JP3665071B2 - 新規なリセプター型チロシンキナーゼ - Google Patents
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Description
技術分野
本発明は新規なリセプター型チロシンキナーゼ、及び該リセプター型チロシンキナーゼに対し反応性を有する抗体に関する。更に詳細には、本発明は、血液未分化細胞においては発現するが、血液未分化細胞の分化に伴い発現レベルが低下する、新規なリセプター型チロシンキナーゼ、及び該リセプター型チロシンキナーゼに対し反応性を有する抗体に関する。本発明のリセプター型チロシンキナーゼに対し反応性を有する抗体を用いることにより、生物学的サンプルに含まれ、該リセプター型チロシンキナーゼを表面に有している血液未分化細胞を該生物学的サンプルから単離することができ、又生物学的サンプルに含まれる上記の血液未分化細胞を特異的に検出することができる。更に本発明は、少なくともそのリセプター型チロシンキナーゼ活性を阻害又は賦活化するか、或いはその発現を抑制する化学物質のスクリーニング方法にも関する。更に本発明は、上記のリセプター型チロシンキナーゼをコードするDNA;複製可能な発現ベクターに上記のリセプター型チロシンキナーゼをコードするDNAが発現可能に組み入れられてなる、複製可能な組換えDNA;およびその組換えDNAにより形質転換された微生物又は真核細胞;上記のリセプター型チロシンキナーゼをコードするcDNAを利用して作製したセンスDNA断片及びアンチセンスDNA断片並びにそれらの誘導体;及びセンスRNA断片及びアンチセンスRNA断片並びにそれらの誘導体に関する。
従来技術
ヒトの血液中には多種類の細胞があり、それぞれが重要な役割を担っている。例えば、赤血球は体内での酸素運搬を、血小板は止血作用を、白血球は免疫系を構成して感染を防御している。これらの多様な細胞は骨髄中の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞は体内の種々の造血因子や環境要因により影響を受け、各種血液細胞、破骨細胞、肥満細胞などに分化することが近年明らかにされてきた。この造血因子として、赤血球への分化についてはエリスロポエチン(EPO)が、白血球への分化については顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)が発見され、現在すでに臨床応用がなされている。しかし造血幹細胞を含む骨髄細胞、末梢血細胞、臍帯血細胞等の血液未分化細胞の、血液細胞への分化及び増殖のメカニズムについては、未だ不明な点が多い。又、この細胞群を分化及び増殖させる因子はその存在が指摘されているにも関わらず発見されていないものがあり、又そのような因子を発見するための有効な手法も見い出されていない。
近年の研究からチロシンキナーゼが動物、昆虫の発生や分化に大きく関わっていることが明らかになっており、血液未分化細胞の分化においてもチロシンキナーゼが大きく関与していると考えられる。
タンパク質中に存在するアミノ酸であるチロシンを特異的にりん酸化する酵素であるチロシンキナーゼは、細胞外から細胞内へのシグナル伝達、さらに細胞核内における遺伝子の転写調節を司る重要な物質である。また、これらのチロシンキナーゼをコードする遺伝子の転座、点変異により細胞が癌化したりする異常が起こることが知られている。さらに、これらをコードする遺伝子に類似した遺伝子を持つウイルスに感染することにより、細胞が癌化したり、生物個体に癌が生じることが知られている。したがって、チロシンキナーゼを理解し、その遺伝子構造、タンパク質構造を知ることは癌などに代表される細胞の異常増殖状態に起因する病気の診断・治療にとって極めて重要である。たとえば、PCR(Polymerase Chain Reaction)などの遺伝子増幅法を利用したり、DNA、RNAプローブを用いたり、制限酵素を用いたりして、チロシンキナーゼの遺伝子の一部もしくは全部を検出することにより、生体中の点変異や遺伝子組換え、発現量の有無を調べ、血液疾患などの病気の診断に利用しうる。
チロシンキナーゼは、タンパク質のチロシン残基をりん酸化する酵素であり、その生理活性部位は約250個のアミノ酸残基から構成さている。また、チロシンキナーゼ群のアミノ酸配列の中には、きわめてよく保存された配列があり(Hanks et al. Science 241:42,1988)、保存されたアミノ酸配列に対応するDNA配列を設計し、RT(Reverse Transcription)−PCR法のプライマーとして利用すれば、新たにチロシンキナーゼ遺伝子断片を得ることができる(Wilks. Methods in Enzymology 200:533,1991)。
リセプター型チロシンキナーゼの一種であるc−kitは血液未分化細胞の表面に発現しており、c−kitに対するモノクローナル抗体は血液未分化細胞の単離の研究、増殖に関する研究に利用され、さらに、血液中のc−kit量が特定の白血病の病態と相関していることが指摘され、モノクローナル抗体を利用したc−kitの血液中の濃度測定が診断薬として開発されようとしている。また、c−kitは、肥満細胞増殖因子でなおかつ血液未分化細胞の増殖因子の1つであるステムセルファクター(SCF)のリセプターであることがわかっており(Witte. Cell 63: 5,1992)、このリセプター型チロシンキナーゼを介して細胞の分化が制御されている。この様なリセプター型チロシンキナーゼの細胞外部分に特異的に結合するリガンドは、一般に結合にともない細胞内の酵素活性を上昇させ、細胞内に情報を伝達し、その結果、生理活性を発生させる。
発明の概要
血液細胞の分化過程を研究するにあたり、有効な手段はその目的に見合った細胞株、もしくは細胞を利用することにあるが、ヒト巨核芽球白血病細胞株UT−7(日本国、自治医科大学血液科、小松則夫講師より入手可能)は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF),インターロイキン3(IL−3)などの造血因子に依存して増殖する細胞株であり、GM−CSF存在下でPMA(Phorbol 12−Myristate 13−Acetate)にて刺激すると巨核球に分化し、また、エリスロポエチン存在下で酪酸にて刺激すると赤芽球に分化する多分化能を持った細胞である(Komatsu et al.Cancer Res. 51:341,1991)。したがって、UT−細胞の利用は血液未分化細胞の分化のメカニズムの研究に有効であると考えられる。
本発明者らは、RT−PCR法を用いて、ヒト巨核芽球白血病細胞株UT−7から血液未分化細胞の分化に関与するチロシンキナーゼ遺伝子のクローニングを行った。その結果、UT−7細胞が未分化な状態ではmRNA発現が強く認められるが、巨核球への分化に伴い発現が認められなくなる新規なリセプター型チロシンキナーゼを見い出した。この遺伝子断片をプローブとして用い、ヒト胎盤及びヒト胎児肝臓のcDNAライブラリーから、全長をコードするcDNAを得、その全塩基配列を決定し、新規なリセプター型チロシンキナーゼポリペプチドを発現する細胞を作製し、さらにこのポリペプチドを単離した。更に、該ポリペプチドに対し反応性を有する抗体を作製し、この抗体を用いて血液未分化細胞を検出、又は単離する方法を確立した。また更に、上記のポリペプチドを用いた新規な化学物質のスクリーニング方法を確立した。
従って、本発明の一つの目的は、血液未分化細胞に特異的に発現する新規なリセプター型チロシンキナーゼ及びそれをコードするDNAを提供することにある。
更に本発明の他の一つの目的は、血液未分化細胞の分化及び増殖のメカニズムの解明に用いることのできる、上記のリセプター型チロシンキナーゼポリペプチドに対し反応性を有する抗体、及び該抗体を用いて該リセプター型チロシンキナーゼポリペプチドを発現している血液未分化細胞を単離又は検出する方法を提供することにある。
更に本発明の他の一つの目的は、リセプター型チロシンキナーゼ活性の阻害又は賦活化能、或いは上記のリセプター型チロシンキナーゼの発現抑制能を指標にして、本発明のリセプター型チロシンキナーゼのシグナル伝達を調節することができる血液未分化細胞分化増殖因子等の化学物質のスクリーニング方法を提供することにある。
