JP3662340B2 - 磁気記録媒体及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高記録密度化、長寿命化が可能な、耐久性に優れた磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータなどの情報処理装置の外部記憶装置として用いられるハードディスク装置などにおいては、情報の記憶、再生の方式として一般にCSS(Contact-Start-Stop)方式が採用されている。CSS方式においては、磁気ディスクの停止、起動時には磁気ヘッドは磁気ディスクと接触または摺動状態にあり、磁気ディスクの一定高速回転中には風圧により磁気ヘッドが磁気ディスクから浮上状態にある。従って、この方式では磁気ディスク表面の耐磨耗性や潤滑特性が不十分な場合、この接触、摺動が繰り返されることによってディスク表面が磨耗し、ついには磁性層が破壊され、情報の記録、再生が不可能な状態になってしまう。
【0003】
この対策として、磁性層上に保護膜が形成され、保護膜上に各種潤滑剤層を設けることが一般に行われている。保護膜としては炭素質膜、酸化物膜、窒化物膜などが利用されている。また、潤滑剤としては固体潤滑剤または液体潤滑剤が利用される。一般にパーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤(例えば、モンテフルオス(Montefluos)社製;フォンブリンAM、フォンブリンZ-Dol 、デュポン社製;クライトックス143等)が使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
これらの液体潤滑剤は、初期には優れた潤滑性能を発揮するが、高速で回転する磁気ディスクでは、塗布した潤滑剤が飛散して、徐々に潤滑性能が低下してしまう。特に、近年の高記録密度化への要求に伴い、磁気ヘッドの浮上量は年々低下してきており、磁気ディスクにおける潤滑剤膜の厚さがさらに薄くなってきている。しかしながら、潤滑剤層の厚さを薄くすると、より短い期間で潤滑剤の飛散により、ヘッドとディスクの間の潤滑剤層が無くなってしまい、磁気ディスクの損傷を引き起こしてしまう。
そのため、潤滑層における耐久性、潤滑特性も、より高いものが要求されてきている。より具体的には、CSS時の磁気ヘッドと磁気ディスクの間での摩擦力(摩擦係数)が低く、尚且つ長期にわたり摩擦力に変動がない、耐久性の高い磁気ディスクが求められている。
【0005】
CSS時の回転による潤滑剤の飛散による早期脱落を防止するために方法として、磁気記録媒体への吸着性を高めたフッ素系界面活性剤を塗布する方法が提案されている〔特開昭59-116931 号、同58-4131 号、同58-29147号〕。
また、磁気記録媒体表面に反応により固定する目的でケイ素系の官能基を付加したフッ素系潤滑剤も知られている〔米国特許第4,120,995 号、特開昭59- 203239号、同59-172159 号、同60-38730号、同61-39919号〕。さらに、磁気記録媒体表面に反応により固定する目的でリン酸エステル基を有するフッ素系潤滑剤も知られている〔特開昭60-109028 号、同60-101717 号、同60-246020 号〕。
【0006】
しかるに、吸着性を高めたフッ素系界面活性剤では、強固に固定されないため、CSS時の回転による潤滑剤の飛散を完全に防止することはできず、耐久性の点で満足できるものではなかった。
一方、反応性の官能基を有す潤滑剤では、磁気記録媒体表面への固定も強固となり、飛散を有効に防止することはで、耐久性の向上は期待できる。しかるに、磁気記録媒体表面への反応が容易でなく、かつ均一に反応させることも難しく、実際のラインでの採用は非常に困難である。また、上記公報に記載の潤滑剤は、いずれもフッ素鎖の長さが短いため、潤滑性も良好とは言えない。
【0007】
そこで本発明の目的は、経時的に飛散消失することを除けば良好な性能を有する従来の液体のフッ素系潤滑剤を用いても、そのCSS時の回転による飛散を有効に防止して、耐久性の高い磁気記録媒体及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、非磁性基板上に、少なくとも磁性層、保護膜層及び潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、前記潤滑剤層上に、前記潤滑剤の飛散を防止する分子が付着してなることを特徴とする磁気記録媒体に関する。
さらに本発明は、非磁性基板上に少なくとも磁性層、保護膜層及び潤滑剤層を有する磁気記録媒体に、飛散防止分子の気体を接触させることで飛散防止分子を潤滑剤層に付着させることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板上に、少なくとも磁性層、保護膜層及び潤滑剤層を有する磁気記録媒体である。
非磁性基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET) 等のポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリプロピレン等のオレフィン系の樹脂、セルロース系の樹脂及び塩化ビニル系の樹脂等の高分子材料、ガラス、セラミック、ガラスセラミック及びカーボン等の無機系材料、並びにアルミニウム合金などの金属材料を用いることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0010】
