JP3637605B2 - 自動変速機用油圧制御装置 - Google Patents

自動変速機用油圧制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、自動変速機の変速機構を油圧で変速制御する自動変速機用油圧制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両用等に多く利用されている自動変速機は、回転駆動力を負荷に応じスムーズに伝達するため、油圧弁により油圧を調節し各摩擦係合装置を制御して変速制御を行っている。変速制御は、乗員によりある程度任意のギア位置を選択するセレクトレバーによる手動操作と、エンジンのスロットル開度や車速などからエンジン制御コンピュータにより適正なギア比になるように摩擦係合装置を決定する自動制御とにより行われる。回動駆動力を負荷に応じスムーズに伝達するため、複数の油圧弁、アキュムレータ、電磁弁等を用いた油圧回路で自動変速機の個々の摩擦係合装置の油圧を制御することにより変速制御を実現している。このような構成では、自動変速機内の摩擦係合装置の数だけ油圧弁が必要になるため、装置が大型化して多くの部品を必要とするとともに、装置が複雑で製造コストが高いという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、複数の油圧弁を一箇所にまとめた集積弁により、装置の小型、軽量、簡素化を図ることが考えられる。このものでは、エンジン制御コンピュータのフェイルシステム等により、電子制御の自動制御機能が故障しても乗員がセレクトレバーを操作することにより、前進や後退の選択や、前進時の変速段の選択をある程度行えるようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の集積弁により自動変速を制御する油圧制御装置として油圧弁にスプール弁を用いるものでは、油圧ポートから供給される油圧がスプール弁の一端側に加わる構造のものがある。このものでは、油圧を切換える場合、スプール弁の一端に加わる油圧に抗してスプール弁を駆動する必要があるため、大きな駆動力を要するという問題がある。小さな駆動力でスプール弁の切換えを行うためには、スプール弁の受圧面積を小さくすることが考えられるが、受圧部の強度が不足するという問題がある。また、スプール弁の両端に設けられる圧力室の圧力を保持するため、シール部材等の部品点数が多くなるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、スプール弁の駆動力を減少し、部品点数の少ない小型化可能な自動変速機用油圧制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための本発明の請求項1記載の自動変速機用油圧制御装置は、
自動変速機に設けられる複数の摩擦締結要素に加わる油圧を切換え、前記複数の摩擦締結要素の係合または解除を行うことにより複数の変速段を切換え制御する自動変速機用油圧制御装置であって、
複数の摩擦締結要素の各摩擦締結要素に加わる油圧を切換える複数のスプール弁を有する集積弁と、
前記複数のスプール弁に油圧を切換える駆動力を伝達する動力伝達手段と、
自動制御により前記動力伝達手段を駆動制御する自動切換え手段と、
手動操作により前記動力伝達手段を駆動制御する手動切換え手段とを備え、
前記複数のスプール弁の両端に形成される圧力室の圧力は、ドレン圧であることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2記載の自動変速機用油圧制御装置は、前記複数のスプール弁の両端に形成される前記圧力室のいずれか一方の圧力室を前記複数の摩擦締結要素のいずれかの摩擦締結要素と接続してドレン圧を加えることにより、前記圧力室が接続された前記摩擦締結要素を解除することを特徴とする。
本発明の自動変速機用油圧制御装置の前記摩擦締結要素に加わる油圧は、請求項3に記載したように、前記スプール弁の往復動により、ライン圧、ライン圧とドレン圧との中間圧である制御圧、ドレン圧の順番か、またはドレン圧、ライン圧とドレン圧との中間圧である制御圧、ライン圧の順番に切換え可能であることが望ましい。
【0008】
本発明の請求項4記載の自動変速機用油圧制御装置は、前記自動切換え手段は前記動力伝達手段を回転方向に駆動し、前記手動切換え手段は前記動力伝達手段を軸方向に駆動することが望ましい。
【0009】
【作用および発明の効果】
本発明の請求項1または2記載の自動変速機用油圧制御装置によると、スプール弁の両端にそれぞれ形成される圧力室の圧力がドレン圧であり互いに等しいため、軸方向にスプール弁を駆動する駆動力を小さくできる。このため、油圧制御装置を小型化できる。
【0010】
また本発明の請求項3記載の自動変速機用油圧制御装置によると、摩擦締結要素に加わる油圧がライン圧、ライン圧とドレン圧との中間圧である制御圧、ドレン圧の順番か、またはドレン圧、ライン圧とドレン圧との中間圧である制御圧、ライン圧の順番に切換え可能であるため、摩擦締結要素に加わる油圧の急激な変化を低減できるので油圧切換えによる衝撃を緩和できる。
【0011】
さらに本発明の請求項4記載の自動変速機用油圧制御装置によると、手動切換え手段に比べ一般に制御モードの少ない自動切換え手段により動力伝達手段を回転方向に駆動しスプール弁を往復動させるため、動力伝達手段の周方向の形状が簡単になるので、動力伝達手段の径方向の体格を小さくできるとともにスプール弁の駆動が容易になる。
【0012】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
本発明の自動変速機用油圧制御装置を車両用の自動変速機(以下、「自動変速機」をATという)に適用したシステム構成を図2に示す。図2において、EVは電磁弁を表し、MVは集積弁を表す。
【0013】
車両用ATの動作は、周知のように自動または手動でトランスミッション300内のギヤ接続が切換えられ、トルクコンバータ200に接続された図示しないエンジンからの回転力が車両の後輪または前輪に伝達される。集積弁60とその周辺装置全体は、トランスミッション300下部のAT内部の図示しないオイルパン内部にあり、オイルパン内部の油圧制御装置400の周囲は油圧回路のドレンになっている。
【0014】
