JP3659989B2 - β−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−リボフラノシル−3,5−ヒドロキシ保護−1−アルキルおよびアリールスルホネート中間体の立体選択的製造法 - Google Patents

β−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−リボフラノシル−3,5−ヒドロキシ保護−1−アルキルおよびアリールスルホネート中間体の立体選択的製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は医薬品化学の領域に関し、公知の抗癌性および抗ウイルス性ヌクレオシド薬剤の製造に用いられるβ−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−リボフラノシル−3,5−ヒドロキシ閉鎖−1−アルキルおよびアリールスルホネート中間体の立体選択的製法を提供する。
抗癌性および抗ウイルス性β−ヌクレオシド薬剤の製法にはアノマー中心にある脱離基を持つフラノース(炭水化物)中間体の立体化学的反転が含まれる。それ故、β−アノマーヌクレオシドが所期の生成物である時には、α−アノマーが豊富な炭水化物中間体をSN2結合反応の下で用いるのが好ましい。
【0002】
【従来の技術】
最も頻繁に用いられる結合用中間体は1−クロロ−2−デオキシ−3,5−(ジ−O−p−トルオイル)−α−D−エリスロペントフラノースであって、これはHofer,Chem.Ber.,93,2777(1960)により初めて製造された。この化合物は結晶性で、すべてα−アノマーとして存在する。しかしながら、Hoferのα−クロロアノマー炭水化物を用いて2−デオキシリボフラノシルヌクレオシドを製造するための結合反応は非立体選択的である。後にHubbardなど,Nucleic・Acids,12,6827(1984)はHoferの結果を研究してα−クロロ炭水化物中間体は常温で用いると有機溶媒中でアノマー化して対応するβ−クロロアノマー炭水化物中間体となることを発見した。それ故、アノマー化がHoferの結合反応の非立体選択的性格の原因であった。Hubbardなどは数種の溶媒中におけるα−クロロ炭水化物のアノマー化を評価してアノマー化の効果を最低限に保って所期のβ−ヌクレオシド生成物を高収率で得ることができる溶媒を見出した。
【0003】
クロロの他に、アルキルおよびアリールスルホニルオキシが今までに評価されている他の型の脱離基を代表する。しかしながら、2−デオキシ−D−エリスロペントフラノシルスルホネート中間体のあるものが不安定なために、特筆すべきことに、スルホニルオキシ脱離基を含む炭水化物は化学文献に見当らず、結合反応には稀にしか用いられていない。
米国特許第4526988号および第4965374号は2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロヌクレオシドを製造するために2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−リボフラノシル−1−アルキルおよびアリールスルホネート中間体のアノマー混合物を採用する結合反応を教示する。アノマー混合物を使用する結果として、これらの方法はβ−アノマーヌクレオシドについては非立体選択的であり、2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロヌクレオシドのα対βアノマー比率、各々1:1および4:1を与える。
【0004】
2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロヌクレオシドを製造するために用いる結合反応の立体選択性を改善するために、Chouなどは係属中の米国特許出願番号07/902135号中でヨード、ブロモおよびスルホネート脱離基を含む炭水化物中間体はアニオン性結合条件下で立体選択的に結合して10:1に達するβ対αアノマーヌクレオシド比率を与えることを発見したことを記載している。Chouが用いたスルホネート中間体の製法はChouなどが米国特許第5256798号に教示している。この方法はα−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボフラノシル−3,5−ヒドロキシ保護−1−アルキルおよびアリールスルホネート中間体を対応するβ−アノマーが豊富なスルホネート中間体からβ−アノマーが豊富なスルホネート中間体を該スルホネートのスルホン酸の共役アニオンによりアノマー化することによって得ることを含む。
【0005】
