JP3660765B2 - アラミド複合体シートの製造方法 - Google Patents

アラミド複合体シートの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気電子機器の絶縁材料として好適に利用できるアラミド複合体シートの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電動機、発電機、変圧器などの電気機器分野および集積回路、トランジスターなどの電子機器分野において、国際的規模での競争を強いられる中、自社製品のコスト削減や他社製品との差別化、ユーザーからの高度な品質要求への対応などを目的として大容量化、小型化などの高性能化が追求されている。これを実現する手段の一つとして、熱伝導率の改善された電気絶縁材料が強く望まれている。この技術的背景を大型発電機を例に説明する。
【0003】
大型発電機において、機器に使用される導線の細径化は導線使用量を減らす有効な方策である。しかしながら、細径化は同時に導線内の電流密度の向上、エネルギー損失に伴う発熱量の増加を引き起こすため、必然的に導線周辺の温度上昇を招いてしまう。温度の上昇は、導線を被覆する有機絶縁材料の劣化を引き起こすため、機器の信頼性、耐久性、安全性を損なう結果となる。従来はこのような高温環境にも耐えられるべく、各種耐熱有機絶縁材料が開発され使用されてきた。しかしながら、有機絶縁材料、特に有機高分子材料の場合、材料の耐熱性を向上させて高温環境に適合させる手法には、技術的、コスト的に現状ではすでに限界になりつつある。それは、ここ十数年間、商業的に利用できる新規耐熱性高分子材料がほとんど開発されていない状況からも明白である。
【0004】
一方で、発熱部から速やかに熱を放散し絶縁層の実効温度を緩和するという考え方がある。この原理は下記式の関係から容易に理解される。
【0005】
【数4】
Q=λ(T2−T1)/L (4)
ここで、Q:単位時間当たり単位断面積を伝熱によって通過する熱流速(W/m2)
λ:熱伝導率(W/mK)
T2:熱源内側の伝熱(絶縁)層の温度(K)
T1:熱源外側の伝熱(絶縁)層の温度(K)
L: 伝熱(絶縁)層の厚み(m)
Qの増加に伴うT2の上昇を防ぐ方策としては、Lを小さくするか、λを大きくするかの二通りがある。Lの減少は、絶縁層の単位厚み当たりの絶縁耐力が向上しない限り絶縁システムの信頼性確保の点で容易には受け入れがたい。よって、λの向上が現実的な選択肢となる。
【0006】
ところが、有機電気絶縁材料は、一般に、熱の不良導体であるため熱の伝導は必ずしも十分とはいいがたい。例えば、アルミニウム、銅などの導体の室温付近での熱伝導率が各々205W/mK、388W/mKであるのに対して、ポリエステル(PET)で0.2〜0.3W/mK、エポキシ樹脂でも0.2〜0.3W/mKと小さく、きわめて熱を伝えにくい。絶縁層の厚みが1mm以上にも及ぶ大型発電機の場合、蓄熱による温度上昇は特に著しい。
【0007】
また、従来、高電圧が印加される発電機の主絶縁材料としては、耐電圧、耐コロナ性の観点から、ガラスクロス、フィルムなどで裏打ち補強されたマイカテープが広く使われている。このマイカテープは、精製したマイカを湿式抄造によってシート状に成形したものを基材とする。導体であるコイルに数層にわたって重ね巻きされた後、樹脂を含浸し固化される。このコイル巻回作業での張力に耐えられるよう、脆弱なマイカ層を裏打ち材で補強することは不可欠とされている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、発熱部である胴体部分からの放熱促進という点では、現在使用されている裏打ちマイカテープには、次のような問題点が指摘できる。
【0009】
(ア)空隙による断熱作用
マイカそのものは熱伝導率が0.5W/mK程度であるが、シート内に空隙を多く含むため、空気の断熱作用によって熱伝導性がよくない。抄造時にマイカ層が緻密に積層されるため電気機器組立の際に樹脂を含浸しても内部まで十分浸透しにくいため微量の空隙が残りやすい。このような空隙は、熱伝導性を損なうのみならず、高い印加電圧ではコロナ放電の原因になるため好ましくない。
【0010】
(イ)裏打ち材の熱伝導率が小さい
裏打ち材がフィルムである場合、フィルムの熱伝導率は既述のように、たかだか0.3W/mK程度である。つまり、部分的にせよ熱伝導率の小さな層が存在することになる。一方、ガラスクロスで裏打ちされている場合、ガラスクロスの見かけの熱伝導率は0.1W/mK以下と小さい。樹脂含浸後の樹脂−ガラスクロス複合層では、Vf(複合材料中のガラス繊維比率)が小さくなり、樹脂の熱伝導率を大きく上回る熱伝導は期待しがたい。
