JP3667138B2 - 電子線装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子線装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、電子放出素子として熱陰極素子と冷陰極素子の2種類が知られている。このうち冷陰極素子では、たとえば表面伝導型放出素子や、電界放出型素子(以下FE型と記す)や、金属/絶縁層/金属型放出素子(以下MIM型と記す)、などが知られている。
【0003】
表面伝導型放出素子としては、たとえば、M.I.Elinson,Radio Eng.Electron Phys.,10,1290,(1965)や、後述する他の例が知られている。
【0004】
表面伝導型放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に平行に電流を流すことにより電子放出が生ずる現象を利用するものである。この表面伝導型放出素子としては、前記エリンソン等によるSnO2薄膜を用いたものの他に、Au薄膜によるもの[G.Dittmer:"Thin Solid Films",9,317(1972)]や、In2O3/SnO2薄膜によるもの[M.Hartwell and C.G.Fonstad:"IEEE Trans.ED Conf.",519(1975)]や、カーボン薄膜によるもの[荒木久他:真空、第26巻、第1号、22(1983)]等が報告されている。
【0005】
これらの表面伝導型放出素子の素子構成の典型的な例として、図45に前述のM.Hartwellらによる素子の平面図を示す。同図において、3001は基板で、3004はスパッタで形成された金属酸化物よりなる導電性薄膜である。導電性薄膜3004は図示のようにH字形の平面形状に形成されている。該導電性薄膜3004に後述の通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施すことにより、電子放出部3005が形成される。図中の間隔Lは、0.5〜1[mm]、Wは、0.1[mm]で設定されている。尚、図示の便宜から、電子放出部3005は導電性薄膜3004の中央に矩形の形状で示したが、これは模式的なものであり、実際の電子放出部の位置や形状を忠実に表現しているわけではない。
【0006】
M.Hartwellらによる素子をはじめとして上述の表面伝導型放出素子においては、電子放出を行う前に導電性薄膜3004に通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施すことにより電子放出部3005を形成するのが一般的であった。すなわち、通電フォーミングとは、前記導電性薄膜3004の両端に一定の直流電圧、もしくは、例えば1V/分程度の非常にゆっくりとしたレートで昇圧する直流電圧を印加して通電し、導電性薄膜3004を局所的に破壊もしくは変形もしくは変質せしめ、電気的に高抵抗な状態の電子放出部3005を形成することである。尚、局所的に破壊もしくは変形もしくは変質した導電性薄膜3004の一部には、亀裂が発生する。前記通電フォーミング後に導電性薄膜3004に適宜の電圧を印加した場合には、前記亀裂付近において電子放出が行われる。
【0007】
また、FE型の例は、たとえば、W.P.Dyke&W.W. Dolan,"Field emission",Advance in Electron Physics,8,89(1956)や、あるいは、 C.A.Spindt,"Physical properties of thin-film field emission cathodes with molybdenium cones",J.Appl.Phys.,47,5248(1976)などが知られている。
【0008】
FE型の素子構成の典型的な例として、図46に前述のC.A.Spindtらによる素子の断面図を示す。同図において、3010は基板で、3011は導電材料よりなるエミッタ配線、3012はエミッタコーン、3013は絶縁層、3014はゲート電極である。本素子は、エミッタコーン3012とゲート電極3014の間に適宜の電圧を印加することにより、エミッタコーン3012の先端部より電界放出を起こさせるものである。
【0009】
また、FE型の他の素子構成として、図46のような積層構造ではなく、基板上に基板平面とほぼ平行にエミッタとゲート電極を配置した例もある。
【0010】
また、MIM型の例としては、たとえば、C.A.Mead,"Operation of tunnel-emission Devices,J.Appl.Phys.,32,646(1961)などが知られている。MIM型の素子構成の典型的な例を図47に示す。同図は断面図であり、図において、3020は基板で、3021は金属よりなる下電極、3022は厚さ100オングストローム程度の薄い絶縁層、3023は厚さ80〜300オングストローム程度の金属よりなる上電極である。MIM型においては、上電極3023と下電極3021の間に適宜の電圧を印加することにより、上電極3023の表面より電子放出を起こさせるものである。
【0011】
上述の冷陰極素子は、熱陰極素子と比較して低温で電子放出を得ることができるため、加熱用ヒーターを必要としない。したがって、熱陰極素子よりも構造が単純であり、微細な素子を作成可能である。また、基板上に多数の素子を高い密度で配置しても、基板の熱溶融などの問題が発生しにくい。また、熱陰極素子がヒーターの加熱により動作するため応答速度が遅いのとは異なり、冷陰極素子の場合には応答速度が速いという利点もある。
【0012】
このため、冷陰極素子を応用するための研究が盛んに行われてきている。
【0013】
たとえば、表面伝導型放出素子は、冷陰極素子のなかでも特に構造が単純で製造も容易であることから、大面積にわたり多数の素子を形成できる利点がある。そこで、たとえば本出願人による特開昭64−31332号公報において開示されるように、多数の素子を配列して駆動するための方法が研究されている。また、表面伝導型放出素子の応用については、たとえば、画像表示装置、画像記録装置などの画像形成装置や、荷電ビーム源、等が研究されている。
【0014】
特に、画像表示装置への応用としては、たとえば本出願人による米国特許第5,066,883号や特開平2−257551号公報や特開平4−28137号公報において開示されているように、表面伝導型放出素子と電子ビームの照射により発光する蛍光体とを組み合わせて用いた画像表示装置が研究されている。表面伝導型放出素子と蛍光体とを組み合わせて用いた画像表示装置は、従来の他の方式の画像表示装置よりも優れた特性が期待されている。たとえば、近年普及してきた液晶表示装置と比較しても、自発光型であるためバックライトを必要としない点や、視野角が広い点が優れていると言える。
【0015】
また、FE型を多数個ならべて駆動する方法は、たとえば本出願人による米国特許第4,904,895号に開示されている。また、FE型を画像表示装置に応用した例として、たとえば、R.Meyerらにより報告された平板型表示装置が知られている[R.Meyer:"Recent Development on Micro tips Display at LETI",Tech.Digest of 4th Int.Vacuum Microelectronics Conf.,Nagahama,pp.6〜9(1991)]。
【0016】
また、MIM型を多数個並べて画像表示装置に応用した例は、たとえば本出願人による特開平3−55738号公報に開示されている。
【0017】
上記のような電子放出素子を用いた画像形成装置のうちで、奥行きの薄い平面型表示装置は省スペースかつ軽量であることから、ブラウン管型の表示装置に置き替わるものとして注目されている。
【0018】
図48は平面型の画像表示装置をなす表示パネル部の一例を示す斜視図であり、内部構造を示すためにパネルの一部を切り欠いて示している。
【0019】
図中、3115はリアプレート、3116は側壁、3117はフェースプレートであり、リアプレート3115、側壁3116およびフェースプレート3117により、表示パネルの内部を真空に維持するための外囲器(気密容器)を形成している。
【0020】
リアプレート3115には基板3111が固定されているが、この基板3111上には冷陰極素子3112が、N×M個形成されている(N,Mは2以上の正の整数であり、目的とする表示画素数に応じて適宜設定される。)。また、前記N×M個の冷陰極素子3112は、図48に示すとおり、M本の行方向配線3113とN本の列方向配線3114により配線されている。これら基板3111、冷陰極素子3112、行方向配線3113および列方向配線3114によって構成される部分をマルチ電子ビーム源と呼ぶ。また、行方向配線3113と列方向配線3114の少なくとも交差する部分には、両配線間に絶縁層(不図示)が形成されており、電気的な絶縁が保たれている。
【0021】
フェースプレート3117の下面には、蛍光体からなる蛍光膜3118が形成されており、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の蛍光体(不図示)が塗り分けられている。また、蛍光膜3118をなす上記各色蛍光体の間には黒色体(不図示)が設けてあり、さらに蛍光膜3118のリアプレート3115側の面には、Al等からなるメタルバック3119が形成されている。
【0022】
Dx1〜DxmおよびDy1〜DynおよびHvは、当該表示パネルと不図示の電気回路とを電気的に接続するために設けた気密構造の電気接続用端子である。Dx1〜Dxmはマルチ電子ビーム源の行方向配線3113と、Dy1〜Dynはマルチ電子ビーム源の列方向配線3114と、Hvはメタルバック3119と各々電気的に接続している。
【0023】
また、上記気密容器の内部は10-6Torr程度の真空に保持されており、画像表示装置の表示面積が大きくなるにしたがい、気密容器内部と外部の気圧差によるリアプレート3115およびフェースプレート3117の変形あるいは破壊を防止する手段が必要となる。リアプレート3115およびフェースプレート3117を厚くすることによる方法は、画像表示装置の重量を増加させるのみならず、斜め方向から見たときに画像のゆがみや視差を生ずる。これに対し、図48においては、比較的薄いガラス板からなり大気圧を支えるための構造支持体(スペーサあるいはリブと呼ばれる)3120が設けられている。このようにして、マルチビーム電子源が形成された基板3111と蛍光膜3118が形成されたフェースプレート3117間は通常サブミリないし数ミリに保たれ、前述したように気密容器内部は高真空に保持されている。
【0024】
以上説明した表示パネルを用いた画像表示装置は、容器外端子DxlないしDxm、DylないしDynを通じて各冷陰極素子3112に電圧を印加すると、各冷陰極素子3112から電子が放出される。それと同時にメタルバック3119に容器外端子Hvを通じて数百[V]ないし数[kV]の高圧を印加して、上記放出された電子を加速し、フェースプレート3117の内面に衝突させる。これにより、蛍光膜3118をなす各色の蛍光体が励起されて発光し、画像が表示される。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明した画像表示装置の表示パネルにおいては、以下のような問題点が生ずる場合があった。
【0026】
第1に、冷陰極素子3112らの放出電子を加速するためにマルチビーム電子源とフェースプレート3117との間には数百V以上の高電圧(即ち1kV/mm以上の高電界)が印加されるため、構造支持体3120表面での沿面放電が懸念される。特に、上記のように構造支持体が帯電している場合は、三重点(真空と基板と構造支持体の接点)の電界強度が増大し、放電が誘発される可能性がある。また、上述の現象は側壁3116の近傍でも生じることが確認された。
【0027】
第2に、構造支持体3120の近傍から放出された電子の一部が構造支持体3120に当たることにより、あるいはフェースプレート3117上の蛍光膜3118とメタルバック3119に衝突した電子が背面散乱されて構造支持体3120に当たることにより、構造支持体の帯電をひきおこす場合がある。この構造支持体の帯電により冷陰極素子3112から放出された電子はその軌道を曲げられ、蛍光体上の正規の位置とは異なる場所に到達し、構造支持体近傍の画像が歪んで表示されることになる。
【0028】
これら問題点を解決するために、スペーサ(構造支持体)に微小電流が流れるようにして帯電を除去する提案がなされている(特開昭57−118355号公報、特開昭61−124031号公報)。そこでは絶縁性のスペーサの表面に高抵抗薄膜を形成することにより、スペーサ表面に微小電流が流れるようにしている。ここで用いられている帯電防止膜は酸化スズ、あるいは酸化スズと酸化インジウム混晶薄膜や金属膜である。しかしながら、微小電流が流れる構造支持体の場合には画像形成装置の大型化に伴い、構造支持体の増加につれ無効電流が増し、消費電力の増大が問題となる。また、消費電力と帯電除去はトレードオフの関係にあり、両者を成立させる方策が切望されていた。
【0029】
本発明は上記従来の構造支持体をより改善するものであり、消費電力の増加を抑え、放電耐圧のより高い、画像の歪の少ない構造支持体とそれを用いた画像形成装置或いは電子線装置を提供するものである。
【0030】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究した結果、上記課題は以下の構成の構造支持体を有する電子線装置により改善されることを見出した。
【0031】
すなわち、本発明の電子線装置は、電子を放出する電子源と、前記電子源より放出された電子を照射する電子線被照射部と、前記電子源と前記電子線被照射部との間に配置された構造支持体と、を有する電子線装置において、