Chouなどは米国特許第5252756号でβ−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボフラノシル−3,5−ヒドロキシ保護−1−アリールスルホネート中間体をラクトールから得る方法を教示する。しかしながら、β−アノマーであるから、これらの中間体はSN2結合反応によってβ−アノマ ーヌクレオシドを得るためには不都合な立体化学を含む。それ故、これらをSN 2結合反応で用いるためには、β−アノマーが豊富な炭水化物を平衡によってα−アノマーが豊富な炭水化物に変換しなければならない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記進歩にも関わらず、β−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボフラノシル−3,5−ヒドロキシ保護−1−アルキルおよびアリールスルホネート中間体を製造するための他種の立体選択的製法に対する要請が続いている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
それ故、本発明の目的の一つは反応性が高く、α−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボフラノシル−3,5−ヒドロキシ保護−1−フルオロアルキルおよびフルオロアリールスルホネート中間体からのβ−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロリボフラノシル−3,5−ヒドロキシ保護−1−アルキルおよびアリールスルホネート中間体の立体選択的な製造法を提供することである。
本発明の他の目的および利点は態様に関する下記記載から明らかになろう。
【0008】
本発明によれば、式:
【化9】
Figure 0003659989
[式中、各Xはヒドロキシ保護基群から独立に選択される。
Y’はアルキルスルホニルオキシまたはアリールスルホニルオキシ基である]で示されるβ−アノマーが豊富な炭水化物の立体選択的な製造法であって、式:
【化10】
Figure 0003659989
[式中、Xは前記と同意義である。
Yはフルオロアルキルスルホニルオキシまたはフルオロアリールスルホニルオキシ基である]
で示される化合物とスルホン酸の共役アニオンとを不活性溶媒中、昇温下に接触させることを含む製造法が提供される。
【0009】
本発明はまた、式:
【化11】
Figure 0003659989
[式中、Xは前記と同意義である。
1、R2およびR3は各々水素、−OZ、−NHW、−N(アルキル)W、ハ ロ、シアノ、アジド、アルコキシおよびチオアルキルから構成される群から各々独立に選択される。
QはCH、CR4およびNから構成される群から選択される。
4はハロ、カルボキサミド、チオカルボキサミド、アルコキシカルボニルま たはニトリルである。
Zはヒドロキシ保護基である。
Wはアミノ保護基である]
で示されるβ−アノマーが豊富な2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロヌクレオシドの立体選択的な製造法であって、式:
【化12】
Figure 0003659989
[式中、Xは前記と同意義である]
で示されるラクトールと塩基とを低温凍結性不活性溶媒中で接触させること;反応混合物の温度を約−40℃から約−120℃の範囲まで低下させること;およびスルホン化試薬を加えることによって式:
【化13】
Figure 0003659989
[式中、Xは前記と同意義である。
Yはフルオロアルキルスルホニルオキシまたはフルオロアリールスルホニルオキシ基である]
で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物を形成すること;式(III)で示される炭水化物とスルホン酸の共役アニオンとを不活性溶媒中、加熱温度で接触させて式:
【化14】
Figure 0003659989
[式中、Xは前記と同意義である。
Y’はアルキルスルホニルオキシまたはアリールスルホニルオキシ基である]で示されるβ−アノマーが豊富な炭水化物を形成すること;式(IV)で示される炭水化物をスルホン酸の共役アニオンの存在下に式:
【化15】
Figure 0003659989
[式中、XおよびY’は前記と同意義である]
で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物の形成に十分な時間と温度で加熱すること;式(V)で示される炭水化物と式:
【化16】
Figure 0003659989
[式中、R1、R2、R3およびQは前記と同意義である。
Mは金属カチオンである]
で示されるヌクレオベースアニオンとを不活性溶媒中で接触させること;および加熱して式(I)で示されるβ−アノマーが豊富な2−デオキシ−2,2−ジフルオロヌクレオシドを形成するために十分な時間および温度に加熱すること;からなる製造法をも提供する。
【0010】
