JP3661418B2 - 表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼 - Google Patents
表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼に関し、とくに鋼中に含まれる酸化物系介在物の組成を改質することによって諸特性の有利な改善を図ったものである。
【0002】
【従来の技術】
フェライト系ステンレス鋼板は、主要合金元素としてNiを含まず、安価であるため、自動車用部品や電機・厨房機器関連分野をはじめとして幅広く使用されている。
【0003】
例えば、特開昭61−276955号公報には、C,Nの低減とTi添加によって深絞り成形加工性の指標であるr値を向上させ、さらにB添加によって深絞り加工後の2次加工脆性を改善する技術が開示されている。
この技術では、Alを積極的に添加することによって、TiO2の生成を抑制し、鋼板表面に欠陥が発生することを防止している。
しかしながら、この技術では、得られる表面品質が十分満足するまでには至らないだけでなく、製造時の連続鋳造時に、浸漬ノズルの内壁に Al2O3−TiO2系の高融点介在物が付着堆積し、ノズル閉塞が生じるいう問題があった。
【0004】
また、特開平8−144021号公報や特開平8−260106号公報には、Alを含有したTi添加フェライト系ステンレス鋼において、上述した連続鋳造時におけるノズル閉塞対策として、酸化物系介在物を Al2O3−TiO2−CaO 系とし、低融点化することによって、ノズル詰まりを防止する技術が開示されている。
しかしながら、この技術では、介在物としてCaSが生成し易く、このCaSが起点となって錆が発生し易いため、耐食性が劣化するという問題があり、低S化が必要となる。
しかも、基本的にAl脱酸技術であるため、冷延板において、 Al2O3が凝集、クラスター化して発生するヘゲ状の表面欠陥が免れ得ないという根本的な問題を残していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記の実情に鑑み開発されたもので、上述したような従来の問題を全て解決した、表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼を提案することを目的とする。
すなわち、この発明における課題は次のとおりである。
(1) 製造時の連続鋳造時にノズル詰まりが無く製造性がよいこと。
(2) ヘゲ状表面欠陥がなく表面性状に優れること。
(3) 耐食性に優れること。
(4) 成型加工性に優れること。具体的には、r値が 1.7以上でΔr値が 0.2以下であること。
【0006】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、鋼材の成分調整もさることながら、鋼中に含まれる酸化物系介在物の組成を適正に改質することが、所期した目的の達成に関し極めて有効であること、また酸化物系介在物を所望組成に安定して改質するには、鋼成分のうち脱酸剤として作用する成分の添加順序が極めて重要であることの知見を得た。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0007】
すなわち、この発明の要旨構成は次のとおりである。
1.C:0.02wt%以下、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、
Cr:5〜32wt%、 P:0.05wt%以下、 S:0.015 wt%以下、
N:0.02wt%以下、 Al:0.005 wt%以下、 O:0.01wt%以下、
Ti:0.08wt%以上かつ6×(C+N)以上、0.5 wt%以下
Ca:0.0005〜0.0050wt%
