JP3663691B2 - 出力軸摺動型スタータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、出力軸と共にピニオンを前方へ押し出して、エンジンのリングギヤに噛み合わせる出力軸摺動型スタータに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電磁スイッチの吸引力によって出力軸を前方へ押し出すことにより、出力軸の先端に設けられたピニオンをリングギヤに噛み合わせる出力軸摺動型スタータ(特開昭63−90665号公報参照)が知られている。
【0003】
この出力軸摺動型スタータの一例を図13に示す。
このスタータ100は、回転力を発生する電動機110、回転力伝達機構(中間ギヤ120と一方向クラッチ130)を介して電動機110のアーマチュア111と並列に配された出力軸140、出力軸140の図中右方へ付勢して、非作動(静止)位置に保持する復帰スプリング141、出力軸140の先端に装着されたピニオン150、出力軸140の後方に配された電磁スイッチ160等より構成されている。
電磁スイッチ160は、コイル161が通電されて励磁されることにより、プランジャ162が固定鉄心163に吸引されて作動し(図中左側へ移動する)、そのプランジャ162に連結されたロッド170を介して出力軸140の後端側内部に配されたボール180を押圧し、復帰スプリング141の付勢力に抗して出力軸140を前方へ押し出すことにより、ピニオン150とリングギヤ190との噛み合いを行わせる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の出力軸摺動型スタータ100は、復帰スプリング141の力に抗して出力軸140を前方へ押し出さなければならず、さらにはこの復帰スプリング141は図示されないエンジンの振動を受けたりしてもピニオン150が非作動位置から飛び出さないように付勢していなければならないので、それなりに大きな吸引力を発生する電磁スイッチ160が必要となり、電磁スイッチ160の大型化を招く。また、電磁スイッチ160の吸引力は、プランジャ162と固定鉄心163との間隔に反比例して2次曲線的に高まり、ピニオン150が最大移動位置に達する時点で非常に大きな吸引力が発生する。この大きな吸引力によって出力軸140が押し出されることから、出力軸140の先端に設けられたピニオン150がリングギヤ190の端面に勢いよく衝突する。このため、ピニオン150を介して駆動系に加わる衝撃力が大きくなることから、装置全体の強度アップが必要となる。その結果、装置全体の大型化を招き、エンジンへの装着性が悪化すると言う問題が生じる。
また、電磁スイッチ160は、プランジャ162の作動方向が出力軸140の軸方向と一致する、即ち出力軸140とロッド170およびプランジャ162が同軸上に配置されるため、スタータ100の全長が長くなるという問題がある。
【0005】
一方、電動機の回転が伝達される出力軸上にヘリカルスプライン嵌合する一方向クラッチを備え、電動機の始動時に一方向クラッチの回転を規制することで、一方向クラッチとともに出力軸上を前進(摺動)するピニオンをリングギヤに噛み合わせるクラッチ摺動型スタータが提案されている(実開昭57−36763号公報、特開昭59−18263号公報参照)。このクラッチ摺動型スタータは、電磁スイッチの吸引力によって出力軸を押し出す必要がなく、一方向クラッチの回転を規制するだけで良いことから、上述の出力軸摺動型スタータと比べて電磁スイッチの小型化が可能となる。
【0006】
ところが、このクラッチ摺動型スタータでは、一方向クラッチあるいはピニオンの外周から回転規制を加える必要がある。このため、回転規制を行う規制部材および規制部材を作動させる電磁スイッチ等の回転規制手段が一方向クラッチあるいはピニオンの外周に配置されることから、径方向への飛び出しが大きくなり、その結果、エンジンへの装着性が悪化するという課題を有している。
【0007】
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、電磁スイッチの小型化と共に装置全体の小型化を図ることで、エンジンへの装着性を向上させる出力軸摺動型スタータの提供にある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1では、通電を受けて回転力を発生する電動機と、この電動機の回転力を伝達する駆動側回転部材、およびこの駆動側回転部材より回転力が伝達されて回転する従動側回転部材を備え、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との間で一方向クラッチを構成する回転力伝達手段と、前記従動側回転部材の内周にヘリカルスプライン嵌合されて回転可能および軸方向に摺動可能に設けられた出力軸と、この出力軸の先端部に支持されて、前記出力軸と一体に軸方向に移動可能に設けられ、前記出力軸の前進移動に伴ってエンジンのリングギヤと噛み合うピニオンと、少なくとも前記ピニオンが前記リングギヤに噛み合うまでの間、前記出力軸の回転を規制し、前記ピニオンと前記リングギヤとの噛み合いが完了した時に前記出力軸の後退を規制する出力軸規制手段と、通電を受けて磁力を発生するコイル、およびこのコイルの磁力を受けて作動するプランジャを有し、前記プランジャの作動に伴って前記電動機の通電を制御するとともに、前記出力軸規制手段による前記出力軸の回転規制、後退規制、および規制解除を行う電磁スイッチとを備え、この電磁スイッチは、前記出力軸より後方に前記出力軸の軸線上を交差して配置されると共に、前記プランジャの作動方向が前記出力軸の軸線方向と略直角に交差する向きに配置され、前記出力軸規制手段は、前記出力軸の反ピニオン側である後端部に固定されて前記出力軸と一体に回転する被規制部と、この被規制部に係合可能に設けられた規制部材とで構成され、この規制部材が前記プランジャに固定されて、前記プランジャの作動方向に可動することを技術的手段とする。
【0010】