本明細書を通して、温度は全て摂氏の度であり、特段の記載がある場合を除いて、比率、百分率のようなものは全て重量単位であり、混合物は全て容積単位である。アノマー混合物は重量/重量の比率または百分率で表現する。用語「ラクトール」は単独でまたは組合せにおいて2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−3,5−ヒドロキシ保護−D−リボフラノースを示す。用語「炭水化物」は単独でまたは組合せにおいてそのC−1のヒドロキシ基が置換されて活性化されたラクトールを示す。用語「ハロ」は単独でまたは組合せにおいてクロロ、ヨード、フルオロおよびブロモ基を示す。用語「アルキル」は単独または組合せにおいてメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、3−メチルペンチル基などのような直線状、環状および分枝状鎖の脂肪族炭化水素基であって、好ましくは7個までの炭素原子を含むものまたはクロロエチル、1,2−ジクロロエチルなどのような置換された直線状、環状または分枝状鎖脂肪族炭化水素を示す。用語「アルコキシ」は単独でまたは組合せにおいて一般式AOを示すが、式中、Aはアルキルである。用語「アリール」は単独でまたは組合せにおいて一般式BSを示すが、式中、Bはアルキルまたは水素である。用語「エステル」は単独でまたは組合せにおいてフェニル、ナフチル、チエニルおよびその置換誘導体のような炭素環またはヘテロ環基を示す。用語「チオアルキル」は単独でまたは組合せにおいて一般式BSを示すが、式中、Bはアルキルまたは水素である。用語「エステル」は単独でまたは組合せにおいて一般式EOOCを示すが、式中、Eはアルキルまたはアリールである。用語「芳香族」は単独でまたは組合せにおいて(4n+2)非局在化π電子を含むベンゼン的構造を示す。用語「置換」は単独でまたは組合せにおいてシアノ、ハロ、カルボアルコキシ、アリール、ニトロ、アルコキシおよびジアルキルアミノから選択された基少なくとも1個またはそれ以上の基を示す。用語「アノマーが豊富な」は単独でまたは組合せにおいてアノマー混合物であって、指定したアノマーの比率が1:1より大きいもので、実質的に純粋なアノマーをも含むものを示す。
【0011】
式(II)で示されるラクトール出発物質は当業界で普通に知られており、例えば、2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−3,5−ヒドロキシ保護−D−リボフラノースの合成を教示する米国特許第4526988号に記載されているような、標準的な技術で容易に合成できる。本製法の好適な態様において、2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−3,5−ジベンゾエート−D−リボフラノースはラクトールとして用いられる。
【0012】
本製法では不都合な副反応を防止するために式(II)で示されるラクトールのヒドロキシ基を保護する必要がある。本製法において使用するために適当なヒドロキシ保護基(X)は当業界では公知で合成有機化学で普通に用いられる保護基から選択しうる。これらのヒドロキシ保護基は、ラクトールへの効率的な導入が可能であり、反応終了後、それから容易に除去できることが好ましい。当業界で公知のヒドロキシ保護基はProtective・Groups・in・Organic・Chemistry、McOmie編、Plenum・Press、New・York(1973)の第3章およびProtective・Groups・in・Organic・Synthesis、Green,John、J.Wiley・and・Sons、New・York(1981)の第2章に記載されており、中でも好適なものはホルミル、アセチル、置換アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ベンゾイル、置換ベンゾイル、フェノキシアセチル、メトキシアセチルのようなエステル形成基;フェノキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルのような炭酸エステル誘導体;ベンジル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、t−ブチル、メトキシメチル、テトラヒドロピラニル、アリル、テトラヒドロチエニル、2−メトキシエトキシメチルのようなアルキルエーテル形成基;およびトリアルキルシリル、トリメチルシリル、イソプロピルジアルキルシリル、アルキルジイソプロピルシリル、トリイソプロピルシリル、t−ブチルジアルキルシリルおよび1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサニルのようなシリルエーテル形成基;N−フェニルカルバメートのようなカルバメートであるが、しかしながら、さらに好適なのはベンゾイル、モノ−置換ベンゾイルおよびジ置換ベンゾイル、アセチル、ピバロイル、トリフェニルメチルエーテルおよびシリルエーテル形成基、特にt−ブチルジメチルシリルであり、最も好適なものはベンゾイルである。
ヒドロキシ保護ラクトールを製造する際に採用する反応条件は選択された保護基の性質に依存し、ここに参考のために引用する米国特許第4526988号に記載されている。
【0013】
ヌクレオベースアニオンと炭水化物との間に効率的な結合反応を得るために、適当な脱離基を立体選択的にラクトールのC−1位に結合してラクトールを活性化させて式(III)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物を形成しなければならない。これを行うためには、式(II)で示されるラクトールと塩基とを低温凍結性不活性溶媒中で接触させる。混合物の温度を次に約−40℃から約−120℃に低下させ、スルホン化試薬を添加する。
【0014】