トランスミッション300内には、エンジンの回転軸に直結して回転駆動される公知の油圧ポンプ56が設けられており、各油圧装置からオイルパン等に排出された駆動油を吸入ポート57より吸入し、ライン圧制御弁64を介し各装置へ圧油を供給している。この油圧ポンプ56からの圧油は、変動のある高ポンプ油圧であり、電磁制御式圧力制御弁であるライン圧制御弁64により一定の高圧なライン圧に制御し各油圧機器へ供給される。油圧制御装置400には2つの係合油圧制御弁61、62が設けられており、トランスミッション300内にある後述する各摩擦係合装置の係合時に必要な所定の制御圧にライン圧制御弁64から供給される圧油のライン圧を任意に制御して集積弁60に圧油を供給している。
【0015】
集積弁60に供給されたライン圧または制御圧の圧油は、図1に示す各スプール弁2、3、4、5、6、7、8(SPと総称する)を介し、図2に示す連通ポート39、40、41、42、43、44、45からトランスミッション300内の摩擦係合装置である多板クラッチ類C0、C1、C2や多板ブレーキ類B0、B1、B2、B3に供給されている。スプール弁2は連通ポート39を介してクラッチC0と接続し、スプール弁3は連通ポート40を介してブレーキB3と接続し、スプール弁4は連通ポート41を介してブレーキC1と接続し、スプール弁5は連通ポート42を介してブレーキC2と接続し、スプール弁6は連通ポート43を介してブレーキB0と接続し、スプール弁7は連通ポート44を介してブレーキB2と接続し、スプール弁8は連通ポート45を介してブレーキB1と接続している。各摩擦係合装置は、トランスミッション300内にある図示しないプラネタリギア等の各変速比を構成するギアに連結されており、これら摩擦係合装置を係合または解除することにより、変速比を切換えて車両の変速制御を行っている。
【0016】
トランスミッション300に連結している連通ポート39、40、41、42、43、44、45の内、トランスミッション300に設置されている多板クラッチC0、多板ブレーキB0に連通するポート39、43は、これらポートが同時に作動操作されると内部的な構造からトランスミッション300が駆動不能となり損傷を与えてしまう恐れがあるので、同時に結合されるのを防ぐため二重結合防止弁63が介在している。その他の連通ポートは周知のトランスミッションに見られるように、他の多板クラッチ、ブレーキ類は連通ポートからの油圧で係合または解除されトランスミッション300内の変速のために複数のギアの連結状態を切換え、ATとしての変速制御がなされる。なおブレーキ類は実質的にクラッチと同類の摩擦要素であり、クラッチの片側をトランスミッションのボディに固定した構造となっているものがブレーキである。
【0017】
連結部11は、操作者が手動で前進、後退、ニュートラル、パーキング等、車両の駆動状態を操作するセレクトレバー500と機械的に接続されている。ライン圧制御弁64から供給された圧油は、さらにトルクコンバータ200のロックアップ(L/U)スリップ制御を行うため、ロックアップ油圧制御弁65を介しトルクコンバータ200に供給される。
【0018】
集積弁60は、複数ある油路を同時に切換え制御できる集積型の弁である。図1に示すように、油路を切換えるスプール弁SPは、カムシャフト1の軸に垂直な方向にカムシャフト1の両側に並んで配置され、それぞれ集積弁60のハウジング28に設けられた円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gに軸方向に摺動可能に挿入されている。
【0019】
次に、スプール弁5を例にしスプール弁SPの構造を説明する。他のスプール弁はスプール弁5と実質的に同一の構成である。
図4(A)に示すように、スプール弁5は円筒状に形成され、外側面中央部周囲に環状の油路溝5aが設けられている。スプール弁5のカムシャフト1側の端面はピン17と接する平面であり、カムシャフト1と反対側の端部内部には円柱状の穴5bが形成されている。この穴5bにスプリング24の一部が収容されており、スプリング24は、カムシャフト1側にスプール弁5を付勢することでカムシャフト1のカム凹凸に追従してスプール弁5およびピン17を移動させる。穴5bを含みスプール弁5とハウジング28とで形成されるドレン圧ポート48c側の空間部5cは、常にドレン圧ポート48cと連通しているので、空間部5c内の圧力は低圧のドレン圧となっている。
【0020】
ピン17はピンガイド104に挿入され、カムシャフト1の外周壁に形成されたカム凹凸に従い軸方向にのみ移動できる。ピンガイド104は円筒状に形成され、円筒孔28dを形成するハウジング28の内壁に固定されている。ピンガイド104の外壁には、軸方向全長に渡り圧力抜き溝104aが形成されている。スプール弁5とピンガイド104間に形成される空間部5dは、圧力抜き溝104aを介してカムシャフト1の挿入される窪み58と連通し常に低圧のドレン圧となっている。このため、ピン17とピンガイド104との摺動部は密閉の必要がないので、ピン17およびピンガイド104の加工はそれほど高い精度を要求されない。
【0021】
スプール弁5の両端に設けられる圧力室である空間部5cおよび空間部5dの圧力は常にドレン圧に等しいため、スプール弁5は軸方向に力を受けないのでカムシャフト1側にスプール弁5を付勢するスプリング24の付勢力は小さくてよい。スプリング24の付勢力に抗してピン17がスプール弁5を押し上げる力も小さくなるので、軸方向にカムシャフト1を駆動するセレクトレバー500の操作力を小さくできる。また、回転方向にカムシャフト1を駆動する後述するステップモータ12の駆動力は小さくてよいので、小型のステップモータ12を使用できる。また、スプール弁5の両端に設けられた空間部5cおよび空間部5dとスプール弁5の油路溝5aとの圧力差により、スプール弁5の外周面と円筒孔28dの内壁面の間隙に油路溝5aからスプール弁5の両端に向かって油が僅かに流れだす。この隙間に流れ出した油は、円筒孔28dの軸芯に向かってスプール弁5を向心させる作用をなす。従ってスプール弁5と円筒孔28dを形成する内壁面との固着現象は起こらず、スプール弁5を移動させる力がさらに減少するのでカムシャフト1の駆動力を小さくできる。また、一般に圧力バランスの平衡のためにスプール弁外壁の周方向に設けるラビリンス溝が不要となる。