請求項2では、請求項1に記載された出力軸摺動型スタータにおいて、前記規制部材は、前記電動機の始動時に前記被規制部に係合して前記出力軸の回転を規制し、その回転規制された前記出力軸が前記電動機の始動により前進して前記ピニオンが前記リングギヤと噛み合った後、前記被規制部の後方に介在されて前記出力軸の後退を規制し、さらにエンジン始動後、前記出力軸の後退を規制する位置から前記被規制部との係合が解除される位置へ駆動されて前記出力軸の後退を可能とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3では、請求項1または2に記載された出力軸摺動型スタータにおいて、前記回転力伝達手段は、前記電動機の回転を減速する減速手段と、この減速手段で減速された回転を前記出力軸に伝達する一方向クラッチとから成ることを特徴とする。
請求項4では、請求項3に記載された出力軸摺動型スタータにおいて、前記減速手段は、遊星歯車減速機構であることを特徴とする。
【0012】
請求項5では、請求項1〜4に記載された何れかの出力軸摺動型スタータにおいて、前記電動機は、回転軸が中空状に設けられて、前記出力軸は、前記回転軸の中空内部を通って前記回転軸と同軸に配されたことを特徴とする。
請求項6では、請求項1〜4に記載された何れかの出力軸摺動型スタータにおいて、前記電動機は、前記回転軸が前記回転力伝達手段を介して前記出力軸と並列に連結されたことを特徴とする。
【0013】
【作用および発明の効果】
請求項1に記載された出力軸摺動型スタータは、電磁スイッチにより電動機が通電されて回転力を発生することにより、その回転力が回転力伝達手段を介して出力軸に伝達される。一方、ピニオンがリングギヤに噛み合うまでの間、プランジャの作動に伴って駆動される出力軸規制手段が出力軸の回転を規制する。
【0014】
回転規制された出力軸は、一方向クラッチを構成する従動側回転部材の内周にヘリカルスプライン嵌合されていることから、従動側回転部材の回転力が回転規制された出力軸に対して軸方向に押し出す推力として作用する。その結果、出力軸がヘリカルスプラインに沿って前進し、出力軸と一体に前進移動したピニオンがリングギヤに噛み合う。
【0015】
ピニオンとリングギヤとの噛み合いが完了した後、出力軸規制手段による出力軸の回転規制が解除されることにより、ピニオンと噛み合ったリングギヤに回転力が伝達されてエンジンが始動される。
エンジン始動後、エンジン回転数の上昇に伴ってピニオンがリングギヤにより回転されると、エンジンの回転力がヘリカルスプラインの作用により出力軸を後退させる方向へ働くが、ピニオンとリングギヤとの噛み合いが完了した後、出力軸規制手段によって出力軸の後退が規制されることで、ピニオンの早期離脱が防止される。
その後、出力軸規制手段による出力軸の後退規制が解除されることで出力軸の後退が可能となり、前述の復帰スプリングの作用によりヘリカルスプラインに沿って出力軸が後退し、ピニオンとリングギヤとの噛み合いが解除される。
【0016】
上述のように、この出力軸摺動型スタータは、出力軸の回転を規制することで出力軸を前進させてピニオンをリングギヤに噛み合わせるものである。従って、電磁スイッチは、出力軸の移動に対して、出力軸の回転および後退を規制する出力軸規制手段を駆動するだけで良く、従来装置のように、電磁スイッチの吸引力によって直接出力軸を軸方向に押し出す必要はない。このため、磁力を発生するコイルの小型化に伴って電磁スイッチの小型化が可能となる。
また、従来装置のように出力軸が勢いよく前進してピニオンとリングギヤとの噛合時に大きな衝撃が生じるようなことがないため、強度アップの必要がなく、スタータ全体の小型化を図ることができ、その結果、エンジンへの装着性を向上させることができる。
【0017】
さらに、電磁スイッチは、出力軸より後方に出力軸の軸線上を交差して配置されると共に、プランジャの作動方向が出力軸の軸線方向と略直角に交差する向きに配置されている。これにより、通常電磁スイッチの最大長を決定するプランジャの摺動方向(作動方向)がスタータの全長に関与せず、その外径のみが加算されるだけなので、出力軸後方の長さを短く抑えることができる。また、電磁スイッチが出力軸の外周へ大きく飛び出すこともない。このため、従来の出力軸摺動型スタータより電磁スイッチの小型化が可能なクラッチ摺動型スタータと比べても、スタータ全体の小型化を図ることができ、エンジンへの装着性を向上させることができる。
【0019】
請求項2によれば、電動機の始動時にプランジャと連動する規制部材が出力軸の後端部に設けられた被規制部と係合することで出力軸の回転が規制される。この回転規制により出力軸が前進してピニオンとリングギヤとが噛み合うと、規制部材は、被規制部との係合による出力軸の回転規制を解除して被規制部の後方に介在される。これにより、電動機の回転力が出力軸に伝達されて出力軸およびピニオンが回転し、ピニオンと噛み合ったリングギヤが回転してエンジンが始動される。
【0020】
エンジン始動後は、規制部材が被規制部の後方に介在されていることで出力軸の後退が規制されて、ピニオンの早期離脱が防止される。
その後、規制部材が出力軸の後退規制を解除する位置へ駆動されることで出力軸の後退が可能となり、前述のヘリカルスプラインの作用によって出力軸が後退し、ピニオンとリングギヤとの噛み合いが解除される。
この請求項2では、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0021】
請求項4によれば、減速手段として遊星歯車減速機構を用いることにより、電動機の回転軸と出力軸とを一直線に配設することが可能となり、その結果、側方への突出を無くすことができる。また、ピニオンをリングギヤに噛み合わせる際に、電動機の回転が直接出力軸に伝達されるのではなく、遊星歯車減速機構で減速されて伝達されることから、急速な電動機の回転立ち上がりによるピニオンとリングギヤの欠け、および異常摩耗を防止する効果を奏する。
【0022】
請求項5によれば、電動機の回転軸を中空状として、出力軸が回転軸の中空内部を通って回転軸と同軸に配されている。
従って、出力軸と回転軸とを並列に配置する場合、または出力軸と回転軸とを直列に配置する場合と比較して、軸方向の全長および径方向の寸法を小さく抑えることができる。このため、電磁スイッチの小型化に伴うスタータ全体の小型化に加えて、よりコンパクト化されたスタータを提供することが可能となる。
【0023】
請求項6によれば、回転軸と出力軸とを並列に配置した構造であるが、電磁スイッチの小型化により電磁スイッチ回りの空間を大きく確保することができることから、従来の多軸減速型スタータと比較して、スタータを車両に搭載した後の給電線の取付作業が容易となる。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の出力軸摺動型スタータの実施例を説明する。