を含有し、残部はFe および不可避的不純物の組成になり、鋼中の脱酸生成物に起因した酸化物系介在物の組成が、Ti酸化物:20〜90wt%、 Al2O3:50wt%以下およびCaO:5〜50wt%の範囲を満足することを特徴とする表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【0008】
2.上記1において、鋼組成が、さらに
Mo:0.05〜4.0 wt%
を含有する組成になることを特徴とする表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【0009】
3.上記1または2において、鋼組成が、さらに
Nb:0.002 〜0.030 wt%、 B:0.0002〜0.0030wt%
のうちから選んだ1種または2種を含有する組成になることを特徴とする表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の基礎となった実験結果について説明する。
実験1
C:0.006 〜0.011 wt%、Si:0.22〜0.41wt%、Mn:0.27〜0.48wt%、Cr:10.9〜11.3wt%、P:0.021 〜0.041 wt%、S:0.003 〜0.011 wt%、N:0.004 〜0.009 wt%、O:0.0037〜0.0076wt%、Ti:0.19〜0.26wt%、Ca:0.0006〜0.0022wt%の成分範囲で、Al量を0.0007wt%から 0.023wt%まで変化させた鋼を、溶製し、連続鋳造後(鋳片サイズ:200mm 厚×1240mm幅)、鋳片を手入れすることなく熱間圧延した。熱間圧延は、スラブ加熱条件:1090〜1130℃−40〜60分、粗圧延7パス、粗圧延仕上げ温度:950 〜1060℃、粗圧延仕上げ厚:28mm、仕上げ(7スタンド)圧延機出側温度:800 〜880 ℃、仕上げ厚:3mm、コイル巻き取り温度:500 〜670 ℃、の条件で行った。
【0011】
ついで、熱延コイルを 880〜920 ℃で連続焼鈍したのち、酸洗を施してから、コイル全長にわたって表面観察を行い、ヘゲ状欠陥の単位面積当たりの平均個数を求めた。
得られた結果を図1に示す。なお、観察されたヘゲ状欠陥はいずれも幅が 0.4〜3mm程度で長さは30〜500mm 程度であった。
図1から明らかなように、Al量が 0.005wt%を超えるとヘゲ状欠陥が発生し始めるのが判る。
これらのヘゲ状欠陥部を分析したところ Al2O3が検出された。従って、かようなヘゲ状欠陥は、鋳込み時に生成した脱酸生成物である Al2O3が凝集・粗大化し、熱延時に圧延方向に分断されてできたものと考えられる。
【0012】
実験2
C:0.006 〜0.011 wt%、Si:0.22〜0.41wt%、Mn:0.27〜0.48wt%、Cr:10.9〜11.3wt%、P:0.021 〜0.041 wt%、S:0.003 〜0.011 wt%、N:0.004 〜0.009 wt%、O:0.0037〜0.0076wt%、Ti:0.19〜0.26wt%の成分範囲で、Ca量を0.0009wt%から0.0024wtwt%まで、またAl量を0.0007wt%から 0.023wt%まで変化させた鋼を、
溶製し、連続鋳造後(鋳片サイズ:200mm 厚×1240mm幅)、鋳片を手入れすることなく熱間圧延した。熱間圧延は、スラブ加熱条件:1090〜1130℃−40〜60分、粗圧延7パス、粗圧延仕上げ温度:950 〜1000℃、粗圧延仕上げ厚:28mm、仕上げ(7スタンド)圧延機出側温度:800 〜880 ℃、仕上げ厚:3mm、コイル巻き取り温度:590 〜700 ℃、の条件で行った。
得られた熱延コイルを、 880〜920 ℃で連続焼鈍し、酸洗後、冷間圧延により板厚:0.8 mmに仕上げたのち、 880〜910 ℃で連続焼鈍後、酸洗して、冷延焼鈍板とした。
【0013】
かくして得られた冷延焼鈍板の全長にわたって表面観察を行い、ヘゲ状欠陥の単位面積当たりの平均個数を求めた。