式(III)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物の製造に使用するために適当な塩基はトリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ベンジルメチルアミン、N−メチルモルホリン、トリプロピルアミン、ジプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンおよび1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネンから構成される群から選択しうる。しかしながら、二級アミン塩基の使用はスルホン化試薬を妨害しうるので、それ故、二級アミン塩基を採用する時には反応時間を限定し、低温を維持するように注意を払わなければならない。好ましくは、塩基はpKa約8から約20を持ち、使用する塩基の量は約1モル当量から約2モル当量、さらに好ましくは、約1.2モル当量から約1.5モル当量である。
【0015】
不活性溶媒は凍結点温度−78℃以下を持つべきであり、好ましくはジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロフルオロメタン、アセトン、トルエン、アニソール、クロロベンゼンおよびこれらの混合物から構成される群から選択する。
【0016】
式(III)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物を製造するのに使用するために適当なスルホン化試薬はオクタフル酸無水物、(octaflic・anhydride)、ナノフル酸無水物(nanoflic・anhydride)およびトリフルオロメタンスルホン酸無水物(トリフル酸無水物)から構成される群から所期の脱離基に依存して選択され、好適なのはトリフルオロメタンスルホン酸無水物である。
【0017】
理論に束縛されることは望まないが、温度の低下がラクトールのα−対β−アノマー比をα対β約1:1からα対β約5:1までαの方に移行させると信じられている。例えば、Xがベンゾイルである式(II)で示される化合物を室温でジクロロメタンとトリエチルアミンに添加し、30分後混合物の温度を低下させた。種々の温度で測定した19F−NMRは次の通りに低温におけるラクトールのα対β−アノマー比の増加を示した。
Figure 0003659989
ラクトールを次に低温で溶液中に捕捉し、スルホン化試薬の添加によってα−アノマー比を増加させる。
【0018】
得られた式(III)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物はフルオロアルキルスルホニルオキシまたはフルオロアリールスルホニルオキシ基を含み、そのため、室温では不安定である。それ故、式(III)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物を更に安定なアルキルスルホニルオキシまたはアリールスルホニルオキシ脱離基を含む式(IV)で示されるβ−アノマーが豊富な炭水化物に変換する。この変換反応は式(III)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物とスルホン酸の共役アニオンとを不活性溶媒中で、昇温下に接触させることにより実施する。スルホン酸の共役アニオンの原料は当業者に公知であって、次を含む:
【0019】
(a)1−メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸およびカンファースルホン酸のようなアルキルまたはアリールスルホン酸を水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムメトキシドなどのようなアルカリ金属塩基で中和してスルホン酸のアルカリ金属塩を形成する。この方法で製造されるスルホン酸の共役アニオンの例はメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、p−ニトロベンゼンスルホン酸およびカンファースルホン酸および
【0020】
(b)前記のアルキルまたはアリールスルホン酸をトリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミンまたはN−メチルモルホリンのようなアミン塩基またはピリジンのような芳香族窒素性塩基で中和する。この方法により製造したスルホン酸の共役アニオンを含む塩の例は:トリメチルアンモニウム・メタンスルホネート、トリエチルアンモニウム・メタンスルホネート、N,N−ジメチルベンジルアンモニウム・メタンスルホネート、トリエチルアンモニウム・p−クロロベンゼンスルホネート、トリエチルアンモニウム・p−ブロモベンゼンスルホネート、テトラエチルアンモニウム・p−トルエンスルホネート、ピリジニウム・メタンスルホネート、テトラエチルアンモニウム・(p−トルエン)スルホネート、ピリジニウム・p−トルエンスルホネートおよびピリジニウム・p−ニトロベンゼンスルホネート;を含み、さらに好適なのはトリエチルアンモニウム・メタンスルホネートである。
【0021】