前記構造支持体の前記電子源と前記電子線被照射部を結ぶ線分を含む面方向の断面形状が略台形形状を多段に重ねた構造であると共に該略台形形状の側壁部が前記電子源から前記電子線被照射部方向に次式で表される角度θの範囲で広がる構造を有することを特徴とするものである。
【0032】
【数3】
【0033】
k=(0.5(Ai1/As−1))0.5、Ai1は前記構造支持体の二次電子放出係数が1となる最小エネルギー、Asは前記構造支持体から放出される二次電子の平均初期放出エネルギー
ここで、「略台形形状」とは台形形状及び実質的に台形形状と見なせる台形形状に近い形状をいう。
【0034】
【作用】
上記の構成により、構造支持体の帯電が安定した状態でほぼ平等電界を得ることが可能となる。すなわち、構造支持体近傍の電子放出素子から放出された電子はその軌道を偏向されることなく、所望の被電子照射部に到達することができ、更に三重点の電界も増大することがなく、結果として放電が抑制される。そのため、構造支持体の近傍の画像の歪みと放電という問題が解決される。
【0035】
次に、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果得られた上記の形状作用について詳細に述べる。
【0036】
電子線装置内の構造支持体の帯電はほとんどが電子線被照射部からの弾性、非弾性散乱電子(背面散乱電子)或いは電子源からの直接入射電子によって引き起こされている。つまり、電子線被照射部からの背面散乱電子或いは電子源からの直接入射電子が構造支持体へ衝突すると、構造支持体の表面から二次電子放出が生じる[A.J.DEKKER Solid State Phys.6(1958)271]。
【0037】
二次電子と一次(入射)電子との比を広義の二次電子放出係数δと呼び、一次電子の入射エネルギーと入射角度に依存することが半経験式にて示されている[G.F.DIONNE,"Origin of secondary-electron-emission yield-curve parameters",J.Appl.Phys.46(1975)3347]。図16は二次電子放出係数δと入射エネルギーAの関係を角度ψ=0、30、60度のときについて示す模式図である。二次電子放出係数δがδ>1のときには、正帯電が生じ、δ<1のときには負帯電、δ=1のときには帯電が生じない。二次電子放出係数がδ=1となる入射エネルギーは二箇所あり、勾配(dδ/dA)が正である小さな方の値をAi1(第1クロスポイントエネルギー)、勾配が負である大きな方の値をAi2(第2クロスポイントエネルギー)である。
【0038】
本発明者らの詳細な実験的研究と数値シミュレーションにより、帯電の安定状態では、一次電子により生じた二次電子がAi1というエネルギーで構造支持体の表面に何度も衝突して(ホッピングと呼ぶ)、電子線被照射部に到達する電場が形成されて安定していることが明らかになった。ホッピングの模式図を図17に示す。電子源基板11上に形成された電子源(不図示)から放出された電子がフェースプレート17に衝突・背面散乱され、構造支持体20に入射する。すると、構造支持体20の表面から二次電子放出が生じ、二次電子がAi1というエネルギーで構造支持体の表面をホッピングしてフェースプレート17に到達するという状態が安定状態である。
【0039】
この現象は、次のように説明できる。つまり、構造支持体中に正帯電しているところがあると、二次電子は正電荷に引き寄せられて、Ai1以下の衝突エネルギーで衝突し負帯電し、正電荷を打ち消そうとする。逆に、負帯電しているところがあると、構造支持体への吸引力が弱まり、二次電子の飛翔距離が長くなるため、Ai1以上の衝突エネルギーの二次電子が増加し、結果として正に帯電させる。このような自己調整機構が働いて、上述の安定状態が実現される。
【0040】
さらに一般化させて構造支持体表面に傾斜角θのある系について図18を参考しつつ考える。ここでは帯電が安定した状態で、電子軌道が偏向されない平等電界Ey(=Va/d,電子線被照射部と電子放出部の電位差Va、距離d)となる場合を考える。二次電子が構造支持体20の表面から鉛直方向に初期エネルギーAsで出射すると、平等電界であるから二次曲線(放物線)の軌道にて飛翔し、構造支持体の表面に再衝突する。その際の衝突エネルギーがAi1という条件のもとで、傾斜角θ⊥の条件式を求めると次式に示す通りになる。
【0041】
【数4】
【0042】
上式中では、二次電子の出射角度を構造支持体表面の鉛直方向と仮定したが、余弦法則を考慮したほうが実際的であり、余弦法則を考慮した二次電子の平均衝突エネルギーを考える。図19に示す通りに構造支持体法線方向の電界をEξ、接線方向の電界をEηとすると、帯電が安定した状態では次式が成立している[C.H.DE TOURREIL and K.D.SRIVASTAVA“Mechanism of surface charging of high-voltage insulators in vacuum”,IEEE Trans.Elect.Insulation,8,No.17(1973)]。
【0043】
【数5】
【0044】
但し、k=(0.5(Ai1/As−1))0.5 である。
【0045】
次に、構造支持体法線方向の電界Eξ、接線方向の電界Eηを図19に示すEx、Eyに回転角θの回転変換を行い、Ex=0という条件を課すと次の式が得られる。
【0046】
【数6】
【0047】
但し、
【0048】
【数7】
【0049】
である。
【0050】
上式は、構造支持体の表面が、電子源と電子線被照射部と結ぶ線から時計方向にθの傾きをなす場合に、帯電が安定した状態で電子源と電子線被照射部を結ぶ線の垂直方向電界Exが0となることを示している。
【0051】
放電抑制作用に関して説明する。従来の構造支持体では帯電の進行と共に、図17に示すような等ポテンシャル線となり、三重点の電界強度が増大し、電界放出素子により、放電が誘発されやすくなる。一方、構造支持体の側壁部が規定角θを有する場合には帯電の進行と共に図18に示すように等ポテンシャル線が水平となり(水平方向電界=0)、三重点(真空と構造支持体と基板の接点)の電界強度が増加することがない。そのため、放電耐圧も向上する。
【0052】
また、上述の理論的背景に基づき、構造支持体が、側壁部の規定角θを有する略台形形状断面の多段構成である場合についても同様の効果が得られることが我々の詳細かつ注意深い考察と実験により明らかになった。つまり、図20に示すように、構造支持体の表面が規定角θで多段に積み重なった構造の場合にも、個々の略台形形状部の側面部が上述の安定状態となるために、電場としては平等電界に近い状態で安定するものである。より好ましくは、構造支持体の水平部(平坦部)に金属等の導体からなる電極21を設けると、ビームずれがより減少する。一般に金属は低二次電子放出材料であることと、側壁部の電荷との相殺により正帯電を抑制できることに起因する。これにより、高電圧(数kvから十数kv)を印加するためにカソードとアノード間距離が数mm必要な電子線装置にも、電子線軌道を妨げることなく適用できるようになる。
【0053】
つまり、本発明の構成に従うと帯電が安定した状態で平等電界が達成され、放電耐圧が高く帯電電荷を逃す微小電流を流す必要のない絶縁性の構造支持体を得ることができる。これにより、消費電力の増加もなく、さらにビーム軌道のずれによる画像の歪みの少ない電子線装置の提供を可能とするものである。
【0054】
【発明の実施の形態】
まず、本発明で作成した構造支持体について、詳細に説明する。
【0055】
図1は断面形状が略台形形状の板状形状の構造支持体の一態様を示すものである。図中の上側が電子線被照射部であるアノード側であり、下側が冷陰極電子源であるカソード側である。広がり角θは[3]、[4]式により材料物性によって決まるものであるが、θが大きくなるに従い帯電していない状態で、電子軌道が構造支持体に吸引される方向に作用する。吸引量は構造支持体の比誘電率等にも依存するため、採用した構造支持体により適時θが設定される。
【0056】
なお、形状は板状形状に何ら限定されることはなく、図2に示すような円断面の円錐又は横断面が楕円の円錐でも同様の効果が得られる。すなわち、図3、図4に示すように、カソード側とアノード側を結ぶ線分を含む構造支持体の断面形状が略台形形状であり、その台形形状の側面部がカソード側からアノード側方向へ次式の[6]式で表される角度θの範囲で広がる構造を有していればその効果が得られる。
【0057】
また、断面形状は図3に示す断面、図4に示す断面のいずれか一方が略台形状形状であっても本発明の効果を奏する。ただし、図3、図4に示す断面形状がともに略台形状形状であることがより望ましい。
【0058】
図9は、本発明で作成した断面形状が略台形形状を多段に重ねた構造の板状形状の構造支持体の一実施態様を示すものである。図中の上側が電子線被照射部であるアノード側であり、下側が冷陰極電子源であるカソード側である。平坦部の電極は省略した。寸法は図11、図12に示す通り、長手方向に40mm、高さ2mm、そして底辺幅が200μmであり、広がり角θを有している。略台形形状断面の突起長d(上底と下底の差の半分)は100μmであり、ピッチhは規定角θにより一意に決まる。なお、hは帯電が安定した状態での電子線ホッピングの平均自由行程以上であることが求められ、平均自由行程はアノード−カソード間の電界強度と二次電子の初期出射エネルギーに依存するが、ほぼ数百μmから数μmの範囲である。一般には広がり角θを有する構造支持体から垂直方向に初期射出エネルギーAsで飛び出した二次電子の自由行程ymは次式で表される。
【0059】
【数8】
【0060】
但し、Ey=Va/lであり、アノード−カソード間の電位差Vaと距離lで表される電界強度である。
【0061】
また、略台形形状断面の突起長dは大きいほど構造支持体の加工、構造が簡便になって好ましいといえるが、構造支持体の最近接の電子線ビームを遮蔽しない範囲内であることが求められる。
【0062】
寸法は先述の値に限定されることはなく、要は広がり角θが指定範囲となっていると良い。広がり角θは[3]、[4]式により材料物性によって決まるものであるが、θが大きくなるに従い帯電していない状態で、電子軌道が構造支持体に吸引される方向に作用する。吸引量は構造支持体の比誘電率等にも依存するため、採用した構造支持体により適時θが設定される。
【0063】
なお、形状は図9の板状形状に何ら限定されることはなく、図10に示すような円断面の円錐でも同様の効果が得られる。また、同様に楕円断面の円錐でも良く、電子源と前記電子線被照射部を結ぶ線分と垂直方向の断面が四角形或いは四角形の四隅をR面取りまたはC面取りしてあってもよい。要は構造支持体の多段に形成された断面形状において、略台形形状の側壁部が電子源から電子線被照射部方向に規定角θで広がる構造を有するものであれば良い。すなわち、図11、図12に示すように、カソード側とアノード側を結ぶ線分を含む構造支持体の断面形状が略台形形状であり、その略台形形状の側面部がカソード側からアノード側方向へ次式の[6]式で表される角度θの範囲で広がる構造を有していれば本発明の効果が得られる。
【0064】
また、断面形状は図11に示す断面、図12に示す断面のいずれか一方が略台形状形状を重ねた構造であっても本発明の効果を奏する。ただし、図11、図12に示す断面形状がともに略台形状形状を重ねた構造であることがより望ましい。
【0065】
【数9】
【0066】
但し、k=(0.5(Ai1/As−1))0.5 であり、Ai1は前記構造支持体の二次電子放出係数が1となる最小エネルギーであり、Asは前記構造支持体から放出される二次電子の初期放出エネルギーである。
【0067】
この範囲については、ビームずれ等の画像劣化が許容できる範囲にあるかどうかをθ=0である構造支持体の場合との主観的な比較評価により決定した(詳細は後述する)。
【0068】
さらに好ましい構造支持体の側壁部広がり角の許容範囲を設計する方法を示す。この設計方法による広がり角θの許容範囲は、作成する電子線装置の仕様に大きく依存するため、作成する電子線装置の仕様毎に異なるものである。
【0069】
その設計方法の手順を図21に示す。まず、画像を形成する電子線装置の仕様、すなわち加速電圧、カソード−アノード間距離、構造支持体と最近接の電子源間距離、構造支持体材料と二次電子放出係数の第一クロスポイントAi1と二次電子初期エネルギーAs、比誘電率を決定或いは同定する。また、電子源ビームによる輝点の位置ずれ、及び輝度むらの許容量を決める。
【0070】
これらが、決まれば最も好ましい構造支持体の側面部の広がり角θが、
【0071】
【数10】
【0072】
により一意に決定されるが、許容範囲の決定にはさらに次の手順を要する。
【0073】
[7]式とは異なる構造支持体の傾き角θを用いて、図22に示す電子線装置の構造支持体周りの静電場解析(支配方程式[8]式、φはポテンシャル、ρは電荷密度)を実行する。解析方法には、解析的手法や有限要素法/有限差分法/境界要素法等の数値的手法が適用できる。
【0074】
【数11】
【0075】
なお、静電場解析は二次元計算に限定されず、三次元計算の方がより好ましい。境界条件は例えば、上辺、下辺がアノード電位とカソード電位で与えられるディリクレ条件、右境界がノイマン境界条件、そして構造支持体上には[2]式を与える。なお、静電界計算は上記の方法に限らず、モンテカルロ法と静電場解析を複合させて、帯電の安定場を求める手法を用いることも可能である。[山本修ら、モンテカルロシミュレーションによる真空中スペーサの帯電特性の研究、電学論A、114、108(1994)]。後者の方法は多大な計算時間を要するが、負のθをもつ形状にも対応できるため、汎用性の高い手法と言える。
【0076】
静電場が得られたら、次に電子源から放出された電子線の軌道を次式[9][10]に従い、計算する。
【0077】
【数12】
【0078】
は速度ベクトルである。
【0079】
以上の手順により、アノード上での着地点が得られ、設計値からのずれΔxが求められる。このΔxが許容範囲内であるか如何で構造支持体の傾き角θの許容範囲が決定される。