【0022】
図1に示すように、各スプール弁SPの油路溝は各円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gに連通するライン圧ポート35a、35b、35c、35d、35e、35f、35g(PS と総称する)、制御圧ポート36a、36b、36c、36d(PC1と総称する)、38e、38f、38g(PC2と総称する)、連通ポート39H、40H、41H、42H、43H、44H、45Hと連通するよう構成されている。連通ポート39L、40L、41L、42L、43L、44L、45Lは、連通ポート39H、40H、41H、42H、43H、44H、45Hに対しカムシャフト1と反対側に設けられ、スプール弁SPがカムシャフト1側に近付いたときに円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gと連通する。連通ポート39Hおよび39L、40Hおよび40L、41Hおよび41L、42Hおよび42L、43Hおよび43L、44Hおよび44L、45Hおよび45Lはそれぞれスプール弁SPの側部近傍のハウジング28内で連通して連通ポート39、40、41、42、43、44、45となり、対応する各摩擦係合装置に接続している。
【0023】
スプリングストッパ108、109は、ボルト47によりハウジング28に固定されている。スプリングストッパ108、109のハウジング28に対向する面にはカムシャフト1の軸方向に長板状の溝が形成され、この溝がドレン圧ポート48a、48b、48c、48d、48e、48f(Dr と総称する)を形成している。ドレン圧ポートDr 内の圧力は低圧であるため、スプリングストッパ108、109とハウジング28との間を特にシールする必要はない。ドレン圧ポートDr は図3に示すように、カムシャフト1の軸方向に沿った一方の側がスプリングストッパ108、109から開口している。ドレン圧ポート48aは円筒孔28aと、ドレン圧ポート48bは円筒孔28bおよび円筒孔28cと、ドレン圧ポート48cは円筒孔28dと、ドレン圧ポート48dは円筒孔28eと、ドレン圧ポート48eは円筒孔28fと、ドレン圧ポート48fは円筒孔28gとそれぞれ常に連通している。集積弁60は、図示しないA/Tミッションのオイルパン内に設けられ、ハウジング28の周囲はドレン部として利用されるため、各ドレン圧ポートDr からドレン圧ポート48を介してハウジング28外のドレン部に圧油が排出される。
【0024】
スプール弁2、3、4、5の制御圧ポートPC1は制御圧ポート36を介して係合油圧制御弁61に接続され、スプール弁6、7、8の制御圧ポートPC2は制御圧ポート38を介して係合油圧制御弁62に接続されている。さらにライン圧ポートPS はライン圧ポート35を介し、集積弁60にライン圧の圧油が直接供給されるようにライン圧制御弁64に接続されている。
【0025】
油圧ポートPS 、PC1、PC2、連通ポート39H、40H、41H、42H、43H、44H、45H、39L、40L、41L、42L、43L、44L、45Lは、それぞれ円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gを形成するハウジング28の内壁に環状に形成され、図3に示すように、ライン圧ポートPS 、制御圧ポートPC1、PC2は、スプール弁SPを挟んで連通ポート39H、40H、41H、42H、43H、44H、45H、39L、40L、41L、42L、43L、44L、45Lと180°反対方向に向けてカムシャフト1の軸方向と垂直方向に延びている。ライン圧ポートPS は制御圧ポートPC1またはPC2よりもカムシャフト1から離れた位置に配置されている。連通ポート39H、40H、41H、42H、43H、44H、45Hは、それぞれ各ライン圧ポートPS と制御圧ポートPC1またはPC2との間に配置され、連通ポート39L、40L、41L、42L、43L、44L、45Lは、ライン圧ポートPS よりもドレン圧ポートDr 側に配置されている。また本実施例では、ライン圧ポートPS 、制御圧ポートPC1、PC2は、図示しないが、ハウジング28の側面で連通している。この様に構成すると、ハウジング28内において各油圧ポートPS 、PC1、PC2の間隔が十分にない場合でも、各ポート間の隔壁の強度が十分にとれるという効果がある。
【0026】
3種類の油圧ポートであるライン圧ポートPs 、制御圧ポートPC1、PC2、ドレン圧ポートDr は、スプール弁2、3、4、5、6、7、8の移動によりいずれか一つが摩擦係合装置に接続するポート39、40、41、42、43、44、45と連通する。
各スプール弁SPがカムシャフト1の駆動により円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gを移動する際、各円筒孔28a、28b、28c、28d、29e、28f、28gに開口するライン圧ポートPS の位置と対向する位置に各スプール弁SPの油路溝が位置決めされると、各ライン圧ポートPS に供給されるライン圧の圧油が各スプール弁SPの油路溝を経由して連通ポート39、40、41、42、43、44、45から各摩擦係合装置に供給される。
【0027】
また、ライン圧の圧油と同様に、制御圧ポートPC1、PC2から圧力調整された制御圧の圧油が各スプール弁SPに供給され、さらにスプール弁SPを介し各摩擦係合装置へ制御圧の圧油が供給される構成になっている。係合油圧制御弁61から制御圧ポート36に供給された制御圧の圧油は、制御圧ポートPC1に接続するスプール弁2、3、4、5にのみ供給される。同様に、係合油圧制御弁62から制御圧ポート38に供給された制御圧の圧油は、制御圧ポートPC2に接続するスプール弁6、7、8にのみ供給される。その結果、係合油圧制御弁62から供給された制御圧の圧油は多板ブレーキB1、B0、B2にのみ供給され、係合油圧制御弁61から供給された制御圧の圧油は多板ブレーキB3および多板クラッチC0、C2、C1にのみ供給されることとなる。
【0028】
スプール弁SPがカムシャフト1側に近付いたとき、連通ポート39L、40L、41L、42L、43L、44L、45Lは円筒孔28a、28b、28c、28d、28e、28f、28gと連通し、ドレン圧ポートDr からドレン圧の圧油が連通ポート39、40、41、42、43、44、45を経由して各摩擦係合装置に供給される。
