの(グリシルグリシン)で置き換えることの、薬物封入量に対する効果について比較した。幾つかの製剤では、第1の水系成分の容量オスモル濃度を調整することによる薬物封入量の調節傾向を著しく変化させることなく、製剤に徐放特性を付与するために用いる長鎖両親媒性脂質もDEPCからDOPCに代えた。本発明の方法が製造プロセスの際に用いるバッチサイズおよび混合方法のような変数に左右されないことを実証するために、MVL製剤を異なるバッチサイズで、そして異なるタイプの混合装置を用いて製造した。これらの試験の結果(表6A〜6F)の比較から、異なるバッチサイズおよび混合方法は多少異なる封入量レベルをもたらすものの、容量オスモル濃度と薬物封入量との逆の関係が第1の水系成分中のいずれの浸透圧賦形剤の化学的特性にも依存しないこと、および、一定の薬物濃度の場合、容量オスモル濃度が低下するほど薬物封入量が増大するという傾向が不変であること、が示された。
【0074】
以下の実施例により、本発明を実施できる方法を説明する。しかし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明はそこにおける具体的な材料または条件のいずれかによっても限定されないことを理解すべきである。
【0075】
実施例1
リポソーム製剤の調製
本明細書中で説明するMVLの製造方法の全てにおいて、第1の工程で、脂質成分を第1の水系成分と混合することにより「油中水滴型」エマルジョンを調製した。脂質成分は、0.5〜4mLの13.20mM DOPCまたはDEPC、19.88mMのコレステロール、2.79mMのDPPGおよび2.44mMのトリオレイン(Avant Polar Lipids Inc., Alabaster, AL)を溶剤としてのクロロホルム(Spectrum Chemical Manufacturing Corp., Gardena, CA)中に含有するものとした。同容量(0.5〜4mL)の、シタラビン、ロイプロリド、モルヒネ、エンケファリンまたはIGF-Iと各種濃度の浸透圧賦形剤とを含有する第1の水系溶液を、上記脂質成分と各種の混合装置を用いて混合して、試験した各種の組合せの薬物封入量および歩留まり(%)に対する容量オスモル濃度の効果を調べた。
【0076】
シタラビン含有 MVL の調製
シタラビンについて、脂質成分はDOPCではなくDEPCを含むものとし、4種の異なる第1の水系溶液[それぞれ、40mg/mLのシタラビン(Upjohn Co., Kalamazoo, MI)を20mMクエン酸(Sigma Chemical)に溶解させたものと浸透圧賦形剤(excipient osmotic agent)として0、2、5または8w/v%のスクロースとを含有するもの]を調製した。0.5mLの第1の水系成分と0.5mLの脂質成分とをBaxterボルテクサー(vortexer)を用いて最大速度(10に設定)にて6分間混合することにより、脂質と第1の水系成分とのエマルジョンを形成した。
得られた第1のエマルジョンに、4wt%グルコースおよび40mMリシン(Spectrum Chemicals)を含有する溶液2.5mLをそれぞれ添加した。得られた混合物をBaxterボルテクサーを用いて最大速度(10に設定)にて4秒間乳化して、第2のエマルジョンを形成した。得られた第2のエマルジョン[すなわち、水中油中水滴型(water-in-oil-in-water:W/O/W型)ダブルエマルジョン)を、4wt%のグルコースおよび40mMのリシンを含む溶液10mLを含む250mL容エーレンマイヤーフラスコに移して、穏やかに渦をまくように攪拌した。
【0077】
有機溶剤(クロロホルム)を粒子から蒸発させるために、第2のエマルジョンに窒素ガスを37℃で20分間、ゆっくり攪拌しながら通した。得られた多胞状リポソームは50mLの生理食塩水でベンチトップ遠心分離機で600×gにて遠心分離することにより2回洗浄し、次いで0.5〜4mLの生理食塩水に再懸濁した。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
これらの結果から、第1の水系溶液の容量オスモル濃度を変化させることにより薬物封入量が調節でき、容量オスモル濃度を低下させれば薬物封入量は増大することが示される。容量オスモル濃度を低下させることにより達成される薬物封入量の増大は、MVL製剤の歩留まりを有意に変化させることはない。
【0080】
実施例2
メトエンケファリン含有多胞状リポソーム製剤の調製