図1は第1実施例に係わる出力軸摺動型スタータの断面図、図2はリヤカバーを外した後方側の内部構造を示す平面図である。
本実施例の出力軸摺動型スタータ1は、回転力を発生する電動機2、この電動機2の回転力を伝達する遊星歯車減速機構(後述する)、この遊星歯車減速機構の公転力を受ける一方向クラッチ3、この一方向クラッチ3より回転力が伝達される出力軸4、この出力軸4の先端に装着されたピニオン5、出力軸4の回転および後退を規制する出力軸規制手段(後述する)、電動機2の通電制御および出力軸規制手段の作動に係わる電磁スイッチ6等より構成されている。
【0025】
(電動機2の説明)
電動機2は、ヨーク7、永久磁石8、アーマチュア9、ブラシ10、11等より構成されている。ヨーク7は、円筒状に設けられて、その後端側(図1の右端側)に配置されるブラケット12とともにフロントハウジング13とリヤカバー14との間に挟持されている。永久磁石8は、ヨーク7の内周面に固設されて磁界を形成する。
【0026】
アーマチュア9は、中空状に形成されたシャフト90(本発明の回転軸)、このシャフト90の外周に設けられたコア91、このコア91に装着されたコイル92、およびコイル92に接続されたコンミテータ93等より構成されている。
シャフト90は、先端部が軸受15を介してヨーク7の先端側に設けられた円筒壁部7aに回転自在に支持され、後端部が軸受16を介してブラケット12に回転自在に支持されている。また、シャフト90の先端(図1の左端)には、遊星歯車減速機構のサンギヤ17が形成されている。
【0027】
ブラシ10、11(正極側ブラシ10、負極側ブラシ11)は、ブラケット12に支持されたブラシ保持具18に保持されて、ホルダ19に収容されたブラシスプリング20によりコンミテータ93の端面に押圧されている。なお、正極側ブラシ10は、リード線21(図2参照)により後述の主可動接点22に接続され、負極側ブラシ11はリード線23(図2参照)を介してアースされている。
【0028】
(遊星歯車減速機構の説明)
遊星歯車減速機構は、シャフト90に形成されたサンギヤ17、フロントハウジング13の内周に一体形成されたインターナルギヤ24、および遊星ギヤ25より構成された減速装置で、シャフト90とともにサンギヤ17が回転することで、このサンギヤ17とインターナルギヤ24とに噛み合う遊星ギヤ25が自転(サンギヤ17と逆回転)しながらサンギヤ17と同一方向に公転を行う。
【0029】
(一方向クラッチ3の説明)
一方向クラッチ3は、アウタ26、ローラ27、インナ28等より構成されている。
アウタ26は、軸受29を介して遊星ギヤ25を軸支するピン30に連結されて、遊星ギヤ25の公転力を受けて回転する。ローラ27は、アウタ26とインナ28との間に形成される空間に配されて、アウタ26の回転をインナ28へ伝達する。インナ28は、ラジアル軸受31を介してフロントハウジング13に回転自在に支持されて、自身の回転力を軸方向の推力として出力軸4に伝達するために、内周面にヘリカル歯28aが形成されている。
【0030】
この一方向クラッチ3は、インナ28の回転がアウタ26の回転より速くなると、ローラ27の移動に伴ってインナ28とアウタ26とがフリーとなることで、インナ28の回転がアウタ26へ伝達されることはない。
なお、本発明の従動側回転部材は一方向クラッチ3のインナ28であり、駆動側回転部材は、上記の遊星歯車減速機構と一方向クラッチ3のアウタ26により構成される。
【0031】
(出力軸4の説明)
出力軸4は、シャフト90の中空内部を通ってシャフト90と同軸に配され、シャフト90の中空内部で軸受32、33を介して回転可能および摺動可能に支持されている。また、出力軸4は、先端寄り外周にヘリカル歯4aが形成されて、インナ28のヘリカル歯28aとヘリカルスプライン嵌合されている。これにより、出力軸4は、ヘリカルスプラインの作用によって、図1に示す静止位置と出力軸4のヘリカル歯4aがインナ28のヘリカル歯28aの切り上がり部に当接する位置(ピニオン5とリングギヤとが噛み合う位置)との間で進退可能となる。この出力軸4とインナ28との間には、出力軸4に対してインナ28を前方側(図1の左側)へ、インナ28に対して出力軸4を後方側へ付勢するスプリング34が装着されている。
【0032】
(ピニオン5の説明)
ピニオン5は、出力軸4の先端外周に回転不能に嵌め合わされてストッパ35により固定され、出力軸4と一体に回転および軸方向に移動し、出力軸4の前進に伴ってエンジンのリングギヤ(図示しない)と噛み合うことができる。
【0033】
(出力軸規制手段の説明)
出力軸規制手段は、出力軸4の後端部に固定された被規制部(下述する)と、この被規制部と係合可能に設けられた規制部材36とから成る。
被規制部は、出力軸4の外周に回転不能な状態で嵌合されて、周方向に多数の歯37a(図3参照)が形成されたギヤ部37と、このギヤ部37の後端に配されたワッシャ38とから成り、図3に示すように、ワッシャ38の後端側で出力軸4の外周溝(図示しない)に係止された止め輪39により固定されている。従って、被規制部は、出力軸4と一体に回転し、且つ出力軸4の進退移動に伴って軸方向に変位する。
【0034】
規制部材36は、図4に示すように、長板状に形成された固定部36a、矩形状に形成された規制部36b、および固定部36aの端部で規制部36bを支持する弾性部36cより成り、電磁スイッチ6によって出力軸4の軸方向と交差する方向(図1の上下方向)に駆動される。
固定部36aは、電磁スイッチ6のプランジャ60の下端面にリベット40により固定される。
【0035】
規制部36bは、規制部材36が静止位置(図1に示す位置)にある時に、図3に示すように、被規制部の外周に位置し、出力軸4の軸芯より半径方向に若干ずれた位置で出力軸4の軸方向に沿った向きに配置される。この規制部36bは、電動機2の始動時に前進(図1の上方向へ移動)してギヤ部37の歯37aと歯37aの間(以下凹部37bと言う)に入り込み、ギヤ部37と係合することで出力軸4の回転を規制し、出力軸4が前進してピニオン5がリングギヤと噛み合った状態の時に、被規制部(ワッシャ38)の後方へ介在されてワッシャ38と係合することで出力軸4の後退を規制する。また、電磁スイッチ6がオフ状態の時、即ち、規制部材36が静止位置にある時は、規制部36bと被規制部との係合が解除される。
【0036】