【0080】
本実施例においては、図5に示す3種類の材料の構造支持体を作成した。アルミナやソーダライムガラスは切削加工、或いはモールド法と表面研磨により作成した。また、[6]、[7]式の妥当性を検討するために、Ai1のエネルギーが大きく異なる三酸化クロムCr2O3 をアルミナ上に膜厚約3000Åで蒸着したサンプルも用意した。膜厚は二次電子放出係数に下地の影響が出ない範囲で厚ければよく、およそ数百Å程度以上、より好ましくは千から数千Å以上であればよい。それぞれの二次電子放出係数等の物性値は文献から引用し、二次電子の出射エネルギーは4evとして求めた広がり角θとなるように加工を行っている。また、比較検討のため、その他のθを有する構造支持体の試料も作成した。二次電子の平均射出エネルギーは4evとしたが、材料が変わると変化することが容易に想像され、材料固有の値を使用することが好ましい。
【0081】
また、図32又は図36に示すように、帯電が生じる電子線装置内側の側壁1016にも、広がり角θを付けることにより、上に述べた効果が得られ側壁1016の近傍の電子軌道の撹乱が抑えられる。側壁1016は青板ガラス等の材料を切削加工、研磨することにより作製する。
【0082】
(画像表示装置の構成および製造方法)
次に、本発明を適用した画像表示装置の表示パネルの構成と製造法について、具体的な例を示して説明する。
【0083】
図32は参考例、また図36は、本実施例に用いた表示パネルの斜視図であり、内部構造を示すためにパネルの一部を切り欠いて示している。
【0084】
図中、1015はリアプレート、1016は側壁、1017はフェースプレートであり、1015〜1017により表示パネルの内部を真空に維持するための気密容器を形成している。気密容器を組み立てるにあたっては、各部材の接合部に十分な強度と気密性を保持させるため封着する必要があるが、たとえばフリットガラスを接合部に塗布し、大気中あるいは窒素雰囲気中で、摂氏400〜500度で10分以上焼成することにより封着を達成した。気密容器内部を真空に排気する方法については後述する。また、上記気密容器の内部は10-6[Torr]程度の真空に保持されるので、大気圧や不意の衝撃などによる気密容器の破壊を防止する目的で、耐大気圧構造体として構造支持体であるスペーサ1020が設けられている。
【0085】
次に、本発明の画像形成装置に用いることができる電子放出素子基板について説明する。
【0086】
本発明の画像形成装置に用いられる電子源基板は複数の冷陰極素子を基板上に配列することにより形成される。
【0087】
冷陰極素子の配列の方式には、冷陰極素子を並列に配置し、個々の素子の両端を配線で接続するはしご型配置(以下、はしご型配置電子源基板と称する)や、冷陰極素子の一対の素子電極のそれぞれX方向配線、Y方向配線を接続した単純マトリクス配置(以下、マトリクス型配置電子源基板と称する)が挙げられる。なお、はしご型配置電子源基板を有する画像形成装置には、電子放出素子からの電子の飛翔を制御する電極である制御電極(グリッド電極)が求められる。
【0088】
リアプレート1015には、基板1011が固定されているが、該基板上には冷陰極素子1012がN×M個形成されている(N,Mは2以上の正の整数であり、目的とする表示画素数に応じて適宜設定される。たとえば、高品位テレビジョンの表示を目的とした表示装置においては、N=3000、M=1000以上の数を設定することが望ましい。)。前記N×M個の冷陰極素子は、M本の行方向配線1013とN本の列方向配線1014により単純マトリクス配線されている。前記、1011〜1014によって構成される部分をマルチ電子ビーム源と呼ぶ。
【0089】
本発明の画像表示装置に用いるマルチ電子ビーム源は、冷陰極素子を単純マトリクス配線もしくは、はしご型配置した電子源であれば、冷陰極素子の材料や形状あるいは製法に制限はない。
【0090】
したがって、たとえば表面伝導型放出素子やFE型、あるいはMIM型などの冷陰極素子を用いることができる。
【0091】
次に、冷陰極素子として表面伝導型放出素子(詳細は後述する)を基板上に配列して単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造について述べる。
【0092】
図40に示すのは、図32又は図36の表示パネルに用いたマルチ電子ビーム源の平面図である。基板1011上には、後述の図25で示すものと同様な表面伝導型放出素子が配列され、これらの素子は行方向配線1013と列方向配線1014により単純マトリクス状に配線されている。行方向配線1013と列方向配線1014の交差する部分には、電極間に絶縁層(不図示)が形成されており、電気的な絶縁が保たれている。
【0093】
図40のB−B′に沿った断面を図41に示す。
【0094】
なお、このような構造のマルチ電子源は、あらかじめ基板上に行方向配線1013、列方向配線1014、電極間絶縁層(不図示)、および表面伝導型放出素子の素子電極と導電性薄膜を形成した後、行方向配線1013および列方向配線1014を介して各素子に給電して通電フォーミング処理(詳細は後述する)と通電活性化処理(詳細は後述する)を行うことにより製造した。
【0095】
本実施例においては、気密容器のリアプレート1015にマルチ電子ビーム源の基板1011を固定する構成としたが、マルチ電子ビーム源の基板1011が十分な強度を有するものである場合には、気密容器のリアプレートとしてマルチ電子ビーム源の基板1011自体を用いてもよい。
【0096】
また、フェースプレート1017の下面には、蛍光膜1018が形成されている。
【0097】
本実施例はカラー表示装置であるため、蛍光膜1018の部分にはCRTの分野で用いられる赤、緑、青、の3原色の蛍光体が塗り分けられている。各色の蛍光体は、たとえば図23の(a)に示すようにストライプ状に塗り分けられ、蛍光体のストライプの間には黒色の導電体1010が設けてある。黒色の導電体1010を設ける目的は、電子ビームの照射位置に多少のずれがあっても表示色にずれが生じないようにすることや、外光の反射を防止して表示コントラストの低下を防ぐこと、電子ビームによる蛍光膜のチャージアップを防止することなどである。黒色の導電体1010には、黒鉛を主成分として用いたが、上記の目的に適するものであればこれ以外の材料を用いても良い。
【0098】
また、3原色の蛍光体の塗り分け方は前記図23(a)に示したストライプ状の配列に限られるものではなく、たとえば図23(b)に示すようなデルタ状配列や、それ以外の配列(例えば図24)であってもよい。なお、モノクロームの表示パネルを作成する場合には、単色の蛍光体材料を蛍光膜1018に用いればよく、また黒色導電材料は必ずしも用いなくともよい。
【0099】
また、蛍光膜1018のリアプレート側の面には、CRTの分野では公知のメタルバック1019(図36には図示されているが、図32においては簡易化のため不図示)を設けてある。メタルバック1019を設けた目的は、蛍光膜1018が発する光の一部を鏡面反射して光利用率を向上させることや、負イオンの衝突から蛍光膜1018を保護することや、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させることや、蛍光膜1018を励起した電子の導電路として作用させることなどである。メタルバック1019は、蛍光膜1018をフェースプレート基板1017上に形成した後、蛍光膜表面を平滑化処理し、その上にAlを真空蒸着する方法により形成した。なお、蛍光膜1018に低電圧用の蛍光体材料を用いた場合や加速電圧が低い場合にはメタルバックの無いほうが輝度が大きい場合があり、こうした場合にはメタルバックは用いない。
【0100】
また、加速電圧の印加用や蛍光膜の導電性向上を目的として、フェースプレート基板1017と蛍光膜1018との間に、たとえばITOを材料とする透明電極を設けてもよい。特にメタルバックを使用しない場合には、十分な導電性の確保のために使用される。
【0101】
図33は図32のA−A′の略断面模式図であり、各部の番号は図32に対応している。また図37は図36のA−A′の略断面模式図であり、各部の番号は図36に対応している。スペーサ1020は切削加工、研磨により作製した絶縁性部材からなり、大気圧支持のために必要な数だけ、かつ必要な間隔をおいて配置され、フェースプレートの内側および基板1011の表面に接合材1041により固定される。また、スペーサ1020は接合材1041を介して、フェースプレート1017の内側(メタルバック1019等)および基板1011の表面(行方向配線1013または列方向配線1014)に電気的に接続される。ここで説明される態様においては、スペーサ1020の形状は薄板状とし、行方向配線1013に平行に配置され、行方向配線1013に電気的に接続されている。
【0102】
スペーサ1020としては、基板1011上の行方向配線1013および列方向配線1014とフェースプレート1017内面のメタルバック(不図示)との間に印加される高電圧に耐えるだけの絶縁性を有することが求められる。
【0103】
スペーサ1020の絶縁性部材としては、先に示した材料に限定されることなく、例えば石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少したガラス、ソーダライムガラス、アルミナ等のセラミックス部材等でもよい。なお、絶縁性部材はその熱膨張率が気密容器および基板1011を成す部材と近いものが好ましい。
【0104】
接合材1041はスペーサ1020が行方向配線1013およびメタルバックと電気的に接続するように、導電性をもたせる。すなわち、導電性接着材や金属粒子や導電性フィラーを添加したフリットガラスが好適である。
【0105】
また、Dx1〜DxmおよびDy1〜DynおよびHvは、当該表示パネルと不図示の電気回路とを電気的に接続するために設けた気密構造の電気接続用端子である。Dx1〜Dxmはマルチ電子ビーム源の行方向配線1013と、Dy1〜Dynはマルチ電子ビーム源の列方向配線1014と、Hvはフェースプレートのメタルバック或いは透明導電膜と電気的に接続している。
【0106】
また、気密容器内部を真空に排気するには、気密容器を組み立てた後、不図示の排気管と真空ポンプとを接続し、気密容器内を10-7[Torr]程度の真空度まで排気する。その後、排気管を封止するが、気密容器内の真空度を維持するために、封止の直前あるいは封止後に気密容器内の所定の位置にゲッター膜(不図示)を形成する。ゲッター膜とは、たとえばBaを主成分とするゲッター材料をヒーターもしくは高周波加熱により加熱し蒸着して形成した膜であり、該ゲッター膜の吸着作用により気密容器内は1×10-5ないしは1×10-7[Torr]の真空度に維持される。
【0107】
以上説明した表示パネルを用いた画像表示装置は、容器外端子Dx1ないしDxm、Dy1ないしDynを通じて各冷陰極素子1012に電圧を印加すると、各冷陰極素子1012から電子が放出される。それと同時にメタルバック或いは透明導電体に容器外端子Hvを通じて数百[V]ないし数[kV]の高圧を印加して、上記放出された電子を加速し、フェースプレート1017の内面に衝突させる。これにより、蛍光膜1018をなす各色の蛍光体が励起されて発光し、画像が表示される。
【0108】
通常、冷陰極素子である本発明の表面伝導型放出素子1012への印加電圧は12〜16[V]程度、メタルバックと冷陰極素子1012との距離dは0.1[mm]から8[mm]程度、メタルバックと冷陰極素子1012間の電圧は0.1[kV]から10[kV]程度である。
【0109】
以上、本発明の参考例、実施例の表示パネルの基本構成と製法、および画像表示装置の概要を説明した。
【0110】
(マルチ電子ビーム源の製造方法)
次に、前記実施例の表示パネルに用いたマルチ電子ビーム源の製造方法について説明する。本発明の画像表示装置に用いるマルチ電子ビーム源は、冷陰極素子を単純マトリクス配線した電子源であれば、冷陰極素子の材料や形状あるいは製法に制限はない。したがって、たとえば表面伝導型放出素子やFE型、あるいはMIM型などの冷陰極素子を用いることができる。
【0111】
ただし、表示画面が大きくてしかも安価な表示装置が求められる状況のもとでは、これらの冷陰極素子の中でも、表面伝導型放出素子が特に好ましい。すなわち、FE型ではエミッタコーンとゲート電極の相対位置や形状が電子放出特性を大きく左右するため、極めて高精度の製造技術を必要とするが、これは大面積化や製造コストの低減を達成するには不利な要因となる。また、MIM型では、絶縁層と上電極の膜厚を薄くてしかも均一にする必要があるが、これも大面積化や製造コストの低減を達成するには不利な要因となる。その点、表面伝導型放出素子は、比較的製造方法が単純なため、大面積化や製造コストの低減が容易である。また、発明者らは、表面伝導型放出素子の中でも、電子放出部もしくはその周辺部を微粒子膜から形成したものがとりわけ電子放出特性に優れ、しかも製造が容易に行えることを見いだしている。したがって、高輝度で大画面の画像表示装置のマルチ電子ビーム源に用いるには、最も好適であると言える。そこで、上記実施例の表示パネルにおいては、電子放出部もしくはその周辺部を微粒子膜から形成した表面伝導型放出素子を用いた。そこで、まず好適な表面伝導型放出素子について基本的な構成と製法および特性を説明し、その後で多数の素子を単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造について述べる。
【0112】
(表面伝導型放出素子の好適な素子構成と製法)
電子放出部もしくはその周辺部を微粒子膜から形成する表面伝導型放出素子の代表的な構成には、平面型と垂直型の2種類があげられる。
【0113】
(平面型の表面伝導型放出素子)
