JP3674931B2 - 自動変速機用油圧制御装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動変速機の変速機構を油圧で変速制御する自動変速機用油圧制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両用等に多く利用されている自動変速機は、回転駆動力を負荷に応じスムーズに伝達するため、油圧弁により油圧を調節し摩擦係合装置を制御して変速制御を行っている。変速制御は、乗員によりある程度任意のギア位置を選択するセレクトレバーによる手動操作と、エンジンのスロットル開度や車速などからエンジン制御コンピュータにより適正なギア比になるように摩擦締結部を決定する自動制御とにより行われる。ここで、摩擦締結部とは、摩擦締結要素のことである。回動駆動力を負荷に応じスムーズに伝達するため、複数の油圧弁、アキュムレータ、電磁弁等を用いた油圧回路で自動変速機の個々の摩擦締結部の油圧を制御することにより変速制御を実現している。このような構成では、自動変速機内の摩擦締結部の数だけ油圧弁が必要になるため、装置が大型化して多くの部品を必要とするとともに、装置が複雑で製造コストが高いという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、複数の油圧弁を一箇所にまとめた集積弁により、装置の小型、軽量、簡素化を図ることが考えられる。このものでは、エンジン制御コンピュータのフェイルシステム等により、電子制御の自動制御機能が故障しても乗員がセレクトレバーを操作することによって、前進や後退の選択や、ある程度、前進時の変速段の選択を行えるようになっている。
【0004】
そして、この集積弁を構成する油圧弁にスプール弁を用いるものでは、各圧油が供給される複数の連通路のポート位置に合わせてスプール弁を移動させ、摩擦締結部に加えられる油圧を切換える構造になっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような構成を有する集積弁によると、油圧切換時、スプール弁の移動制御に高精度が要求される。したがって、この移動制御の精度が低い場合、目的の圧油が供給される連通路のポートとスプール弁との位置にずれが生じ、スプール弁を介して摩擦締結部に加えられる油圧が十分に得られないという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、油圧弁の移動制御に高精度を要求することなく、油圧弁の位置決め精度を向上させる自動変速機用油圧制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明による請求項1記載の自動変速機用油圧制御装置は、自動変速機に設けられる複数の摩擦締結要素に加わる油圧を切換え、前記複数の摩擦締結要素の係合または解除を行うことにより複数の変速段を切換え制御する自動変速機用油圧制御装置であって、
前記複数の摩擦締結要素の各摩擦締結要素に加わる油圧を切換える複数の油圧弁を有する集積弁と、
前記複数の油圧弁を直接的、かつ同時に切換え可能なカムと、
自動制御により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうちいずれか一方の方向に駆動制御する自動切換え手段と、
手動操作により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうち前記自動制御の駆動方向とは異なる方向に駆動制御する手動切換え手段とを備え、
前記カムに対して前記複数の油圧弁が前記カムの回転方向及び前記カムの軸方向のいずれの方向にも配列され、
自動制御または手動操作によって前記複数の油圧弁を選択的に切換えるためにカムがフルストロークする範囲において、前記カムに一個の油圧弁が接触可能なカム領域とこの油圧弁に隣接する油圧弁が接触可能なカム領域との間には、隣接する前記両方の油圧弁が接触しない領域を有することを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明による請求項2記載の自動変速機用油圧制御装置は、自動変速機に設けられる複数の摩擦締結要素に加わる油圧を切換え、前記複数の摩擦締結要素の係合または解除を行うことにより複数の変速段を切換え制御する自動変速機用油圧制御装置であって、
前記複数の摩擦締結要素の各摩擦締結要素に加わる油圧を切換える複数の油圧弁を有する集積弁と、
前記複数の油圧弁を直接的、かつ同時に切換え可能なカムと、
自動制御により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうちいずれか一方の方向に駆動制御する自動切換え手段と、