【0029】
次に、スプール弁SPの位置と油路の切換え作動とをスプール弁5を例にして説明する。他のスプール弁についても同様に油路が切換えられる。
図4(A)は、ピン17によりスプール弁5が一番押し上げられた状態を示し、図4(C)はスプール弁5がカムシャフト1に一番近付いた状態を示す。図4(B)では、スプール弁5は図4(A)と図4(C)のほぼ中間の位置にある。クラッチC2に接続する連通ポート42に切換え供給される圧油の油圧はそれぞれ図4(A)でライン圧、図4(B)で制御圧、図4(C)でドレン圧である。
【0030】
図4(A)において、油路溝5aはライン圧ポート35dおよび連通ポート42Hと連通し、図4(B)において、油路溝5aは制御圧ポート36dおよび連通ポート42Hと連通している。そして、油路溝5aは連通ポート42Hを介して連通ポート42と連通している。スプール弁5がカム凹凸に従い最もカムシャフト1側に近付くと、図4(C)に示すように、連通ポート42Hは油路溝5aとの連通を遮断される。一方連通ポート42Lは空間部5cと連通し、空間部5cを介してドレン圧ポート48cと連通ポート42とが連通する。このように、ライン圧ポート35dおよび連通ポート42Hまたは制御圧ポート36dおよび連通ポート42Hが油路溝5aを介して連通可能なように油路溝5aは軸方向に所定長さで形成されている。
【0031】
連通ポート42が制御圧ポート36dと連通して制御圧となるスプール弁5の位置は、スプール弁5の全行程であるライン圧からドレン圧となる位置の中間に配置されている。これにより、油圧切換え時、スプール弁5は制御圧位置を必ず通過し油路溝5aが制御圧ポート36dと連通状態になるため、制御圧の調圧により油圧差を減少することができるので油圧切換え時の油圧差による衝撃を低減できる。
【0032】
本発明では、例えばスプール弁の油路溝の軸方向長を長くすることにより、連通ポートが制御圧ポートと連通して制御圧となるスプール弁の位置に関係なく、油圧切換え行程中、油圧切換え前に連通ポートに連通していた油圧ポートと連通ポートとの連通が遮断する前に連通ポートが他の油圧ポートと連通することができる。つまり油圧切換え行程中、連通ポートはいずれかの油圧ポートと必ず少なくとも僅かに連通していることになる。これにより、油圧切換え行程中、連通ポート内の圧力は油圧切換え前の圧力から油圧切換え後の圧力に徐々に切換わるので、制御圧の調圧手段である係合油圧制御弁がフェイルしても、油圧切換え時の油圧差による衝撃を調圧によらず低減できる。また、連通ポートといずれかの油圧ポートとが常に連通しているので、スプール弁がロックした場合のフェイルセーフが実現できる。さらに本発明では、油路溝の軸方向長を長くすることに加え、前述した連通ポートが制御圧ポートと連通して制御圧となるスプール弁の位置をスプール弁の全行程であるライン圧からドレン圧となる位置の中間に配置することにより、スプール弁が油圧切換え行程中にロックしても連通ポートが制御圧ポートと連通している可能性が高くなる。このため、スプール弁のロック中であっても制御圧を調圧することによりライン圧またはドレン圧相当の圧油を連通ポートに供給可能となるので、さらに精度の高いフェイルセーフを実現できる。
【0033】
図1に示すように、ハウジング28のほぼ中央に設けられた窪み58内に円柱状のアルミ製のカムシャフト1が設けられている。カムシャフト1の材質をアルミにするのは、カムシャフト1を鉄で製造すると鍛造による製造となり製造コストが高くなるとともに重くなり過ぎるからである。カムシャフト1は、軸受9、29に対し回転可能かつ軸方向に往復動可能に支持されている。軸受9、29は、本発明では、滑り軸受、玉軸受、コロ軸受や転がり軸受等を用いてもよい。軸受9はハウジング28の一端に圧入固定され、カムシャフト1の一端の軸受部34を案内する。軸受29は、カムシャフト1の他端部を案内しており、サイドハウジング30に圧入固定されている。サイドハウジング30はボルト37によりハウジング28に固定されている。円柱状のカムシャフト1の主要部分の外周面には各スプール弁SPを駆動するカムとして凹凸が形成されている。カムシャフト1の軸受9近傍の円周面にカム面と反対側のスプール弁6、7、8側に、所定の円弧幅で所定の軸方向長さのギア歯53が形成されている。このため、カムシャフト1の回動駆動に用いるギアスペースを節約できカムシャフト1の全長を縮小できる。また、カムシャフト1の一端の軸受部34を他端部と異なる形状にするとともにカムシャフト1の最大外径とすることにより、短い軸長でカムシャフト1を支持可能であるためカムシャフト1の全長を縮小できる。またギア歯53は、カムシャフト1が軸方向に移動した場合においても、後述する中間ギア52との噛合が外れないよう軸方向にギア溝が延設されている。
【0034】
ギア歯53に対向する位置に、カムシャフト1の軸方向と平行な回転軸を有するステップモータ12が固定されている。ステップモータ12はハウジング12a内に駆動部を収容し固定子を形成している。図示しない電源から固定子である駆動部に駆動電流が供給され可動子である回転軸を回動させる。図3に示すように、ステップモータ12のハウジング12aには渦巻状のリターンスプリング54の一端が固定され、他端はステップモータ12の回転軸に固定されている。また、ステップモータ12のハウジングにはストッパピン55が設けられ、ステップモータ12の回転軸にはストッパレバー31が固定されている。ストッパピン55にストッパレバー31が当接することによりステップモータ12の回転角が制限されている。ステップモータ12の回転軸にギア13が同心円状に固定され、このギア13とギア歯53との間に、ギア歯53の形成されたカムシャフト1の外径よりも大きな外径の中間ギア52が固定部材32によりハウジング28に回転可能に取り付けられている。ギア歯53が形成されている位置におけるカムシャフト1の外径は、ギア13の外径よりも大きい。ステップモータ12の駆動力は、ギア13、中間ギア52からギア歯53に伝達し、カムシャフト1を回動駆動する。
【0035】