まず最初に、平面型の表面伝導型放出素子の素子構成と製法について説明する。図25(a)は平面型の表面伝導型放出素子の構成を説明するための平面図、図25(b)はその断面図である。図中、1101は基板、1102と1103は素子電極、1104は導電性薄膜、1105は通電フォーミング処理により形成した電子放出部、1113は通電活性化処理により形成した堆積物である。
【0114】
基板1101としては、たとえば、石英ガラスや青板ガラスをはじめとする各種ガラス基板や、アルミナをはじめとする各種セラミクス基板、あるいは上述の各種基板上にたとえばSiO2を材料とする絶縁層を積層した基板、などを用いることができる。
【0115】
また、基板1101上に基板面と平行に対向して設けられた素子電極1102と1103は、導電性を有する材料によって形成されている。たとえば、Ni,Cr,Au,Mo,W,Pt,Ti,Cu,Pd,Ag等をはじめとする金属、あるいはこれらの金属の合金、あるいはIn2O3 −SnO2をはじめとする金属酸化物、ポリシリコンなどの半導体、などの中から適宜材料を選択して用いればよい。電極を形成するには、たとえば真空蒸着などの成膜技術とフォトリソグラフィー、エッチングなどのパターニング技術を組み合わせて用いれば容易に形成できるが、それ以外の方法(たとえば印刷技術)を用いて形成してもさしつかえない。
【0116】
素子電極1102と1103の形状は、当該電子放出素子の応用目的に合わせて適宜設計される。一般的には、電極間隔Lは通常は数百オングストロームから数百マイクロメーターの範囲から適当な数値を選んで設計されるが、なかでも表示装置に応用するために好ましいのは数マイクロメーターより数十マイクロメーターの範囲である。また、素子電極の厚さdについては、通常は数百オングストロームから数マイクロメーターの範囲から適当な数値が選ばれる。
【0117】
また、導電性薄膜1104の部分には、微粒子膜を用いる。ここで述べた微粒子膜とは、構成要素として多数の微粒子を含んだ膜(島状の集合体も含む)のことをさす。微粒子膜を微視的に調べれば、通常は、個々の微粒子が離間して配置された構造か、あるいは微粒子が互いに隣接した構造か、あるいは微粒子が互いに重なり合った構造が観測される。
【0118】
微粒子膜に用いた微粒子の粒径は、数オングストロームから数千オングストロームの範囲に含まれるものであるが、なかでも好ましいのは10オングストロームから200オングストロームの範囲のものである。また、微粒子膜の膜厚は、以下に述べるような諸条件を考慮して適宜設定される。すなわち、素子電極1102あるいは1103と電気的に良好に接続するのに必要な条件、後述する通電フォーミングを良好に行うのに必要な条件、微粒子膜自身の電気抵抗を後述する適宜の値にするために必要な条件、などである。具体的には、数オングストロームから数千オングストロームの範囲のなかで設定するが、なかでも好ましいのは10オングストロームから500オングストロームの間である。
【0119】
また、微粒子膜を形成するのに用いられうる材料としては、たとえば、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb,などをはじめとする金属や、PdO,SnO2 ,In2O3 ,PbO,Sb2O3 ,などをはじめとする酸化物や、HfB2 ,ZrB2 ,LaB6 ,CeB6,YB4,GdB4 ,などをはじめとする硼化物や、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC,などをはじめとする炭化物や、TiN,ZrN,HfN,などをはじめとする窒化物や、Si,Ge,などをはじめとする半導体や、カーボン、などがあげられ、これらの中から適宜選択される。
【0120】
以上述べたように、導電性薄膜1104を微粒子膜で形成したが、そのシート抵抗値については、103から107[オーム/sq]の範囲に含まれるよう設定した。
【0121】
なお、導電性薄膜1104と素子電極1102および1103とは、電気的に良好に接続されるのが望ましいため、互いの一部が重なりあうような構造をとっている。その重なり方は、図25の例においては、下から、基板、素子電極、導電性薄膜の順序で積層したが、場合によっては下から基板、導電性薄膜、素子電極、の順序で積層してもさしつかえない。
【0122】
また、電子放出部1105は、導電性薄膜1104の一部に形成された亀裂状の部分であり、電気的には周囲の導電性薄膜よりも高抵抗な性質を有している。亀裂は、導電性薄膜1104に対して、後述する通電フォーミングの処理を行うことにより形成する。亀裂内には、数オングストロームから数百オングストロームの粒径の微粒子を配置する場合がある。なお、実際の電子放出部の位置や形状を精密かつ正確に図示するのは困難なため、図25においては模式的に示した。
【0123】
また、薄膜1113は、炭素もしくは炭素化合物よりなる薄膜で、電子放出部1105およびその近傍を被覆している。薄膜1113は、通電フォーミング処理後に、後述する通電活性化の処理を行うことにより形成する。
【0124】
薄膜1113は、単結晶グラファイト、多結晶グラファイト、非晶質カーボン、のいずれかか、もしくはその混合物であり、膜厚は500[オングストローム]以下とするが、300[オングストローム]以下とするのがさらに好ましい。なお、実際の薄膜1113の位置や形状を精密に図示するのは困難なため、図25においては模式的に示した。
【0125】
以上、好ましい素子の基本構成を述べたが、実施例においては以下のような素子を用いた。
【0126】
すなわち、基板1101には青板ガラスを用い、素子電極1102と1103にはNi薄膜を用いた。素子電極の厚さdは1000[オングストローム]、電極間隔Lは2[マイクロメーター]とした。
【0127】
微粒子膜の主要材料としてPdもしくはPdOを用い、微粒子膜の厚さは約100[オングストローム]、幅Wは100[マイクロメーター]とした。
【0128】
次に、好適な平面型の表面伝導型放出素子の製造方法について説明する。図26の(a)〜(e)は、表面伝導型放出素子の製造工程を説明するための断面図で、各部材の表記は前記図25と同一である。
1)まず、図26(a)に示すように、基板1101上に素子電極1102および1103を形成する。
【0129】
形成するにあたっては、あらかじめ基板1101を洗剤、純水、有機溶剤を用いて十分に洗浄後、素子電極の材料を堆積させる。堆積する方法としては、たとえば、蒸着法やスパッタ法などの真空成膜技術を用いればよい。その後、堆積した電極材料を、フォトリソグラフィー・エッチング技術を用いてパターニングし、図26(a)に示した一対の素子電極1102,1103を形成する。
2)次に、図26(b)に示すように、導電性薄膜1104を形成する。
【0130】
形成するにあたっては、まず図26(a)の素子電極1102,1103を形成した基板に有機金属溶液を塗布して乾燥し、加熱焼成処理して微粒子膜を成膜した後、フォトリソグラフィー・エッチングにより所定の形状にパターニングする。ここで、有機金属溶液とは、導電性薄膜に用いる微粒子の材料を主要元素とする有機金属化合物の溶液である。具体的には、本実施例では主要元素としてPdを用いた。また、本実施例では塗布方法として、ディッピング法を用いたが、それ以外のたとえばスピンナー法やスプレー法を用いてもよい。
【0131】
また、微粒子膜で作られる導電性薄膜の成膜方法としては、本実施例で用いた有機金属溶液の塗布による方法以外の、たとえば真空蒸着法やスパッタ法、あるいは化学的気相堆積法などを用いる場合もある。
3)次に、図26(c)に示すように、フォーミング用電源1110から素子電極1102と1103の間に適宜の電圧を印加し、通電フォーミング処理を行って、電子放出部1105を形成する。
【0132】
通電フォーミング処理とは、微粒子膜で作られた導電性薄膜1104に通電を行って、その一部を適宜に破壊、変形、もしくは変質せしめ、電子放出を行うのに好適な構造に変化させる処理のことである。微粒子膜で作られた導電性薄膜のうち電子放出を行うのに好適な構造に変化した部分(すなわち電子放出部1105)においては、薄膜に適当な亀裂が形成されている。なお、電子放出部1105が形成される前と比較すると、形成された後は素子電極1102と1103の間で計測される電気抵抗は大幅に増加する。
【0133】
通電方法をより詳しく説明するために、図27に、フォーミング用電源1110から印加する適宜の電圧波形の一例を示す。微粒子膜で作られた導電性薄膜をフォーミングする場合には、パルス状の電圧が好ましく、本実施例の場合には同図に示したようにパルス幅T1の三角波パルスをパルス間隔T2で連続的に印加した。その際には、三角波パルスの波高値Vpfを、順次昇圧した。また、電子放出部1105の形成状況をモニターするためのモニターパルスPmを適宜の間隔で三角波パルスの間に挿入し、その際に流れる電流を電流計1111で計測した。
【0134】
実施例においては、たとえば10-5[Torr]程度の真空雰囲気下において、たとえばパルス幅T1を1[ミリ秒]、パルス間隔T2を10[ミリ秒]とし、波高値Vpfを1パルスごとに0.1[V]ずつ昇圧した。そして、三角波を5パルス印加するたびに1回の割りで、モニターパルスPmを挿入した。フォーミング処理に悪影響を及ぼすことがないように、モニターパルスの電圧Vpmは0.1[V]に設定した。そして、素子電極1102と1103の間の電気抵抗が1×106[オーム]になった段階、すなわちモニターパルス印加時に電流計1111で計測される電流が1×10-7[A]以下になった段階で、フォーミング処理にかかわる通電を終了した。
【0135】
なお、上記の方法は、本実施例の表面伝導型放出素子に関する好ましい方法であり、たとえば微粒子膜の材料や膜厚、あるいは素子電極間隔Lなど表面伝導型放出素子の設計を変更した場合には、それに応じて通電の条件を適宜変更するのが望ましい。
4)次に、図26(d)に示すように、活性化用電源1112から素子電極1102と1103の間に適宜の電圧を印加し、通電活性化処理を行って、電子放出特性の改善を行う。
【0136】
通電活性化処理とは、前記通電フォーミング処理により形成された電子放出部1105に適宜の条件で通電を行って、その近傍に炭素もしくは炭素化合物を堆積せしめる処理のことである。図26(d)においては、炭素もしくは炭素化合物よりなる堆積物を部材1113として模式的に示した。なお、通電活性化処理を行うことにより、行う前と比較して、同じ印加電圧における放出電流を典型的には100倍以上に増加させることができる。
【0137】
具体的には、10-4ないし10-5[Torr]の範囲内の真空雰囲気中で、電圧パルスを定期的に印加することにより、真空雰囲気中に存在する有機化合物を起源とする炭素もしくは炭素化合物を堆積させる。堆積物1113は、単結晶グラファイト、多結晶グラファイト、非晶質カーボン、のいずれかか、もしくはその混合物であり、膜厚は500[オングストローム]以下、より好ましくは300[オングストローム]以下である。
【0138】
通電方法をより詳しく説明するために、図28(a)に、活性化用電源1112から印加する適宜の電圧波形の一例を示す。本実施例においては、一定電圧の矩形波を定期的に印加して通電活性化処理を行ったが、具体的には、矩形波の電圧Vacは14[V]、パルス幅T3は1[ミリ秒]、パルス間隔T4は10[ミリ秒]とした。なお、上述の通電条件は、本実施例の表面伝導型放出素子に関する好ましい条件であり、表面伝導型放出素子の設計を変更した場合には、それに応じて条件を適宜変更するのが望ましい。
【0139】
図26(d)に示す1114は該表面伝導型放出素子から放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極で、直流高電圧電源1115および電流計1116が接続されている。なお、基板1101を、表示パネルの中に組み込んでから活性化処理を行う場合には、表示パネルの蛍光面をアノード電極1114として用いる。活性化用電源1112から電圧を印加する間、電流計1116で放出電流Ieを計測して通電活性化処理の進行状況をモニターし、活性化用電源1112の動作を制御する。電流計1116で計測された放出電流Ieの一例を図28(b)に示すが、活性化電源1112からパルス電圧を印加しはじめると、時間の経過とともに放出電流Ieは増加するが、やがて飽和してほとんど増加しなくなる。このように、放出電流Ieがほぼ飽和した時点で活性化用電源1112からの電圧印加を停止し、通電活性化処理を終了する。
【0140】
なお、上述の通電条件は、本実施例の表面伝導型放出素子に関する好ましい条件であり、表面伝導型放出素子の設計を変更した場合には、それに応じて条件を適宜変更するのが望ましい。
【0141】
以上のようにして、図26(e)に示す平面型の表面伝導型放出素子を製造した。
【0142】
(垂直型の表面伝導型放出素子)
次に、電子放出部もしくはその周辺を微粒子膜から形成した表面伝導型放出素子のもうひとつの代表的な構成、すなわち垂直型の表面伝導型放出素子の構成について説明する。
【0143】
図29は、垂直型の基本構成を説明するための模式的な断面図であり、図中の1201は基板、1202と1203は素子電極、1206は段差形成部材、1204は微粒子膜を用いた導電性薄膜、1205は通電フォーミング処理により形成した電子放出部、1213は通電活性化処理により形成した薄膜、である。
【0144】
垂直型が先に説明した平面型と異なる点は、片方の素子電極1202が段差形成部材1206上に設けられており、導電性薄膜1204が段差形成部材1206の側面を被覆している点にある。したがって、前記図25の平面型における素子電極間隔Lは、垂直型においては段差形成部材1206の段差高Lsとして設定される。なお、基板1201、素子電極1202および1203、微粒子膜を用いた導電性薄膜1204、については、前記平面型の説明中に列挙した材料を同様に用いることが可能である。また、段差形成部材1206には、たとえばSiO2のような電気的に絶縁性の材料を用いる。
【0145】