手動操作により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうち前記自動制御の駆動方向とは異なる方向に駆動制御する手動切換え手段とを備え、
前記カムに対して前記複数の油圧弁が前記カムの回転方向及び前記カムの軸方向のいずれの方向にも配列され、
自動制御または手動操作によって前記カムがストロークする範囲よりも大きいピッチで隣接する前記油圧弁を配置することを特徴とする。
【0011】
【作用および発明の効果】
本発明の請求項1記載の自動変速機用油圧制御装置によると、カムがフルストロークする範囲において、カムに一個の油圧弁が接触可能なカム領域とこの油圧弁に隣接する油圧弁が接触可能なカム領域との間には、隣接する前記両方の油圧弁が接触しない領域を有することから、自動切換え手段または手動切換え手段によりカムが駆動される場合、一個の油圧弁が接触可能なカム領域を超えたカム面にこの一個の油圧弁が接触しても、隣接する油圧弁が接触可能なカム領域によってこの一個の油圧弁に大きな力が加わることを防止している。これにより、自動切換え手段または手動切換え手段によって、カムの過剰な駆動による油圧弁の破損を防止する効果がある。
【0012】
本発明の請求項2記載の自動変速機用油圧制御装置によると、カムがストロークする範囲よりも大きいピッチで隣接する油圧弁を配置することから、自動切換え手段または手動切換え手段によりカムが駆動される場合、隣接する油圧弁同士は、互いに隣接する相手側の油圧弁が接触可能なカム領域に接触することがない。これにより、自動切換え手段または手動切換え手段によって、カムの過剰な駆動による油圧弁の破損を防止する効果がある。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の具体的な実施例を図面に基づいて説明する。
本発明の自動変速機用油圧制御装置を車両用の自動変速機(以下「AT」という)に適用したシステム構成を図3に示す。図3において、EVは電磁弁を表し、MVは集積弁を表す。
【0014】
車両用ATの動作は、周知のように自動または手動でトランスミッション300内のギヤ接続が切り換えられ、トルクコンバータ200に接続された図示しないエンジンからの回転力が車両の後輪または前輪に伝達される。集積弁60とその周辺装置全体は、トランスミッション300下部のAT内部の図示しないオイルパン内部にあり、オイルパン内部の油圧制御装置400の周囲は油圧回路のドレンになっている。
【0015】
トランスミッション300内には、エンジンの回転軸に直結して回転駆動される公知の油圧ポンプ56が設けられており、各油圧装置からオイルパン等に排出された駆動油を吸入ポート57より吸入し、ライン圧制御弁64を介し各装置へ圧油を供給している。この油圧ポンプ56からの圧油は、変動のある高ポンプ油圧であり、電磁制御式圧力制御弁であるライン圧制御弁64により一定の高圧なライン圧に制御し各油圧機器へ供給される。油圧制御装置400には2つの係合油圧制御弁61、62が設けられており、トランスミッション300内にある後述する各摩擦締結部の係合時に必要な所定の制御圧にライン圧制御弁64から供給される圧油のライン圧を任意に制御して集積弁60に圧油を供給している。
【0016】
集積弁60に供給されたライン圧または制御圧の圧油は、図1に示す各スプール弁2、3、4、5、6、7、8を介し、連通ポート39、40、41、42、43、44、45よりトランスミッション300内の摩擦締結部である多板クラッチ類C0、C1、C2や多板ブレーキ類B0、B1、B2、B3に供給されている。各摩擦締結部は、トランスミッション300内にある図示しないプラネタリギア等の各変速比を構成するギアに連結されており、これら摩擦締結部を係合または解除することにより、変速比を切り換えて車両の変速制御を行っている。
【0017】
連結部11は、操作者が手動で前進、後退、ニュートラル、パーキング等、車両の駆動状態を操作するセレクトレバー500と機械的に接続されている。ライン圧制御弁64から供給された圧油は、さらにトルクコンバータ200のロックアップ(L/U)スリップ制御を行うため、ロックアップ油圧制御弁65を介しトルクコンバータ200に供給される。
【0018】