更に本発明の他の一つの目的は、本発明のリセプター型チロシンキナーゼ遺伝子発現の確認や、細胞内における遺伝子発現の調整に有利に用いることのできる、センスDNA断片及びアンチセンスDNA断片並びにそれらの誘導体、又、センスRNA断片及びアンチセンスRNA断片並びにそれらの誘導体を提供することにある。
本発明の上記及びその他の諸目的、該特徴ならびに諸利益は、添付の配列表を参照しながら述べる次の詳細な説明及び請求の範囲の記載から明らかになる。
配列表の簡単な説明
配列表において:
配列番号1のアミノ酸配列は、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの、シグナルペプチドを除いた細胞外ドメインの配列であり、配列番号4に示した本発明のリセプター型チロシンキナーゼ全アミノ酸配列のアミノ酸番号第1〜522番に相当しており;
配列番号2のアミノ酸配列は、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの、細胞内ドメイン内に含まれるリセプター型チロシンキナーゼ酵素活性部分の配列であり、配列番号4に示した本発明のリセプター型チロシンキナーゼ全アミノ酸配列のアミノ酸番号第600〜859番に相当しており;
配列番号3のアミノ酸配列は、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの、シグナルペプチドを除いた、細胞外ドメイン、膜透過ドメイン及び細胞内ドメインの全ドメインの配列であり、配列番号4に示した本発明のリセプター型チロシンキナーゼ全アミノ酸配列のアミノ酸番号第1〜972番に相当しており;
配列番号4は、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの全アミノ酸配列、及び該リセプター型チロシンキナーゼの全cDNA配列であり;
配列番号5は、後述の実施例2で使用するセンスプライマーの塩基配列であり;
配列番号6は、後述の実施例2で使用するアンチセンスプライマーの塩基配列であり;そして
配列番号7は、後述の実施例8で使用する塩基配列及びそれがコードするオリゴペプチドである。
なお、配列番号1〜4及び7に表わされた各アミノ酸配列の左端及び右端はそれぞれN末端及びC末端であり、又、配列番号4〜7に表わされた塩基配列の左端及び右端はそれぞれ5’末端及び3’末端である。
発明の詳細な説明
即ち、本発明の一つの態様によれば、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有し、配列表の配列番号1、2及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有する単離されたポリペプチド、又は該ポリペプチドの、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体が提供される。
又、本発明の他の態様によれば、上記のポリペプチド又は相同変異体をコードする単離されたDNA,上記のDNAが、複製可能な発現ベクターに発現可能に組み入られてなる複製可能な組換えDNA,該複製可能な組換えDNAにより形質転換された微生物または真核細胞が提供される。
本発明において、“リセプター型チロシンキナーゼ活性"とは、チロシンキナーゼが本来有している、チロシン残基をりん酸化する酵素活性、リセプター型チロシンキナーゼにおいてその細胞外ドメインがリガンドを認識して結合する機能、及びリセプター型チロシンキナーゼにおいてその細胞内ドメイン中のアミノ酸残基(主にチロシン残基)をりん酸化して、りん酸化した部位において他の細胞内タンパク質と結合して、その細胞内タンパク質を結合部位においてりん酸化する機能のうち少なくとも1つを含むものとする。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼは配列表の配列番号1、2及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有するが、自然界で生じることが知られている種内変異、アレル変異等の突然変異及び人為的に作製可能な点変異による変異によって生じる、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体も、本発明のリセプター型チロシンキナーゼに含まれる。
また、アミノ酸レベルの変異がなくとも、自然界から分離した染色体DNAまたはcDNAにおいて、遺伝コードの縮重により、そのDNAがコードするアミノ酸配列を変化させることなくDNAの塩基配列が変異した例はしばしば認められる。また5’非翻訳領域及び3’非翻訳領域はポリペプチドのアミノ酸配列の規定に関与しないので、それらの領域のDNA配列は変異しやすい。このような遺伝コードの縮重によって得られる塩基配列も本発明のDNAに含まれる。
更に、上記したリセプター型チロシンキナーゼ活性を有し配列番号1、2及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有するポリペプチドの、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体をコードするDNAも、本発明のDNAに含まれる。
本発明において、遺伝子操作に必要なcDNAの作製、ノーザンブロットによる発現の検討、ハイブリダイゼーションによるスクリーニング、組換えDNAの作製、DNAの塩基配列の決定、cDNAライブラリーの作製等の一連の分子生物学的な実験は通常の実験書に記載の方法によって行うことができる。前記の通常の実験書としては、たとえば、Maniatisらの編集したMolecular Cloning, A laborartorymanual, 1989, Eds., Sambrook,J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T., Cold Spring Harbor Loboratory Pressを挙げることができる。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼのcDNAを得る工程は、後述する実施例1〜6に記載した通りである。即ち、まず、公知のチロシンキナーゼ遺伝子に特徴的なアミノ酸配列に対応したプライマーを用いて、PCRを行う。PCR用プライマーの作製並びにPCRはWilksの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1603, 1989)で行うことができる。すなわち、市販のDNA合成機で適当なオリゴヌクレオチドを作成し、精製してPCR用プライマーを得る。次いでPCR用プライマーを、上記したヒト巨核芽球白血病細胞株UT−7のcDNA溶液に加えPCRを行い、得られるPCR産物をクローニングし遺伝子配列を決定したところ、配列表の配列番号4の塩基配列の第2642番から第2812番に相当していた。この配列はチロシンキナーゼ酵素活性部位の中央部分をコードしており、細胞内シグナル伝達に重要な役割を果たすアミノ酸配列をコードする。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼcDNA全配列のクローニングには、前記の方法にてクローニングしたcDNA断片をアイソトープ標識、又は非アイソトープ標識し、UT−7細胞株のcDNAライブラリーをハイブリダイゼーションなどの方法にてスクリーニングすることによって得ることができる。アイソトープの標識法としては、たとえば[32P]γ−ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて末端をラベルする方法や、他のニックトランスレーション法またはプライマー伸長法などによる標識法が利用できる。