次に、垂直型の表面伝導型放出素子の製法について説明する。図30の(a)〜(f)は、製造工程を説明するための断面図で、各部材の表記は前記図29と同一である。
1)まず、図30(a)に示すように、基板1201上に素子電極1203を形成する。
2)次に、同図(b)に示すように、段差形成部材を形成するための絶縁層を積層する。絶縁層は、たとえばSiO2をスパッタ法で積層すればよいが、たとえば真空蒸着法や印刷法などの他の成膜方法を用いてもよい。
3)次に、同図(c)に示すように、絶縁層の上に素子電極1202を形成する。
4)次に、同図(d)に示すように、絶縁層の一部を、たとえばエッチング法を用いて除去し、素子電極1203を露出させる。
5)次に、同図(e)に示すように、微粒子膜を用いた導電性薄膜1204を形成する。形成するには、前記平面型の場合と同じく、たとえば塗布法などの成膜技術を用いればよい。
6)次に、前記平面型の場合と同じく、通電フォーミング処理を行い、電子放出部を形成する(図26(c)を用いて説明した平面型の通電フォーミング処理と同様の処理を行えばよい。)。
7)次に、前記平面型の場合と同じく、通電活性化処理を行い、電子放出部近傍に炭素もしくは炭素化合物を堆積させる(図26(d)を用いて説明した平面型の通電活性化処理と同様の処理を行えばよい。)。
【0146】
以上のようにして、図30(f)に示す垂直型の表面伝導型放出素子を製造した。
【0147】
(表示装置に用いた表面伝導型放出素子の特性)
以上、平面型と垂直型の表面伝導型放出素子について素子構成と製法を説明したが、次に表示装置に用いた素子の特性について述べる。
【0148】
図31に、表示装置に用いた素子の、(放出電流Ie)対(素子印加電圧Vf)特性、および(素子電流If)対(素子印加電圧Vf)特性の典型的な例を示す。なお、放出電流Ieは素子電流Ifに比べて著しく小さく、同一尺度で図示するのが困難であるうえ、これらの特性は素子の大きさや形状等の設計パラメータを変更することにより変化するものであるため、2本のグラフは各々任意単位で図示した。
【0149】
表示装置に用いた素子は、放出電流Ieに関して以下に述べる3つの特性を有している。
【0150】
第一に、ある電圧(これを閾値電圧Vthと呼ぶ)以上の大きさの電圧を素子に印加すると急激に放出電流Ieが増加するが、一方、閾値電圧Vth未満の電圧では放出電流Ieはほとんど検出されない。
【0151】
すなわち、放出電流Ieに関して、明確な閾値電圧Vthを持った非線形素子である。
【0152】
第二に、放出電流Ieは素子に印加する電圧Vfに依存して変化するため、電圧Vfで放出電流Ieの大きさを制御できる。
【0153】
第三に、素子に印加する電圧Vfに対して素子から放出される電流Ieの応答速度が速いため、電圧Vfを印加する時間の長さによって素子から放出される電子の電荷量を制御できる。
【0154】
以上のような特性を有するため、表面伝導型放出素子を表示装置に好適に用いることができた。たとえば多数の素子を表示画面の画素に対応して設けた表示装置において、第一の特性を利用すれば、表示画面を順次走査して表示を行うことが可能である。すなわち、駆動中の素子には所望の発光輝度に応じて閾値電圧Vth以上の電圧を適宜印加し、非選択状態の素子には閾値電圧Vth未満の電圧を印加する。駆動する素子を順次切り替えてゆくことにより、表示画面を順次走査して表示を行うことが可能である。
【0155】
また、第二の特性かまたは第三の特性を利用することにより、発光輝度を制御することができるため、階調表示を行うことが可能である。
【0156】
(多数素子を単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造)
次に、上述の表面伝導型放出素子を基板上に配列して単純マトリクス配線したマルチ電子ビーム源の構造について述べる。
【0157】
図40に示すのは、前記図32又は図36の表示パネルに用いたマルチ電子ビーム源の平面図である。基板上には、前記図25で示したものと同様な表面伝導型放出素子が配列され、これらの素子は行方向配線電極1003と列方向配線電極1004により単純マトリクス状に配線されている。行方向配線電極1003と列方向配線電極1004の交差する部分には、電極間に絶縁層(不図示)が形成されており、電気的な絶縁が保たれている。
【0158】
図40のB−B′に沿った断面を、図41に示す。
【0159】
なお、このような構造のマルチ電子源は、あらかじめ基板上に行方向配線電極1013、列方向配線電極1014、電極間絶縁層(不図示)、および表面伝導型放出素子の素子電極と導電性薄膜を形成した後、行方向配線電極1013および列方向配線電極1014を介して各素子に給電して通電フォーミング処理と通電活性化処理を行うことにより製造した。
【0160】
(駆動回路構成および駆動方法)
図44は、NTSC方式のテレビ信号に基づいてテレビジョン表示を行う為の駆動回路の概略構成をブロック図で示したものである。同図中、表示パネル1701は前述した表示パネルに相当するもので、前述した様に製造され、動作する。また、走査回路1702は表示ラインを走査し、制御回路1703は走査回路1702へ入力する信号等を生成する。シフトレジスタ1704は1ライン毎のデータをシフトし、ラインメモリ1705は、シフトレジスタ1704からの1ライン分のデータを変調信号発生器1707に入力する。同期信号分離回路1706はNTSC信号からの同期信号を分離する。
【0161】
以下、図44の装置各部の機能を詳しく説明する。
【0162】
まず表示パネル1701は、端子Dx1ないしDxmおよび端子Dy1ないしDyn、および高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続されている。このうち、端子Dx1ないしDxmには、表示パネル1701内に設けられているマルチ電子ビーム源、すなわちm行n列の行列状にマトリクス配線された冷陰極素子を1行(n素子)ずつ順次駆動してゆく為の走査信号が印加される。一方、端子Dy1ないしDynには、前記走査信号により選択された1行分のn個の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。また、高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、たとえば5[kV]の直流電圧が供給されるが、これはマルチ電子ビーム源より出力される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与する為の加速電圧である。
【0163】
次に、走査回路1702について説明する。同回路は、内部にm個のスイッチング素子(図中、S1ないしSmで模式的に示されている)を備えるもので、各スイッチング素子は、直流電圧源Vxの出力電圧もしくは0[V](グランドレベル)のいずれか一方を選択し、表示パネル1701の端子Dx1ないしDxmと電気的に接続するものである。S1ないしSmの各スイッチング素子は、制御回路1703が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものだが、実際にはたとえばFETのようなスイッチング素子を組み合わせることにより容易に構成することが可能である。なお、前記直流電圧源Vxは、図31に例示した電子放出素子の特性に基づき走査されていない素子に印加される駆動電圧が電子放出しきい値電圧Vth電圧以下となるよう、一定電圧を出力するよう設定されている。
【0164】
また、制御回路1703は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行われるように各部の動作を整合させる働きをもつものである。次に説明する同期信号分離回路1706より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscanおよびTsft およびTmry の各制御信号を発生する。同期信号分離回路1706は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から、同期信号成分と輝度信号成分とを分離する為の回路で、良く知られているように周波数分離(フィルタ)回路を用いれば容易に構成できるものである。同期信号分離回路1706により分離された同期信号は、良く知られるように垂直同期信号と水平同期信号より成るが、ここでは説明の便宜上、Tsync信号として図示した。一方、前記テレビ信号から分離された画像の輝度信号成分を便宜上DATA信号と表すが、同信号はシフトレジスタ1704に入力される。
【0165】
シフトレジスタ1704は、時系列的にシリアルに入力される前記DATA信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのもので、前記制御回路1703より送られる制御信号Tsft に基づいて動作する。すなわち、制御信号Tsft は、シフトレジスタ1704のシフトクロックであると言い換えることもできる。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子n素子分の駆動データに相当する)のデータは、Id1ないしIdnのn個の信号として前記シフトレジスタ1704より出力される。
【0166】
ラインメモリ1705は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、制御回路1703より送られる制御信号Tmry にしたがって適宜Id1ないしIdnの内容を記憶する。記憶された内容は、I′d1ないしI′dnとして出力され、変調信号発生器1707に入力される。
【0167】
変調信号発生器1707は、前記画像データI′d1ないしI′dnの各々に応じて、電子放出素子1015の各々を適切に駆動変調する為の信号源で、その出力信号は、端子Dy1ないしDynを通じて表示パネル1701内の電子放出素子1012に印加される。
【0168】
図31を用いて説明したように、本発明に係わる表面伝導型放出素子は放出電流Ieに対して以下の基本特性を有している。すなわち、電子放出には明確な閾値電圧Vth(後述する実施例の表面伝導型放出素子では8[V])があり、閾値Vth以上の電圧を印加された時のみ電子放出が生じる。また、電子放出閾値Vth以上の電圧に対しては、図31のグラフのように電圧の変化に応じて放出電流Ieも変化する。このことから、本素子にパルス状の電圧を印加する場合、たとえば電子放出閾値Vth以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出閾値Vth以上の電圧を印加する場合には表面伝導型放出素子から電子ビームが出力される。その際、パルスの波高値Vmを変化させることにより出力電子ビームの強度を制御することが可能である。また、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御することが可能である。
【0169】
従って、入力信号に応じて、電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等が採用できる。電圧変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器1707として、一定長さの電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いることができる。また、パルス幅変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器1707として、一定の波高値の電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いることができる。
【0170】
シフトレジスタ1704やラインメモリ1705は、デジタル信号式のものでもアナログ信号式のものでも採用できる。すなわち、画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行われればよいからである。
【0171】
デジタル信号式を用いる場合には、同期信号分離回路1706の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があるが、これには同期信号分離回路1706の出力部にA/D変換器を設ければよい。これに関連してラインメモリ1705の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器に用いられる回路が若干異なったものとなる。すなわち、デジタル信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器1707には、例えばD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路などを付加する。パルス幅変調方式の場合、変調信号発生器1707には、例えば高速の発振器および発振器の出力する波数を計数する計数器(カウンタ)および計数器の出力値と前記メモリの出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合わせた回路を用いる。必要に応じて、比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0172】
アナログ信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器1707には、例えばオペアンプなどを用いた増幅回路を採用でき、必要に応じてシフトレベル回路などを付加することもできる。パルス幅変調方式の場合には、例えば、電圧制御型発振回路(VCO)を採用でき、必要に応じて電子放出素子の駆動電圧まで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0173】