式(III)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物を約50℃から約130℃に;更に好ましくは溶媒の還流温度に加熱する。加熱は常圧で、好ましくは無水の条件で約15分から約24時間、さらに好ましくは約4時間から約16時間行う。
【0022】
式(III)の変換反応に使うのに適当な溶媒は変換反応条件下に不活性でなければならず;好適なものはアセトニトリル、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロブロモベンゼン、アニソール、グライム、酢酸エチル、トルエン、キシレン、ピリジン、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾロン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびこれらの混合物であり。最も好適なものはアニソール、トルエン、グライム、アセトニトリルおよびこれらの混合物である。
【0023】
該変換反応により得られる式(IV)で示されるβ−アノマーが豊富な炭水化物は、式(III)で示されるα−アノマーが豊富なフッ素化された炭水化物よりも安定であり、それ故、反応性が低い。さらに、β−アノマーであるから、式(III)で示される炭水化物はSN2結合反応に対して不適当な立体化学を含 む。それ自体として、式(IV)で示されるβ−アノマー炭水化物は対応する式(V)で示されるα−アノマー炭水化物に変換されなければならない。この変換反応は式(IV)で示されるβ−アノマー炭水化物をスルホン酸共役アニオンの存在下に約50℃から約120℃の範囲の温度で、約18時間から約72時間加熱することを含む平衡化により達成される。採用するスルホン酸の共役アニオンは、式(III)で示されるβ−アノマーが豊富な炭水化物の変換反応に使用したものと同一または別の原料から誘導したものでありうる。
【0024】
ここで採用する式(VI)で示されるヌクレオベースアニオンは有機化学者には普通に公知であり、それらの合成に関しての議論は不必要である。しかしながら、それらを式(V)で示されるα−アノマー炭水化物と結合する前に、式(IV)で示されるヌクレオベースアニオン(またはそのタウトマー均等物)のアミノおよび/またはヒドロキシ基を好ましくは保護基により閉鎖する。この保護基は結合反応中にアミノおよび/またはヒドロキシ基が式(V)で示されるα−アノマー炭水化物にとって競合的な反応部位になることを防止するものである。選ばれるアミノ保護基(W)および/またはヒドロキシ保護基(Z)は選択した特定のヌクレオベースの性質に依存する。保護基はヌクレオベースがヌクレオベースアニオンに変換される前に結合され、その後に除去され得る。
【0025】
好適なアミノ保護基(W)はトリクロロエトキシカルボニル、トリフルオロアセチル、ナフトイル、ホルミル、アセチルのようなアルキルカルボキサミド、ハロアルキルカルボキサミドおよびアリールカルボキサミド;アルキルスルホンアミドおよびアリールスルホンアミドのようなスルホンアミドおよびさらに好適にはピバルアミドから構成される群から選択される。アミノ保護基として役立つのに加えて、ピバルアミド保護基は不溶性が周知なプリンヌクレオベース誘導体の溶解度を増加し、N−グリコシド結合反応を9位−位置異性体が7位−位置異性体に優先して形成されるように誘導する。
【0026】
ヌクレオベースのための好適なヒドロキシ保護基(Z)はベンジル、t−ブチル、トリチル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、メトキシメチル、トリチルのようなエーテル形成基;ホルミル、アセチルプロピオニル、ピバロイル、ベンゾイル、置換ベンゾイルのようなエステル;カルボベンゾキシ、t−ブトキシカルボニル、カルベトキシ、ビニルオキシカルボニルのような炭酸エステル;N,N−ジアルキルカルバモイルのようなカルバメート;t−ブチルトリメチルシリル、t−ヘキシルジメチルシリル、トリイソプロピルシリルのようなトリアルキルシリルエーテル;から構成される群から選択され、さらに好適なのはピバロイルである。
【0027】
加えるに、ヌクレオベース上のケト酸素原子を保護エノール型に変換するのは得策であることが多い。これがヌクレオベースをさらに求核的にして、ヌクレオベースの反応性を強化する。
ヌクレオベースに保護基を導入するための操作は米国特許第4526988号に記載されている。
【0028】
結合反応前にヌクレオベースを金属塩アニオンに変換して式(V)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物との反応性を強化する。式(VI)で示されるヌクレオベースアニオンは不活性溶媒中でヌクレオベースに塩基を添加することによって形成される。この塩基はナトリウムt−ブトキシド、水酸化カリウム、カリウムt−ブトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウムおよび水素化カリウムから構成される群から選択しうる。他に、塩基はトリアルキルアミンまたはテトラアルキルアンモニウムの水酸化物またはアルコキシドでありうる。不活性溶媒はアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−1,2−イミダゾリジノン、N−メチルピロリジノン、スルホラン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物から構成される群から選択しうる。溶媒は結合反応の前に除去してしまうか、または混合物が結合反応に不活性である限りにおいて、その反応溶媒と混合してもよい。