また、得られた冷延焼鈍板に存在する酸化物系介在物の定量をブローム法によって行った。
得られた結果を、介在物中の Al2O3量で整理して図2に示す。
同図に示したとおり、酸化物系介在物中の Al2O3量が50wt%を超えるとヘゲ状欠陥が急激に発生し始めることが判る。
これに対し、 Al2O3量が50wt%以下ではヘゲ状欠陥の発生は少なく、特に Al2O3量が20wt%以下の場合には、ヘゲ状欠陥の発生はほとんど認められなかった。なお、観察されたヘゲ状欠陥は、幅が 0.2〜2mm程度で長さは80〜1000mm程度であった。
【0014】
実験3
C:0.006 〜0.011 wt%、Si:0.22〜0.41wt%、Mn:0.27〜0.48wt%、Cr:10.9〜11.3wt%、P:0.021 〜0.041 wt%、S:0.003 〜0.011 wt%、N:0.004 〜0.009 wt%、O:0.0037〜0.0076wt%、Ti:0.19〜0.26wt%、Al:0.0007〜0.0039wt%の成分範囲で、Ca量を0.0008〜0.0029wt%の範囲で変化させた鋼を 160トン溶製し、連続鋳造後(鋳片サイズ:200mm 厚×1240mm幅)、鋳片を手入れすることなく熱間圧延した。熱間圧延は、スラブ加熱条件:1090〜1130℃−40〜60分、粗圧延7パス、粗圧延仕上げ温度:950 〜1000℃、粗圧延仕上げ厚:28mm、仕上げ(7スタンド)圧延機出側温度:800 〜880 ℃、仕上げ厚:3mm、コイル巻き取り温度:590 〜700 ℃、の条件で行った。
得られた熱延コイルを、 880〜920 ℃で連続焼鈍し、酸洗後、冷間圧延により板厚:0.8 mmに仕上げたのち、 880〜910 ℃で連続焼鈍後、酸洗して、冷延焼鈍板とした。
【0015】
かくして得られた冷延焼鈍板の試験片表面をエメリー#600 研磨し、塩水噴霧試験(JIS-Z-2371準拠)を4時間行い、錆の個数をカウントした。また、連続鋳造後の浸漬ノズルを回収し、ノズル閉塞率を測定した。さらに、冷延焼鈍板に存在する酸化物系介在物の定量をブローム法により行った。
得られた結果を、酸化物系介在物中のTi酸化物量で整理して図3に示す。
同図から明らかなように、介在物中のTi酸化物量が20〜90wt%の範囲にあれば、連鋳時のノズル閉塞がなく、また耐食性も良好であることが判る。
【0016】
実験4
C:0.006 〜0.011 wt%、Si:0.22〜0.41wt%、Mn:0.27〜0.48wt%、Cr:10.9〜11.3wt%、P:0.021 〜0.041 wt%、S:0.003 〜0.011 wt%、N:0.004 〜0.009 wt%、O:0.0037〜0.0076wt%、Ti:0.19〜0.26wt%、Al:0.0007〜0.0026wt%の成分範囲で、Ca量を0.0003〜0.0055wt%の範囲で変化させた鋼を160 トン溶製し、連続鋳造後(鋳片サイズ:200mm 厚×1240mm幅)、鋳片を手入れすることなく熱間圧延した。熱間圧延は、スラブ加熱条件:1090〜1130℃−40〜60分、粗圧延7パス、粗圧延仕上げ温度:950 〜1000℃、粗圧延仕上げ厚:28mm、仕上げ(7スタンド)圧延機出側温度:800 〜880 ℃、仕上げ厚:3mm、コイル巻き取り温度:590 〜700 ℃、の条件で行った。
得られた熱延コイルを、 880〜920 ℃で連続焼鈍し、酸洗後、冷間圧延により板厚:0.8 mmに仕上げたのち、 880〜910 ℃で連続焼鈍後、酸洗して、冷延焼鈍板とした。
【0017】
かくして得られた冷延焼鈍板の試験片表面をエメリー#600 研磨し、塩水噴霧試験(JIS-Z-2371準拠)を4時間行い、錆の個数をカウントした。また、連続鋳造後の浸漬ノズルを回収し、ノズル閉塞率を測定した。さらに、冷延焼鈍板に存在する酸化物系介在物の定量をブローム法により行った。
得られた結果を、酸化物系介在物中のCaO量で整理して図4に示す。