このような構成をとりうる本発明の適用可能な画像表示装置においては、各電子放出素子に、容器外端子Dx1乃至Dxm、Dy1乃至Dynを介して電圧を印加することにより、電子放出が生じる。高圧端子Hvを介してメタルバックあるいは透明電極(不図示)に高圧を印加し、電子ビームを加速する。加速された電子は、蛍光膜1018に衝突し、発光が生じて画像が形成される。
【0174】
ここで述べた画像表示装置の構成は、本発明を適用可能な画像形成装置の一例であり、本発明の思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号についてはNTSC方式を挙げたが、入力信号はこれに限るものではなく、PAL,SECAM方式など他、これらより多数の走査線からなるTV信号(MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式をも採用できる。
【0175】
(はしご型電子源)
次に、前述のはしご型配置電子源基板およびそれを用いた画像表示装置について図42および図43を用いて説明する。
【0176】
図42において、1110は電子源基板、1111は電子放出素子、1112のDx1〜Dx10は前記電子放出素子に接続する共通配線である。電子放出素子1111は、基板1110上に、X方向に並列に複数個配置される(これを素子行と呼ぶ)。この素子行を複数個基板上に配置し、はしご型電子源基板となる。各素子行の共通配線間に適宜駆動電圧を印加することで、各素子行を独立に駆動することが可能になる。すなわち、電子ビームを放出させる素子行には、電子放出閾値以上の電圧の電子ビームを、放出させない素子行には電子放出閾値未満の電圧を印加すればよい。また、各素子行間の共通配線Dx2〜Dx9を、例えばDx2、Dx3を同一配線とするようにしてもよい。
【0177】
図43は、はしご型配置の電子源を備えた画像形成装置の構造を示す図である。1120はグリッド電極、1121は電子が通過するための空孔、1122はDox1、Dox2…Doxmよりなる容器外端子、1123はグリッド電極1120と接続されたG1、G2…Gnからなる容器外端子、1124は前述のように各素子行間の共通配線を同一配線とした電子源基板である。なお、図42、図43と同一の符号は同一の部材を示す。前述の単純マトリクス配置の画像形成装置との違いは、電子源基板1124とフェースプレート1086の間にグリッド電極1120を備えていることである。
【0178】
前述のパネル構造は、電子源配置が、マトリクス配線やはしご型配置のいずれの場合でも、大気圧構造上必要に応じて、フェースプレートとリアプレートの間にスペーサ部材(不図示)を設けることができる。
【0179】
基板1124とフェースプレート1086の中間には、グリッド電極1120が設けられている。グリッド電極1120は、表面伝導型電子放出素子から放出された電子ビームを変調することができるもので、はしご型配置の素子行と直交して設けられたストライプ状の電極に電子ビームを通過させるため、各素子に対応して1個ずつ円形の開口1121が設けられている。グリッドの形状や設置位置は必ずしも図43のようなものでなくともよく、開口としてメッシュ状に多数の通過口を設けることもあり、また例えば表面伝導型電子放出素子の周囲や近傍に設けてもよい。材料としては、導電性のあるもので且つ熱膨張率が表示パネル材に近いものが好ましい。たとえば、表示パネル材が青板ガラスとすると、426合金等がある。
【0180】
容器外端子1122およびグリッド容器外端子1123は、不図示の制御回路と電気的に接続されている。
【0181】
本画像形成装置では、素子行を1列ずつ順次駆動(走査)していくのと同期してグリッド電極列に画像1ライン分の変調信号を同時に印加することにより、各電子ビームの蛍光体への照射を制御し、画像を1ラインずつ表示することができる。
【0182】
また、本発明によればテレビジョン放送の表示装置のみならずテレビ会議システム、コンピュータ等の表示装置に適した画像形成装置を提供することができる。さらには感光性ドラム等で構成された光プリンターとしての画像形成装置として用いることもできる。
【0183】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳述する。
【0184】
[参考例1]
本参考例ではマルチ電子ビーム源として、前述した、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=180、M=60)の表面伝導型放出素子を、M本の行方向配線とN本の列方向配線とによりマトリクス配線(図32参照)したマルチ電子ビーム源を用いた。
【0185】
本参考例で用いる構造支持体(スペーサ)を以下のように作成した。板状形状の青板ガラス(ソーダライムガラス)を切削加工、研磨することにより、図1に示すように、電子源(カソード)側と電子線被照射部(アノード)側とを結ぶ線分を含む面の断面形状の広がり角θ=29度となるように作製した。なお、構造支持体の作成方法は切削加工に限定されることなく、モールド法や押し出し成形法、加熱延伸法でもよい。
【0186】
構造支持体の寸法は長手方向40mm、底面幅0.1mm、高さ0.2mmであり、θ=29度であるので、上面幅は約0.32mmである。図1に示すスペーサの側面、正面方向から見た断面図をそれぞれ図3、図4に示す。この構造支持体を行方向配線上に配置し、導電性フリットガラスを用いて構造支持体の底面と上面をそれぞれ行方向配線、アノード電極(黒色導電体)と電気的に接続して、電位を規定している。導電性フリッドガラスはフリットガラスに、表面を金コーティングした導電性微粒子を混合したものを使用している。本参考例では、上述のスペーサを使用し図32に示す表示パネルを作製した。
【0187】
以下、図32および図33を用いて詳述する。まず、あらかじめ基板上に行方向配線電極1013、列方向配線電極1014、電極間絶縁層(不図示)、および表面伝導型放出素子の素子電極と導電性薄膜を形成した基板1011を、リアプレート1015に固定した。電子源基板の作製方法は実施態様で示した通りである。次に、ソーダライムガラスからなる広がり角θを設けた絶縁性部材の構造支持体1020を基板1011の行方向配線1013上に等間隔で、行方向配線1013と平行に固定した。その後、基板1011の0.2mm上方に、内面に蛍光膜1018とブラックストライプという黒色導電体(不図示)が付設されたフェースプレート1017を側壁1016を介し配置し、リアプレート1015、フェースプレート1017、側壁1016およびスペーサ1020の各接合部を固定した。なお、側壁1016の真空側の面には前述した広がり角θを設けてある。
【0188】
基板1011とリアプレート1015の接合部、リアプレート1015と側壁1016の接合部、およびフェースプレート1017と側壁1016の接合部は、フリットガラス(不図示)を塗布し、大気中で400℃乃至500℃で10分以上焼成することで封着した。
【0189】
また、スペーサ1020は、基板1011側では行方向配線1013(線幅300[マイクロメートル])上に、フェースプレート1017側では行方向ブラックストライプ上に、導電性のフィラーあるいは金属等の導電材を混合した導電性フリットガラス(不図示)を介して配置し、上記気密容器の封着と同時に、大気中で400℃乃至500℃で10分以上焼成することで、接着しかつ電気的な接続も行った。
【0190】
なお、本参考例においては、蛍光膜1018は、図24に示すように、各色蛍光体が列方向(Y方向)に延びるストライプ形状を採用し、黒色の導電体1010は各色蛍光体(R,G,B)間だけでなく、Y方向の各画素間をも分離するように配置された蛍光膜が用いられ、スペーサ1020は、行方向(X方向)に平行な黒色の導電体1010領域(線幅350[マイクロメートル])内に配置された。なお、前述の封着を行う際には、各色蛍光体と基板1011上に配置された各素子とを対応させなくてはいけないため、リアプレート1015、フェースプレート1017およびスペーサ1020は十分な位置合わせを行った。
【0191】
以上のようにして完成した気密容器内を排気管(不図示)を通じ真空ポンプにて排気し、十分な真空度に達した後、容器外端子Dx1〜DxmとDy1〜Dynを通じ、行方向配線電極1013および列方向配線電極1014を介して各素子に給電して前述の通電フォーミング処理と通電活性化処理を行うことによりマルチ電子ビーム源を製造した。
【0192】
次に、10-6[Torr]程度の真空度で、不図示の排気管をガスバーナーで熱することで溶着し外囲器(気密容器)の封止を行った。
【0193】
最後に、封止後の真空度を維持するために、ゲッター処理を行った。
【0194】
以上のように完成した、図32および図33に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)1012には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号および変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子を放出させ、透明導電膜(不図示)には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出電子ビームを加速し、蛍光膜1018に電子を衝突させ、各色蛍光体(図24のR,G,B)を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは0.5[kV]ないし1[kV]、各配線1013,1014間への印加電圧Vfは14[V]とした。
【0195】
比較例として、広がり角θ=0、9、15、32、40(度)の構造支持体を作製し、上記に示した通りの方法で表示パネルを作製し、本参考例に基づく表示パネルとの比較検討を行った。スペーサ1020と側壁部1016に近い位置にある冷陰極素子1012からの放出電子による発光スポットも含め、すべての2次元状の発光スポット列に歪みや色ずれが無いかを全面白出力或いは画像出力を行い、主観的に評価を行った。その結果を図6に示す。
【0196】
等間隔の発光スポット列が形成され歪みや色ずれが気にならない程度のものはθ=9度から32度であり、全くないものはθ=29度であった。また、θ=40度は広がり角が大きいためにビームが構造支持体上部に直接入射してしまったと考えられる。上限の角度は画素ピッチとも関連しており、画素ピッチの大きな粗い画像形成装置にはさらに大きな角度でも適用できる可能性はある。
【0197】
放電耐圧に関しては、広がり角θ=0の場合と比較を行った結果、θ=9〜40(度)のいずれにおいても、放電耐圧の向上が確認された。ここで、放電耐圧とは放電が生じる上限のアノード電圧をいう。
【0198】
本参考例に基づいた構造支持体を用いることにより、鮮明で色再現性のよいカラー画像表示ができた。このことは、放電耐圧が高く、スペーサ1020を設置しても電子軌道に影響を及ぼすような電界の乱れは発生しなかったことを示している。なお、広がり角が40度の場合には、電子線が構造支持体に直接当たってしまい、ビームずれ量の上限に関しては、本参考例では確認できなかった。
【0199】
従来のθ=0度と比較して、効果が見られるのは
【0200】
【数13】
【0201】
であることが確認された。
【0202】
また、図42と図43に示すように(構造支持体は不図示)、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=180、M=60)の表面伝導型放出素子を配置したはしご型配置電子源基板をマルチ電子ビーム源として用いた場合についても、上記と同様の検討を行った。なお、基板とグリッド電極間、グリッド電極とフェースプレート間のそれぞれに構造支持体を設置しているため、構造は複雑となっている。その結果、マトリクス配置電子源基板の場合と全く同様の効果が得られ、本発明の有効性、有用性が示された。
【0203】
[参考例2]
本参考例ではマルチ電子ビーム源として、前述した、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=180、M=60)の表面伝導型放出素子を、M本の行方向配線とN本の列方向配線とによりマトリクス配線(図32参照)したマルチ電子ビーム源を用いた。
【0204】
本参考例で作製した構造支持体は、ベース材のアルミナの表面に三酸化クロムを真空蒸着にて薄膜形成した。なお、薄膜形成法は真空蒸着法に限定されること無く、スパッタ法、イオンプレーティング法、ディッピング法、スプレー法等が使用できる。薄膜形成後、大気雰囲気で900℃、8時間の焼成を行った。また、図5に示したように、側壁が広がり角θ=7度となるようにアルミナを切削加工、研磨して作製した。構造支持体の寸法は長手方向40mm、底面幅0.1mm、高さ0.2mmであり、θ=7度であるので、上面幅は約0.15mmである。この構造支持体を行方向配線上に配置し、導電性フリットガラスを用いて構造支持体の下面と上面をそれぞれ行方向配線、黒色の導電体1010領域(線幅350[マイクロメートル])に配置し、アノード電極と電気的に接続して、電位を規定している。導電性フリットガラスはフリットガラスに、表面を金コーティングした導電性微粒子を混合したものを使用している。
【0205】
本参考例では、表示パネルのその他の構成や作製方法は図32の参考例1と同様であるので省略する。
【0206】
図32および図33に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)1012には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号および変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子を放出させ、透明導電膜であるITO膜(不図示)には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出電子ビームを加速し、蛍光膜1018に電子を衝突させ、各色蛍光体21a(図24のR,G,B)を励起、発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは0.5[kV]ないし1[kV]、各配線1013,1014間への印加電圧Vfは14[V]とした。