【0011】
特公昭56−38006号公報には、集成マイカと合成繊維ファイブリッドおよびマイカよりも熱伝導性の良い粒状無機粉末とをシート状に成形した樹脂含浸用集成マイカ基材シートが提案されている。同公報の記載によれば、粒状無機粉末を加えることで熱伝導性の向上と樹脂含浸性の改善が達成できるとされている。しかし、ここで記述されているマイカシートは合成繊維ファイブリッドの添加量が少ないため、強度が十分でなく、裏打ち材を必要とする。従って、上記(イ)の問題点は本質的に解決しているとはいいがたい。
【0012】
一方、特開昭63−110929号公報、ヨーロッパ特許第0266602号、および米国特許第4,806,806号には、マイカテープ/フィラー含有樹脂層の構成をもつ絶縁層で被覆されたコイルが記載されている。これらの公報の教示に従えば、フィラーは、少なくとも5W/mKの固有熱伝導率と特定範囲の粒径をもつとされている。これらの公報に記載の系では、裏打ち層にフィラーが含まれていることから、先に指摘した問題点(イ)の解決を試みているものと思われる。
【0013】
しかし、これらの公報に記載の方法では、マイカ層内には高容量でフィラーを添加することはきわめて困難であり、樹脂含浸後にマイカ層は実質的にマイカと樹脂のみからなるとみなし得る。仮に、裏打ち材層で高熱伝導率が実現されたとしても、相対的に低い熱伝導率をもつマイカ−樹脂層で放熱が阻害されると考えられる。
【0014】
最近、微細アルミナ粉末を添加して熱伝導率の向上を図ったポリイミドフィルムが提案されている。しかし、このポリイミドフィルムは、高価であること、それ自体は全く樹脂含浸性はないため導体への積層後に樹脂含浸操作を施しても樹脂での固着が十分でないこと、特にコイル長さが数mにおよぶ大型回転機では樹脂の浸透が不良であること、などの理由で現行マイカテープを代替するには至っていない。
【0015】
シリコーン樹脂にアルミナ、窒化ホウ素のような無機質粒子を添加してシート状に成形した絶縁材料も提案されているが、薄葉化しにくいこと、シリコーン樹脂特有の裂け易さが克服されていないこと、および樹脂含浸性が皆無であるといった理由で重電機分野での普及は進んでいない。
【0016】
米国特許第1,129,097号および同第5,393,872号公報には、アラミド素材とマイカ粒子の混合物を湿式抄造により製造したシート状成型品が記載されている。しかし、これらの成型品は内部に多くの空隙をもつため、熱伝導率の改善は期待できないし、それを示唆する記述も同公報中には見出せない。また、熱伝導率を向上させる方策について考慮されていない。
【0017】
IEEE Trans. Electr. Ins., EI−18,6,651(1983)には、アラミドファイブリッドとマイカとを混合後シート状に成形した絶縁テープの記載が見られる。このテープが熱伝導性のフィラーを含むことは記載されていないため、放熱性の改善効果は期待できない。
【0018】
このように、現在のところ、業界の需要に応える熱伝導性の改善された耐熱性薄葉電気絶縁用シート材は皆無といった状況である。
【0019】
従って、本発明の第一の目的は、電気電子機器の絶縁材料として好適に利用できる熱伝導性の改善されたアラミド複合体シートおよびその製造方法を提供することにある。
【0020】
また、本発明の第二の目的は、そのようなアラミド複合体シートを電気絶縁材料として用いた電気電子機器を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、かかる状況に鑑み鋭意検討を進めた結果、本発明に到達した。
【0022】
すなわち、本発明のアラミド複合体シートの製造方法は、アラミドファイブリッド(FB)、アラミドフロック(FL)、マイカ粒子(M)および熱伝導性無機質粒子(P)からなり、各構成成分の重量比率が下記式(1)ないし(3)で示される範囲
【0023】
0≦{FL}/{FB}<10 (1)
0.75<{FB+FL}/{M}<10 (2)
0.9<{P}/{M}<10 (3)
(ここで、{}は各成文の重量比率を示す)にあることを特徴とするアラミド複合体シートの製造方法に係るものである
【0024】
前記アラミドポリメタフェニレンイソフタルアミドとすることができる。
【0025】
前記熱伝導性無機質粒子が酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ベリリウムの1種類または2種類以上から選ばれてもよい。
【0026】