磁性層は、1層又は2層以上であることができ、2層以上の場合、各磁性層間に非磁性中間層を設けることができる。また、磁性層を構成する材料には特に制限はないが、例えばFe、Co、Ni等の金属や、 Co-Ni合金、Co-Ni-Cr合金、 Co-Ni-Cr-Ta合金、 Co-Pt合金、 Co-Pt-Cr 合金、 Co-Ni-Pt-Cr合金、Co-Ni-Pt合金、 Fe-Co合金、 Fe-Ni合金、 Fe-Co-Ni 合金、 Fe-Co-B合金、Co-Ni-Fe-B合金、 Co-Cr合金、 Co-Pt-Cr-Ta合金、あるいはこれらの合金にAl等の金属や酸素、窒素、酸化物、窒化物等を含有させたもの等を挙げることができる。
これらの磁性層は、蒸着法、直流スパッタ法、交流スパッタ法、高周波スパッタ法、直流マグネトロンスパッタ法、高周波マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法などの各種の方法により形成することができる。
また、上記磁性層は、前記非磁性基板上に、直接に、または例えばCr等の下地層を介して設けることができる。
【0011】
保護膜層としては、例えば、非晶質カーボン膜、ダイヤモンド状カーボン膜及び水素化カーボン膜等のカーボン膜や二酸化珪素膜及びジルコニア膜等の酸化物膜を挙げることができる。但し、保護膜層としては、これらに限定されるものではない。尚、カーボン膜は、酸化物膜のように表面に官能基を有さないために潤滑剤の吸着性が酸化物膜に較べて悪く、本発明は、カーボン膜を保護膜層として有する磁気記録媒体において特に有効である。
また、磁気記録媒体の表面が凹凸状であることが、ヘッドの潤滑剤層への吸着を防止するという観点から好ましい。保護膜層の凹凸状表面は、基板や基板上の下地層の表面を凹凸状とする(テクスチャー化する)ことや、保護膜層に微粒子を含有させることによっても形成できる。
磁気記録媒体の表面の凹凸状は、最大高さRmax が、例えば、10〜100nmの範囲、好ましくは20〜50nmの範囲であることが適当である。
磁気記録媒体の表面の凹凸状は、磁気記録媒体がハードディスクである場合に特に有用である。
【0012】
潤滑剤としては、例えば、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤を用いることができる。パーフルオロポリエーテル系潤滑剤としては、例えば、-(C(R)F-CF2-O)p -(但し、RはF、 CF3、CH3 などの基) 、特にHOOC-CF2(O-C2F4)p (OCF2)q -OCF2-COOH、F-(CF2CF2CF2O) n -CF2CF2COOHといったようなカルボキシル基変性パーフルオロポリエーテル、HOCH2-CF2(O-C2F4) p (OCF2)q -OCF2-CF2OH 、HO-(C2H4-O) m -CH2-(O-C2F4) p (OCF2)q -OCH2-(OCH2CH2) n -OH 、F-(CF2CF2CF2O) n -CF2CF2CH2OH といったようなアルコール変性パーフルオロポリエーテル等を挙げることができる。潤滑剤層の膜厚は、例えば、0.5〜10nmの範囲とすることが適当である。
【0013】
本発明の磁気記録媒体は、前記潤滑剤層に「飛散防止分子」が付着してなるものである。飛散防止分子は、潤滑剤層に吸着または結合(共有結合、水素結合等)等することにより付着して、潤滑剤のCSS時の回転時の飛散を防止するものであり、磁気記録媒体の性能を損なわないものであれば良い。そのような飛散防止分子は、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、ROHで表されるアルコール(但し、Rは炭素数1〜5の直鎖又は分岐の飽和炭化水素基またはフェニル基である)、およびRCOOHで表される有機カルボン酸化合物(但し、Rは前記と同じ)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の分子を挙げることができる。
【0014】
ROHで表されるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、2-メチル-2- プロパノール、2-メチル-2ブテン-1- オン等を挙げることができる。RCOOHで表される有機カルボン酸化合物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、トルイル酸、安息香酸等を挙げることができる。
【0015】
飛散防止分子は、良好なCSS時の回転による飛散に対する防止効果を発揮するという観点から、2分子以上の層を形成したものであることが適当である。但し、CSS時の回転による飛散に対する防止効果は、層の厚みが約1nmでほぼ頭打ちとなる。よって、CSS時の回転による飛散に対する防止効果のみに注目すると層の厚みは約1nmまでが適当である。但し、Wash-offテストによる耐久性は、層の厚みが増す程高まる。但し、それも約3nmで頭打ちとなるので、Wash-off性能を高めるという観点からでも、層の厚みは約3nm以下とすることが適当である。
尚、飛散防止分子の層の厚みは、XPSによる光電子分光法〔藤井、田辺、「XPSによる薄膜の膜厚測定」島津評論p89-95 Vol.47 No.1 1990. 5〕を利用して測定することができる。
【0016】
本発明の磁気記録媒体は、例えば、磁気ディスクであり、磁気ディスクは、例えば、ハードディスクであることができる。
【0017】
本発明の磁気記録媒体は、常法で得られる、非磁性基板上に少なくとも磁性層、保護膜層及び潤滑剤層を有する磁気記録媒体に、上記飛散防止分子の気体を接触させて飛散防止分子を潤滑剤層に付着させることで製造することができる。
具体的には、飛散防止分子を付着させるべき磁気記録媒体を飛散防止分子の気体を充填した容器中で暴露して飛散防止分子を付着させる。飛散防止分子の付着量は、飛散防止分子の気体の濃度と暴露する時間に依存して変化する。飛散防止分子の気体の濃度が一定の場合、暴露時間を長くすることで、飛散防止分子の層の厚みを増すことができる。