同図から明らかなように、介在物中のCaO量が5〜50wt%の範囲にあれば、連鋳時のノズル閉塞がなく、また耐食性も良好であることが判る。
【0018】
実験5
C:0.006 〜0.011wt %、Si:0.22〜0.41wt%、Mn:0.27〜0.48wt%、Cr:10.9〜11.3wt%、P:0.021 〜0.041 wt%、S:0.001 〜0.021 wt%、N:0.004 〜0.009 wt%、O:0.0037〜0.0076wt%、Ti:0.19〜0.26wt%の組成範囲で、しかも酸化物系介在物中の Al2O3量が5〜20wt%と55〜65wt%の2水準について、Ca量を0.0003〜0.0058wt%の範囲で変化させた鋼を溶製し、連続鋳造後(鋳片サイズ:200mm 厚×1240mm幅)、鋳片を手入れすることなく熱間圧延した。熱間圧延は、スラブ加熱条件:1090〜1130℃−40〜60分、粗圧延7パス、粗圧延仕上げ温度:950 〜1000℃、粗圧延仕上げ厚:28mm、仕上げ(7スタンド)圧延機出側温度:800 〜880 ℃、仕上げ厚:3mm、コイル巻き取り温度:590 〜700 ℃、の条件で行った。
得られた熱延コイルを、 880〜920 ℃で連続焼鈍し、酸洗後、冷間圧延により板厚:0.8 mmに仕上げたのち、 880〜910 ℃で連続焼鈍後、酸洗して、冷延焼鈍板とした。
【0019】
かくして得られた冷延焼鈍板の試験片表面をエメリー#600 研磨し、塩水噴霧試験(JIS-Z-2371準拠)を4時間行い、錆の個数をカウントした。ここで、発錆個数が dm2当たり5個以下の場合をOK、20個以上の場合をNGとした。
図5に、それぞれの Al2O3水準に関して行った耐食性評価結果を、S量とCa量で整理して示す。
同図に示したとおり、酸化物系介在物中の Al2O3量が50wt%以下の水準では、耐食性が良好なS、Ca範囲は広範囲であるのに対し、 Al2O3量が55〜65wt%の水準ではその範囲は非常に狭く、耐食性の面から低S化が必要不可欠であることが判る。
【0020】
以上、述べたとおり、この発明で所期した目的を達成するためには、鋼中Al量を0.005 wt%以下に抑制すると共に、酸化物系介在物の組成を Al2O3:50wt%以下、Ti酸化物:20〜90wt%およびCaO:5〜50wt%の範囲に制限することが重要である。
しかしながら、酸化物系介在物の組成を上記の範囲に制御するのは容易ではなく、介在物組成が上記の範囲になるように鋼組成を成分調整したつもりでも、介在物組成がばらつきが大きく、必ずしも所望の組成範囲におさまるわけではないことが判明した。
【0021】
そこで、発明者らは、この点について、さらに研究を重ねた結果、酸化物系介在物の組成を上記の範囲に安定して制御するためには、脱酸剤成分であるAl、TiおよびCaの添加量もさることながら、これらの成分を添加する順序が極めて重要であることが判明した。
すなわち、まず、少量のAl添加またはSi添加によって予備的脱酸を行った後、比較的多量のTiを添加してTi脱酸を行うと、Al脱酸により生成した Al2O3またはSi脱酸により生成したSiO2をTi酸化物が包むような形態のAl 2 O 3 (SiO 2 ) − Ti 酸化物系複合酸化物となり、このような形態の複合酸化物とした上で適量のCaを添加してやると、所望組成の酸化物系介在物( Al 2 O 3 (SiO 2 ) − Ti 酸化物− Ca O系複合酸化物)が安定して得られることが究明されたのである。
ここに、上記のようにして得られた酸化物系介在物は、低融点であるので連続鋳造時にノズル詰まりを生じることがなく、また、その大きさは5〜20μm 程度にすぎないので製品板においてクラスター状介在物に起因した表面欠陥が発生することもない。しかも、この酸化物系介在物の周りにはCaSが生成することがないので発錆のおそれもない。
【0022】