こうして得られた本発明のリセプター型チロシンキナーゼのcDNA塩基配列を、配列表に配列番号4としてそれがコードするアミノ酸配列と共に示した。塩基配列は409塩基よりなる5’非翻訳領域、それに続く2961塩基よりなる本発明のリセプター型チロシンキナーゼをコードする領域、及びさらにそれに続く919塩基よりなる3’非翻訳領域からなる。また、本発明のリセプター型チロシンキナーゼのアミノ酸配列は、配列表の配列番号4のアミノ酸配列の−15番から−1番にあたる15アミノ酸から構成されるシグナルペプチド、配列表の配列番号4のアミノ酸配列の1番から522番にあたる522アミノ酸で構成される細胞外部分、配列表の配列番号4のアミノ酸配列の523番から548番にあたる26アミノ酸から構成される細胞膜貫通部分、配列表の配列番号4のアミノ酸配列の549番から972番にあたる424アミノ酸から構成される細胞内部分、より構成される。さらに、細胞内部分においては配列表の配列番号4のアミノ酸配列の600番から859番にあたる260アミノ酸はチロシンキナーゼ酵素活性部分である。尚、本発明のリセプター型チロシンキナーゼcDNAの全塩基配列を含むベクターpBSRTKFULLを大腸菌JM109(日本国、東洋紡社製)に遺伝子導入した形質転換細胞は、日本国通産省工業技術院生命工学工業技術研究所において寄託番号FERM BP−4883として1994年11月11日に寄託されている。
尚、本発明のリセプター型チロシンキナーゼのcDNAは、UT−7以外にも、血液細胞株であるヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562(日本国理化学研究所、細胞開発銀行より入手可能、No.RCB0027)及びヒト急性巨核芽球性白血病細胞株CMK(Blood 74:42,1989)等から、又非血液細胞株では肝細胞ガン細胞株Hep3B[アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(以下ATCCと示す)より入手可能、HB8064]及びヒト胎児肺繊維芽細胞株MRC−5(日本国理化学研究所、細胞開発銀行より入手可能、No.RCB0211)等から、後述する実施例1〜6と実質的に同様の操作で得ることができる。
配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞外部分のシグナルペプチドを除いた部分のアミノ酸配列を有するポリペプチドに相当し、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞内チロシンキナーゼ酵素活性部分のアミノ酸配列を有するポリペプチドに相当する。また、配列表の配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは本発明のリセプター型チロシンキナーゼのシグナルペプチドを除いた部分のアミノ酸配列を有するポリペプチドに相当する。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼペプチドは、すでにクローニングされているリセプター型チロシンキナーゼであるヒトEPH(Hirai et al., Science, 238, 1717-1720, 1987)、ヒトECK(Lindberg and Hunter, Mol. Cell. Biol., 10, 6316-6324, 1990)、ラットELK(Lhotak et al., Mol. Cell. Biol., 11, 2496-2502, 1991)、ヒトHEK(Wicks et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 89, 1611-1615, 1992)、マウスSEK(Gilardi-Hebenstreit et al., Oncogene, 7, 2499-2506, 1992)、チキンCek−5(Pasquale, Cell Regulation, 2, 523-534, 1991)と類似した構造を持つが、そのアミノ酸配列のホモロジーは最も高い場合のELKで56.3%であり、これらの遺伝子とは全く異なった新規なアミノ酸配列を有する。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼは、公知の遺伝子工学的手法により、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有し、且つ配列表の配列番号1、2及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードするDNAか、又は該ポリペプチドの、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体をコードするDNAを、複製可能な発現ベクターに発現可能に組み込み、微生物または真核細胞(たとえば昆虫細胞や動物細胞)を宿主とする形質転換体を得て、その形質転換体から得ることができる。本発明のリセプター型チロシンキナーゼをより安定な条件で産生させたい場合には真核細胞、特に動物培養細胞を宿主として用いるのが好ましい。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼ、それをコードするDNA及び該リセプター型チロシンキナーゼを産生する形質転換体は、リセプター型チロシンキナーゼの基礎的な解析研究から、リセプター型チロシンキナーゼを介したシグナル伝達系を特異的に制御する抗癌剤を初めとする医薬品などの医療分野に関わる化学品の開発、ドラッグデザインの研究に使用することができる。
上記したように、本発明のリセプター型チロシンキナーゼ遺伝子のmRNAの発現は、上記したヒト巨核芽球白血病細胞株UT−7が未分化な条件ではmRNAの発現が見られるが、巨核球へと分化するにともないmRNAの発現が見られなくなり、他の巨核芽球細胞株においても同様な現象が確認できる。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼの血液未分化細胞における発現を検出する方法としては、配列表の配列番号4の遺伝子配列の一部もしくは全配列を鋳型として設計した合成オリゴヌクレオチドを用いたノーザンブロットでも可能であるが、より簡便に検出するには本発明のリセプター型チロシンキナーゼに対し反応性を有する抗体を用いた方法がよい。モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の作製は配列表の配列番号3に示したアミノ酸配列の一部もしくは全部を免疫原として常法にて作成可能であり、特に細胞外部分(配列番号1)に対する抗体は細胞を生きた状態で検出可能であり、より有効な手段である。また更に、後述するように、本発明のリセプター型チロシンキナーゼに対し反応性を有する抗体を用いて、本リセプター型チロシンキナーゼを発現している血液未分化細胞を効率的に単離することもできる。
即ち、本発明の更に他の一つの態様によれば、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有し、配列表の配列番号1、2及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有するポリペプチドか、又は該ポリペプチドの、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体に対し、反応性を有する抗体が提供される。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼに特異的な抗体を作製する方法の一例を、後述する実施例8に示す。この様にして作製したモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの3株38−1E、66−3Aおよび68−3Aは、日本国通産省工業技術院生命工学工業技術研究所において、それぞれ、寄託番号FERM BP−4884、FERM BP−4885、FERM BP−4886として1994年11月11日に各々寄託されている。
本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞外ドメインに対し反応性を有する抗体の作製は、上記のようにして得られたポリペプチドを免疫原として、常法により本発明のリセプター型チロシンキナーゼを特異的に認識するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作成できる。