実施例1のようにして、DOPCではなくDEPCを含有する脂質成分を調製した。第1の水系成分は、5mg/mLのメトエンケファリン(ペンタペプチド)(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)を25mMクエン酸中に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として0、2.5または5.0w/v%のスクロースとを含有するものとした。実施例1に記載した工程の残りの工程を行って、生理食塩水に懸濁したメトエンケファリン含有MVLを得た。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3のデータからも、第1の水系溶液の容量オスモル濃度を変化させることによりメトエンケファリンの封入量が調節され、容量オスモル濃度を低下させれば薬物封入量は増大することが示される。したがって、この効果は、充填する薬物に依存しない。歩留まりは、容量オスモル濃度を低下させても有意に変化しない。第1の水系成分の容量オスモル濃度を変化させることによりもたらされる薬物封入量に対する効果は、製造の際に脂質成分においてDEPCをDOPCでおきかえた場合にも見られる。
【0083】
実施例3
ロイプロリド含有多胞状リポソーム製剤の調製
実施例1のようにして、DEPCではなくDOPCを含有する脂質成分を調製した。但し、この場合、それはロイプロリド、および脂質成分中に4種全ての脂質を3倍高いモル濃度で含むものとした。第1の水系成分は、15mg/mLの酢酸ロイプロリド(Bachem Bioscience Inc., King of Prussia, PA)を100mMリン酸中に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として4.0または6.0w/v%のスクロースをを含有するものとした。実施例1の手法にしたがって行い、ロイプロリドを含有するMVLを得た。但し、この場合、4mLの第1の水系成分と4mLの脂質成分とをTKオートホモジナイザーKを用いて9,000rpmの速度で8分間混合して第1のエマルジョンを得た。第1のエマルジョンに、4wt%のグルコースおよび40mMのリシン(Spectrum Chemicals)を含有する溶液16mLをそれぞれ添加した。得られた混合物をTKオートホモジナイザーKを用いて4,000rpmの速度で1分間乳化して、第2のエマルジョンを形成した。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
上記の実施例1および2と同様に、ロイプロリド(9アミノ酸のペプチド)の封入量は、第1の水系溶液の容量オスモル濃度を変化させることにより調節され、容量オスモル濃度を低下させれば薬物封入量は増大する。試験した容量オスモル濃度の範囲全体にわたって、同様の歩留まりが保たれた。この結果はまた、MVLの製造において第1および第2のエマルジョンを得るのに用いる混合装置のタイプに依存しないことも示している。
【0086】
実施例4
モルヒネ含有多胞状リポソーム製剤の調製
実施例1のようにして、DOPCではなくDEPCを含有する脂質成分を調製した。第1の水系成分は、17mg/mLの硫酸モルヒネ(Mallinckrodt Chemical Inc., St. Louis, MO)を10mM塩酸中に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として0.2、2.5または5.0w/v%のスクロースとを含有するものとした。実施例1に記載した工程の残りの工程を行って、生理食塩水に懸濁した硫酸モルヒネ含有MVLを得た。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
ここでもまた、モルヒネ(脂溶性薬物)の封入量は、第1の水系溶液の容量オスモル濃度を変化させることにより調節され、容量オスモル濃度を低下させれば薬物封入量は増大する。MVL製剤の歩留まりは、試験した容量オスモル濃度全体にわたって実質的に同等であった。
【0089】
実施例5
IGF-I 含有多胞状リポソーム製剤の調製
1. MVL の 0.5mL スケール調製物
実施例1のようにして、DOPCではなくDEPCを含有する脂質成分を調製した。第1の水系成分は、50mg/mLのIGF-Iと、浸透圧賦形剤として0.25、0.5、1.0、2.5または5.0w/v%のスクロースとを含有するものとした。実施例1に記載した工程の残りの工程を行って、生理食塩水に懸濁したIGF-I含有MVLを得た。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表6Aに示す。
【0090】
【表6A】
【0091】
IGF-Iの封入量は、クエン酸を緩衝剤として用いた場合に得られた結果と一致してはいたが、IGF-Iは、封入タンパク質を特性決定するために行なった研究ではある程度の変性を示した。