【0029】
本製造法においては、式(V)で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物に対して式(VI)で示されるヌクレオベースアニオンは少なくとも等モル量を用いる。しかしながら、約2当量から約10当量の範囲の過剰量のヌクレオベースアニオンを用いるのがさらに好ましい。
式(V)で示されるα−アノマー炭水化物を式(VI)で示されるヌクレオベースアニオンと不活性溶媒中で結合し、加熱して、式(I)で示されるヌクレオシド化合物を形成する。
結合反応に使用するために適当な溶媒は結合反応条件に対して不活性でなければならない。好適な溶媒はジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロフルオロメタン、アセトン、トルエン、アニソール、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物から構成される群から選択される。
結合反応に用いる温度は23℃から約170℃の範囲、更に好ましくは約23℃から約130℃、最も好ましくは約23℃から約50℃である。結合反応は好ましくは常圧条件下に実施され、約5分間から約24時間で実質的に完了する。
【0030】
本製造法の利点は、各製造工程が別の反応容器内で順次に実施しうるし、または、1個の反応容器内で一段階(ワンポット)ででも実施しうる点にある。
不可欠とは言えないが、ある種のヌクレオベースアニオンは湿気に対して敏感なので、結合反応を、たとえば、乾燥空気、窒素またはアルゴンなど、乾燥雰囲気の存在下に実施することが得策である。
【0031】
本製造法の進行は、ヌクレオシド生成物の存在を検出する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および薄層クロマトグラフィー(TLC)のような当業者によく公知な手段によって監視しうる。
本製造法に従えば、式(I)で示されるβ−アノマーが豊富なヌクレオシドは1:1以上から約1:5までの範囲のα−対β−アノマー比で製造される。
本製法のβ−アノマーが豊富なヌクレオシドはここに参考のために引用するChouの米国特許第4965374号に記載された操作またはクロマトグラフィー、抽出または結晶化のような当業者に公知の常法によって単離しうる。
【0032】
【実施例】
下記の実施例は本発明の特定的な側面を説明するが、その範囲の限定を意図するものではなく、また、そのように解すべきものでもない。
【0033】
実施例
9−[1−(2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロ−3’,5’−ジ−O−ベンゾイル−D−リボフラノシル)]−2,6−ジピバルアミドジアミノプリン
2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−リボフラノシル−3,5−ベンゾエート(2.0g)にトリエチルアミン(536mL)とジクロロメタン(20mL)とを添加し、室温で30分間撹拌した。後に混合物を−78℃に冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(1.49g)を添加し、混合物を再び15分間撹拌し、そこでブロモベンゼンスルホン酸のカリウム塩(1.5g)を添加した。混合物を0℃まで温め、アセトニトリル(25mL)中で窒素雰囲気下に3時間、温度110℃に加熱してα−対β−アノマー比が2.8:1の2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−リボフラノシル−3,5−ジベンゾイル−1−(p−ブロモベンゼン)スルホネートを形成させた。2−デオキシ−2,2−ジフルオロ−D−リボフラノシル−3,5−ジベンゾイル−1−(p−ブロモベンゼン)スルホネート(2.64モル)にジピバルアミドジアミノプリンのカリウム塩(1.88g)のアセトニトリル溶液を添加した。混合物を次に70℃に17時間加熱して標記生成物を形成させた。
得られた反応混合物に酢酸エチル(25mL)、氷(1mL)および飽和塩化ナトリウム水溶液(2mL)を添加して標記生成物を単離した。酢酸エチルを除去後、混合物を飽和炭酸ナトリウム水(5mL)および飽和塩化ナトリウム(5mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濃縮した。
前記生成物をシリカ(50g)上で25/75酢酸エチル/トルエン溶液、続いて50/50酢酸エチル/トルエン溶液で溶出するフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。標記生成物1.03gは通算収率57.5パーセントで得られた。

Claims (10)