次に集積弁60の構成について説明する。図1および図2に示すように、ハウジング28のほぼ中央に設けられた窪み58内に円柱状の例えばアルミニウムを材料とするカムシャフト1が設けられており、このカムシャフト1は軸受9、29に対し回転可能かつ軸方向に往復動可能に支持されている。軸受9、29は、例えば滑り軸受、玉軸受、コロ軸受や転がり軸受等を用いるのが良好である。軸受9はハウジング28の一端に圧入固定され、また軸受29はハウジング28の他端に取付けられたサイドハジング30に圧入固定されている。円柱状のカムシャフト1の主要部分の外周面には各スプール弁2、3、4、5、6、7、8を駆動するカムとして凹凸が形成されている。このカムシャフト1の凹凸は、後述するように、例えばスプール弁2とカムシャフト1との間に位置しスプール弁2を押上げるピン14がカムシャフト1の外周面と当接する位置において多少の位置ずれを許容する形状に形成されている。
【0019】
カムシャフト1の軸受9近傍の円周面にカム面の反対側のスプール弁6、7、8側に、所定の円弧幅で所定の軸方向長さのギア歯53が形成されている。ギア歯53に対抗する位置にカムシャフト1の軸方向と平行な回転軸を有するステップモータ12が固定されている。ステップモータ12のシャフトには図示しない渦巻き状のリターンスプリングの一端が固定され、他端はステップモータ12のハウジングに固定されている。このリターンスプリングは、ステップモータ12の駆動制御に異常が発生した場合、図3に示すAT用ECU70がステップモータ12をフリーの状態にするため、リターンスプリングの復元力によりカムシャフト1をフェイルセーフ位置、例えば4速モード位置にシフトする役割を果たしている。
【0020】
軸受9、29はカムシャフト1を回転自在かつ軸方向に平行移動自在に支持する。カムシャフト1の軸受9側の端部には、外部に設けられた図3に示すセレクトレバー500と図示しないリンクを介し機械的に連結されている連結部11が設けられており、操作者がセレクトレバー500を操作することにより、連結部11はセレクトレバー500に連動しカムシャフト1を軸方向に駆動する。
【0021】
カムシャフト1の円周面の一部には、モータのギア13中間のギア52を介してかみ合うギア53を有し、ステップモータ12の回転駆動により、カム1が回転する。この時にステップモータ12の回転を減速するようなギア比で設定し、トルク増幅する減速機構を設けることで、ステップモータ12の負荷を軽減し、ステップモータ12を小型化することが可能である。
【0022】
図1および図2に示すように、油路を切り換えるスプール弁2、3、4、5、6、7、8(以下「スプール弁SP」と総称する)は、カムシャフト1の軸に垂直な方向でカムシャフト1の両側に並んで配置されている。スプール弁SPは、それぞれハウジング28に設けられた円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gを軸方向に摺動可能に挿入されている。
【0023】
図4および図5に示すように、円柱状のカムシャフト1の外周面には、カムシャフト1を挟んで対向する2つのスプール弁に対応可能なカム凹凸がカムシャフト1の円周を2分割するように形成されている。例えばカムシャフト1を挟んで対向するスプール弁5、8の場合、図5に示す範囲Dのカム凹凸がスプール弁5に対応し、範囲Eのカム凹凸がスプール弁8に対応している。
【0024】
カムシャフト1の外周面に形成されるカム凹凸には、各作動モードにおいてピン14、15、16、17、18、19、20が当接する部分にフラット部1a、bが設けられている。ここで、フラット部とは、カムシャフト1の径方向または軸方向において、カムシャフト1の同一の半径で形成される一部分をいう。図4に示すように、カムシャフト1のフラット部1aに対応する一部分は同一半径に形成され、カムシャフト1が軸方向に移動する場合、スライド位置の僅かなずれによって当接するピン14、15、16、17、18、19、20が上下移動することを防止している。
【0025】
図5に示すように、カムシャフト1のフラット部1bに対応する一部分は同一半径に形成され、カムシャフト1が回転方向に回転する場合、回転位置の僅かなずれによって当接するピン14、15、16、17、18、19、20が上下移動することを防止している。このフラット部1a、bがカムシャフト1に設けられていることにより、カムシャフト1が回転方向または軸方向に駆動され小さな範囲で移動しても、スプール弁SPの位置が変化せず、カムシャフト1の位置決めに若干のずれを許容している。したがって、カムシャフト1の回転方向または軸方向の駆動停止位置を高精度に制御する必要がない。
【0026】