本実施例においては、ステップモータ12の回転軸をカムシャフト1と平行に設置することにより、ギア13とギア歯53との間に中間ギア52をただ一つ介在させるだけでステップモータ12の駆動力をカムシャフト1に伝達可能であるとともに、コンパクトな構成で大きな減速比が得られるので集積弁60を小型化できる。さらにステップモータ12から中間ギア52に伝達するトルクよりも中間ギア52からギア歯53に伝達するトルクの方が大きくなるため、ステップモータ12のトルクを増幅してカムシャフト1に伝達できる。このため、ステップモータ12の駆動力を小さくできるので、ステップモータ12を小型化可能である。また、スプール弁SPの内、カムシャフト1の軸方向の最外位置に配置されているスプール弁2と5間にカムシャフト1のカム面側に向けてステップモータ12を設置したことにより集積弁60の全長を短くできるのでさらに集積弁60を小型化できる。
【0036】
カムシャフト1の軸受29側の端部には、外部のセレクトレバー500と図示しないリンクを介し機械的に連結されている連結部11が設けられており、操作者がセレクトレバー500を操作することにより、連結部11はセレクトレバー500に連動しカムシャフト1を軸方向に駆動する。
図1に示すカムシャフト1の回転角は、図5に示すAT用ECU70からの指示によって制御され、ステップモータ12がカムシャフト1を回転させて、カムシャフト1の円周面に設けられたカムによりピン14、15、16、17、18、19、20を介してスプール弁SPの位置を制御し、各油圧ポートPS 、PC1、PC2、Dr のいずれかが連通ポート39、40、41、42、43、44、45と連通し、図6の油圧連通モードに従い所定の油圧が各摩擦係合装置に加えられる。
【0037】
AT用ECU70は、図5に示すように加速に際し変速段を下段にシフトするためのキックダウン信号やセレクトレバー500がどのポジションにあるのかを示すセレクトレバー信号等と、エンジンの駆動を制御するエンジン(E/G)用ECU72からの信号によって、E/G用ECU72とデータを交換しながらステップモータ12を駆動するモータ位置信号を出力し、同時に各油圧制御信号を前述の係合油圧制御弁61、62、ライン圧制御弁64、ロックアップ油圧制御弁65に出力する。この時E/G用ECU72とAT用ECU70とが交換するデータとしては、図7に示すようにラジエータの水温、スロットル開度、クランクシャフトのクランク角、車速、タービン回転数等がある。
【0038】
カムシャフト1は、ある作動モードにおけるピン14、15、16、17、18、19、20との当接位置から周方向および軸方向にそれぞれ所定幅で同一径部分を設けてあるため、カムシャフト1が回転方向またはスライド方向に駆動され小さな範囲で移動しても、スプール弁SPが位置変化しない。このため、カムシャフト1の位置決めに若干のずれを許容している。さらに、カムシャフト1が回転方向またはスライド方向に全ストロークしたときにも、ピン14、15、16、17、18、19、20の側面と隣接スプールに対応したカムシャフト表面のカム凹凸との間には若干の余裕が設けてあり、万一の際にも、ピン14、15、16、17、18、19、20に大きな力が加わらないように考慮されている。また、カム凹凸の隅部は、ピン14、15、16、17、18、19、20先端の曲率半径よりも大きな曲率半径に加工されており、カム凹凸に対するピンの追従がスムーズに行えるように配慮してある。
【0039】
セレクトレバー500のシフト位置は、通常P(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、2(セカンド)、L(ロー)の6位置であるが、パーキングおよびニュートラルの位置については変速操作は実施されないので、自動変速処理が実施されたとしても、トランスミッション300はトルクを伝達しないように設定されている。図6は、セレクトレバー500の各レンジおよび各変速レンジにおいて各スプール弁SPがライン圧ポートPS 、ドレン圧ポートDr 、制御圧ポートPc1、制御圧ポートPc2の何れのポートに接続されるかを示した図である。また制御圧ポートPc1と制御圧ポートPc2はそれぞれ二つの係合油圧制御弁61、62に接続しているので違う記号としたが、とりうる圧力値の範囲(即ちライン圧を最高圧としてそれ以下の範囲)としては同じである。カムシャフト1のカム形状は、図6に示される油圧連通モードで決まるスプール弁位置となるよう設計される。なおこのようにして制御されるATの各クラッチ類、ブレーキ類の動作状態は図7に示すような構成となる。
【0040】
カムシャフト1は連結部11によってセレクトレバー500と連結しているので、運転者による手動操作でセレクトレバー500の位置選択が行われると、カムシャフト1はシャフト軸方向に移動し、カムシャフト1の軸方向の凹凸でカムシャフト1に接するピン14、15、16、17、18、19、20を動かし各スプール弁SPを制御する。また、ステップモータ12はAT用ECU70の指令により回動し、カムシャフト1の円周方向の凹凸で各スプール弁SPの位置を制御する。
【0041】
図8はスプール弁4および7についてDレンジ位置にあるカムシャフト1の軸方向断面図を示しており、変速段が第4速の位置にある状態である。スプール弁4および7にそれぞれ接しているピン16および19は、他端がいずれもカムシャフト1の最大径の位置に接しているのでスプール弁4および7を最大に押し上げている。従って、スプール弁4および7はライン圧ポート35c、35f(PS )と連通する位置に位置決めされ、スプール弁4および7に連通する多板クラッチC1および多板ブレーキB2にライン圧の圧油が供給される。
【0042】
この状態から、AT用ECU70の指令によるステップモータ12の回転に応じ、3速(3rd)、2速(2nd)、1速(1st)と、カムシャフト1は45°間隔で回転し、その回転に応じピン16および19はカムシャフト1の外周面に沿って移動する。図8に示した図の場合には、スプール弁4および7は3rdと4thにおいて同一の位置であるが、2ndの変速段ではピン19がカムシャフト1の中間径位置に移動し、スプール弁7は制御圧ポート38fに連通する位置に移動され、連通ポート44を介し多板ブレーキB2へ制御圧の圧油が供給される。1stの変速段においても同様に、図6に示す圧力分配が行われる。
【0043】