弾性部36cは、固定部36aに対して規制部36bを直立した状態で支持するとともに、固定部36aに対して撓むことで規制部36bの変位を許容する。具体的には、規制部36bがギヤ部37と係合した状態で、出力軸4が少なくともピニオン5の1/2ピッチ以上回転できるように、即ち、規制部36bが出力軸4の回転に伴って変位できるように撓むことができる。
【0037】
(電磁スイッチ6の説明)
電磁スイッチ6は、コイル61、固定鉄心62、プランジャ60、スプリング63、およびロッド64等により構成されている。
コイル61は、車両の始動スイッチ(イグニッションスイッチ/図示しない)を介して車載バッテリ(図示しない)に接続され、始動スイッチがオンされて通電されることにより磁力を発生する。なお、このコイル61は、一重巻線で外径寸法が小さく抑えられている。
固定鉄心62は、コイル61の上端側に配されて、コイル61の通電時に磁化されて電磁石となる。
【0038】
プランジャ60は、コイル61の中空内部に固定鉄心62と対向して配置され、コイル61への通電時に磁化された固定鉄心62側へ吸引される。
スプリング63は、コイル61の内周でプランジャ60と固定鉄心62との間に介在され、固定鉄心62に対してプランジャ60を図示(図1)下方へ付勢している。従って、コイル61への通電が停止された時に、それまでスプリング63の付勢力に抗して固定鉄心62側へ吸引されていたプランジャ60を初期位置(図1に示す位置)へ復帰させる。
【0039】
ロッド64は、絶縁体(例えば樹脂製)より成り、プランジャ60の上端面に固定されて、コイル61の中空内部を通り、固定鉄心62の中央部を摺動自在に貫通して上方へ突出されている。
上記構成より成る電磁スイッチ6は、図1に示すように、出力軸4の後方で被規制部に近接して配置されて、且つプランジャ60およびロッド64の作動方向が出力軸4の軸線上で交差する向きに配置されている。即ち、出力軸4に対してプランジャ60が略直角に配置されている。
【0040】
(電動機2の接点構造の説明)
上記電磁スイッチ6の外周を覆うリヤカバー14には、給電線(図示しない)によりバッテリの正極に接続される端子ボルト41が外部に露出して取り付けられ、かしめワッシャ42により固定されている。この端子ボルト41の頭部41a(リヤカバー14の内部)には、銅板等からなる固定接点43が固定されている。
【0041】
電磁スイッチ6のロッド64の上端部には、リード線21(図2参照)により正極側ブラシ10に接続された主可動接点22がロッド64に対して摺動自在に嵌め合わされている。この主可動接点22は、電磁スイッチ6の作動により固定接点43に当接することでバッテリ電圧を電動機2に印加するもので、固定接点43に対する接点圧を確保するために接点圧スプリング44によって図示上方へ付勢されている。但し、主可動接点22の上端側でロッド64に係止されるサークリップ45によりロッド64からの抜けが防止されている。
【0042】
主可動接点22には、起動抵抗46を介して副可動接点47が接続されている。起動抵抗46は、例えばニッケルより成り、コイル状に巻回されてバネ作用を有し、一端が主可動接点22にかしめ固定されて、他端が副可動接点47にかしめ固定されている。
副可動接点47は、電磁スイッチ6の作動により端子ボルト41の頭部41aに当接することでバッテリ電圧を起動抵抗46を介して電動機2に印加し、電磁スイッチ6の非作動時には、固定鉄心62の上端面に当接して電気的に導通状態となっている。
【0043】
但し、主可動接点22と固定接点43との間隔より副可動接点47と端子ボルト41の頭部41aとの間隔の方が小さく設定されている。従って、電磁スイッチ6が作動、つまりプランジャ60が吸引(図1の上方へ移動)した時は、主可動接点22が固定接点43に当接する前に副可動接点47が端子ボルト41の頭部41aに当接するように設けられている。
【0044】
また、プランジャ60に連動する規制部材36は、副可動接点47が端子ボルト41の頭部41aに当接した時点で、規制部36bがギヤ部37の凹部37bに入り込んでギヤ部37と係合できるように設けられている。
【0045】
上記構成より成る出力軸摺動型スタータ1は、フロントハウジング13とリヤカバー14との間にヨーク7およびブラケット12を挟んで組付けた後、リヤカバー14からフロントハウジング13に至るスルーボルト48をフロントハウジング13に螺着して締結することにより固定されている。
【0046】
次に、本実施例の作動を説明する。
イ)ピニオン5がリングギヤと衝突することなく噛み合う場合。
始動スイッチがオンされると、電磁スイッチ6のコイル61が通電されることにより、磁化された固定鉄心62に対してプランジャ60が吸引され、スプリング63の付勢力に抗して図示(図1)上方へ前進する。
このプランジャ60の前進に伴って、プランジャ60と連動する規制部材36の規制部36bが、出力軸4に設けられたギヤ部37の凹部37bに入り込んでギヤ部37と係合する。その後、副可動接点47が端子ボルト41の頭部41aに当接し、起動抵抗46を介して正極側ブラシ10に通電されることにより、電動機2が起動されてアーマチュア9が低速回転する。
【0047】
アーマチュア9の回転は、遊星歯車減速機構で減速された後、一方向クラッチ3を介して出力軸4に伝達される。この時、出力軸4は、規制部36bとギヤ部37との係合によって回転が規制されていることから、一方向クラッチ3のインナ28の回転力が、インナ28の内周にヘリカルスプライン嵌合する出力軸4に対して軸方向に押し出す推力として作用する。その結果、出力軸4がヘリカルスプラインに沿って前進することにより、出力軸4と一体に前進するピニオン5がリングギヤと噛み合う。
【0048】
この出力軸4の前進により、規制部材36は、規制部36bとギヤ部37との係合が解除され、プランジャ60の前進に伴ってワッシャ38の後方に介在される。
その後、プランジャ60がさらに吸引されて前進し、主可動接点22が固定接点43に当接することで、起動抵抗46が短絡されて電動機2に定格電圧が印加される。これにより、アーマチュア9が高速回転して、その回転力が、回転規制の解除された出力軸4に伝達されることで出力軸4が回転し、ピニオン5と噛み合ったリングギヤが回転することでエンジンが始動される。
【0049】