このモノクローナル抗体から、モノクローナル抗体のアミノ酸配列をコードする遺伝子、特に抗体遺伝子の可変領域をPCR法などの遺伝子工学的な方法で分離して、マウス、ヒト、ラット等の抗体をコードする遺伝子に遺伝子工学的な手法によってつなぎ、本発明のリセプター型チロシンキナーゼを認識するキメラ抗体をコードする遺伝子を得て、これを発現ベクターにつなぎ、動物細胞などの真核細胞、バクテリアなどの原核細胞に遺伝子導入して、本発明のリセプター型チロシンキナーゼを認識するキメラ抗体を産生させることができる。さらに、抗体の形状としては抗体全体でもかまわないが、抗体の可変領域のみを発現させる形にしたFab型、ファージなどを利用した一本鎖ペプチド型などの形で発現させることが可能である。本発明の抗体には、上記したキメラ抗体やFab型、一本鎖ペプチド型等のリコンビナント抗体及びそれらのアナログも含まれる。
本発明の抗体は、所望ならば、シャーレや磁気ビーズ等の固体支持体に固定した形で使用してもよい。
このようにして作製した抗体、特に細胞外部分を抗原として認識するモノクローナル抗体は、末梢血、骨髄液、臍帯血等に浮遊する血液細胞中に少量存在する血液未分化細胞を識別できるため、血液未分化細胞の単離や検出に有利に利用できる。
即ち、本発明の更に他の態様によれば、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有するポリペプチドを含む体細胞を単離する方法にして、
(1)リセプター型チロシンキナーゼ活性を有し、配列表の配列番号1及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は該ポリペプチドの、チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体を抗原として表面に有する体細胞を含む生物学的サンプルに、上記した本発明の抗体を、該抗原と該抗体とが抗原抗体複合体を形成する条件下で接触させ、それによって抗原抗体反応混合物を得;そして
(2)該ポリペプチド又は該相同変異体を抗原抗体複合体の形で含む上記の体細胞を、抗原抗体反応混合物から単離する、
ことを包含する方法が提供される。
上記の生物学的サンプルの例としては、血液未分化細胞を含有する水性懸濁液や血液未分化細胞を含有する体液よりなるサンプル等が挙げられる。
また、上記工程(2)の後、抗体を抗原抗体複合体から分離して、抗体と複合していない形の本発明のリセプター型チロシンキナーゼを含む体細胞を得ることもできる。
抗体を抗原抗体複合体から分離する方法としては、例えば、たたくなどの物理的な刺激、パパイン、キモパパイン、トリプシン等のプロテアーゼなどの酵素処理、溶液のPHや、塩濃度の変化などにより抗体を抗原抗体複合体から外す方法がある。また、抗原又は抗体を酵素により消化して本発明のリセプター型チロシンキナーゼを発現している細胞を分離することもできる。
血液未分化細胞の単離の方法としては、細胞を該モノクローナル抗体で染色してフローサイトメーターにより単離する方法があるが、より大量且つ簡便に行うためには、抗体をシャーレ等の基材表面の上に固定したものを用いるパンニング法、磁気ビーズなどを用いるカラム法等による方法が望ましいが、これらの方法に限定されるものではない。
上記の方法は、血液未分化細胞の分化・増殖のメカニズムの解明に有用であるのみならず、本発明のリセプター型チロシンキナーゼを発現している造血幹細胞を含む、上記のようにして得られる単離された血液未分化細胞は、後述する実施例9に示すように、抗CD34抗体を用いて単離された血液未分化細胞と同等またはより高いコロニー形成能を有しており、現在行なわれている骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血幹細胞移植等に応用可能である。
また、本発明の更に他の態様によれば、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有するポリペプチドを検出する方法にして、
(1)リセプター型チロシンキナーゼ活性を有し、配列表の配列番号1、2及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は該ポリペプチドの、チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体を抗原として含む生物学的サンプルに、上記した本発明の抗体を、該抗原と該抗体とが抗原抗体複合体を形成する条件下で接触させ、それによって抗原抗体反応混合物を得;そして
(2)該ポリペプチド又は該相同変異体を抗原抗体複合体の形で検出する、
ことを包含する方法が提供される。
上記の生物学的サンプルの例としては、体細胞の単離方法と同様、血液未分化細胞を含有する水性懸濁液や血液未分化細胞を含有する体液よりなるサンプル等がある。
上記の検出方法としてはフローサイトメーターによる方法が一般的であるが、他の公知の抗原抗体反応を利用する検出法も利用できる。また、血清、血漿中に存在する本発明のリセプター型チロシンキナーゼの検出は、リセプター型チロシンキナーゼであるc−erbB2やc−kitが腫瘍マーカーとして有効であるとの報告から、同様に腫瘍マーカーの検出に利用できる可能性がある。その場合には、本発明のリセプター型チロシンキナーゼに対する抗原認識部位の異なる2種の抗体を用いたサンドイッチ型酵素抗体法が望ましいと考えられる。
また、本発明の更に他の態様によれば、リセプター型チロシンキナーゼ活性を阻害又は賦活化することができるか、或いは、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有するポリペプチドの発現を抑制する化学物質をスクリーニングする方法にして、
(1)サンプル材料を、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有し、配列番号1、2及び3からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含有する単離されたポリペプチド、又は該ポリペプチドの、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有する相同変異体に接触させ、該ポリペプチド又は該相同変異体が有するリセプター型チロシンキナーゼ活性に対する阻害能又は賦活化能、或いは該ポリペプチド又は該相同変異体の発現抑制能を指標にして、少なくとも該ポリペプチド又は該相同変異体の有するリセプター型チロシンキナーゼ活性を阻害又は賦活化させるか、或いは該ポリペプチド又は該相同変異体の発現を抑制する化学物質を検出し;そして
(2)検出した化学物質をサンプル材料から単離する、
ことを包含する方法が提供される。
この方法によって、本発明のリセプター型チロシンキナーゼに結合して、該リセプター型チロシンキナーゼの自己りん酸化(autophosphorylation)を抑制するか又は促進することによりリセプター型チロシンキナーゼ活性を阻害又は賦活化することができるか、或いは、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの発現を抑制する化学物質、例えば後述の実施例10に示すような巨核球分化因子であるインターロイキン1α(IL−1α)等のスクリーニングが可能である。また、本発明のリセプター型チロシンキナーゼのシグナル伝達を調節することができるために医薬品としての有用性が期待される未知の血液未分化細胞分化増殖因子等の新規な化学物質をスクリーニングできる可能性もある。
配列表の配列番号4の配列で表される塩基配列の一部と対をなす単離されたアンチセンスDNA断片及びアンチセンスRNA断片並びにそれらがメチル化、メチルフォスフェート化、脱アミノ化、又はチオフォスフェイト化された誘導体は、血液未分化細胞の分化の研究や血液未分化細胞の分化制御剤などの医薬品に利用可能である。又、配列表の配列番号4の塩基配列の一部を有する単離されたセンスDNA断片及びアンチセンスDNA断片あるいはそれらの誘導体、又それに対応する配列を有する単離されたセンスRNA断片及びアンチセンスRNA断片あるいはそれらの誘導体、により細胞内の発現を調節する事も可能である。さらに、これらのDNA断片、RNA断片及びそれらの誘導体を用いて、後述する実施例7に示したように本発明のリセプター型チロシンキナーゼのmRNAの発現を確認する事ができる。本発明の単離されたセンスDNA断片、アンチセンスDNA断片、センスRNA断片、及びアンチセンスRNA断片並びにそれらの誘導体は12mer以上であればよいが、14merから16mer以上がより望ましい。