【0207】
比較例として、広がり角θ=0、3、15、32、40(度)の構造支持体を作製し、上記に示した通りの方法で表示パネルを作製し、本参考例に基づく表示パネルとの比較検討を行った。スペーサ1020と側壁部1016に近い位置にある冷陰極素子1012からの放出電子による発光スポットも含め、すべての2次元状の発光スポット列に歪みや色ずれが無いかを全面白出力或いは画像出力を行い、主観的に評価を行った。その結果を図7に示す。等間隔の発光スポット列が形成され歪みや色ずれが気にならない程度のものはθ=2度から15度であった。放電耐圧に関しては広がり角θ=0の場合と比較を行った結果、θ=3〜40度のいずれにおいても、放電耐圧の向上が確認された。つまり本参考例に基づいた構造支持体を用いることにより、鮮明で色再現性のよいカラー画像表示ができた。このことは、放電耐圧が高く、スペーサ1020を設置しても電子軌道に影響を及ぼすような電界の乱れは発生しなかったことを示している。なお、θ=40度の構造支持体は直接ビームが構造支持体上部に入射してしまい、ビームずれという評価はできなかった。
【0208】
従来のθ=0度と比較して、効果が見られるのは
【0209】
【数14】
【0210】
であることが確認された。
【0211】
また、図42と図43に示すように(構造支持体は不図示)、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=360、M=120)の表面伝導型放出素子を配置したはしご型配置電子源基板をマルチ電子ビーム源として用いた場合についても、上記と同様の検討を行った。その結果、マトリクス配置電子源基板の場合と全く同様であり、本発明の有効性、有用性が示された。
【0212】
[参考例3]
本参考例ではマルチ電子ビーム源として、前述した、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=180、M=60)の表面伝導型放出素子を、M本の行方向配線とN本の列方向配線とによりマトリクス配線(図32参照)したマルチ電子ビーム源を用いた。
【0213】
本参考例で用いる構造支持体は図2に示す円錐形状のものである。構造支持体の材料にはアルミナを使用し、切削加工と研磨により作製した。広がり角θはθ=21度であり、カソード側直径φ50μm、アノード直径はφ200μm、そして高さは200μmである。
【0214】
この構造支持体を行、列方向配線の交点直上の行方向配線の上に配置し、導電性フリットガラスを用いて構造支持体の底面と上面をそれぞれ行方向配線、アノード電極(黒色導電体)と電気的に接続して、電位を規定している。導電性フリットガラスはフリットガラスに、表面を金コーティングした導電性微粒子を混合したものを使用している。
【0215】
本参考例では、表示パネルのその他の構成や作製方法は図32の参考例1と同様であるので省略する。
【0216】
以上のように完成した、図34および図35に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)1012には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号および変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子を放出させ、メタルバックには、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出電子ビームを加速し、蛍光膜1018に電子を衝突させ、各色蛍光体(図24のR,G,B)を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは0.5[kV]ないし1[kV]、各配線1013,1014間への印加電圧Vfは14[V]とした。
【0217】
比較例として、広がり角θ=0、7、36、40(度)の構造支持体を作製し、上記に示した通りの方法で表示パネルを作製し、本参考例に基づく表示パネルとの比較検討を行った。スペーサ1020と側壁部1016に近い位置にある冷陰極素子1012からの放出電子による発光スポットも含め、すべての2次元状の発光スポット列に歪みや色ずれが無いかを主観的に評価を行い、その結果を図8に示す。等間隔の発光スポット列が形成され歪みや色ずれが気にならない程度のものはθ=7度から36度であった。放電耐圧に関しては広がり角θ=0の場合と比較を行った結果、θ=7〜40(度)のいずれにおいても、放電耐圧の向上が確認された。つまり本参考例に基づいた構造支持体を用いることにより、放電耐圧が高く、鮮明で色再現性のよいカラー画像表示ができた。このことは、スペーサ1020を設置しても電子軌道に影響を及ぼすような電界の乱れは発生しなかったことを示している。なお、θ=40度の構造支持体は直接ビームが入射してしまい、ビームずれという評価はできなかった。
【0218】
従来のθ=0度と比較して、効果が見られるのは、
【0219】
【数15】
【0220】
であることが確認された。
【0221】
さらに構造支持体材料として、θ=29度のジルコニア、或いはアルミナとジルコニアの混合体を使用した場合においても、同様の効果が得られた。
【0222】
また、図42と図43に示すように(構造支持体は不図示)、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=180、M=60)の表面伝導型放出素子を配置したはしご型配置電子源基板をマルチ電子ビーム源として用いた場合についても、上記と同様の検討を行った。その結果、マトリクス配置電子源基板の場合と全く同様であり、本発明の有効性、有用性が示された。
【0223】
次に、構造支持体の断面形状が略台形形状を多段に重ねた構造である実施例1〜3について説明する。以下に述べる各実施例においても、マルチ電子ビーム源として、前述した電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=3072、M=1024)の表面伝導型放出素子を、M本の行方向配線とN本の列方向配線とによりマトリクス配線(図36参照)したマルチ電子ビーム源を用いた。
【0224】
[実施例1]
本実施例で用いる構造支持体(スペーサ)を以下のように作成した。板状形状の青板ガラス(ソーダライムガラス)を図9に示すように、電子源(カソード)側と電子線被照射部(アノード)側とを結ぶ線分を含む面の断面形状の広がり角θ=29度となるように切削加工、研磨して作製した。構造支持体の寸法は長手方向40mm、底面幅0.2mm、上面幅は0.4mm、高さ約3mmであり、θ=29度である。なお、ピッチhは0.18mmである。
【0225】
図9に示すスペーサの側面、正面方向から見た断面図をそれぞれ図11、図12に示す。構造支持体20の水平部(平坦部)にはAl薄膜からなる電極21を設置している。作製方法はレジスト塗布パターニング後、アノード側となる方向からAlを斜方蒸着し、エッチングを行うことにより形成した。この構造支持体を行方向配線上に配置し、導電性フリットガラスを用いて構造支持体の底面と上面をそれぞれ行方向配線、アノード電極と電気的に接続して、電位を規定している。導電性フリットガラスはフリットガラスに、表面を金コーティングした導電性微粒子を混合したものを使用している。本実施例では、上述のスペーサを使用し図36に示す表示パネルを作製した。
【0226】
以下、図36および図37を用いて詳述する。まず、あらかじめ基板上に行方向配線電極1013、列方向配線電極1014、電極間絶縁層(不図示)、および表面伝導型放出素子の素子電極と導電性薄膜を形成した基板1011を、リアプレート1015に固定した。電子源基板の作製方法は実施の形態で示した通りである。次に、ソーダライムガラスからなる広がり角θを設けた多段構造の絶縁性部材の構造支持体1020を基板1011の行方向配線1013上に等間隔で、行方向配線1013と平行に固定した。その後、基板1011の3mm上方に、内面に蛍光膜1018とメタルバック1019が付設されたフェースプレート1017を側壁1016を介し配置し、リアプレート1015、フェースプレート1017、側壁1016およびスペーサ1020の各接合部を固定した。なお、側壁1016の真空側の面には前述した構造支持体1020と同様に広がり角θの多段構造を設けてある。
【0227】
基板1011とリアプレート1015の接合部、リアプレート1015と側壁1016の接合部、およびフェースプレート1017と側壁1016の接合部は、フリットガラス(不図示)を塗布し、大気中で400℃乃至500℃で10分以上焼成することで封着した。
【0228】
また、スペーサ1020は、基板1011側では行方向配線1013(線幅300[マイクロメートル])上に、フェースプレート1017側ではメタルバック1019面上に、導電性のフィラーあるいは金属等の導電材を混合した導電性フリットガラス(不図示)を介して配置し、上記気密容器の封着と同時に、大気中で400℃乃至500℃で10分以上焼成することで、接着しかつ電気的な接続も行った。
【0229】
なお、本実施例においては、蛍光膜1018は、図24に示すように、各色蛍光体が列方向(Y方向)に延びるストライプ形状を採用し、黒色の導電体1010は各色蛍光体(R、G、B)間だけでなく、Y方向の各画素間をも分離するように配置された蛍光膜が用いられ、スペーサ1020は、行方向(X方向)に平行な黒色の導電体1010領域(線幅500[マイクロメートル])内にメタルバック1019を介して配置された。なお、前述の封着を行う際には、各色蛍光体と基板1011上に配置された各素子とを対応させなくてはいけないため、リアプレート1015、フェースプレート1017およびスペーサ1020は十分な位置合わせを行った。
【0230】
以上のようにして完成した気密容器内を排気管(不図示)を通じ真空ポンプにて排気し、十分な真空度に達した後、容器外端子Dx1〜DxmとDy1〜Dynを通じ、行方向配線電極1013および列方向配線電極1014を介して各素子に給電して前述の通電フォーミング処理と通電活性化処理を行うことによりマルチ電子ビーム源を製造した。
【0231】
次に、10-6[Torr]程度の真空度で、不図示の排気管をガスバーナーで熱することで溶着し外囲器(気密容器)の封止を行った。
【0232】
最後に、封止後の真空度を維持するために、ゲッター処理を行った。
【0233】
以上のように完成した、図36および図37に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)1012には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号及び変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子を放出させ、メタルバック1019には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出電子ビームを加速し、蛍光膜1018に電子を衝突させ、各色蛍光体(図24のR、G、B)を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは3[kV]ないし10[kV]、各配線1013,1014間への印加電圧Vfは14[V]とした。
【0234】
比較例として、構造支持体1020の突起長d=0.1mmを固定して、広がり角θ=0、9、15、40、60(度)の構造支持体を作製し、上記に示した通りの方法で表示パネルを作製し、本発明に基づく表示パネルとの比較検討を行った。スペーサ1020と側壁部1016に近い位置にある冷陰極素子1012からの放出電子による発光スポットも含め、すべての2次元状の発光スポット列に歪みや色ずれが無いかを全面白発光および動画表示し、主観的評価を行った。その結果を図13に示す。
【0235】
等間隔の発光スポット列が形成され歪みや色ずれが気にならない程度のものはθ=9度から60度であった。1)放電耐圧に関しては、広がり角θ=0の場合と比較を行った結果、θ=9〜60(度)のいずれにおいても、放電耐圧の向上が確認された。2)また図11、図12中の電極21のない構造支持体に関しても検討を行った結果、発光スポット列のずれはいずれのθにおいてもやや大きくなっている傾向が見られた。つまり本発明に基づいた構造支持体を用いることにより、放電耐圧が高く、鮮明で色再現性のよいカラー画像表示ができた。このことは、スペーサ1020を設置しても電子軌道に影響を及ぼすような電界の乱れは発生しなかったことを示している。
【0236】
従来のθ=0度と比較して、効果が見られるのは
【0237】
【数16】
【0238】
であることが確認された。
【0239】
また、図42と図43に示すように(構造支持体は不図示)、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=3072、M=1024)の表面伝導型放出素子を配置したはしご型配置電子源基板をマルチ電子ビーム源として用いた場合についても、上記と同様の検討を行った。その結果、マトリクス配置電子源基板の場合と全く同様であり、本発明の有効性、有用性が示された。
【0240】
[実施例2]
本実施例で作製した構造支持体は、ベース材はアルミナであるが、表面に三酸化クロムを真空蒸着にて薄膜形成した。なお、薄膜形成法は真空蒸着法に限定されること無く、スパッタ法、イオンプレーティング法、ディッピング法、スプレー法等が使用できる。成膜後、大気雰囲気900℃で8時間の焼成を行った。図5に示したように、側壁が広がり角θ=7度である多段構造となるようにアルミナを切削加工、研磨して作製した。構造支持体の寸法は長手方向40mm、底面幅0.2mm、上面幅は0.4mm、高さ約2.4mmであり、θ=7度である。なお、ピッチhは約0.81mmである。この構造支持体を行方向配線上に配置し、導電性フリットガラスを用いて構造支持体の底面と上面をそれぞれ行方向配線、アノード電極と電気的に接続して、電位を規定している。導電性フリットガラスはフリットガラスに、表面を金コーティングした導電性微粒子を混合したものを使用している。本実施例では、上述のスペーサを使用し図36に示す表示パネルを作製した。