出力軸4が前進してピニオン5がリングギヤと噛み合った状態では、インナ28との間に配されたスプリング34が圧縮されることで、インナ28に対して出力軸4を後方側へ付勢するスプリング力が大きくなる。また、エンジン始動後、ピニオン5がリングギヤにより回転されると、エンジンの回転力がヘリカルスプラインの作用によって出力軸4を後退させる方向に働く。このため、出力軸4は後退しようとするが、規制部36bがワッシャ38の後方に介在されていることから、規制部36bの前端辺とワッシャ38との係合により出力軸4の後退は阻止される。
【0050】
その後、始動スイッチがオフされると、コイル61の磁力が消滅することで、それまで固定鉄心62側へ吸引されていたプランジャ60がスプリング63の付勢力により初期位置へ戻される。このプランジャ60の移動に伴って規制部材36が静止位置へ戻ることにより、規制部36bとワッシャ38との係合が解除される。これにより、出力軸4は後退して、静止位置に戻る。
【0051】
一方、プランジャ60が戻る際に、主可動接点22が固定接点43から離れた後、続いて副可動接点47が端子ボルト41の頭部41aから離れることにより、電動機2への通電が停止される。さらにプランジャ60が初期位置まで戻ると、副可動接点47が固定鉄心62の上端面に当接することで、正極側ブラシ10が起動抵抗46を介して電気的にアース(接地)されるため、アーマチュア9の惰性回転による発電電圧が制動抵抗となってアーマチュア9の回転が急速に停止する。
【0052】
ロ)ピニオン5とリングギヤとの互いの歯の端面が衝突(当接)する場合。
まず、規制部36bとギヤ部37との係合によって出力軸4の回転が規制されることにより、出力軸4がヘリカルスプラインに沿って前進するまでの作動は上記イ)の場合と同様である。
出力軸4の前進に伴ってピニオン5の端面がリングギヤの端面に当接すると、その時点で一旦、出力軸4の前進が止められる。ところが、アーマチュア9の回転力が一方向クラッチ3のインナ28へ伝達されてインナ28が回転することから、前進移動が止められた出力軸4はインナ28の回転力を受けて回転しようとする。
【0053】
ここで、規制部材36は、規制部36bが弾性部36cによって弾性支持されており、規制部36bがギヤ部37と係合して出力軸4の回転が規制された状態でも、弾性部36cが撓んで規制部36bが変位することにより、出力軸4の回転(少なくともピニオン5の1/2ピッチ以上)を許容することができる。
【0054】
これにより、出力軸4は、弾性部36cを撓ませながら回転し、ピニオン5がリングギヤと噛み合うことができる位置まで回転することで、再び前進してピニオン5とリングギヤとの噛み合いが完了する。その後の作動は、上記イ)の場合と同様であり、説明を省略する。
【0055】
(第1実施例の効果)
上述のように、本実施例の出力軸摺動型スタータ1は、電磁スイッチ6の吸引力により規制部材36を駆動して、その規制部材36と出力軸4に設けられた被規制部との係合により出力軸4の回転および後退を規制することができる。従って、規制部36bを駆動する電磁スイッチ6は、出力軸4の回転および後退を規制できるだけの吸引力を発生すれば良い。つまり、従来装置のように、電磁スイッチ6の吸引力によって直接出力軸4を押し出す必要がないことから、一重巻線の小さなコイル61を採用することが可能となり、電磁スイッチ6を小型化することができる。
【0056】
また、従来の出力軸摺動型スタータのように、出力軸4が勢いよく前進してピニオン5とリングギヤとの噛合時に大きな衝撃が生じることがないため、駆動系に加わる衝撃が小さくなる。このため、電磁スイッチ6の小型化に加えて、駆動系の強度アップを行う必要がないことから、スタータ全体の小型化を図ることができる。
【0057】
さらに、電磁スイッチ6が出力軸4の後方で被規制部に近接して配置されるとともに、プランジャ60が出力軸4に対して略直角に配置されている。これにより、出力軸4の外周へ電磁スイッチ6が大きく飛び出すことはなく、また出力軸4後方の軸線上の長さを短く抑えることができる。このため、従来の出力軸摺動型スタータより電磁スイッチ6の小型化が可能なクラッチ摺動型スタータと比べても、スタータ全体の小型化を図ることができる。
【0058】
以上のように、装置全体の小型化によりエンジンへの装着性が向上するとともに、電磁スイッチ6回りの空間を大きく確保できるため、従来では補機類や車体フレーム等により作業が困難であった給電線の取り付け作業(車両搭載後に行う)が容易になる。
【0059】
また、アーマチュア9の回転を減速して伝達する減速型スタータにおいては、アーマチュア9の回転力がピニオン5へ伝達される際に大きな回転トルクを生じるため、ピニオン5とリングギヤとの噛み合い時に大きな衝撃力が加わる。これに対して、本実施例の出力軸摺動型スタータ1は、遊星歯車減速機構を採用した減速型スタータではあるが、ピニオン5とリングギヤとの噛み合いが完了するまでの間、出力軸4の回転を規制していることから、ピニオン5とリングギヤとの噛み合い時に上述のような大きな衝撃力が加わることがない。これにより、ピニオン5およびリングギヤの歯の欠け、あるいは破損等を未然に防止することができる。
【0060】
次に、本発明の第2実施例を説明する。
図5は第2実施例に係わる出力軸摺動型スタータの断面図である。
なお、部品に付す番号は、第1実施例と共通ではない。
本実施例の出力軸摺動型スタータ1は、回転力を発生する電動機2、電動機2の回転力を伝達する回転力伝達手段(後述する)、回転力伝達手段より回転力が伝達される出力軸3、出力軸3の先端に装着されたピニオン4、出力軸3の回転および後退を規制する出力軸規制手段(後述する)、電動機2の通電制御および出力軸規制手段の作動に係わる電磁スイッチ5等より構成されている。
【0061】
(電動機2の説明)
電動機2は、ヨーク6、フィールドコイル7、アーマチュア8、ブラシ9等より構成されている。
ヨーク6は、円筒状に設けられて、中間ケース10とリヤカバー11との間に挟持されている。
フィールドコイル7は、ポールコア12に巻回されてヨーク6の内周に取り付けられている。
【0062】
アーマチュア8は、シャフト80の両端部がベアリング13、14を介して中間ケース10とリヤカバー11とに回転自在に支持されている。シャフト80の先端外周にはギヤ80aが一体に形成されている。
ブラシ9は、リヤカバー11に固定されたホルダ15に収容され、ブラシスプリング(図示しない)の付勢力を受けてシャフト80の後端部に装着されたコンミテータ81の外周面に押圧されている。
【0063】
(回転力伝達手段の説明)
回転力伝達手段は、シャフト80に形成されたギヤ80aに噛み合う中間ギヤ16(本発明の減速手段)と、この中間ギヤ16より回転力を受ける一方向クラッチ17より成る。