発明を実施するための最良の形態
以下実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例になんら限定されるものではない。
実施例1 ヒト巨核芽球白血病細胞株UT−7のPoly(A) + RNAの調製
UT−7細胞(日本国、熊本大学医学部遺伝発生医学研究施設分化制御部門須田年生教授もしくは日本国、自治医科大学血液科小松則夫講師より入手可能)の培養、継代は、培地として牛胎児血清(FCS、以下本実施例で使用したFCSは全てオーストラリア国、フィルトロン社製)を10%含むイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)を用い、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGM−CSF)を2ng/mlとなるように加え、CO2インキュベーターにて37℃の条件で行った。未刺激細胞は、同じ条件で培養した細胞を用いた。巨核球に分化させる際には、細胞濃度2×105cells/mlに希釈し、ヒト顆粒球単球コロニー形成因子(hGM−CSF)を2ng/mlとなるように加え、さらにフォルボール 12−ミリステート 13−アセテート(PMA)(米国、シグマ社製)を10ng/mlとなるように加え、3日間培養後細胞を回収した。これらの各条件で培養した細胞を各々細胞数1×108個回収し、カルシウム、マグネシウムを含まないダルベッコ改変リン酸バッファー(PBS(−)、日本国、ニッスイ社製)にて3回洗浄し、RNAの抽出に用いた。
回収した細胞から塩化リチウム/尿素法(Lithium Chloride/Urea法:Eur.J.Biochem.107:303(1980))にて全RNAを抽出した。次に、Oligotex−dT 30(日本国、宝酒造社製)にて、Poly(A)+RNAを分離・精製した。
実施例2 チロシンキナーゼに特異的なプライマーの作成
Wilksの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1603,1989)に従い、公知のチロシンキナーゼに比較的共通するアミノ酸配列を有するチロシンキナーゼのサブドメイン7と9に対応し、かつ制限酵素の認識部位を連結した混合プライマー、すなわちセンスプライマーPTKI:5'-TTGTCGACAC(AC)G(AG)GA(CT)(CT)T(CG)GC(ACGT)GC(ACGT)(AC)G-3'、(27mer:制限酵素の認識部位としてSalI部位が付加されている、配列表の配列番号5に記載)およびアンチセンスプライマーPTKII:3'-CT(AG)CA(CG)ACC(AT)(CG)(AG)A(AT)ACCTTAAGGT-5'(24mer:制限酵素の認識部位としてEcoRI部位が付加されている、配列表の配列番号6に記載)を用い以下のPCRを行った。
合成オリゴヌクレオチドは固相法を原理とする全自動DNA合成機を使用して作成した。全自動DNA合成機としては米国のアプライドバイオシステム社391PCR−MATEを使用した。ヌクレオチド、3'-ヌクレオチドを固定した担体、溶液、および試薬は同社の指示に従って使用した。所定のカップリング反応を終了し、トリクロロ酢酸で5’末端の保護基を除去したオリゴヌクレオチド担体を濃アンモニア中にて室温で1時間放置することにより担体からオリゴヌクレオチドを遊離させた。次に、核酸及びリン酸の保護基を遊離させるために、核酸を含む反応液を、封をしたバイアル内において濃アンモニウム溶液中で55℃にて14時間以上放置した。担体及び保護基を遊離した各々のオリゴヌクレオチドの精製を米国のアプライドバイオシステム社のOPCカートリッジを使用して行い、2%トリフロオロ酢酸で脱トリチル化した。精製後のプライマーは最終濃度が1μg/μlとなるように脱イオン水に溶解してPCRに使用した。
実施例3 cDNAの合成
実施例1により得られたPoly(A)+RNAを用いてcDNAの合成を行った。すなわち、Poly(A)+RNAの2μgを脱イオン水12.3μlに溶解し、10×緩衝液(500mM KCl、100mM Tris−HCl(pH8.3)、15mM MgCl20.01% ゼラチン)2μl、dNTP Mixture(日本国、宝酒造社製)4μl、前述のチロシンキナーゼに特異的なアンチセンスプライマーPTKII(1μg/μl、配列表の配列番号6に記載)1μl、アビアンミエロブラストシスウイルス逆転写酵素(avian myeloblastosis virus reverse transcriptase:Life Science 社:32U/μl)0.2μl、及びRNaseインヒビター(独国、ベーリンガー社製:40U/μl)0.5μl加えて37℃で75分間放置後、65℃で10分間放置した。
実施例4 チロシンキナーゼに特異的なプライマーによるPCR
PCRによる増幅は以下のように行った。実施例3で得られたcDNA溶液20μlを使用し、10×緩衝液(500mM KCl、100mM Tris−HCl(pH8.3)、15mM MgCl2、0.01% ゼラチン)8μl、dNTP Mixture(日本国、宝酒造社製)6.4μl、前述のチロシンキナーゼに特異的なセンスプライマーPTKI(1μg/μl、配列表の配列番号5に記載)1.5μl、及びTaqDNAポリメラーゼ(AmpliTaq、米国、パーキンエルマー社製:5U/μl)0.2μlを加え、最後に脱イオン水を加えて全量を100μlとして、94℃で1分間、37℃で2分間、72℃を3分間からなる工程を1サイクルとして、この工程を40サイクル行い、最後に72℃にて7分間放置してPCRを行った。このPCR産物の一部を2%アガロースゲル電気泳動を行い、エチジュウムブロマイドにて染色後、紫外線下で観察し、約210bpのcDNAが増幅されていることを確認した。
実施例5 PCR産物のクローニング及び塩基配列の決定
PCR産物の全量を低融点アガロースにて作成した2%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジュウムブロマイドにて染色後、紫外線照射下にて約210bpのバンドを切り出し、ゲルと同体積の蒸留水を加え、65℃にて10分間加熱し、ゲルを完全に溶かした後、等量のTE飽和フェノール(日本国、日本ジーン社製)を加えて、15000rpm5分間遠心分離後上層を分取し、更にTE飽和フェノール:クロロフォルム(1:1)溶液、次にクロロフォルムにて同様な分離操作を行った。最終的に得られた溶液からcDNAをエタノール沈澱して回収した。回収したcDNAを制限酵素EcoRI(日本国、宝酒造社製)及びSalI(日本国、宝酒造社製)にて消化したのち、ベクターへの組み込みに用いた。
ベクターとしてはpBluescript II KS(米国、ストラタジーン社製、以下pBluescriptと示す)を用い、先のcDNAを組み込む前に、制限酵素EcoRI及びSalIにて消化した。これらの処理を行ったベクターと先のcDNAのモル比が1:5となるように混ぜ合わせて、T4DNAリガーゼ(米国、ニューイングランドバイオラボ社製)にてベクターにcDNAを組み込んだ。cDNAが組み込まれたpBluescriptを大腸菌JM109に遺伝子導入し、アンピシリンを50μg/ml含むL−Broth半固型培地のプレートに蒔き、12時間程度37℃に放置し、現れてきたコロニーをランダムに選択し、cDNAが組み込まれていることを制限酵素EcoRI及びSalIにて消化して、210bpのcDNAが切れ出されてくることをにより確認し、確認されたクローンについて、組み込まれているcDNAの塩基配列を米国、アプライドバイオシステム社の螢光シークエンサー モデル373Aにて決定した。その結果、未刺激のUT−7細胞からはクローニングされたが、巨核球に分化された場合にはクローニングされなかったチロシンキナーゼ遺伝子断片を得た。この遺伝子断片は配列表の配列番号4の2642番目から2812番目であった。
実施例6 cDNAライブラリーの作成及び新規チロシンキナーゼ遺伝子の全長クローニング及びその解析