【0092】
2. MVL の4 mL スケール調製物
実施例1のようにして、DEPCではなくDOPCを含有する脂質成分を調製した。第1組の製剤は、20mg/mLのIGF-I(Chiron Corp., Emeryville, CA)を100mMの塩酸に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として2.5または5.0w/v%のスクロースとを含有する第1の水系成分を用いた。第2組は、50mg/mLのIGF-Iを100mMの塩酸に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として0または2.5w/v%のスクロースを用いた。IGF-Iを含有するMVLを得るために、実施例1の手法をたどって行った。但し、この場合、4mLの第1の水系成分と4mLの脂質成分とを、TKオートホモジナイザーKを用いて9,000rpmの速度で8分間混合して第1のエマルジョンを得た。第1のエマルジョンに、4wt%のグルコースおよび40mMのリシン(Spectrum Chemicals)を含有する溶液16mLをそれぞれ添加した。得られた混合物をTKオートホモジナイザーKを用いて4,000rpmの速度で1分間乳化して、第2のエマルジョンを形成した。ボルテクサーミキサーおよびDEPC(炭素数22の炭素鎖を有する脂質)を用いたこれらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表6Bに示す。
【0093】
【表6B】
【0094】
表6Bは、エマルジョンを得るためにTKミキサーによる手法を用いて得られる封入量が、ボルテクサーミキサーを用いた場合に得られる封入量とほぼ同等であることを示している。しかし、封入したタンパク質の特性決定するために行った研究からは、酸系緩衝剤の不在下ではIGF-Iオリゴマーの存在が増大することが示された。
【0095】
3.3 mL スケール MVL 製剤の調製
実施例1のようにして、DOPCではなくDEPCを含有する脂質成分を調製した。第1の水系成分は、次の3種の処方物の1つを含むものとした:(1)30mg/mLのIGF-Iを25mMのクエン酸に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として0または2.5w/v%のスクロースとを含有するもの;(2)50mg/mLのIGF-Iを25mMのクエン酸に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として2.5、1.0、0.5または0w/v%のスクロースとを含有するもの;または(3)クエン酸を用いない50mg/mLのIGF-Iと、浸透圧賦形剤として0または0.5w/v%のスクロースとを含有するもの。IGF-Iを含有するMVLを得るために、実施例1の手法をたどって行った。但し、この場合、3mLの第1の水系成分と3mLの脂質成分とを、OmniミキサーESを用いて10,000rpmの速度で12分間混合して第1のエマルジョンを得た。第1のエマルジョンに、4wt%のグルコースおよび40mMのリシン(Spectrum Chemicals)を含有する溶液20mLをそれぞれ添加した。得られた混合物をOmniミキサーESを用いて4,500rpmの速度で2分間乳化して、第2のエマルジョンを形成した。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表6Cに示す。
【0096】
【表6C】
【0097】
表6Cの結果から、試験した薬物濃度のいずれについても、容量オスモル濃度による薬物封入量の調節がほぼ同等であることが示される。
【0098】
実施例6
封入 IGF-I の 125mL スケール調製物
他の薬物製剤のようにして、DOPCではなくDEPCを含有する基準脂質成分を調製した。第1の水系成分は、15mg/mLのIGF-Iを5%スクロース/20mMクエン酸アンモニウム溶液または8%スクロース/20mMクエン酸アンモニウム溶液のいずれか一方に溶解させたものとした。125mLの第1の水系溶液と125mLの脂質成分とを、高剪断二槽式混合槽システムを用いて混合して、第1のエマルジョンを得た。この混合システムは製造スケールプロセスに合わせて設計されたものであり、封入薬物製剤のスケールアップに用いられる。第1の乳化槽において、水系成分と有機成分とを8000rpmの速度で30分間混合した。次に、この第1のエマルジョンを167mL/分の速度でポンプ汲み上げして、2400mL/分で流れる0.04Nの水酸化アンモニウムを1.5%グリシン溶液中に含む液体流にし、インライン静的混合装置(in-line static mixer)を用いてブレンドして、第2のエマルジョンを得た。静止混合装置を流れる全体の流速は2567mL/分であった。この速度において、第1のエマルジョンは90秒でなくなった。第2のエマルジョンを、受槽に入る際にリシン溶液と混合し、次いで直ちに窒素を噴霧して有機溶剤を除去した。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)、薬物封入量および遊離薬物の割合(%)を下記の表7に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