また、図4および図5に示すように、隣接または対向するスプール弁のピンが当接する隣合うカム凹凸の境界部分にはマージン部1c、dが設けられている。図4に示すマージン部1cは、例えばスプール弁4のピン16が当接するカム凹凸範囲Aとスプール弁4の両側に位置するスプール弁3、5のそれぞれのピン15、17が当接するカム凹凸範囲B、Cとの境界部分に設けられている。このマージン部1cに対応するカムシャフト1の一部分は同一径に形成され、カムシャフト1が軸方向に全ストロークしカム凹凸範囲Aとカム凹凸範囲Bの境界部分、またはカム凹凸範囲Aとカム凹凸範囲Cの境界部分にピン16が位置する場合、カム凹凸範囲Bまたはカム凹凸範囲Cのカム凹凸によってピン14の先端部に大きな力が加わることを防止している。
【0027】
図5に示すマージン部1dは、例えばスプール弁5のピン17が当接するカム凹凸範囲Dとカムシャフト1を挟んでスプール弁5に対向するスプール弁8のピン18が当接するカム凹凸範囲Eとの境界部分に設けられている。マージン部1dに対応するカムシャフト1の一部分は同一半径に形成され、カムシャフト1が回転方向に全ストロークしカム凹凸範囲Dとカム凹凸範囲Eの境界部分にピン17が位置する場合、カム凹凸範囲Eのカム凹凸によってピン17の先端部に大きな力が加わることを防止している。
【0028】
さらに、カム凹凸の隅部は、ピン14、15、16、17、18、19、20の先端部の曲率半径より大きな曲率半径に加工が施されていることから、カム凹凸の隅部とピンの先端部とが1点で当接し、カム凹凸に対するピンの追従がスムーズに行えるように考慮してある。
図1に示すように、ハウジング28に設けられたライン圧ポート35、37には、それぞれライン圧連通路46、51が接続されることから、ライン圧制御弁64を介してライン圧ポート35、37に高圧油であるライン圧が供給される。ライン圧連通路46はスプール弁2、3、4、5が挿入されるハウジング28の円筒孔28d、28c、28b、28aにそれぞれライン圧を供給するように設けられており、ライン圧連通路51はスプール弁6、7、8が挿入されるハウジング28の円筒孔28g、28f、28eにそれぞれライン圧を供給するように設けられている。
【0029】
また、ハウジング28内には、圧力調整された係合油圧(または制御圧)が供給される圧力制御ポート36、38が設けられ、この圧力制御ポート36、38には、ライン圧連通路46、51と平行に設けられた制御圧連通路47、50が接続されている。制御圧連通路47、50は、ライン圧連通路46、51と同様、各スプール弁SPに連通可能である。圧力制御ポート36、38はサイドハウジング30内で互いに連通していないため、係合油圧制御弁61を介して圧力制御ポート36に供給される係合油圧は、制御圧連通路47に連通可能なスプール弁2、3、4、5に供給され、係合油圧制御弁62を介して圧力制御ポート38に供給される係合油圧は、制御圧連通路50に連通可能なスプール弁6、7、8に供給される。
【0030】
さらに、ハウジング28内には、ハウジング28の外部に設けられた図示しないドレンに連通するドレンポート54、55と接続されたドレン圧連通路48、49が制御圧連通路47、50と平行に設けられている。
次に、スプール弁5を例にしスプール弁SPの構造を説明する。他のスプール弁はスプール弁5と同一の構成である。
【0031】
図6に示すように、スプール弁5は有底の円筒形からなり、スプール弁5の外側面の周囲中央部付近に形成される環状の溝5aと、スプール弁5の内部に形成される円柱形状の内円筒部5cと、この内円筒部5cと溝5aとを連通するように形成される穴部5bとを有している。そして、スプール弁5が円筒孔28a内をスライドしたとき、スライド位置によってこの穴部5bが円筒孔28aに連通するそれぞれのライン圧連通路46、制御圧連通路47、ドレン圧連通路48と連通するようなっている。同様に、他のスプール弁2、3、4、6、7、8に形成される図示しない穴部は各円筒孔28b、28c、28d、28e、28f、28gに連通するライン圧連通路46および51、制御圧連通路47および50、ドレン圧連通路48および49と連通している。スプール弁5内に形成された内円筒部5cはその一端が開口しており、ポートケース32に設けられた連通ポート42に連通している。同様に、他のスプール弁2、3、4、6、7、8内に形成された内円筒部2c、3c、4c、6c、7c、8cはポートケース31、32に設けられた連通ポート39、40、41、43、44、45にそれぞれ連通している。
【0032】