この点、鋼の溶製に際し、脱酸剤成分の添加順序を特に考慮せずに、合金成分を同時に添加した場合、特に従来のようにAlを比較的多量に添加した場合には、Al2O3 が主体の酸化物が生成し易いため、この発明で所期したような組成の介在物とはならず、その結果、所望の効果が得られなかったものと考えられる。
また、この発明では、鋼の溶製段階で、VOD炉等を用いた強攪拌を利用するのに対し、従来は、かような溶製手段を適切に講じていなかったことも、所望の効果が得られなかった一因と考えられる。
【0023】
次に、この発明において、鋼の成分組成を前記の範囲を限定した理由について説明する。
C:0.02wt%以下
Cは、r値や伸びを低下させる元素である。この発明のようにTiの添加を行ってもこれらの特性の面からはC量は低いほど望ましいが、0.02wt%以下であればさほどの悪影響はないので、Cの上限は0.02wt%に定めた。
【0024】
Si:1.0 wt%以下
Siは、脱酸のために有効な元素であるが、過剰の添加は延性の低下を招く。そこで、この発明では 1.0wt%以下で含有させるものとした。好ましくは 0.7wt%以下である。
【0025】
Mn:1.0 wt%以下
Mnは、脱酸のために有効な元素であるが、オーステナイト安定化元素であり、過剰の添加は高温でγ相を生成し、最終冷延焼鈍板において延性の低下を招くので、 1.0wt%以下で含有させるものとした。
【0026】
Cr:5〜32wt%
Crは、耐食性を確保する上で必要不可欠な元素であるが、含有量が5wt%未満ではその添加効果に乏しく、一方32wt%を超えると延性や靱性の劣化が著しくなるので、5〜32wt%の範囲で含有させるものとした。
【0027】
P:0.05wt%以下
Pは、延性や靱性に有害な元素であり、含有量が0.05wt%を超えるとその弊害が顕著となるので、0.05wt%以下に制限した。
【0028】
S:0.015 wt%以下
前述したように、Sは耐食性を低下させる元素である。とりわけ、この発明のようにCa添加を行う場合には水溶性であるCaSを生じ易い。
添加するCa量にも依存するが、この発明の主眼である酸化物系介在物組成をコントロールしても、S量が 0.015wt%を超えると耐食性の劣化が生じ易くなるので、S量は 0.015wt%以下に制限した。
【0029】
N:0.02wt%以下
Nも、Cと同様にr値と伸びに有害な元素であり、低ければ低いほど好ましいが、0.02wt%を超えなければさほどの悪影響はないので、上限を0.02wt%に定めた。
【0030】
Al:0.005 wt%以下
実験1の結果からも明らかなように、冷延板表面品質の点から 0.005wt%以下にする必要がある。すなわち、含有量が 0.005wt%を超えると表面に Al2O3の凝集に起因した巨大なヘゲ状欠陥が生じるからである。
【0031】
O:0.01wt%以下
酸素は鋼中には全く固溶せず、酸化物として存在する。介在物は錆や破壊の起点となり易く、特に酸素量が0.01wt%を超えるとその悪影響が顕著となるので、O量は0.01wt%以下に制限した。
【0032】
Ti:0.08wt%以上かつ6×(C+N)以上、0.5 wt%以下
Tiは、成形加工性の向上に必要不可欠な元素であるだけでなく、脱酸にも有効な元素である。前者の成形加工性向上の点からは、6×(C+N)以上が必要であり、また、脱酸を有効に行ってなおかつC,Nに対しても有効に作用するためには0.08wt%が必要である。従って、Tiの下限は0.08wt%でかつ6×(C+N)に限定される。一方、Ti量が 0.5wt%を超えると延性が低下しはじめるので、Ti量の上限は 0.5wt%に定めた。
【0033】
Ca:0.0005wt%以上、0.0050wt%以下
Caは、この発明に係る酸化物系介在物の融点を効果的に低下して、連続鋳造時におけるノズル閉塞を防止するのに極めて有効な元素であり、その効果は0.0005wt%以上で顕著であるので、下限は0.0005wt%とした。一方、多量に添加すると耐食性の劣化を招き、そのおそれが0.0050wt%を超えると顕著になるので、上限は0.0050wt%とした。