セレクトレバー500を順に、2(前進第2速)、D(前進自動変速段)、N(ニュートラル)、R(リバース)、P(パーキング)にシフトした場合、カムシャフト1は予め定められた距離だけ軸方向に移動する。すると、回転移動の場合と同様にしてスプール弁4および7は、図6に示す圧力分配が行われる。他の変速段および他のレンジおよび他のスプール弁においても同様の作動を示す。
【0044】
次にDレンジ位置における変速動作を説明する。他のレンジにおいても基本的な作動は同様である。
カムシャフト1は手動のDレンジの位置において、カムの凹凸によりピンを介しスプール弁SPを図6のDレンジの欄で示す油圧ポートで決まる油圧連通モードにする。そしてカムシャフト1に対するAT用ECU70の指示が、車速の4段階の内の1速モード(図6の1st)であると、図6、図7に示すように、多板クラッチC0は、図1のライン圧ポート35からライン圧ポート35a(図6のPS )、スプール弁2の油路溝、連通ポート39を介しライン圧を受けて作動状態となる。多板クラッチC1は同様に、制御圧ポート36から制御圧ポート36c(図6のPC1)、スプール弁4の油路溝、連通ポート41を介し制御圧を受け、車速等の状態によって制御圧が係合油圧制御弁61、62で調節され係合状態が制御される。また、多板クラッチC2および多板ブレーキB0はドレン圧ポート48c、48d(図6のDr )を通じてドレン圧ポート48に接続され、多板ブレーキB1、B2、B3もすべてドレン圧ポート48に接続される。
【0045】
そして1速モード状態からAT用ECU70が2速モード(図6の2nd)の指示状態になったとすると、AT用ECU70からの指示によってステップモータ12がカムシャフト1を2速モード位置に回転させ、各スプール弁SPの位置を変化させる。その結果、図6のDレンジの2ndの欄に示すように、多板クラッチC1はライン圧ポート35c(図6のPS )を通じてライン圧ポート35に接続され、多板ブレーキB2は制御圧ポート38f(図6のPc2)を通じて制御圧ポート38に接続され、他のクラッチ、ブレーキは1速モードと同じ状態が保持される。これらのモードによって決まる油圧でトランスミッション300内のクラッチ類、ブレーキ類が作動し1速モードと異なる変速比である2速モードの状態となる。このように制御状態が決められてATとしての機能を果たす。他のレンジ位置でも、またシフトダウン操作でも同様な動作で制御される。
【0046】
手動でセレクトレバー500を切換えレンジを変更すると、セレクトレバー500に連動した連結部11によってカムシャフト1がスライドさせられて各スプール弁SPの位置を切換え、図6の各レンジで指定するような油圧連通モードにする。その状態で同時にECU70による制御でステップモータ12によりカムシャフト1が回動駆動されて車速に対応した油圧連通モードになり、自動制御が続行される。
【0047】
次に、フェイルセーフ機能に付いて説明する。フェイルは突然発生することもあり、車両においては走行中に発生することが考えられるため、フェイル発生と同時に対応する必要がある。ここで対応するフェイルセーフは、装置自体が機械的な破損を生じる程度までのフェイルではなく、自動制御機能が不能となった場合である。なんらかの理由で自動制御機能が不能状態になった場合、手動で変速操作を実施できるようにフェイルセーフ設定する。通常、従来の車両で実施されているように、ATにおけるファイルセーフは、変速状態を現状維持もしくは4速モード位置(高速モード側)にするようにしている。これは、フェイル時にシフトダウンが生じると、車両に突然エンジンブレーキがかかる状態となる場合があり、変速ショックを生じ危険であるため、必ず高速側にシフトアップするようにしてショックの生じる危険性を避けるように処置がとられている。
【0048】
図6の各油圧連通モードは、例として多板クラッチC0(スプール弁2)の欄で示すと、通常使用する範囲として本来太線の枠で囲った範囲内の連通位置が必要なだけである。即ち、Lレンジにおいては、スピードは1stおよび2nd状態だけであり、正常に動作している間は3rdや4thに変速されることはない。同様に、2レンジにおいては1st、2nd、3rdのみで、4thへは変速されない。N、R、Pレンジにおいては、その作動から変速されることはなく、1stのみである。そこで本実施例においては、フェイル(故障)時のフェイルセーフのため、未使用変速モード位置において、図6に示すように、油圧連通モードを限定しておく。即ち、高速側である油圧連通モード位置に太枠範囲の右端の油圧連通モードと同一の連通状態を維持するようになっている。例えばLレンジにおいては、Lレンジにおける最高速モードであるライン圧ポートPS と連通する2ndの油圧連通モードを未使用の3rd、4thに設定する。以下、2レンジ、Dレンジ、Nレンジ、Rレンジ、Pレンジにおいても同様である。
【0049】
さらに本実施例の場合、変速モード側、すなわちカムシャフト1の回転方向側にフェイルセーフモード位置を別途設けている(図6のフェイル欄)。このフェイルセーフモード位置の作用については後述する。まず4th位置をフェイルセーフ位置としている場合のフェイル時の動作について説明する。
何らかのフェイルが発生したものとAT用ECU70が判断すると、変速状態を決定しているカムシャフト1をステップモータ12の駆動でフェイルセーフ位置(4速モード位置)にシフトする。強制的にこのフェイルセーフ位置に固定することで、自動制御は不能となっても、上述のように各レンジにおける高速段と同じ連通モードを4thに設定するため、手動操作によるレンジ切換え動作は作動する。
【0050】
自動制御を行うAT用ECU70の処理プログラムのうち、フェイルに関する処理の流れの概略を示したものが図9(A)である。AT用ECU70は、各種のセンサなどの異常信号や演算結果の食い違いなどからフェイルかどうかの判定を行い、フェイルならば図9(A)のフローチャートのステップ610の判断でフェイル処理のステップ650へ移り、カムシャフト1をフェイルセーフ位置(4速モード位置)に移動させる。フェイルセーフ位置では完全には自動変速と同等の変速機能を実現しなくなるが(例えばLレンジで2nd発進となるなど)、手動操作により少なくとも変速させる機能は維持されることになる。
【0051】