そしてカムシャフト1と各スプール弁SPの未開口側底部の端面(図6に示すスプール弁5では5dで表されている)との間に、カムシャフト1の軸の垂直方向に摺動可能にピン14、15、16、17、18、19、20がハウジング28に嵌挿され、カムシャフト1のカムの動きを各スプール弁SPに伝えている。カムシャフト1の動きに従って、スプール弁SPが各円筒孔28a、28b、28c、28d、29e、28f、28g内をスムーズにスライドするように、ピン14、15、16、17、18、19、20が当たるスプール弁SPの各未開口側に圧力抜きの小穴2e、3e、4e、5e、6e、7e、8eが設けられている。これはスプール弁SPの内部の油をスプール弁未開口側底部の下方に逃がすことにより、スプール弁SPの内部の油圧による圧力と、スプール弁未開口側底部の面に働く油圧をバランスさせ、スプール弁SPを駆動するための力が低減されるように作用させるためのものである。
【0033】
スプール弁SPは全て、スプリング21、22、23、24、25、26、27によってピン14、15、16、17、18、19、20とともにカムシャフト1側に押付けられ、ポートケース31、32によって外部に飛出さないように円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gに封止されている。
【0034】
次に各スプール弁SPの移動位置に対する各圧油の流れについて説明する。各スプール弁SPがカムシャフト1の駆動により円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gを移動する際、各円筒孔28a、28b、28c、28d、29e、28f、28gに開口するライン圧連通路46またはライン圧連通路51の位置と対向する位置に各スプール弁SPの溝および穴が位置決めされると、ライン圧連通路46またはライン圧連通路51に供給されるライン圧の圧油が各スプール弁SPの溝および穴を経由してスプール弁SPの内円筒部に供給され、さらに連通ポート39、40、41、42、43、44、45を経由して各摩擦締結部にライン圧の圧油が供給される。
【0035】
また、ライン圧の圧油と同様に、圧力制御ポート36、38から圧力調整された係合油圧(または制御圧)の圧油が各スプール弁SPに供給され、さらにスプール弁SPを介し各摩擦締結部へこの圧油が供給される構成になっている。係合油圧制御弁61から圧力制御ポート36に供給された係合油圧は、前述のようにスプール弁2、3、4、5に供給される。同様に、係合油圧制御弁62から圧力制御ポート38に供給された係合油圧は、スプール弁6、7、8に供給される。その結果、係合油圧制御弁62から供給された係合油圧は多板ブレーキB1、B0、B2に供給され、係合油圧制御弁61から供給された係合油圧は多板ブレーキB3および多板クラッチC0、C2、C1に供給されることになる。
【0036】
スプール弁SPの溝がドレン圧連通路48、49と連通する位置に位置決めされると、このスプール弁SPに連通する摩擦締結部内の圧油がドレンポート54、55よりハウジング28の外部に排出される。
図3に示すように、トランスミッション300に連結している連通ポート39、40、41、42、43、44、45の内、トランスミッション300に設置されている多板クラッチC0、多板ブレーキB0にそれぞれ連通するポート40、44は、これらポートが同時に作動操作されると内部的な構造からトランスミッション300が駆動不能となり、損傷を与えてしまう恐れがあるので、同時に結合されるのを防ぐため二重結合防止弁63が介在している。その他の連通ポートは周知のトランスミッションに見られるような、他の多板クラッチ、ブレーキ類は連通ポートからの油圧で係合または解除されトランスミッション300内の変速のために複数のギアの連結状態を切り換え、ATとしての変速制御がなされる。なおブレーキ類は実質的にクラッチと同類の摩擦要素であり、クラッチの片側をトランスミッションのボディに固定した構造となっているものがブレーキである。
【0037】
図1に示すカムシャフト1の周方向の位置は、図7に示すAT用ECU70からの指示によって制御され、ステップモータ12がカムシャフト1を回転させて、カムシャフト1の円周面に設けられたカムによりピン14、15、16、17、18、19、20を介してスプール弁SPの位置を制御し、それによりスプール弁SPに設けられた溝がライン圧連通路46、51、制御圧連通路47、50、ドレン圧連通路48、49と通じ所定の油圧が各連通ポート39、40、41、42、43、44、45に伝えられる。
【0038】
図7に示すように、AT用ECU70は、加速に際し変速段を下段にシフトするためのキックダウン信号やセレクトレバー500がどのポジションにあるのかを示すセレクトレバー信号等と、エンジンの駆動を制御するエンジン(E/G)用ECU72からの信号によって、E/G用ECU72とデータを交換しながらステップモータ12を駆動するモータ位置信号を出力し、同時に各油圧制御信号を前述の係合油圧制御弁61、62、ライン圧制御弁64、ロックアップ油圧制御弁65に出力する。この時E/G用ECU72とAT用ECU70とが交換するデータは、ラジエータの水温、スロットル開度、クランクシャフトのクランク角、車速、タービン回転数等である。この他、カムシャフト1が連結部11を介しセレクトトレバー500に連結しているので、セレクトレバー信号もAT用ECU70に入力されている。