【0034】
以上、基本成分について説明したが、この発明では、必要応じて次の元素をそれぞれ適宜添加することができる。
Mo:0.05〜4.0 wt%
Moは、耐食性向上に非常に有効な元素であり、その効果は0.05wt%以上で顕著になるので、下限は0.05wt%とした。一方、Moは添加すればするほど耐食性は向上するが、4.0 wt%を超えるとほぼその効果は飽和に達するばかりでなく、靱性や延性の著しい低下を招くので、上限は 4.0wt%とした。
【0035】
Nb:0.002 〜0.030 wt%および/またはB:0.0002〜0.0030wt%
Nb、Bはそれぞれ、深絞り後にさらに加工される場合に問題となる2次加工脆性を防止する効果があり、それぞれ 0.002wt%, 0.0002wt%以上の単独または複合添加で効果が認められるので、下限はそれぞれ 0.002wt%, 0.0002wt%とした。一方、Nbについては 0.030wt%を超えると伸びが低下しはじめ、またBについては0.0030wt%を超えると延性が低下しはじめるので、それぞれ上限は0.030 wt%、0.0030wt%に限定した。
【0036】
次に、この発明において、酸化物系介在物組成を前記の範囲を限定した理由について説明する。
Ti酸化物量:20〜90wt%、 Al2O3:50wt%以下、CaO:5〜50wt%
酸化物系介在物の組成を上記の範囲にしたところが、この発明の主眼技術である。
先に実験2,3,4,5で示したように、 Al2O3量を50wt%以下、より好ましくは20wt%以下とすることによって、冷延板で生成するヘゲ状表面欠陥を防止でき、さらにTi酸化物量を20〜90wt%、CaO量を5〜50wt%とすることによって、連続鋳造時におけるノズル詰まりを防止でき、しかも耐食性の劣化もない。従って、この発明では、脱酸生成物に起因した酸化物系介在物の組成について、Ti酸化物:20〜90wt%、 Al2O3:50wt%以下、CaO:5〜50wt%の範囲に限定したのである。
さらに、酸化物系介在物の組成をこの範囲に制限すると、冷延焼鈍板の深絞り加工性の指標であるr値が向上し、同時に面内異方性Δrも小さくなることが見出された。この理由については、まだ明確に解明されたわけではないが、再結晶時の集合組織形成に介在物形態が影響を及ぼしたものと推察される。
【0037】
なお、この発明では、鋼中の全ての介在物を、上記の組成の複合酸化物とする必要はなく、少なくとも50%、好ましくは70%以上がかような Al2O3 (SiO 2 )−Ti酸化物−CaO系複合酸化物になっていれば良い。
ここに、その他に生成される酸化物としては、 MnO, FeOXおよびMgOなどが考えられる。
【0038】
次に、この発明の好適製造方法について説明する。
この発明では、前述したとおり、溶製段階における脱酸剤成分の添加順序が重要である。
すなわち、まず、少量のAlまたはSiを添加して予備的脱酸を行ったのち、比較的多量のTiを添加してTi脱酸を行う。このようにすると、AlまたはSi脱酸により生成した Al2O3やSiO2がTi酸化物で包まれたような形態のAl 2 O 3 (SiO 2 ) − Ti 酸化物系複合酸化物となるが、かような形態の複合酸化物の大きさは5〜20μm 程度であるので、製品板において巨大のクラスター状介在物に起因した表面欠陥を有利に防止することができる。
しかしながら、かかる複合酸化物は、溶鋼中では固相であるため、このままでは連続鋳造時に地鉄を取り込んだ形でタンディッシュのノズル内面に付着・堆積して、ノズルの閉塞を生じるおそれがある。
しかしながら、その後にCaを適量添加してやると、低融点の酸化物系介在物( Al 2 O 3 (SiO 2 ) − Ti 酸化物− Ca O系複合酸化物)となり、それ故連続鋳造時におけるノズル詰まりが有利に回避されるのである。