常温で気体として存在する例えば、一酸化炭素や二酸化炭素、さらには常温である程度の蒸気圧を有するアルコールの場合、上記磁気記録媒体の暴露は常温で行うことができる。また、常温での蒸気圧が比較的低い、酢酸や安息香酸の場合は、加熱蒸発さた気体を磁気記録媒体への暴露用に用いることもできる。
また、飛散防止分子への暴露は、常温で行うことができる他、磁気記録媒体に悪影響を及ぼさない温度であれば、加熱下で行うこともできる。
また、磁気記録媒体の飛散防止分子への暴露は、飛散防止分子の気体の流通下で行うか、または飛散防止分子の気体を充填した容器中で行うこともできる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
実施例1〜6
図1に本発明の磁気記録媒体の1つの実施態様の断面図を示す。
基板1とその両面に形成された非磁性金属層2、非磁性金属層2の上に形成された磁性薄膜層3、磁性薄膜層3の上に形成された保護層4、保護層4の上に形成された潤滑剤層5、さらに潤滑剤層5の上に形成された飛散防止分子層6からなる。
基板1は、表面粗さRaが2nmに研磨加工されたガラスディスク基板である。基板1上にスパッタ法により形成したCrからなる下地層である非磁性金属層2(平均膜厚50nm)を有し、さらに、非磁性金属層2の上にCo−Pt系合金磁性層3(平均膜厚30nm)をスパッタ法により形成した。さらに、磁性層3の上にカーボン保護層(平均膜厚15nm)をスパッタ法により形成した。得られた基板を、さらに、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤(日本モンテジソン社のFOMBLIM AM) をフッ素系の溶剤に 0.2(wt %) の濃度で溶かした溶液中にディップして潤滑剤層5(膜厚約1nm、XPS測定による)を形成して磁気ディスクを作製した。
【0019】
得られたディスクを、一酸化炭素、二酸化炭素、エタノール、イソプロパノール、酢酸又は安息香酸の気体を充填した容器に室温で所定時間放置して、潤滑剤層5上に飛散防止分子を付着させた。各飛散防止分子について、放置時間を変えて、付着量の異なる5種類のサンプルを作製した。付着した飛散防止分子の膜厚はXPSによる光電子分光法を利用して測定した。
尚、一酸化炭素は気体として容器内に供給した。二酸化炭素はドライアイス片を容器内に置くことで、また、エタノール及びイソプロパノールは、ビーカーに入れて容器内に置くことで供給した。酢酸及び安息香酸は、加熱して発生した蒸気を容器内に供給した。
【0020】
CSS耐久性試験
磁気ディスクと磁気ヘッドとが静止した状態(コンタクト)から磁気ディスクを回転させて磁気ヘッドを浮上させ、その後磁気ディスクの回転を止めてヘッドがディスク上に降りる操作を繰り返し行い、磁気ディスクが破損するまでの繰り返し回数を求めて、磁気ディスクの耐久性を調べた。
Wash-Off 試験
潤滑剤層の初期膜厚をXPSによる光電子分光法で測定し、フルオロカーボン(PF5060)に3分間浸漬した後の膜厚(残存膜厚)を、同様にXPSによる光電子分光法で測定した。残存膜厚/初期膜厚の比を求めた。
【0021】
比較例
実施例1〜6において、飛散防止分子層を有さない磁気記録媒体を比較例とした。
実施例1〜6及び比較例の磁気記録媒体のCSS耐久性試験結果及びWash-Off試験結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
Figure 0003662340
Figure 0003662340
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、経時的に飛散消失することを除けば良好な性能を有する従来の液体のフッ素系潤滑剤を用い、そのCSS時の回転による飛散を有効に防止して、耐久性の高い磁気記録媒体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例において作製した磁気ディスクの断面図。

Claims (5)

  1. 非磁性基板上に、少なくとも磁性層、保護膜層及び潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、前記潤滑剤層上に、前記潤滑剤の飛散を防止する分子(以下、飛散防止分子という)が付着してなることを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 飛散防止分子が、一酸化炭素、二酸化炭素、ROHで表されるアルコール(但し、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐の飽和炭化水素基またはフェニル基である)、およびRCOOHで表される有機カルボン酸化合物(但し、Rは前記と同じ)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の分子である請求項1記載の磁気記録媒体。
  3. 飛散防止分子が2分子以上の層を形成している請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
  4. 潤滑剤がパーフルオロポリエーテル系潤滑剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  5. 非磁性基板上に少なくとも磁性層、保護膜層及び潤滑剤層を有する磁気記録媒体に、飛散防止分子の気体を接触させることで飛散防止分子を潤滑剤層に付着させることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
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