【0039】
図8は、セレクトレバー500の各レンジおよび各変速レンジにおいて各スプール弁SPが、ライン圧制御弁に連通するライン圧ポートPS 、ドレンポートDr 、係合油圧制御弁61に連通する制御圧ポートPC1、係合油圧制御弁62に連通する制御圧ポートPC2のいずれのポートに接続されるかを示した図である。
カムシャフト1は連結部11によってセレクトレバー500と連結しているので、運転者による手動操作でセレクトレバー500の位置選択が行われると、カムシャフト1はシャフト軸方向に移動し、カムシャフト1の軸方向の凹凸でカムシャフト1に接するピン14、15、16、17、18、19、20を動かし各スプール弁SPを制御する。また、AT用ECU70の指令によりステップモータ12を回転させ、カムシャフト1の円周方向のカム凹凸で各スプール弁SPの周方向位置を制御する。
【0040】
図10はスプール弁5および8についてDレンジ位置にあるカムシャフト1の軸方向断面図を示しており、変速段が第4速の位置にある状態である。スプール弁5および8にそれぞれ接しているピン17および18は、他端がいずれもカムシャフト1の最大径の位置に接しているのでスプール弁5および8を最大に押し上げている。従って、スプール弁5および8はライン圧ポート35、37(PS )と連通する位置に位置決めされ、スプール弁5および8に連通する多板クラッチC1および多板ブレーキB2にライン圧の圧油が供給される。
【0041】
この状態から、AT用ECU70の指令によるステップモータ12の回転に応じ、3速(3rd)、2速(2nd)、1速(1st)と、カムシャフト1は45°間隔で回転し、その回転に応じピン17および18はカムシャフト1の外周面に沿って移動する。図10に示した図の場合には、スプール弁5および8は3rdと4thにおいて同一の位置であるが、2ndの変速段ではピン18がカムシャフト1の中間径位置に移動し、スプール弁8は制御圧ポート38fに連通する位置に移動され、連通ポート44を介し多板ブレーキB2へ制御圧の圧油が供給される。1stの変速段においても同様に、図9に示すポート状態になる。
【0042】
カムシャフト1は、連結部11を通じてセレクトレバー500と連結しているので、運転者による手動操作でセレクトレバー500の位置選択が行われると、カムシャフト1はシャフト軸方向に移動し、カムシャフト1の軸方向のカム凹凸でカムシャフト1に接するピン14、15、16、17、18、19、20を動かし各スプール弁を制御する。またセレクトレバー500の選択位置に応じたセレクトレバー信号がAT用ECU70に入力される。したがって、カムシャフト1のカム面には、軸方向と円周方向の両方向にカム凹凸が形成され、このカム凹凸の形状は図8に示される油圧連通モードで決まるスプール弁位置となるよう設計されている。なおこのようにして制御されるATの各クラッチ類、ブレーキ類の動作状態は図9に示すような構成となる。
【0043】
セレクトレバー500を順に、2(前進第2速)、D(前進自動変速段)、N(ニュートラル)、R(バック)、P(パーキング)にシフトした場合、カムシャフト1は予め定められた距離だけ軸方向に移動する。すると、回転移動の場合と同様にしてスプール弁5および8は、図8に示す圧力分配が行われる。他の変速段および他のレンジおよび他のスプール弁においても同様の作動を示す。
【0044】
次にDレンジ位置における変速動作について説明する。他のレンジにおいても基本的な作動は同様である。
カムシャフト1は手動のDレンジの位置において、カム面のカム凹凸によりピンを介しスプール弁SPを図8のDレンジの欄で示す連通ポートで決まる連通モードにする。そしてカムシャフト1に対するAT用ECU70の指示が、車速の4段階の内の1速モード(図8の1st)であると、図8、図9に示すように、多板クラッチC0は、図1のライン圧ポート(図8のPS )35からライン圧連通路46、スプール弁3の溝、連通ポート40を介してライン圧を受けて作動状態となる。多板クラッチC1は同様に、圧力制御ポート(図8のPC1)36から制御圧連通路47、スプール弁5の溝、連通ポート42を介し制御圧を受け、車速等の状態によって制御圧が係合油圧制御弁61、62で調節され係合状態が制御される。また、多板クラッチC2および多板ブレーキB0はドレンポート54、55を通じてドレンポート48(図8のDr )に接続され、多板ブレーキB1、B2、B3もすべてドレンポート48に接続される。