上記表7の結果から、スクロース濃度を低下させることによる薬物封入量が、試験した他の薬物製剤と同様に増大したことが示される。
【0101】
実施例7
浸透圧賦形剤としてグリシルグリシンに置き換えることの影響
実施例1のようにして、DOPCではなくDEPCを含有する脂質成分を調製した。第1の水系成分は、10mg/mLのIGF-Iを25mMクエン酸中に溶解させたものと、浸透圧賦形剤として0、1.0または2.0w/v%のグリシルグリシンとを含有するものとした。実施例1に記載した工程の残りの工程を行って、生理食塩水中にIGF-Iを含有するMVLを得た。これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記の表6Dに示す。
【0102】
【表6D】
【0103】
スクロースに代えて非糖浸透圧スペーサーであるグリシルグリシンを用いた製剤についても、ほぼ同様の浸透圧による薬物封入量の調節が示される。したがって、薬物封入量に及ぼす容量オスモル濃度の影響は、表6Dのデータにより、用いる浸透圧賦形剤の化学的構造に依存しないことが示される。
【0104】
等しい浸透圧強度における各種浸透圧賦形剤の比較
ほぼ等しい浸透圧強度にて浸透圧賦形剤として2.5w/v%のスクロースまたは1.0w/v%のグリシルグリシンのいずれか一方と共に封入されるIGF-Iを含有するMVLを実施例1の方法で作製した。比較のために、浸透圧賦形剤として2.5w/v%のスクロースまたは1.0w/v%のグリシルグリシンを、80mg/mLのIGF-Iおよび25mMのクエン酸を含有する第1の水系成分に加えた。
【0105】
実施例1の手法にしたがって行ってIGF-Iを含有するMVLを得た。但し、この場合、3mLの第1の水系成分と3mLの脂質成分とをOmniミキサーESを用いて10,000rpmの速度で12分間混合して第1のエマルジョンを得た。第1のエマルジョンに、4wt%のグルコースおよび40mMのリシン(Spectrum Chemicals)を含有する溶液20mLをそれぞれ添加した。得られた混合物をOmniミキサーESを用いて4,500rpmの速度で2分間乳化して、第2のエマルジョンを得た。
【0106】
薬物封入量に及ぼす影響が単に第1の水系成分の容量オスモル濃度だけによるものなのか否かを調べるために、上記のようにして第3の製剤を作製した。但し、この場合、浸透圧賦形剤およびIGF-Iの濃度は(80mg/mLのIGF-Iおよび2.5%のスクロースから、50mg/mLのIGF-Iおよび1.0%のスクロースへと)比例して低下させた。この製剤において、第2の水系成分は、実施例1で用いた4%のグルコースおよび40mMのリシンの代わりに、1.5%のグリシンおよび40mMのリシンを用いた。下記の表6Eは、これら3種の製剤の最終リポソーム懸濁液における推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を比較したものである。
【0107】
これらの製剤の推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量を下記表6Eに示す。
【0108】
【表6E】
【0109】
表6Eのデータから、2種の異なる浸透圧スペーサーが、ぼほ等しい浸透圧強度において、しかし異なるモル濃度において、薬物封入量に対して同等の影響をもたらすので、浸透圧賦形剤の容量オスモル濃度は結果として得られる有効な変数であることが示される。
【0110】
実施例8
封入率(または歩留まり)、リポクリット、遊離薬物の割合、粒径分布および薬物封入量の測定
表2〜6A-Eは、上記実施例1〜6で記載したリポソーム製剤についての推定容量オスモル濃度(mOsm)、歩留まり(%)および薬物封入量(mg.mL)を示すものである。これらのパラメーターは以下のようにして得られる。
【0111】