しかも、かかる酸化物系介在物の周りにはCaSが生成することがないので発錆も併せて防止できることは前述したとおりである。
【0039】
上記のようにして、所望の鋼組成および介在物組成に調整した溶鋼は、常法に従って、鋳造、熱間圧延、冷間圧延および焼鈍処理を施して製品とされる。
ここに、好適な熱延条件、冷延条件および焼鈍条件は次のとおりである。
熱延条件
スラブ加熱温度:1050〜1260℃、粗圧延温度:900 〜1180℃、粗圧延トータル圧下率:80〜93%、仕上げ圧延温度:750 〜1000℃、仕上げ圧延出側厚さ:1.5 〜7mm、巻取り温度:400 〜850 ℃。
冷延条件
冷間圧延は、タンデムミル、クラスターミルまたはゼンジミィアーミルにより圧延できる。総圧下率は45〜95%程度が好ましい。冷間圧延−焼鈍−冷間圧延を繰り返しても良い。
焼鈍条件
仕上げ焼鈍温度:800 〜1100℃の範囲で、目的とする材質に応じて選択する。
目標温度保持時間:0〜1800sの範囲で、目的とする材質に応じて選択する。
また、表面仕上げについては、2D、2B、BAおよび研磨などがある。
【0040】
【実施例】
表1に示す成分組成の溶鋼を次のようにして溶製した。
すなわち、脱炭処理後の含クロム溶鋼に対し、VOD炉にて、溶鋼攪拌下に、まず所定量のAlを添加して予備脱酸を行い、ついでTiを添加してTi脱酸を行ったのち、成分調整を行い、溶鋼を大気中に移してからCa添加を行った。
ついで、連続鋳造法にて、厚み:200 mm、幅:1000mmサイズに鋳造した。得られたスラブは手入れすることなく、次の条件で熱間圧延を行った。
スラブ加熱温度:1100〜1170℃、加熱時間:30〜90分、粗7パス、粗仕上げ厚み:25mm、粗圧延終了温度:960 〜1060℃、仕上げ(7段ミル)、仕上げ厚:3mm、FDT:800 〜950 ℃、CT:460 〜680 ℃。
【0041】
得られた熱延コイルを、 900〜1000℃で連続焼鈍し、酸洗後、冷間圧延により板厚:0.6 mmに仕上げたのち、 870〜1000℃で連続焼鈍後、酸洗して冷延焼鈍板とした。
かくして得られた冷延焼鈍板について、酸化物系介在物の組成、連鋳後のノズル閉塞率、冷延板表面のヘゲ欠陥個数ならびに冷延焼鈍板のr値、Δr値、2次加工脆性割れ発生温度について調べた結果を、表2に示す。
また、同表には、冷延焼鈍板表面をエメリー#600 研磨し、塩水噴霧試験(SST)と塩乾湿複合サイクル腐食試験を行った後の発錆個数と発錆面積率について調査した結果も併せて示す。
成形加工性については、r値、Δr値および2次加工脆性割れ発生温度で、また表面性状については、冷延板における表面欠陥発生個数で、さらに耐食性については、塩水噴霧試験および塩乾湿複合サイクル腐食試験における発錆個数および発錆面積率で、それぞれ評価した。
【0042】
なお、それぞれの特性評価方法は次のとおりである。
・冷延焼鈍板中の酸化物系介在物の分析
冷延焼鈍板から試験片を採取し、臭素メタノール系の溶液中で電解することによって酸化物系介在物を残査として採取したのち、酸に溶解して化学分析を行った。
・ノズル閉塞率測定法
160 トン連続鋳造後の初期径:60mmのノズルを回収し、断面を切断して最小径を測定し、((初期径−鋳込み後の最小径)/初期径)× 100(%)を閉塞率とした。
【0043】
・r値、Δr値測定
r値は、フェライト系ステンレス鋼の深絞り加工性を示す指標である。冷延焼鈍板からL、 D、 C方向に平行にJIS 13号B引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠した引張試験を行い、相当歪みが15%の場合でランクフォード値(r値)を測定した。この時にL、 D、 C方向の加重平均をr値とした。また、面内異方性を示すΔrは、(L方向r値+C方向r値−2×D方向r値)/2により算出した。