本発明のアラミド複合体シートの製造方法は、アラミドファイブリッド(FB)、アラミドフロック(FL)、マイカ粒子(M)および熱伝導性無機質粒子(P)を、各構成成分の重量比率が下記式(1)ないし(3)で示される範囲
【0027】
0≦{FL}/{FB}<10 (1)
0.75<{FB+FL}/{M}<10 (2)
0.9<{P}/{M}<10 (3)
(ここで、{}は各成文の重量比率を示す)になるように、水中にて分散混合し、抄紙してシート状成形物とするか、あるいは、アラミドファイブリッド(FB)、アラミドフロック(FL)およびマイカ粒子(M)を水中にて分散混合して抄紙してシート状成型物としたものにコロイド状熱伝導性無機質粒子(P)を接触させてアラミド複合体シートとする製造方法であって、各構成成分の重量比率が下記式(1)ないし(3)で示される範囲
0≦{FL}/{FB}<10 (1)
0.75<{FB+FL}/{M}<10 (2)
0.9<{P}/{M}<10 (3)
(ここで、{}は各成文の重量比率を示す)になるように配合することを特徴とする。
【0028】
前記シート状成形物を高温高圧にて熱圧することができる。
【0029】
前記熱伝導性無機質粒子が、繊維状または板状の形態であってもよい。
【0030】
前記アラミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドであってもよい。
【0031】
前記熱伝導性無機質粒子が酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ベリリウムの1種類または2種類以上から選ばれてもよい。
【0036】
本発明の製造方法により製造されたアラミド複合体シートを電気絶縁材料に用いることができる
【0037】
本発明の製造方法により製造されたアラミド複合体シートを用いてあらかじめ電気絶縁が施された導線を複数本束ねたコイルを回転子または固定子におけるスロットに配置してもよい。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0039】
本発明において、「アラミド」とは全芳香族ポリアミドを意味する。化学構造的には、ベンゼン環を連結する結合の60モル%以上がアミド基であることを合成高分子であると定義される。
【0040】
アラミドはベンゼン環へのアミド基の置換位置によって、パラアラミド、メタアラミドおよびこれらの共重合体に分類される。パラアラミドとしては、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4′−ジフェニルエーテル)テレフタルアミドなどが例示できる。メタアラミドとしては、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体などが例示される。本発明では、メタアラミドが好ましく選択される。メタアラミドは汎用アミド溶剤に可溶であること、ポリマー溶液を出発原料として湿式成形が可能であること、熱融着性に優れること、耐熱性や難燃性が良好であること等の特長がある。
【0041】
メタアラミドを製造する方法に特に制約はない。一般的には、メタフェニレンジアミンとイソフタル酸二塩化物との縮合反応による溶液重合法、2段階界面重合法などが工業的に実施できる。なお、メタアラミドの特性を損なわない範囲で他成分を共重合してもなんら差し支えない。
【0042】
「アラミドファイブリッド」とは、アラミドから成るフィルム状微小粒子で、アラミドパルプと呼称されることもある(アラミドファイブリッドに関する記述は特公昭35−11851号、特公昭37−5752号等参照)。ファイブリッドは、通常の木材(セルロース)パルプと同じように抄紙性を有するため、水中分散した後、抄紙機にてシート状に成形することができる。この場合、電気絶縁性、機械特性などの特性を向上させるため、離解機、叩解機などの設備を使用してファイブリッド塊を分散させ、かつ個々のファイブリッドのねじれを低減する操作が適用できる。この操作において、ファイブリッドの形態変化は日本工業規格P8121に規定の濾水度(フリーネス)試験方法でモニターできる。本発明において好ましい濾水度は、10〜300ml(カナディアンフリーネス)の範囲である。この範囲より大きい濾水度のファイブリッドでは、シート成型品の強度、絶縁破壊電圧が十分でない。一方、10mlよりも小さな濾水度を得ようとしても、投入する機械動力の利用効率が小さく、また、単位時間当たりの処理量を損なうことが多いため、格段の利点が認められない。
【0043】