薬物の封入率(または歩留まり)は、第1の水系溶液中で用いられる薬物の全量に対する最終リポソーム懸濁液中の薬物の量の百分率として算出した。したがって、薬物の歩留まりは、第1の水系溶液中の薬物の濃度に第1の水系溶液の容量を掛けたものに対する、最終懸濁液中の薬物濃度に最終懸濁液の容量を掛けたものの割合として算出した。リポクリットは、ヘマトクリットと同様に、懸濁液容量に対するペレット容量の百分率として算出した(ペレット容量を得るためには下記の条件を参照されたい)。
【0112】
遊離薬物の割合は、最終懸濁液中の薬物の量に対する、上清中の薬物の量の百分率として算出した。遊離薬物の割合はまた、懸濁液中の薬物濃度に対する上清中の薬物濃度の百分率に(1−リポクリット)を掛けたものとして算出できる。薬物封入量は、封入容量の各単位容量中に封入された薬物の量を測定したものであり、これは、(遊離薬物の割合が低いと仮定した場合には)リポクリットに対する最終リポソーム懸濁液の薬物濃度の割合とほぼ等しく、その値として推定できる。これらの変数は、以下にさらに詳細に説明するようにして求めた。
【0113】
リポクリットを算出するために、約50μLの多胞状リポソーム懸濁液をキャピラリー管に入れ、懸濁液に気泡が入らないようにして該管の端部を密封した。懸濁液を遠心分離機で600×gで10分間遠心して、ペレット層および上清層を得た。懸濁液が占める管の長さに対する、ペレットが占める管の長さの百分率がリポクリットとなる。
【0114】
製剤中の遊離薬物の量を求めるのに使用するために、約0.2mLの懸濁液をエッペンドルフ遠心管内で600×gで3分間遠心分離することによって上清を得た。シタラビンおよびモルヒネ製剤については、25〜50μLの上清を取り出し、1mLの3:1(v/v)イソプロピルアルコール:1N塩酸(Fisher Chemical, Fair Lawn, NJ)を含むガラス管にピペット操作により入れ、激しく混合して、透明な溶液を得た。分光光度計(Hitachi U-2000)でシタラビンについての280nmでの吸光度およびモルヒネについての285nmでの吸光度を測定した。ロイプロリド製剤については、50μLの上清を取り出し、2mLの1:1イソプロピルアルコール:水(0.1N水酸化アンモニウムで滴定してpH10とした)を含むガラス管にピペット操作により入れた後、激しく混合して、透明な溶液を得た。分光光度計(Hitachi U-2000)で280nmでの吸光度を測定した。エンケファリンおよびIGF-Iについては、25〜50μLの上清を取り出し、1mLの3:1(v/v)イソプロピルアルコール:2Nクエン酸(Sigma Chemical)を含むガラス管にピペット操作により入れた後、激しく混合して、透明な溶液を得た。分光光度計(Hitachi U-2000)でエンケファリンおよびIGF-Iについての275nmでの吸光度を測定した。同じ溶解溶液中の既知濃度の薬物溶液に基づいて設定した参照吸光度標準を用いて、懸濁液および上清中の薬物の濃度を算出した。
【0115】
粒径分布および平均粒径は、レーザー光回析の方法により、LA-500型またはLA-910型粒径アナライザー(Horiba Inc., Irvine, CA)を用いて求めた。検討した製剤の全部について、容量についての荷重平均粒径(volume-weighted mean particle diameter)は概ね約6〜18μmの範囲であった。
【0116】
実施例9
高薬物封入量で高歩留まりの IGF-I 製剤の in vitro および in vivo 放出
封入したIGF-Iの物理化学的な完全性は、Novex NuPageゲルを用いたSDS-PAGEアッセイ、およびC18対称カラムを用いたRP-HPLCアッセイにより確認した。IPA:2Nクエン酸(75:25)を用いて封入タンパク質を抽出した。封入IGF-Iの生物活性は、MG-63ヒト骨肉腫細胞系を用いるマイトジェンバイオアッセイ、およびW. Lopaczynskiら(Regulatory Peptides, 48:207-216, 1993)の方法に従う3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)染色により確認した。MG-63細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手し(ATCC# CRL 1427)、添加したIGF-Iに対する静止期のMG-63細胞の用量依存性マイトジェン応答を調べた。抽出したIGF-Iの生物活性は、封入されていない標準的なものの生物活性とほぼ同等であることが確認された。
【0117】