ステップモータ12の駆動制御にフェイルが生じた場合、ステップモータ12の駆動を打ち切りリターンスプリング54によってフェイルセーフ位置(4速モード位置)まで強制的に移動させる。その場合が図9(B)に示すフローチャートである。AT用ECU70は各種センサからステップモータ12の駆動制御がフェイルしたと判断した場合、ステップモータ12をフリーの状態にし、カムシャフト1をリターンスプリング54の復元力でフェイルセーフ位置(4速モード位置)にシフトする。その状態でセレクトレバー500の操作による手動のP、R、N、D、2、Lレンジの選択がなされ、カムシャフト1は連結部11で移動させられて各スプール弁SPの位置を制御する。
【0052】
本構成の場合いずれの変速モード位置においてフェイルした場合においても変速ショックが軽減される構造となっている。例えば、セレクトレバー500が2レンジにあり、変速モードが2ndにある時フェイルしたとすると、カムシャフト1は、低速側である1st側へ移動することなく、フェイル時の2nd位置より順に、3rd位置を経由して4thへシフトすることとなり、順に高速段側へ切換わり、シフトダウン時に生じるようなエンジンブレーキによるショック等が発生しない。
【0053】
なお、このリターンスプリング54は、ハウジング内部に設けられる構成でも、別の機構による力を用いてもよい。また自動と手動とが入れ代わった構成の場合、このリターンスプリング54の力は、どの部位に設けようともカムシャフト1を軸方向にストッパ位置までスライドさせる力を蓄えさせる構成とし、さらには特に設けず、モータの力でリターンさせる構成であっても構わない。
【0054】
フェイル時のスプール弁の位置において、カムシャフト1はリターンスプリング54の復元力によってストッパレバー31がストッパピン55に当接する位置まで移動することから、カムシャフト1のフェイルセーフ位置として、通常利用されている4速モード位置ではなく、フェイルセーフモード位置を別途設けてもよい。図6では4thの隣のフェイル欄で示される。即ち、フェイルが発生する場合は突然の場合が殆どであり、どのような原因で発生するかが予想できない。場合によっては油圧調整が機能を消失してしまうこともありえる。そうすると油圧は急激に変化するので、油圧で作動させるクラッチ類も急激に変化する。するとATとしては変速ショックが生じることから、このような変速ショックを生じないようにする必要がある。そこで変速ショックを防ぐためにフェイルセーフモード位置として、各スプール弁の連通状態を通常使用しない半開の位置に固定し半連通状態にして、フェイルによる急激な油圧変化を避ける設定とする。これは特にクラッチ圧を直接制御する本発明のようなシステムのATに対して有効な設定である。油圧供給が正常のままの場合、半連通状態であっても制御は正常に保たれるので、半連通状態にすることは差し支えない。
【0055】
図10(A)は上記のフェイルセーフモード位置としてのスプール弁位置を決めるための、カムシャフト1の回転方向の凹凸断面(一部)である。横軸はカムシャフト1の回転方向を表しており、1速、2速、3速、4速モード位置およびフェイルセーフ位置を表している。縦軸はスプール弁の位置を表し、各油圧ポートが連通ポートと連通する位置として、下からドレン圧ポートDr 、制御圧ポートPC1、PC2、ライン圧ポートPS 位置が示してある。図に示したハッチ付のグラフは、カムシャフト1を回動駆動させた際のスプール弁の位置を、スプール弁5に接続するクラッチC2におけるDレンジ、およびスプール弁8に接続するブレーキB1 における2レンジについて示してある。4速モード(4th)の位置にあるスプール弁5は、図10(B)に示すように、スプール弁5に設けられた環状の油路溝5aがちょうどライン圧ポート35dに整合した位置となっている。それがフェイルセーフ位置になった場合、図10(C)に示すように、スプール弁5の位置が下にずれて、油路溝5aがライン圧ポート35dに対して半連通(半開)の位置になり、弁の開口度を狭くして油圧の変化を遮る状態になる。従ってフェイル時の油圧状態と著しく変化する場合においても、圧油は絞られた開口部から徐々に流入、流出することとなるので、フェイルセーフ位置へ変速されたときでも変速ショックを起こすことがない。
【0056】
図10(C)の位置は、図10(A)におけるスプール弁5に接続するクラッチC2のDレンジに限らず、他のスプール弁でも4速がライン圧ポートPS と連通される場合は同様である。図11(A)は同様に、DレンジにおけるクラッチC0に接続するスプール弁2と2レンジにおけるクラッチC2に接続するスプール弁5の位置を示した図で、フェイル時にはスプール弁2の油路溝2aは図11(B)に示す位置に設定される。正常な状態は図11(C)である。油路溝2aが制御圧ポート36aに連通する位置の場合、スプール弁2は上下どちらに移動しても半連通状態とすることができ、カムシャフトの設計で望ましい方を選択すればよい。しかしながら、フェイルセーフ時のスプール弁位置は、もし4速モード位置を半連通状態にする位置に設定すると、スプール弁の移動量が少なくて済む。図12(A)では、2レンジにおけるスプール弁5がフェイルセーフ位置に位置決めされた際、下に移動して油路溝2aと連通ポート42Hとが半連通状態になった状態を示している。また、図10(A)に示すように、2レンジにおけるスプール弁8は、4速モードにおいて連通ポート45Lがドレン圧の油圧ポート48fに通ずる位置にあり、これ以上下がらないので、図12(B)のように少し上げた位置にし、連通ポート45Lとドレン圧ポート48fとを半連通にする。
【0057】
なお勿論、このフェイルセーフモード位置を設けたカムシャフトにおいて、フェイルセーフ機能として、必ずしもスプール弁をこのフェイルセーフモード位置にする必要はなく、モータによる移動で4速モード位置近傍を利用しても構わない。
【0058】
以上説明した本発明の実施例では、集積弁60は二方向の動きで制御され、即ち自動制御と手動操作とを同時に兼ね備えてフェイルセーフ手段を有した油圧制御を行う構造となっている。このため、自動制御が異常のために制御が不能となっても手動操作によりATの制御を維持でき、特に下り坂や上り坂、山岳路、雪道発進等の場合に不都合が生じることが防げる。またカムシャフトに限らず自動、手動の機構を備えた油圧制御方式ならば同様な効果を有する。このように本実施例では、自動、手動両制御機構を備えた集積弁によって軽量、コンパクトでなおかつ信頼性の高いAT装置を提供することができる。
【0059】