「アラミドフロック」とは、アラミドから成る短繊維である。このような繊維としては、帝人(株)の「コーネックス(登録商標)」、「テクノーラ(登録商標)」、ユニチカ(株)の「アピエール(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」、「ケブラー(登録商標)」、アクゾ社の「トワロン(登録商標)」などが例示できるが、こらに限定されない。
【0044】
フロックの繊維は0.1デニール以上10デニール以下の範囲が好ましい。ここで、「デニール」とは、繊維9000m当たりの質量(グラム)で表記した単位である。繊度が0.1デニールよりも小さいと水中での絡み合いが大きくなりシート品位の低下を招く。一方、繊度が10デニールを上回ると、フロックの径が大きくなりすぎるため、アスペクト比の低下や力学的補強効果の低下およびシート内の均一性不良を招くため好ましい選択ではない。
【0045】
フロックの長さは、1〜50mmの範囲が適当である。長さが1mmよりも小さいとシートの補強効果が低減する。フロックの長さが50mmを上回る場合、シートを成形するときに、フロックの「絡み」、「結束」が発生しやすく、欠陥の原因となりやすいため、好ましくない。
【0046】
なお、収束性、帯電防止、平滑性、水中分散性などの品質を向上させる目的で、フロックにあらかじめ表面処理剤を付与することができる。本発明において、フロックを添加することで、シートの引き裂き強度の向上と樹脂含浸性の改善が達成される。マイカ粒子は湿式抄造過程で緻密に積層される傾向が強いため、樹脂の浸透が悪くなることがある。フロックを加えることでマイカ粒子間に適度な空隙が生じ、樹脂含浸性向上効果が期待できる。
【0047】
「マイカ」とは雲母とも呼ばれる鉱物粒子である。特定の方向に鱗片状に剥離する特徴(劈開性)があり、古くから電気絶縁用途に用いられている。組成、形態に応じてさまざまに分類されるが、絶縁電気用途としては通常硬質マイカが使用される。マイカは天然物であるため不可避的に電気的に有害である有機物、鉄分、珪素酸化物を含有している場合がある。これらの不純物を取り除くために焼成処理および選鉱精製されたマイカが好ましく使用できる。もちろんこれ以外の軟質マイカ、合成マイカなども使用できる。マイカ粒子は被覆性、隠蔽性に優れるため絶縁破壊電圧を向上させる効果がある。これに加えて、無機物であるため、有機物に比較してコロナ放電に対する耐久性が大きい。
【0048】
好ましく使用できるマイカ粒子の大きさは、例えば、水中篩い分け試験で規定できる。16メッシュの金網通過分が痕跡量であり、200メッシュ通過分が13±4%であるような分布のマイカ粒子が適当である。
【0049】
本発明において、熱伝導性無機質粒子とは、固有熱伝導率が10W/mK以上のものをいう。これよりも小さい熱伝導率の粒子では、成型品シートの熱伝導率向上は十分ではない。
【0050】
熱伝導性無機質粒子の形態や大きさに関する制約はシート成型方法に依存する。後述するように、湿式抄造によってシート成形する場合には、繊維状または板状の無機質粒子が好ましい。加えて、無機質粒子数の90%以上が最大粒径(最大さしわたし)が20ミクロン(μm)以上50mm以下の範囲にあることが望ましい。これよりも小さな粒径では、抄造の際に無機質粒子が抄紙網から脱落しやすいため保持(リテンション)が不十分で、シート中に無機質粒子が所定量残らない。最大径が50mmを上回る粒子は、シート中での充填が不良であるため、シートの機械的強度を損なう傾向が強い。
【0051】
熱伝導性無機質粒子として好ましく選ばれるのは、酸化アルミニウム(アルミナ;298Kでの熱伝導率32W/mK)、窒化ホウ素(同35W/mK)、酸化ベリリウム(ベリリア;同160W/mK)、窒化アルミニウム(同120〜290W/mK)、酸化マグネシウム(マグネシア;同42W/mK)などが例示できる。これらは高い電気抵抗率と相対的に大きな熱伝導性とを兼ね備えた化合物である。本発明で使用可能な化合物はこれ以外にも存在し得るため、上述の化合物になんら限定されるものではない。一般に、無機化合物結晶の熱伝導率は異方性を示す。上述の熱伝導率は多結晶性焼結体の代表値である。
【0052】
本発明のアラミド複合体シートにおいて、各構成要素の比率は下記式(1)〜(3)で記述される範囲が好ましい。ここで、アラミドファイブリッド(FB)、アラミドフロック(FL)、マイカ粒子(M)および熱伝導性無機質粒子(P)の重量比率を{}で表す。
【0053】
【数8】
0≦{FL}/{FB}<10 (1)
0.75<{FB+FL}/{M}<10 (2)
0.9<{P}/{M}<10 (3)
(1)式の規定する範囲よりフロックが多くなると、電気絶縁特性および機械強度が低下するため好ましくない。