前述の方法にて分離精製された未刺激状態のUT−7細胞のPoly(A)+RNAを用いてcDNAライブラリーを作成した。UT−7cDNAライブラリーの作成にはpCDM8ベクターcDNAライブラリー作成キット(オランダ国、インビトロゲン社製)を用い、添付の作成方法に従って作成した。さらに、前述の方法に従ってヒト胎盤よりPoly(A)+RNAを精製し、cDNAライブラリーを作成した。ヒト胎盤cDNAライブラリーの作成にはλZAPIIcDNAライブラリー作成キット(米国、ストラタジーン社製)を用い、添付の作成方法に従って作成した。
次に、これらのcDNAライブラリーからコロニーハイブリダイゼーションもしくはプラークハイブリダイゼーションにて全長cDNAを持ったクローンの検索を5×105相当のコロニーもしくはプラークから行った。出現したコロニーもしくはプラークをナイロンフィルター(Hybond N+:英国、アマシャム社製)に転写し、転写したナイロンフィルターをアルカリ処理(1.5M NaCl、0.5M NaOHを染み込ませたろ紙上に7分間放置)し、次いで中和処理(1.5M NaCl、0.5M Tris−HCl(pH7.2)、1mM EDTAを染み込ませたろ紙上に3分間放置)を2回行い、次にSSPE溶液(0.36M NaCl、0.02M リン酸ナトリウム(pH7.7)、2mM EDTA)の2倍溶液中で5分間振とう後洗浄し、風乾した。その後、0.4M NaOHを染み込ませたろ紙上に20分間放置し、5倍濃度のSSPE溶液で5分間振とう後洗浄し、再度風乾した。このフィルターを用いて放射性同位元素32Pにて標識されたcDNAプローブにてスクリーニングを行った。
放射性同位元素32Pにて標識されたcDNAプローブは以下のように作成した。すなわち、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの部分cDNAが組み込まれたpBlue−scriptより、SalIとEcoRIにてベクターより切り出し、低融点アガロースゲルからDNA断片を精製回収した。得られたcDNA断片をDNAラベリングキット(Megaprime DNA labeling system:英国、アマシャム社製)を用いて標識した。すなわち、DNA25ngにプライマー液5μl及び脱イオン水を加えて全量を33μlとして沸騰水浴を5分間行い、その後、dNTPを含む反応緩衝液10μl、α−32P−dCTP5μl、及びT4DNAポリヌクレオチドキナーゼ溶液2μlを加えて、37℃で10分間水浴し、更にその後、セファデックスカラム(Quick Spin Column Sephadex G−50:独国、ベーリンガーマンハイム社製)で精製し、5分間沸騰水浴をしたのち、2分間氷冷後使用した。
前述の方法にて作成したフィルターを、各々の成分の最終濃度が5倍濃度のSSPE溶液、5倍濃度のデンハルト液、0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、及び10mg/mlの沸騰水浴により変性したサケ精子DNAであるプレハイブリダイゼーション液中に浸し、65℃にて2時間振とうしたのち、前述の方法で32標識されたプローブを含むプレハイブリダイゼーション液と同一組成のハイブリダイゼーション液に浸し、65℃にて16時間振とうし、ハイブリダイゼーションを行った。
次に、フィルターを0.1%SDSを含むSSPE溶液に浸し、65℃にて振とうし2回洗浄後、さらに0.1%SDSを含む10倍希釈したSSPE溶液に浸し、65℃にて4回洗浄した。洗浄を終了したフィルターを増感スクリーンを使用して、オートラジオグラフィーを行った。その結果、強く露光された部分のクローンを拾い、再度コロニー及びプラークを蒔き直し前述の方法にてスクリーニングを行い、完全に単独のクローンを分離した。
UT−7のライブラリーから分離されたクローンのうちインサートサイズの大きい2クローンを前掲のManiatisらの実験書に掲載の方法に従いプラスミドを精製し、制限酵素XhoIにて消化し、低融点アガロース電気泳動にてcDNAを精製し、pBluescriptに組み込んだ。組み込まれたcDNAのサイズはおよそ3.0kbp及び1.6kbpであった。また、ヒト胎盤ライブラリーから分離されたクローンのうちインサートサイズの大きい2クローンをManiatisらの実験書に掲載の方法に従いファージDNAを精製し、制限酵素EcoRIにて消化し、同様にpBluescriptに組み込んだ。組み込まれたcDNAのサイズはおよそ3.8kbp(clone2)及び3.5kbp(clone9)であった。
これらのクローンのcDNAの両端の遺伝子配列をスウェーデン国、ファルマシア社ALFDNAシークエンサーおよびスウェーデン国、ファルマシア社ALFシークエンサー用ラベリングキットを用い、添付の使用説明書に従い決定した。さらに全長の塩基配列決定を行うため日本国、宝酒造株式会社キロシークエンス用デリーションミュータント・キットを用い、添付の使用説明書に従い、デリーションミュタントを作成し、cDNAの両方向についての塩基配列を決定した。
その結果、全長のcDNAがクローニングされていないことが判明したため、さらにclone2の制限酵素XhoIサイトから5’部分の約200bp(配列表の配列番号3の484番から696番に当たる)を用いて、市販のヒト胎児肝臓cDNAライブラリーλgt11(Clontech社製)を同様な方法にてスクリーニングした結果、XhoIサイトより5’方向のcDNAを含むクローン(clone M1、配列表の配列番号3の1番から1214番目に当たる)がクローニングでき、遺伝子配列をシークエンスして、本発明の全長cDNA遺伝子の塩基配列が決定された。
全長の遺伝子配列を持ったDNAの作製は配列表の配列番号3に記載のDNAのXhoIサイトを用いて上記のclone2とcloneM1のつなぎ、ライブラリーのリンカーのEcoRIサイトを用いてpBluescriptのEcoRIサイトにサブクローニングして作製し、最終的に配列表の配列番号4に記載した本発明のリセプター型チロシンキナーゼの全cDNAの塩基配列を有するDNA断片を含むベクターpBSRTKFULLが完成した。尚、この遺伝子を含むベクターpBSRTKFULLを大腸菌JM109(日本国、東洋紡社製)に遺伝子導入した形質転換細胞は、日本国通産省工業技術院生命工学工業技術研究所において寄託番号FERM BP−4883として1994年11月11日に寄託した。
実施例7 ノーザンブロッティングによるmRNAの発現の確認
本新規リセプター型チロシンキナーゼのmRNAの発現を調べるため、あらかじめmRNAが転写されているフィルターである。米国、クローンテック社 Human Multiple Tissue Northern Blot、Human Multiple Tissue Northern Blot II、Human Fetal Multiple Tissue Northern Blot並びに実施例1に示した方法にて回収されたmRNAをアガロースゲル電気泳動し、Zeta−Prob(米国、バイオラッド社製)にトランスファーして作成したフィルターを用い、pBSRTKFULLを制限酵素SmaIにて消化して、1%のアガロースゲルで電気泳動を行い、746bpの断片(配列表の配列番号4の610番目から1355番目)を切り出し、Geneclean II(米国、BIO101社製)を用いて精製した遺伝子断片を前掲のDNAラベリングキット(MegaPrime DNA labeling system:英国、アマシャム社製)にて前述の方法で32P標識し発現を調べた。
その結果、ヒト成人組織のうち心臓、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、すい臓、脾臓、前立腺、卵巣で発現が認められた。しかしながら、脳、胸腺、精巣、小腸、大腸、末梢血リンパ球においては発現が認められなかった。また、ヒト胎児組織では心臓、肺、肝臓、腎臓において発現が認められたが、脳においては発現が認められなかった。