また本実施例では、図1に示すように、カムシャフト1の両側にスプール弁SPを配置したので、集積弁60はコンパクトな略平板状に構成されている。配置上、上下方向の制約のある場所に適しており、例えばオイルパン内での配置も容易となる。本発明では、平板状に限らず、例えば、カムシャフト軸を中心として屈曲させるようにしてもよい。また本発明では、スプール弁列をカムシャフトの片側に一列に配置させ細長くした棒形状でももちろん構わない。これらの場合では、他の装置、特にAT本体のトランスミッションの形状に合わせて設置余裕の少ないオイルパン内部などの周辺にコンパクトに搭載することができる。
【0060】
また本実施例では、カムシャフト1に対するECU変速とマニュアル変速の割当は回転方向にECU変速、スライド方向にマニュアル変速を割り当てている。これは、回転方向にカム面の凹凸変化の頻度が少なくなるため、カムシャフト1の鋳造、成形等の加工が容易になり製作上極めて有利になるからである。本発明では、カムシャフトの軸方向の直線運動によって自動制御を行い、回転運動によって手動操作を行なうことも可能である。この場合、ステップモータはカムシャフトを軸方向に駆動し、セレクトレバーはカムシャフトを回転方向に駆動する。
【0061】
また本発明では、カムシャフトは図示した寸法に限らず、径を大きくして略円筒ドラムカムシャフトとしても構わない。またスプール弁の形状も、上述の機能を持つ油圧弁であれば円筒に限らず、どのような形状の弁であってもよい。なお一般的にスプール弁の個数や油圧連通モードは、トランスミッションの構造に依存して変わり、また多板ブレーキや多板クラッチの数や質によって設定条件も変化する。
【0062】
また本実施例では、カムシャフト1により各スプール弁SPを駆動したが、本発明では、自動、手動の機構を備えた油圧制御方式ならばどのように油圧弁であるスプール弁を駆動してもよく、同様な効果を得ることができる。
また本実施例では、カムとカムシャフト1とを一体に形成したが、本発明では、外周面をカム形状としたカムリングをシャフトに嵌め込んで図1に示すカムシャフト構造としてもよく、その場合、ポート数変更やポート組み合わせ変更などに対応しやすくなる。例えば図示しないが、各スプール弁のあるハウジングの円筒孔の周囲を1ブロックとして、この1ブロックをカムシャフト軸方向に積み重ねる構成にすることで設計変更を容易に行える。従って、そのような集積弁の構成は、油圧弁とそのハウジングを1ブロック単位として、この1ブロック単位を必要ポート数だけ積層したことが特徴となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例による自動変速機用油圧制御装置の集積弁を示す断面図である。
【図2】本実施例の自動変速機装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】図1のIII 方向矢視断面図である。
【図4】スプール弁5の位置により切換わる油路を示す断面図である。
【図5】本実施例の信号線の入出力状態を示すブロック図である。
【図6】集積弁の油圧連通モードを示す説明図である。
【図7】トランスミッションの多板クラッチ、多板ブレーキの動作状態図である。
【図8】スプール弁4およびスプール弁7を駆動するカムシャフトの形状を示す断面図である。
【図9】フェイル時判定を示すモータ制御のフローチャートである。
【図10】フェイルセーフ位置を有するカムシャフトの概略説明図およびスプール弁5の動作説明図である。
【図11】フェイルセーフ位置を有するカムシャフトの概略説明図およびスプール弁2の動作説明図である。
【図12】半連通状態によりフェイルセーフ制御を行うスプール弁5および8の動作説明図である。
【符号の説明】
1 カムシャフト(動力伝達手段)
2、3、4、5、6、7、8 スプール弁
9 軸受
11 連結部(手動切換え手段)
12 ステップモ−タ(自動切換え手段)
12a ハウジング
13 ギア
14、15、16、17、18、19、20
ピン
28 ハウジング
29 軸受
34 軸受部
39、40、41、42、43、44、45
連通ポート
35a、35b、35c、35d、35e、35f、35g
ライン圧ポート
36a、36b、36c、36d、38e、38f、38g
制御圧ポート
48a、48b、48c、48d、48e、48f
ドレン圧ポート
52 中間ギア
53 ギア歯
54 リターンスプリング
61、62 係合油圧制御弁
64 ライン圧制御弁
70 AT用ECU
72 E/G用ECU
200 トルクコンバータ
300 トランスミッション
500 セレクトレバー(手動切換え手段)

Claims (4)

  1. 自動変速機に設けられる複数の摩擦締結要素に加わる油圧を切換え、前記複数の摩擦締結要素の係合または解除を行うことにより複数の変速段を切換え制御する自動変速機用油圧制御装置であって、
    複数の摩擦締結要素の各摩擦締結要素に加わる油圧を切換える複数のスプール弁を有する集積弁と、
    前記複数のスプール弁に油圧を切換える駆動力を伝達する動力伝達手段と、
    自動制御により前記動力伝達手段を駆動制御する自動切換え手段と、
    手動操作により前記動力伝達手段を駆動制御する手動切換え手段とを備え、
    前記複数のスプール弁の両端に形成される圧力室の圧力は、ドレン圧であることを特徴とする自動変速機用油圧制御装置。
  2. 前記複数のスプール弁の両端に形成される前記圧力室のいずれか一方の圧力室を前記複数の摩擦締結要素のいずれかの摩擦締結要素と接続してドレン圧を加えることにより、前記圧力室が接続された前記摩擦締結要素を解除することを特徴とする請求項1記載の自動変速機用油圧制御装置。
  3. 前記摩擦締結要素に加わる油圧は、前記スプール弁の往復動により、ライン圧、ライン圧とドレン圧との中間圧である制御圧、ドレン圧の順番か、またはドレン圧、ライン圧とドレン圧との中間圧である制御圧、ライン圧の順番に切換え可能であることを特徴とする請求項1または2記載の自動変速機用油圧制御装置。
  4. 前記自動切換え手段は前記動力伝達手段を回転方向に駆動し、前記手動切換え手段は前記動力伝達手段を軸方向に駆動することを特徴とする請求項1、2または3記載の自動変速機用油圧制御装置。
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