【0054】
(2)式でマイカに対するファイブリッドとフロックの合計比率が0.75以下であると、シートが脆くなり、所望の機械強度が得られない。一方、10以上であると、耐コロナ性などの電気特性および圧縮強度などの機械特性が損なわれる。
【0055】
(3)式の範囲よりも熱伝導性無機質粒子が少ないと、熱伝導率向上効果は十分でない。一方、これよりも大きいと、シートの絶縁破壊電圧の低下、機械強度の低下などの弊害が生じてくる。
【0056】
本発明において、アラミド複合体シートを製造する方法として、湿式抄造法、コロイドスラリー接触法が挙げられる
【0057】
湿式抄造法では、アラミドファイブリッド、アラミドフロック、マイカ粒子および熱伝導性無機質粒子の単一または混合スラリーを、抄紙機に送液し、脱水、搾水および乾燥操作を経てシートとして巻取る方法である。抄紙機としては、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用できる。この場合、上記式(1)〜(3)の範囲が満足されていれば、複数の層から成る抄造であっても差し支えない。抄造の際には、必要に応じて分散向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤を使用することができる。
【0058】
アラミドファイブリッドは、バインダーとして優れた特性を有しているため、マイカ粒子および熱伝導性無機質粒子を効率的に補足でき、紙料歩留まりが良好である。
【0059】
無機質粒子は、通常乾燥した粉体で供給されるため、水に分散してスラリーとして使用できる。また、特殊な形態として、金属のアルコキサイドの加水分解反応によりコロイド状微粒子として析出させスラリー状で供給される場合もある。コロイド状微粒子のスラリーを加えた場合、湿潤状態でのシートの強度が向上する結果が得られる。本発明では、どちらも利用できるし、あるいはこれ以外の任意の形態を採用してもかまわない。
【0060】
湿式抄造法で得られたシートは高温高圧で熱圧することで機械強度、電気特性などを向上させ含浸性を調節することができる。熱圧の条件は、例えば、温度100〜350℃、線圧50〜300g/cmが例示できるが、これらに限定されない。加熱操作を加えずに常温で単にプレスだけを行うこともできる。熱圧の際に複数のシートを積層することもできる。
【0061】
一方、コロイドスラリー接触法では、湿式抄造法で作製したシートにコロイド状無機質粒子スラリーを散布または含浸させることで無機質粒子をシート中に浸透させる。散布または含浸操作は所望の無機質粒子量が得られるまで複数回繰り返してもかまわない。
【0062】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これらの実施例は本発明の主旨を説明し補足するものであって、本発明をなんら限定するものではない。
【0063】
(測定方法)
(1)シートの坪量、厚みの測定
JIS C2111に準じて実施した。
【0064】
(2)絶縁破壊電圧
ASTM D−149に基づいて行った。
【0065】
(3)引張り強さ、伸び
ASTM D−828に基づいて実施した。
【0066】
(4)熱伝導率
京都電子工業(株)製、迅速熱伝導率計QTM−D2を使用しフィルム法にて測定した。
【0067】
(参考例)原料調製
特公昭52−151624号に記載のステーターとローターの組み合わせで構成される湿式沈殿機を用いる方法で、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。これを叩解機で処理してカナダ標準濾水度(CSF)を105mlに調節した。
【0068】
一方、デュポン株式会社製メタアラミド繊維ノーメックス(登録商標)を長さ6mmに切断し、抄紙原料(フロック)とした。このフロックの繊度(デニール)は2であった。
【0069】
(実施例1〜4)
上記参考例で示したファイブリッドとメタアラミド繊維に、電気化学工業(株)製アルミナ繊維アルセンバルク(登録商標)と(株)日本マイカ製作所製焼成集積マイカを表1の組成比で加えて混合スラリーを作成し、湿式抄造によりシートを成形した。このシートを1組のスチール製ロール間に通し熱圧を施した。
【0070】
油化シェルエポキシ(株)製エピコート(登録商標)828を100部と、脂環族アミン系硬化剤エピキュア(登録商標)113を32部加えたものに上記熱圧シートを浸漬し余分な液を除いた後、平板プレスにて温度80℃から段階的に昇温して樹脂を硬化させた。
【0071】
このようにして得られたアラミド複合体シートの特性値および樹脂含浸後の熱伝導率を表1に示す。