【0241】
本実施例では、表示パネルのその他の構成や作製方法は図36の実施例1と同様であるので省略する。
【0242】
図36および図37に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)1012には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号及び変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子を放出させ、メタルバック1019には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出電子ビームを加速し、蛍光膜1018に電子を衝突させ、各色蛍光体21a(図24のR、G、B)を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは3[kV]ないし10[kV]、各配線1013,1014間への印加電圧Vfは14[V]とした。
【0243】
比較例として、構造支持体1020の突起長d=0.1mmを固定して、広がり角θ=0、2、15、40(度)の構造支持体を作製し、上記に示した通りの方法で表示パネルを作製し、本発明に基づく表示パネルとの比較検討を行った。スペーサ1020と側壁部1016に近い位置にある冷陰極素子1012からの放出電子による発光スポットも含め、すべての2次元状の発光スポット列に歪みや色ずれが無いかを全面白発光および動画表示し、主観的に評価を行った。その結果を図14に示す。等間隔の発光スポット列が形成され歪みや色ずれが気にならない程度のものはθ=2度から15度であった。放電耐圧に関しては、広がり角θ=0の場合と比較を行った結果、θ=2〜40(度)のいずれにおいても、放電耐圧の向上が確認された。また、図11、図12中の電極21のない構造支持体に関しても検討を行った結果、発光スポット列のずれはいずれのθにおいても弱千、大きくなる傾向が見られた。つまり本発明に基づいた構造支持体を用いることにより、放電耐圧が高く、鮮明で色再現性のよいカラー画像表示ができた。このことは、スペーサ1020を設置しても電子軌道に影響を及ぼすような電界の乱れは発生しなかったことを示している。
【0244】
従来のθ=0度と比較して、効果が見られるのは
【0245】
【数17】
【0246】
であることが確認された。
【0247】
また、図42と図43に示すように(構造支持体は不図示)、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=3072、M=1024)の表面伝導型放出素子を配置したはしご型配置電子源基板をマルチ電子ビーム源として用いた場合についても、上記と同様の検討を行った。その結果、マトリクス配置電子源基板の場合と全く同様であり、本発明の有効性、有用性が示された。
【0248】
[実施例3]
本実施例で用いる構造支持体は図10に示す円錐形状のものである。構造支持体の材料にはアルミナを使用し、モールド法により作製した。その後、仕上げ研磨を行い、表示パネルに使用する構造支持体とした。広がり角θはθ=21度であり、カソード側の最細部直径φ200μm、アノード側の最太部直径φ400μm、つまり突起長d=0.1mmであり、ピッチは0.26mmである。なお、構造支持体の高さは0.52mmとし、二段構造の構造支持体である。
【0249】
この構造支持体を行、列方向配線の交点直上の行方向配線の上に配置し、導電性フリットガラスを用いて構造支持体の底面と上面をそれぞれ行方向配線、アノード電極と電気的に接続して、電位を規定している。導電性フリットガラスはフリットガラスに、表面を金コーティングした導電性微粒子を混合したものを使用している。
【0250】
本実施例では、表示パネルのその他の構成や作製方法は図36の実施例1と同様であるので省略する。
【0251】
以上のようにして完成した、図38および図39に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)1012には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号及び変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子を放出させ、メタルバック1019には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出電子ビームを加速し、蛍光膜1018に電子を衝突させ、各色蛍光体(図24のR、G、B)を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは0.5[kV]ないし3[kV]、各配線1013,1014間への印加電圧Vfは14[V]とした。なお、本実施例3では加速電圧が低いため、メタルバック(図38、図39中)を略した構造をとっている。
【0252】
比較例として、構造支持体1020の突起長d=0.1mmを固定して、広がり角θ=0、7、42、60(度)の構造支持体を作製し、上記に示した通りの方法で表示パネルを作製し、本発明に基づく表示パネルとの比較検討を行った。スペーサ1020と側壁部1016に近い位置にある冷陰極素子1012からの放出電子による発光スポットも含め、すべての2次元状の発光スポット列に歪みや色ずれが無いかを全面白発光および動画表示し、主観的に評価を行った。その結果を図15に示す。等間隔の発光スポット列が形成され歪みや色ずれが気にならない程度のものはθ=7度から42度であった。放電耐圧に関しては広がり角θ=0の場合と比較を行った結果、θ=7〜60(度)のいずれにおいても、放電耐圧の向上が確認された。つまり本発明に基づいた構造支持体を用いることにより、放電耐圧の高い、鮮明で色再現性のよいカラー画像表示ができた。このことは、スペーサ1020を設置しても電子軌道に影響を及ぼすような電界の乱れは発生しなかったことを示している。
【0253】
従来のθ=0度と比較して、効果が見られるのは
【0254】
【数18】
【0255】
であることが確認された。
【0256】
さらに、構造支持体として、θ=29度のジルコニア、そしてアルミナとジルコニアの混合体を使用した場合においても、同様の効果が得られた。
【0257】
また、図42と図43に示すように(構造支持体は不図示)、電極間の導電性微粒子膜に電子放出部を有するタイプのN×M個(N=3072、M=1024)の表面伝導型放出素子を配置したはしご型配置電子源基板をマルチ電子ビーム源として用いた場合についても、上記と同様の検討を行った。その結果、マトリクス配置電子源基板の場合と全く同様であり、本発明の有効性、有用性が示された。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係わる構造支持体の概略斜視図である。
【図2】 本発明に係わる他の構造支持体の概略斜視図である。
【図3】 本発明に係わる構造支持体の側面図である。
【図4】 本発明に係わる構造支持体の正面図である。
【図5】 本発明における実施例で使用した構造支持体の材料物性一覧を示す図である。
【図6】 本発明に係わる第一の参考例の主観評価結果を示す図である。
【図7】 本発明に係わる第二の参考例の主観評価結果を示す図である。
【図8】 本発明に係わる第三の参考例の主観評価結果を示す図である。
【図9】 本発明における実施例の構造支持体の概略斜視図である。
【図10】 本発明における他の実施例の構造支持体の概略斜視図である。
【図11】 本発明における実施例の構造支持体の側面図である。
【図12】 本発明における実施例の構造支持体の正面図である。
【図13】 本発明における第一の実施例の主観評価結果を示す図である。
【図14】発明における第二の実施例の主観評価結果を示す図である。
【図15】 本発明における第三の実施例の主観評価結果を示す図である。
【図16】 二次電子放出係数δと入射エネルギーの関係の模式図である。
【図17】 帯電が安定した状態における構造支持体表面の二次電子ホッピングを示す模式図である。
【図18】 帯電が安定した状態における傾斜面を有する構造支持体表面の二次電子ホッピングを示す模式図である。
【図19】 帯電が安定した状態における傾斜面を有する構造支持体表面の二次電子ホッピングを示す詳細図である。
【図20】 本発明の多段形状の帯電安定状態における電子線のホッピング模式図である。
【図21】 本発明における構造支持体の許容角度を求める方法を示す流れ図である。
【図22】 本発明における構造支持体の許容角度を求める方法詳細図である。
【図23】 表示パネルのフェースプレートの蛍光体配列を例示した平面図である。
【図24】 表示パネルのフェースプレートの蛍光体配列を例示した平面図である。
【図25】 実施例で用いた平面型の表面伝導型放出素子の平面図(a)、断面図(b)である。
【図26】 平面型の表面伝導型放出素子の製造工程を示す断面図である。
【図27】 通電フォーミング処理の際の印加電圧波形を示す図である。
【図28】 通電活性化処理の際の印加電圧波形(a)、放出電流Ieの変化(b)である。
【図29】 実施例で用いた垂直型の表面伝導型放出素子の断面図である。
【図30】 垂直型の表面伝導型放出素子の製造工程を示す断面図である。
【図31】 実施例で用いた表面伝導型放出素子の典型的な特性を示すグラフである。
【図32】 本発明の参考例である画像表示装置の、表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図33】 本発明の参考例である表示パネルのA−A′断面図である。
【図34】 本発明の参考例である画像表示装置の、表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図35】 本発明の参考例である表示パネルのA−A′断面図である。
【図36】 本発明の実施例である画像表示装置の、表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図37】 本発明の実施例である表示パネルのA−A’断面図である。
【図38】 本発明の実施例である画像表示装置の、表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図39】 本発明の実施例である表示パネルのA−A′断面図である。
【図40】 実施例で用いたマルチ電子ビーム源の基板の平面図である。
【図41】 実施例で用いたマルチ電子ビーム源の基板の一部断面図である。
【図42】 はしご型配置電子源基板の平面図である。
【図43】 はしご型配置電子源基板を用いた画像表示装置の表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図44】 本発明の実施例である画像表示装置の駆動回路の概略構成を示すブロック図である。
【図45】 従来知られた表面伝導型放出素子の一例を示す図である。
【図46】 従来知られたFE型素子の一例を示す図である。
【図47】 従来知られたMIM型素子の一例を示すである。
【図48】 画像表示装置の表示パネルの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【符号の説明】
1011 基板
1012 冷陰極素子
1013 行方向配線
1014 列方向配線
1015 リアプレート
1016 側壁
1017 フェースプレート
1018 蛍光膜
1019 メタルバック
1020 スペーサ
Claims (7)
- 電子を放出する電子源と、前記電子源より放出された電子を照射する電子線被照射部と、前記電子源と前記電子線被照射部との間に配置された構造支持体と、を有する電子線装置において、
前記構造支持体の前記電子源と前記電子線被照射部を結ぶ線分を含む面方向の断面形状が略台形形状を多段に重ねた構造であると共に該略台形形状の側壁部が前記電子源から前記電子線被照射部方向に次式で表される角度θの範囲で広がる構造を有することを特徴とする電子線装置。
- 前記多段構成の構造支持体の水平部に導電性部材を設置してあることを特徴とする請求項1に記載の電子線装置。
- 前記構造支持体が絶縁部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの請求項に記載の電子線装置。
- 断面形状が略台形形状を多段に重ねた構造である前記構造支持体として、アルミナ或いはジルコニア、またはアルミナとジルコニアの混合体を使用し、該構造支持体の多段に構成された側壁部の広がり角が7度から42度の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれかの請求項に記載の電子線装置。
- 断面形状が略台形形状を多段に重ねた構造である前記構造支持体として、ソーダライムガラスを使用し、該構造支持体の側壁部の広がり角が9度から60度の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれかの請求項に記載の電子線装置。
- 断面形状が略台形形状を多段に重ねた構造である前記構造支持体として、Cr 2 O 3 を薄膜形成した絶縁部材を使用し、該構造支持体の側壁部の広がり角が2度から14度の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれかの請求項に記載の電子線装置。
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