・2次加工脆性割れ発生温度
絞り比:2で深絞り加工したカップ状試験片を-100〜20℃の特定温度に保持したのち、落重試験(おもり重量:5kg、落差:0.8 m)によりカップ頭部に衝撃荷重を付加し、カップ側壁部における脆性割れの有無から、割れ発生温度を求めた。
【0044】
・塩水噴霧試験(SST)
冷延焼鈍板表面をエメリー#600 研磨仕上げ後、脱脂し、JIS Z 2371に準拠した条件で塩水噴霧試験を4h行い、発錆個数をカウントした。
・塩乾湿複合サイクル腐食試験(CCT)
冷延焼鈍板表面をエメリー#600 研磨仕上げ後、脱脂し、35℃で 3.5%NaClを0.5 時間噴霧後、1hの乾燥(60℃)および1h湿潤(40℃、相対湿度:95%以上)を1サイクルとした複合腐食試験を10サイクル実施し、発錆面積率を測定した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示したとおり、この発明に従うフェライト系ステンレス鋼は、その溶製後の連続鋳造時においてノズル閉塞が全く生じず、また製品板においても、表面欠陥が全くなく、しかもr値が 1.7以上でかつΔrが 0.2以下という優れた成形加工性が有しており、さらに耐食性にも優れていた。
【0048】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、優れた成形加工性を有するのはいうまでもなく、酸化物系介在物に起因した表面欠陥がなく、また耐食性にも優れたフェライト系ステンレス鋼を安定して得ることができる。
また、この発明のフェライト系ステンレス鋼は、その製造過程の連続鋳造時においてノズル閉塞が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼中のT.Al量と熱延焼鈍板の表面欠陥個数との関係を示したグラフである。
【図2】酸化物系介在物中の Al2O3濃度とヘゲ状表面欠陥個数との関係を示したグラフである。
【図3】酸化物系介在物中のTi酸化物濃度とノズル閉塞率および発錆個数との関係を示したグラフである。
【図4】酸化物系介在物中のCaO濃度とノズル閉塞率および発錆個数との関係を示したグラフである。
【図5】耐食性に及ぼすS量とCa量の影響を、2つの Al2O3水準で比較して示したグラフである。
Claims (3)
- C:0.02wt%以下、 Si:1.0 wt%以下、 Mn:1.0 wt%以下、
Cr:5〜32wt%、 P:0.05wt%以下、 S:0.015 wt%以下、
N:0.02wt%以下、 Al:0.005 wt%以下、 O:0.01wt%以下、
Ti:0.08wt%以上かつ6×(C+N)以上、0.5 wt%以下
Ca:0.0005〜0.0050wt%
を含有し、残部はFe および不可避的不純物の組成になり、鋼中の脱酸生成物に起因した酸化物系介在物の組成が、Ti酸化物:20〜90wt%、 Al2O3:50wt%以下およびCaO:5〜50wt%の範囲を満足することを特徴とする表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 - 請求項1において、鋼組成が、さらに
Mo:0.05〜4.0 wt%
を含有する組成になることを特徴とする表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 - 請求項1または2において、鋼組成が、さらに
Nb:0.002 〜0.030 wt%、 B:0.0002〜0.0030wt%
のうちから選んだ1種または2種を含有する組成になることを特徴とする表面性状が良好で耐食性と成形加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
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