【0072】
【表1】
Figure 0003660765
【0073】
(比較例1〜3)
実施例1〜4と同様の方法で配合のみを表2に示す組成比となるように変えてアラミド複合体シートを成形した。熱圧シートの特性を表2に記載する。
【0074】
【表2】
Figure 0003660765
【0075】
表1および表2に示す結果からわかるように、複合体シートのマイカ比率が大きくなるとシート強度および伸びが低下して単体では巻回作業には耐えられないと考えられる。
【0076】
【発明の効果】
本発明に従って得られるアラミド複合体シートは、耐熱性に優れたアラミド素材を基材とするため、従来必要とされていた高温環境での耐久性を備えることができる。マイカ粒子の添加により、耐コロナ性および絶縁破壊電圧特性、耐圧縮荷重性が付与されている。また、適度な多孔度が備わっているので、樹脂の十分な浸透が可能である。樹脂含浸後に空隙が少ないため、熱伝導性の良好な無機質粒子の作用が発揮され、シートの熱伝導率向上が達成される。
【0077】
本発明は、アラミド、マイカ粒子、熱伝導性無機質粒子の構成要素を適切な配合で組み合わせることで、機械的強度に優れた、裏打ち材で補強することが不要なシートを提供できる。これにより、裏打ち材に由来する熱伝導率の低下という問題を解決できる。薄葉材でありながら巻線の巻回工程に耐え得る強度を備えておりコイルの主絶縁用途にも好適に使用できる。さらに、スロットライナーなどの絶縁用途にも使用できる。

Claims (10)

  1. アラミドファイブリッド(FB)、アラミドフロック(FL)、マイカ粒子(M)および熱伝導性無機質粒子(P)を水中にて分散混合して抄紙してシート状成形物とする製造方法であって、各構成成分の重量比率が下記式(1)ないし(3)で示される範囲
    0≦{FL}/{FB}<10 (1)
    0.75<{FB+FL}/{M}<10 (2)
    0.9<{P}/{M}<10 (3)
    (ここで、{}は各成文の重量比率を示す)になるように配合することを特徴とするアラミド複合体シートの製造方法。
  2. 前記シート状成形物を高温高圧にて熱圧することを特徴とする請求項に記載の製造方法。
  3. 前記熱伝導性無機質粒子が、繊維状または板状の形態であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記アラミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記熱伝導性無機質粒子が酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ベリリウムの1種類または2種類以上から選ばれることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法。
  6. アラミドファイブリッド(FB)、アラミドフロック(FL)およびマイカ粒子(M)を水中にて分散混合して抄紙してシート状成型物としたものにコロイド状熱伝導性無機質粒子(P)を接触させてアラミド複合体シートとする製造方法であって、各構成成分の重量比率が下記式(1)ないし(3)で示される範囲
    0≦{FL}/{FB}<10 (1)
    0.75<{FB+FL}/{M}<10 (2)
    0.9<{P}/{M}<10 (3)
    (ここで、{}は各成文の重量比率を示す)になるように配合することを特徴とするアラミド複合体シートの製造方法。
  7. 前記シート状成形物を高温高圧にて熱圧することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
  8. 前記熱伝導性無機質粒子が、繊維状または板状の形態であることを特徴とする請求項6または7に記載の製造方法。
  9. 前記アラミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドであることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の製造方法。
  10. 前記熱伝導性無機質粒子が酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ベリリウムの1種類または2種類以上から選ばれることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の製造方法。
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