in vitro 実験: 簡単に説明すると、in vitro放出実験を次のように計画し、実施した:約50mg/mLのIGF-Iを含有するMVL懸濁液を、0.01%NaN3を含有するヒト血漿で20倍に希釈し、各時点についてスクリューキャップ付きエッペンドルフ管内に入れた0.5mLのサンプルを用い、サンプルを動的/回転条件下で37℃でインキュベートした。時点サンプル(time-point samples)を各種時点で採取し、0.9mLの生理食塩水で洗浄した。次に、微量遠心分離機で16000×gで4分間遠心分離して粒子ペレットを得、C18対称カラムを用いたRP-HPLCによりアッセイするまで−20℃で保存した。図1は、表6Eに示す3種の代表的なIGF-I製剤について得たいくつかのin vitro血漿中放出データを示す。これらのデータから、高薬物封入量で高歩留まりのIGF-I製剤について、IGF-Iの持続性放出が数日間にわたって達成されることが示される。
【0118】
in vivo 実験: 雄性ラットに表6Eに示す3種のMVL製剤を皮下注射して、in vivo放出特性についての情報を得た。各ラットには10mg用量のIGF-Iが投与されており、試験した製剤の各々を3匹のラットに注射した。注射後0、1、3、5および7日の時点でラットの尾部静脈から血液サンプル(0.2mL)を採取し、凝固させた。次に、遠心分離により血清を得、IGF-I濃度についてIGF-I ELISAキットDSL-10-5600(Diagnostic Systems Laboratories Inc., Webster, TX)を用いて製造業者の説明書に従ってアッセイする前に−70℃で保存した。
【0119】
図2は、表6Eの製剤AのIGF-I 10mgが投与された3匹のラットの平均血清IGF-I濃度の経時的変化を示す。これらのデータから、本発明の高薬物封入量で高歩留まりのIGF-I製剤を用いると、IGF-Iの持続的血清レベルが何日間にもわたって達成できることが示される。
【0120】
開示の目的で現在の時点で好ましいとされる本発明の実施形態を記載したが、添付の請求の範囲の範囲によって規定される本発明の精神の範囲内で改変を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、血漿中で37℃で7日間in vitroインキュベートした間にMVL中に保持されるIGF-Iの割合(%)(放出速度)を示すグラフである。製造の際、その浸透圧賦形剤としてのスクロースまたはグリシルグリシンの濃度を水系成分中で様々に変えて、薬物封入量を調節した。◇=80mg/mLのIGF-Iおよび2.5w/v%のスクロース(113.5mOsm);▽=80mg/mLのIGF-Iおよび1w/v%のグリシルグリシン(113.5mOsm);+=50mg/mLのIGF-Iおよび1w/v%のスクロース(63.5mOsm)。誤差バーは、標準偏差を表わす。
【図2】 図2は、水系成分中に80mg/mLのIGF-Iおよび2.5w/v%のスクロース(113.5mOsm)を含有するMVLを10mg皮下注射した後の雄性ラットの血清中8日間にわたるIGF-Iの濃度(ng/mL)を示すグラフである。データは3匹のラットのデータの平均を表わす。
Claims (30)
- リポソームへの生物学的に活性な薬剤の封入量を調節するための方法であって、
a.リポソームへの生物学的に活性な薬剤の封入量を、該薬剤を溶解した水系溶液の容量オスモル濃度を調整することにより調節し、そこにおいて、該水系溶液の容量オスモル濃度は、該薬剤の封入量を低下させるためには増大させ、あるいは該薬剤の封入量を増大させるためには低下させ;そして
b.該水系溶液を該リポソームに封入する
ことを含む、前記方法。 - 全体にわたって連続した網目構造として分布する膜を持った複数の非同心円状のチャンバーを有し、かつ、そこにおいて生物学的に活性な薬剤の封入量が調節されている多胞状リポソームの作製方法であって、
(a)2種の不混和性成分から油中水滴型(W/O型)エマルジョンを形成し、該2種の不混和性成分は(1)少なくとも1種の有機溶剤、少なくとも1種の両親媒性脂質、および親水性のヘッド基を持たない中性脂質を含む脂質成分、および(2)少なくとも1種の生物学的に活性な薬剤を含み、かつ該多胞状リポソームへの該生物学的に活性な薬剤の封入量を調節するように選ばれた容量オスモル濃度を有する第1の水系成分であり;
(b)該生物学的に活性な薬剤を含む該油中水滴型エマルジョンを第2の水系成分中に分散させて、溶剤小球体を形成し;そしてその後で
(c)該溶剤小球体から有機溶剤を除去して、該第2の水系成分中に懸濁された多胞状リポソームを形成する
各工程を含んでなり、そこにおいて、容量オスモル濃度を低下させると薬剤の封入量が増大する、前記方法。 - 前記改変水系溶液がさらに、浸透圧賦形剤を、前記容量オスモル濃度を調節するように選択した濃度で含む、請求項1または2に記載の方法。