また、血液細胞株では、前述の骨髄巨核芽球性白血病細胞株UT−7、ヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562(日本国、理化学研究所、細胞開発銀行より入手可能、No.RCB0027)及びヒト急性巨核芽球性白血病細胞株CMK(Blood 74:42,1989)に発現されており、非血液細胞株では肝細胞ガン細胞株Hep3B[アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(以下ATCCと示す)より入手可能、HB8064]及びヒト胎児肺繊維芽細胞株MRC−5(日本国、理化学研究所、細胞開発銀行より入手可能、No.RCB0211)に発現が認められた。さらに、UT−7、K562、CMKに於いてはPMAによる細胞分化を起こさせるとその発現がほぼ完全に認められなくなることが確認された。しかしながら、ヒトさい帯血から樹立された細胞株KMT−2(日本国、理化学研究所、細胞開発銀行より入手可能、No.RCB0712),ヒト慢性骨髄性白血病細胞株KG1a(ATCCより入手可能、CCL246.1)、急性リンパ球性白血病細胞株MOLT−4(ATCCより入手可能、CCL1582)に於いては発現が認められなかった。
以上のことから、この遺伝子は血液細胞が未分化の状態において発現されており、血液細胞が分化することにともない、その発現が消失することが推察された。したがって、本発明のリセプター型チロシンキナーゼは血液幹細胞の維持、巨核球分化に関連すると考えられた。
実施例8 本発明のリセプター型チロシンキナーゼ発現細胞株の作成及び本発明のリセプター型チロシンキナーゼを認識する抗体の作成
得られた配列表の配列番号1のアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードするDNA、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードするDNA、及び配列表の配列番号3のアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードするDNAの上流にSV40ウィルスの初期プロモーター及び下流にSV40ウィルスのPoly(A)+シグナル、さらにジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子をつないだ発現プラスミドを構築した。このプラスミドを精製し、その20μgをグルコース液に懸濁したCHO/dhFr-細胞(ATCC CRL9096)に導入した。導入には米国、バイオラド社のジーンパルサーを用い、600Vの電圧をかけることで、遺伝子導入を行った。細胞は2日間、10%牛胎児血清を含む培地で培養後、メトトキセート(MTX)剤を含む培地(ダルベッコMEM,10%透析牛胎児血清)で培養し、遺伝子導入による形質転換細胞を選択した。この細胞からmRNAを抽出し、オリゴdTゲルカラムによりPoly(A)+RNAを得て、電気泳動後、フィルターに電気的に移し、固定後常法により、本発明のリセプター型チロシンキナーゼ遺伝子でハイブダイズしたところ、mRNAが発現していることを確認した。これにより、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞外部分、酵素活性部分、及び全長を発現している形質転換細胞を得たことを確認した。
また、これらのタンパクの発現を確認するため、配列表の配列番号1、配列番号2、及び配列番号3のアミノ酸配列のC末端部から20アミノ酸部分のアミノ酸配列を持ったポリペプチドを常法に従いペプチド合成機により作成し、かぶとがに由来ヘモシアニン(KLH)とカップルさせ免疫源を作成し、これを兎に免疫し、それぞれのポリペプチドに対する抗血清を取得した。
上記形質転換細胞の細胞破砕産物及び細胞培養上清をポリアクリルアミドゲル電気泳動し、それをニトロセルロースメンブランに写し、作成された抗血清を用いてウエスタンブロットを行った。その結果、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞外部分を発現している形質転換細胞は細胞培養上清中に約80キロダルトンのタンパクのバンドが確認され、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの酵素活性部分及び全長を発現している形質転換細胞株は細胞破砕産物中に各々30キロダルトン及び130キロダルトンのタンパクのバンドが確認され、これらの形質転換細胞株が各々に対応したポリペプチドを産生していることを確認した。細胞外部分及び全長のポリペプチドはアミノ酸組成から予想される分子量よりともにおよそ20キロダルトン大きく、糖鎖付加されていると予想される。
また、本発明のリセプター型チロシンキナーゼ細胞外部分を特異的に認識するモノクローナル抗体を作成するために、米国、コダック社製IBI FLAGシステムを用いて、(詳細はIBI FLAG Epitope.1、1、1992年 コダック社を参照のこと)配列表の配列番号1のアミノ酸配列を持つポリペプチドのC末端に8アミノ酸、すなわち配列表の配列番号7に示したアミノ酸配列であるAsp Tyr Lys Asp Asp Asp Asp Lysを持つポリペプチドを付加したポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターを上記の方法と同様に作成し、同様に形質転換細胞株を得た。この細胞培養上清から米国、コダック社製Anti−FLAG M2 Affinity Gelを用いたアフィニティーカラム法にて本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞外部分とFLAGとの融合タンパクを精製した。
上記のように精製された本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞外部分とFLAGの融合タンパクをBalb/cマウス(日本国、日本エスエルシー社製)に1匹あたり10μgを皮下・皮内に免疫した。2回の免疫後、眼底採血を行い血清中の抗体価の上昇を認めた後、3回目の免疫を行ってからマウスの脾臓細胞を取り出し、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8(ATCC TIB9)とポリエチレングリコール法にて細胞融合を行った。HAT培地(日本国、日本免疫生物研究所製)にてハイブリドーマを選択し、酵素抗体法にて本発明のリセプター型チロシンキナーゼの細胞外部分を認識する抗体を培地中に産生しているハイブリドーマ株を3株分離した。これらのハイブリドーマを38−1E、66−3A及び68−3Aと名付けた。これらのハイブリドーマ3株38−1E、66−3Aおよび68−3Aは、日本国通産省工業技術院生命工学工業技術研究所において、それぞれ、寄託番号FERM BP−4884、FERM BP−4885、FERM BP−4886として1994年11月11日に各々寄託した。
これらの細胞培養上清中からスウェーデン国、ファルマシア社製抗体精製キットMabtrapGを用いて、添付の取扱い説明書に従いモノクローナル抗体を精製した。このようにして作成された3種のモノクローナル抗体を用いて、本発明のリセプター型チロシンキナーゼの全長を発現する遺伝子導入細胞株及びUT−7の細胞破砕物のウエスタンブロットを行ったところ、130キロダルトンのバンドを特異的に認識することが確認でき、本発明のリセプター型チロシンキナーゼを認識するモノクローナル抗体を樹立した。
実施例9 本発明のリセプター型チロシンキナーゼを認識する抗体を用いた細胞の単離
本発明の抗リセプター型チロシンキナーゼ抗体が造血未分化細胞を検出しうる抗体であることを示すため、造血未分化細胞を検出しうる抗CD34抗体との類似性を検討した。臍帯血80mlにシリカ懸濁液(日本国、免疫生物研究所)3mlを添加し37度の温度で1時間インキュベートした。その後15mlのハンクス生理食塩水(米国、ギブコ社)を添加し、フィコールパック液(スウェーデン国、ファルマシア社)に重層し、800回転20分の遠心操作により形成した単核細胞層を回収し、ハンクス生理食塩水により2回洗浄し単核の細胞を得た。この細胞の5×105細胞を含む懸濁液に抗新規リセプター型チロシンキナーゼ抗体100μg/mlを氷上で反応させ、フィコエリスリン標識した抗IgG抗体(米国、ベクトンデッキンソン社製)で染色及び洗浄後、IgG抗体(米国、ベクトンデッキンソン社製)存在下でインキュベートし、FITC標識した抗CD34抗体(米国、ベクトンデッキンソン社製)を反応させた。これらの細胞を英国、コールター社のフローサイトメーターEPICS ELITEで測定した。フローサイトメーターの測定法は、付属のマニュアルに従った。その結果、38−1E抗体、66−3A抗体、68−3A抗体、抗CD34抗体に対する陽性細胞は、それぞれ2.8%、0.5%、3.9%、4.0%であった。また、各本発明の抗リセプター型チロシンキナーゼ抗体陽性細胞中のCD34陽性細胞率は、38−1E抗体、66−3A抗体、68−3A抗体のそれぞれ52%、67%、56%であり、本発明の抗リセプター型チロシンキナーゼ抗体により染色された多くの細胞が血液未分化細胞を検出していることが示された。