  1. 式:
    Figure 0003659989
    [式中、各Xはヒドロキシ保護基群から独立に選択される。
    Y’はアルキルスルホニルオキシまたはアリールスルホニルオキシ基である]で示されるβ−アノマーが豊富な炭水化物の立体選択的な製造法であって、式:
    Figure 0003659989
    [式中、Xは前記と同意義である。
    Yはフルオロアルキルスルホニルオキシまたはフルオロアリールスルホニルオキシ基である]
    で示される化合物をスルホン酸の共役アニオンと不活性溶媒中、加熱温度にて接触させることからなる製造法。
  2. 式:
    Figure 0003659989
    [式中、各Xはヒドロキシ保護基群から独立に選択される。
    、RおよびRは水素、−OZ、−NHW、−N(アルキル)W、ハロ、 シアノ、アジド、アルコキシおよびチオアルキルから構成される群から各々独立に選択される。
    QはCH、CRおよびNから構成される群から選択される。
    はハロ、カルボキサミド、チオカルボキサミド、アルコキシカルボニルまたはニトリルである。
    Zはヒドロキシ保護基である。
    Wはアミノ保護基である]
    で示されるβ−アノマーが豊富な2−デオキシ−2’,2’−ジフルオロヌクレオシドの立体選択的な製造法であって、
    (a)式:
    Figure 0003659989
    [式中、Xは前記と同意義である]
    で示されるラクトールと塩基とを低温凍結性不活性溶媒中で接触させること、反応混合物の温度を約−40℃から約−120℃の範囲に低下させること、およびスルホン化試薬を添加することによって式:
    Figure 0003659989
    [式中、Xは前記と同意義である。
    Yはフルオロアルキルスルホニルオキシまたはフルオロアリールスルホニルオキシ基である]
    で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物を形成すること;
    (b)式(III)で示される炭水化物とスルホン酸の共役アニオンとを不活性溶媒中、加熱温度にて接触させて式:
    Figure 0003659989
    [式中、Xは前記と同意義である。
    Y’はアルキルスルホニルオキシまたはアリールスルホニルオキシ基である]で示されるβ−アノマーが豊富な炭水化物を形成すること;
    (c)式(IV)で示される炭水化物をスルホン酸の共役アニオンの存在下に式:
    Figure 0003659989
    [式中、XおよびY’は前記と同意義である]
    で示されるα−アノマーが豊富な炭水化物の形成に十分な時間と温度で加熱すること;
    (d)式(V)で示される炭水化物と式:
    Figure 0003659989
    [式中、R、R、RおよびQは前記と同意義である。
    Mは金属カチオンである]
    で示されるヌクレオベースアニオンとを不活性溶媒中で接触させること;および(e)式(I)で示されるβ−アノマーが豊富な2−デオキシ−2’,2’−ジフルオロヌクレオシドを形成するに十分な時間と温度に加熱すること;
    からなる製造法。
  3. スルホン化試薬がフルオロアルキルスルホン酸無水物またはフルオロアリールスルホン酸無水物である請求項2の製造法。
  4. スルホン化試薬がオクタフリン酸無水物、ナノフリン酸無水物、トリフリン酸無水物から構成される群から選択される請求項3の製造法。
  5. スルホン酸の共役アニオンがスルホン酸のアルカリ金属塩およびスルホン酸のアミン塩から構成される群から選択される請求項2の製造法。
  6. スルホン酸のアルカリ金属塩がメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、p−ニトロベンゼンスルホン酸およびカンファースルホン酸から構成される群から選択される請求項5の製造法。
  7. スルホン酸のアミン塩がメタンスルホン酸トリメチルアンモニウム、メタンスルホン酸トリエチルアンモニウム、メタンスルホン酸N,N−ジメチルベンジルアンモニウム、(p−クロロベンゼン)スルホン酸トリエチルアンモニウム、(p−ブロモベンゼン)スルホン酸トリエチルアンモニウム、メタンスルホン酸ピリジニウム、p−トルエンスルホン酸テトラエチルアンモニウム、トルエンスルホン酸ピリジニウムおよびニトロベンゼンスルホン酸ピリジニウムであるアミン塩から構成される群から選択される請求項5の製造法。
  8. 工程(c)における加熱を約30℃から約130℃の温度で実施する請求項2の製造法。
  9. Mがナトリウムまたはカリウムである請求項2の製造法。
  10. 溶媒がジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロフルオロメタン、アセトン、トルエン、アニソール、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物から構成される群から選択される請求項2の製造法。
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