【0045】
そして1速モード状態からAT用ECU70が2速モード(図8の2nd)の指示状態になったとすると、AT用ECU70からの指示によってステップモータ12がカムシャフト1を2速モード位置に回転させ、各スプール弁SPの位置を変化させる。その結果、図8のDレンジの2ndの欄に示すように、多板クラッチC1はライン圧ポート35(図8のPS )に接続され、多板ブレーキB2は制御圧ポート38(図8のPc2)に接続され、他のクラッチ、ブレーキは1速モードと同じ状態が保持される。これらのモードによって決まる油圧でトランスミッション300内のクラッチ類、ブレーキ類が作動し1速モードと異なる変速比である2速モードのトルク状態となる。このように制御状態が決められてATとしての機能を果たす。他のレンジ位置でも、またシフトダウン操作でも同様な動作で制御される。
【0046】
手動でセレクトレバー500を切り換えると、セレクトレバー500に連動した連結部11によってカムシャフト1がスライドさせられて各スプール弁SPの位置を切り換え、図8の各レンジで指定するような油圧連通モードにする。その状態で同時にAT用ECU70による制御でステップモータ12によりカムシャフト1が回転駆動されて車速に対応した油圧連通モードになり、自動制御が続行される。
【0047】
本実施例によると、各作動モードにおいてピン14、15、16、17、18、19、20が当接するカムシャフト1のカム面にフラット部1a、bが設けられていることから、カムシャフト1が軸方向または回転方向に移動する場合、移動位置の僅かなずれによって当接するピン14、15、16、17、18、19、20が上下移動することを防止している。これにより、カムシャフト1の軸方向および回転方向の駆動制御において、駆動停止位置の精度を低くできる効果があり、カムシャフト1の組付位置調整等の組立て工数を削減する効果がある。
【0048】
また、本実施例によると、隣接または対向するスプール弁のピンが当接するカムシャフト1の隣合うそれぞれのカム凹凸範囲の境界部分にはマージン部1c、dが設けられていることから、カムシャフト1が軸方向または回転方向に全ストロークしカム凹凸範囲を超えたカム面にピンが位置しても隣接するスプール弁に対応するカム凹凸によってピンの先端部に大きな力が加わることを防止している。これにより、カムシャフト1の軸方向および回転方向の駆動制御において、カムシャフト1の過剰な移動によるピンの破損を防止する効果がある。
【0049】
以上説明した本発明の実施例では、図1に示すように、カムシャフト1の両側にスプール弁SPを配置したので、集積弁60はコンパクトな略平板状に構成されている。配置に上下の制約はないのでオイルパン内での配置も容易となる。本発明では、平板状に限らず、例えば、カムシャフト軸を中心として屈曲させるようにしてもよい。また本発明では、スプール弁列をカムシャフトの片側に一列に配置させ細長くした棒形状でももちろん構わない。これらの場合では、他の装置、特にAT本体のトランスミッションの形状に合わせて設置余裕の少ないオイルパン内部などの周辺にコンパクトに搭載することができる。
【0050】
また本発明の実施例では、カムシャフト1に対するECU変速とマニュアル変速の割当は回転方向にECU変速、軸方向にマニュアル変速を割り当てている。これは、回転方向にカム面のカム凹凸変化の頻度が少なくなるためカムシャフト1を鋳造、成形等の加工が容易になり製作上極めて有利になるからである。本発明では、被駆動体であるカムシャフトの軸方向の直線運動によって自動制御を行い、回転運動によって手動制御を行なうことは可能である。この場合、駆動手段であるステップモータはカムシャフトに連動する配置となり、ステップモータの位置には歯車でセレクトレバーに機械的に接続されることになる。また本発明では、カムシャフトは図示した寸法に限らず、径を大きくして略円筒ドラムカムシャフトとしても構わない。またスプール弁の形状も、上述の機能を持つ油圧弁であれば円柱に限らず、どのような形状の弁であってもよい。なお一般的にスプール弁の個数や油圧連通モードは、トランスミッションの構造に依存して変わり、また多板ブレーキや多板クラッチの数や質によって設定条件も変化する。
【0051】
また本発明の実施例では、カムシャフト1により各スプール弁SPを駆動したが、本発明では、自動、手動の機構を備えた油圧制御方式ならばどのように制御弁であるスプール弁を駆動してもよく、同様な効果を得ることができる。
また本発明の実施例では軸方向の駆動はセレクトレバー500による手動操作によってなされているが、もちろん自動側即ちステップモータ12によって駆動される回転方向への駆動に適用する構成でも効果が同じである。