またさらに、本発明の抗リセプター型チロシンキナーゼ抗体で血液未分化細胞を単離しうることを確認した。臍帯血35mlにシリカ懸濁液(日本国、免疫生物研究所)3.5mlを添加し、37度の温度で1時間インキュベートした。その後10mlのハンクス生理食塩水(米国、ギブコ社)を添加し、その細胞懸濁液をフィコールパック液(スウェーデン国、ファルマシア社)に重層し、800回転20分の遠心操作により形成した単核細胞層を回収し、ハンクス生理食塩水で2回洗浄し単核の細胞を得た。この細胞の一部4×104個を含む細胞懸濁液に本発明の抗リセプター型チロシンキナーゼ抗体38−1Eまたは68−3Aを100μg/mlになるように加え、氷上で反応させ、洗浄後、米国、アプライドイムノサイエンス(AIS)社のマイクロセレクター(抗マウスIgG抗体コーティング)を用いて、本発明の抗リセプター型チロシンキナーゼ抗体が反応した細胞をパンニング法にて分離した。マイクロセレクターは、日本国、旭メディカル社より購入し、その使用方法は付属のマニュアルに従った。コントロールとして単核の細胞を抗CD34抗体(米国、ベクトンデッキンソン社製、抗HPCA−1抗体)で同様の方法で分離した。得られた細胞を使用し、半固形培地によるコロニー形成能を測定した。半固形培地は、カナダ国、テリーフォックス社の培地を使用し、その使用方法はテリーフォックス社の発行したマニュアルに従った。つまり、細胞は、半固形培地に懸濁後、4枚の35ミリのディッシュ(米国、ファルコン社)に1mlずつ添加し、5%炭酸ガス、95%空気、37度の温度、高湿度条件下で14日培養した。形成したコロニー数は、顕微鏡下で計測した。以上の操作により38−1E抗体、68−3A抗体、抗CD34抗体のコロニー数はそれぞれ157個、182個、113個であった。即ち、本発明の抗リセプター型チロシンキナーゼ抗体である38−1E、68−3Aは、抗CD34抗体で単離した血液未分化細胞に較べ、より高いコロニー形成能を有する血液未分化細胞を単離していた。
実施例10 本発明のリセプター型チロシンキナーゼを用いた巨核球分化因子のスクリーニング
ヒト胎児繊維芽細胞株MRC−5(日本国、理化学研究所、細胞開発銀行より入手可能、No.RCB0211)のmRNAから作成したcDNAライブラリーの一部のDNAを導入した細胞の培養上清から巨核球白血病細胞株UT−7における本発明のリセプター型チロシンキナーゼの発現を低下させる物質のスクリーニングを行った。
発現ライブラリーの作成は東洋紡社のOkayama−Berg cDNA Library synthesis Kit を用い行った。また、UT−7上における本発明のリセプター型チロシンキナーゼの発現の有無は実施例8で樹立されたモノクローナル抗体を用いたフローサイトメーター(EPICS Elite、米国、コールター社)にて行った。
実施例1に記載した条件で培養したUT−7を最終細胞数が2×105cells/mlとなるように調整し、これに対し上記の方法で作成した発現ライブラリーをCOS細胞に遺伝子移入して作成した形質転換細胞の培養上清を加え、2日間培養後細胞を回収し、UT−7上の本発明のリセプター型チロシンキナーゼの発現を低下させる培養上清のライブラリーのクローニングを行った。その結果、UT−7上の本発明のリセプター型チロシンキナーゼの発現の低下がみられる培養上清を産生するCOS細胞クローンが得られ、そのクローンよりプラスミドを回収し、インサートの遺伝子配列を調べたところ、既に既知の遺伝子であるヒトインターロイキン1α(IL−1α)と同一であった。過去の研究によるとIL−1αは巨核球系細胞のコロニー形成に関与することが知られている(Briddell et al.,Blood 79:332,1992;Takahashi et al.,Br. J Haematol. 78:480,1991)。これらの結果から、本発明のリセプター型チロシンキナーゼを用いることにより巨核球細胞に作用し、血小板の増加に関与する生理活性物質を探し出すことが可能であることが示された。
産業上の利用可能性
本発明のリセプター型チロシンキナーゼは、血液未分化細胞においては発現するが、血液未分化細胞の分化に伴い発現レベルが低下する。従って、本発明のリセプター型チロシンキナーゼに対し反応性を有する抗体を用いることにより、生物学的サンプルに含まれる、該リセプター型チロシンキナーゼが細胞表面に結合している血液未分化細胞をサンプルから単離することができ、又生物学的サンプルに含まれる上記のような血液未分化細胞を特異的に検出することができる。上記の方法は、血液未分化細胞の分化・増殖のメカニズムの解明に有用であるのみならず、本発明のリセプター型チロシンキナーゼを発現している造血幹細胞を含む、単離された血液未分化細胞は、現在行なわれている骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血幹細胞移植等に応用可能である。更に本発明のリセプター型チロシンキナーゼを用いて、少なくともそのリセプター型チロシンキナーゼ活性を阻害又は賦活化するか、或いはその発現を抑制することのできる、血液未分化細胞分化増殖因子等の化学物質をスクリーニングすることもできる。
配列表
配列番号1
配列の長さ:522
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:タンパク質
起源
生物名:ヒト
配列
配列番号2
配列の長さ:260
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:タンパク質
起源
生物名:ヒト
配列
配列番号3
配列の長さ:972
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:アミノ酸
起源
生物名:ヒト
配列
配列番号4
配列の長さ:4290及び987
配列の型:核酸及びアミノ酸
鎖の数:二本鎖及び一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:cDNA to mRNA、及びアミノ酸
起源
生物名:ヒト
ただし遺伝子配列のXは遺伝子配列が未決定。
配列
配列番号5
配列の長さ:27
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA
起源:化学合成法による
配列:
配列番号6
配列の長さ:24
配列の型:核酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA
起源:化学合成法による
配列:
配列番号7
配列の長さ:27及び8
配列の型:核酸及びアミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:DNA及びアミノ酸
起源:化学合成法による
配列:
Claims (3)
- 血液未分化細胞を単離または検出する方法であって、リセプター型チロシンキナーゼ活性を有し、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を含有するポリペプチドに対する抗体を用いることを特徴とする血液未分化細胞を単離または検出する方法。
- 抗体がFERM BP−4884、BP−4885及びBP−4886からなる群より選ばれる受託番号であるハイブリドーマにより産生される抗体である請求項1に記載の血液未分化細胞を単離または検出する方法。
- 血液未分化細胞が半固形培地中でコロニー形成する血液未分化細胞である請求項1あるいは2に記載の血液未分化細胞を単離または検出する方法。
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