中間ギヤ16は、フロントハウジング18と中間ケース10に圧入されたピン19を軸として回転自在に組み付けられている。
【0064】
一方向クラッチ17は、アウタ20、ローラ21、インナチューブ22等より構成される。
アウタ20は、外周にギヤ20aが形成されて、中間ギヤ16と噛み合わされている。ローラ21は、アウタ20とインナチューブ22との間に形成される空間に配されて、アウタ20の回転をインナチューブ22へ伝える。インナチューブ22は、筒状に形成されて、その両端部の外周に配されたベアリング23、24を介してフロントハウジング18と中間ケース10とに回転自在に支持されている。
【0065】
この一方向クラッチ17は、インナチューブ22の回転がアウタ20の回転より速くなると、ローラ21の移動に伴ってインナチューブ22とアウタ20とがフリーとなることで、インナチューブ22の回転がアウタ20へ伝達されることはない。
なお、本発明の従動側回転部材は一方向クラッチ17のインナチューブ22であり、駆動側回転部材は、上記の中間ギヤ16と一方向クラッチ17のアウタ20により構成される。
【0066】
(出力軸3の説明)
出力軸3は、インナチューブ22の内周にヘリカルスプライン嵌合されて、インナチューブ22に対して回転可能および軸方向に移動可能に設けられている。また、出力軸3は、インナチューブ22の内周空間部(出力軸3の外周)に配されたスプリング25により軸方向の後方へ付勢され、出力軸3の先端部に装着されるピニオン4の後端面がインナチューブ22の先端面に当接することで静止状態を保っている。
【0067】
(ピニオン4の説明)
ピニオン4は、出力軸3の先端部外周面に形成されたセレーション3aに嵌合して、ピニオン4の内周空間部(出力軸3の外周)に配されたスプリング26により軸方向の前方へ付勢されて、出力軸3の先端外周に配されたカラー27により位置規制されている。
カラー27は、出力軸3の外周面に形成された周溝(図示しない)に嵌合するスナップリング28に係止されている。
【0068】
(出力軸規制手段の説明)
出力軸規制手段は、出力軸3の後端に設けられたギヤ部29(本発明の被規制部)と、このギヤ部29と係合可能に設けられた規制部材30とから成る。
ギヤ部29は、出力軸3と一体に設けられて、外周に多数の歯29a(図6および図8参照)が形成されている。
【0069】
規制部材30は、図7に示すように、長板状に形成された固定部30a、この固定部30aの端部から固定部30aと直角方向に延びて設けられた弾性部30b、この弾性部30bの先端に設けられた規制部30cより成り、電磁スイッチ5によって出力軸3の軸方向と交差する方向(図5および図9の上下方向)に駆動される。
【0070】
固定部30aは、電磁スイッチ5のプランジャ50の端面にボルト31で固定されている。弾性部30bは、固定部30aに対して撓むことで規制部30cの変位を許容する。
規制部30cは、規制部材30が静止位置(図5に示す位置)にある時に、ギヤ部29の外周に位置し、ギヤ部29と係合可能に設けられている。具体的には、電動機2の始動時に前進(図5の上方向へ移動)してギヤ部29の歯29aと歯29aの間(以下凹部29bと言う)に入り込み(図8参照)、ギヤ部29と係合することで出力軸3の回転を規制し、出力軸3が前進してピニオン4がリングギヤ32と噛み合った状態の時に、ギヤ部29の後方へ介在されてギヤ部29の後端面と係合することで出力軸3の後退を規制する(図9参照)。
【0071】
(電磁スイッチ5の説明)
電磁スイッチ5は、コイル51、固定鉄心52、プランジャ50、スプリング53、およびロッド54等により構成されている。
コイル51は、車両の始動スイッチ(イグニッションスイッチ/図示しない)を介して車載バッテリ(図示しない)に接続され、始動スイッチがオンされて通電されることにより磁力を発生する。なお、このコイル51は、一重巻線で外径寸法が小さく抑えられている。
固定鉄心52は、コイル51の上端側に配されて、コイル51の通電時に磁化されて電磁石となる。
【0072】
プランジャ50は、コイル51の中空内部に固定鉄心52と対向して配置され、コイル51への通電時に磁化された固定鉄心52側へ吸引される。
スプリング53は、コイル51の内周でプランジャ50と固定鉄心52との間に介在され、固定鉄心52に対してプランジャ50を図示(図5)下方へ付勢している。従って、コイル51への通電が停止された時に、それまでスプリング53の付勢力に抗して固定鉄心52側へ吸引されていたプランジャ50を初期位置(図5に示す位置)へ復帰させる。
【0073】
ロッド54は、絶縁体(例えば樹脂製)より成り、プランジャ50の上端面に固定されて、コイル51の中空内部を通り、固定鉄心52の中央部を摺動自在に貫通して上方へ突出されている。
上記構成より成る電磁スイッチ5は、中間ケース10とエンドカバー33との間に挟持された保持部材34に固定され、図5に示すように、出力軸3の後方でギヤ部29に近接して配置されて、且つプランジャ50およびロッド54の作動方向が出力軸3の軸線上で交差する向きに配置されている。即ち、プランジャ50およびロッド54が出力軸に対して略直角に配置されている。
【0074】
(電動機2の接点構造の説明)
図10にエンドカバー33の内部に設けられる接点構造の拡大図を示す。
上記電磁スイッチ5の外周を覆うエンドカバー33には、給電線(図示しない)によりバッテリの正極に接続される端子ボルト35が外部に露出して取り付けられ、かしめワッシャ36により固定されている。この端子ボルト35の頭部35a(エンドカバー33の内部)には、銅板等からなる固定接点37が固定されている。
【0075】
電磁スイッチ5のロッド54の上端部には、図10に示すように、固定接点37に対応する主可動接点38がロッド54に対して摺動自在に嵌め合わされている。この主可動接点38は、固定接点37に対する接点圧を確保するために接点圧スプリング39によって図示上方へ付勢されている。但し、主可動接点38の上端側でロッド54に係止されるサークリップ40によりロッド54からの抜けが防止されている。
【0076】
主可動接点38には、図6に示すようにリード線41が溶接により固定されて、そのリード線41の端部が、エンドカバー33の内部でプレート42に溶接固定されている。プレート42は、エンドカバー33の外部に設けられるステー43とともに、ボルト44とナット45の締め付けによりエンドカバー33に固定されている。ステー43は、電動機2の内部で正極側ブラシ9のリード線(図示しない)に接続されている。