- 前記浸透圧賦形剤がスクロースである、請求項3に記載の方法。
- 前記浸透圧賦形剤が、グルコース、グリシンおよびグリシルグリシンからなる群から選ばれる、請求項3に記載の方法。
- 前記改変容量オスモル濃度が0.01mOsmから1100mOsmの範囲である、請求項1または2に記載の方法。
- 前記改変容量オスモル濃度が5mOsmから400mOsmの範囲である、請求項6に記載の方法。
- 前記生物学的に活性な薬剤がシタラビンである、請求項1または2に記載の方法。
- 前記改変水系溶液の容量オスモル濃度が185mOsmから450mOsmの範囲である、請求項4に記載の方法。
- 前記生物学的に活性な薬剤がモルヒネである、請求項1または2に記載の方法。
- 前記水系溶液の改変容量オスモル濃度が114mOsmから260mOsmの範囲である、請求項10に記載の方法。
- 前記生物学的に活性な薬剤がエンケファリンである、請求項1または2に記載の方法。
- 前記水系溶液の改変容量オスモル濃度が35.4mOsmから191.5mOsmの範囲である、請求項12に記載の方法。
- エンケファリンの封入量が製剤の6.4mg/mLから50.8mg/mLの範囲である、請求項13に記載の方法。
- 前記生物学的に活性な薬剤がロイプロリドである、請求項1または2に記載の方法。
- 前記水系溶液の改変容量オスモル濃度が261.6mOsmから328.6mOsmの範囲である、請求項15に記載の方法。
- 前記浸透圧賦形剤が、グリシルグリシン、グルコース、スクロース、トレハロース、コハク酸塩、シクロデキストリン、アルギニン、ガラクトース、マンノース、マルトース、マンニトール、グリシン、リシン、クエン酸塩、ソルビトール、デキストラン、塩化ナトリウム、およびそれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項3に記載の方法。
- 前記生物学的に活性な薬剤が、麻酔剤、ぜん息鎮静剤、強心配糖体、抗高血圧症剤、核酸、抗生物質、ワクチン、抗炎症剤、抗不整脈剤、抗アンギナ剤(antiangina)、ホルモン、抗糖尿病剤、抗腫瘍剤、免疫調節剤、抗真菌剤、精神安定剤、ステロイド、鎮静剤、鎮痛剤、血管収縮剤、抗ウイルス剤、除草剤、殺虫剤、タンパク質、ペプチド、神経伝達物質、放射性核種、およびそれらの適切な組合せからなる群から選ばれる、請求項1または2に記載の方法。
- 前記浸透圧賦形剤を、前記水系成分の容量オスモル濃度を低下させるように選び、それによって前記生物学的に活性な薬剤の封入量が増大する、請求項3に記載の方法。
- 前記浸透圧賦形剤を、前記水系成分のオスモル濃度を増大させるように選び、それによって前記生物学的に活性な薬剤の封入量が低下する、請求項3に記載の方法。
- 前記脂質成分が、炭素鎖中に13個から28個の炭素を有する両親媒性脂質を少なくとも1つ含む、請求項2に記載の方法。
- 前記脂質成分が、炭素鎖中に18個から22個の炭素を有する両親媒性脂質を少なくとも1つ含む、請求項21に記載の方法。
- 前記両親媒性脂質が、少なくとも1つの両性イオン性の両親媒性脂質を含む、請求項2に記載の方法。
- 前記両親媒性脂質が、少なくとも1つのカチオン性の両親媒性脂質を含む、請求項2に記載の方法。
- 前記両親媒性脂質が、少なくとも1つのアニオン性の両親媒性脂質を含む、請求項2に記載の方法。
- 前記生物学的に活性な薬剤がIGF-Iである、請求項1または2に記載の方法。
- 前記第1の水系成分がさらにクエン酸を含み、該第1の水系成分の改変容量オスモル濃度が14.2mOsmから347mOsmの範囲にあり、かつIGF-Iの封入量が製剤の10.4mg/mLから175.7mg/mLの範囲である、請求項26に記載の方法。
- 前記第1の水系成分の容量オスモル濃度が、前記多胞状リポソームから生理学的に関連のある水系環境への前記生物学的に活性な薬剤の放出速度を調節するように選ばれる、請求項2に記載の方法。
- 前記中性脂質が、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリカプリン、トリリノレイン、トリロウリン(trilourin)、トリカプリリン、スクアレン、およびそれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項2に記載の方法。
- 前記有機溶剤が、エーテル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化エーテル、エステル、クロロホルム、およびそれらの組合せからなる群から選ばれる、2に記載の方法。
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