【0052】
また本発明の実施例では、カムとカムシャフト1とを一体に形成したが、本発明では、外周面をカム形状としたカムリングをシャフトに嵌め込んで図1に示すカムシャフト構造としてもよく、その場合、ポート数変更やポート組み合わせ変更などに対応しやすくなる。例えば図示はしないが、各スプール弁のあるハウジングの円筒孔の周囲を1ブロックとして、カムシャフト軸方向に積み重ねるような構成にすることで変更は容易となる。従って、そのような構成は、集積弁が、油圧弁とそのハウジングを1ブロック単位として、該1ブロック単位を必要ポート数だけ積層したことを特徴とすることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例による自動変速機用油圧制御装置の集積弁を示す断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】自動変速機装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】カムシャフトの一部分を示す平面図である。
【図5】図10の断面位置におけるカムシャフトの断面形状を示す断面図である。
【図6】スプール弁とその周囲の構成を示す断面図である。
【図7】信号線の入出力状態を示すブロック図である。
【図8】集積弁の油圧連通モードを示す説明図である。
【図9】トランスミッションの多板クラッチ、多板ブレーキの動作状態図である。
【図10】図1のX−X線断面図である。
【符号の説明】
1 カムシャフト(カム)
1a、b フラット部(油圧弁の切換えが変化しないカム面)
1c、d マージン部(油圧弁が接触しない領域)
2、3、4、5、6、7、8
スプール弁(油圧弁)
12 ステップモ−タ(自動切換え手段)
14、15、16、17、18、19、20
ピン
28 ハウジング
39、40、41、42、43、44、45
連通ポート
46、51 ライン圧連通路
47、50 制御圧連通路
48、49 ドレン圧連通路
61、62 係合油圧制御弁
64 ライン圧制御弁
500 セレクトレバー(手動切換え手段)
Claims (2)
- 自動変速機に設けられる複数の摩擦締結要素に加わる油圧を切換え、前記複数の摩擦締結要素の係合または解除を行うことにより複数の変速段を切換え制御する自動変速機用油圧制御装置であって、
前記複数の摩擦締結要素の各摩擦締結要素に加わる油圧を切換える複数の油圧弁を有する集積弁と、
前記複数の油圧弁を直接的、かつ同時に切換え可能なカムと、
自動制御により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうちいずれか一方の方向に駆動制御する自動切換え手段と、
手動操作により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうち前記自動制御の駆動方向とは異なる方向に駆動制御する手動切換え手段とを備え、
前記カムに対して前記複数の油圧弁が前記カムの回転方向及び前記カムの軸方向のいずれの方向にも配列され、
自動制御または手動操作によって前記複数の油圧弁を選択的に切換えるためにカムがフルストロークする範囲において、前記カムに一個の油圧弁が接触可能なカム領域とこの油圧弁に隣接する油圧弁が接触可能なカム領域との間には、隣接する前記両方の油圧弁が接触しない領域を有することを特徴とする自動変速機用油圧制御装置。 - 自動変速機に設けられる複数の摩擦締結要素に加わる油圧を切換え、前記複数の摩擦締結要素の係合または解除を行うことにより複数の変速段を切換え制御する自動変速機用油圧制御装置であって、
前記複数の摩擦締結要素の各摩擦締結要素に加わる油圧を切換える複数の油圧弁を有する集積弁と、
前記複数の油圧弁を直接的、かつ同時に切換え可能なカムと、
自動制御により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうちいずれか一方の方向に駆動制御する自動切換え手段と、
手動操作により前記カムを前記カムの回転方向または軸方向のうち前記自動制御の駆動方向とは異なる方向に駆動制御する手動切換え手段とを備え、
前記カムに対して前記複数の油圧弁が前記カムの回転方向及び前記カムの軸方向のいずれの方向にも配列され、
自動制御または手動操作によって前記カムがストロークする範囲よりも大きいピッチで隣接する前記油圧弁を配置することを特徴とする自動変速機用油圧制御装置。
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