【0077】
また、主可動接点38には、起動抵抗46を介して副可動接点47が接続されている。起動抵抗46は、例えばニッケルより成り、スプリング状に巻回されてバネ作用を有し、一端が主可動接点38にかしめ固定されて、他端が副可動接点47にかしめ固定されている。
副可動接点47は、電磁スイッチ5の作動により端子ボルト35の頭部35aに当接することでバッテリ電圧を起動抵抗46を介して電動機2に印加し、電磁スイッチ5の非作動時には、固定鉄心52の上端面に当接して電気的に導通状態となっている。
【0078】
但し、主可動接点38と固定接点37との間隔より副可動接点47と端子ボルト35の頭部35aとの間隔の方が小さく設定されている。従って、電磁スイッチ5が作動、つまりプランジャ50が吸引(図5の上方へ移動)された時は、主可動接点38が固定接点37に当接する前に副可動接点47が端子ボルト35の頭部35aに当接するように設けられている。
また、プランジャ50に連動する規制部材30は、副可動接点47が端子ボルト35の頭部35aに当接した時点で、規制部30cがギヤ部29の凹部29bに入り込んでギヤ部29と係合できるように設けられている。
【0079】
次に、本実施例の作動を説明する。
始動スイッチがオンされると、電磁スイッチ5のコイル51が通電されることにより、磁化された固定鉄心52に対してプランジャ50が吸引され、スプリング53の付勢力に抗して図示(図5)上方へ前進する。
このプランジャ50の前進に伴って、プランジャ50と連動する規制部材30がギヤ部29側へ移動し、規制部30cが出力軸3に設けられたギヤ部29の凹部29bに入り込んでギヤ部29と係合することにより、出力軸3が回転しようとするのを事前に規制する(図8参照)。
【0080】
その後、副可動接点47が端子ボルト35の頭部35aに当接することで、起動抵抗46、主可動接点38、リード線41、ステー43を介して電動機2が導通状態となる。電動機2の給電電圧は、起動抵抗46により降圧されているため、電動機2のアーマチュア8は低速で起動する。このアーマチュア8の回転は、シャフト80のギヤと噛み合う中間ギヤ16を介して一方向クラッチ17のアウタ20に伝達され、このアウタ20の回転がインナチューブ22に伝達されて、さらにインナチューブ22の内周にヘリカルスプライン嵌合する出力軸3に伝達される。
【0081】
ここで、出力軸3は、規制部30cとギヤ部29との係合によって回転が規制されていることから、インナチューブ22の回転力は、ヘリカルスプラインの作用により出力軸3の前進力として働く。その結果、回転規制された出力軸3がヘリカルスプラインに沿って前進することにより、出力軸3と一体に前進するピニオン4がリングギヤ32と噛み合う。
【0082】
この出力軸3の前進により、規制部材30は、規制部30cとギヤ部29との係合が解除され、プランジャ50の前進に伴ってギヤ部29の後端側に介在される。
その後、プランジャ50がさらに吸引されて前進し、主可動接点38が固定接点37に当接することで、起動抵抗46が短絡されて電動機2に定格電圧が印加される。これにより、アーマチュア8が高速回転して、その回転力が、回転規制の解除された出力軸3に伝達されることで出力軸3が回転し、ピニオン4と噛み合ったリングギヤ32が回転することでエンジンが始動される。
【0083】
出力軸3が前進してピニオン4がリングギヤ32と噛み合った状態では、インナチューブ22との間に配されたスプリング25が圧縮されることで、インナチューブ22に対して出力軸3を後方側へ付勢するスプリング力が大きくなる。また、エンジン始動後、ピニオン4がリングギヤ32により回転されると、エンジンの回転力がヘリカルスプラインの作用によって出力軸3を後退させる方向に働く。このため、出力軸3は後退しようとするが、規制部30cがギヤ部29の後端側に介在されていることから、規制部30cの前端辺とギヤ部29との係合により出力軸3の後退は阻止される。
【0084】
また、エンジンの駆動力は、出力軸3とヘリカルスプライン嵌合するインナチューブ22に伝達されるが、インナチューブ22の回転がアウタ20の回転より速くなると、インナチューブ22とアウタ20とがフリーとなり、インナチューブ22が空転する。これにより、インナチューブ22の回転、即ちエンジンの駆動力がアーマチュア8へ伝達されることはなく、アーマチュア8の過回転を防止することができる。
【0085】
その後、始動スイッチがオフされると、コイル51の磁力が消滅することで、それまで固定鉄心52側へ吸引されていたプランジャ50がスプリング53の付勢力により初期位置へ戻される。このプランジャ50の移動に伴って規制部材30が静止位置へ戻ることにより、規制部30cとギヤ部29との係合が解除される。これにより、出力軸3は後退して、静止位置に戻る。
【0086】
一方、プランジャ50が戻る際に、主可動接点38が固定接点37から離れた後、続いて副可動接点47が端子ボルト35の頭部35aから離れることにより、電動機2への通電が停止される。さらにプランジャ50が初期位置まで戻ると、副可動接点47が固定鉄心52の上端面に当接することで、正極側ブラシ9が起動抵抗46を介して電気的にアース(接地)されるため、アーマチュア8の惰性回転による発電電圧が制動抵抗となってアーマチュア8の回転が急速に停止する。
【0087】
(第2実施例の効果)
本実施例においても、第1実施例と同様の効果を得ることができる。
具体的には、プランジャ50の吸引と保持とを兼ねた一重巻線のコイル51を使用することによる電磁スイッチ5の小型化、および電磁スイッチ5の配置の工夫(出力軸3の後方で被規制部に近接して配置され、且つプランジャ50が出力軸3に対して略直角に配置されている)によりスタータ1を小型化してエンジンへの装着性を向上させることができる。また、電磁スイッチ5回りの空間を大きく確保できることにより、車両搭載後の給電線の取り付け作業を容易に行うことができる。
【0088】
〔変形例〕
第1実施例では、アーマチュア9の回転を出力軸4に伝達する回転力伝達手段の中に遊星歯車減速機構を用いたが、必ずしも減速手段を用いる必要はない。その減速手段を用いない場合の例を図11に示す。この場合、シャフト90の先端外周に一方向クラッチ3のアウタ26が直接噛み合わされており、アーマチュア9の回転が減速されることなく、一方向クラッチ3を介して出力軸4に伝達される構造である。
【0089】
第1実施例では、アーマチュア9の回転がアウタ26に伝達されて、そのアウタ26の回転がローラ27を介してインナ28へ伝達される一方向クラッチ17を示したが、図12に示すように、アウタ26とインナ28との関係が逆でも良い。つまり、シャフト90の先端外周にインナ28が噛み合わされて、アウタ26の内周に出力軸4がヘリカルスプライン嵌合されることにより、アーマチュア9の回転がインナ28よりローラ27を介してアウタ26へ伝達されて、アウタ26より出力軸4へ伝達される構造である。
【0090】
なお、上述した実施例においては、出力軸4、3に対してプランジャ60、50が略直交して配置されていたが、プランジャ60、50と出力軸4、3とが必ずしも交わる位置関係で配置されている必要はなく、出力軸4、3の延長線からプランジャ60、50がはずれて設けられても良いことは言うまでもない。
また、プランジャ60、50が出力軸4、3に対して略直角というのは、出力軸4、3に対して90度を中心に出力軸4、3方向に±45度ずれて傾いてもよいものとする。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例に係わる出力軸摺動型スタータの断面図である。
【図2】リヤカバーを外した後方側の内部構造を示す平面図である(第1実施例)。
【図3】被規制部と規制部材を示すスタータ後部の断面図である(第1実施例)。
【図4】第1実施例に係わる規制部材の斜視図である。
【図5】第2実施例に係わる出力軸摺動型スタータの断面図である。
【図6】エンドカバー内部の構造を示す平面図である(第2実施例)。
【図7】第2実施例に係わる規制部材の斜視図である。
【図8】ギヤ部と規制部との関係を示す説明図である(第2実施例)。
【図9】規制部材の作動説明図である(第2実施例)。
【図10】エンドカバー内部の接点構造を示す断面図である(第2実施例)。
【図11】第1実施例の変形例を示すスタータの断面図である。
【図12】一方向クラッチの変形例を示す断面図である。
【図13】従来の出力軸摺動型スタータの断面図である。
【符号の説明】
(第1実施例)
2 電動機
3 一方向クラッチ
4 出力軸
5 ピニオン
6 電磁スイッチ
17 サンギヤ(遊星歯車減速機構/減速手段)
24 インターナルギヤ(遊星歯車減速機構/減速手段)
25 遊星ギヤ(遊星歯車減速機構/減速手段)
26 アウタ(駆動側回転部材)
28 インナ(従動側回転部材)
36 規制部材(出力軸規制手段)
37 ギヤ部(被規制部/出力軸規制手段)
38 ワッシャ(被規制部/出力軸規制手段)
60 プランジャ
61 コイル
90 シャフト(回転軸)
(第2実施例)
2 電動機
3 出力軸
4 ピニオン
5 電磁スイッチ
16 中間ギヤ(回転力伝達手段/減速手段)
17 一方向クラッチ(回転力伝達手段)
20 アウタ(駆動側回転部材)
22 インナチューブ(従動側回転部材)
29 ギヤ部(被規制部/出力軸規制手段)
30 規制部材(出力軸規制手段)
50 プランジャ
51 コイル
80 シャフト(回転軸)
Claims (6)
- a)通電を受けて回転力を発生する電動機と、
b)この電動機の回転力を伝達する駆動側回転部材、およびこの駆動側回転部材より回転力が伝達されて回転する従動側回転部材を備え、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との間で一方向クラッチを構成する回転力伝達手段と、
c)前記従動側回転部材の内周にヘリカルスプライン嵌合されて回転可能および軸方向に摺動可能に設けられた出力軸と、
d)この出力軸の先端部に支持されて、前記出力軸と一体に軸方向に移動可能に設けられ、前記出力軸の前進移動に伴ってエンジンのリングギヤと噛み合うピニオンと、
e)少なくとも前記ピニオンが前記リングギヤに噛み合うまでの間、前記出力軸の回転を規制し、前記ピニオンと前記リングギヤとの噛み合いが完了した後、前記出力軸の後退を規制する出力軸規制手段と、
f)通電を受けて磁力を発生するコイル、およびこのコイルの磁力を受けて作動するプランジャを有し、前記プランジャの作動に伴って前記電動機の通電を制御するとともに、前記出力軸規制手段による前記出力軸の回転規制、後退規制、および規制解除を行う電磁スイッチとを備え、
この電磁スイッチは、前記出力軸より後方に前記出力軸の軸線上を交差して配置されると共に、前記プランジャの作動方向が前記出力軸の軸線方向と略直角に交差する向きに配置され、
前記出力軸規制手段は、前記出力軸の反ピニオン側である後端部に固定されて前記出力軸と一体に回転する被規制部と、この被規制部に係合可能に設けられた規制部材とで構成され、この規制部材が前記プランジャに固定されて、前記プランジャの作動方向に可動することを特徴とする出力軸摺動型スタータ。 - 前記規制部材は、前記電動機の始動時に前記被規制部に係合して前記出力軸の回転を規制し、その回転規制された前記出力軸が前記電動機の始動により前進して前記ピニオンが前記リングギヤと噛み合った後、前記被規制部の後方に介在されて前記出力軸の後退を規制し、さらにエンジン始動後、前記出力軸の後退を規制する位置から前記被規制部との係合が解除される位置へ駆動されて前記出力軸の後退を可能とすることを特徴とする請求項1に記載された出力軸摺動型スタータ。
- 前記回転力伝達手段は、
前記電動機の回転を減速する減速手段と、
この減速手段で減速された回転を前記出力軸に伝達する一方向クラッチとから成ることを特徴とする請求項1または2に記載された出力軸摺動型スタータ。 - 前記減速手段は、遊星歯車減速機構であることを特徴とする請求項3に記載された出力軸摺動型スタータ。
- 前記電動機は、回転軸が中空状に設けられて、
前記出力軸は、前記回転軸の中空内部を通って前記回転軸と同軸に配されたことを特徴とする請求項1〜4に記載された何れかの出力軸摺動型スタータ。 - 前記電動機は、前記回転軸が前記回転力伝達手段を介して前記出力軸と並列に連結されたことを特徴とする請求項1〜4に記載された何れかの出力軸摺動型スタータ。
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JP4124091B2 (ja) * | 2003-10-16 | 2008-07-23 | 株式会社デンソー | スタータ |
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